孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ 国民投票で新憲法承認、総選挙へ

2007-08-21 13:31:39 | 国際情勢

(写真はクーデター時のバンコク “flickr”より By Film Colourist )

19日投票されたタイ新憲法案の是非を問う国民投票は、タイ中央選管の暫定集計結果によると、賛成58%、反対42%で、新憲法案は承認されました。
投票率は57.6%で、投票しない場合の罰則がある国政選挙(7割前後の投票率)に比べると低い数値となっています。
今後の政治日程としては12月に総選挙が予定されています。

新憲法案はクーデターで廃止された旧憲法に規定がない首相任期を2期8年と制限し、汚職防止規定を強化、また、下院を小選挙区から中選挙区制に変更するなどタクシン前政権を支えた巨大与党の再現を防ぐ内容となっているそうです。
一方で、クーデターに関与した軍関係者の免責も明記されています。

タイでは昨年9月19日に軍事クーデターが起き、国連総会のため渡米中の前タクシン首相が追放されました。
その後、暫定憲法・暫定政府が続いていましたが、今回の新憲法承認を受けて総選挙が実施され民政に戻る予定です。

昨年のクーデターは、大変な資産家でもあるタクシン前首相のインサイダー取引疑惑等のスキャンダル(6月12日のこのブログを参照 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070612 )→総選挙の強行→野党の選挙ボイコット→選挙の無効判決、やり直し・・・という政治的混乱の過程でおきたものです。

私はこのクーデターをバングラデシュ旅行からの帰国便の中で読んだ新聞で知り、タイの“のんびりしたイメージ”と“軍事クーデター”という言葉の緊張感がどうも結びつかず、不思議に感じたのが第一印象でした。
ただ、改めて確認すると「第二次世界大戦後、2006年までに発覚した未遂を含めて16回ものクーデターを計画、実行するほど、軍上層部の政治志向は強い。」(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)とのことです。 



(写真はクーデター時のバンコク “flickr”より By lilak )

もっとも、そのように日常茶飯事でクーデーターをやっているせいか、タイ人の国民性か、少なくとも今回のクーデターに出動した軍の様子を伝える写真を見ると、関係ない人間が「こんなにのんびりしていていいのか!」と思うぐらいのどかな雰囲気です。
街の兵士は市民・観光客の格好の被写体になっていたようです。


(写真はクーデター時のバンコク “flickr”より By lilak )

もちろん、タイの人々・社会がいつでも・どこでも、そんなにのどかな訳ではありません。
タクシン前首相は、2003年には麻薬一掃作戦と称して、ブラックリスト掲載者を軍隊・警察により強制逮捕・処刑しましたが、逮捕者は9万人以上、民間人の死者は2500人以上だったそうです。

また前首相は、マレーシア国境近くのイスラム教徒が多く居住する“深南部三県”では厳しい弾圧を行い、それが更にイスラム教徒の激しい反発を招くという悪循環によって、仏教徒の首が切断されるような深刻な対立が生じています。
(6月25日のこのブログを参照 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070625 )
今月に入っても、同地域で分離独立を主張するイスラム過激派によって仏教徒9名が殺害されたとの報道がなされています。
タクシン前首相の強硬な政策への反発からこの南部地域においては、今回の国民投票で暫定政府の提起する新憲法への賛成票が圧倒的に多かったそうです。

イスラム教徒と言うと、昨年のクーデターの首謀者と言われているソンティ陸軍総司令官はシーア派のムスリムで、仏教徒が多数をしめるタイにおいて、陸軍総司令官にイスラム教徒が任命されたのは彼が初めてだったそうです。
仏教国タイでムスリムでも最高権力者になれるというのはちょっと意外でした。
恐らく際立って優秀な逸材なのでしょう。

タクシン前首相はイギリスに滞在しており、事実上亡命状態になっています。
汚職に関する国内で進む訴訟に関し、法廷に出席していないため逮捕状が出されています。
今後、イギリスに対する身柄引き渡し請求も検討されています。


(写真はクーデター当時のタクシン前首相と娘(ロンドン) 
“flickr”より By koo koo kai)

タクシン支持派は今回国民投票で、新憲法反対の運動を行いましたが、“承認”という結果を受けて、また、タクシン前首相の国内復帰の見通しが立たない状況で、“ポスト・タクシン”の方向に向かうようです。
旧政権与党・タイ愛国党のチャトゥロン元党首代行は「投票結果を受け入れ、新憲法案への反対キャンペーンは終結する。12月の総選挙には参加する」と語っています。

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カザフスタン 憲法改正後の下院選挙、与党議席独占

2007-08-20 13:43:14 | 国際情勢

(カザフスタンの首都アスタナ 真新しい建築物が並び、上海の浦東を思わせる光景です。正面奥に見える塔が“Bayterek tower” “flickr”より By lambro )

中央アジア・カザフスタンで18日、下院選挙の投票が行われました。
結果は、ナザルバエフ大統領率いる与党ヌルオタンが88%の得票率で圧勝、全議席を独占したそうです。
(19日、中央選挙管理委員会発表)

ふたつの野党の得票率はそれぞれ3~5%と、いずれも議席獲得に必要な7%を上回ることができませんでした。
5月の憲法改正で政府は“少数派の意見も取り入れる”という目標を掲げていたのですが、この目標に反する選挙結果となりました。

5月の改正憲法では、議会の権限が一部強められた一方、初代大統領で過去16年間強権体制を敷いてきたナザルバエフ大統領に限って多選禁止が適用されなくなり、無期限に大統領の座を維持できる道が開かれています。
事実上の終身大統領の座を確保する一方、独裁批判をかわすため一定の民主改革を導入したものと言われており、大統領は「カザフ独自の道で国の安定・発展を図る」と、憲法改正を正当化しています。
また、憲法を改正した理由の一部には、全欧安保協力機構(OSCE)の議長国を務めたいという意向もあると伝えられています。

