孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  ロンドンオリンピックに見る社会事情と“イギリスらしさ”

2012-07-21 22:09:10 | 欧州情勢

(オリンピック期間中、テロ対策の地対空ミサイルが配備されることになった地区の住民の抗議行動 “flickr”より By Tom Wills http://www.flickr.com/photos/tomwills/7473756164/

社会的不満のなかで五輪へのさめた目も
先日、ロンドンオリンピックのチケットがまだ大量に余っている・・・との話題をTVニュースで取り上げていました。

****サッカー入場券、45万枚売れ残り=ロンドン五輪*****
ロンドン五輪組織委員会は17日、同五輪サッカー男女の入場券が45万枚売れ残っていることを明らかにした。そのうち約半分は緊急用に確保していた分で、今後販売用に回す。

サッカーは試合数、スタジアムの収容人数が多く、対戦カードが決まっていない試合もあるため購入者の出足が鈍い。組織委のコー会長は「サッカーの入場券販売は(どの五輪でも)常に課題。われわれの販売状況は悪くない」と話した。

また、サッカー以外の入場券も緊急用の分や各国オリンピック委員会からの返却分などを含む30万枚があり、組織委の広報担当者によると、人気の高い開閉会式の入場券も残っている。【7月17日 時事】 
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サッカーについては、上記記事にあるように“スタジアムの収容人数が多く、対戦カードが決まっていない”というチケット販売が基本的に難しい面があるほかに、女子サッカーについては“サッカーは男子のスポーツ”という認識が開催国イギリスを含めて根強いこと、男子サッカーについても、ヨーロッパではクラブ中心のサッカー文化が根付いており、ナショナルチームという一時的選抜チームに対する関心があまり高くない・・・といった事情があるようです。【5月25日 日経より】

また、全体的に、日本などではオリンピックといった“国家レベルのお祭り”には国民・マスメディア一丸となってヒートアップするような社会的雰囲気がありますが、イギリス・ロンドンの場合、かなりさめた目で見ているような感も窺えます。

イギリスも財政悪化から厳しい緊縮策を強いられており、国民保健サービスは改悪され、若年貧困層対策予算はカットされる・・・といったなかで、政府から多額の救済資金を受ける金融機関では巨額のボーナスが支給されるといった社会の現状への不満が存在しています。

昨年8月、ロンドン、その他の都市で燃え上がった“「主張なき」若者たちによる暴動”も、こうした社会への不満・閉塞感が根底にあるとも指摘されています。

そうした市民生活に犠牲を強いる緊縮財政にあって、当初34億ポンドとされていたオリンピック予算は、07年には93億ポンドに修正されており、道路の閉鎖、テロ対策警備などで市民生活へのしわ寄せも発生しています。
一部国民の間でオリンピックに対する関心が高まらないのもやむを得ないとも思えます。

地対空ミサイルと監視カメラ
昨今の大規模行事ではテロ対策が問題となりますが、05年7月7日に地下鉄・バスで起きたロンドン同時爆破テロを経験しているロンドンでは、地対空ミサイルを住宅屋上に設置しての警備が取られています。
自宅にミサイルを配置された市民の方は、「テロの標的になるリスクが高まる」ということで訴訟を起こしていましたが、裁判所はこの申し立てを却下しています。
****五輪テロ対策で民家にミサイル配備*****
オリンピック期間中、民家の屋根に地対空ミサイルを配備しても問題なし──ロンドンの裁判所がゴーサインを出した。

ロンドン東部レイトンストーン地区に建つ17階建てのフレッド・ウィッグ・タワーに暮らす住民たちの訴えは10日に棄却された。英国防省からテロ対策の一環として屋上にミサイルを配備するとの通告を受けた住民は、中止を求めて訴訟を起こしていた。

住民が恐れるのは、ミサイルが設置されることでこのビルがテロリストの標的になること。だが国防省は、ミサイル設置は「合法であり適切だ」と主張していた。
ロンドン市内ではオリンピック会場の防衛目的で、このビルを含めて6カ所にミサイルが配備される予定だ。短距離防空ミサイル「レイピア」などが設置されるという。

「国家の最高レベルで」決定された
「平時のイギリスでは前例がないほどの軍事基地やミサイル施設が配備される。だがら裁判を起こすことになった」と、住民側の弁護士マーク・ウィラーズは公判で述べた。「ビルの屋上にミサイルを設置すれば、テロの標的になるリスクが高まると思うのは当然だ」

欧州人権条約では、自宅での私生活を尊重される権利が定められている。国防相はこうした条項に違反しているとウィラーズは訴えた。対する国防省側の弁護士デービッド・フォースディックは、ミサイルの設置場所は「厳密な調査の結果、国家の最高レベルで」決定されたものだと主張。首相と副首相、内相、国防相の承認を得た決定事項だと述べた。

裁判所は、住民にはこの決定に異議を申し立てる権利はないとの判決を下した。「この問題について、国防省による地域や住民とのやりとりには何の問題点も認められないと判断した」と裁判官は語った。さらに、国防省には住民に事前に説明する義務はなく、説明しなかったことが「明らかな不公正」には当たらないと付け加えた。【7月11日 Newsweek】
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東京は2020年開催に立候補していますが、同様の光景が見られるのでしょうか?
石原都知事なら喜んでそうするでしょうが。
まあ、近年の北朝鮮ミサイルへの対応で、都心や沖縄へのパトリオット配備などが大きな抵抗なく進んでいますので、東京都心に配備された地対空ミサイルというのも大した問題にはならないのかも。

地対空ミサイル以外にも、監視カメラによる警備も万全の体制のようです。
もともとロンドンの監視カメラの多さは有名で、イギリスは最も防犯カメラ の整備が進んでいる国と言われています。

****カメラ2万台で監視…五輪警備の「特別司令室****
ロンドン警視庁は19日、ロンドン五輪期間中のテロ防止や警備活動で頭脳の役割を担う「特別指令室」を報道陣に公開した。

ロンドン中心部ランベスのビル内に置かれ、最大約300人の警察官らがロンドン市内各所に設置した2万台以上の街頭監視カメラ(CCTV)からの映像を約300台のモニターに映し出し、警戒にあたる。同警視庁は五輪期間中、街頭には1日あたり9500~1万2500人の警察官を配置する。【7月20日 読売】
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五輪だろうが何だろうが、主張すべきは主張
しかし、警戒すべき対象はテロだけでなく、社会的不満を強める国民の中からも発生しそうです。
労働組合の力が未だ強いイギリス社会では、日本では過去のものとなったストライキも行われますが、オリンピックを人質にとったようなストも計画されています。
このあたりは、日本だったら激しい社会的バッシングを浴び、到底ありえないことで、非常に“イギリスらしい”とも言えます。

****五輪開幕前日、英入国管理局職員が24時間スト****
英国の入国管理局職員組合は19日、ロンドン五輪開幕前日の26日に24時間ストライキを実施することを決めた。
ロンドンの空の玄関ヒースロー空港などで入国手続きが混乱するのは必至だ。

内務省は他省庁の職員などを入管業務にあたらせるなどして混乱を最小限に食い止める方針。26日は多数の観戦客の到着が予想されているだけに、メイ内務相は「許し難い」と労組側の動きを批判した。
ストは、人員削減の見直しや賃上げを求めたもの。同組合はさらに27日~8月20日までは残業を拒否することなども決めた。

また、英中部の鉄道運転士ら約400人も、年金の改善を求めて、五輪期間中の8月6日から3日間のストの実施を決めた。五輪のサッカーの試合は、ロンドン以外でも行われるため、実際に行われれば、混乱が拡大する可能性がある。【7月20日 読売】
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また、警備体制についても、綻びが報じられています。
警備員不足が発覚した警備会社のCEOがマネジメント料の5700万ポンド(約70億円)をきちんと請求する考えというのも、国家・国民あげて祝うべき行事に水差す行為など許されない日本では多分あり得ない話です。

****五輪まで1週間、ロンドン困惑 警備員不足、軍が代行 入管、スト計画****
27日の開幕まで1週間となったロンドン五輪で大幅な警備員不足が発覚、英政府は急遽(きゅうきょ)、アフガニスタン帰還兵を含む3500人の兵士を投入することを決めた。英入国管理局職員らも賃上げを求めてストライキ突入をちらつかせており、次々と噴出する問題に当局は対応に追われている。

世界最大の英民間警備会社「G4S」は、総額2億8400万ポンド(約350億円)で五輪警備を請け負い、1万400人の警備員を確保する計画だった。
だが、採用や訓練の混乱で、これまでに配置できたのは4200人。しかも問題に気づいたのは、開幕が約3週間後に迫った7月3日で、英当局への報告は11日というずさんさだった。

同社のニック・バックルズ最高経営責任者(51)は17日、英下院の公聴会で謝罪し、開幕までに7千人を配置すると約束した。しかし達成が疑問視されることから英軍は3500人を配置、不足する場合は2千人追加する用意を表明した。

バックルズ氏がマネジメント料の5700万ポンド(約70億円)をきちんと請求する考えを表明したことも世論の反感を買っている。同氏は一定の安全は確保されていると開き直っている。(後略)【7月20日 産経】
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社会・国家の思惑とは別に、個人として主張すべきは主張するというイギリス・欧米社会の有り様は、ときに一体性を強要されるような雰囲気もある日本とはかなり異なります。
もちろん、それぞれに善し悪しがあり、イギリス的な自己主張の強さに辟易するところも多々あるでしょう。
大方の日本人にとって日本社会が馴染みやすい・暮らしやすいのは言うまでもないことです。
ただ、自分たちの社会が世界的にみて必ずしもスタンダードではないことをしばし立ち止まって眺めるのは、社会が過度に流れて“悪しき”面が大きくなることを抑制するうえで有意義なことかと思います。
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アメリカ  後を絶たない銃乱射事件 病んだ心と銃規制

2012-07-20 23:28:29 | アメリカ

(左は、20日未明、銃乱射事件のあったアメリカ西部コロラド州デンバー近郊オーロラにある映画館 右は事件当時、先行上映会が行われていた「バットマン」シリーズ最新作「ダークナイト ライジング」 “flickr”より By lfdeale http://www.flickr.com/photos/lfdeale/7608701164/

憎しみの連鎖の中でさらに動きを活発化
およそ1年前の2011年7月22日、ノルウェーの首都オスロ都心の政府庁舎前で自動車爆弾が爆発し、8人が死亡。その約1時間半後、オスロ近郊のウトヤ島で、労働党青年部のキャンプに参加していた若者らが襲われ、逃げ惑う69人が次々に射殺されるという衝撃的な事件がありました。

犯人のブレイビク被告は、イスラム教や移民を嫌悪しており、移民受け入れ政策をとる労働党に対するテロとして犯行に及んだとみられています。

****乱射に屈せず、萎縮せず ノルウェー連続テロから1年****
77人が犠牲になったノルウェーの連続テロ事件から22日で1年。乱射現場の島は、さびれた無人島と化していた。生き残った人々はつらい記憶に苦しみながらも、「開かれた社会」を守ろうと訴えている。

■被告への「共感」に深い衝撃
・・・・「運が良かっただけだ」。トーレ・ベッケダルさん(24)は、カフェのトイレにいて難を逃れた。銃声は1時間半近く続いた。血の海に横たわる仲間の姿が脳裏に焼きついている。
(中略)「テロは大変だったな。でも、移民政策は考え直した方がいい」。昨年9月の統一地方選で、労働党の選挙運動を手伝っていた時に、何人かの有権者からそんな言葉を浴びせられた。

アンネシュ・ブレイビク被告(33)は「欧州をイスラムの支配から救うため」として、積極的に移民受け入れを進めた労働党の若者たちを標的とした。その主張に共感するかのような声の存在に、ベッケダルさんはショックを受けた。
裁判も試練だった。被告が「テロは正当防衛」「また同じことをする」との発言を繰り返したからだ。
(中略)
■若者、増える政治参加
組織に属さず、単独で犯行に及んだブレイビク被告の「一匹おおかみ」型のテロは、欧米の治安当局を震え上がらせた。不穏な動きはその後も絶えない。

フランスでは今年3月、「イスラム戦士」を自称する男がユダヤ系学校などで連続銃撃事件を起こした。同月末には、被告が共鳴した英国などの極右集団がデンマークで「サミット」を開き、反イスラムを訴えた。イスラム過激派と極右の双方が、憎しみの連鎖の中でさらに動きを活発化させていく構図だ。

被告のように、インターネット上で過激化する若者も少なくない。近く開幕するロンドン五輪でも、「一匹おおかみ」型のテロは最大の警戒対象とされている。
ノルウェーでは、政府がテロ訓練キャンプへの参加を非合法化する新法を準備中で、来年の制定をめざす。公共施設の警備強化も行う方針だ。ファーレモ法相は「開かれた社会と治安の両立が大切だ」という。

一方で、前向きな変化もあった、との受け止めもある。若者の間に政治参加の意識が高まり、労働党青年部のメンバーは4割ほど増えた。全政党に共通の現象だという。
ウトヤ島の事件で生き残ったスティアン・ルーケンさん(21)は、昨秋の統一地方選でオスロ郊外の町ラーレンスクーグの議員になった。「テロを機に監視社会ができたら、ブレイビクの思うつぼだ。そうさせないのが、生き残った僕らの役割だ」と話す。【7月20日 朝日】
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「テロを機に監視社会ができたら、ブレイビクの思うつぼだ。そうさせないのが、生き残った僕らの役割だ」・・・思慮深い見識です。

