孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン テロ組織指定、空爆、核開発

2007-09-12 15:34:24 | 国際情勢

(集会でアフマディネジャド大統領の肖像を掲げる少女 “flickr”より By nfallahi )

「女性ドライバーだけの250km自動車ラリーがイランで開催された」というニュース【9月6日 AFP】がありました。
なお、家族に限り男性の交代ドライバーが助手席に着くことも許されているそうです。

一方、同日に「シラーズで、21人を公開絞首刑に処した。イランでは「社会の治安改善」を目的とした取り締まりにより、処刑者数が増加している。」【9月6日 AFP】なんてニュースもありましたが。

イランについては8月6日の当ブログでも服装取締りの話題などもとりあげましたが、このような宗教的に堅いイメージもありますが、それだけでもないようなところもあって、外からはイメージがつかみきれない国のひとつです。

先月15日、アメリカがイランの革命防衛隊についてテロ組織指定を行う方針を固めた旨の報道がなされています。
イラクのシーア派武装組織、レバノンのヒズボラ、アフガニスタンのタリバンなどの近隣国への武器・人材・訓練等の供与によるテロ支援がアメリカの怒りをかっているようです。
ネオコン的なチェイニー副大統領の近辺からは“イラン空爆”の強硬論が主張されているとかで、バランンスを重視するライス国務長官が“テロ組織指定”でなんとか収めようとしているとか・・・。【8月15日 朝日】

イラクで泥沼にはまり、アフガンでもうまく進展しない現状で、本当にイラン空爆なんてあるのかな・・・とも思いますが、ブラフなのか何なのか一般人にはよくわかりません。
フランスのサルコジ大統領は27日の外交方針演説で、「イランが核問題の外交解決を図らない場合、同国は空爆される恐れがある」と語っています。【8月29日 AFP】
イランのアフマディネジャド大統領は「経験不足からくる認識不足」と皮肉っているそうです。

主権国家の軍隊がテロ組織に指定されるのは初めて。
もっとも、イランには革命防衛隊とは別組織の共和国軍(本来の正規軍)が存在していますが。

イラクについては、シーア派民兵組織マフディ軍のメンバーが、イランの革命防衛隊から軍事訓練を受けていたことを明らかにした旨が報じられています。「イッティラート」と呼ばれるイランの対外諜報機関を通じ、武器や資金も流れているとか。【8月23日 毎日】

アフガニスタンについて言えば、先月14日アフマディネジャド大統領は初めてアフガニスタン・カブールを訪問し、カルザイ大統領と会談。
米英の“タリバン支援”批判に対し、「まったくの事実無根。わが国は全力を挙げて、アフガニスタンの政治プロセスを支援している」と否定しました。
カルザイ大統領も、「米英両政府の主張を裏付ける証拠は何もない」との認識を示したそうです。
カルザイ大統領はブッシュ大統領との会談前に「わが国が抱える問題にとってイランは支援者であり、テロや麻薬との戦いにおいてイランと協力関係にある」と語り、周囲を驚かせたとか。【8月15日 AFP】

確かに、かつてのタリバン政権時代はイランとタリバンは険悪な関係だったそうですが、“敵の敵は味方”というのがこれまた世の常ですから、お互い欧米と対立するなかで最近はどうでしょうか?

アメリカの革命防衛隊のテロ組織指定はこの後の国連でのイランへの追加制裁論議の進展を見て行うとされていますが、9月1日、イランは革命防衛隊の司令官を、対米強硬派と目されていたサファビ氏から、比較的現実的といわれているジャファリ氏へ交代しました。
アメリカの動きをにらんでの反応とも思えます。

また、革命防衛隊出身のアフマディネジャド大統領の就任以降、隊内で強硬派の影響力が急伸していることに、勢力均衡を重視するハメネイ師が懸念を強め、強硬派のサファビ氏を退けた、との見方もあるそうです。【9月2日 読売】

なお、ジャファリ新司令官は11日、イラン政府がイラクとアフガニスタンに展開する米軍の「弱点」をつかんでおり、「敵が攻撃を仕掛けてくるならば、イランは的確に痛烈な反撃を加えることになる」と警告したそうです。【9月12日 AFP】
「弱点」とは何でしょうか?

表舞台では対米強硬路線のアフマディネジャド大統領の言動が目立ちますが、後ろ盾の最高指導者ハメネイ師やイラン保守派は必ずしも大統領支持で固まっている訳でないことは、8月6日の当ブログでも触れたところです。
核問題で挑発的な反米路線をとる大統領に対し、ハメネイ師は「核問題を大統領が“個人化”している」として不快感を表しているとも言われます。

そんなイランの政局の動きとして、最高指導者の任免権を持つ専門家会議の新議長に、元大統領で保守穏健派、かつアフマディネジャド大統領の最大の政敵であるラフサンジャニ最高評議会議長が選出されました。
「現最高指導者ハメネイ師の後継選びで仕切り役になる可能性もある。イラン政界は、保守強硬派アフマディネジャド現政権に対して穏健派が巻き返す流れにあり、ラフサンジャニ師の発言力が今後増しそうだ。」【9月4日 朝日】


(サッカーに興じるアフマディネジャド大統領 “flickr”より By nfallahi )

テロ支援と並んで懸案の核開発問題については、国際原子力機関(IAEA)の9月定例理事会が10日、ウィーンの本部で始まりました。
核兵器開発疑惑が指摘されるイランは先月、IAEAとの間で、情報開示の日程を示す「行動計画」を策定しました。
しかし、国連が要求するウラン濃縮活動停止に言及せず、重要問題についての解決期限も明示していないことから、イランに対して厳しい声が相次ぐことが予想されています。
 
IAEAのエルバラダイ事務局長は「(行動計画の実施は制裁回避に向けた)恐らく最後のチャンス」と誠実な履行を求めています。
ただ、イランはそもそもウラン濃縮活動を停止せず、アフマディネジャド大統領も2日の演説で、稼働中の遠心分離器は3000台に到達したと強調するなど、強硬姿勢を改める兆しはないことから、 「(行動計画策定は)時間稼ぎ」(欧米外交筋)との声も強いようです。【9月11日 産経】

国連の制裁論議、アメリカのテロ組織指定など、きわどいせめぎ合いがイランとアメリカの間でしばらく続きそうです。
様々な様相を見せるイラン、最後にニュースが1件。
「中国が昨年、日本を抜いて初めてイランの最大の貿易相手国になったことが4日、06年の通関統計などで分かった。核開発問題で国連制裁下にあるイランへの新規投資に日本企業が二の足を踏む中、中国はイランとの経済関係をさらに緊密化させていることが浮き彫りに。」【9月4日 共同】
イランの最大の貿易相手国は日本だったのですね。

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パキスタン 政局、三つ巴で緊迫

2007-09-11 15:46:15 | 国際情勢

(シャリフ元首相の支持者の集会 彼や彼の政党とライオンの関係は知りませんが、ライオンに手は出さないほうがいいと思います。写真中央部の顔写真がシャリフ氏です。)
“flickr”より By PPBINOJ)

“職を賭す”発言で日本の政局の緊張も一段と高まりましたが、日本以上に緊迫した状況が続いているのがパキスタンの政局。

今年の11月15日に任期切れを迎えるムシャラフ大統領には憲法上の問題が二点あります。
ひとつは陸軍参謀長を兼務したまま大統領を続けることは違法ではないかとの観点、もうひとつは総選挙を行っていない議会での大統領再任が憲法で禁止されていることです。
もし、議会の総選挙を行うと大統領支持の与党の議席減は避けられず、大統領再選は絶望的だそうです。

この課題を抱えるムシャラフ大統領の苦境を鮮明したのは、陸軍参謀長兼務に批判的とされる最高裁長官チョードリー氏の問題です。
3月、大統領は最高裁長官の職務を強権的に差し止め、批判を封じ込めようとしましたが、野党が強く反発、死者を出す騒乱を招きました。
更に、7月には最高裁がチョードリー氏の復職を決定。
この流れによって、大統領の威信は低下し、今後“憲法遵守”の方向で対処せざるを得ない状況が作られてきました。

