孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  ガザ地区の統制を失いつつあるハマス  和平交渉の先行き

2014-02-18 23:25:31 | パレスチナ

(昨年8月、ガザ地区の海岸で、ギリシャ神話の神アポロンの等身大の銅像が引き揚げられました。約2500年ほど前に制作されたとみられ、約350億円相当の価値があるとも。

ガザ地区を実効支配するハマスは、このほどこの銅像の調査協力を世界に呼び掛けています。調査や銅像の貸し出しを糸口として、2007年から国際社会で孤立しているハマスの外交関係を修復したい考えを示したそうです。【2月13日 AFPより】 
写真は“flickr”より By Nikolaos Bogioglou http://www.flickr.com/photos/85049211@N08/12456699833/in/photolist-jYKQSM-jB87PY-jfiGHM-iRoBSx-jgXFN6-jh1kw1-jh1k6G-jgXG5Z-jh1jX5-jgY3Rj-jh1jUQ-jh1kfQ-jgWdhD-jgY3B1-jgXG96-jgXFGe-jgWd9H-jgWde2-jgY3nU-jgXFCX-jgY3LQ-jgXFTM-jgY3yf-jgXFQa-jh1jYN-jgWd5z-jgXGcH-jgWcWP-jgWcSa-jgWcZe-jdSpoU-jdN5VZ-jdQoss-jeBwrp-jeFJTS-jeD1mi-jeBCrF-jeBD6g-jdSfTY-jdN9rg-jeD7ZD-jeCZe8-jdSk4S-jeDHR3-jeD4nt-jeD1Fr-jeDBWN-jdPrzR-jdSqwW-jdN8hx-jeDKnu)

“350億円相当”となると、財政難のハマスとしては“売ってしまいたい”と考えるのでは・・・ということはないようです。)

エジプト情勢変化で「トンネル経済」崩壊、ハマスは深刻な財政難
停戦に向けた国際的な取り組みがなされている内戦が続くシリア情勢、軍部の復権など政情の動向が注目されるエジプト情勢、核開発問題を巡るイランと国際社会の協議・・・・こうした中東情勢に隠れて、パレスチナに関する話題は最近はあまり目にしません。

パレスチナの和平交渉も停滞している一方で、イスラエルとの大きな軍事衝突も起きていないことにもよりますが、上記のような中東情勢はパレスチナ・ガザ地区の状況にも大きく影響しています。

ガザ地区を実効支配するハマスと近い関係にあったエジプト・モルシ政権が事実上のクーデターで崩壊したことで、エジプトのガザ地区境界管理が厳しくなりハマスの財政が悪化、結果的にハマスによる他の過激派への統制が行き届かない状況になっています。

****パレスチナ:ガザからイスラエルへのロケット弾攻撃が急増****
 ◇背景に「ハマスの影響力が財政難で低下」
パレスチナ自治区ガザ地区からイスラエルに向けたロケット弾攻撃が急増している。今年に入り既に33件に達し、昨年の総数(63件)の半分を超えた。

ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの影響力が財政難で低下し、他の武装組織への抑えが利かなくなったためとみられる。業を煮やしたイスラエルの反撃次第では、緊張が高まる可能性がある。

イスラエル軍によると、ロケット弾攻撃は今年に入り増えており、1月は28件だった。イスラエル軍は9日、ガザ地区を拠点とする武装組織「人民抵抗委員会」の軍事部門「サラハディン旅団」幹部を殺害。また、11日には、ハマスの軍事関連組織を空爆するなど反撃している。

イスラエル治安当局者によると、最近の攻撃にハマスが直接関与した形跡はなく、大半は、ガザ地区に拠点がある厳格なイスラム原理主義者「サラフィスト」の武装組織などによるとみられる。

ハマスは昨年夏まで、こうした組織によるイスラエルへの攻撃を制御していた。だが、昨年7月の隣国エジプトの軍事クーデター以降、エジプト軍がガザとの境界にある密輸トンネルの摘発を強化。

さらにイスラエルの封鎖政策もあり、「トンネル経済」に頼ってきたハマスは、急激な財政難に陥り、他の武装組織への影響力も低下したとされる。

ただ、イスラエルは以前から、ガザからの攻撃はすべてハマスの責任とみなす方針で、今後、報復としてイスラエル軍がハマス幹部らを殺害した場合、応酬がエスカレートする可能性がある。

パレスチナのメディアによると、エジプト軍は15日、エジプト・シナイ半島とガザ地区をつなぐトンネル10本を破壊。

ハマスの資金不足は深刻で、職員の給与支給も遅延している。最近は、軍事演習に実弾を使わず安価なレーザー銃を使用するなど、経費節減に努めているという。【2月18日 毎日】
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ガザ地区過激派によるイスラエルに向けたロケット弾攻撃等については、石堂ゆみ氏のサイト「オリーブ山便り」に、下記のように紹介されています。

****緊張続く南部ガザ情勢 ****
昨年末に、イスラエル人がガザ国境で射殺されたが、それ以降もイスラエル南部ガザ周辺にロケット弾が撃ち込まれており、イスラエル軍が反撃して、ガザ地区周辺の緊張が続いている。

(1月)13日にはネゲブ地方で故シャロン首相の埋葬が行われたが、列席したネタニヤフ首相や、ブレア中東特使などが立ち去った直後に、その周辺に2発のロケット弾が撃ち込まれた。彼らが立ち去った後だったため被害はなし。

16日にはアシュケロンに向けて6発のロケット弾が発射された。このうち5発はアイアンドーム(迎撃ミサイル)が撃ち落とした。着弾したものは、空き地に落ちたため、被害はなし。

19日のイスラエル軍による攻撃で、パレスチナ人2名(12才、22才)が重傷を負っている。

ガザ地区からイスラエル領内へのロケット攻撃は、この3週間で17回。これに対して行われたイスラエル空軍による空爆は7回となっている。

こうした情勢を受けて、南部都市では市長の判断で、学校がしばしば休校になっている。【1月20日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】http://mtolive.blog.fc2.com/blog-entry-654.html
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なお、ガザ地区からの攻撃はハマスや、それに次ぐ勢力のイスラム聖戦ではなく、
“イスラエルを攻撃しているのは、ガザ地区とシナイ半島にもはびこっているサラフィストや聖戦主義者といった小さな様々なイスラム過激派組織だと分析されている”

“ハマスは1月19日、すでにエジプトを通じて「イスラエルとの紛争を望んでいない」と表明。それを裏付けるように、ガザ領内に治安部隊を配置して、イスラエルを攻撃する者たちを取り締まっているという”

“聖戦主義組織らが望んでいるのは、エジプトとイスラエルの間に火をつけることだと分析されている。現在、イスラエルは、エジプト軍と緊密に連絡をとりあって対処を検討しているようである。”【1月21日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】とのことです。

また、イスラエルの報復攻撃はピンポイントで行われており、このことは“イスラエルが、世界にも類をみない空爆の技術を持っているだけでなく、ガザ内部に非常に優秀な諜報システムを持っていることを示している”【1月23日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】とも。