チケットを入手できなかった不満?】
銃乱射事件という面で見ると、今月16日、カナダ・トロントでも発生しています。
こちらはテロ云々ではなく、“けんか”によるもののようです。

****銃乱射で2人死亡、19人負傷=カナダ****
カナダからの報道によると、最大都市トロントで16日夜、屋外パーティーの会場で銃の乱射事件が起き、2人が死亡、幼い子供を含め、少なくとも19人が負傷した。死亡したのは20代の男性と10代の女性。パーティーには200人以上が参加していたとみられている。

混雑した現場でけんかが起きた後、銃が乱射されたという。負傷者には銃撃後の混乱でけがをした人も含まれている。複数が発砲した可能性もあり、警察は少なくとも1人の身柄を確保した。地元警察は「(市の歴史で)銃による暴力としては最悪の事件だ」と指摘した。
トロントで今年起きた銃撃事件は140件に上り、昨年から3割以上増加している。【7月17日 時事】
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“トロントで今年起きた銃撃事件は140件に上る”ということですから、治安の良い日本的な基準で言えば、かなり物騒な街です。
カナダでは法律的に国民がハンドガンやライフルを所持することは可能ですが、犯罪防止のために銃規制の法律が制定されています。ただ、“実際には陸続きになっているアメリカから密輸入された拳銃が犯罪に使われることが多い”【ウィキペディア】とも。

そのアメリカから、ついさきほど、映画館での銃乱射事件が報じられています。

****映画館で乱射、14人死亡=50人負傷、インド系の男拘束―米コロラド州****
米西部コロラド州デンバー近郊オーロラにある大規模商業施設の映画館で20日未明(日本時間20日夜)、人気映画「バットマン」シリーズ最新作「ダークナイト ライジング」の先行上映会の来場者に向けて男が銃を乱射、これまでに14人が死亡、約50人が負傷し病院で手当てを受けた。

地元警察によると、目撃証言から男はインド系とみられ、ガスマスクで顔を覆い、映画館入り口の階段に並んでいた人々の列に近づきながら、催涙ガスを放ち無差別に発砲。現場で巡回中の警察官が男を拘束した。死傷者には子供が含まれているという。

警察が動機などを調べているが、チケットを入手できなかった不満から犯行に及んだとの情報がある。
「ダークナイト ライジング」は記録的な興行収入を上げたバットマンシリーズ3部作の完結編で、日本では今月28日に公開予定。【7月20日 時事】
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“チケットを入手できなかった不満から犯行に及んだ”との情報もあるようですが、いずれにしても鬱積した不満に心を病み、歪んだ狂気に支配されている点では、思想的な「一匹おおかみ」型のテロと根っこは同じのように思えます。

映画「タクシードライバー」(1976年)で、ロバート・デ・ニーロが演じるベトナム帰りの元海兵隊員の主人公も同類でしょうか。
鏡に自分を映し、「俺に用か? 俺に向かって話しているんだろう? どうなんだ?」と話しながら銃を抜く姿が印象的でした。

3歳男児が父を誤って射殺
病んだ心による銃乱射事件を助長しているのが、簡単に銃が入手できる銃社会のあり方です。
先日も痛ましい事故が起きています。

****3歳男児が父を誤って射殺 米、自宅で****
米インディアナ州で13日夜、3歳の男の子が父親(33)を射殺する事件が起きた。AP通信などによると、男性が改修工事をしていた家でテレビを見ていたところ、息子が実弾が入っていた拳銃を見つけ、誤って発射したとみられる。拳銃は男性のもので、他にけが人はなかったという。【7月15日 朝日】
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合衆国憲法修正第2条という1789年当時の民兵に関する規定の有効性は法律論の問題であり、要は“自分の身は自分で守る権利がある”という信念であり、そのためには銃の使用も含まれ、相手をねじふせることも厭わないということでしょう。
社会全体・国家のレベルでの安全保障の考え方にも共通するものがあります。
“かつての”日本社会とはかなり異質な発想です。今の日本はどうでしょうか・・・、かなり近づいたのかもしれません。
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スペイン  政府補助金大幅削減で石炭産業は消滅の危機

2012-07-19 22:16:32 | 欧州情勢

(スペイン・レオン 政府の補助金削減に抗議して路上で座り込みを行う炭鉱労働者 “flickr”より By Raúl G. Villalón http://www.flickr.com/photos/raulvillalon/7185083287/

全面救済の事態に陥ることを避ける
欧州信用不安のなかにあって、ギリシャの次は・・・と見られているスペインですが、7月9日のユーロ圏諸国(17カ国)財務相会合は、スペインの財政再建達成年を2014年に1年延期することを承認しました。
厳しすぎる財政再建を求めて、スペイン経済が失速し、EUが全面救済に乗り出さざるを得ないような状況を防止するものです。

****スペイン:財政再建達成を14年に延期 ユーロ圏承認****
欧州連合(EU)でユーロを採用するユーロ圏諸国(17カ国)は9日の財務相会合で、スペインの財政再建達成年を、2014年に1年延期することを承認した。

過度の歳出削減や増税など厳しい財政再建目標の実施を求めた場合、ユーロ圏4位の経済力を誇るスペイン経済が不振を極めるのは確実。最大1000億ユーロ(約10兆円)の金融機関資本増強支援だけでなく、財政を含めた包括的な支援に陥る事態を予防し、スペイン経済を下支えする。

スペインは不動産・建設バブルの崩壊により、金融機関の不良債権額が拡大、ユーロ圏は9日の財務相会合では、第1弾の金融機関支援として300億ユーロ(約3兆円)を今月中に払い込むことも決めた。

スペインでは実体経済の不振も続く。11年第4四半期以後、スペイン経済は2四半期連続でマイナス成長。政府予測では、12年の実質成長率は前年比マイナス1.7%、13年もマイナスと見るエコノミストが多い。失業率も24%と高く、過度の財政再建策の実施は、5%を超すマイナス成長に陥ったギリシャのように、景気の底割れや社会不安の拡大を招く懸念がある。

10日の欧州金融市場でスペイン国債は、支援決定などを受けて上昇(利回りは下落)した。ただ、指標となる10年物国債の利回りは6.8%台と、継続して資金調達が難しくなる「危険水域」とされる7%に近い。

このまま資金調達が難しくなり、スペインを全面救済する事態になれば、数千億ユーロ規模の支援が必要となる。欧州安定メカニズム(ESM)など、EUの安全網が底を突く。そうした事態を避けたい意向がEU内には強く、これが今回の財政再建目標の延期承認の背景だ。

スペインは国内総生産(GDP)比の財政赤字を、12年は5.8%、13年は3%とする計画だったが、3%達成年を14年に延期する。【7月10日 毎日】
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【「気分が良い対策ではないものの、必要なことだ」】
こうした支援に応える形で、スペイン・ラホイ政権は財政健全化に向けた追加対策を発表しています。
公約を撤回しての消費税増税は、日本と同様です。
追加対策には消費税増税のほか、新たな住宅購入者向けの減税廃止、公務員給与の削減、国有事業体の大幅削減、地方議員の30%削減、失業手当引き下げ、港湾や空港の民営化なども盛り込まれています。

****スペイン、消費増税へ=財政健全化で追加対策****
スペインのラホイ首相は11日の同国議会で、財政健全化に向けた追加対策を発表した。付加価値税(消費税に相当)の税率を現行の18%から21%に引き上げるほか、歳出を大幅にカットするなどし、2014年末までに650億ユーロ(約6兆3300億円)の財政赤字削減を目指す。

昨年12月に就任したラホイ首相が率いる右派・国民党は、同年11月の総選挙で付加価値税率を引き上げない方針を明言していた。このため、野党から「公約違反」との批判が高まるのは必至だが、首相は「気分が良い対策ではないものの、必要なことだ」と理解を求めた。

追加対策では、食料品などに適用されている付加価値税の低減税率も現行の8%から10%に引き上げるが、パンなど特定品目の税率4%は据え置く。また、国有事業体などの数を大幅に減らし、地方議員も30%削減する。【7月11日 時事】
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若者の失業率が50%を超えるような状況で、緊縮財政の打撃はスペイン人の生活の隅々に及びつつありますが、国民の不満を和らげるため、スペイン王室も年収の自主削減を発表しています。

****スペイン国王、年収を自主削減…国民の目厳しく****
スペイン王室は17日、政府の追加緊縮策で公務員給与が7%削減されたのを受け、フアン・カルロス国王が年収の7・1%を自主的に削減すると発表した。

国王の年収は、国からの「給与」相当分と公務に必要な経費などを含めて約30万ユーロ(約2910万円)で、このうち約2万ユーロが減額される。フェリペ皇太子らへの支給も同じ割合で削減される。王室関連予算は年間約800万ユーロで、国王らへの支給削減により約10万ユーロが節約できるという。

債務危機が深刻化するスペインでは、国民の王室に対する目も厳しくなり、国王は昨年、自身の年収を初めて公表した。【7月18日 読売】
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石炭産業が今、消滅の危機
しかし、大幅な補助金削減で“瀬戸際”に追い込まれている炭鉱労働者の抗議が続いています。
スペイン北部では14人の炭鉱労働者が5月末から、地下900メートルの暗闇で「地下スト」を行っています。

****スペイン緊縮財政でゲリラ化する炭鉱デモ隊****
スペインで1万人以上の労働者が従事する石炭産業が今、消滅の危機にある。
ラホイ首相が率いる国民党政権は4月、石炭産業への補助金を大幅に削減すると発表した。スペインの銀行救済に合意したEUが求める緊縮策の一環で、削減率は63%。炭鉱産業の削減率はほかのどの産業よりも大規模だ。

もともと採算の取れないスペインの石炭産業は1世紀以上、補助金で成り立ってきた。エネルギーの約80%を国外に依存するスペインでは、唯一の資源である石炭が伝統的に戦略的産業と位置付けられてきた。

公的支援なしではスペインの石炭産業の存続は難しい。石炭産業は5月からゼネストに突入。炭鉱業が盛んな北西部などでは、森に隠れた炭鉱労働者たちが「ゲリラ化」し、ゴルフボールや爆竹を投げ付け治安部隊を攻撃する方法で抗議を続けている。

そして先週、抗議活動は首都マドリードにも拡大。全国から集まった数千人の炭鉱労働者に、緊縮に反対する市民が加わり、デモは数万人に膨れ上がった。
補助金の大幅削減は石炭産業への死刑宣告。労働者たちは一歩も引くっもりがないようだ。【7月25日号 Newsweek日本版】
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“ゴルフボールや爆竹”だけでなく、手製のロケット弾(ロケット花火?)なども使われ話題となっています。

国際競争力がなく、補助金をつぎ込まなければ存続できない産業というのは、やはり無理があります。
日本でも、石油中心のエネルギーへ社会が転換するなかで、戦後日本を支えた多くの炭鉱が消えていきました。
その過程で起きた三井三池炭鉱の労働争議は「総資本対総労働の対決」とも呼ばれる激しいものでしたが、労組側の敗北に終わり、組合運動や争議を支援した社会党などの転換点ともなりました。

日本の場合、炭鉱は“過去の話”ですが、将来の話としては“コメ”“農業”の問題があります。
個人的には“日本の農業を守れ”教信者ではありませんし、バカ高い有機農法作物などにも興味ありません。
食糧安保の話も、エネルギーの殆んどを海外に頼り、輸出・輸入の貿易で生活している日本にあって、コメの自給にこだわるのがどんな意味があるのか・・・という感があります。

【「農産物の平均価格は今後10年間高止まる」】
アメリカでは中部の穀倉地帯が大規模な干ばつに襲われ、農作物の被害規模は25年来で最悪だと言われています。
“米国は世界最大のトウモロコシと大豆の産出地だが、ビルサック長官の記者会見によると既にトウモロコシは78%、大豆は11%が被害を受けている。トウモロコシ価格は6月1日比で38%、大豆価格は24%上昇しており、今後も食糧価格の高騰が懸念されるという。”【7月19日 AFP】

****干上がる世界の穀倉地帯 米で穀物価格が歴史的高騰****
世界の主要な穀倉地帯で深刻な干魃(かんばつ)被害が広がっている。記録的熱波に見舞われた米国では、大豆やトウモロコシなどの穀物価格が歴史的水準まで急騰。日本を含む消費国への打撃が懸念されている。また途上国では農産物への需要が急増しており、政治的混乱を生み出す懸念も出ている。

カラカラに乾ききった大地に、しおれた作物が今にも倒れそうだ。10日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、インディアナ州のトウモロコシ畑の惨状とともに「全米が干上がっている」と伝えた。

米国は大豆やトウモロコシの生産で世界の約4割を占める世界最大の穀物輸出国だが、今年は大凶作で穀物相場も天井知らずだ。大豆の先物価格は10日に最高値を更新し、トウモロコシや小麦も値を上げた。イリノイ大の農業エコノミスト、ダレル・グッド氏は「消費の増大と収穫量への懸念から、相場が跳ね上がっている」と指摘する。