OSCEの議長国にこだわるあたりにもナザルバエフ大統領の性格の一端が窺えますが、“中央アジアのモデル都市”を目指して建設が進む首都アスタナの様子などを見ても(http://www.afpbb.com/article/politics/2202886/1465595)、外観の印象を重視した街づくり、個人崇拝の傾向などが感じられます。
相当に自己顕示欲が強い政治家のようです。(まあ、政治家はすべてそうだと言えば、確かにそうですが。)

こういうタイプのトップが終身大統領として君臨することは(こういうタイプだから終身大統領にこだわるのでしょうが)、将来の独裁を危惧してしまうのですが杞憂でしょうか。
中央選管によると、投票率は64.56%。
首都アスタナでは39%、最大都市のアルマトイは22%。
都市部で極めて低くなり、強権化を進めるナザルバエフ体制へのしらけムードを示す結果となったとも報じられていますが、しらけてていいのかしら・・・とも思ってしまいます。


(ランドマーク“Bayterek tower”にある大統領の黄金の手形 
“flickr”より Bysmer4 )

過去、カザフスタンの議会選挙や大統領選挙では、与党に有利な選挙報道とか二重投票などがあったとも批判されていますが、今回はOSCEなどから東欧の旧共産圏や旧ソ連諸国を中心に約1200人が選挙監視活動に参加しました。
議長国を目指すナザルバエフ大統領による“民主選挙”のアピールのようです。
OSCEは「これまでの選挙よりは改善したが、依然国際水準には達していない」と評価したそうです。
(この言い様も“上から見た”言い様で、大統領ならずとも相当に気分を害するのでは・・・)
投票自体と選挙前の過程は透明性が保たれていたと高評価を下した一方、開票作業については訪問した投票所の40%以上でマイナスの評価を下したとのこと。

ソ連から独立した後、経済は飛躍的に発展、今現在のカザフスタン経済は好調のようです。
基本的には与党圧勝の今回の選挙結果は、この好調な経済を反映したものでしょう。

カザフスタンの経済成長は、鉱物資源の輸出によるものであり、天然資源依存型です。
採掘量が世界第10位以内に達する地下資源が9つも存在する(2002年時点)そうで、世界2位のクロム、3位のウラン、そのほか亜鉛、マンガン、鉛、ボーキサイト、銀、銅、石炭、リン鉱石・・・。
原油の産出量も世界シェアの1.1%。
ありとあらゆるものが地下に眠っている、“宝の山”の国のようです。
野党側は「エネルギー資源の確保を狙う西側諸国が民主化問題に目をつぶっている」と批判しています。

石油に群がる国々のひとつが中国。
中国の胡錦濤国家主席は18日、カザフスタンを公式訪問して、カスピ海沿岸産の石油を中国に送る新たなパイプライン建設で合意したそうです。
共同声明では、ナザルバエフ大統領の強権化が指摘されるカザフスタンの憲法改正について、「中国は高く評価する」と表明、早速中国の支持を明らかにしました。
エネルギー資源獲得に躍起となっている中国がカザフ重視の姿勢を示したとみられています。

今回敷設に合意した石油パイプライン以外に、05年にはもう1本のパイプ約1000キロが既に完成しています。
ナザルバエフ大統領は「(この2本のパイプに既存のパイプをつなげて)カスピ海が中国西部とつながることになる」と語っています。
また両国は、トルクメニスタンの天然ガスをカザフ経由のパイプラインで中国に引く計画にも合意したそうです。

しかし、中国も現段階でエネルギー確保に躍起となっていますが、今後更に中国経済が拡大したらどう対応するのでしょうか?
逆に言えばその点をクリアできないと経済拡大は天井にぶつかってしまうということになるのでは。



(過去2回炎上して“ライター”のニックネームがついた運輸省ビル “flickr”より By supernova17 )
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インド 民生用核協力協定の行方、そしてアジアは

2007-08-19 13:12:29 | 国際情勢

(写真はインド国内で見られる、アメリカの核開発干渉を批判するアピール
“flickr”より By Aditya Bhelke )

米国との民生用核協力協定を巡り、インドの国民会議派率いる与党連合が厳しい立場に直面していると伝えられています。
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【8月18日 asahi.com】
「核兵器開発を制限しかねない」と反対する野党陣営に加え、閣外協力の左翼政党4党も「米国との同盟は危険」と反対。
原子力協力の実施に向けた国際的な手続きを進めないよう、国民会議派に要求している。
国内法では、原子力協定自体は議会承認を必要としない。
だが左翼政党の閣外協力解消を招けば、下院で過半数を持たない与党連合の政権運営自体が難しくなる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

米国とインドが7月27日に交渉妥結を発表した民生用核協力協定は、核拡散防止条約(NPT)に加盟していない核保有国インドに米国製核燃料の再処理を認めることで、米国は日本とEUにしか与えていない厚遇をインドに示しました。
また、インドが核実験を実施した場合、米国は燃料返還を求める権利を確保する一方で、供給継続の担保として戦略備蓄や国際市場へのアクセス確保で支援を約束。米国が仮に供給を停止しても、インドが他国から燃料を輸入する道は残した内容になっています。

インドのシン首相は今月13日の議会下院本会議で、「合意は、インドが将来必要に迫られれば核実験を実施する権利に何ら影響を及ぼすものではない」と述べ、協定によってインドの核戦略や外交政策の独自性が制約を受けるとの批判に反論して、核実験の権利を保留していることを明言しています。【8月14日 読売】

このようなインドに対する“特別扱い”は、少なくとも民生用についてはインドをIAEA(国際原子力機関)の監視下に置くことで核拡散を防ぐという本来の目的の他に、今後プレゼンスが高まるであろうインドとの協力関係を築くことで中国を牽制し、また、イランとインドの関係に楔を打ち込むという外交戦略に基づくものと見られています。

もともとNPTは、すでに核兵器保有している一部の国以外の核兵器保有を禁じるという非常にアンバランスな枠組みですし、インド・パキスタン、イスラエルのような枠外で独自に核兵器開発を進める国もあります。
ただ、現実世界を規制する他の有効な枠組みが存在していないことも事実です。

