孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トランプ復権に備えて動き出した世界

2024-11-17 23:04:46 | 国際情勢

(【DIAMOND online】)

【中国企業の東南ジア移転】
アメリカでの「トランプ復活」は、紛争中のウクライナ・パレスチナだけでなく、すでに世界の多くに国々に様々な影響を与え始めています。

経済面で一番注目されているのが対中国関係、具体的にはアメリカに輸入される中国製品に60%を課すとしている件。もちろん、トランプ氏が好む「ディール(取引)」においては、先ず強硬な要求をぶつけて相手の出方を見るという話になりますので、実際にトランプ氏が60%の関税を課すかどうかはわかりません。

わからないけど、わかってからでは遅いということもあって、中国企業には東南アジアへ工場を移転することで「中国製」をクリアしようという動きが加速すると見られています。

****米次期大統領にトランプ氏返り咲き、中国から東南アへの工場移転が加速―海外メディア****
米国の次期大統領にドナルド・トランプ氏の返り咲きが決まったことで中国から東南アジア諸国への工場移転が加速するとみられるとロイター通信が報じた。トランプ氏が中国からの輸入製品に高額の関税を課す可能性があるためで、企業関係者も東南アジアはこの関税政策の恩恵を受ける公算が大きいとみている。

トランプ氏は次期大統領就任後、米国に輸入される中国製品に60%と、1期目の政権時に発動した7.5〜25%よりずっと高い関税を課すと約束している。

ロイター通信はタイの事業用不動産開発大手WHAグループのジャレエポーン・ハルコーンサクル最高経営責任者(CEO)の話として「米大統領選でトランプ陣営の勢いが強まるとともに中国の顧客から問い合わせの電話が殺到した」と報道。2017〜21年のトランプ前政権時代、既に東南アジアへの工場移転は起きていたものの、これからより本格化するだろうという。

ジャレエポーン氏はWHAがタイとベトナムに展開する広さ1万2000ヘクタール強の工業団地を管理運営する部門でセールス要員と中国語ができる人材を拡充しつつあると明かした。

タイの別の事業用不動産大手アマタが運営する工業団地に今年開設された90の工場のうち、およそ3分の2は中国から移転してきた企業だった、と創業者で会長のビクロム・クロマディト氏は話す。

ビクロム氏はトランプ氏の返り咲きは中国にとって「大打撃」で、同社が東南アジア4カ国で運営する広さ150平方キロの工業団地に中国から移転を検討している企業は倍増する可能性があると見込んでいる。

同氏はアマタが今月になってラオスの工業団地建設も開始したと指摘。ラオスは首都ビエンチャンと中国南部を結ぶ高速鉄道が既に開通している。

東南アジアの自動車産業の拠点となっているタイの電気自動車(EV)業界には中国の自動車メーカーからこれまで14億ドル(現レートで約2170億円)の資金が投じられた。

タイのピチャイ商務相は「中国からの多額の投資をわれわれが米国に輸出できるような形にしていきたい、これは実現すると信じている。米国民も中国国民もわれわれを愛しており、われわれはどちら側かを選ぶ必要はない」と記者団に語った。

マレーシアでも企業団体の指導者が半導体セクターに1000億ドルの新規投資を呼び込み、世界的なサプライチェーン(供給網)再編の動きの追い風を受けられると期待を示した。同国製造業連盟を率いるソー・ティアン・ライ氏は「この再編でマレーシアは米国やその他の重要市場向け輸出シェアを拡大する新たなチャンスを得られるだろう」と話した。【11月16日 レコードチャイナ】
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受け皿となる東南アジア各国は、上記記事にもあるように大歓迎といったところですが、移転先の有力候補がベトナム。

もっとも、生産拠点を移すということは早々簡単な話ではなく、サプライチェーンや輸送コストなどの問題もあります。

****トランプ当選で中国の輸出業者こぞって「そうだ、ベトナムに行こう」―中国メディア****
6日に投開票が行われた米国の大統領選でトランプ氏が当選したことで、中国では中小を中心に輸出業者が大きな試練にさらされることになった。トランプ氏が発言してきた関税の大幅引き上げが実施されれば、会社が存亡の危機にさらされるからだ。

