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(イスラエル側はヨルダン国境を経由して運ばれたパレスチナへの郵便物を、安全上の理由により長年差し押さえていたとか。8年間に及ぶものも。その量は10トン以上。今回の引き渡しについてイスラエルは“親善のため”と。【8月15日 ニューヨークタイムズより】)
【意外な感もあるガザ地区の“人工波の屋外プール”】
最初に少し意外な感があったニュース。
****海岸汚染進むガザの暑い夏、人工波の屋外プールお目見え****
中東のパレスチナ自治区ガザ地区に今夏、人工の波を起こせる屋外プールが初めてお目見えした。
同地区は地中海に面するが、電力不足で下水処理施設が稼働せず、汚染されたビーチは遊泳を禁止されており、プールには涼を求める人々が押し寄せている。
14日、プールに人工の波がしぶきを上げると、子どもたちの歓声が上がった。同地区ガザ市の遊園地「シャルムパーク」がこのプールを開設したのは今年6月。平日は約600人、週末は約1千人が訪れる。
だが、遊園地の経営者は「集客は期待以下」と肩を落とす。ガザ地区は4割を超す高失業率で、大人15シェケル(約450円)、子ども5〜10シェケル(約150〜300円)の入場料が払えない住民も多いためだ。
ガザ地区はイスラエルによる封鎖で燃料不足が深刻になっており、電気は1日約4時間しか使えない。地元行政当局によると、排水を海に垂れ流す量は今年、過去10年で最悪レベルだ。海岸の約8割が汚染され、遊泳客の健康被害の報告が相次いでいるという。
プールから約1・5キロ離れた海岸のビーチも、汚染で遊泳を禁じられている。だが、連日多くの住民でにぎわっている。
ガザ市の建設業アブダラ・コザットさん(20)は「汚染は知っているが、週1回は必ずここに来る。暑い夏、私たちが無料で楽しめるのは海水浴しかない」と話した。【8月18日 朝日】
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パレスチナ・ガザ地区と言えば、イスラエルの包囲下で復興が進まず、“天井のない監獄”と称される状況で大勢の住民が困窮している・・・というイメージがあります。
それは事実であり、上記記事の“電力不足で下水処理施設が稼働せず、汚染されたビーチは遊泳を禁止”とか、“入場料が払えない住民も多い”といった部分にも、その状況が示されています。
ただ、シリアの内戦の街のように、まったく瓦礫状態・・・という訳でもなく、“人工の波を起こせる屋外プール”も建設されるような面もあるようです。
資材搬入が厳しく制約されている状況で、どうやって建設資材を調達したのだろうか、電力供給はどうしているのだろうか・・・とか疑問もありますが、どういう局面・状況でも資力がある者はそれなりの解決策を見出せるのでしょう。
【パレスチナ支援停止で兵糧攻めのトランプ米政権】
上記の“人工の波を起こせる屋外プール”はともかくとして、一般的には住民は“天井のない監獄”に苦しんでいるというのは間違いではありません。
そのガザ地区(住民の7割が難民)を支えているのはパレスチナ難民への国際支援ですが、支援の中心国であったアメリカが、イスラエル寄りの姿勢を鮮明にするトランプ大統領のもとでパレスチナ支援から手を引きつつあります。
****パレスチナ難民支援の国連機関 資金繰り悪化で緊急支援訴え****
アメリカのトランプ政権が、対立するパレスチナの難民への支援を凍結したため、支援活動にあたる国連機関の資金繰りが悪化し、「活動資金は来月までしか、もたない」として、国際社会に緊急支援を訴えました。
イスラエル寄りのトランプ政権はエルサレムをイスラエルの首都と認定したのに続き、ことし1月以降、対立するパレスチナへの報復措置として、パレスチナ難民の支援活動を行っているUNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関への資金の拠出を凍結しています。
UNRWAは530万人に上る難民に食糧や医療、教育の支援を行っていますが、活動資金のおよそ3割をアメリカに依存してきたため、資金繰りが悪化し、一部の支援事業の縮小や人員の削減を迫られています。
16日、UNRWAは声明を出し、今月末に新学期を迎えられるかどうか危ぶまれていた、およそ700の難民の学校について、予定どおり授業を実施することを決めたと発表しました。