今後、インドが国内問題をクリアすれば、次の段階として日本を含む国際社会が判断を求められます。
NPTやIAEAによる不拡散という枠に入っていない国への原子力技術協力を禁じているNSG(原子力供給グループ 日本も含む)の承認が必要となるためです。
衆参のねじれという政局にある日本も、難しい判断を迫られることになります。

核実験権利保留を明言するNPT未加盟国に原子力技術協力をするというのは、日本の立場・感情としては納得できないものがあります。
米国の対応は明らかに“二重基準”です。
しかし、このまま国際監視の枠外にインドを放置するよりは、不完全でも国際監視の枠内に取り込んでいったほうが、世界全体の核管理の視点からベターではないか・・・個人的にはそんな気がしています。

最近アジア各国では、経済成長に伴うエネルギー重要の急増、原油価格の高騰という状況下で、原子力発電所の建設計画が急速に進行しています。
インドネシア:2010年ごろに着工し、16年ごろの運転開始を目指す。
ベトナム:20年の稼働を目標とする。
タイ:20年を目標に導入検討を進めており、13年に計画を実行するかどうかを決める予定。
ミャンマー:昨年から核技術研究所を設け、ロシアに留学生を送っている。

こうしたアジア各国に、日本や米国、フランス、韓国、ロシアなどの保有国が原子力技術に関するセミナー開催や人材育成支援に乗り出し、受注に向けた激しい売り込み合戦を展開しているそうです。【8月10日 毎日】

実際、アジアの国々を旅行すると、“停電”に頻繁に遭遇します。
このような慢性的・絶対的な電力不足は、単にエアコンが使えない、TVが観られないという生活上の不便に留まらず、地域経済発展の大きな足枷になっていると思われます。

自分達が日本で快適な暮らしを享受しながら、他国の人々の向上への希望をはねつけるのは、いかにも自己中心的に思えます。
しかし、このペースで民生用とは言え原子力利用が拡散した場合、事故の発生・軍事利用への転換など危惧される問題も多々あります。

核兵器の管理、現実的な当座の対応とは別に、原子力利用全体について長期的な視点から、自分達の社会・暮らしのあり方の問題として議論し、代替エネルギーの利用・開発等の30年後、50年後を見据えたような国家的・戦略的な対応が必要なのではないかと考えます。
そうした“核レジーム”からの脱却の先に、国際社会における日本の位置づけ、“戦後レジームからの脱却”“美しい国日本”も見えていくるのでは。
あまりに“大風呂敷”になったので、Let’s call it a day.

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フィリピン 緊張が高まるミンダナオ島周辺

2007-08-18 15:47:17 | 国際情勢

(写真はアブサヤフによって首を切られた犠牲者7名 2007年4月20日撮影 “flickr”より By ANG LAGALAG )

フィリピンのミンダナオ島周辺における反政府勢力と政府・国軍の衝突・対立のニュースを最近また目にします。

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【8月7日 毎日】
反政府組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」と国軍の間で緊張が高まるフィリピン南部バシラン島などで、住民約1万2000人が避難していることが6日、政府対策本部などの調査で分かった。
治安悪化と住民の混乱が南部全体に広がれば、任期満了(10年6月)まで政権の安定を維持したいアロヨ大統領にとって大きな打撃となる。
政府は“和平プロセス”の早期進展を目指す方針だ。
一方、MILFは6日、イスラム過激派を対象に政府が実施するバシラン島での「食糧封鎖」を解除するよう、政府に求めた
MILF側は「食糧封鎖によって一般住民が飢餓の犠牲になるだけ」と主張している。
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

上記記事の“和平プロセス”とは、MILFとフィリピン政府が03年7月、停戦で合意したことを指します。
04年にはマレーシア、ブルネイなどが参加して停戦監視、和平実現後の復興・経済支援を担当する「国際モニタリングチーム(IMT)」が活動を始めています。
日本政府は06年にIMTへの専門家を派遣、ミンダナオ島への経済支援を表明しています。

和平プロセスのなかにあって今回緊張が高まったのは、“7月10日、MILFとイスラム原理主義勢力アブサヤフの合同勢力が誘拐されたイタリア人宣教師を捜索していた国軍の海兵隊を襲撃し、海兵隊員14人が死亡、うち10人は首を切られていた。”という事件が契機です。
国軍は約5000人の部隊を出して、襲撃に関与したとみられるMILFメンバーの捜索を始めたため、戦闘激化が懸念されていました。


(写真は島内をパトロールする国軍海兵隊 それを見守る水牛に乗った農夫 “flickr”より By charliesaceda )
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【8月17日 AFP】
8月9日にはホロ島で、国軍とイスラム原理主義組織アブサヤフの間で戦闘が発生。
1日の被害規模としては過去数十年で最大となる26人の兵士が死亡した。
これを受けて国軍は、米軍の訓練を受けた国軍部隊の増派を決め、15日、フィリピン国軍の増援部隊約5000人が到着した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ミンダナオ島の反政府活動の中心になっているのは、島中部などに住むモロ人と呼ばれるイスラム教徒です。
フィリピンは全国的にはキリスト教国ですが、ミンダナオ島においても北部はキリスト教徒がもともと居住しており、また、島外から流入する移民・入植者もキリスト教徒であることから、ミンダナオ島においてもキリスト教徒が圧倒的多数を占める現状にあります。
このため、政治的に追いやられた格好のモロ人の反発が強いと言われています。

単に宗教的対立だけではなく、この島の経済の中心が大規模プランテーション(デルモンテ社のパイナップル農場、ドール社のバナナ農場など)であり、農民が農地を失って農場労働者になるという状況から生まれる社会的不安定さ、もっと基本的にはこの地域がフィリピンでも最も貧しい地域であるという事情があるようです。

ミンダナオ島の反政府活動は当初モロ民族解放戦線(MNLF)が中心でしたが、内部抗争を経て、その分派がモロ・イスラム解放戦線(MILF)を結成し、NLFMが政府と停戦した後も抵抗運動を継続して無差別テロなどを行っています。


(写真はMNLFの兵士 “flickr”より By Joe Galvez)