凶作の原因は今年の異常な熱波。7月の最高気温は米本土の東寄り3分の2の地域の約3400カ所で過去最高と同水準かそれを上回り、数十人が死亡した。

干魃に苦しむのは米国だけではない。生産量で米国を上回るロシアとその周辺国、中国やインドでも高温小雨で作柄が悪化。小麦の生産量の多い黒海沿岸の干魃が深刻なほか、世界的な大豆の生産地である中国東北部や南米も深刻な降水不足や凶作に直面している。

穀物価格の高騰は日本など各国で食品や飼料の価格に跳ね返る恐れが強い。国連食糧農業機関(FAO)は11日、「農産物の平均価格は今後10年間高止まる」と予測し、途上国の需要増に対応するため、2050年までに世界全体の農産物を05~07年比で60%増産する必要があると公表した。

凶作と穀物価格高騰は、10~11年の「アラブの春」と呼ばれる中東・北アフリカの民主化運動の一因となった。今年の凶作はさらに深刻で、「世界の指導者は食糧安全保障に一層気を使う」(ロイター通信)ことにもなりそうだ。【7月14日 産経】
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こういう話を聞くと不安にはなりますが、日本など購買力のある国は、高値にはなっても調達することはできるでしょう。問題は購買力のない途上国で、社会不安が引き起こされます。

食糧の話では、生産の問題以外に、大量の食品を“期限切れ”などで廃棄している消費面にも問題があるように思えますが、話がそれますので、また別の機会に。
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アメリカ  ロンドン五輪公式ユニフォームが「メード・イン・チャイナ」

2012-07-18 21:55:13 | アメリカ

(個人主義の国アメリカでも、星条旗を背負った五輪ユニフォームが「メード・イン・チャイナ」というのは、ちょっとまずかったようです。“flickr”より By theseoduke http://www.flickr.com/photos/theseoduke/7561544334/

【「すべてのユニホームを集めて燃やし、一からやり直せ」】
ロンドンオリンピックの開会が今月27日ということで、残り10日を切っています。
国家威信をかけた、あるいは現在の国家の勢いを反映したような北京オリンピックの開会式からもう4年が過ぎたのか・・・と、ちょっと不思議な感じもします。

開幕が近づくにつれて競技内容以外でも話題が出ていますが、一番面白いのは、各紙で取り上げられているアメリカの選手団公式ユニフォームの話でしょう。

****ロンドン五輪 米のユニホーム「ぜ~んぶ中国製」 批判噴出…でも「変更ムリ****
ロンドン五輪に出場する米国代表団が、開会式で着る公式ユニホームが「メード・イン・チャイナ」であることが判明し、物議を醸している。
貿易不均衡をめぐる対中批判がくすぶる中、11月の大統領選を控えて政界からも批判が噴出。米国オリンピック委員会(USOC)は13日、2014年の冬季五輪では米国製にすると発表するなど火消しに躍起となっている。

CNNテレビによると、ユニホームは米国の著名デザイナー、ラルフ・ローレン氏が担当。
ブレザーとベレー帽に男子はズボン、女子はスカートだが、靴に至るまですべて中国製だ。

インターネットの短文投稿サイト「ツイッター」などを中心にユニホームを作り直すべきだとの大合唱が起こり、政界からも「すべてのユニホームを集めて燃やし、一からやり直せ」(民主党のリード上院院内総務)と批判が強まった。

USOCは13日の声明で、すでに一部の選手がロンドン入りしていることなどから、ユニホームの変更は「残念ながらできない」としたが、14年の五輪の開会式と閉会式では、米国産のユニホームにすることにラルフ・ローレン社が合意したと発表した。【7月15日 産経】
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「世界の工場」である中国に依存したアメリカ(日本も同じですが)の実情を反映しており、アメリカ側の苛立ちも分からないではないです。
オリンピック公式ユニフォームということを考えると、ラルフ・ローレン氏など製作サイドもやや無神経なことをしたとの感があります。

ただ、中国依存の経済構造はアメリカの大好きな自由市場経済の帰着でもあり、「メード・イン・チャイナ」に憤慨して「バイ・アメリカン(Buy American)」的な方向に走るのも考えものです。

【「ビルマではなく、ミャンマーで作られたものだ」】
この話、これだけでも十分に面白いのですが、“続き”というか“先立つ話”もあるようです。
今回の件には、共和党・民主党問わず批判が高まっていますが、批判の先頭に立ちそうなロムニー共和党候補が沈黙を守っているそうで、その訳は・・・

****ロムニー、中国製ユニフォーム批判が逆噴射****
アメリカ製造業の雇用が厳しい中、ロンドンオリンピックでアメリカ代表選手が着用するユニフォームが中国製だったことが発覚し、大きな騒動になっている。だが共和党の大統領候補ミット・ロムニーは、不思議なほど沈黙を守っている。

その理由は、どうやらこういうことのようだ。
ロムニーは02年のソルトレイクシティオリンピックの組織委員会会長を務めていたが、このときには今回よりさらに大きな騒動が持ち上がっていた。聖火ランナーたちの着用するユニフォームが、軍事独裁政権下にあったミャンマーで製造されていたことが明らかになったのだ。

冬季オリンピックの聖火ランナーを務めたことがあるアメリカ人のスーザン・ボンフィールドは英ガーディアン紙に、ユニフォームがビルマで作られたものだと知ったときの怒りを語っている。

カンカンになった聖火ランナー
「ユニフォームのラベルを見たときには怒りで気が狂いそうになった。アメリカを象徴するユニフォームの仕事を軍事独裁政権に与えるなんて」と、57歳のボンフィールドは言う。

ソルトレイクシティのオリンピック組織委員会は活動家たちに対し、ユニフォームは「ビルマではなく、ミャンマーで作られたものだ」と語って、さらに怒りを買った。活動家たちにミャンマーとビルマは同じ国だと指摘されるまで、知らなかったのだ。

米ABCテレビのインタビューの中で、ロムニーは中国製ユニフォーム問題について聞かれた。本来なら、ライバルのバラク・オバマ大統領に対する格好の攻撃材料になるはずだが、そうはならなかった。
「私はユニフォーム問題に関わるつもりはない。オリンピックについてはもっと大きな問題がある。会場の安全性や選手たちのための準備だ。私は私たちの国を支え、代表する人々を応援することに集中するつもりだ」【7月18日 Newsweek】
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スー・チーさん拘束を受けて、アメリカ議会で「対ミャンマー経済制裁法」が成立し、ミャンマーの主力輸出品である縫製品のアメリカ輸出が一切できなくなったのが2003年ですから、02年のソルトレイクシティオリンピック当時は“メイドイン ミャンマー”も問題はなかったのでしょう。

オリンピック組織委員会の「ビルマではなく、ミャンマーで作られたものだ」というコメントも笑えます。
ペイリン元副大統領候補がTV番組で、「当然、米国は同盟国である北朝鮮を支持すべきだ」と、韓国と北朝鮮を取り違えた話もありますが、世界の中心に位置していると思っているアメリカの多くの国民にとっては、アジアの国のことなどはそんなものなのでしょう。

海外下請け工場労働者の待遇改善を「支援」するが、コスト上昇についてはノーコメント
なお、単に中国やミャンマーに商品生産を委ねているというだけでなく、そうした国々での違法な低賃金労働や劣悪な労働環境を利用しているという側面もあります。(これも、アメリカだけでなく、日本を含めての話ですが)

アメリカのアップル社が「iPhone」や「iPad」の生産を委託している台湾企業の富士康科技集団(フォックスコン・テクロノジー・グループ)の中国工場で従業員の投身自殺が相次いだことで、その劣悪な労働環境が批判の対象となり、アメリカ本土ではアップル社製品の不買運動も起きました。

今年3月末、アメリカの非営利組織「公正労働協会(FLA)」が中国国内のアップル製造受託会社を監査し、労働条件の是正勧告を出しています。

**** 中国全土に波及か―アップル製造受託会社への労基法違反是正勧告****
米アップルの中国での製造受託会社に対して29日出された労働条件の是正勧告は、労賃上昇と他の労働条件改善要求が高まる同国で、他の製造企業にもさらなるプレッシャーをかけ対応を迫る可能性が出てきた。
この是正勧告は、公正労働協会(FLA)がアップルの製造受託会社である台湾の鴻海精密工業の中国現地工場を調査して出したもの。同工業は中国国内では富士康国際(フォックスコン・インターナショナル)の名で知られる電話機メーカーだ。

アップルも鴻海精密工業もFLAの勧告受け入れに同意しているが、同工業は30日、アップルと協力しながら「FLAの勧告に沿った(労働条件の改善)計 画を実行していきたい」とする声明を出した。また声明は「中国の労働基準法やその関連規則、並びにFLAの労働規範の順守を目指し、アップルがその関連会社全社に対して行なっている働きかけを今後も支援する」としている。

FLA勧告は、同工業2013年7月までに正規の労働時間を週40時間に、残業も中国の法定の月36時間に抑えることや、社員数の増強、給与外諸手当の拡充などが柱となっている。
しかしこうした動きは中国内の他の製造業者、特にハイテク製品製造会社を先頭に広がる可能性がある。

コンピューター大手デルの広報担当者は鴻海精密工業 の、労働者の待遇改善の措置を歓迎すると語ったが、そうした改善でコストがどのくらい上昇するかについてはコメントを避けた。ただ、この担当者はデルが同工業の待遇改善努力を「支援する」としている。また、同じような努力する他の会社にも手を差し延べる考えを示した。(中略)

中国の製造業者全般に、残業時間の制限や給与引き上げなど従来からの労働慣行の見直し機運が広がる一方で、中国政府当局も労働基準に対する姿勢を変え始 めている。
内需主導型の経済へ転換していくのにこれまでの高成長の分け前を労働者により多く配分する必要があることに加え、10年にはホンダなど日本の自 動車メーカーの中国国内工場で労働者の不満が波状的に爆発などしたためだ。同年の民間製造業で働く労働者の平均年収は2万90元(約26万3000円)と なり、09年と比べ16.4%上昇した。

ただ、労働時間に関しては地方政府レベルでは週100時間労働を容認している治体もある。長時間労働で収入を増やしたい労働者もいる。【3月31日 ウォールストリートジャーナル】
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企業の海外生産のあり方だけでなく、中国国内の労働分配率是正による所得向上・内需拡大、労働集約型産業の収益悪化による産業構造の転換などにつながる話ですが、実態の話となると、記事のラストにもあるように労働者側が長時間残業を望んだり、工場も監査用の表の工場と裏の工場を使い分けるとか、外国企業もそうした実態に敢えて触れないとか、現地下請け企業の生産コストが上がっても大手外資企業は受注価格を変えないとか・・・いろんなことがあるようです。
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北朝鮮  軍総参謀長を党全役職から解任 “ミニスカートのガールズユニット”に“ミッキーマウス”

2012-07-17 22:29:06 | 東アジア

(今月6日、北朝鮮の首都・平壌で行われた朝鮮牡丹峰(モランボン)楽団の公演に登場したミニスカートの“ガールズユニット” 若干年齢層は高い感はありますが・・・ 【7月13日 Record China】http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=62922&type=10

世界で最も不透明な政府や社会
北朝鮮は15日に朝鮮労働党政治局会議を開き、金第1書記の最側近の一人とされていた李英鎬(リ・ヨンホ)朝鮮人民軍総参謀長を政治局常務委員など党の全役職から解任。17日には、中朝国境の守備を担当する第8軍団長、玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)大将を次帥に昇進させています。

この突然の人事については、権力中枢での権力闘争、軍事強硬派への牽制、党が軍を抑えられるよう党組織の立て直し、改革・開放政策の抵抗勢力の牽制・・・等々、いろんな解説がなされています。

アメリカ大統領報道官がこうした憶測を「時間の無駄」と評しているように、所詮よくわからない話ではあります。
****正恩氏側近解任、論評避ける=「時間の無駄」と米大統領報道官****
カーニー米大統領報道官は16日、北朝鮮の金正恩第1書記の最側近、李英鎬軍総参謀長が労働党の役職から解任されたことについて「何も言うことはない。世界で最も不透明な政府や社会の人事を読み解くことに多くの時間を費やすことはしない」と述べ、論評を避けた。【7月17日 時事】 
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ごもっともな発言ですが、まあ、そうは言っても・・・というところで、ひとつだけ“解説”をとりあげておきます。
****正恩氏側近の軍総参謀長、失脚か 党の全役職から解任*****
北朝鮮の朝鮮労働党は15日、政治局会議を開き、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の側近とみられていた李英鎬(リ・ヨンホ)軍総参謀長(69)について、政治局常務委員など党の全役職を解任すると決めた。病気を理由にしているが、権力闘争の末の失脚ではないかとの見方も出ている。

朝鮮中央通信が16日に伝えた。
李氏は2009年に軍総参謀長に就き、正恩氏が金正日(キム・ジョンイル)総書記の後継者としてデビューした10年9月の党代表者会などを通じ、党政治局常務委員や政治局員、党中央軍事委員会副委員長に選ばれた。
昨年12月に死去した金総書記の告別式の際は序列4位とされ、正恩氏と並んで霊柩(れいきゅう)車の横に立つなど、正恩体制の核心メンバーと見られてきた。故金日成(キム・イルソン)主席の命日の今月8日には、正恩氏とともに錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を訪れたと報じられたばかりだった。