イスラエルは、ハマスがしっかりとガザを統制することを望んでおり、“最近、イスラエルはUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)とともに、ガザへ搬入する物資を増加させ、ハマスの権力維持に協力してきた”【1月20日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】とのことです。

緊張が高まっているガザ地区の情勢には、上述のようなエジプト情勢のほか、シリア情勢も絡んでいます。

“最近、シリア難民に対処するため、UNRWAの予算が大きく削減された。今後、UNRWAの支援に依存するパレスチナ人の不満が高まり、何かのきっかけで一気に火をふきかねない土壌ができつつある。”【1月20日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】シリア関連でのUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)の予算削減の詳細は知りませんが、UNRWAはシリア領内のパレスチナ難民キャンプの支援も行っています。

政府軍の包囲によって深刻な食糧危機に陥っているダマスカスのヤルムーク難民キャンプへの緊急支援を行っています。(2月8日ブログ「シリア ホムスでようやく避難始まる “人道”をめぐるせめぎあいも」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140208参照。)

イスラエルとパレスチナ、強硬論を抱える双方が妥協できるか?】
エジプト情勢、シリア情勢も影響しての現在のパレスチナの状況ですが、パレスチナの問題はイスラエル対アラブ世界という中東情勢の根幹にかかわるものであり、パレスチナの安定なくしては中東の安定はありえません。

そこでアメリカ(特に、ケリー国務長官)が後押しするパレスチナ和平交渉ですが、進んでいるのか、いないのか・・・。
当初から誰も結果を期待していない交渉ではありますが、交渉期限は9ヶ月とされていますので、4月が一応の期限になります。

ただ、昨年12月には、“5月以降”の話も出てはいます。

****中東和平交渉:パレスチナ担当者「枠組み合意目標****
7月に再開した中東和平交渉に関し、パレスチナ側を代表するパレスチナ解放機構のエラカト交渉局長は18日、来年4月末までに主要な課題で「枠組み合意」を目指していると明らかにした。AP通信などが伝えた。

パレスチナ側が「枠組み合意」を目標とする方針を明確にしたのは初めてで、来年5月以降も交渉が継続される可能性が高まった。イスラエル側の意向が注目される。【2013年12月19日 毎日】
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年明け1月には、ケリー米国務長官が中東を歴訪し、ヨルダン・サウジアラビアに交渉の状況を説明し、アメリカ主導のパレスチナ和平交渉の枠組みへの支持が得られたとしています。

ただ、サウジアラビアは最近のシリア・イランに対するオバマ外交には不信感を持っていますし、パレスチナと境界を接するヨルダンにとっては、イスラエル撤退後の混乱への不安や、ヨルダン市民権を持つパレスチナ難民の問題などもありますので、本音のところではどうでしょうか?

そのイスラエル軍駐留に関して、アッバス議長は3年の期限付きでこれを認める発言をしています。

****イスラエル軍の駐留容認=西岸に和平後3年以内―パレスチナ議長****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は28日にテルアビブで開催された会議で放映されたインタビューで、イスラエルとの和平成立後も、イスラエル軍が占領地ヨルダン川西岸から段階的に撤退するまで3年以内の駐留を容認する考えを示した。【1月29日 時事】 
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こうした柔軟姿勢が、イスラエルへの強硬論を主張する勢力も強いパレスチナ内部で容認されるのかどうかは不透明です。

イスラエル内部も硬軟様々です。
対パレスチナ強硬派のイスラエルのヤアロン国防相は、アメリカ・ケリー国務長官を「救世主気取り」「ノーベル省目当て」と酷評し、国務長官の示した治安対策についても「紙くず同然」と切り捨てています。

****イスラエル:国防相が批判 パレスチナ和平協議、ケリー氏は「ノーベル賞狙い****
イスラエルのヤアロン国防相・AP=が関係者らとの懇談の席上、イスラエルとパレスチナの和平交渉を仲介するケリー米国務長官=について、ノーベル平和賞受賞が目当てで「不可解な執着」と「理想主義」にとらわれているなどと酷評していたことが分かった。イスラエルのイディオト・アハロノト紙が14日、伝えた。

米国務省のサキ報道官は同日、事実なら「無礼で不適切な発言」と不快感を示した。

地元テレビによると、ヤアロン国防相は最近、一部記者団に和平交渉についての見解をオフレコで述べた。その際、長官について「ノーベル賞を受賞していなくなってくれれば、唯一の救いになるのではないか」と指摘。また、ケリー長官は「不可解な執着と理想主義の感覚で(仲介を)やっているが、私にパレスチナ人との紛争について教えることなどできない」と語ったという。

ヤアロン国防相はパレスチナ自治区の治安対策に長年関わってきた。ケリー長官は交渉の中でパレスチナ自治区の治安対策に関する提案をし、ヤアロン国防相はその内容に強く反発したとされる。

米国務省の反応を受け、ヤアロン国防相の事務所は14日夜、「長官を攻撃する意図はなかった」とのコメントを出した。イスラエルのネタニヤフ首相も同日夜、「我々は国務長官と協力して(和平交渉に)臨んでいる」などと述べた。【1月16日 毎日】
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一方、イスラエルの国際的孤立を懸念するペレス大統領は、イスラエルが目指すべき道は和平しかないとの考えを述べ、パレスチナ和平の進展に強い意欲を示しています。

“パレスチナとの交渉以外の選択肢はない。戦争で世界を征服する時代は終わった。今年中に交渉の結果が出ることを望むが、確信は持てない。新たなユダヤ人入植地の建設はやめるべきだ。ヨルダン川西岸在住の入植者が住むことになる三つの地区を設けるといった解決策をパレスチナ側と合意すべきだ。”【2月6日 朝日】

ただ、イスラエルでは政治の実権は国家元首の大統領ではなく、首相(現在は右派のネタニヤフ氏)にあります。

肝心の交渉内容ですが、アメリカの提案内容について一部が明らかにされています。

****和平交渉の内容・一部公開 *****
イスラエルとパレスチナの間で非公開で行われている和平交渉について。仲介に当たっているアメリカのインディク氏が、合意に向かっているとするポイントを一部開示した。

①パレスチナ・ユダヤ難民への補償
それによると、イスラエルの建国によって発生したパレスチナ難民に補償が行われる。また当時、イスラエルの建国によって、アラブ諸国から追放され難民となったユダヤ人がいたが、補償は、そのユダヤ難民も対象となる。

②西岸地区の入植地75-85%は残留
問題の西岸地区の入植地だが、インディク氏によると、75-85%の入植地はそのままの場所に残留となる。
その分の土地は、1967年六日戦争勃発前のいわゆる「グリーンライン」を基準に、他の部分の土地と交換される。

入植地のユダヤ人が、西岸地区に残留して将来パレスチナ国家の元にはいるかどうか物議をかもしたが、これについては最終合意まで保留にされることとなった。

インディク氏によると、パレスチナ側は、パレスチナ国家からユダヤ人をすべて追放するという考えはないという。

③ヨルダン渓谷に無人の監視システム?
西岸地区とヨルダンの間(ヨルダン渓谷)について、イスラエルは、治安維持のため軍の駐留を主張し、パレスチナ側はユダヤ人は1人もいてほしくないと主張する問題の地域。