そうなるといささか強引ではありますが、野党の一部と協力して議会の「三分の二」の賛成で憲法の規定を変更するしか合法的には再選の目がありません。
そこで登場するのが、過去2回首相を務め、今は海外亡命生活をしている最大野党パキスタン人民党(PPP)総裁でもあるブット元首相です。


(3期目の首相への復帰を目指すブット元首相 いかにも芯の強そうな雰囲気です。
“”より By agha_khanium )

ブット元首相も帰国・復職には問題があります。
ひとつは追放のもとになっている汚職問題で逮捕状が出されている状況、もうひとつは首相の三選を禁止している憲法の規定です。
ムシャラフ大統領と協力・政権分担協議が成立すれば、逮捕状は大統領の一存でうやむやにできますし、三選禁止の憲法規定も改正して首相復職への道が開けます。

ムシャラフ大統領、ブット元首相の思惑が一致して、両者は7月27日、アラブ首長国連邦の首都アブダビでひそかに会談し、連立政権の可能性について協議したと言われています。

一方、アメリカは、「テロとの戦い」の同盟国であり核保有国のパキスタンで、ムシャラフ大統領の敗退によって米国にとって信頼できない人物が就任することを懸念、ブット元首相との連立政権が最善策だと考えていると言われています。

交渉が続くなかで8月9日には、大統領が非常事態宣言を発令して来年の総選挙を先延ばしして、国内の政治活動を押さえ込もうとするのでは・・・という事態もありましたが、“合法的な選挙によって支持された指導者”を望むアメリカのライス国務長官の説得で思いとどまったとも言われています。

報道で伝えられるところ(主にブット元首相側の発言)では、交渉はブット元首相との連携の方向で進んでいるかのようでしたが、実際は難航しているようです。
更に交渉を複雑にしたのが、もうひとりの海外亡命中の元首相シャリフ氏の動向です。

8月23日、復職したチョードリー長官が担う最高裁判所は23日、99年10月の軍事クーデターで政権を追われて亡命し、ムシャラフ大統領によって帰国禁止処分となっていたシャリフ元首相と家族らの帰国を認める判決を出しました。
シャリフ元首相は野党第3党「イスラム教徒連盟ナワズ・シャリフ派」総裁で、2週間以内に帰国することが報じられました。
シャリフ元首相の党は、最大野党パキスタン人民党を除く他の野党と共闘しており、大きな政治的影響が予想されました。

ブット元首相とムシャラフ大統領の交渉が難航している背景としていくつか推測されています。
ブット元首相はムシャラフ大統領の陸軍参謀長の辞任だけでなく、首相復帰後の権限を担保するため、大統領の議会解散権と首相罷免権の放棄を迫っており、これに大統領が難色を示しているとも言われています。

また、ブット元首相が求める通り陸軍参謀長を辞任して大統領に再選されても、総選挙で与党勢力が敗北し大統領の政治的立場はさらに弱まる可能性が強いことや、軍の後ろ盾を失い失脚どころか暗殺など命の危機すら強まることも考えられます。

更に、シャリフ元首相という別の選択肢が出てきたこと、大統領支持の与党パキスタン・イスラム教徒連盟カイデアザム派(PML-Q)の議員にはシャリフ支持者が多く、もしシャリフ元首相が帰国するとパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)に戻る可能性が高いことも大統領の判断を難しくしているようです。


(“生命を賭した”政権運営を強いられるムシャラフ大統領 軍服姿よりスーツ姿の写真が多いようです。
“flickr”より By Pak Journey )

シャリフ元首相は、国民の間で支持が急速に高まっていること、与党PML-Q議員の“合流”が顕在化していることなどを背景に、大統領が陸軍参謀長を辞するかどうかなどは関係ない、軍事政権を打倒すると、交渉を拒否する姿勢を見せ、ブット前首相の大統領との政権交渉については「国民を失望させた」と語っています。
ブット元首相は、このようなシャリフ元首相の姿勢を“(大統領への)個人的な恨み”に固執していると批判しています。
ただ、実際はシャリフ元首相も、弟など通じてムシャラフ大統領と“首相”ポストを巡って交渉しているとも言われます。

ムシャラフ大統領、ブット元首相、シャリフ元首相が三つ巴、三すくみの状態を続けるなかで、シャリフ元首相が昨日10日、帰国を強行しました。
シャリフ元首相の逮捕など、いろんな事態が想定されて緊迫しましたが、結局シャリフ元首相が再びサウジアラビアへの追放に同意してパキスタンを離れることになりました。

この措置は、逮捕という形の交渉決裂を避け、今後の交渉の余地を大統領、元首相それぞれに残した対応であるとも解説されていますが、最高裁の認めた帰国を大統領が認めなかったことで、最高裁の新たな介入も予想されるそうです。

ブット元首相は以前「帰国日程を14日に発表する」と言っていましたが、今後どうするのでしょうか。
ブット、シャリフ両氏を両てんびんにかけているムシャラフ大統領にとっては、いずれにしてもあまり歓迎すべき目がなく、今後“非常事態宣言”というカードをきって“何でもあり”状態にすることも十分考えられます。
また、今回シャリフ帰国を支持した勢力に野党第2党のイスラム原理主義を掲げる統一行動評議会がありますが、シャリフ元首相が復帰した場合、現在問題になっている辺境地域の過激派支持勢力への対応はどうなるのでしょうか。

パキスタンは今後も目が話せない展開が続きそうです。


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アフガニスタン タリバンへの交渉の呼びかけ

2007-09-10 14:43:34 | 国際情勢


(カブール市街を歩くブルガ姿のアフガン女性 今にも羽ばたきそうな・・・きれいな色とフォルムです。 
“flickr”より By violinsoldier )


1年少し前は、アフガニスタンの状況は比較的落ち着いていると思っていました。
最近はタリバンの復活で、今後の状況はカルザイ政権にとって厳しいのではという見方に変わってきました。
いずれにしても、伝えられる報道からの憶測ですが、一昨日目にしたニュースでちょっと違う思いも。
・ ・・・・・・・・・・
アフガニスタン国防省は8日、同国南部でアフガン軍と米軍が過去2日間にわたって実施した掃討作戦で、旧支配勢力タリバンの戦闘員少なくとも50人を殺害したと発表した。
タリバンがかつて拠点としていたカンダハルはここ数週間、激しい戦闘が続いており、8月中旬以降、約400人のタリバン構成員が死亡している。【9月8日 AFP=時事】
・ ・・・・・・・・・・・

「そうなんだ・・・」と感じたのは、最後の方です。
1ヶ月弱で400人死亡したということは、タリバンにとってもきつい数字じゃないのかな・・・。
タリバンだってどこからか湧いて出てくる訳でもないし。
負傷者を含めて考えると、相当の消耗戦になっているじゃないかな?
そんな印象を持ちました。
(それとも、数字が大きく水増しされているのか・・・)

昨日はカルザイ大統領の交渉に向けた呼びかけが報じられています。
・ ・・・・・・・・・・・・
アフガニスタンのカルザイ大統領は9日、イスラム原理主義勢力タリバンによるテロ攻撃などを終わらせるため、タリバンと交渉する用意があると表明した。既に交渉中との見方は否定した。ラトビアのザトレルス大統領との共同記者会見で語った。
カルザイ大統領はこの中で、「和平は交渉抜きでは達成できない」と述べ、タリバンと交渉するための連絡先などが分かれば接触を試みる意向を示した。また、隣国パキスタンに対し、タリバン指導部との接触方法を探るよう要請したことを明らかにした。大統領やアフガン政府は、最高指導者オマル師を含むタリバン指導部がパキスタンに潜伏しているとみている。
ただ大統領は、交渉相手にオマル師が含まれるのかどうかは明らかにしなかった。大統領は以前にも交渉を呼び掛けたことがあるが、タリバン指導部を交渉相手とはしていなかった。【9月9日 AFP=時事】
・ ・・・・・・・・・・・・・・

もし、タリバンの側に最近の戦闘遂行について大きな負担感があるようなら、このような呼びかけも望みがあるかも。
オマル師とアルカイダから袂を別つグループがあればの話ですが。

もちろん、座して待つだけでは何も起きないでしょう。
パキスタンなどのいろんなチャンネルを通じての働きかけが必要でしょう。
パキスタンのムシャラフ大統領は、元首相の帰国問題で、今それどころじゃない状況みたいですが。

最近、NHKの“風林火山”をよく観ます。
「戦わずして、勝つが最善」とか、「調略で勝ってもすぐにまた寝返る。同じことの繰り返しじゃ。ここは“力攻め”あるのみ!」なんて毎回やっています。
しかし、力攻めの混乱で苦しむのは民・百姓です。
アフガニスタンには“勘助”はいないのか?