専門家の間では「急病の可能性も捨てきれない」との意見があるものの、何らかの権力闘争や路線対立があったのではないかとの見方も多い。その背景の一つとして指摘されるのが、党と軍との関係だ。
金総書記の時代は、軍事最優先の「先軍政治」のもとで軍が大きな力を持った。だが、経験の浅い正恩氏に権力を継承するにあたり金総書記は、党が軍を抑えられるよう党組織の立て直しをはかったとされる。

金総書記が死去した後、「党人」だった崔竜海(チェ・リョンヘ)氏を、軍の総政治局長に送り込んだのは、金総書記の妹婿で正恩氏の後見人とされる張成沢(チャン・ソンテク)党行政部長だと見られている。

崔氏は党でキャリアを積んだものの、抗日パルチザンだった故崔賢(チェ・ヒョン)・元人民武力相の息子。「血筋を重んじる北朝鮮では誰もが一目置く存在」(北朝鮮関係筋)とされる。4月以降は力が急速に高まり、公式メディアは崔氏の名を李氏より先に伝えるようになった。
李氏は、軍の総参謀長も解かれるとの見方が圧倒的だ。崔氏に軍を取り仕切らせるため、軍人出身の李氏を外していく動きだという見方だ。

また、疲弊した北朝鮮経済の問題を指摘する専門家もいる。韓国統一省の元幹部は「金正恩体制が生き残るには改革・開放で経済を立て直すしかない。そこに抵抗する軍部への見せしめの可能性もある」とした。
とはいえ不透明な部分は多く、韓国政府関係者は「病気の可能性も含め、慎重に今後の推移をみたい」と話している。(ソウル=貝瀬秋彦)
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【“噂の女性”】
“世界で最も不透明な政府や社会”の好例が、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の「夫人か、妹か」と最近話題になった“謎の女性”あるいは“噂の女性”でしょう。

****噂の女性」正恩氏妻か****
金日成主席の死去から18年にあたる行事や、楽団の公演鑑賞で金正恩第1書記と並んでいる姿が北朝鮮メディアで伝えられ、妹説と夫人説が出ていた「ショートヘアの若い女性」について、韓国では金第1書記の妻との見方が有力となっている。

朝鮮中央通信は15日、金第1書記とともに平壌市内の幼稚園を視察する女性の映像を配信した。女性は黄色に水玉模様のワンピースと白いカーディガン姿でハイヒール履き。視察では他の幹部より前方、正恩氏のやや後方に立っていた。金第1書記と女性との関係は伝えられていない。
韓国の聯合ニュースは女性を20代と推測。正恩氏は2009年か10年に結婚、娘がいるとの情報がある。

女性について韓国対北機関の幹部は「金主席は現地指導などに夫人を同行することが多かった。金第1書記は演説などさまざまな場面で金主席の指導者像をまねていることから、韓国では同伴している女性は夫人との見方が有力となっている」と指摘している。【7月16日 産経】
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【「徐々に国際社会への歩み寄りを見せている点については、国際社会は温かく見守るべき」】
「時間の無駄」とは分かってはいますが、情報が極端に少ないだけに、いろいろと憶測に走ってしまいます。
金正恩第1書記らが観覧した公演に“ミニスカートのガールズユニット”や“ディズニーのキャラクター”が登場した件も、ちょっとした“国際的話題”となっています。

****北朝鮮の楽団にミニスカ姿のガールズユニット登場!韓国各紙は「衝撃」と伝える―中国メディア****
2012年7月6日、北朝鮮の首都・平壌で行われた朝鮮牡丹峰(モランボン)楽団の公演が、これまでに見られなかった演出で、隣国の韓国のみならず国際社会の注目を集めている。中国国営・新華社が12日付で伝えた。

観覧に訪れた金正恩(キム・ジョンウン)労働党第1書記の傍らに出現した謎の女性(妻と推定されている)、欧米文化の象徴であるディズニーのキャラクターが登場するステージ(もちろん米ウォルト・ディズニー社には無許可で使用)など、いくつかの新しい見どころがあった今回の公演。“新生”朝鮮牡丹峰楽団は、金正恩氏の企画によるものだと伝えられる。

中でも人々を驚かせたのは、まるで西側諸国のアイドルのように歌やダンスを披露する“ガールズユニット”の存在だった。レーザービームを浴びながら、20歳代と思しき若い女性たちが身体のラインを強調するミニドレスを身に着け、10センチ以上ものハイヒールを履いて登場。北朝鮮の隣国で美脚を売りにする某アイドルユニットよろしく、美しい脚線美をおしげもなくさらしている。

韓国日報、中央日報、世界日報など韓国各紙が「衝撃」と伝えたこの演出。一部韓国メディアはこれを、北朝鮮の文化改革を予告するものと推測する。これまで敵視されてきた資本主義的な要素がステージに盛り込まれた背景には、金正恩氏の“親しみやすい国家指導者像”を演出する狙いもあると見られる。【7月12日 Record China】
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韓国各紙だけでなく、中国・環球時報も「北朝鮮開放」を思わせるものとして取り上げていますが、仏紙ル・モンドは「国民へのプレゼント的なものに過ぎない」と一蹴しているとか。

****北朝鮮の娯楽シーンにミッキーマウスやミニスカートの女性、「単なる変化であり変革ではない」―中国学者****
2012年7月13日、「ミッキーマウスにミニスカートの女性、欧米映画の主題歌」―これらが北朝鮮の娯楽シーンに登場したことが世界に衝撃を与えている。中国・環球時報の報道。

今月6日、北朝鮮の首都・平壌で行われた朝鮮牡丹峰(モランボン)楽団の公演では前出のような異例の演出がお目見えし、「ついに北朝鮮が開放へ向かうのか」と、海外メディアの好奇の目線を集めている。続いて12日、カンボジアの首都プノンペンで開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム閣僚会議では、北朝鮮は1日で7カ国の首脳と会談を行うなど積極的な外交姿勢を見せており、「北朝鮮開放」をさらに国際社会に印象づけた。

しかし、仏紙ル・モンドは「これは、金正恩朝鮮労働党第一書記による国民へのプレゼント的なものに過ぎない」と一蹴。父(金正日)や祖父(金日成)と同じ手法で、“慈悲深く国民を気づかう国家指導者”を演出しているにすぎないという。

北朝鮮問題に詳しい中国の学者・呂超(リュー・チャオ)氏も、環球時報に対して「現在認められるのは北朝鮮の変化であり、変革ではない。いずれにしろ、徐々に国際社会への歩み寄りを見せている点については、国際社会は温かく見守るべき」としている。【7月13日 Record China】
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こうした「ミッキーマウスにミニスカートの女性、欧米映画の主題歌」と軍総参謀長解任には、共通の背景があるのか・・・と考えたくもなりますが、「時間の無駄」でしょう。

ただ、「一方、李氏解任の報道に先立ち、米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は15日、金正恩体制の始動後、北朝鮮で西側文化を容認しているとも受け取れるさまざまな兆候が出ているとソウル発で報じた。同紙は、北朝鮮でミニスカートやハイヒール姿の女性の写真が公表されたり、公演でミッキーマウスそっくりの着ぐるみが登場したことを挙げ「西側への態度の変化」の可能性を指摘している。こうした最近の“兆候”と李氏解任との関連性も否定はできない。」【7月17日 産経】といった報道もあります。どうでしょうか・・・・。


一旦ブログをアップした後で、こんな記事も目につきました。
****北朝鮮:金正恩第1書記、大胆な経済改革も****
北朝鮮住民の間で金正恩(キムジョンウン)第1書記が、幹部の世代交代人事に手をつけ、大胆な経済改革も進めるとの見方が広がっている。最側近だった李英鎬(リヨンホ)総参謀長が「すべての役職」から突然解任され、玄永哲(ヒョンヨンチョル)大将が16日付で次帥に昇格した。この人事が、金第1書記が出す独自色の第一歩である可能性も小さくない。ただ、北朝鮮の経済改革は失敗の繰り返しで、住民の間には期待と同時に不安も膨れ上がっている。

北京の外交関係者や中朝関係筋によると、北朝鮮は副首相級がトップの経済改革チームを設け、農業分野で市場主導の要素を盛り込んだ改革などの検討を進めているという。7月27日の朝鮮戦争「戦勝記念日」に合わせ改革が実行されるとの見方もあったが、細部の検討が残り、8月下旬か9月上旬にずれ込んだとの見方が現時点では有力。石炭輸出の制限や中国製品を輸入する際の関税引き上げなど一部は実施された。

中朝間を往来する複数の北朝鮮経済関係者らによると、こうした改革は金第1書記の強い意志の反映だ。平壌市民が「変化の兆し」と話題にするエピソードがある。金第1書記は今年はじめと6月の2回、平壌市内の四十数階建てアパートを訪問。同行幹部に「ついて来られるものだけ一緒に来い」と言い渡し、最上階まで階段を上った。高齢の幹部は次々に脱落したという。北朝鮮の経済関係者は「幹部の世代交代を断行する(金第1書記の)意志と、力あるものが優先という一種の競争原理の導入を示唆している」と解説した。平壌市民の間では金第1書記が「社会主義という言葉をほとんど使わない」という話も変化への期待を込めて流布しているという。

一方、経済改革が近く実施されるとの話が広がるにつれ、北朝鮮の現地通貨ウォンの闇レートが急落。6月中旬の1ドル=4500ウォン程度が、7月初旬には6400ウォンになった。09年11月の改革で旧貨幣の使用が禁じられ「紙くず」となったため、同様の事態に備えて住民がウォンを外貨などに交換しているためだという。中朝貿易関係者は「物価も急速に上がっており、短期的な混乱は避けられそうもない」と指摘している。【7月17日 毎日】
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混乱するシリア情勢で、“機を待つ”クルド人勢力と増えるクルド人難民

2012-07-16 21:58:11 | 中東情勢

(クルドの旗にならって、中央に金色の太陽をあしらった赤・白・緑に塗られているエリアがクルド人居住区になります。現在の中東各国の国境線はこのクルド人居住区を無視して分断する形で引かれています。 “flickr”より By Kurdistan Photo كوردستان http://www.flickr.com/photos/kurdistan4all/2914708371/

【「ゆくゆくは必ずこの吉報を発表する予定だ」】
「国を持たない世界最大の民族」と言われるクルド人の人口は2500万~3000万人と推計されています。
居住地は、一番多いのがトルコの1140万人で、その他イラン480~660万人、イラク400~600万人、シリア90~280万人などと見られています。【ウィキペディアより】
また、旧ソ連のアルメニア、アゼルバイジャン両国に約40万人、ヨーロッパ各国にも約100万人のクルド人が住んでいます。

イラクではフセイン政権によって化学兵器による攻撃・弾圧も受けたとされますが、湾岸戦争の後、アメリカの支援でイラク北部に自治政府が設立されています。
また、イラク国家の大統領・外相ポストもクルド人が占めているように、一定の発言権を獲得しています。

しかし、石油利権を巡るイラク中央政府とクルド自治政府の確執は強まっており、産油地でもあるキルクークの帰属問題も未解決のままです。
当然、クルド人は“独立”を悲願としていますが、ただでさえ紛争の火種が山積している中東地域にあって、クルド人国家独立はイラクにとどまらず、クルド人が多数居住する周辺トルコ、イラン、シリアを巻き込んだ中東全体の地殻変動を起こしかねません。

そうした事情もあってアメリカも“独立”は容認しがたいところでしょう。
自治政府側も、まだ“その時ではない”との判断で自制していますが、将来的には大きな問題となっています。

今年3月20日に自治政府のバルザーニ大統領が行った新年(ノールーズ)の挨拶は、独立宣言がなされるのでは・・・とも注目されましたが、大統領は「ゆくゆくは必ずこの吉報を発表する予定だ。但し、その日は然るべき日でなくてはならない」と、延期を表明しています。

ただ、al jazeera netによれば、バルザーニ大統領はイラク中央政府のマリキ首相が権力を独占し、軍隊も、警察も秘密機関も支配しているとして、その独裁体質を厳しく非難、このままでは現在の連立政権の意味はなくなるとして、クルド人はシーア派と連立したがこのような独裁者と連立した訳ではない、としてマリキ首相を厳しく非難した・・・とのことです。【3月21日 「中東の窓」(野口哲也氏)より】

【日本語で読む中東メディア】(http://www.el.tufs.ac.jp/prmeis/html/pc/News20120321_085423.html#top)によれば、バルザーニ大統領のマリキ首相批判発言は以下のとおりです。
「もう我慢の限界だと言う時が来た。イラクは混迷を深めている。混乱に乗じようとする一部の者は、現イラク政権の独裁体制への移行を望んでいる。ゆえに私はイラク全土の政党及び政界関係者に『速やかに結集せよ。この問題を解決せよ』と呼びかけている。もし問題が解決されなければ、我々の民に諮ることになる。民が最終決定権を握ることになる。以後、如何なる者も我々に決定権を行使してはならない」