一方で、ベトナム行きのツアーや航空券の売れ行きが伸びているという。中国の情報サイトの百度が関連記事を掲載した。

トランプ氏は選挙期間中に、米国に輸入されるすべての商品に10%以上の関税を課し、中でも中国製品には60%の追加関税を適用すると発言した。また、4年以内に中国からの電子製品、鉄鋼、医薬品などの輸入を段階的に停止することも提案した。

多くの中国の貿易業者が、実施されれば生き残りが難しくなると判断し、対策を模索している。典型的な方法がベトナムへの「転進」だ。

米国が2018年に中国製品の関税を引き上げた際には、多くの中国企業がベトナムに生産拠点を移して、ベトナム製品として米国に輸出してきた背景もある。

ベトナムにある中国系企業に22年から駐在している劉勇海氏は、中国国内の友人から「視察に行きたい」という電話を次々に受けるようになった。またSNSのグループには「視察」に言及する書き込みが増えた。冗談と思われるが、「トランプ氏が当選を決めた日には、中国からハノイとホーチミン行きの航空券が売り切れた」とする噂も出現したという。

中国からベトナムへの「視察ツアー」では、現地の工場団地の見学などのほかにも、多くの場合には日程に観光が含まれている場合が多く、「大名旅行」の色合いもある。旅行会社は利益を多く出せるために、このような「視察ツアー」に力を入れている。

しかしベトナムでは中国のように産業チェーンが成立しておらず、鉄やプラスチックなどの素材は中国から輸入せねばならない。また、交通インフラの整備が遅れており、輸送コストも中国より割高だ。そのためベトナムでの生産コストは中国と同等か、場合によっては割高になる。コスト引き下げの要因である人件費も上昇しつつある。

トランプ政権により中国製品に対する輸入関税の引き上げが実施された場合と比べれば、ベトナムへの移転は「比較すればお得」ということになるが、トランプ政権がベトナム製品に対する関税を引き上げない保証はない。そのため、インドネシアあるいはマレーシア、フィリピン、中東地域での生産拠点設立を検討する業者もある。

前出の劉勇海氏の会社は、米国による18年の関税引き上げを機にベトナム工場を設置した。従業員30人で出発したが、現在は300人を雇用するまでに成長した。ただしベトナムでの投資はまだ回収できておらず、米国がベトナム製品への関税引き上げを実施すれば、会社は「存亡の危機」に陥るという。

中国企業にとっては、米国市場を補填する他の市場を開発する方法もある。例えば欧州市場だ。ただし、欧州は全体としては人口7億人の大市場ではあるが50カ国ほどに分かれており、各国の政策や消費者の好みも異なる。またここ数年間は消費者の購入も軟調だ。

東南アジアとアフリカは人口は多いが、人々の購買能力に制約があり、売れる物は多くの場合、低価格商品だ。中東には、戦乱などの恐れもある。

米国は購買能力が極めて強く人々の好みもばらつきが比較的少ない、中国にとっての格好の市場だった。輸出先が小規模市場に分散されれば、多様な製品を生産するために、生産ラインなどもより多く必要になり、それぞれの市場を開拓せねばならず、そのためにはそれぞれの市場での人員が必要になる。このことは、低価格商品を強みとしてきた小規模企業にとっては特に、耐えがたい負担であり、未知への冒険になる。

中国の投資コングロマリットである中国中信集団による単純な推計によると、米国が中国製品に60%の関税を課せば、中国の対米輸出は16%減り、輸出全体は2.3%減る可能性がある。すでに輸出業の廃業を決意した経営者もいるという。【11月10日 レコードチャイナ】
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なんかかんだ言っても、「アメリカ市場」の魅力は大きく、そこらがトランプ新大統領の狙い目ともなります。

“すでに輸出業の廃業を決意した経営者も・・・”云々は早すぎ。おそらく廃業理由は別にあるのでしょう。

中国だけでなく、“米国に輸入されるすべての商品に10%以上の関税を課し”ということですから、当然に日本企業も影響を受け、ひいては世界経済の大きなかく乱要因となりますが、関税によるアメリカ国内での輸入品価格上昇はアメリカ国内消費者が負担することになります。

基本的にトランプ氏は、「世界はアメリカを必要としているが、アメリカは単独でやっていける」と認識しているようですが、本当にそうなのか?