一方で「難民支援のための活動資金は来月までしか、もたない」として、このままでは資金繰りに行き詰まると訴えています。
そのうえで、支援活動を続けるには日本円で238億円の資金を確保する必要があるとして、国際社会に緊急支援を呼びかけました。
トランプ政権が強硬な姿勢を取り続ける中、パレスチナ難民の間では暮らしを支える命綱となってきた国連の支援活動が縮小することへの懸念が一段と深まっています。
ガザ地区 人道危機のおそれ
UNRWAが支援活動を行っている地域のうち、パレスチナ暫定自治区のガザ地区は住民の7割にあたる130万人が難民としての登録を受けていて、今後、UNRWAの支援活動が縮小した場合、人道危機が一段と深まったり、イスラエルとの衝突が激化したりするおそれがあります。
UNRWAはガザ地区にいる130万人のパレスチナ難民のうち、100万人に食糧支援を行っているほか、難民のための学校も運営し、26万人余りの子どもたちが通っています。
さらに、無料の医療センターを21か所で運営し、イスラエルの経済封鎖下で、紛争が絶えないガザ地区の難民たちにとって、UNRWAの支援は命綱となっています。
このため、ガザ地区では難民がトランプ政権の支援凍結に反発を強めていて、UNRWAの支援が縮小に追い込まれることに強く神経をとがらせています。
先月25日にはUNRWAがパレスチナ人の現地スタッフの雇用削減を発表したことに反発し、難民たちがガザ地区にあるUNRWAの活動拠点に押しかけ現在も占拠した状態が続いています。
事務所を占拠する難民たちは16日、UNRWAの発表を聞くと「子どもたちの学校が授業を続けることができるのか、ますます心配だ」とか「資金難は政治的な問題だが、国連は資金を確保して、わたしたち難民への支援活動を続ける責任がある」と述べて、怒りや不安をあらわにしていました。
UNRWAの活動と資金難
UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関は70年前に建国されたイスラエルとアラブ諸国が4度にわたって戦火を交えた中東戦争によって、ふるさとを追われたパレスチナ難民を支援するため、1949年に設立された国連機関です。
当初のパレスチナ難民は75万人でしたが、難民の帰還や賠償問題を話し合う中東和平交渉が停滞する中、人口の増加でいまでは530万人が難民として登録され、パレスチナ暫定自治区や隣国のヨルダン、レバノン、シリアにある難民キャンプなどに分散して暮らしています。
UNRWAの主な活動は難民のための学校教育、食糧支援、医療支援でここ数年間の活動資金は年間およそ10億ドル(日本円で1100億円)に上り、およそ3割は最大の支援国アメリカが拠出してきました。(中略)
アメリカの狙い
(中略)アメリカはことし1月、支払いを当面凍結すると明らかにしましたが、その理由について「予算の使い方など組織運営の見直しが必要なため」と説明しました。
しかし、当時、パレスチナはエルサレムをイスラエルの首都と認めた去年12月のアメリカ政府の決定に反発し、イスラエルとの中東和平交渉には応じないという立場を鮮明にしていて、事実上の報復措置という受け止めが広がりました。
和平交渉の仲介に強い意欲を示すトランプ大統領はパレスチナに圧力を加え、いわば「兵糧攻め」にすることでパレスチナを交渉のテーブルに戻す狙いがあると見られます。
こうした中、アメリカの外交専門誌「フォーリン・ポリシー」は今月、トランプ大統領の娘婿で中東政策を担当するクシュナー上級顧問が「UNRWAは組織として腐敗している」として、事実上の解体を画策していると伝えました。
さらに、クシュナー上級顧問は一部のパレスチナ難民の難民としての地位を剥奪することを目指しているとしています。
パレスチナ暫定自治区のガザ地区や周辺国で暮らすパレスチナ難民は530万人に上り、イスラエルはUNRWAがパレスチナ難民の子孫を自動的に難民として認定することが、難民問題の解決を一層、難しくしているとして、UNRWAの解体が必要だと主張しています。
トランプ政権が仲介を目指す和平交渉では、イスラエルの建国によって土地を追われたパレスチナ難民の帰還をどう進めるかや補償が最も難しい課題の1つになっていて、交渉をイスラエル側に有利に進めるために、この難民の問題を交渉議題から取り除く狙いがあるのではという見方も出ています。