もし、イラクのクルド自治政府に独立の動きが本格化した場合、直接的な影響を受けるのがトルコでしょう。
トルコには前出のように1000万人を超すクルド人が暮らすだけでなく、トルコ政府がテロ組織として攻撃を加えているクルド人独立を掲げるクルド労働者党(PKK)が存在します。
トルコ政府としては、国内クルド人の分離独立運動に火がつく事態は何としても避けたいところです。

【「自分が金づちならば、急(せ)いてよい。金床(かなとこ)なら耐え忍べ」】
上記のような中東各国に大きな影響を与えるクルド人の情勢について、内戦状態にあるシリア関連の動きが注目されています。

****シリアのクルド人 したたかに、じっと機を待つ****
「アラブの春」によって、中東イスラム世界では「ムスリム同胞団」と「□□□□」が台頭した……。
後世の歴史書にこんな記述があったとすれば、空白の中はどうなるだろうか。内戦状態の続くシリア問題を見ていると、「クルド人」ではないかという気がする。

反体制派の中核組織シリア国民評議会は6月、新たなトップにスウェーデン在住のクルド人歴史学者アブドルバセト・シーダ氏(56)を選んだ。反体制派の主体はスンニ派アラブ人だが、アサド政権を打倒するには、キリスト教徒やクルド人など少数派との連携が欠かせない。内輪もめが続くなか、橋渡し役の議長として、白羽の矢が立った。

「国を持たない中東の民」クルド人は独自の言語を持ち、イラン、イラク、シリア、トルコの山間部などに住む少数民族である。シリアでは北部を中心に人口の約1割、約250万人いる。昨年4月、アサド大統領が急きょ大統領令を出すまで、うち約30万人には市民権(国籍)すら与えられていなかった。

今月初めのパリ。反体制派を支援する欧米主導の「友人会合」の後、シーダ氏にクルド問題の対応を聞くと「評議会とクルド人側との相違はとても小さいものだ。クルド人の権利を認め(言語などを)特別扱いすることは、評議会も認めている」と答えた。

シリアのクルド人は昨年3月に始まった民主化要求にあえて沈黙を保ってきた。政権が存続すれば、「革命」に積極的に参加しなかったことで報賞を得る。打倒されれば、民主化のなかで権利の拡大が期待できる。
クルドのことわざは言う。「自分が金づちならば、急(せ)いてよい。金床(かなとこ)なら耐え忍べ」

彼らが思い描くモデルは自治区をつくり、権利を拡大したイラクのクルドだ。旧フセイン政権は、対イラン戦争末期の1988年、北部ハラブジャで、イランに協力したとして自国住民のクルド人に化学兵器を浴びせた。独裁が倒れた後の宗派・民族バランスの中でクルド人は権利を拡大、イラク国家の大統領、外相ポストまでおさえた。

もちろん、容易なことではない。今やアサド政権打倒の先頭に立つトルコは「アラブの春」の直前まで、シリアと蜜月関係にあった。「クルド独立阻止」という共通利害があったからだ。トルコはイラク、シリア領内などに拠点を置くトルコの反政府武装勢力「クルド労働者党」(PKK)をテロ組織とみる。パリ会合でダウトオール外相は「シリア領土の不可分」も強調した。分離独立につながることを牽制(けんせい)する発言だ。安全保障が激変する「クルド国家」樹立は米国も認めまい。

では、クルドの自治拡大に通じる真の「友人」はだれか。6月末、パリ会合前に開かれたジュネーブでのシリア関係主要国会合では、親アサドのロシア、中国と、政権打倒の米英仏が「移行政府」樹立で妥協した。
取材後、カイロに戻る機中でクルド人のイラク外相ジバリ氏と一緒になった。「イラクも、アサド政権の打倒を目指すのか」と聞くと、答えは「(移行政府の樹立に触れた)最終文書の文言通りだ」だった。主導権は握らないが、勝ち馬には乗るという「金床」の対応だろう。山の民クルドには、こんなことわざもあるそうだ。「山以外に友はなし」 【7月16日 朝日 石合力】
********************

【「同じクルド人として黙って見ていられない」】
政治的には、混乱が続くシリア情勢のなかで“機を待つ”というクルド人勢力ですが、一方で、現実面では、混乱の犠牲となって苦しむクルド人の状況も報じられています。
多くのクルド人が難民としてイラク・クルド自治州内へ移動していますが、イラク中央政府の消極姿勢もあって、対応が追い付かない状況のようです。

****シリア:少数派クルド人、弾圧逃れ命がけでイラクへ越境****
混迷の続くシリアから、少数派のクルド人がイラク北部に難民として大量に流入している。戦闘の激化と弾圧を逃れるための命がけの越境で、シリア国境近くの難民キャンプには14日現在、6172人(今年3月以降)が登録する。イラク北部のクルド地域政府や国連機関が懸命の支援を続けるが、連日新たに100人以上が押し寄せ、救援物資も追いつかない状態だ。

気温46度。キャンプ内を10分も歩くと、あまりの暑さに頭痛が始まる。蒸し風呂のようなテントの中に、クルド人のアッバスさん(29)がいた。疲れた表情をしている。
「男を出せ。お前もつかまえるぞ」。5月上旬の深夜、アッバスさんが首都ダマスカスの自宅にいると、銃を持った治安部隊員が押し入り、突然脅された。反体制デモに参加した親類の男性を捜しにきたという。

義父は半年前にシリア当局に拘束された。義弟の大学生も行方不明だ。「次は自分かもしれない」。危険を感じて友人宅に逃れたが、治安部隊は職場にも訪れ、脅しが続いた。今月初旬の未明には、自宅近くでシリア軍と反体制派との戦闘が激化し、砲弾が自宅に命中した。「もう限界だ」。幸い家族ともども近所に避難していて無事だったが、脱出を決意した。妻と3人の子供、義理の兄弟ら10人で暗闇の中を逃げた。

500キロ以上離れた国境までたどり着き、ブローカーに1人当たり約300ドルのわいろを支払った。越境しようとした別の家族が、脱走兵の男が交じっているとして拘束されたと聞いた。
アッバスさんは自らが「難民」となったことに、皮肉な運命を感じている。ダマスカスで、難民支援を担う国際移住機関(IOM)に勤務していた。03年の米軍侵攻後の混乱で大量のイラク難民がシリアに流れ、現場での支援に奔走した。「自分が逆に難民になってイラクに来るとは」

キャンプには、アサド政権による弾圧への協力を拒否した若者の姿も目立った。北東部カミシリから来た無職、ムハンマドさん(20)は、徴兵の要請を繰り返し拒否。両親を残したまま、国境を越えた。友人の大半も徴兵を逃れ、各地に逃亡した。軍を脱走して拘束された友達もいる。「シリアの国民同士で殺し合うなんてばかげている。ただ、あのまま拒否すれば自分が殺されただろう」。不安そうな表情を浮かべ、写真の撮影は拒んだ。

キャンプ内では連日、テントや簡易住宅の設営が続く。地元クルド人の寄付で簡易クーラーが配布されたが、テント内の温度は35度を超える。4メートル四方弱のテントに10人近く詰め込まれることもあり、暑さと狭さでぐったりした子供もいた。

クルド地域政府の緊急対策室から派遣された現場責任者、ニヤズさん(39)は「難民が増え始めた今年3月中旬以降、援助を続けてきた。同じクルド人として黙って見ていられない」と話す。国連や非政府組織(NGO)の支援で、最低限の水や食糧は確保しているが、医薬品や衛生用品が不足ぎみだ。最近、地域政府との関係が悪化しているイラク政府は難民支援に消極的で、ニヤズさんは「政治と切り離し、人道的な支援を急ぐべきだ」と力を込めた。【7月16日 毎日】
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こうしたクルド人難民救済、イラク中央政府との軋轢は、クルド人としてのアイデンティティーを強める方向で作用します。
バルザーニ大統領の言う“吉報を発表する日”が現実の問題となれば、中東情勢を塗り替える大きな地殻変動が起こります。
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中国  指導部交替に向けて、権力基盤を強める胡錦濤国家主席

2012-07-15 22:47:37 | 中国

(09年10月1日 天安門で中国成立60周年を祝う胡錦濤国家主席と江沢民前国家主席 “flickr”より By elin2010068 http://www.flickr.com/photos/64726991@N07/5910339678/ )

軍事委主席続投に向けて軍幹部人事
中国では今年秋に予定されている第18回共産党大会で指導部が世代交替し、現在の胡錦濤国家主席に代わって習近平国家副主席が党総書記に選出され、翌2013年春の全国人民代表大会(全人代)で国家主席に就任するとされています。

そういう政治的に微妙な時期に起きた(微妙な時期だから起きた・・・と言うべきか)重慶市党委員会書記を解任された薄煕来氏の事件もあって、共産党指導部内の権力闘争に関する話題が頻繁に目に触れます。

基盤づくりに取り組んでいると思われる、新たなトップとなる習近平国家副主席の動向はあまり表面に出ませんが、逆に、バトンを渡す立場の胡錦濤国家主席の勢力が、ライバルである江沢民前国家主席の勢力を抑えて強まる方向の話題が多いようです。

****引退しても軍譲らぬ? 胡主席、腹心ら続々抜擢****
中国人民解放軍の最高指揮官である軍事委員会主席を兼務している胡錦濤国家主席は今月に入り、腹心の王登平中将を南海艦隊トップに抜擢(ばってき)するなど、一連の軍幹部人事を発令した。秋の党大会で共産党総書記を引退する胡主席だが、軍事委主席にとどまる狙いがあるとされ、人事を通じて軍内での影響力を高める思惑がありそうだ。

南海艦隊は海軍の3艦隊の中でも主力部隊として知られ、トップの政治委員は海軍の中で最も影響力の高いポストとされる。2005年から江沢民前国家主席率いる上海閥に近い黄嘉祥中将が務めてきた。今回の人事では、7月に定年を迎える黄中将の後任に、胡主席と同じ安徽省出身の王登平中将が指名された。

このほか、空軍副政治委員に抜擢された房建国中将は蘭州軍区空軍政治委員からの登用。胡主席は若いとき10年以上も甘粛省(省都・蘭州)で勤務した時期がある。
さらに、王増鉢中将を成都軍区副政治委員に充てる人事も発令された。重慶市を管轄する成都軍区の幹部の多くは、失脚した薄煕来・前党委書記と親密な関係にあるとされる。王増鉢中将が送り込まれたのは、胡派による同軍区掌握が目的である可能性もある。

今月は、天津市の武装警察総隊と海南省軍区の政治委員など、計10以上の重要ポストの人事異動も発令された。胡主席が党幹部養成学校である中央党学校校長だった時期(1993~2002年)に、同校で研修を受けた将軍が多く含まれていることが特徴だ。

一方、元高級幹部子弟で構成される「太子党」のメンバーはほとんどいない。太子党出身の習近平国家副主席の軍内での影響力を抑えたい思惑がうかがえる。

胡主席は今秋、党総書記を習副主席に譲ることが決まっているが軍事委主席から身を引くかは未定だ。政府では副首相止まりだったトウ小平氏も軍事委主席の地位を手放さず、最高実力者の地位を維持した。江前主席も10年前の02年に党総書記を退任した際、2年間、軍事委主席のポストにとどまった。

胡主席も同様に、軍に勢力を維持したい考えとみられるが、かつて江前主席の留任を厳しく批判した経緯もあり、露骨に推進できない事情がある。このため、人事を通じて軍内から自身の留任ムードを高める狙いもありそうだ。(後略)【7月15日 産経】
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上記記事にある、“軍事委主席”に胡主席がとどまるかどうかは、中国の政治においては非常に大きな意味をもつようです。

“最高決定機関とされている党政治局常務委員会は、多数決でものごとを決定する集団指導制だが、常務委員のうちの総書記、全人代常務委員長、首相の三者による「核心領導小組」という非公式の権力核心があることはあまり知られていない。
通常は、党総書記が党中央軍事委員会の主席を兼務するが、例外がある。党総書記と軍事委主席が別人の場合、核心領導小組は軍事委主席を加えて四人になる。これが、政治局を引退した軍事委主席が、雲の上から党政治局をコントロール可能にする仕組みだ。”【7月号 「選択」】

なお、最高決定機関とされている党政治局常務委員会についても、現在の9名が7名に変わるのではという話は以前から出ていますが、前出【7月号 「選択」】によれば、その場合の政治力学も胡錦濤国家主席に有利に傾くそうです。

江沢民派の牙城であった北京市を掌握
軍事委主席のポストやこれまで江沢民派が押さえていた軍幹部だけでなく、江沢民派の牙城とされてきた首都北京市についても、胡錦濤国家主席が掌握したとも報じられています。

****中国 北京市トップ、胡錦濤派 党委書記に郭氏 江派の牙城崩す****
中国共産党の北京市党代表大会は3日、新指導部を選出して閉幕した。
江沢民前国家主席に近い劉淇党委書記が退任し、胡錦濤国家主席の側近として知られる郭金竜市長(副書記)が北京の新トップに選出された。この人事は、胡派が江派の長年の牙城だった北京市をついに掌握したことを意味する。

秋の党大会を前にして、胡派の勢いはさらに増しそうだ。これに対し、競合する江派と習近平国家副主席を中心とする元高級幹部子弟で構成する「太子党」の立場は苦しくなった。