【日中関係では、中国が日本側への歩み寄りも】
国際政治面の「またトラ」の影響は様々。
上記のような強い圧力にさらされることも想定される中国は(もっとも、「ディール」ですから、話がまとまれば、状況は一夜で様変わりします)対日関係において、日本側への歩み寄りも見られるとか。

****“対トランプ氏”意識か 中国が日本に歩み寄り****
石破茂総理大臣は、訪問先のペルーで中国の習近平国家主席と初めて会談しました。

石破総理大臣「日中関係が発展してよかったと両国民が実感できるよう、具体的な成果を双方の努力で積み上げてまいりたい」

習主席「私は皆さまとの意思疎通と協力を強化し、中日関係を正しい軌道に乗せていくことをともに推進していきたい」

習主席はこのように発言し、中国軍の動きが活発化する尖閣諸島や、台湾を巡る情勢についても議論したうえで、安定的な関係を構築することを確認しました。

また、中国での日本人男児襲撃事件を巡り、日本人の安全確保を約束するなど中国側から一定の歩み寄りがみられました。

トランプ次期大統領が掲げる関税の引き上げなどの政策を念頭に、日本と対トランプ政策で足並みをそろえたい思惑もあるとみられています。(「グッド!モーニング」2024年11月17日放送分より)【11月17日 テレ朝news】
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懸案となっていた日本産水産物の輸入再開についても
“石破茂首相は15日午後(日本時間16日午前)、訪問先のペルー・リマで中国の習近平国家主席と約35分間、初めて会談した。東京電力福島第1原発の処理水放出を巡り、日本産水産物の輸入再開に向けた9月の合意を実施することを確認。”【11月16日 時事】

ただ、「約35分間」の会談ですから、すでに話がついていることを確認しただけでしょう。

ビザ免除についても、ようやく動き出すとの情報。

****中国政府“日本人短期滞在ビザ免除”再開検討か****
中国政府が日本人に対する短期滞在ビザの免除について今月中にも再開する方向で検討していることが明らかになりました。

中国国営の旅行会社幹部らによりますと、中国政府がコロナ禍以降、停止している日本人の短期滞在ビザの免除措置について、今月中にも再開する方向で検討していることが当局側から通知されたということです。

日本政府や日本の経済団体は、これまで繰り返し、免除措置を求めてきましたが、中国側は訪日する中国人に対する同様の措置を求めていて、再開のめどが立っていませんでした。

中国では経済の低迷が続く中外国企業による投資の拡大に期待が高まっていますが免除措置の再開が実現すれば日中間のビジネス往来が回復に向かう可能性もあります。【日テレNEWS】
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なお、韓国についてはすでに11月3日に「一方的ビザ免除」していますが、この措置は駐中国韓国大使館も「事前に連絡がなかった」とか。米大統領選挙後への備えと併せて、北朝鮮に警告のメッセージを送る必要もあったとみられるとも。【11月5日 レコードチャイナより】

【連立崩壊・2月総選挙のドイツ ショルツ首相、2年ぶりにプーチン大統領と電話会談】
西側各国は「またトラ」によって、「守って欲しければカネを出せ」といった安全保障に関する見直しも迫られています。

ドイツでは、予算編成を巡る対立から、自由民主党が6日に社会民主党・緑の党との3党による連立政権から離脱し2月に総選挙が行われることになっていますが、トランプ政権が発足すれば更に経済・安全保障・ウクライナ支援で逆風にさらされるとも見られています。

ショルツ首相は当初来年3月の総選挙をよていしていましたが、野党側の「またトラ」に備えて早期に行うべきとの圧力が強く、来年2月実施に早まっています。

****ドイツ総選挙「トランプ復活」の風圧で再度前倒し、2月実施へ 保守野党が優勢****
ドイツでショルツ連立政権の崩壊を受け、前倒し総選挙が来年2月23日に行われる見通しとなった。12日、大統領府が発表した。

来年1月のトランプ次期米政権の発足を視野に、総選挙で政権出直しを急ぐよう圧力が強まった。世論調査では中道右派野党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が首位に立ち、政権交代の公算が大きい。