(アフガン女性の職業教育の一環でしょう。裁縫・刺繍などの授業を終了すると機械(道具?)が供与されるそうですが、その受け取りに拇印を押す女性です。
アフガンの女性は読み書きができないことが多いので、サインに代えて拇印をおします。
多くの女性の拇印が並んだ長い受け取りリストが、彼女等の境遇を物語っています。

“flickr”より By Reiko (aoumiushi) )

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キリバス・ツバル 温暖化、国土消失そして北極グマ

2007-09-09 11:25:52 | 国際情勢

(絵葉書そのもののキリバスのビーチ。 蛇足ながら、私の住む奄美も、椰子の木をアダンに変えれば似たような写真は撮れます。 
“flickr”より By WorldWideSeb )

シドニーで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議は8日、地球温暖化対策について長期的な行動計画を求める特別声明を採択しました。

「向上心のある目標」として、APEC域内のエネルギー効率を2030年までに少なくとも25%向上させる、二酸化炭素を吸収する森林面積を域内で 2020年までに2000万ヘクタール以上増やす、などといった数値目標が一応盛り込まれています。
ただ、こうした目標は共通ですが、中国の強い主張で、国ごとに独自の計画を策定することを認める原則を確認しています。
二酸化炭素削減割当量の目標を遵守する確固たる約束、ないしは明確な目標が設定されていないことから、特別声明は拘束力のないただの言葉に過ぎないとの批判があります。【9月8日 AFP】

確かに、各国への拘束力はありませんが、京都議定書を離脱した米国や義務を負わない中国を含む国際的な合意で、日本政府は「次期枠組み作りを進展させる大きな原動力になる」としています。 【9月8日 朝日】
物事を一気に達成するのは無理ですので、今回の合意は国際的なコンセンサスづくりへ向けての一歩と評価してよいのでは・・・と個人的には思います。
しかし、こうした状況を待てない国もあります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「我が国は海に沈む」キリバス大統領が全10万人移住計画
地球温暖化に伴う海面上昇により、国土が水没の危機にひんしている太平洋の島国キリバスのアノテ・トン大統領(55)は本紙(読売)と会見し、「我が国は早晩、海に沈むだろう」と明言。
国家水没を前提とした上で、国民の脱出を職業訓練などの形で側面支援するよう、日本など先進各国に要請した。
国際社会の取り組みについても、「温暖化は進んでおり、国際社会が(2013年以降のポスト京都議定書の枠組みなどで)今後、どんな決定をしても、もはや手遅れだ」と明確に悲観論を展開した。
また大統領は、温暖化に伴う海面上昇について「国民の平穏な生活を奪う『環境テロ』」と強く非難。京都議定書に参加しない米国、オーストラリアを名指しで挙げ、「我が国は存亡の危機にひんしているのに、高い経済水準を保とうとしており、極めて利己的だ」と批判した。【9月1日 読売】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

キリバスは南太平洋に散らばる多くの島々からなる国で、国土の大半が海抜3.5m以下。
人口は10万人(多くはミクロネシア人)。
海面上昇と温暖化、更には二酸化炭素との関連については異論もあるようですが、原因はともかく“沈んでしまう”のは大問題です。
大統領の発言は、今世紀末に世界の平均海面水位が最大59センチ上昇するなどとした、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第4次評価報告書に基づくものだそうです。
もちろんそのときは、世界中で同様の事態が進行しますし、日本でも大きな影響があるでしょう。


(写真はツバル 湧きあがる海水による浸水のほか、散乱するゴミも問題
“flickr”より By DER Documentary Educational Resources )

隣国のツバルも事情は同様です。
ツバルは最高海抜が5m、人口約1万人(多くはポリネシア人)の島国です。
すでに、潮の高いときには地中から海水が湧き出し、畑に侵食して作物が被害を受けています。
井戸の水も淡水から塩水へ変化しつつあり、砂浜が削られる、海岸の植物が倒されるなどの海岸侵食も進んでいるそうです。
また、“政府はニュージーランド政府と協議し、集団移住を計画中。しかし、祖国を離れる事に反発する人も少なからずいる。オーストラリア政府は移住を拒否したが、2006年4月現在ではオーストラリア政府は毎年75名ずつの移住を受け入れている。”(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
とのことです。
京都議定書に調印しなかったアメリカやオーストラリアを国際司法裁判所に提訴する動きもあったそうですが、費用的に断念したとのこと。

両国に共通するのは、水没現象だけでなく、その国家的基盤の脆弱さです。
産業らしい産業はなく、国土は農業にも適さず、ツバルは飲み水に適した水も殆どないとか。
国家財政的には、日本、オーストラリア、ニュージーランドなどの外国からの支援に頼っています。

国家基盤の脆弱さという点では、やはり近隣の島国ナウル(人口約13000人)も同様です。
ナウルは、アホウドリの糞からできたリン鉱石採掘で以前は大きな収入を得ていましたが、2000年頃には資源が枯渇。
しかも、長年の乱掘で、島の中央部は使用不可能な状態に荒れ果てているそうです。


(リン鉱石採掘で荒れ果てたナウルの国土
“flickr”より By lotto94024 )

リン鉱石収入が途絶して以来、オーストラリ移住希望のアフガン難民を受け入れることでオーストラリアから資金を引き出す、台湾と断行して中国承認で中国から資金援助を受ける、海外資金流入を狙ってマネーロンダリングの抜け穴になるような政策を行うなど、“奇策”を弄しています。

ナウルの最大の問題は、なまじ今までリン鉱石による大きな収入があったため、国民に“勤労意欲”がないことのようです。
国民生活の仕組みがどうなっているのか知りませんが、失業率は90%にも及び、多くの人が無為にブラブラ暮らすだけとか。
政府も小学校高学年に“働き方”を教えるようになったそうですが・・・“なんだかな・・・”。

石油で莫大な収益があり、税金もなく、福祉も充実、住宅も無償・・・というサウジアラビアの若者も殆ど勤労意欲がなく、毎日砂漠をバギーで走りまわって遊び暮らしているなんてTV番組を観たこともあります。

サウジの話はさておき、キルギス、ツバル、ナウルの話です。
そもそも国家として成り立つ基盤を欠いているのでは・・・、どうして独立国でないといけないのか・・・という疑問も感じます。

しかし、逆に言えば、そんなところだから誰も真剣に関心を持ってくれない、自分達で国を興すしかない・・・と言われればそうかも。
今日9日AFPで“米地質調査所は7日、地球温暖化による海氷の減少で、ホッキョクグマの生息数が50年以内に現在の3分の1になるとの予測を発表した。”というニュースがありました。
恐らく、ホッキョクグマの窮状には世界の多くの人々が関心を示すでしょうが、キリバスやツバルの人々にはどうでしょうか?
人間の思いやりなんてその程度のものでしょう。

それにしても、多分キリバスやツバルの人たちは海辺で風に吹かれて、今日も穏やかに暮らしているんだろうな・・・。



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パレスチナ 強まるガザ地区包囲網

2007-09-08 15:07:47 | 国際情勢

(写真はQawawisというパレスチナ人の村。周辺にできた違法なイスラエル人入植地からの脅しにあって一旦は村を捨て避難しました。その後、国際支援のもとで村に戻りましたが、今でも毎日イスラエル人入植者の“visits”を受けています。
パンを焼く三世代の家族 “flickr”より By frecklebaum )

先日パレスチナ関連で面白いニュースがありました。
ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが、イスラム教の聖典コーランの暗記を条件に服役囚を減刑するなど、独自行政を展開しているとのことです。
・・・・・・・・・・・
この新施策は8月6日に始まった。
刑期の3分の2を過ぎた模範囚を対象に、コーランの1章の暗記で2カ月間、5章なら1年間を残余刑期から免除する。
250人の囚人全員が挑戦中という。
発案者のエフメイド管理官は「刑を終えても彼らには『犯罪者』のレッテルがつきまとう。
しかし、コーランを覚えていれば周りの見る目も変わる」と意義を強調した。【9月4日 毎日】
・・・・・・・・・・・
この記事を気に入った理由は、“コーランを覚えれば人格的に向上する”というステレオタイプな主張ではなく、“犯罪者というレッテル、周囲の見る目”を意識して取組んでいる点です。
犯罪者の更生を妨げているのは本人の努力の問題と同時に、周囲の視線です。
日本でも参考にしていい取組みだと思います。