そのヨルダン渓谷については、緩衝地帯として、監視設備付きのフェンスの設立し、アメリカが協力して無人の監視を行うとしている。

エルサレムについては、明確な方向性は示されていない。(後略)【2月1日 石堂ゆみ氏 「オリーブ山便り」】http://mtolive.blog.fc2.com/blog-entry-670.html
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妥協案は双方の主張の中間にありますので、当然ながら双方の強硬派からは不満・批判がでます。
まとめられるかどうかは、ネタニヤフ首相とアッバス議長が双方内部の不満を抑えられるかどうかにかかっています。
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中国  新疆ウイグル自治区での引き締めを強める習近平政権 出口のない民族問題

2014-02-17 21:58:24 | 中国

(新疆ウイグル自治区カシュガルの街角で “flickr”より By Eric Lafforgue http://www.flickr.com/photos/41622708@N00/8127164546/in/photolist-doaQSE-dwq6YC-doaHRV-dApzkT-dxVHAQ-dwjy9i-dxVJKY-dBkJpc-dAv48C-7Xg9jJ-7Xa9KL-7VK3AH-7G1CSE-7VK1Qt-7VJWkT-7Cabvc-7VDUTD-7VJZhr-7BW1Vr-7BW67k-7VH6nq-7VHa4j-7VH5vh-95kLFh-dsZKDQ-7FbBH5-dAv5um-doaNte-dveMm2-dwjtXT-dxVFzy-doaS8R-e776Dx-dBraww-dwq3RC-dxVK8s-drULQ1-dBkTkR-e776dR-dvkoGm-dveMBR-dNZUwY-dMt4fp-dvkmg3-dsZKBY-e7cJqJ-dxQeoz-dKQakq-7XfR4r-eiq43e-dMyB2m)

散発する「テロ事件」】
新疆ウイグル自治区では、チベットと並ぶ中国の重大な民族問題が続いています。

中国政府にとっては譲る余地のない「核心的利益」ですが、イスラム教徒ウイグル人にとっては漢族による圧政への抵抗運動です。

“中国最西の広大な新疆ウイグル自治区では、過去何年にもわたり主としてイスラム教徒のウイグル人による散発的な事件が起きている。人権団体は、漢族による文化の抑圧、押し付けがましい治安対策や移住政策で、ウイグル人は追いこまれているとしている。”【1月25日 AFP】

“散発的な事件”のひとつとして、今月14日にも公安(警察)車両が武装グループに襲撃されたそうで、中国政府は「テロ事件」と断定しています。

****中国:警察車両襲撃「ウイグル族テロ****
中国新疆ウイグル自治区西部のアクス地区で今月、警察のパトロール車などが襲撃される事件が起きたが、政府系ニュースサイト「天山網」は16日、襲撃はウイグル族によるテロ事件だったと報じた。

警察は8人を射殺し、現場周辺は、厳重な警備態勢が敷かれている模様だ。

事件は14日に起きた。報道によると、中心人物のウイグル族とみられるリーダーが、3年前から極端な思想の宣伝を開始。昨年9月から計13人のグループを組織し、襲撃を実行したとしている。【2月17日 毎日】
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1月24日には、新疆ウイグル自治区アクス地区トクス県で、爆発事件の捜査をしていた警察官に「暴徒」が爆発物を投げつけ、警察官が6人を射殺したほか、5人を拘束、別に6人が自爆して死亡したと報じられています。
襲撃者の民族は明らかにされていませんでしたが、地元公安当局は「テロ事件」と断定しています。

締め付け強化への反発で高まる緊張
昨年末、12月30日にも、カシュガル地区ヤルカンド県で武装グループが公安施設を襲撃する事件があり、公安当局は8人を射殺し、1人を拘束したとされています。

下記記事は、昨年6月にホータンで起きたとされる“襲撃事件”の実情を報じたものです。

****中国・習政権、ウイグル締め付け強化 モスクの礼拝中止、家に突然押しかけ****
中国の新疆ウイグル自治区で、習近平(シーチンピン)政権が少数民族のウイグル族に対する圧力を強めている。

自治区で事件が起きると、「テロ」や「過激派」の脅威を喧伝(けんでん)してさらに締め付けを強化。
一方のウイグル族には、漢族を中心とする共産党政権に対する反発が根強く、互いの不信がさらに緊張を高める状況だ。

自治区南部ホータンの農村部を訪ねると、モスクの入り口には鍵がかけられ、出入りできなくなっていた。ウイグル族の男性(32)は「モスクを使えなくするなんて、我々の宗教活動には大きな問題だ」と当局への不満を口にした。

ここに向かったのは、自治区政府系のニュースサイト「天山網」に昨年6月、不可思議なニュースが載ったからだ。「ホータンで武器を持った集団が騒ぎを起こした。公安当局が速やかに対応。騒ぎを起こした人物を拘束し、事態は静まった。大衆に死傷者はいない」

一体何が起きたのか。複数の地元住民の話によると、いきさつはこうだ。

昨年6月28日午後、当局者がモスクを訪れ、「違法な宗教活動をしている」として礼拝を中止させた。
怒った参加者から「政府に抗議しよう」との声が上がり、大勢の住民が地元政府庁舎に向かった。
警察が出動し、住民が相次いで拘束された。人数は不明だが、一連の衝突でけが人や死者も出たとみられる。

モスクは事件後、立ち入りが一部制限されたが、今年に入って完全に使えなくなってしまったという。

モスクから遠くない場所で、息子が当局に拘束されたままだという夫婦に出会った。
父親(65)によると、三男のメットルスンさん(27)は宗教指導者の立場にあったが、昨年5月に当局によって解任させられた。その後は街で鶏を売って生計を立てていたが、衝突の報を受け、その日急きょ地元に戻った。

当局からの求めに応じて派出所に出向いたところ、拘束された。「極端な宗教思想を違法に広めた」との理由だった。母親(57)は「息子は何も悪いことはしていない。無実だ」と言って泣いた。

ホータンで教育関係の仕事をしているウイグル族の20代男性は、6月の事件以降、当局による締め付けが一段と強まったと感じている。
当局者がウイグル族の家に突然押しかけたり、道で身分証の提示を求めたりすることが増えた。

「公務員になったウイグル族は職場でいつまでも出世できない。漢族とウイグル族がけんかをしても、警察はウイグル族だけ捕まえて取り調べる」と差別的な待遇を訴えた。【2月16日 朝日】
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この昨年6月28日の“ホータン襲撃事件”の直前には、6月26日にトルファン地区で派出所などが襲撃され、計35人が死亡したとされる事件があり、また、7月5日は漢族ら約200人が死亡した2009年の区都ウルムチでの大規模暴動から4年となることもあって、6月29日、習近平国家主席は早期の事態収拾と地域の安定を図るよう命じ、自治区各地で厳戒態勢が敷かれました。