ことし11月に中間選挙を控えるトランプ大統領としては「キリスト教福音派」と呼ばれるイスラエル寄りの立場をとる国内の支持基盤をつなぎとめることが重要で、今後、パレスチナに対しより強硬な態度で臨む可能性もあります。【8月17日 NHK】
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アメリカは、昨年は約3億6000万ドル(約397億円)を拠出しましたが、今年は大部分を凍結して6000万ドル(約66億円)にとどまっています。
トランプ政権は、UNRWAとは別枠のパレスチナへの人道支援でも削減を検討しています。
****米、パレスチナ支援削減検討=和平案受け入れで圧力か―メディア報道****
米誌フォーリン・ポリシー(電子版)は10日、複数の外交筋の話として、トランプ米政権がパレスチナに対する2億ドル(約221億円)相当の人道支援などの削減を検討していると報じた。米国による中東和平交渉仲介を拒否するパレスチナ側に圧力をかける狙いがあるとみられる。
パレスチナは、トランプ大統領が昨年12月、エルサレムをイスラエルの首都と認め、米大使館の同地への移転を決めたことに反発。米側との接触を拒絶している。
これに対し、トランプ氏は今年1月、交渉の席に着かなければ「(支援は)彼らの元に行かない」と警告。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金を大幅削減した。
トランプ政権が今回検討しているのは、UNRWAの拠出金とは別。実際に削減すれば、国際開発局(USAID)の主要計画や、ヨルダン川西岸やガザ地区で活動する非政府系慈善団体の計画にも影響が出るという。
ポンペオ国務長官は当初、全面的な削減に反対したが、トランプ氏の娘婿クシュナー大統領上級顧問が、自身の進める中東和平仲介案の提示を有利に進めるために必要だと主張したとされる。圧力を強化し、パレスチナに交渉に応じるよう迫る考えとみられる。【8月11日 時事】
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エルサレム問題について首都認定・大使館移転でイスラエル主張を既成事実化し、難民数を激減させることで難民帰還問題を矮小化し、そうしたイスラエル寄りの状況の中での交渉開始をパレスチナに迫るための兵糧攻めという訳です。
そうした強硬姿勢は、政権支持基盤の「キリスト教福音派」を喜ばせることにもなります。
****米、続くパレスチナ難民支援凍結=中間選挙前に福音派の影響増―和平仲介は難航****
トランプ米政権がパレスチナ難民に対する支援の凍結を続けている。「見直し作業中」(国務省)と説明するが、大部分が削減されるとの見方も広がる。
親イスラエルのキリスト教福音派の影響力増大を背景に、エルサレム問題に続き、難民問題も中東和平交渉の議題から排除しようとする動きが加速する可能性がある。(中略)
米誌フォーリン・ポリシーは今月、トランプ大統領の娘婿で中東和平を担当するクシュナー上級顧問が、500万人超とされるパレスチナ難民の地位剥奪を検討していると報じた。
1948年のイスラエル建国で発生した当初の難民だけを認め、その子孫から難民の地位を剥奪し、イスラエル領内への帰還を求める難民の数を激減させることを画策しているとみられる。
トランプ氏は昨年12月、エルサレムをイスラエルの首都と認定して米大使館の移転を決め、和平交渉の最大の焦点である「エルサレムの帰属」を「(交渉の)テーブルから取り除いた」と豪語した。
ウォレス元駐エルサレム米総領事は取材に、「エルサレムに続き、難民問題もテーブルから取り除こうとしている」と指摘。和平交渉でイスラエルの立場を強める狙いがあるとみている。
与党・共和党の劣勢が伝えられる11月の中間選挙を前に、トランプ氏の支持基盤の福音派の影響も無視できない。ワシントンで先月開かれた福音派の有力団体「イスラエルのためのキリスト教徒連合(CUFI)」の集会で、創設者ジョン・ヘイギー師は「難民の地位を恒久化している」として、米国のUNRWA支援に反対を呼び掛けた。
トランプ政権はパレスチナへの圧力強化により、イスラエルに有利な和平案受け入れを迫る考えとみられるが、エルサレム首都認定以降、パレスチナ自治政府は米国の仲介を拒絶。
当初は和平案支持に前向きだったアラブ諸国も慎重姿勢に転じた。ウォレス氏は「トランプ氏は優れた交渉人と自任しているが、パレスチナ問題や地域の政情の複雑さを理解していない」と批判した。【8月19日 時事】