アブサヤフは、ソ連のアフガニスタン侵攻に抵抗してパキスタンで軍事訓練等を受けていたジャンジャラーニがフィリピン帰国後作った組織で、アルカイダやジェマ・イスラミアとの繋がりも指摘されるイスラム原理主義集団です。
指導者死後は強盗や身代金目的の誘拐を繰り返す単なる犯罪組織に変質したとも言われています。
メンバーの多くはMILFなどに合流して組織人員は減少し、更に国軍・米軍の掃討作戦で殆ど壊滅状態にある・・・とも言われていたのですが。
また、奇妙なことに本来厳しい対立関係にあるはずのアブサヤフと国軍との癒着(武器弾薬の供与など)も噂されています。
(http://homepage2.nifty.com/munesuke/paraiso-morostruggle-4.html )

おおまかになぞっただけですから詳しいことはわかりませんが、また、フィリピンに限った話でもないと思いますが、結局反政府勢力も国軍も“戦争産業”従事者という同じ立場にあるとも言えます。
紛争が収まり平和になるとその存在価値が薄れ、生活の糧にも困る、従ってなるべく紛争を長引かせたい・・・そんな者も一部には出てくるのではないでしょうか。
そして表向き対立する一方で、裏では奇妙な癒着関係も生じる側面もあるのかも。

長引く紛争で住民の暮らしは更に困窮し、若者の一部にはわずかの報酬で反政府勢力に身を投じる者も・・・

(写真は国軍とMILFの戦いにによる避難民 “flickr”より By Joe Galvez )


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キルギス 広まる“誘拐婚”

2007-08-17 13:54:51 | 世相

(写真はキルギスの老カップル 彼らも“誘拐婚”だったのでしょうか?
“flickr”より By kluekozyte )

中央アジアのキルギスタン(旧ソ連から独立)では、女性を強引に誘拐して結婚する“誘拐婚”が広く行われているそうです。
昨日見たのは
http://www.afpbb.com/article/life-culture/culture-arts/2268120/2025470
ですが、他にも同様の報告が
http://rate.livedoor.biz/archives/20641636.html
http://www.afpbb.com/article/1402156
にもあります。

話を総合すると、街を歩いている女性を男性が友人と一緒になって無理やり車に押し込み、家へ連れ去るという手口が多いようです。
当然女性は泣き叫びますが、男の両親・兄弟でなんとかなだめすかしその家に留め置くと、女性はもはや自分の家にはもどれなくなります。
と言うのは、ひとたび男性の家で過ごした女性は“汚れた”“純潔でない”とみなされて恥になるそうで、実家の両親も取り戻そうとはしないそうです。

頃合をみて、男性が白いウェディング・ショールを女性の頭にかぶせます。
このショールは現地の言葉で“ジュールク”と呼ばれ、服従のシンボルだそうです。
女性にとっては、全く一度も会ったこともない男性に誘拐されることもあるようですが、結局80%ぐらいが最終的には結婚を受け入れるそうです。

この誘拐婚の風習は現地では“アラ・カチュー”と呼ばれていて、古くからある習慣ですが、ソ連時代に広くひろまったそうです。
ある村では婚姻した5組のうち4組が、また、山岳地帯の辺境の市では60~80%が、この“アラ・カチュー”による結婚だそうです。
全国的にも、“既婚女性の半分以上は“アラ・カチュー”の風習を経て結婚した女性たちであり、少なくとも3分の1の既婚女性にとってそれは自分の意思に反することだったらしい”という記載もあります。

男性側からすると、正規の手続きをとって結婚すると結納(例えば、現金10万円弱と牛1頭)が必要になるため、“アラ・カチュー”で奪い取った方が簡便で経済的だという事情もあるようです。
“アラ・カチュー”は旧ソ連時代も今も“違法”ではありますが、多くの人々は問題にしていないようです。
男性には罪の意識はないし、両親自身も“アラ・カチュー”で結婚しているケースが多いでしょう。
もちろん女性の人権の観点から批判する人・団体もあります。

この話を読んで思ったことが2,3あります。
ひとつは、これだけ広く行われている風習であれば、恐らく女性も“いずれ自分は誰かに誘拐されるのだろう・・・”という覚悟というか思いは普段からあるでしょう。
両親も女児を授かった時点から“いずれ誘拐される子供”という意識で育てるのでは。
誘拐された女性は泣き叫びますが、日本の社会で考えるような犯罪としての誘拐行為とはまた違ったニュアンスはあるかと思います。
女性は、“幾つになっても誘拐されない”ということを恥ずかしく思うようなこともあるのでは・・・とも考えたりします。
(だからかまわない・・・ということではありません。)

二点目は、この誘拐婚には“ルール”みたいなものがないのだろうか?ということです。
例えば町一番の名士の娘を貧乏人の男性が誘拐していいのか?
それとも、ある程度“釣り合い”みたいなものを前提にした風習なのか?
また、連れ去った女性を“力ずく”で留め置くことが許されるのか?
それとも、そういう暴力的な誘拐はルール違反なのか?

一番不思議だったのは、この風習が比較的最近の旧ソ連時代に広まったということです。
このあたりの背景はよくわかりません。

もっとも婚姻に関する意識・方法は日本でも劇的に変化しているようです。
下のグラフは日本における“お見合い結婚”と“恋愛結婚”の比率の推移を示したものです。
(第13回出生動向基本調査)



劇的に見合い婚が減少しています。
もちろん、“いまどき見合いは流行らないだろう・・・”とは思っていましたが、こんなに実際の数字が変化しているとは思いませんでした。
もうしばらくすると「日本ではかつて“お見合い”という不思議な男女の出会いがありました・・・」なんてニュースが流れる日もくるかも。

なお、誘拐婚に関しては、ラオスのある部族にその風習が残っているとも言われています。
また、風習というより、ほとんど犯罪行為ですが、中国の貧しい地方では“女性をさらってくる”こともあるやに聞きます。
誘拐婚はキルギス以外の中央アジアでも見られるそうですが、キルギスが一番顕著だとか。
花嫁の家に迎えにきた花婿側の人間が、泣き悲しむ花嫁を奪い取るかのように連れて行くという結婚式の風習などは世界のあちこちで見られるかと思います。
誘拐婚の名残でしょうか。