その後、10月28日には「天安門突入・炎上事件」が起きています。

一方からの情報だけで即断はできませんが、上記【朝日】記事を読む限りは、地域実情を無視した当局の締め付けが住民の不満・怒りを大きくしているようにも思えます。

中国政府は、自治区の開発によって住民は大きな利益を得ているとしていますが、その開発の在り様も住民の意思や地域の文化を無視したところがあるようです。

****開発優先、墓地取り壊し****
区都ウルムチから車で約2時間。石河子には、イスラム教の慣習に従ってウイグル族の死者が埋葬されている墓地がある。200~300年ほどの歴史があるとされる。

ところが、中国メディアなどによると、開発業者が20億元(約335億円)を投資し、ここにショッピングセンターなどを建てる計画が進んでいる。地元政府は開発を認め、墓地の取り壊しを決定。すでに墓の一部が撤去されたという。

住民は2012年末から、この計画に反対の声を上げている。デモや座り込みには、多い時に約1千人が参加した。

両親と祖父母をここに葬った男性(45)は「空港や道路、学校をつくるというなら話は別だが、私企業のためというのは絶対反対だ」と語る。

親類十数人が埋葬されているという男性(47)は「イスラム教徒のことがまるで考慮されていない。開発業者の利益がそんなに大事なのか」と地元政府への怒りをぶちまけた。

墓地にはほかの少数民族が使う一画もあり、回族の住民らにも反対の声が広がっている。【同上】
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墓地を取り壊してショッピングセンターを・・・というのは、いかにも乱暴なやり方です。
これではいくら資金を投下して開発しても、ウイグル人の共感を得ることはないでしょう。
そもそも、共感を得ようとする意向がないとも思えます。

ねじ伏せられた“漢族とウイグル族を結ぶ橋”】
“漢族とウイグル族を結ぶ橋になりたい”として、ウイグル族の境遇改善を訴えてきたウイグル族経済学者も、当局に連行されて1か月が経過しました。

****弁護士面会さえ許されず ウイグル族学者連行から1カ月****
中国でウイグル族の境遇改善を訴えてきた経済学者、イリハム・トフティ氏(45)が公安当局に連行されて1カ月が過ぎた。

家族は居場所や容疑も教えられず、弁護士は面会もできないまま。当局は政治犯として重い罪に問う構えで、関係者は懸念を深めている。

「公安が自分を捕まえようとしているようだ」
1月、北京市内の自宅を訪ねた知人に、イリハム氏は表情を曇らせて語った。
昨年10月、天安門前に車両が突入した事件の後、イリハム氏の車に当局の車が衝突するなど圧力が高まっていた。

新疆ウイグル自治区ウルムチ市公安局がイリハム氏拘束への協力を北京市公安局に求めているとの情報を耳にしていたらしい。

数日後の15日、イリハム氏の自宅に両市の公安当局者数十人が押しかけた。前後して連行された中央民族大学のウイグル族学生らの消息も途絶えたままだ。
弁護士は同月27日、ウルムチ市に向かい公安当局に面会を求めたが、「調査中」を理由に拒まれた。

同市公安局はその2日前、ブログで、イリハム氏が「(大学の)授業でウイグル族による暴力抗争を呼びかけた」などとして「国家分裂活動に従事していた確かな証拠がある」と宣伝。
当局はイリハム氏を国家分裂罪などの重罪に問おうとしているとの見方が関係者の間で強まっている。

イリハム氏と親交のある漢族男性は「彼が訴えたのはウイグル族による自治だ。独立志向の強い在外ウイグル組織とは距離を置いていた」と話し、「彼は漢族とウイグル族を結ぶ橋になりたいと言っていた。その彼を追い込めば、徹底抗戦を唱える過激派の主張が説得力を持つことになるだろう」と懸念する。【2月16日 朝日】
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歴代共産党政権と同様に習近平政権も、チベットやウイグルという「核心的利益」で譲る気配はなく、強圧的な施策を強めています。

この民族問題に関する頑なさは、単に共産党政権の姿勢というだけでなく、漢族国民の意向でもあるでしょう。
国内の政治・経済・社会問題に関しては、国民の不満への対応として共産党政府の施策が変化する余地もありますが、漢族国民への共感が広がらない民族問題については、残念ながら政権の姿勢変化も望めません。

押さえつけられた不満・怒りは、いつかまた何かの機会に暴発するのでしょう。
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温暖化による海面上昇  “水没する国”は移住計画など検討

2014-02-16 22:19:20 | 環境

(キリバス 堤防を越えて押し寄せる海水 【2012年3月9日 NBC News】http://worldnews.nbcnews.com/_news/2012/03/09/10618829-as-sea-levels-rise-kiribati-eyes-6000-acres-in-fiji-as-new-home-for-103000-islanders

アメリカ:記録的寒波で「温暖化懐疑論」】
温暖化の話を取り上げるたびに触れているように、長期にわたる変動であり、短期的には逆方向へのブレもある気象変動について、生活実感的に把握するのは非常に困難です。

この冬に記録的な寒波に襲われたアメリカでは、温暖化を否定するような議論が高まっているそうです。

****アメリカ大寒波で温暖化否定論が噴出****
過去20年間で最も厳しい寒波は、地球の気候が本当に温暖化しているのかと、人々に疑問を投げかけている。

保守派Webサイト「Breitbart.com」は、この大寒波を地球温暖化“でっち上げ”の証拠と呼んだ。
また、実業家のドナルド・トランプ氏はツイッターで、「今我々はここ20年で一番の寒波を経験しているが、ほとんどの人がこのような寒さを記憶していない。これが地球温暖化?」とつぶやいた。

しかし気候科学者たちは、今回の天候により現行の気候モデルが無効になるわけではなく、今週の極渦に対するさまざまな反応は、人々が寒さを忘れてしまったことを示しているという。

ここ数日、中西部の一部地域では気温が摂氏マイナス40度、体感温度に至ってはマイナス51度にまで低下し、はるか南のアラバマ州やジョージア州でもここ数年で一番の寒さを経験した。また、それによって20人以上の死者が確認されている。

テキサス州共和党上院議員テッド・クルーズ氏は、「寒いな。アル・ゴア氏は、こんなことは起こらないと私に言ったのに」とからかった。

ソーシャルメディア上では、凍りついたアル・ゴア氏の写真が人々の間を行き交っている(テレビ番組「The Daily Show」の中で、キャスターのジョン・スチュワート氏もその様子についてからかった)。
(後略)【1月10日 ナショナル・ジオグラフィック】
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温暖化対策に取り組みたいオバマ政権は、こうした「温暖化懐疑論」の高まりを警戒しています。

****記録的寒さでも「温暖化否定しない」ホワイトハウス見解****
いま寒いからといって、地球温暖化が起きていないと考えないで――。米ホワイトハウスは8日、米国で先週から続いた記録的な寒波は、地球の温暖化を否定することにはならないとする見解を発表した。