この記事では併せて、“「ハマス内閣」の活動を取り上げない番組を放送禁止にしたり、ジャーナリストの抗議デモを鎮圧するなどハマスの強硬な側面も現れ、深まるばかりの孤立化も相まって住民は不安を募らせている。”とも伝えています。

また、“ハマスに武力制圧された後、身を隠すようにしていた穏健派ファタハの関係者は自宅に黄色のシンボル旗を掲げ、「非ハマス」を鮮明にし始めた。別の自治区・ヨルダン川西岸を基盤とするファタハ出身のアッバス自治政府議長が、欧米の支援凍結解除などを受け、ハマス以外の公務員に対する給与払いを再開したためだ。”とのこと。
更に、同記事は次のようにも述べています。
・・・・・・・・・・・・
住民によると、孤立化の影響で経済的疲弊が強まっている。
西岸地区が主な出荷先だった食品や飲料水の製造工場が相次いで操業停止しているほか、シャッターを下ろしたままの商店も増えている。
タクシー運転手の男性(38)は「車を流してもガソリンが無駄なだけ。特別な仕事がなければ家で寝ている」と不満をぶちまけた。【9月4日 毎日】
・・・・・・・・・・・・

先月31日にはガザ地区で1万人以上が参加する、ガザ制圧以来最大規模のハマスに対する抗議集会が開催されました。
集会後には複数のデモ行進が発生、ハマス治安部隊が鎮圧にあたり、投石があるとデモ参加者をこん棒で殴ったり足でけったりし、計約20人が負傷したと伝えられています。
また、取材中のフランス人記者ら2人が一時拘束され、2人の欧米人ジャーナリストが負傷しました。
南部ラファでも5000人規模の集会があり、ハマス治安部隊と衝突したようです。【9月1日 AFP】

ハマスは取材メディアのビデオカセットを押収したりしており、このような取材妨害の目的について、「治安を掌握しているところを世界中に見せたいので、混乱した場面を隠したいのだろう」とも言われています。【9月2日 朝日】

最新の世論調査によると、ハマスの地盤のガザでも、ファタハの支持率は37.5%なのに対し、ハマスは28.4%と人気に陰りが見られるそうです。
ただ、今後いよいよ生活が苦しくなると、結局ガザではハマスに頼るしかないとの声もあります。
・ ・・・・・・・・・・・・・
ガザの企業経営者協会のシャワ代表によると、ハマスのガザ制圧後の封鎖で人道援助を除く物資の輸出入が完全に止まり、縫製などの工場の9割以上が閉鎖、6万人以上が失職した。
「余裕ある人はガザを脱出して外国へ行けるけれど、大多数の貧困層はとどまり、ハマスにすがって生きるしかない」。
シャワ代表は、イスラエルの封鎖がこのまま続けば住民は反発を募らせ、ハマスへの支持が復活するとの見通しを示した。【9月2日 朝日】
・ ・・・・・・・・・・・・・・

(写真はphysio(手相?)に興じるガザの若い女性 “flickr”より By julioetchart )

ガザ地区を包囲するイスラエルは、ガザ地区からの連日のロケット弾攻撃に対抗するため、ガザ地区への電力、水道、燃料の供給を停止する検討を始めたそうです。【9月6日 共同】

また、イスラエルとガザ地区武装勢力の間で衝突が起きています。
6日にも、(イスラエル側の主張では)イスラエル軍を急襲し同軍兵士を拉致する計画だったとみられるパレスチナ戦闘員へのイスラエル軍による攻撃があり、パレスチナ人武装勢力の戦闘員6人が死亡しました。
また、ガザ市南部でも同日イスラエル軍の攻撃があり、パレスチナ武装勢力の戦闘員4人が死亡しています。【9月7日 AFP】

なお、7日読売によると、死亡したパレスチナ戦闘員はファタハ系の「アルアクサ殉教者旅団」と、イスラエルへのロケット弾攻撃を続ける「イスラム聖戦」のメンバーとみられているそうです。
一方、ファタハが支配するヨルダン川西岸地区では、パレスチナ武装勢力の一部がアッバスPLO議長の指示に従って、イスラエルとの取引合意のうえで、武装解除を始めているそうです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
イスラエルのオルメルト首相が7月にアッバス議長と会談した際、議長支援策の一環としてこの試みを提案した。
議長の出身母体であるファタハ系の武装集団「アルアクサ殉教者団」のうち西岸地区の約180人が対象で、彼らが武装放棄して攻撃中止を誓約すれば「手配者リスト」から削除し、3カ月間の経過観察後に西岸内の移動の自由を保証する。
引き渡す武器の種類によってパレスチナ自治政府が「補償金」も支払う。
150人以上が既に放棄に応じた。
西岸地区では、ハマスより小規模なイスラム原理主義組織「イスラム聖戦」も「武装解除する用意がある」といい、自治政府は対象者の拡大をイスラエルに求めている。
イスラエルには「穏健派」の武装解除を進める一方で、ハマスら「過激派」の掃討をいっそう強める狙いがある。しかし根強いテロへの警戒感から、さらなる拡大には消極姿勢も示している。
ガザのハマス報道官は西岸でのこうした動きを「(反イスラエルの)抵抗精神を損なう」と反発している。【9月4日 毎日】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今後、この“武装解除”の動きが拡大すれば、パレスチナ情勢に大きな影響をもたらすように思えます。
今回の取組みについて、武装メンバー側は和平交渉を動かすためだと強調し、和平に具体的な進展がなければ「再び行動を起こす」と警告しているそうです。
それはそうとして、やはり「手配者リスト」とからはずれてイスラエルによる暗殺・拘束の恐怖がなくなり、しかも“補償金”ももらえるというのは、武装勢力にとっても魅力的な提示のようです。
これで武装解除が進み、和平が近づくなら結構なことと言えます。

もうひとつ、今後に影響しそうなニュースがありました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アッバス議長は2日、議長と自治評議会(国会)の選挙法を改める議長令を出した。
候補者になる条件として、アッバス氏の率いるファタハがほぼ独占するパレスチナ解放機構(PLO)を「パレスチナ人の唯一正当な代表」と認めることを義務づけている。
評議会選は選挙区制との併用をやめ、比例代表制だけにした。【9月3日 朝日】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ファタハに対立するイスラム過激派ハマス(前回選挙で大勝し、今でも自治評議会の多数派を占める)の排除が狙った措置です。
ハマスは世俗主義的なPLO、その主力のファタハとは出自が異なり、もともとはイスラム原理主義的なエジプトの組織“ムスリム同胞団”のパレスチナ支部としてガザにつくられた組織です。
確かに“パレスチナ自治政府”は、イスラエルと“パレスチナ人の代表者”としてのPLO(アラファト議長)の間で交わされたオスロ合意に基づいて94年設立されています。

PLOは、自治政府ができてからは二重組織のようであまり存在感がありませんでしたが、ここにきて意味を持ってきました。
自治政府には参加しましたが、PLOとは一線を画しているハマスには難しいハードルで、今後相当に揉めそうです。

日本政府が国連を通じてパレスチナ自治区に送った支援用の食糧が5日、ヨルダン川西岸の町ヘブロンに到着したそうです。【9月6日 AFP】

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ネパール 王室の存続、マオイスト、そしてテライの反乱

2007-09-07 13:24:25 | 国際情勢

(写真はネパール南部のチトワン付近の農民 “flickr”より By Ronnie Macdonald)


昨日、ネパール王室関連のニュースが2本ありました。
ひとつは通貨の話。

ネパールの中央銀行は6日、新たに発行された2ルピー硬貨からギャネンドラ国王の名前が削除されたことを明らかにした。同国では王権の排除が進んでおり、これもこうした動きの一環。
新硬貨では同国王の名前の代わりにエベレストが描かれ、裏は畑を耕す農民の姿が刻まれている。
紙幣からも近く国王の肖像が消え、やはりエベレストの図柄に取って代わられる予定。【9月6日 時事】