中央アジアでは一夫多妻制の風習もあるそうで、キルギスではこれを法的にも解禁しようという試みがされているそうです。
今までのところは、議会で否定され”違法“のままということです。
トルクメニスタンでは、かつての独裁者ニヤゾフ大統領の鶴の一声で解禁されたそうですが。

(写真はキルギスの女性 “flickr”より By Gonger )

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イラク 最悪の自爆テロ クルド人に250人の死者

2007-08-16 16:44:53 | 国際情勢

(写真はクルド人居住区の市場の様子 “flicr”より By -GT- )

イラク北部モスル西方のシリア国境に近いシンジャル近郊3地区で14日夜、燃料を積んだ複数のトラックがほぼ同時に爆発。
少なくとも250人が死亡(今後500人ぐらいまで増えるのではないかとの報道もあります。)、350人以上が負傷しました。
イラクで一度に発生したテロとしては、過去最悪規模のテロとなりました。

同地区はクルド人自治区ではありませんが、クルド人の居住地域で、クルド人の少数派ヤジディ教徒がテロの対象となりました。
この付近は国際テロ組織アルカイダ系のスンニ派武装勢力で組織する「イラク・イスラム国」が強い勢力を持っているところで、今回の自爆テロもアルカイダ系の組織の犯行ではないかと伝えられています。

今回のシンジャル近郊でのテロは、米軍がバグダット北方のディヤラ県都バクバでの作戦を拡大した直後に発生しました。
米軍はスンニ派武装勢力の拠点を追跡・壊滅する作戦を取っていますが、武装勢力は作戦地域を逃れて、軍事圧力の薄い地域でテロを実行しています。

また、被害にあったヤジディ教徒とイスラム勢力の宗教的緊張が高まっていたことが事件の背景にある可能性を報じるものもあります。
【8月15日 毎日新聞】
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/mideast/news/20070815k0000e030022000c.html

ヤジディ教はイスラム教以前から存在する原始宗教で、イラクやシリアのクルド人らの一部が信仰しています。
古代ローマ時代に広く分布していたミトラ信仰に、その後のイスラムの影響が加わって形成されたものだそうです。
なお、ミトラ信仰は仏教には弥勒菩薩信仰として残っているそうで、キリスト教の“最後の審判”もミトラ信仰に由来しているとも言われます。
ヤジディ教では、クジャクに象徴される大天使が主な礼拝の対象になっていて、ほかの宗教の信仰者はこの大天使を悪魔と見なしているため、秘密主義的なヤジディは悪魔信仰を行っているとの誤解もあるそうです。

ヤジディ教徒には、家族の中に宗教的汚点があった場合に家族がこの者を殺害して家族の名誉を回復する“名誉殺人”の風習が今も残っています。
今年4月に17歳の少女がこの“名誉殺人”で殺害されました。
彼女はイスラムスンニ派の男性と一緒にいた(=結婚する=イスラムに改宗する)ということで、群集の中に引きずり出されました。
取り囲む何十人の男性が倒れこむ彼女を蹴とばし、石(小石ではなくブロックのような大きさです。)を頭に投げつけます。
どす黒い血がしみのように広がります。
男達はなおも彼女を蹴り続けます。彼女はもう動きません。
この2,3分の一部始終は携帯で写され、ネットで公開されています。

古今東西、殺害される犠牲者は無数に存在し、宗教的に殺害に限っても星の数ほどあります。
日本でも新興宗教などで、宗教的理由で殺害する事件は時々耳にします。
ただ、ネットの画像上と言え、実際にひとりの人間、少女が大勢の男性に蹴られ、石を投げつけられ死んでいく様を目にするのはショッキングです。
胃のあたりに重いものが残りました。
宗教に縁の薄い人間には、このような“狂気”は全く理解できません。

この事件を契機に、スンニ派武装勢力によるヤジディ教徒への攻撃が頻発していたそうで、AP通信によると、同地区で支配的な勢力を持つアルカイダ系のスンニ派武装勢力「イラク・イスラム国」は今月上旬にシンジャルなどで「反イスラムのヤジディ教に対する攻撃が目前に迫っている」とのビラをまいていたといわれています。

この事件がフセイン時代抑圧されてきたクルド人とイスラム勢力の対立に火をつける事態となれば、これまで比較的落ち着いていたイラクのグルド人社会も混乱の可能性が出てきます。

そうなると、1500万人とも言われる最大のグルド人を抱えるトルコへの影響も懸念されます。
トルコではクルド人反政府勢力PKK(クルド労働党 非合法)が問題となっており、7月の選挙ではクルド人を中心とする無所属が27議席を得た一方で、イラク領内のクルド人勢力への攻撃を主張する右派・民族主義者行動党(MHP)が71議席(前回は最低得票率の“足切り”のため議席無し)を獲得しています。

英語に“open a can of worms”(収拾がつかない事態となる)という表現がありますが、イラク情勢はいよいよcanがopenされた状況になってきました。

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シエラレオネ 裁かれる戦争犯罪

2007-08-15 14:13:01 | 国際情勢


(7歳のAbuは父親の襟のボタンを留めてあげます。父親には腕がありません。内戦で切り落とされました。内戦が終わり、反政府勢力を含め双方の兵士たちには社会復帰プログラムが用意されています。しかし何千という手足を生きたまま切り落とされた犠牲者には何も用意されていません。
“flickr”より By slaugh7y )

今日8月15日は終戦記念日。
TVでは東京裁判を扱った番組も目にします。
今、世界では元大統領の戦争犯罪を裁く国際戦犯法廷が進行しています。
シエラレオネ国際戦犯法廷において、“人道に対する罪”などで裁かれているテーラー元リベリア大統領です。

シエラレオネはアフリカ西部の大西洋に面する国で、南東でリベリアと接しています。
19世紀には、イギリスの奴隷廃止による“解放奴隷”の移住地となり、1961年独立、首都は“フリータウン”。
この国を紹介するときによく使われるのは、「世界で一番平均寿命の短い国」ということです。
(男女計で34歳 2002年 WHO資料)
解放奴隷の子孫はクリオと呼ばれ国民の10%ほど占め、残り90%が先住民のテムネ人とメンデ人です。