野党共和党などに根強い「温暖化懐疑論」が高まるのを抑える狙いがあるとみられる。

ホルドレン大統領補佐官(科学技術担当)はビデオメッセージで「寒波は温暖化が起きていない証拠だという話を信じないでほしい」と呼びかけた。(後略)【1月10日 朝日】
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温暖化に関する「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の主張を認めるか否かは別として、少なくとも“今現在寒いことは、長期的な変動である温暖化の妥当性の判断には全く関係ない”というのはサルでもわかる当然の話ですが、アメリカ人は・・・・。

まあ、アメリカ人というのは“米国人のおよそ4人に1人は地球が太陽の周りを公転していることを知らなかった。人間が原始的な生物から進化したことを知っていたのは半数に満たない48%だった。”【2月15日 AFP より】といった国民ですから。

今世紀中の海面上昇量が1 - 2mを超える可能性も
話が横道にそれました。
温暖化の話にもどすと、そのひとつの現象とされるのが「海面上昇」
これも、生活実感的にはわからないものです。

一応、IPCCの報告では以下のようになっています。

****海面上昇量の予測*****
地球全体の気温が上昇し、陸上の氷床・氷河の融解や海水の膨張が起こると、海面上昇(海水準変動)が発生する。(中略)全地球的には温暖化により海面が上昇していると考えられている。

(IPCC)第4次報告書によれば、実測による海面水位の平均上昇率は、1961 - 2003年の間で1.8±0.5mm/年、20世紀通して1.7±0.5mm/年だった。
また、ここ1993 - 2003年の間に衛星高度計により観測された海面上昇は3.1±0.7mm/年と大きかった。

そのうち熱膨張による寄与がもっとも大きい値を示しており(1.6±0.5mm/年)、ついで氷河と氷帽の融解(0.77±0.22mm/年)、グリーンランド氷床の融解(0.21±0.07mm/年)、南極氷床の融解(0.21±0.35mm/年)の順で寄与が大きい。(中略)

2100年までの海面上昇量の予測は、IPCCの第3次報告書 (2001) では最低9 - 88cm の上昇、第4次報告書 (2007) では、最低18 - 59cmの上昇としている。

しかしこれらのIPCCのモデルでは西南極やグリーンランドの氷河の流出速度が加速する可能性が考慮に入っていない。
近年の観測では実際に大規模な融雪や流出速度の加速が観測されていることから、上昇量がこうした数値を顕著に上回ることが危惧されている。

AR4以降の氷床等の融解速度の変化を考慮した報告では、今世紀中の海面上昇量が1 - 2mを超える可能性が複数のグループによって指摘されている。(中略)

2011年、NASAの研究者でカリフォルニア大学アーバイン校(UCI)の地球システム科学教授であるエリック・リグノ氏は、南極やグリーンランドの氷河流出も考慮したうえで、2050年までの海面上昇を32cmと予測した。【ウィキペディア】
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【“水没する国”キリバスの国民をフィジーが受入
“2050年までに32cm”とか“今世紀中の海面上昇量が1 - 2mを超える”ということになると、日本を含めて世界中が深刻な影響を受けますが、海面下に消えてしまう島国もありえます。
南太平洋のツバル、キリバスあるいはインド洋のモルディブといった国々です。

そうした国々にとっては、遅々として進まない国際的な温暖化防止への取り組みは全くあてにできないものに過ぎず、移住計画が国家プロジェクトとして検討されています。

****キリバス人全員の移住も=気候変動で国土水没なら―フィジー*****
気候変動による海面上昇で国土が水没の危機に直面している太平洋の島国キリバスに対し、南太平洋の小国フィジーが「いざとなれば全員受け入れる」と申し出ている。フィジーのナイラティカウ大統領が11日、キリバスの首都タラワを訪問した際、公式に表明した。

キリバスを構成する島々の海抜は平均2メートル。海岸線がじわじわ住宅地に迫り、飲み水に塩が混じるようになってきた。海外集団移住も危機感を帯びて語られるようになっているが、先進国は積極的に受け入れる姿勢を見せていない。

ナイラティカウ大統領は「国際社会が温暖化を止められなければ海面は上昇するが、難民になることはない。キリバス人は堂々と(フィジーへ)移住できる。キリバス人の魂は新天地で生き続ける」と約束した。ニュージーランド北方沖約2000キロにあるフィジーの首都スバから、さらに北へ約2000キロ、赤道を越えた海域にタラワは位置する。

キリバスの人口は10万人。フィジーは90万人だが、人口の3分の1は貧困層だ。実際に受け入れ能力があるのか疑問視する見方もある。ただ、キリバスは既にフィジーに広大な農地を購入。塩害でキリバスが耕作不能になる事態に備えており、両国のつながりは深い。【2月16日 時事】 
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ともに南太平洋の島国である両国で、人口では“キリバスの人口は10万人。フィジーは90万人”ですが、面積ではフィジーはキリバスの22倍ほどです。

5年以上前にも、モルディブにおける、毎年の観光収入の一部を国土購入資金として積み立てる国土購入計画が報じられていました。

“(インド洋の島国モルディブで10月の選挙で当選したナシード)次期大統領は既に数カ国に打診しており、好感触を得ているとしたうえで、よく似た文化と気候を持つインドやスリランカ、それに国土が広大なオーストラリアを候補地に挙げた。また、観光資金を元に、幾つかのアラブ諸国のような国家ファンドを創設する計画だと語った。”【2008年11月10日 AFP】

キリバスの場合は、相手国フィジーが協力的なことは心強いところです。フィジーにはフィジーの思惑もあるのでしょうが。
生活環境も似ているので先進国への移住などよりは住みやすさはあるでしょう。食べていけるのか・・・という現実問題はありますが。


ニュージーランド:「気候変動難民」を否定
こうした国家的移住計画の他に、個人的に「気候変動難民」の認定を求める試みもありますが、現状では難しいようです。

****世界初の「気候変動難民」認定、NZ最高裁が退ける****
ニュージーランドの最高裁判所は26日、世界初の「気候変動難民」の認定を求めた太平洋の島しょ国キリバスの男性の訴えについて、「説得力が不十分」として退ける判決を下した。

キリバスのイオアネ・テイティオタさん(37)の弁護士は、国土の海抜が低いキリバスが海面上昇の脅威にさらされているとして、ニュージーランドの査証(ビザ)が期限切れになったものの、テイティオタさんを本国に送還するべきではないとして、訴えを起こしていた。

キリバスは30を超える環礁からなる国で、環礁の多くは海抜数メートルしかない。テイティオタさんの弁護士は、本人と家族が本国に送還された場合に遭遇する困難を考慮して、ニュージーランド当局はテイティオタさんを難民として認定するべきと主張していた。

最高裁判所のジョン・プリーストリー裁判官は26日、判決文の中で、キリバスが台風や洪水、水の汚染など気候変動に起因する環境悪化に直面していることを認めつつも、国際的に認知された国連(UN)の難民条約の下では、帰国した場合に迫害を受ける恐れがあることを難民の条件と定めており、テイティオタさんはこの条件を満たしていないと述べた。