もうひとつは皇太子の話。

ネパールのギャネンドラ国王の長男、パラス皇太子(35)が6日、心臓発作に襲われ、カトマンズの病院に担ぎ込まれた。一命は取り留めたが、重度の発作と伝えられている。
皇太子は高級クラブ通いや無謀運転によるひき逃げなどの乱行で知られる。王室が存亡の危機にひんする中、国民の評判は国王と並んですこぶる悪い。【9月6日 時事】

国民の信頼が篤かった前国王が2001年に10人余りの王族とともに王宮内での銃乱射で殺害されるショッキングな事件のあと王位についたキャネンドラ現国王は、評判が非常よくありません。
この王族殺害事件の真犯人ではないか・・・とすら噂されるぐらいです。

事件の真相は明らかにされていませんが、事件の1ヶ月前ネパールを旅行していて、同伴者が現地在住の日本人の方から「近く大変なことが起こる・・・」という話を聞きました。
それがこの事件のことだとしたら何者かによる計画的犯行だったということにもなります。

キャネンドラ国王は専制的な親政を行いましたが、農村部を実効支配するネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)の攻勢を受け、また、議会・政府を廃止して絶対君主制を導入するなどで国民の不評は更に高まり、2006年民主化闘争によって権限を剥奪されました。

その後、06年11月、復活した政府はマオイストと無期限停戦と和平を誓う「包括和平協定」に調印、暫定政権が樹立されました。
暫定政権は今年7月に発表された予算案で、ギャネンドラ国王と王室メンバーへの予算を初めてゼロにしました。
財務当局者は「すべての権限をはく奪された国王にもはや任務はない」と語ったそうです。【AFP】
また、首都カトマンズの王宮をはじめ、国内各地にある王室所有の宮殿7か所を国有化したと発表しました。【8月24日 読売】

ネパール王室の存廃は、今年11月に行う制憲議会選挙後に決まりますが、暫定政府を構成する8政党のうち、共和制移行を唱えるマオイスト以外は王室を儀礼的な存在として残したい意向とも言われています。
マオイストは現在議会の4分の1ほどの議席を持ち、政府閣僚も出しています。
なお、マオイストといいつつも、中国とは無関係だそうです。

毛沢東主義を謳っているものの、中国共産党とのつながりはほとんど無く、また思想的には毛沢東思想よりもむしろ南米の共産主義勢力によるアンデス山脈の農民開放運動に影響を受けている。
そのため、ネパールと外交関係のある中華人民共和国は活動開始当初から「マオイスト(毛沢東主義者)とは無関係」「毛沢東の名を汚す利敵行為」として主張し、対立する国王派を援助していた。
中国は、国王が実権を失った直後、当局がマオイスト指導者と接触するなど、マオイストに対して寛大な措置に転換している。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

観光的には、トレッキング中に武器を所持したマオイストに遭遇して、通行税などの名目で金品を要求されることがあります。

【マオイストとの遭遇時の注意事項】
トレッキングルートでマオイストに遭遇し、通行税名目で金品を要求された場合は自分で対処しようとせず、同伴ガイドなどに交渉させてください。交渉後、やむを得ず通行税を支払う場合は、領収書を受領して他の場所でマオイストに遭遇した場合に提示してください(重複徴収の防止)。
また、日本大使館にもその旨お知らせください。(外務省海外安全ホームページ)

数年前の情報では、相場は1人1000ルピー(1600円)ほどで、高額を要求されても値引き交渉に応じてくれることが多いと言われていました。
いずれにしても、領収書まで出してくれますので、世界各地の山賊・強盗などに比べれば安心です。
しかし、国民生活的には「金品の要請を断ると後が怖い・・・」というように、彼らを恐れる声もあります。

そんなネパールの首都カトマンズで、今月2日、ほぼ同時に3件の爆発があり、少なくとも2人が死亡、30人が負傷しました。
3件の爆発があったのは、通勤客で満員のマイクロバスの車内、市の中心のバス停、軍司令部の外でした。【9月3日 AFP】

総選挙を実施すれば議席を減らすことが確実視されているマオイストの犯行かとも疑われましたが、犯行を否定。
その後、南部の低地テライ地方の分離を掲げる「テライ軍団」と「ネパール人民軍」と名乗る2組織が犯行声明を出したことが報じられています。【9月3日 読売】

“テライ地方”とは聞きなれない地名です。
ネパールは東西に長い地形です。
北上すると高度を高めヒマラヤに至りますが、南下するとインドに隣接する平野部が東西に広がり、この地域がテライ地方と呼ばれています。

普通“ネパール”と聞いてイメージするカトマンズ、ポカラなどの都市は北半分の比較的高地にあります。
低地テライ地方で観光的に訪れる場所といえば、サイなどの野生動物が見られるチトワン国立公園ぐらいでしょうか。


(写真はチトワン国立公園のサイ “flickr”より By Lisa de Vreede )

しかし、テライ地方は総人口の48%が居住し、ネパールの工業、農業の中心地だそうです。
この地に暮らす“マドヘシ族(マドヘス族)”は数十年前にテライに住み着いたインド系の人々で、その殆どはネパール市民ですが、市民権を持たない者の数も多く、社会的に差別を受けているとの主張があります。

このマドヘシ民族運動を進めているゴイトが率いるテライ・ジャンタントリック解放戦線(TJLF)は、従来マオイストと協調して活動していましたが、昨年夏からマオイストと袂を分かち、「テライはマドヘス族のもの」と完全主権・独立を主張して、テライ丘陵地に住む入植者「パハディヤ族」の追い出しを開始しました。

マオイストからの分離の背景には、マオイスト内部の権力闘争、マオイスト内部にもマドヘシを見下すような風潮があった(と思われている)こと、マオイストが連邦制導入に関してテライを東西に分割したことはマドヘシの力を弱めようとする策謀だとの主張などがあるそうです。
http://www.janjan.jp/world/0609/0609040638/1.php

今年1月15日可決の暫定憲法を批判して、テライでは12日間に及ぶ大規模な騒乱が起こりました。
コイララ首相は1月31日にテレビ演説に臨み、政府とマオイストの前日の合意を踏まえ今後採択される新憲法で連邦制を導入すること、及び南部テライ地方住民の政治参加を拡大する方針を正式に発表しました。

首相は演説で、各地方の人口に 応じた選挙区の新たな配分を行うとも語り、テライ地方に住むインド系住民マドヘシ族代表の議席拡大が促進されると説明した。
また、騒乱の収束を訴え、内務大臣に対し抗議を続けるマドヘシ・グループとの話し合いを行うよう指示した。【2月1日 読売】

しかし、マドヘシの不満は解消しておらず、今回の爆弾テロがその関連だとすると今後の制憲議会選挙に向けて更に厳しさを増すことも考えられます。

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バングラデシュ 汚職一掃か批判弾圧か

2007-09-06 12:19:34 | 国際情勢

(人々、小船で賑わう首都ダッカの港、ショドル・ガット。オールド・ダッカにあって、運河の国バングラデシュを象徴する場所です。長距離航路のフェリーも多く見られます。外輪船もいるそうですが、旅行中には見ることができませんでした。
“flickr”より By babasteve )

大規模な汚職摘発が進むバングラデシュで、3日、7月からすでに自宅軟禁下にあった旧最大与党バングラデシュ民族主義党(BNP)党首のカレダ・ジア前首相と二男のアラファト・ラーマン容疑者が汚職容疑で逮捕されました。7月には政敵の最大野党アワミ連盟(AL)のハシナ元首相も汚職容疑で逮捕されています。

7月18日の当ブログで取り上げたように、バングラデシュでは1月予定だった総選挙が延期され、軍を後ろ盾とする選挙管理内閣が暫定内閣(首席顧問:ファクルッディン・アーメド)として続いています。
暫定内閣は非常事態宣言下で、「汚職に関わった政治家は立候補させない」という厳しい態度で汚職政治家の摘発を行っており、BNPのジア首相、ALのハシナ元首相という、これまで政界を牛耳ってきた大物女性政治家二名、ということは汚職と腐敗の中心にいた二名をそろって逮捕する荒療治を行いました。