91年に勃発したシエラレオネ内戦の主要人物は2名。
ひとりは反政府勢力RUFを率いるアハメド・フォディ・サンコー。
もうひとりが隣国リベリアで反政府運動を行っており、後にリベリア大統領になるチャールズ・テーラー。
この2名はともにカダフィ大佐のリビアで軍事訓練を受けており、その際知り合ったそうです。

両者はリベリアとシエラレオネの両国を連動した内戦状態にし、テーラーはサンコーのRUFに協調してシエラレオネに介入します。
RUFは産するダイヤモンドをリベリアに密輸し、リベリアのテーラーが見返りに武器・RUF兵士の訓練をシエラレオネのサンコーに供与するということで、「紛争ダイヤモンド」「血のダイヤモンド」「汚れたダイヤモンド」とも呼ばれています。
(ちなみに、日本はアメリカに次ぐ世界有数のダイヤモンド消費国です。)

シエラレオネ内戦は結局イギリスの介入などもあって02年終結、RUFのサンコーは03年フリータウンの病院で病死します。
テーラーは97年にリベリア大統領になりますが、国際社会の圧力、国内抵抗運動のため03年ナイジェリアに亡命。
06年に拘束され、シエラレオネ内戦に関与、虐殺や非道な行為を働いたとして国際戦犯法廷から起訴されました。

シエラレオネ内戦において最大20万人が殺害され、36万人の国際難民が発生したと言われますが、この内戦を悲惨にしたのはサンコー等RUFの残虐行為です。
彼らは何千人もの住民の手足を切断しました。
この内戦の様相は、佐藤陽介氏の書かれた“シエラレオネ 忘れられた内戦”に詳しく紹介されています。
http://www.jca.apc.org/unicefclub/unitopia/2002/Sierra.htm
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RUF兵士は村民を木の切り株などに押さえつけ、斧やなたで手足を切り落とし、そのまま殺さずに逃がします。
耳や口の周囲を切り取ることもあったそうです。
彼らは犠牲者を「大統領のところへ行け。大統領がおまえの手を取り返してくれるぞ。」と嘲り笑ったと言われます。

このような行為について、人権団体では「手足を切断された市民たちは米の収穫作業ができなくなり、食糧をRUFに頼るようになる。シエラレオネ政府軍も食糧の道を絶たれ、国全体が飢餓のために不安定化する。RUFはそれを狙っているのです。」と説明しています。

更にRUFは子供を誘拐・強制的徴募で集めて兵士にしたて、入隊の儀式として、時には両親を殺害し、隣人の手足を切断するように強要したとも言われます。
また、子供達が恐怖心を抱かないように麻薬を与え、元少年兵士の多くが麻薬中毒になっているそうです。
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(片足でサッカーに興じる人達 “flickr”より By dicciomixteco )

地雷も相手兵士を殺さずに足を吹き飛ばし、敵軍の負担を殺すより重くする狙いがあると言われていますが、RUFは地雷よりずっと経済的な方法を選んだということです。
意地悪い言い様ですが、この残虐行為を支えていたのがダイヤモンド、それらの一部は日本の幸せに浸る女性の指を美しく飾る・・・というのが世界の現実の一端です。
なお、少年兵は政府軍も使っていたとの指摘もあります。

何千人も生きたまま手足を切り落とす・・・日本人には想像できないような残虐さにも思えます。
民族の資質が違うのではとさえ思えます。
しかし、内戦も収まったシエラレオネの人々も同様に思うでしょう。
日本でも過去の戦争・植民地支配の過程では、非情な行為があったのでは。

日本人でもシエラレオネ人でも、一端戦争・戦乱の中で狂気が燃え盛ると非道な行為を押し留めるすべのないというのが人間なのかもそれません。
であれば、社会がそのような事態に向かわないように気をつける、危険な芽は早い段階で摘む、というのが賢明な方策でしょう。

シエラレオネでは今月11日大統領選挙が行われ、現在開票・集計中です。
メンデ人の与党シエラレオネ人民党と、テムネ人の全人民会議党の間で激しい選挙戦が戦われました。
EUからは選挙監視団が派遣され、「選挙の管理は非常にうまくいった。」と評価しています。
しかし、両陣営はすでに「相手陣営に不正投票や脅しがあった」と非難の応酬をおこなっており、接戦が予想される選挙結果を受け入れない恐れもあるそうです。

(写真は投票を待つ女性達 “flickr”より By missbax )



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アフガニスタン 民心を失う多国籍軍

2007-08-14 13:49:18 | 国際情勢


(写真はカブール市内で生活のためにささやかな“商売”をする戦争未亡人。
“flickr”より By rwhite73
オリジナルはRAWA(アフガニスタン女性革命協会)によるもの
カブールだけで5万人を超える戦争未亡人がいると言われています。
彼女達は子供を養うために必死の思いをしています。
UNIFEM(国連女性開発基金)によれば、カブールに暮す未亡人の65%が、今の悲惨な状態から抜け出るには自分の命を絶つしか他に途がないと考えているそうです。)
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「解放した」「まだ拘束中」「解放する予定」「10名の人質交換が前提」・・・・など情報が錯綜していましたが、アフガニスタンでタリバンに拉致されている韓国人のうち女性2名がようやく解放されました。
事件発生以来の始めてのいいニュースです。
残る19名の速やかな解放が実現するといいのですが。
赤十字国際委員会(ICRC)では「近日中に解放されるだろう」との期待を表明しているそうですが、根拠があるのか・・・。

9日からカブールでアフガン・パキスタン両国首脳、有力部族長等を集めて開催されていたジルガは、開会式を欠席したパキスタンのムシャラフ大統領も閉会式に参加し、テロリズムは共通の脅威で、テロとの戦いを着実に実行していくことをうたった宣言を発表し12日閉幕しました。

宣言は「アフガンとパキスタンはテロリストのための聖域や訓練キャンプの存在を許さない」と強調。両国から25人ずつ、計50人からなる委員会を設立し、国境地帯での治安維持に向け対話を促進することなどで合意しました。【8月12日 毎日】