テイティオタさん側は、キリバス政府に対処不可能な気候変動により、「受動的な迫害」を環境から受けていると主張していたが、裁判官はこの主張を退けた。

またプリーストリー裁判官は「より広いレベルで言えば、彼らの訴えが支持され、他の司法管轄区域でそれが採用されれば、中期的な経済的貧困、あるいは自然災害や紛争による即時的な影響、また気候変動がもたらしたと推定しうる困難などに直面した大勢の人々が、難民条約の下で保護される権利を有することになる」と述べ、「その意味で難民条約の範囲を変更することは、ニュージーランド最高裁の役目ではない。その変更を望むのであれば、それは各主権国家の立法機関の役目である」と続けた。

国連は、ツバルやニュージーランド領トケラウ、モルディブなどと並んでキリバスを気候変動により「国土を失う」恐れのある島しょ国の1つとしている。【2013年11月26日】
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先進国としては「気候変動難民」が押し寄せてくるような事態は避けたい・・・というのが本音でしょう。
そこは日本も同様ですが、かつてキリバス大統領からは日本に対し、難民として国外に移住することを可能にする職業訓練などの支援策を求める発言もありました。

****我が国は海に沈む」キリバス大統領が全10万人移住計画****
地球温暖化に伴う海面上昇により、国土が水没の危機にひんしている太平洋の島国キリバスのアノテ・トン大統領(55)は本紙と会見し、「我が国は早晩、海に沈むだろう」と明言。
国家水没を前提とした上で、国民の脱出を職業訓練などの形で側面支援するよう、日本など先進各国に要請した。

首都タラワの大統領官邸で、30日、インタビューに応じたトン大統領は、キリバスの水没は不可避との見方を強調、「小さな我が国には海面上昇を防ぐ手だてなどなく、どうしようもない」と述べた。

国際社会の取り組みについても、「温暖化は進んでおり、国際社会が(2013年以降のポスト京都議定書の枠組みなどで)今後、どんな決定をしても、もはや手遅れだ」と明確に悲観論を展開した。【2007年9月1日 読売】
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海面上昇しても沈まない?】
なお、ツバルやキリバスが本当に海面下に沈むのかどうかについては異論もあるようです。

****温暖化:「海面上昇でもツバル沈まず」 英科学誌に論文****
太平洋の島々は成長を続けており、海面が上昇しても沈むことはない」--。そう主張する研究論文が英科学誌「ニュー・サイエンティスト」に掲載され、議論を呼んでいる。

ツバルやキリバス、ミクロネシア連邦など南太平洋の島々は温暖化による海面上昇の影響で、将来的には地図上から消える「沈む島」と呼ばれてきた。

論文のタイトルは「変形する島々が海面上昇を否定」。
過去60年間に撮影された航空写真と高解像度の衛星写真を使い、ツバルやキリバスなど太平洋諸島の27島の陸地表面の変化を調査した。

その結果、海面は60年前よりも12センチ上昇しているにもかかわらず、表面積が縮小しているのは4島のみ。23島は同じか逆に面積が拡大していることが明らかになった。ツバルでは九つの島のうち7島が3%以上拡大し、うち1島は約30%大きくなったという。

拡大は「浸食されたサンゴのかけらが風や波によって陸地に押し上げられ、積み重なった結果」であり、「サンゴは生きており、材料を継続的に供給している」と説明。1972年にハリケーンに襲われたツバルで、140ヘクタールにわたってサンゴのかけらが堆積(たいせき)し、島の面積が10%拡大した事例を紹介している。

研究に参加したオークランド大学(ニュージーランド)のポール・ケンチ准教授は「島々が海面上昇に対する回復力を備えていることを示す」と指摘し、「さらなる上昇にも対応する」と予測。

一方、海面上昇が農業など島民生活に影響を与えることは避けられないとして、「どのような地下水面や作物が温暖化に適応できるか調べる必要がある」としている。【2010年6月9日 毎日】
***************

海面上昇はあるが、それ以上に島が成長拡大している・・・という話ですが、門外漢にはその妥当性は判断できません。
衛星写真等による“事実”だとのことですが、キリバスなどで土地が浸食され、海水が宅地・農地に押し寄せ、井戸にも海水が混じる・・・というのも“現実”でしょう。
どのように考えたらいいのか・・・よくわかりません。
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少子化問題  事実婚・婚外子に関する日本の事情

2014-02-15 21:57:17 | 人口問題

(【社会実情データ図録】http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1520.html

【「これでは日本は国家としての体裁をなさなくなる」】
これからの日本にとって「少子化」の問題が決定的に重要であることは言うまでもないことです。

**************
日本の人口は2010年時点で1億2800万人。国立社会保障・人口問題研究所の昨年の予測(中位推計)では38年に1億900万人、60年に8700万人、今からほぼ100年後の2110年に4300万人へ急減する。

これでは日本は「国家としての体裁をなさなくなって」(中曽根康弘元首相が会長を務めるシンクタンク「世界平和研究所」の提言)しまう。国民の生活も成り立たない。経済協力開発機構(OECD)などの2050年のGDP予測では、「日本は第4位から第9位程度に後退」(同)する。【2013年11月3日 産経】
***************

人口が減少すれば“国民の生活も成り立たない”かどうか?については異論もあります。
社会全体を転換していけば、人口減少にも対応できるという考えもあります。
今回は、そのあたりの議論はパスします。

少子化・人口減少への対応策として、上記【産経】は非常に産経らしく、憲法改正による家族制度重視を主張しています。

****出生率「2」を目指せ 人口減は国家存亡の危機****
・・・・(シンクタンク「世界平和研究所」の提言は)具体策としては、育児世代への所得再配分、高校までの授業料無償化、非正規雇用の割合の低下、未婚率を下げていくことなどを挙げた。
高齢者には、納税などを通じ次世代を経済的に支える「日本という社会の親」だと自覚するよう、発想の転換を促している。

すべての前提として「子供は国の宝」というコンセンサスを形成し、出生率向上を目指す国民運動が必要だと訴えている。

子孫の世代を増やし、守っていくために大切な指摘だ。
だからこそ、提言は直接指摘していないが、世界平和研案、自民党案、産経新聞「国民の憲法」要綱にあるように、憲法を改正して、家族を保護し、重んじる条文を入れるべきなのだ。【同上】
*******************

少子化問題の解決のためには、結婚以外の選択肢を選べるように現状変更すべき
昨年の上記記事を引っ張り出したのは、下記の藤沢数希氏による婚姻を金融商品選択になぞらえた異色のレポートを目にしたからです。ただ、表現は別として、内容自体はそれほど突飛ではありません。

女性が自分より高収入の男性を婚姻相手として求めるが、女性の収入が増加するなかで、そういう相手を見つけることが難しくなっている。一方で、婚姻によらない「婚外子」出産は日本社会ではまだ大きな制約がある。

そうした日本の結婚制度の欠陥が少子化の原因でるから、極端に言えば、舛添東京都知事のように愛人にたくさん子供を産ませることを含め、婚外子という新たな金融商品を選択できるようにすべきとの提案です。

****少子化の原因は、日本の結婚制度の欠陥にあり****
執筆者:藤沢数希
これまでに結婚というのは所得の高い男性にとって、いかにリスクの大きい契約であるか、ということがわかっただろう。そして、女性にとっては、自分より所得の低い男性と結婚するのは苦行でしかない。