北京の党代表大会は当初5月に予定されていたが、市トップの人事調整で難航し、1カ月以上も延期し全国各地で最も遅い開催となった。北京市の党委書記は全国の地方指導者の中で最も重要なポストで、党政治局員を兼務し、中央政界に対しても大きな影響力を持つ。1997年以降、江派の有力者がこのポストを維持してきた。
(中略)
北京の党代表大会の閉幕に伴い、党大会前に開かれる全31の省、自治区、直轄市レベルの党代表大会はすべて終了した。各大会で可決された報告書で、いずれも胡主席が提唱していた政治スローガン「科学的発展観」が盛り込まれたことが注視される。

「科学的発展観」とは、国内総生産(GDP)の成長だけではなく、環境問題や格差縮小を重視することを指しており、経済発展を最優先に推進してきた前任者の江氏の政策に対抗する意味が込められている。
当初、多くの省に反発された「科学的発展観」が承認されたことで、胡派が政局の主導権を完全に握ったことが裏付けられた。【7月4日 産経】
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院政
こうした諸々の人事情報の結果は、習近平体制となっても、胡錦濤氏が“院政”という形で隠然たる政治力を保つのでは・・・というものです。
「中国のプーチン」「中国のメドベージェフ」という言葉もあるようです。

もっとも、なんでもありの中国共産党権力闘争ですので、こうした観測どおりに進むのかはまだわかりません。
先に胡主席が返還15周年記念式典に香港を訪問した際には、香港住民による大規模抗議行動に備え厳重な警備がとられましたが、この厳重警備は胡主席と対立する周永康と曾慶紅が胡主席殺害を狙っているとの噂が広東で広まったため・・・との話もあるようです。

もちろんたわいもない噂でしょうが、そうした話が出ること自体、“なんでもあり”の権力闘争を物語るものかもしれません。
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ロシア  中央集権体制再構築へ統制色を強めるプーチン大統領

2012-07-14 22:25:10 | ロシア

(5月7日、モスクワ・クレムリンでの大統領就任式に臨むプーチン氏 “flickr”より By IBiAFoddoAbbarad http://www.flickr.com/photos/54496416@N04/7158694518/

外交でも欧米との対立先鋭化
ロシアは、シリアのアサド政権批判を強める欧米に対抗する形で、アサド政権擁護の姿勢を変えていません。
政権側によるとみられる相次ぐ住民虐殺を受け、国連安保理においても、制裁を求めるアメリカとの対立が先鋭化しています。

****露軍艦10隻以上、地中海演習へ…シリア寄港も****
ロシア国防省は10日、海軍の北方、バルト、黒海の3艦隊に所属する駆逐艦や揚陸艦など10隻以上が地中海などでの演習のため出港したと発表した。
インターファクス通信によると、一部がシリア西部タルトゥースにある露海軍補給拠点に寄港、水や食料を届けるという。

シリアによるトルコ軍機撃墜事件後、東地中海では北大西洋条約機構(NATO)軍が演習中で、3艦隊の地中海派遣はこれをけん制する意味合いを持ちそうだ。【7月12日 読売】
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“強いロシア”を誇示する、冷戦時代を思わせるようなロシアの頑なな対応ですが、ロシア国内においても、復帰したプーチン大統領のもとで、統制色の強い施策が相次いで打ち出されています。

民主主義の根幹を締め付ける動きが加速化
****大統領就任2カ月 プーチン再臨 時計の針戻す****
市民団体はスパイ、寄付すれば弾圧 強硬派の側近を重用、改革色薄める

ロシアのプーチン大統領が5月に通算3期目の政権を発足させてから2カ月が経過した。
新体制はこの間にも、反政権派への締め付けや基幹産業の国家管理を強めるための人事を行い、リベラル化を目指したメドベージェフ前政権で一時、緩和された垂直統治型の中央集権体制を再構築しようとする動きを見せている。

プーチン色がにじみ出た政策は次々に打ち出されており、欧米の支援を受けた市民団体を「外国のスパイ」として圧力を加える新法の審議も始まった。
ロシアの社会問題である人権侵害や役人の汚職の実態を告発してきた市民団体の活動に対して、プーチン氏はこれまでも「諸外国の資金援助を受け、外国の利益のために活動している国民がいる」などと非難する発言を繰り返してきた。

しかし、ロシアでは篤志家らが市民団体に寄付していることが発覚すれば、政権から厳しい弾圧を受ける恐れがあり、人権擁護団体「モスクワ・ヘルシンキ・グループ」などの有力団体は欧米からの支援を受けなければ、活動が成り立たない実情がある。

7月に入り、与党統一ロシアが圧倒的多数を占める下院で、こうした市民団体に圧力を加える“NGO監視”法案の審議が始まり、同党議員は、「ロシアの民主主義は国外勢力から守らなければならない」と新法の正当性を説明した。

新法は、市民団体に年に2回、詳細な活動報告の提出を義務づけるもので、違反すれば代表者に約300万ルーブル(約720万円)の高額な罰金が科せられ、「外国のスパイ」の烙印(らくいん)を押される。下院を通過して、上院での審議を終え施行される見通しで、市民団体側からの反発が強まっている。

他にもこの2カ月で、名誉毀損(きそん)犯罪の罰則強化や改正デモ規制法の施行など、表現の自由や集会の自由など民主主義の根幹を締め付ける動きが加速化している。首相になったメドベージェフ氏は「私はリベラルだったことは一度もない」とかつての民主化政策を翻すような発言もし始めた。

一方、プーチン氏は、メドベージェフ氏が打ち出した経済改革色を薄める人事も行った。6月に一旦は政府の要職から解かれたプーチン氏の側近で保守・強硬派のセチン前副首相を、大統領直轄のエネルギー産業発展戦略委員会の書記として復権させた。
セチン氏はエネルギー業界に圧倒的な影響力を持ち、プーチン氏の命を受け、今後、基幹産業である石油・ガス産業の民営化に歯止めをかけ、国の政策と直結した「国家資本主義」路線を推進するとみられる。経済の近代化から逆行する動きに、投資家の懸念も高まり、ロシアの株価指数も下落傾向にある。【7月11日 産経】
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上記記事にある“NGO監視”法案は、13日、ロシア下院で可決されました。
ただ、罰則規定については議会内で賛否があったようです。
“第3読会まで開かれた法案の審議は、最終的に賛成374、反対3、棄権1で通過に至った。上院で承認後、プーチン大統領の署名で成立する。ただ、審議が紛糾した罰則規定については秋の会期に先延ばしされ、これに合わせて発効は120日後と規定された。”【7月13日 時事】

外国からの資金という点では、日本でも問題になることがあります。
今回のロシア法案では、外国政府や外国人の資金を得て政治活動に携わるNGOは、登録と年4回の活動報告に加えて、出版物やウェブサイトに「外国の代理人」と明記しなければならないというあたりが、この法案の性格を物語っています。

****ロシア:外国から資金援助のNGO 下院で監視法案可決****
ロシア下院は13日、外国から資金援助を受ける非政府組織(NGO)を「外国の代理人」として分類し、活動を監視する法案を可決した。昨年来の反政府デモを「欧米がカネを出して支援している」と非難してきたプーチン大統領が反対勢力の一段の締め付けに乗り出した形で、国内外で懸念が高まっている。

法案によると、外国政府や外国人の資金を得て政治活動に携わるNGOは、当局への登録と年4回の活動報告が義務付けられる。また、出版物やウェブサイトに「外国の代理人」と明記しなければならない。
違反すると最高30万ルーブル(約73万円)の罰金や禁錮刑を受ける。下院(定数450)の採決では、与党・統一ロシアや野党・共産党、自民党の374人が賛成。法案は上院の審議とプーチン大統領の署名を経て近く発効する見通し。

プーチン政権発足後のロシアでは違法デモ参加者の罰金を引き上げる改正デモ規制法が6月に施行され、デモ取り締まり強化に向けた第2弾ともいえる。
統一ロシアは法案について「NGOの公開性を高め、市民社会の利益を守るのが目的」と説明するが、民主派勢力や人権団体は「社会活動の自由を抑圧する」と批判している。

また、米国務省も「NGOの規制強化につながる」と憂慮を示した。これに対し、ロシア外務省は「ロシアの国家機関に対する許し難い干渉だ」と米側を非難する声明を出し、米露関係にも影を落としている。

ロシア下院は11日、インターネットの規制強化法案を可決したばかり。児童ポルノなど有害サイトの取り締まりが目的とされるが、ネット業界などからは「検閲の導入だ」と反発が出ている。
一連の動きは、メドベージェフ前大統領(現首相)が欧米との関係や「インターネットの自由」に理解を示していたのと対照的に、プーチン氏の大統領復帰で国家統制色が強まっていることを印象付けている。【7月14日 毎日】
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6月の改正デモ規制法については以前も取り上げたことがありますが、国内で再燃した反プーチン抗議行動を封じ込める狙いがあるとされています。
プーチン大統領は、英独伊などでのデモ規制法と比較し「それよりも厳しい条項は一つもない」と述べた上で、6月8日に署名しています。

****ロシア上院:デモ規制強化法案可決 罰金、大幅引き上げ****
ロシア上院は6日、国内で広がる反政府抗議運動を封じる狙いで、デモ規制を強化する法案を賛成多数で可決した。野党は法案が「集会の自由」に反すると反対していたが、議会で多数を占める政権与党「統一ロシア」が強引に通過させた。
下院は5日、可決していた。プーチン大統領は早急に署名し、12日に予定されている大規模デモまでに法律を発効させて、抑え込む構えだ。

法案は、暴力など違法行為に発展したデモ参加者への罰金を大幅に引き上げた。現行のデモ参加者500〜1000ルーブル(約1200〜2400円)▽主催団体1000〜2000ルーブルから、法案では参加者1万〜30万ルーブル▽主催団体25万〜100万ルーブル−−へ増額。
また、新たに非公式団体がデモを主催した場合、団体責任者も罰則対象に加える。参加者のマスク着用を禁じるなど、規則を軒並み強化している。

一方、新たな罰則では違反者が罰金を払わないで、社会奉仕活動で償う選択肢を設定しており、与党は当初の規制案から一定の譲歩に応じた。
12日に予定されている大規模デモを巡り、モスクワ市は近く開催許可を判断する。反プーチン勢力は許可が得られなくても、強行する意向を示しており、混乱する恐れもある。【6月6日 毎日】
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“参加者1万〜30万ルーブル”(2万4000円~72万円)というのは幅があり、“違法行為に発展したデモ”の認定のあり方と併せ、運用次第では強力な抑制策になりそうです。
また、上記“改正デモ規制法”成立と同時期(6月11日)、抗議デモで中心的役割を果たすとみられる活動家の自宅などが、一斉に家宅捜査を受けています。

インターネット規制強化法案が可決された今月11日には、誹謗中傷や名誉毀損に関する法案も一気に可決されたようです。

****ロシア議会、インターネット規制の強化法案を可決****
ロシア議会は11日、不適切なウェブサイトをブラックリストに掲載するなどインターネット規制を強化する法案を可決した。与党・統一ロシアが推進する同法案については、以前から活動家らが懸念を示してきた。

あわせて同日の議会では、誹謗中傷や名誉毀損を犯罪行為とみなし、最大で禁錮5年の刑事罰を科すことを可能とする法案も可決された。
  
法案の目的について、野党・ロシア共産党のアナトリー・ロコット議員は「異議を持つ者を一掃するため」と批判。その他の野党議員らも、採決は規制法案の内容に目を通す間もないうちに行われたと語った。
同日議会で可決された2法案に関しては、野党の封じ込めや抗議行動への罰金の高額化などに流用される可能性があると批判されている。
法案はウラジーミル・プーチン大統領が署名した後、11月に発効する見通しだ。 【7月12日 AFP】
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プーチン大統領の意のままに従う議会・・・という感がありますが、7月10日に下院で採択された世界貿易機関(WTO)加盟批准については、賛成が238、反対が208という僅差でした。“反対が多い背景には、脆弱なロシアの製造業や農業に対する各種保護策が打ち切られ、国際競争にさらされることへの危機感がある”【7月10日 毎日】とのことで、議会が全く機能していない・・・という訳でもないようです。
問題によって“党議拘束”のあり方も異なるのでしょうか。

話が横道にそれましたが、プーチン大統領の“強面ぶり”があらわになっています。
逆に言えば、メドベージェフ前大統領の期間は、それなりに控えていたというか、我慢していた・・・とも言えそうです。

ウクライナでの「無礼ぶり」】
ウクライナ訪問時のエピソードも、いかにもプーチン大統領らしい強引さに思われます。
両国の立場の違い、決して対等ではないことをことさらに見せつけた・・・ともとれます。

****プーチン露大統領、ウクライナで首脳会談に4時間遅刻****
隣国ウクライナとの関係強化を掲げて12日に同国を訪問したウラジーミル・プーチン露大統領だが、ビクトル・ヤヌコビッチ大統領との会談に4時間も遅刻する「無礼ぶり」に、友好とは逆効果の訪問となってしまったようだ。
ウクライナ南部ヤルタで設定されていたヤヌコビッチ大統領との会談では、両国間の関係悪化要因となっているロシアからの天然ガス輸入問題の解決策を協議するとみられていた。