アフガニスタン国内の状況は厳しいものがあります。
6月21日、23日のこのブログでも取り上げたように、タリバンが復活して攻勢を強めるなか(ジルガでも問題になったパキスタン領内で態勢を立て直しているとも言われています。)、アメリカはNATOが指揮する国際治安支援部隊ISAF(37か国3万7000人の兵士)を前面に出す形に以降しつつあります。(アメリカはNATOとは別に1万人規模の多国籍軍を主導)
ただ、NATO内でもドイツ・フランスなどは一歩引いた形で、イギリスなどとは温度差があるよう。

問題になってきているのは、この米・NATO軍の攻撃による民間人犠牲者が増大していることです。
非公式な推計では、NATO軍により、2007年だけで、250人の市民が殺害されたとするものもあると言われています。【7月24日 AFP】 http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2258811/1868578
このなかで、車を減速すようにとの検問指示に従わず英兵の発砲を受けて息子を失った父親は「子供達を自爆テロに出す。」「自分はタリバンとなって復讐する」と語っています。
市民のひとりは「彼ら来たときは90%以上が支持したが、今は90%以上が彼らの展開を望んでいない。」と憤っています。

5月14日にはドイツ国防大臣が、米軍主導の軍事作戦で一般市民の犠牲者が増加していることについてNATOを批判しています。【5月15日 AFP】

6月23日にはカルザイ大統領が3日間の戦闘で民間人52人が死亡したことに触れ、「以前から言っているように、戦闘で民間人が犠牲になることは受け入れられない。これ以上の犠牲は容認できない」と記者団に語り、NATO・米軍を批判しました。
民間人犠牲の原因としてカルザイ大統領は、「武力の濫用、必要以上の激しい攻撃、アフガン政府との連携欠如」を挙げています。
カルザイ大統領は、反政府勢力を掃討する上でアフガン国民は国際社会の協力に感謝していると話す一方で、「国民の生命は、安価なものとして扱われるべきではない」と指摘。
多くのアフガン国民が抱く「外国部隊は横柄で、文化的に無神経」との感情を代弁したと報じられています。【6月24日 AFP】

NATO側は「タリバンが市民を盾に利用している。」と反論しています。
しかし、自国へのテロ攻撃を防ぐためにアフガニスタンにやってきて、自国兵士の被害が最小になるよう空中や遠距離から爆撃・砲撃し、結果、アフガニスタンの市民が犠牲になる・・・というのは現地住民には承服しがたいものでしょう。
民心を失った外国からの軍隊は単なる侵略軍に堕ちてしまいます。

多国籍軍が今手を引けば、カルザイ政権はかつての南ベトナムやカンボジアのロン・ノル政権のように、さほど時をおかずタリバン勢力に飲み込まれてしまうのでは、また北部武装勢力との間の内戦に戻るのでは・・・とも思われます。

タリバンの原理主義的価値観は個人的には受け入れがたいものがありますが、さりとて、それを理由に外から武力で介入するのも・・・と悩ましく、思いは堂々巡りします。

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ソマリア 国民和解会議、しかし増え続ける難民

2007-08-13 13:37:26 | 国際情勢

(写真はソマリア国内難民キャンプのひとつ、Hartishek。18年以上この地で暮す難民もいますが、政府から難民認定を受けられず、援助サービスの対象外にされていると言われます。“flicr”より By rachelenium)

最近見聞きしたソマリア関連、特にソマリア難民の話題。

エチオピアに隣接する“アフリカの角”と呼ばれるソマリアは、氏族間・イスラム原理主義勢力などの内戦によって、“無政府状態”が16年間続いています。
この間、アメリカの介入・撤退、イスラム原理主義勢力の支配、エチオピアの介入などがあって、最近“国民和解会議”開催を実現しようとしているが・・・というところまでは7月19日のこのブログでも取り上げたところです。



イスラム原理主義勢力以外の各氏族・武装勢力を集めた国民和解会議に対し、イスラム原理主義勢力残党の妨害工作が激しく、開催地の首都モガディシオでは砲撃によって市場へ買い物に出ることすらままならない状態にあります。
このような状態を逃れて国内の比較的治安のよい難民キャンプ的な場所へ避難する住民が最近急増していると伝えられています。
6~7月で首都から21000人ほどが避難したとBBCは伝えています。

しかし、そのような難民が向かう町のひとつガルカイオでは、難民の急増に対し支援物資が不足し、十分な支援活動ができない、今後更に増加することも考えられる難民をどうすればいいのか・・・という問題を引き起こしています。

更に、この町には長年の内戦という暴力、洪水・干ばつという自然災害を避けて数年来この地で暮らす“定住者”がいますが、新たな難民の流入で彼らの生活も一段と苦しくなる、このような定住者への支援が殆どない・・・といった新たな難民と定住者の共存の問題も出てきているそうです。
【8月9日 AFP】 http://www.afpbb.com/article/war-unrest/2265404/2011774

ソマリア難民に関するニュースもう1件を思いがけないところで見ました。
米ミネソタ州ミネアポリスでミシシッピ川にかかる橋が崩落した事故(8月1日)で、地元当局は10日、事故で行方不明となっていたミネアポリス郊外に住むソマリア人女性、サディヤ・サハルさん(23)と長女、ハナちゃん(1歳半)の死亡を確認したと発表しました。

ミネソタ州には90年ごろからソマリア人が多数移り住み、現在は6万人と全米最大のソマリア人コミュニティーを形成しているそうで、サディヤさんも00年に16歳で家族と渡米したとのこと。
イスラム教の影響もあり女性は家庭にとどまることが多く、地域活動に参加するのは珍しいのですが、サディヤさんはボランティアとして地元の子供たちに英語や算数、水泳を教えていたそうです。【8月11日 毎日】

国民和解会議のほうは、何回か延期された後、15日に開催されたときもイスラム原理主義勢力残党の砲撃を受け、会議は19日に再度延期されました。
このとき会場から500mほどのところに着弾したのですが、演説していた暫定政府のユスフ大統領は演説を続行し、「武装勢力がたとえ原子爆弾を落としてもわれわれは動じない。武力による支配はもう通用しない」と述べたことは前回も触れたところです。