筆者は何も、愛より金、などとつまらないことを言おうとしているのではない。
実際に、女性は自分より貧乏な男性のことを好きになったならば、思う存分恋愛をすればいいし、ときに子供を作ることも大いにけっこうだと思っている。

ただ、その場合は、結婚という金融取引をしないほうが得だと言っているだけだ。なぜなら、結婚してしまえば、自分より貧乏な夫まで扶養する義務が生じてくるからだ。

法律は男女平等である。結婚すると、稼いでいる夫が妻に金銭を支払う義務があるならば、同様に、稼いでいる妻は夫に金銭を支払う義務が生じるのだ。
だとするならば、貧乏な男を好きになったら、結婚しないで付き合い続けるほうが得だという単純な話だ。

その逆もまた真なり、である。自分より所得の高い相手と結婚することは、金融取引の観点から言って、大いに得する。
実際のところ、多くの女性は、結婚制度の法律の詳細を知らなくても、自分より稼いでいる男性と結婚しようと思っている。いわゆる、年収○○万円以上、というやつである。そして、金融取引の観点からそれは正しい。

さて、第20話で述べた通り、日本は諸外国と比べて婚外子が極端に少ない国である。日本の法律がとりわけ婚外子に厳しいわけでもないので、これは多分に文化的なものであると思われる。
とにかく、日本人は結婚しないと子供を産んではいけない、と思い込んでいるのである。

ここにもうひとつ面白いデータがある。(中略)2009年度の「30歳未満の勤労単身世帯の男女別1か月平均実収入及び消費支出の推移」(総務省)を見てみると、実収入のうち、男性の可処分所得が21万5515円なのに対し、女性は21万8156円となっており、調査開始以降初めて男女の可処分所得が逆転したのだ。

現在、日本の産業はサービス業が主流になって来ており、販売店員などは、コミュニケーションが得意な女性のほうが好まれる。こうした中で、ついに20代の可処分所得は男女逆転してしまっているのだ。

女性は自分よりも所得が高い男性と結婚したいのだし、本連載で解説してきた通りに、それは極めて正しい考えである。

一方で、結婚適齢期の男女の可処分所得の水準は、ついに逆転してしまうところまで来たのだ。
つまり、当たり前だが、女性は自分より所得が高い男性を見つけるのがどんどん困難になっている。

少し古いデータになるが、平成17年の独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が分析した「若者就業支援の現状と課題」と題する研究論文によれば、やはり所得が高くなるほど男性の婚姻率は急激に高まっている。

年収が1500万円以上の場合、25歳‐29歳の男性の74%がすでに結婚しており、30歳‐34歳の場合はなんと90%がすでに結婚している。しかし、年収が500万円より下になっていくと、男性の婚姻率は一気に下がっていく。

つまり、金持ちの男性はすぐに売れていき、そうした金持ちの男性と結婚できなかった女性は、未婚を選んでいるのだ。そして、日本では、前述のように、主に文化的な制約から、結婚してからでないと子供を産んではいけないのだから、結果的に少子化になるのは当たり前なのである。

筆者は長年にわたり、金融機関で多くの複雑な金融商品の開発に取り組んできた。そうした金融工学の観点から言うと、現在の日本の少子化問題は、結婚という金融商品の欠陥が大きく関係していると考えている。(中略)

現代の日本の結婚制度というのは、金持ちの男性と結婚できたほんの一握りの女性だけが限りある利益を独り占めする構造になっている。いったん結婚したら、その既得権益は法律で守られるからだ。

そして、そうした男性と結婚できなかった女性は、未婚を貫き、生涯子供を産まない、という選択に追い込まれる。これこそが少子化問題の本質だと筆者は考えている。

つまり金融商品に例えるならば、女性には、金持ち男性と結婚して子供を作る、という非常にめぐまれた選択と、誰とも結婚せずに生涯子供を産まない、という選択のふたつしかなく、その中間の選択肢がほとんどないのが現状なのである。
ここは金融商品の開発のように、その中間のバラエティを増やすべきではないだろうか。

そのひとつは言うまでなく、先の東京都都知事選で勝利した舛添要一氏のように、愛人として子供を産む、という選択肢であろう。
日本も昭和初期まで妾というのはふつうであった。これは当然、正妻の既得権益を毀損することになるが、結果として、多くの女性が恩恵を受けるのではないか。

また、中所得者同士の結婚では、籍を入れずに子供を作り、同棲するというような、欧米先進国できわめて一般的に見られる家族の形がもっと増えてもいいだろう。
シングルマザー、シングルファーザーでも仕事を続けられるように、保育所の整備をしたり、国からの補助金を増やしてもいいかもしれない。

日本の少子化問題の解決には、あまりにも強固な結婚という契約以外に、家族を作る選択肢がない、というような現状を、まずは打破する必要があると筆者は考えている。【2月15日 フォーサイト】
******************

可処分所得が男女で逆転しているということは初めて知りました。

社会の在り方は、どうしたら食べていけるかという経済的条件に基づいていると考えます。
生産手段の向上、所得水準の向上に伴って、「村落共同体→大家族→核家族」と生活単位が次第に小規模化しているのが長い人類の歴史であり、この流れはやがて「核家族→個人」ということになるのだろう・・・と、私は昔から考えています。男女の可処分所得逆転はこの流れを加速させるものと思われます。

個人的には、“憲法を改正して、家族を保護し、重んじる条文を入れるべき”といった窒息しそうな議論より、“シングルマザー、シングルファーザーでも仕事を続けられるように、保育所の整備をしたり、国からの補助金を増やしてもいい”という形で婚外子を社会的に認知していく方が馴染みます。

日本の婚外子が非常に少ないこと、合計特殊出生率が2を超えるという輝かしい成果を達成しているフランスでは婚外子が約半数を占めるということは、事実です。

婚外子に関しては、欧米諸国と日本では決定的な差異があり、この点を素通りした議論は無意味でしょう。


(【社会実情データ図録】http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1520.html

日本は遅れているのではなく、進みすぎていて、未婚のカップルと婚外子が少なくなっている
さきほど“この流れはやがて「核家族→個人」ということになるのだろう”という個人的な思いを書きましたが、欧米諸国がそういう流れにあるのに対し、産経が心配するまでもなく、日本では結婚制度が厳然として維持されています。

フランスでは、先ごろオランド大統領の恋愛問題からファーストレディ騒動が巻き起こりましたが、大統領が「事実婚」であるという点は全く問題になっていません。
(1月17日ブログ“フランス オランド大統領の「ファーストレディ」騒動 「結局、サルコジ前右派政権とどう違うのか」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140117

事実婚、婚外子に関してはアジアの中でも日本は低く、韓国と似たような状況にありますので、おそらく“儒教”的な社会習慣の影響があるのではないでしょうか。

“韓国では若年層の未婚率が日本以上に高くなっているのが目立っている。NHK海外ネットワークでは、「特集:韓国で急増「シングル族」」と題してこの点を報じている(2011年10月1日放映)。結婚して家族の中で果たさなければならない役割の大きさから、結婚せずに仕事に生き甲斐を見出す若い女性が増えているというのだ。”【社会実情データ図録】http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1538.html