前・元首相二名以外にも主要な政治家150人以上を逮捕していると伝えられています。【8月27日 AFP】
また、暫定内閣は汚職一掃と併せてイスラム過激派の逮捕も断行しています。

これまでバングラデシュの政情は、BNPとALの激しい抗争によって不安定な状態を続けてきました。
いたずらに政争が激化する背景には、権力=利権という図式があるものと思われます。
(日本でも同じです。数年前まで鹿児島のある島の選挙は異常に過熱しましたが、公共事業が基幹産業である島にあっては、選挙の勝ち組だけが仕事をもらえるという背景がありました。)

この構図を一掃しようという暫定内閣の試みを国民はおおむね支持しているとされていますが、非常事態宣言下で政治活動が認められないことへの不満も高まっていると言われます。【9月3日 朝日】

こうした状況で、ダッカ大学で20日に行われたサッカーの試合中、軍兵士が学生を連行したことを発端に大学からの治安部隊撤退を求める学生の抗議デモが起こり、抗議活動は更に全国に飛び火、デモ隊と警官の衝突が暴動化する事態となりました。
政府は22日、首都ダッカなど主要6都市に夜間外出禁止令を出しました。【8月24日、25日 AFP】

事態沈静化のため政府は大学教授、学生リーダーなど数十名を逮捕し、25日には外出禁止令は解除されました。
政府は“人権を尊重する姿勢”も強調したそうです。【8月25日 AFP】

政権の後ろ盾となっている軍の陸軍参謀長は、政府関係者への演説の中で、「腐敗した悪徳政治家らが、共謀して政府のイメージを損なおうとした」と前政権時代の複数の政治家を非難しています。【8月27日 AFP】

事実上の軍事政権とも思われる暫定内閣のもと、汚職一掃の取組みで28万人が拘束されたとも伝えられています。
地元メディアの一部は「政府は次期選挙で2大政党を抑え、骨抜きの議会を作ろうとしている」と指摘しているそうです。【9月4日 産経】

汚職政治家一掃は確かに歓迎すべきことですが、長期化する“暫定”“選挙管理”内閣のもとでの荒療治は、角を矯めて牛を殺すような事態も考えられます。
総選挙は来年末までに行うとされており、12日から公職選挙法改正に向けて、選挙管理委員会が主な15政党党首らから意見聴取を行う予定になっています。
民主的な選挙システムを確立するという本来の趣旨から逸脱することなく、すみやかな総選挙・民政復帰へむけて動くことが望まれます。

周辺各国については、周知のようにミャンマーの軍事政権は国際的批判を浴びていますが、タイも現在軍政下にあります。
民主主義というのはよく言われるように、なかなか手間暇のかかるもので、往々にして腐敗・堕落しやすいものです。
有効に機能するには社会的基盤が必要です。
そのような基盤が脆弱な地域では、どうしても“効率的”な軍事政権に頼りがちです。
ただ、この劇薬への依存は国民の批判を封じ、長期的にはあるべき姿から遠ざかることにもなりかねません。

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イラク アメリカ撤退に向けて

2007-09-05 14:10:13 | 国際情勢

(アメリカがイラク・バビル県に建設・供与した女性のためのコンピュータセンター
“flickr”より By lakerae )

連日いろんな情報が報道されるイラク情勢について、最近の報道を少し整理しました。

①先ずはイラク議会・政府の動き。

8月26日、対立を続けるシーア派、スンニ派、クルド人勢力の指導者らは、対立解消に向けて長時間にわたる協議を行いました。
大統領府によれば、出席者らは、旧支配政党バース党員の公職復帰制限の緩和、地方選挙の実施、治安部隊に対する支援で合意したそうです。
米政府も、このイラク主要各派・民族指導者らによる合意を歓迎しています。
しかし、マリキ政権から離脱したスンニ派有力会派「イラクの調和」は、すべての要求が満たされるまで、同会派はマリキ政権に復帰しないとの姿勢を明らかにしています。【8月28日 AFP】

9月4日、イラク国民議会が約1か月の夏休みを終え、審議を再開しました。
ブッシュ政権による米議会でのイラク情勢報告の期限を15日に控え、マリキ政権は米側が求める旧バース党員の公職復帰や石油収入の公平配分などに関する重要法案の成立を目指しますが、思惑通りにいくかどうかは予断を許さない状況です。
議員の間にも「法案に対する見解の相違は大きい」など悲観的な声が強いそうです。【9月4日 読売】

それにしても、この状態で1ヶ月の夏休み(当初はもっと長期を予定していたとも聞きます)をしっかりとるイラク議会というのは・・・・。

アメリカの政府監査院は4日、イラク情勢に関する報告書を議会に提出し、その中でイラク政府を「機能不全」と厳しい評価を下したそうです。【9月5日 AFP】

②次にイラク武装勢力の動向

シーア派の強硬派指導者サドル師の半年間の活動停止命令を受け(8月30日の当ブログ参照)、民兵組織マフディ軍の兵士はバグダッドのサドルシティから姿を消したそうです。【31日 AFP】

イラク駐留米軍は1日の声明で、この活動停止命令を「勇気付けられる」として歓迎しています。
声明は「サドル師の命令が守られた場合、多国籍軍とイラク治安部隊がアルカイダ系武装勢力掃討に集中することが可能になると期待できる」と指摘。
また、イラク政府も政治・経済問題の解決に焦点を合わせることができるようになるとの見通しを示しています。【9月1日 時事】

また、対立するイスラム教シーア派とスンニ派勢力の代表による秘密会合が31日、フィンランドで開かれました。
同国のアハティサーリ前大統領が代表を務める非政府組織(NGO)が仲介したもの。【9月1日 共同】

こうした融和・和解を模索する動きも出ているようです。
ただ、この31日の秘密会議の結果等に関する続報は見ていません。

③イギリスの動向

英軍は治安維持を担当する南部4県のうちバスラ県を除く3県でイラク側に治安権限移譲を済ませており、2日には約500人の部隊が拠点としていたバスラ中心部の宮殿から撤収し、同市郊外の空港にある英軍基地に移動を始めました。
今回の撤収は近く予想されるバスラ県の権限移譲と、さらなる駐留部隊削減をにらんだ動きとみられています。

ブラウン英首相は4日、「市内から移動したが、今後もイラクに対する責任を果たし続ける」と述べ、英軍早期撤退説を否定しています。【4日 時事】

基本的にはブラウン政権は、前政権の対米追随的な協調路線を修正していくようです。
そんななかで、イラク侵攻当事の英陸軍司令官が侵攻以降の米国のイラク政策を厳しく非難したと英国の新聞が1日報じました。

英紙報道によると、イラク侵攻時英陸軍の司令官だったマイク・ジャクソン将軍は、米軍の侵攻後のイラク政策について「知性の面で破綻している」とした上で、当時のラムズフェルド米国防長官を「現在のイラク情勢に最も責任を負うべき一人」と名指ししたそうです。
さらに、米国の世界的テロへの取り組み方を、国の再建や外交をないがしろにして軍事力に重きを置きすぎており不適切だと指摘しています。【9月2日 AFP】

更に、サンデー・ミラー紙は2日、イラク立て直しの計画に携わったTim Cross元少将も、「致命的な欠陥」があるとして米国の政策を非難したと報じました。
Cross元少将は、イラクが混乱状態に陥る可能性があるとしてラムズフェルド前米国防長官に懸念を表明していたが、警告は「無視」もしくは「却下」されたということです。【9月3日 AFP】

なお、英BBC放送が3日夜公表した世論調査結果によると、イラク駐留英軍部隊がイラク戦争に「敗北しつつある」と考える英国民が3分の2以上に上り、イラク情勢への悲観論が広がっていることが浮き彫りになっています。
このほか、「勝利は不可能」と断じた割合は半数を超える52%。33%が「英軍の存在はイラクの治安を悪化させている」、42%が「できる限り早期に撤退すべきだ」と答えたそうです。【9月4日 時事】

④アメリカは・・・

ブッシュ米大統領とライス国務長官、ゲーツ国防長官の3人が3日、予告なしにイラクを訪問しました。
ブッシュ政権は、イラク駐留米軍を増派した成否について今月中旬に最終報告の議会提出期限を控えており、同時訪問で、イラク政府との緊密な協力姿勢をアピールする狙いがあるとみられています。【9月3日 共同】