すでにスケジュールは押していたが、プーチン大統領はヤヌコビッチ大統領との会談会場に急行せず、バイクライダー団体「ナイト・ウルブス(夜の狼たち)」訪問を優先した。プーチン大統領は過去にも「ナイト・ウルブス」のイベントに参加しており、顔見知りのバイカーらと旧交を温めた後、ようやくヤルタに向かったという。

ウクライナのビクトル・バロガ非常事態相は、プーチン大統領の遅刻について「遅れるにも程がある。バイクライダーや知人の方が優先順位が高いわけだ」と、自身のフェイスブックで批判した。
ウクライナの有力評論家ビタリー・ポルトニコフ氏も、プーチン大統領はバイク愛好家らと会うことで、ヤヌコビッチ大統領に恥をかかせウクライナの独立をおとしめることを意図したものだろうと、ウェブサイト上で怒りを示している。【7月14日 AFP】
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なお、プーチン大統領とヤヌコビッチ大統領の会談では、長年未解決だったアゾフ海とケルチ海峡の国境画定で基本合意されています。
ロシア通信によると、両国が領有権を争ってきた同海峡のトゥズラ島をウクライナ領とする一方、ロシアが海峡の船舶航行権を得る形で妥協したとのことです。


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勢いを失いつつある新興国経済 中国・インド・ブラジル

2012-07-13 22:06:26 | 国際情勢

(3月29日 インド・ニューデリーで開催されたBRICSサミット 左からブラジル・ルセフ大統領、ロシア・メドベージェフ大統領、インド・シン首相、中国・胡錦濤国家主席、南アフリカ・ズマ大統領 5カ国は、世界人口の43%を占め、合わせた国内総生産(GDP)は世界の約20%とされます。
会議は“欧米の対抗軸としての存在感を確立するほどの強力なメッセージを発するには至らなかった”【3月30日 産経】とされています。
政治的影響力の基盤となる各国経済も、このところ減速・失速が指摘されており、これまでのように政界経済を牽引できるか懸念されています。 写真は“flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/7027526349/)

中国:短期的には対応も可能。ただ、長期的には政治的硬直性が壁になるのでは
世界経済を牽引してきた感もある中国経済にかつての勢いがなくなっていることが最近よく指摘されます。
中国を最大の貿易相手国とする日本にとっても影響が大きい問題です。

****中国の4-6月期成長率が3年ぶり8%割れ 欧州危機が圧迫****
中国国家統計局が13日発表した2012年第2四半期(4-6月期)の国内総生産(GDP)は、物価変動の影響を除いた実質で前年同期比7・6%増と、6四半期期続けて成長が鈍化した。8%割れはリーマン・ショックの影響が続いた09年第2四半期以来、3年ぶり。
深刻化する欧州債務危機が輸出や国内消費を圧迫している。中国の成長鈍化は、世界経済にも影を落としそうだ。

今年第1四半期(1-3月期)の実質成長率は8・1%だった。このまま成長鈍化が続けば、政府の通年目標の前年比7・5%を下回る可能性もありそうだ。
成長エンジンである輸出は、中国にとって最大の貿易相手先である欧州連合(EU)向けで、今年1-6月期に前年同期比0・8%マイナスとなった。不動産バブル対策を受けた住宅市場の冷え込みや公共事業縮小などが、消費など内需の足も引っ張っている。

景気減速傾向が明らかになった昨年暮れ、中国政府は政策の軸足を「インフレ抑制」から「成長維持」に移し、預金準備率の引き下げ実施などで金融緩和に転換。中国人民銀行(中央銀行)は6月に、3年半ぶりの政策金利引き下げに踏み切ったが、経済成長の鈍化に歯止めをかけるまでには至らず、今月に入って追加利下げも実施している。

ただ、6月の消費者物価指数(CPI)は前同月比2・2%の上昇と、2年5カ月ぶりの低い水準に収まった。このため金融当局にはさらなる利下げなど、景気回復への一段の金融緩和の余地が広がっている。【7月13日 MSN産経】
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短期的には、最大の貿易相手先であるEU経済の混乱が足をひっぱていることから、中国経済の今後はEU経済の動向に大きく左右されます。
ただ、指導部が交替する党大会を秋に控え、経済が“失速”するような事態はなんとしても避けたい中国共産党指導部でしょうから、一段の金融緩和、財政支出と政府主導の投資による景気刺激によって、そこそこの数字は維持するのではないでしょうか。

しかし長期的に見ると、中国経済の問題は安価な労働力に頼った輸出と設備・不動産投資に過度に依存し、国内購買力が十分に伸びないという体質にあるとも言われており、構造的な変革に触れない、これまでの政策を踏襲した短期的“失速”回避策では、ますます深みにはまってしまう危険があるとも指摘されています。

人口構造的に見ても、生産年齢人口の比率が相対的に最も大きくなる経済成長に最適の人口構成である「人口ボーナス」期が、中国では終わりに近づいており、これまでと同じ発想では限界もあります。
(11年8月27日ブログ「中国 “人口ボーナス”を生かしきれず、“中所得国の罠”に陥る懸念」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110827

おそらく中国の抱える最大の問題は、現在の政治体制の変革につながるような抜本的対応が政治的にとれない・・・という硬直性にあるのではないでしょうか。

インド:進まない構造改革 財政赤字・インフレ・海外資金流失で難しい対応
新興国2番手のインド経済も、失速傾向にあることが報じられています。
中国とは異なり内需中心のインド経済ですが、“慢性的な財政赤字、工業の弱さやインフラの未整備、農業の低生産性による供給制約と、その改善のために必要な資金の不足”という構造要因の克服が難しいようです。

政治的にも“与党関係者による汚職が繰り返し表面化したこともあり、今年初めに行われた重要州での議会選で与党・国民会議派が敗北。2年後の総選挙へ向けてシン首相の政権基盤は弱体化しつつある”【6月5日 産経】ということで、指導力を発揮しずらい状況になっています。

****資金流出・通貨安で内需失速 苦境に打つ手なしのインド経済 ****
インド経済が苦境に陥っている。1~3月期の経済成長率(前年同期比)は5.3%。これは、リーマンショック時を下回る、7年ぶりの低水準だ。
外部の環境変化に強い内需主導の経済を強みとしてきたインドだが、その内需が失速している。

第1の要因は、欧州危機に伴う資金流出だ。原油を輸入に依存するインドは、恒常的な貿易赤字を抱える経常赤字国だ。それ故、国内の資金不足を補うために、海外から資金調達しなければならないのだが、それが難しくなっている。「金が回らず、企業の設備投資が落ち込んでいる。外資系企業に投資を手控える動きがあるのも懸念される」(西濱徹・第一生命経済研究所主任エコノミスト)。

第2が、インフレ率の高止まりである。5月の卸売物価指数(WPI)は対前年上昇率が7.6%と、4月の7.2%からさらに加速。高インフレで個人消費は低迷し、インフレ抑制のための金融引き締めで企業活動も停滞、内需失速を招いている。

さらにルピー安が拍車をかける。欧州債務危機に伴う“リスクオフ”(安全な資産への資金逃避)で、新興国の通貨は軒並み下落しているが、インドは特に顕著だ。5月下旬にはルピーが連日最安値を更新した。このままでは輸入価格が上昇し、インフレを加速させかねない。「ルピー安が成長を妨げ、投資資金が離れることでさらにルピー安が進むという悪循環に陥りつつある」(高山武士・ニッセイ基礎研究所研究員)。

政策は手詰まりだ。景気の悪化で、本来なら金融緩和をする局面だが、インフレが収まらないことにはそれもできない。財政赤字のため、他の新興国のように財政支出による景気刺激策も打ちにくい。財政赤字の大きな要因は燃料補助金や農業補助金で、これらは弱者保護の側面を持つため政治的に削減が難しい。

そもそもインド経済失速の根本要因は、同国が抱える構造問題にある。慢性的な財政赤字、工業の弱さやインフラの未整備、農業の低生産性による供給制約と、その改善のために必要な資金の不足である。政府はこれらを克服するために、歳出削減や規制緩和による外資呼び込みを図ってきたのだが、官僚主義や中央政府の指導力不足といった政治的要因で一向に進まない。これが外資系企業や投資家の失望を招き、資金流出やルピー安につながっている。

欧州危機が一段落すれば、資金流出やルピー安にもある程度の歯止めはかかるだろう。だが構造改革が進まない限り投資家の信頼は戻らず、かつての7~8%という高成長への復帰は難しいとの見方は多い。中国に次ぐ貴重な“成長エンジン”であるインド経済の低迷は、欧州危機に揺れる世界経済にとって大きな痛手となるだろう。
【6月27日 週刊ダイヤモンド】
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“欧州危機の再燃で海外の投資家がリスクに敏感になっているだけでなく、インド経済に対する悲観論が広がり、投資マネーの流出が止まらない。
14年に総選挙を控えた連立政権は非効率なバラマキ政策を改められず、財政赤字が拡大。ルピー安で輸入コストが膨らみ、インフレ懸念も高まっている。
中央銀行は4月、景気テコ入れのため3年ぶりに利下げをしたが、インフレへの警戒感から「追加利下げは難しい」との見方が多い。政府にも財政出動する余裕は乏しく、八方ふさがりの状況だ“【6月1日 朝日】とのことで、手詰まり感が広がっています。

ブラジル:“借金の限界”で“消費の限界”】
一方、南米の新興国ブラジル経済も減速しており、南米新興国代表の座をメキシコに脅かされる状況にあります。ブラジルの今年の国内総生産(GDP)成長率は昨年が2.7%、今年も2%程度にとどまるのでは・・・とも予測されています。

政府が国民に借金で買い物を続けるように呼び掛ける、個人消費主導経済のブラジルですが、自動車ローン延滞率増加に見るような“借金の限界”、ひいては“消費の限界”が顕在化しており、ここでも“行き詰まり”が見られます

****ブラジルをめぐる主要な政治的リスク****
政権を掌握してから1年半が経つブラジルのルセフ大統領は、停滞する経済という1つの大きな逆風に直面している。与党の労働党の支持率は、経済の発展と共に拡大してきただけに敏感な問題だ。

ブラジル経済は、4四半期連続の低成長となっており、国内外の先行き不透明感から企業も投資を縮小している。エコノミストは今年、国内総生産(GDP)成長率が2%をやや上回ると見込んでいるが、これは2010年の7.5%とかけ離れている。
経済は年後半に幾分か上向くことが見込まれるものの、エコノミストはこれによるインフレ率の加速を懸念する。ブラジルのインフレ率は2011年に7年来の高水準となっていた。

ルセフ大統領の支持率は依然として高いが、債務不履行の拡大などの兆候は、製造業分野と同じく、現時点で消費活動も衰えてきた可能性を示している。
大統領はこの景気減速に対応するため、特定の産業に対する刺激策を相次いで明らかにしている。また中央銀行は景気減速を、歴史的に高水準にある政策金利を引き下げる好機ととらえている。

その一方で、喉頭がんの治療が完了させたルラ前大統領は5月後半、2014年の大統領選挙にルセフ大統領が出馬しない場合は、名乗りを挙げることも検討していると表明。これが波紋を呼び、ルセフ大統領は1期だけで退くとの憶測を呼び起こしている。

 <小売分野も減速か>
ブラジルでは製造業が低迷する一方で、国民の多くは景気減速に鈍感なようで個人消費は健全さを維持してきた。エコノミストはこのいわゆる「二速経済」の持続性に長年懸念を示してきた。
だが現在、消費活動の減速を示す兆候も表れ始めている。5月の借金の滞納は過去最高となっており、多くがぎりぎりの状態で消費活動を続けていることが示された。エコノミストは、失業率も確実に上昇し始めると予想している。

税金の高さや労働コスト、通貨高により、ブラジルの製造業者は安価な輸入品に太刀打ちできなくなっている。ルセフ大統領は税控除やその他のインセンティブを通じて一部の業界に優遇策を導入する一方、オートバイや電子レンジといった特定の輸入品にかかる税率を引き上げた。

だが、エコノミストは製造業の競争力を高めるための税制や労働法規の抜本改革が、ブラジルの産業界を実質的に上向かせる転換点になると指摘する。これらの改革は、動きの鈍い議会であいまいなままになっており、エコノミストは経済を実質的に刺激する策は少ないと指摘する。(中略)

 <貿易障壁が裏目に>
ルセフ大統領の景気支援に向けた取り組みは、対象セクターを海外との競争から保護することにもつながっており、ブラジルを中南米地域で孤立させ、一部の多国籍企業の事業計画を困難なものにしている。

ブラジルは今年初め、メキシコとの貿易協定について再交渉し、3年間にわたって同国からの自動車輸入を制限。これが中南米の2大国の関係を冷え込ませた。アルゼンチンとも自動車や他の分野で貿易抑制に向けた措置を取った。
これらの措置に対して海外の関係者の不満は増しており、ブラジルが措置を継続させる場合には世界貿易機関(WTO)が報復的な措置を求める可能性も高まってる。(後略)【7月5日 ロイター】
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極左ゲリラとして拷問を経験したタフな女性でもあるルセフ大統領は、メディアを使って金融機関、官僚、外国企業を攻撃することで国民の不満をかわし、経済の停滞にもかかわらず、政権支持率は上昇しているとのことです。
しかし、借金による個人消費依存や外国企業狙い撃ちのままでは、ブラジル経済の長期的展望はあまり明るくなさそうです。
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ベトナム戦争の不発弾に今も苦しむラオス クリントン米国務長官、被害者の若者と面会