連立政権は今月6日に予算案をめぐる対立で崩壊した。ショルツ首相は当初、来年3月に前倒し総選挙を行う日程を描いた。だが、CDUのメルツ党首は「国際的な政治状況や悪化する経済状況を考えれば、早く新政権を樹立すべきだ」として、早期実施を要求した。

大統領報道官の発表によると、ショルツ氏の中道左派、社会民主党(SPD)やCDUなどの与野党代表が12月16日、連邦議会で首相の信任投票を行うことで合意した。不信任となった場合、大統領は速やかに連邦議会を解散する構えで、総選挙の2月23日実施が「現実的」だとした。ショルツ政権は連立崩壊で少数内閣となっており、不信任の成立は確実だ。

ドイツではトランプ政権が発足すれば、安全保障や経済で逆風にさらされるとの見方が広がる。連立崩壊による政局混迷は長期化させるべきではないとの声が強く、世論調査では65%が「できるだけ早期に総選挙を実施すべきだ」と答えた。

バイデン米大統領はドイツを「わが国と最も緊密で重要な同盟国」と呼び、ロシアのウクライナ侵略後、欧州安全保障でドイツの役割を重視した。これに対し、トランプ氏については2017年の最初の就任後、「ドイツは防衛費をケチる」とやり玉にあげ、ドイツ駐留米軍の一方的削減を打ち出すなど、米独関係が冷え込んだ記憶が残る。

通商でもトランプ氏が国内産業保護策として、公約通り関税を引き上げれば、貿易大国ドイツには打撃が避けられなくなる。低迷する経済が、さらに冷え込むことになりかねない。

ショルツ政権は21年、SPD、緑の党、経済界に近い自由民主党(FDP)の3党連立で発足した。任期満了に伴う総選挙は来年9月に計画されていた。先週の支持率調査ではCDU・CSUが34%で首位に立ち、移民排斥を掲げる右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が18%、SPDが16%と続いた。
ドイツで国会解散の権限は首相ではなく、大統領にある。【11月13日 産経】
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こうした状況で、ショルツ首相としては独自の安全保障対策を遂行していることを国内にアピールする必要に迫られています。そうしたショルツ首相の選択が、ロシア・プーチン大統領との2年ぶりの電話会談でした。

しかし、このプーチン大統領との電話会談は、ロシアの国際的孤立から救うことにつながるとウクライナ・ゼレンスキー大統領が強く反発、「パンドラの箱を開けた」とも。

****プーチン大統領・ドイツ首相、2年ぶり電話会談…ゼレンスキー氏「パンドラの箱開けた」と批判****
ドイツのショルツ首相は15日、ロシアのプーチン大統領と約2年ぶりに電話会談し、ウクライナとの和平交渉に臨むよう強く求めた。両氏は今後も対話を続けることで合意したが、ウクライナは反発している。

独政府によると、ショルツ氏は会談で、ウクライナからの露軍撤退と「真剣な交渉」を要求。ウクライナに対する支援を継続する考えも示した。欧米の「支援疲れ」を否定し、プーチン氏に交渉を促した。

露大統領府によると、プーチン氏はウクライナとの和平合意は「新たな領土の現実に基づくべきだ」と述べ、戦況に応じた交渉が必要との認識を示した。

両氏の電話会談は2022年12月を最後に途絶えていたが、今回はショルツ氏が打診した。背景には、トランプ次期米大統領がウクライナ支援に消極的な姿勢を示していることがある。

ショルツ氏はトランプ氏の大統領選勝利後、「欧州の安全保障のためにドイツが責任を果たさなければならない」と訴えてきた。来年2月の独連邦議会選挙で政権交代の可能性も浮上する中、和平への取り組みが不十分との批判も出ていた。

一方、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は15日、ショルツ氏主導の電話会談について、プーチン氏を孤立化させる取り組みを妨げるもので「パンドラの箱」を開けたと批判した。ゼレンスキー氏は一部領土を占領されたまま、和平交渉が進むことを警戒しているとみられる。【11月16日 読売】
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政治的にも、経済的にも、各国がトランプ氏復権に備えた動きに走り出しています。
今回取り上げたのはその一例ですが、政治・経済に限らず、例えば温暖化対策などでも、報じられるトランプ人事を見ると、世界がここ数年積み上げてきた動きの歯車が逆転しそうな感じも。

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