ブッシュ大統領は、米軍の増派でイラク治安改善の成果が出ていると位置付けた上で、駐留米軍の縮小も念頭に置いていることを明らかにしました。
議会多数派の民主党がこの秋、イラク駐留米軍の早期撤退実現へ新たな政治攻勢を掛ける見通しの中、大統領は今年前半からの部隊増派戦略が成功しているとの実績を声高に唱え、部分撤退に含みを残す態度に軸足を移しつつあるとのことです。【9月4日 時事】

“増派で成果が出ており、部分撤退も可能になりつつある・・・”というのもいささか苦しい見解です。
なんだかベトナム戦争末期の“名誉ある撤退”を取り繕おうとするアメリカを思い出させます。
たしかに①②のような和解への動きも国内に出ていますが、アメリカの成果というより、やるだけやって“これじゃお互い身がもたない・・・、アメリカもいなくなるし・・・”というところでは。
ベトナムはアメリカ撤退のあと北による統一という結論を出しました。
イラクもアメリカが手をひけば、真剣に自分達の国をどうするか考えざるを得なくなるのでは。

⑤その他の国々は

イランのアフマディネジャド大統領は8月28日の記者会見で、イラク情勢に関連し、「もうすぐ、中東地域に大きな政治的空白ができる。我々はその空白を埋める用意がある」と述べ、米軍が撤退した場合のイラクへの影響力拡大に強い意欲を示したそうです。【8月29日 読売】

まあ、あまり引っ掻き回さないでほしいものです。

フランスは、クシュネル外相が仏閣僚としてイラク戦争後初めてイラクを訪問しました。
この訪問で、フランスのイラク介入姿勢を鮮明にしたと伝えられています。

フランスのシモノー報道官は「イラク派兵の意図はないが、警察か治安部隊を支援する形で何かできないか考えている」と表明。
「(シラク前政権が決めた)米軍その他の外国部隊は08年までに撤退すべきだ」との立場に変わりはないとした上で、「国連の枠組みでイラクの経済分野で貢献できるよう欧州レベルで行動すべきだ」とも述べたそうです。
シラク前仏政権は03年の米国主導のイラク戦争に反対しましたが、今春就任したサルコジ政権は親米路線を強調する形で米国への側面支援を模索しているとのこと。【9月25日 毎日】

フランスはアフガニスタンでも、ミラージュ戦闘機6機を新たにアフガニスタン南部のカンダハルに投入することを明らかにし、親米・積極関与の方向に動き出しています。【8月31日 時事】

国内・国外でアメリカ撤退をにらんだ動きが始まっているようにも見えます。

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ミャンマー 憲法基本原則は採択されたものの

2007-09-04 14:34:40 | 国際情勢

(窓から外を眺めるスーチー いつ頃の写真かはわかりません。“flickr”より By jeffrey_hellman )


新聞等でも伝えられているように、ミャンマーの新憲法制定に向けた国民会議が3日、93年の開始から14年がかりで新憲法の基本原則を採択して終了しました。
現在の軍政から民政へ移管し民主化を実現するロードマップの第一段階完了という訳です。

旧憲法は88年の軍のクーデターで停止されています。
今回の新憲法では、国会は二院制をとるようですが、両院とも議席の4分の1が選挙ではなく国軍司令官指名の「軍人議員」となるとのことです。
国家元首は軍政トップの国家平和発展評議会(SPDC)議長から、新設の大統領へ移るそうです。

14年間もの熟慮を経て作成された今回のものはあくまでも“基本原則”です。
今後は新憲法の草案を作成し、国民投票にかける。
その後、総選挙を実施。
上記のステップが残されていますが、その期限については設定されていません。
いつになったら手が届くものやら・・・。

そんななかで、3日のAFPは「アナリストらは、新憲法が実質的かつ大きな変化をもたらすことはないとみる。新憲法の文言には政府における軍の役割が正式に盛り込まれ、総選挙の実施により、現在軟禁下にあるアウン・サン・スー・チーさんが大統領に選出されることが予測されている。」と報じました。

「スー・チー大統領?いくら形式的“神輿”でも軍がスーチーを担ぐかな?世界的サプライズ人事だね・・・」と腰を抜かしたのですが、同日朝日新聞では「大統領は、両院の民選議員と軍人議員が選んだ計3人の候補から全議員の投票で決まるが、候補者には「軍事の見識」も求められ、軍経験者以外は排除される可能性がある。
タン・シュエSPDC議長が転身を狙っているとの説も根強い。
また、大統領や議員には「外国から影響や利益を受けていない人」との要件も設けられた。
軍政が「欧米諸国などと結託している」と非難する自宅軟禁中の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー氏や、同氏が率いる国民民主連盟(NLD)は事実上、排除される懸念もある。」とのこと。
まあ、この朝日の報道が常識的でしょうね。

結局民政移管、民主化と言いつつも、中身は軍政を引き継ぎ、軍部の意向で運営される仕組みのように思えます。

一方、8月23日のこのブログでも取り上げたように、先月15日のガソリン価格の大幅引き上げに対し、軍政下では異例の抗議デモが行われました。
これは、「物価高騰への抗議」との体裁をとりながら、軍事政権への不満を表明する狙いがあると伝えられています。

軍政側は指導者を拘束。
19日のヤンゴンでのデモを主導したとして拘束されたミン・コー・ナイン氏は、88年にネ・ウィン軍事政権に反対する学生民主化運動を主導し、現在の軍政によるクーデター後、約16年間収監され、出所したばかりだったそうです。
デモはヤンゴンからピー、イエナンジャン、バゴー、シトウェと、もぐら叩きのように地方へ拡大、その動向が注目されていました。

国際世論もデモ参加者の拘束に対しいち早く警告を発していました。
米政府は22日、軍事政権を強く非難、拘束者の即時解放を求めましたが、その後も米下院・上院の有力議員が29日ブッシュ政権に対し、ミャンマー軍事政権による民主化活動家の拘束に関して緊急国連安全保障理事会の開催を要求するよう求めています。【8月29日 AFP】

31日には、ブッシュ米大統領のローラ夫人が国連の潘基文事務総長に電話をかけ、軍事政権によるデモ参加者への弾圧を非難するよう求めたそうです。
ローラ夫人は同時に、国連安全保障理事会が軍事政権の更なる暴力・抑圧防止の行動を起こすよう求めたと言われています。
ローラ夫人はかねてよりミャンマーの人権問題に関心があり、昨年は国連総会での討論会を開催したことがあるそうです。
なお、今回のように国連事務総長に電話するというようなことは殆どないそうです。【9月1日 時事】


(このスーチーの写真も時期は不明です。 “fickr”より By jeffrey_hellman )


しかし、ここ数日ミャンマーでのデモ等のニュースは目にしません。
指導者を拘束されたこと、石油関連製品以外の食料品などの価格が比較的落ち着いていることから、運動が広範な国民運動に展開することなく、当局の押さえ込みが功を奏したのでは・・・と感じています。

以前もブログで書いたかと思いますが、ミャンマーを旅行した際にガイド氏は「ミャンマーで生活するのはそんな難しくないです。もし仕事がなければお寺に行けば雑用などもらえて食べていけます。」なんて言っていました。
電気が使える時間より停電時間のほうが長いような電力事情も、慣れてしまえばなんとかなるのでしょう。
身の危険を冒して立ち上がるほどには生活は逼迫していないということでしょうか。

権力にある側も必死でしょう。
万一権力を失えば、単に既得権益を失うというだけでなく、これまでの人権侵害の責任を追及されることになります。
自分たちの保身のために、権力は絶対に手放さないでしょう。

日本や欧米のように、まがりなりにも政治的自由が保障され、選挙を通じた政権交代の仕組みが存在している国とは異なり、ミャンマーのような政治的自由もなく、政権交代の枠組みもない国でどのように民主化を実現していくのか・・・。
結局は多くの国民が飢えに苦しみ、大勢の活動家が銃弾に血を流すような事態にならない限りは変化はないのか・・・。