2012-07-12 21:20:01 | 東南アジア

(ラオス・シエンクワン県のターヂョーク村 
顔をのぞかせている子供たちの両脇に立っているのがクラスター爆弾の親爆弾の残骸です。この親爆弾には約300個のボール爆弾が詰め込まれており、空中で親爆弾が二つに割れてそれらがばら撒かれます。それぞれのボール爆弾は地上での炸裂時に約600個の5mm大の金属玉を飛び散らせ周辺の人間を殺傷します。
モン族が暮らすこの村はクラスター爆弾の残骸を家の土台や植物を育てるプランタンなどに利用しており、“爆弾村”として知られています。 写真は“flickr”より By MAG (Mines Advisory Group) http://www.flickr.com/photos/mag-photos/4777053593/ )

【「私たち政府にはもっとやるべきことがあります」】
アメリカのクリントン国務長官は13日間で計9カ国を歴訪する異例の長期外遊中ということで、いたるところに彼女の名前が出てきます。

6日にはパリで「シリアの友人」会合に出席し、合間にパレスチナ自治政府のアッバス議長と会談。7日にはアフガニスタンを電撃訪問してカルザイ大統領と朝食を交えて会談。そのまま東京に移動して8日のアフガニスタン復興会議に出席。
更に、9日~13日にはモンゴル、ベトナム、ラオス、カンボジアを歴訪。カンボジアではASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議に出席
今後も、14~16日にはエジプトを訪問し、モルシー新大統領との会談を調整中。16~17日にはイスラエル訪問して、ネタニヤフ首相らと中東和平について会談予定・・・との超過密スケジュールです。【7月7日 MSN産経より】

世界中の問題を一手に引き受けた感がありますが、クリントン国務長官はオバマ政権の1期目満了をもって退任すると表明しており、残り半年で外交成果を積み上げるべくラストスパートをかけたとの観測も出ているとか。

そんな超ハードスケジュールのクリントン国務長官が、ラオスで不発弾の爆発で重度の障害を負った被害者の若者と面会しています。
米国務長官として喫緊の国際問題への対応ももちろん不可欠ですが、こうした地味ではありますが人間性を問われる問題への対応にも期待したいものです。

ラオスの不発弾はアメリカがばら撒いたものであり、アメリカは現在もクラスター爆弾を保有し、クラスター爆弾を全面禁止する条約(オスロ条約)にも参加していないということもありますので。

****ベトナム戦争の残留不発弾、被害者にクリントン長官が面会 ラオス****
アジア歴訪中の米国のヒラリー・クリントン国務長官は11日、ベトナム戦争中に米軍がラオスに残した不発弾の爆発で重度の障害を負った被害者の若者と面会し、不発弾処理の支援により力を入れると約束した。

首都ビエンチャンを訪れたクリントン長官は、不発弾被害者のための義手・義足の製作や作業療法を行っている支援団体COPEに立ち寄った。ここで、16歳のときに不発弾の爆発で両手と視力を失ったポンサワット・スリラットさんを紹介されたクリントン長官は、明らかに心動かされた様子だった。

スリラットさんは故郷の北部の村で、一緒に遊んでいた友人が拾ったクラスター爆弾によって両手を吹き飛ばされ、視力を失った。4年前、16歳の誕生日のことだった。
それ以来、人生はすっかり変わってしまったと、スリラットさんは不慣れな英語で訴えた。「あらゆる国の政府が協力して不発弾を除去し、生き残った被害者たちを支援してほしい。多くの生存者が支援を受けていません。彼らの生活は非常に苦しいのです」

これに応えてクリントン長官は「全くおっしゃる通りです。私たち政府にはもっとやるべきことがあります。われわれが協力して進めるべき仕事がある、それをもっと多くの人々に語ることができるように今日、私はここへ来ました」と述べた。

COPEのセンターでリハビリを受けて現在はスタッフとして働くスリラットさんは、恨めしさなど微塵も見せずに「あなたと米国の皆さん、そして米政府のご健康と夢の実現をお祈りします」と答えた。【7月12日 AFP】
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一人1トンの爆弾が投下された
ベトナム戦争とラオスの不発弾の関係を含め、ラオスの不発弾の現状については、NPO法人 香川国際ボランティアセンターのサイトで以下のように紹介されています。

****ラオスの不発弾****
1 ラオスに、なぜ不発弾
ラオスに、数多くの不発弾が地中に埋まっているということを、果たして日本人の何人が知っているだろうか。ベトナムにはベトナム戦争があったから、当然、不発弾があるのは分かるし、カンボジアでも1991年までの内戦で地雷が眠っているのは、皆、知っているだろう。しかし、なぜラオスに不発弾が。

ラオスには、ベトナム戦争当時、南ベトナムで戦う解放戦線ベトコンへ北ベトナムからの物資の補給路としてホーチミンルートがあったということは、よく知られているが、実はそのルートはベトナム国境沿いのラオスの山間部にあったのだ。

このホーチミンルートを叩くために、アメリカ軍は、激しい空爆を行った。また、ラオス愛国戦線(パテト・ラオ)の本拠地が、ベトナム国境近くの山間部にあり、これもアメリカ軍の爆撃の標的となった。
さらに、北ベトナムへの空爆からタイにある空軍基地への帰りに、機体を軽くするためにも、ラオス上空で爆弾を投下したとも言われている。

2 一人1トンの爆弾
ラオスでは、その当時300万人ぐらいの人口だったが、アメリカ軍は300万トンもの爆弾を落としたと言われている。単純に計算しても一人1トンの爆弾が投下されたことになる。その投下された爆弾は約8割は爆発してけれども、残り約2割は爆発せず、地中に不発弾として埋まった。

空爆が終わった後にも長期間にわたって、ラオス人のふだんの生活に支障を来す効果も狙って、投下された爆弾を全て爆発せず、恣意的に数多くの不発弾を投下したとも言われている。

3 UXO Lao
ラオスで不発弾が数多く存在する地域は、東北部にあるシエンクワン県である。香川国際ボランティアセンターは、不発弾の処理を行っている組織がシエンクワンにあるということを、数年前に知り、この組織の支援も行うようになった。

シエンクワンの不発弾処理の組織は、「UXO Lao」という不発弾処理活動を行う政府組織のシエンクワン県支部である。1994年から英国をはじめ欧州各国の金銭的、人的支援を受けて処理活動を行ってきたが、2006年6月からは日本のNGO団体「日本地雷処理を支援する会(JMAS)」が、支援を開始した。

4 シエンクワン県の被害
「UXO Lao」シエンクワン県事務所のカンペット所長によると、同県では、これまでに不発弾で1,885人が死傷、うち824人が死亡した。最近でも毎年50人くらいが被害に遭い、うち約20人が亡くなり、子どもの被害が約4割を占める。

職員170名が1,357k㎡の面積(香川県の面積の約2/3)を有する同県域の不発弾処理を行っているが、1年間に処理できる面積は僅かであり、これまで十数年間に処理できたのはたった21k㎡だけであり、この調子でいけば残り百年はかかるという。

5 不発弾の探査方法
不発弾の探査方法は、まず地表に碁盤目状に紐を張り、その1m四方の碁盤目状の枠の中を、丹念に金属探知器で調べていく。もし地中に不発弾などの金属類が埋まっていれば、甲高い発信音がして、その在処が分かる。手作業で注意深く土を掘っていき、不発弾か単なる金属類かを確認する。

一般的に使っている金属探知器は、地中15~20cmくらしか探知できない。不発弾が発見されれば、発火用の火薬に導火線を結び、約300~400m離れた所から爆破装置のボタンを押して、爆破する。

6 ボール爆弾
シエンクワン県での不発弾は、こぶし大のボール爆弾がほとんどである。この爆弾は爆撃機から約三百個のボール爆弾が詰め込まれた3m位の大きな親爆弾が、空中で二つに割れ、その中からボール爆弾が飛び出し、地上近くまで落ちると、一個のボール爆弾の中に詰め込まれた約六百個の5mm大の金属玉が四方に炸裂し、人命を奪うこととなる。

施設等を破壊するためのものでなく、明らかに人命殺傷用の恐ろしい非人道的な爆弾である。そんな爆弾が、1975年に戦争は集結したものの今現在も、ラオス人の人命を脅かしている。【NPO法人 香川国際ボランティアセンター http://www.npokvc.org/fuhatsudan.htm
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日本も太平洋戦争ではアメリカ軍の空襲で甚大な被害を経験していますが、“一人1トンの爆弾が投下された”というのはすさまじい量です。
“空軍基地への帰りに、機体を軽くするためにも、ラオス上空で爆弾を投下した”とか“恣意的に数多くの不発弾を投下したとも言われている”などに至っては論外です。

“国際不発弾処理団体のラオス支部「UXOラオス」によると、ベトナム戦争時に米軍が投下したクラスター爆弾は2億6000万発にのぼる。このうち約30%が不発弾となって、ラオス全域に残り、1975年の戦争終結後も、数千人に被害をもたらし続けている。”【08年12月2日 AFP】とも報じられています。

サッカー元日本代表と「オヤジたちの国際貢献」】
農作業中に不発弾に触れて被害にあうケースなども多々ありますが、子供が不用意に触れるケースも多く、学校では不発弾に触らないように子供たちに注意を喚起しています。
一方で、金属探知機を使って不発弾を破片を集めてお金を稼ぐ子供なども存在します。子供の作業ですので、危険も伴います。

ラオスの不発弾とその被害については、上記“NPO法人 香川国際ボランティアセンター”など、活動を行っている団体や個人が多くのサイトで紹介しているところですが、最近目にした記事を2件。

****ラオス:「不発弾も知って」サッカー元代表の北沢さん****
東南アジアを訪問している皇太子さまは29日、カンボジアを出発し、最後の訪問国のラオスに到着した。生活・経済を支える水運の現場となっている大河・メコン川や日本のODA(政府開発援助)で建設された武道センターを視察する予定だ。初めてとなる皇太子さまの訪問を「日本人がラオスを知るきっかけになり、うれしい」と歓迎する人の中に、サッカーを通じた支援を続ける元日本代表の北沢豪さん(43)がいる。

北沢さんは現役最終年となった03年にけがでリハビリ中、知人から「ボールもないカンボジアに来てほしい」と頼まれ、「気分転換にもなる」と訪れたことが東南アジアと関わるきっかけとなった。最初は「外国人には目を合わせない」という印象を持ったが、引退後もサッカー指導を通じて関係を深め、隣国のラオスに足を延ばすようになり、これまでに2回訪れた。

ラオスの印象は「のどかで、ゆっくりして、昔の日本のよう」。サッカーも日本と同じパスサッカーだという。しかし、ベトナム戦争時の不発弾が社会に大きな影を落としていることを知る。国際協力機構(JICA)によると、ラオスには今も約8000万発の不発弾が残り、被害者は年間約300人に上る。北沢さんも爆弾の破片が足に刺さったままの子供に出会った。

北沢さんの関心はサッカーの枠を超えるようになる。今年2月の訪問時には、小学校で「遠いラオスから大震災からの復興をお祈りします」という寄せ書きを受け取り、帰国後に仙台市の学校に届けた。
北沢さんは「ラオスの不発弾はあまり知られていない。解決につながるいろいろな動きが出てきてほしい」と話す。【6月29日 毎日】
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元自衛官らで作るNPO「日本地雷処理を支援する会」(JMAS)の活動も紹介されています。

****不発弾と生薬****
東京ドーム205個分に当たる約1千ヘクタールの地雷原を、安全な土地に変えてきた。元自衛官らで作るNPO「日本地雷処理を支援する会」(JMAS)が創立10周年を迎えた。
現役時代に身につけた地雷や不発弾の処理の仕方を現地の人たちに教え、除去を手助けする。カンボジアを皮切りに、アフガニスタンやアンゴラなどにも活動を広げた。

ベトナム戦争で米軍が落とした不発弾が多く残るラオスでは、危険な土地が生薬畑に変わりつつある。
きっかけは、漢方薬の最大手ツムラ。安心できる生薬を自社で育てるため、土や気候が合うラオスに1千ヘクタールの畑を作り、千人を雇う計画を立てた。問題になったのが不発弾だ。

民間の力を借りて途上国支援を進めたい日本政府の考えとも合致し、政府の途上国援助(ODA)を使って、JMASが不発弾を取り除くことになった。このほど、最初の200ヘクタールの安全が確認できた。
不発弾がなくなれば、住民の暮らしは安全になり、畑で働くことで収入を得られる。地域の活性化につながり、企業は収益を確保できる。一石何鳥にもなりそうだ。

JMASは「オヤジたちの国際貢献」という活動紹介の冊子を作っている。危険と隣り合わせでがんばっているオヤジたちに、エールを送りたい。【6月26日 朝日】
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