延期された19日にもまた砲撃があり、BBCによると、少なくとも5人の子供がこの攻撃で犠牲になったそうです。
会議はまた中断されましたが、その後なんとか再開されたようで、ソマリアのヌル駐ケニア大使は8日、ナイロビで、「ソマリア国民和解会議は、全国範囲で武装解除を行なうことで合意した」と発表しました。
ヌル大使はまた、アフリカ連合(AU)や国際社会に対して、アフリカ連合のソマリア駐留平和維持部隊が必要とする資金や後方支援、技術支援などを提供するよう呼びかけました。

しかし、この会議にはイスラム原理主義勢力が参加していませんので、実効はどうでしょうか?
イスラム勢力も参加を要請されているのですが、「エチオピアが撤退しない限り参加しない」と主張しています。
そのエチオピアはアフリカ連合(AU)の平和維持活動が軌道に乗れば撤退するとしています。
AUの活動は・・・というと、予定では8000人のAUソマリア平和維持軍は,現在1600人のウガンダ軍のみで構成されています。
ブルンジが2000名の派遣を予定していますが延期されており、理由は「兵士の準備は出来てはいるが,アメリカやフランスが供給を約束したという,通信輸送機器が未着のため」とのこと。
ナイジェリア,ガーナも貢献を約束していますが,その展開は未だ行われていません。

ブルンジは内戦と経済制裁によって、アフリカの中でも経済開発が遅れている国のひとつ。
また資源にも乏しいこともあって、世界銀行によればブルンジの1人あたりGNI(名目)は100ドル(2005年)で世界最下位です。
そのブルンジに派遣を要請すること自体が無理では。ブルンジは国内でやることがもっとあるのではないでしょうか。
ヌル大使も言うように国際協力が必要でしょう。

最近になって国際社会の援助も出てきています。
6月にはアメリカが和解会議のための125万ドルを含む400万ドルの援助を表明しています。
また、7月には旧宗主国イタリアも40万ドルの拠出を表明しました。
このような国際協力でAUの平和維持活動が軌道に乗れば、エチオピアが撤退し、イスラム勢力も話し合いの場に出てきて、内戦が終結して難民も戻って来れる・・・というのは大甘でしょうか。
でも、先ずはその線で努力してみることでしょう。
ODA大国日本も、洋上ガソリンスタンドの資金を少しまわして、貢献してみてはいかがでしょうか?

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グルジア 対立を煽る1発の不発ミサイル

2007-08-12 13:22:20 | 国際情勢

(写真は南オセチア自治州との境界を警備するグルジア兵士 “flickr”より By
randblid)

世間ではアフガンの韓国女性人質2名解放のニュースもありますが、今日はちょっと縁遠い国の話。
場所はグルジア。
正直なところ私のグルジアに関する知識は「多分、旧ソ連から独立した国じゃないかな・・・、でも、なんかときどき聞くことがあるな・・・ああ、相撲の力士、黒海の出身国だ。」
まあ、その程度でした。



そんなグルジアの名前をここ数日目にします。
今月6日、1発のミサイルがグルジア領土に着弾しました。
首都トビリシの郊外50キロにあるツィテルバニ村に着弾したミサイルは全長4.8メートル。
不発だったため死傷者はありませんでした。
グルジア政府は「ロシアの戦闘機が領空侵犯して投下したものだ。」と、以前から緊張関係にあったロシアを激しく非難しています。

ロシアは一貫してこれを否定しており、ロシア参謀総長は「グルジアのロシアに対する非難は挑発だ」とも発言しています。

着弾した地域はロシア国境沿いにあり、グルジアからの分離独立を主張する南オセチア自治州周辺の紛争地帯の端に位置しています。
同地域の支配権は親ロシア派の反政府勢力が握っており、ロシア軍主導の平和維持軍と共同監視に当たる軍事監視団、さらに欧州安保協力機構(OSCE)の軍事監視団が派遣されている地域だそうです。

更に、11日には「ロシア政府は10日、グルジアがコドリ川に病死したブタの死骸を投棄したとしてこれを非難、「生物テロ」に等しいとする声明を発表した。」(AFP)というニュースもありました。
グルジアのミサイル非難に対するロシア側の反発のようです。

今のところミサイル事件の真相はまだ藪の中です。
傍目には少し滑稽なやり取りにも思えますが、特にグルジア側の反応は厳しいものがあります。
その理由はグルジアの政治・社会情勢にあるようです。

北海道より少し小さいぐらいのグルジアは黒海に面し、カフカス山脈でロシアに接しています。
スターリンの出身地でもあります。
国内にはグルジア人以外に、オセチア人、アブハジア人が居住しており、それぞれグルジア中央政府からの分離独立を主張(国際的には未承認)して、独自の支配地域(南オセチア自治州(自称“南オセチア共和国”)、アブハジア自治共和国)を形成、ロシアを後ろ盾にしてグルジア中央政府と対峙しています。
これまでに“民族浄化”や難民の悲劇も起きています。

更に、ロシアのチェチェン共和国とも国境を接している関係で、チェチェンゲリラが事実上支配している地域もあるようです。
以前はアジャリア自治共和国という分離独立勢力もありましたが、これは2004年にグルジア中央政府が押さえ込みました。

さして大きくもない国内に、このようなロシアと親しい分離独立勢力を多く抱えている状況にあるため、1発のミサイルが激しい対立・非難応酬を引き起こしているようです。

激しい非難の応酬は、国民の視線を意識して更にエスカレート、後には引けないチキンレースとなって、ついには武力衝突に・・というのはお決まりのコースです。
今後OSCE等の調査が進むと思いますが、不発弾で残骸はあるもののグルジアも旧ソ連でロシアと同じ兵器を使用しているようで、特定には問題もあるかも。
いずれにしても冷静な対応が求められることは言うまでもないことです。


(写真はグルジアと南オセチア自治州の境界となる山脈 “flickr”より By Henning(i))

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