なお、アメリカとイギリスは軍事政権にアウン・サン・スー・チーを始めとする全ての政治犯の即時釈放を求める非難決議を提出し、今年1月12日国際連合安全保障理事会で採決しました。
しかし、中国とロシアが拒否権を発動し、否決されています(賛成は米、英、フランスなど9か国。反対は中、露、南アフリカ共和国の3か国。棄権はインドネシア、カタール、コンゴ共和国の3カ国)。
【フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』】

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セルビア・コソボ 難航する“独立”協議

2007-09-03 14:40:27 | 国際情勢

(写真はセルビア人の“Tara”ばあちゃん。 彼女の家はアルバニア系のテロリストに焼かれました。 ご主人はアルバニア系過激派に殺されました。 今は一人息子の小さな家に身を寄せ彼の家族と暮していますが、彼らに迷惑をかけることを悲しみ、疎まれているのではないかと感じています。 もちろん、同じような悲しみはアルバニア系の人々にもあります。 “flickr”より By Aleksandra Radonić)


99年から国連暫定統治下にあるセルビア・コソボ自治州(アルバニア系88%、セルビア人7%)の最終地位については、アハティサーリ国連事務総長特使が今年3月、自治州の実質的独立を認める仲介案を安保理に提出。
米欧は同案に沿う安保理決議案採択を目指しましたが、コソボ独立に反対するセルビアを支持するロシアの反対で断念。
潘基文国連事務総長は、米・ロ・EUに再交渉の仲介を要請、仲介結果を12月10日までに報告するよう求めています。

これを受け、先月30日、セルビア、コソボ自治州両政府と調停役の米、ロシア、欧州連合(EU)の代表による協議がウィーンで行われました。
協議は進展せず、コソボ側の一方的独立宣言など交渉を危うくするような行為や発言をしないことを確認し、次回は9月半ばに開く予定になっています。【8月31日 読売・朝日】

現在、コソボ自治州へのセルビア政府の主権は及んでおらず、そういった現状と圧倒的大多数のアルバニア系住民の意向を考えると、現実的には“独立”の方向しかないようにも思えますがセルビア・ロシアの反対理由は次のような点だそうです。

・主権国家の領土保全は国際法上の重大原則であり、当事国の同意によらずして、国連安全保障理事会の決議はこの原則に反することはできないはず。決議による領土変更を認めることは重大な先例となり、世界各地の独立運動を刺激する。
・解決策はセルビア、コソボ双方の合意が前提。解決策の押し付けに反対。
・セルビア系住民の人権保護が不十分。
・セルビア系難民の帰還、コソボへのセルビア治安部隊再配置を定めた国連安全保障理事会決議第1244号は完全に履行されておらず、そのような状況で新決議について議論できない。
・仲介案はセルビアの立場を反映していない。セルビアはコソボに「自治以上、独立未満」を与える用意がある  
【フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』】

一方、コソボ自治州政府と国連は、任期満了に伴うコソボ州議会選挙を11月17日に実施することを正式に決定しました。
独立を望むコソボ自治州内のアルバニア系住民(全体の約90%)は独立が進展しないことにいらだちを強めており、今回の総選挙は事実上、独立の是非を問う住民投票的な性格を帯びるそうです。
【9月2日 産経】

コソボ紛争のここに至るまでの経緯を簡単にまとめると次のようになります。
セルビアが自治権を剥奪したコソボでのアルバニア系住民の抵抗。
それを抑えようとするセルビア側の攻勢。
大量の難民の発生。米・英・独・仏・露による仲介。
セルビアの仲介案拒否、そしてNATO軍による空爆(1999年3月)。
戦争の混乱の中でのセルビアによる本格的“民族浄化”、90万人のアルバニア系住民の難民発生。
セルビアの和平案受諾

セルビアの和平案受諾によって訪れたのは決して平和ではなく、勝ち組アルバニア系住民による新たな“民族浄化”でした。
大セルビア主義に代わって登場したのは大アルバニア主義とも言うべき新たな民族主義運動でした。
難民として離れていたアルバニア系住民が帰ってくる中で、アルバニア系の武装勢力によってセルビア系住民の拉致、殺戮、追放が横行する状態になります。
紛争中にセルビア人側が行った行為への報復が始まります。
空爆終了後2年ほどの間にコソボで拉致されて行方不明になったと国際赤十字に提出されているセルビア人は1300名にもおよびます。
恐らくその大部分はもはや生存していないと思われます。

このアルバニア系住民による新たな“民族浄化”については、“終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ”(木村元彦著)がとりあげています。
少なくともこの本のかかれた段階では、アルバニア系武装勢力のセルビア系住民への暴行を国連の統治機構は事実上黙認している現状があったようです。

2003年8月13日、コソボのセルビア人地域のダキッチ・ミリサル村。
川で遊んでいたセルビア人の子供達84人に2名の兵士が発砲、2人が死亡。
犯行はアルバニア人武装勢力KLA(空爆直後は“解放軍”として国際社会から賞賛された。アルカイダとも繋がる組織であるが、セルビア空爆直前からアメリカCIAも訓練に協力)によるものであることは周知の事実であったが、アルバニア人の村に逃げ込んだ犯人の捜査をUNMIK(国連コソボ暫定統治機構)は断念。
KLAへの取り締まりはアンタッチャブルになっているとか。

2004年3月17日、コソボのセルビア人地域スミリャネ村。
村を包囲していた周囲のアルバニア人3000人が村に入り込んで発砲を開始。
国連統治の軍事部門であるKFOR(コソボ治安維持部隊)は何もしない。当時フランス軍指揮下のモロッコ軍が駐留していたが、全く動こうとしなかった。
セルビア人の家930棟が燃やされ、4500人のセルビア人難民が発生。
18、19日には全土に飛び火、19人のセルビア人が殺害され、600人が負傷。
この襲撃の発端は前日3人のアルバニア人少年がセルビア人に犬をけしかけられて川に飛び込んで溺死したとされる事件。この事件の真相は不明。

紛争国への国際機関の介入の仕方は難しいものがあります。
許されている権限の問題からどうしても及び腰になってしまいがちのようです。
ただ、生命の危機にさらされている住民にすれば、国際機関からも救ってもらえない現状は受け入れがたいものでしょう。


(写真は2000年1月、拘留中のアルバニア人釈放を求める群衆整理にあたるKFORのアメリカ部隊。KFORは国連安保理決議1244に基づき、NATO指揮でコソボにおいて治安維持を行う国際安全保障部隊。“flickr”より By pingnews.com )


空爆後のコソボで暮らすセルビア人の被害者には「自分達はアルバニア人の隣人達と一緒にうまく暮らしてきた。何も彼らに恥ずべきことはしていない。これからだってここで暮らせるはずだ。」と考えその地に残り、ある日突然拉致・殺害される、家を焼き討ちにあうという事例が多くあります。

空爆前まで政治的・社会的に優位な立場にあったセルビア人が「自分達はうまくやっている」と感じていても、劣後する立場におかれた人の捉えかたはまた別のもがあったのかもしれません。
マジョリティの側が意識せずにマイノリティに加え続ける差別というものがあるのかもしれません。

それにしても“普通の人々”を殺人鬼に変えてしまう狂気、「民族が違う」というだけの理由で殺しあう狂気。
人はみな自分と他人を区別したがる、自分を他人をよく思いたがる、災いを他人のせいにしたがるものでしょうが、“民族”という考えはそのような人間の心の闇に熱病のようにひろがり、アヘンのようにとりこにしてしまう魔力を持っているようです。
相手の民族にも自分達同様に文化があり、歴史があり、家族がいて、大切な人がいる。
そういったわずかな想像力が決定的に欠如しています。

最近のコソボでの実情はよくわかりませんが、数日前TVで独立を主張するアルバニア系の若者の活動を見ました。
「セルビアと話し合ってはいけない!だまされるだけだ!とにかく独立するんだ!独立すれば経済状態も回復する・・・」

投石におびえながら、ひびの入った窓ガラスのバスで移動するセルビア人。
「手りゅう弾を投げられることだってあります。」

状況はあまり改善しているようには見えません。
独立した場合のセルビア人への迫害が懸念されます。
最初にも述べたように、方向としては独立しかないように思えますが、マイノリティとなったセルビア人住民の生命・財産・権利をいかに守れるか、実効ある仕組みをいかにつくれるかが一番の課題だと考えます。

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