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【無力な国連 内向き“アメリカ第一”のトランプ政権】
トランプ大統領が“世紀の取引”と豪語するパレスチナ問題解決策がどのようなものかはわかりません。
漏れ伝えられる情報や、シナイ半島を絡めたエジプトの仲介策などについては、8月3日ブログ“パレスチナ ネタニヤフ首相がガザ情勢を理由に外遊を中止 何らかの動きか?”でも取り上げましたが、イスラエルの主張に沿った内容になると推測されます。
一方、国連事務総長は国連総会からの発議を受けて、PKOの展開を含めたパレスチナ人保護案を提出していますが、PKO展開には安保理における拒否権を有するアメリカが賛同しませんので、実現できないのは明らかです。
****国連事務総長のパレスチナ人保護案****
ガザでの死傷者については先ほども報告しましたが、al qods al arabi net は、国連事務総長が17日、パレスチナ人保護強化のための4項目からなる提案を提出したと報じています。
これはガザでのパレスチナ人殺傷の増加に対して、国連総会が事務総長に提案を求めたことに対するものだが、特に軍事的オブザーバー(要するにPKO)は安保理の決定を必要とし、米国が拒否権を有しているので、実現は難しかろうとコメントしています。
記事の要点は次の通り。
事務総長が提案した4項目は、
現地における国連のプレゼンスの強化。その中には人権監視団及び現地情勢の監視をする政治専門家のミッションも含む。
住民の福祉強化のための人道的援助、開発援助の増大。
国境検問所、域内検問所、入植地の近く等への文民監視ミッションの展開。
パレスチナ文民保護のための警察または軍事ミッションの展開。
であるが、これら実現にはイスラエルの協力が必要であるが、それは困難であろう。
特に国連PKOのごとき性格のミッション設立には安保理の決議が必要だが、拒否権を有している米国が賛成するとは思われない。(中略)
国連では、本来この種の国連としての政治的、軍事的具体的行動を伴う問題は安保理の管掌するところですが、安保理では常任理事国に拒否権があり、パレスチナ問題については米国が、極めてイスラエル寄りの立場を堅持してきているために、総会に付託することが増えています。
ガザ問題から生じたパレスチナ人の保護問題もその一例ですが、おそらくこの報告書は総会に送られ、そのまま国連の「パレスチナ問題の重要な文書として保管される」と言う運命をたどるのではないかと思います。【8月18日 「中東の窓」】
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アメリカの反対で実現できないことがわかっていながら“一応”提案する・・・国連の置かれた状況を示す案件です。
前出【時事】には、“当初は和平案支持に前向きだったアラブ諸国も慎重姿勢に転じた”ともありますが、そのあたりの状況、トランプ政権のゴリ押しが通るのか、パレスチナは兵糧攻めに耐えられるのか・・・よく知りません。
トランプ大統領としては、イスラエル寄り姿勢を強く押し出し、国内支持層にアピールできれば、とりあえずの目的は達成できるのでしょう。
うまくいけば、オバマ前政権でも実現できなかったパレスチナ問題解決の“偉業”を達成できる・・・。(この点には、トランプ大統領はかなり執着しています)
もし、パレスチナが交渉を拒むなら、それはそれで構わない。トランプ大統領としては自分の言うことをきかないパレスチナ問題なんかには興味ない・・・といったところでしょう。
トランプ政権はシリアでも復興基金への拠出を撤回しています。
パレスチナ、シリア、それぞれの事情はありますが、基本的には“カネのかかるアメリカ外の厄介ごとにはあまりかかわりたくない。興味もない。”という内向き“アメリカ第一”があるようにも思えます。
カネを出してやるから自分の言うことを聞け。聞かないならカネはださない。勝手にしろ・・・当然と言えば当然の行動でもありますが、世界の民主主義をリードする気概はないようです。その余力もなくなっているのでしょう。
世界におけるアメリカの空白を埋めるのは・・・チャイナマネーでしょうか。まだ、そこまでの力はないようにも。
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