事実婚・婚外子が欧米と比べて際立って少ない日本ですが、“日本は遅れているのではなく、進みすぎていて、未婚のカップルと婚外子が少なくなっているとも言える”との指摘があります。

**************
・・・・また、2013年9月4日の最高裁大法廷は裁判官の全員一致で、婚内子(嫡出子)と婚外子(非嫡出子)との相続分差別(後者は前者の2分の1)を規定する民法条項が違憲であるとする判断をはじめて示した。

「欧米諸国では1960年代以降、相続の平等化が相次ぎ、2001年にフランスが法改正すると、日本は先進国で唯一格差が残る国となった。」(東京新聞2013年9月5日)こうした判決を見ると、日本でも段々と婚外子を社会的に認知していく方向を辿っていると考えられる。

ただし、日本においては皆婚慣習がなお根強く、婚外子への風当たりも厳しい。このため、非正規労働者など若い貧困層が増えていても、米国とは異なり、結婚する余裕のない者は、男女のカップル形成に至らない、あるいはカップルを形成しても出産しないため、婚外子は少ないままなのだといえる。

もっとも、日本で、皆婚慣習が根強く、婚外子が少ない理由としては、他のアジア諸国と同様に古い家族形態が存続しているためというより、戦後、新しい自由な結婚制度が世界に先駆けて成立したからという見方も成り立つ。

日本国憲法は第24条1項で「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」としている。

「合意のみ」とは、年齢や健康上の理由、親や親族の意見・強制、あるいは宗教、教会や地域の慣習による制約などは法律上は認めないという意味であり、そうした制約を前提とした一切の法令上の規定は憲法違反となる。

この結果、役所への届出だけで婚姻が成立し、離婚も協議離婚が容易に認められるという世界でも最も簡便で自由な結婚制度が生まれた。

こうして、事実婚を選択する大きな理由が日本では欠落することになったことが、極端に低い婚外子比率にむすびついている側面もあろう。

そうした意味では、戦前の家制度等による伝統的結婚制度への反動が強かったため成立した世界で最も自由な結婚制度が、現代では、世界で最も遅れているかに見える極端に低い婚外子比率を生んでいることになろう。

すなわち、日本は遅れているのではなく、進みすぎていて、未婚のカップルと婚外子が少なくなっているとも言えるのである。

憲法改正の自民党案では、第24条について、「合意のみ」を「合意」に変更している。
家族・親族の絆、地域の絆を強める方向での婚姻、離婚の制度、つまり現行の欧米の制度に戻そうとする保守政党としてはもっともな改正案だと思われるが、改正の結果、見込まれるのは、おそらく意図とは反対の欧米レベルへの事実婚や婚外子の増加であろう。【社会実情データ図録】http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1520.html******************

******************
フランスやスウェーデンで同棲が多いのは、、フランスのPACS(パクス、連帯市民協約)やスウェーデンのサムボのように同棲を法的に保護する制度があり、これを利用して同棲している者も多いためである。フランスで正式に結婚するためには教会で挙式する必要があり、また離婚するには双方が合意していても裁判を行う必要がある。

これに対して、PACSのカップルになるのは裁判所に書類を提出すればよく、PACS を解消するにも書類を提出するのみでよいなど手続きが簡略化されている。

PACS を結んだカップルは、課税など一部は異なるものの、概ね結婚に準じる法的保護を受けることができる。スウェーデンのサムボも同様である。

日本の結婚・離婚は、双方の合意がありさえすれば、市町村への結婚届と離婚届の提出だけでよく、実は、フランスのPACSに近いものと言える。【社会実情データ図録】http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1538.html
*******************

なるほどね・・・・目鱗の指摘です。

なお、フランスのPACS(パクス、連帯市民協約)やスウェーデンのサムボのように同棲を法的に保護する制度がないままに、自民党の憲法改正案のような家族・親族の絆、地域の絆を強める方向での婚姻、離婚の制度の変更がなされた場合は、事実婚は増えても婚外子はさほど増えず、結果として出生率が更に低下するということもあるのではないでしょうか。
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タイ  4月27日再投票 政権側・反政府派ともに苦しい状況

2014-02-14 23:05:32 | 東南アジア

(【2月18日号 Newsweek日本版】 双方ともエンジンが弱っており、どちらが持ちこたえられるか体力勝負のようにも見えます。)

問題をひとつクリアしたインラック首相
タイでは依然としてタクシン元首相の妹であるインラック首相の即時退陣を求める反タクシン派の抗議行動が続いています。

事態打開を目指してインラック政権が強行した2月2日の総選挙は、反タクシン・反政府派の妨害行動によって、南部28選挙区で候補者が不在、全国77都県9万3952の投票所のうち約1割にあたる18都県1万139カ所で投票ができないという結果に終わりました。
(2月2日ブログ“タイ 総選挙実施するも「権力の半空白状態」の予測 軍部の動向と「見えないクーデター」”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140202

このため、総選挙の無効の訴えが野党側から出されていましたが、憲法裁判所はこの訴えを却下し、インラック首相としては一息つく形となっています。

ただし、下院開催に必要な議員が選定されておらず、選挙ができなかった地区での再投票が必要となっています。

****タイ憲法裁、議会選無効の申し立てを却下****
タイの憲法裁判所は12日、2日に投票が行われた議会選挙の無効と、インラック・シナワット首相が率いる与党の解散を求める野党・民主党からの申し立てを、根拠不十分で却下した。

反政府デモによって妨害された同選挙の無効化を求めた野党の訴えが退けられたことで、危機に直面しているインラック政権は後ろ盾を得た形だ。

議会選では、反政府のデモ隊が、拠点を置いている首都バンコク(Bangkok)と同国南部を中心に投票所1万か所で投票を妨害し、数百万人が影響を受けた。

選挙管理委員会は、全選挙区で投票が実施されるまで開票結果を発表しないと言明している。

インラック首相は、議会下院の定数500議席のうち95パーセントが確定し、新政権の発足が可能になるまで引き続き政権運営を担っていくが、権限は一部制限される。

一方インラック氏のタイ貢献党も、野党の抗議行動は民主主義制度の転覆を図るものだとして、同じく憲法裁判所に野党のデモの中止命令を求めていたが、同裁判所はこれも合わせて拒否した。

選挙管理員会は11日、デモによって投票が妨害された選挙区では4月27日に投票をやり直すと発表。ただし、デモ隊が出馬登録自体を妨害したため候補者がいない28の選挙区の扱いをどうするかについてはまだ結論を出していない。【2月13日 AFP】
******************

これまでサマック元首相失職やタクシン派与党の解散など、「司法クーデター」とも言えるタクシン派に厳しい姿勢をとってきたタイ司法ですので、無効判断が出る可能性も高いと見られていましたが、今回はあからさまな政治介入は避けたようです。
与党側の働きかけが奏功したのか、純粋な司法判断なのか、その背景はよくわかりません。

経済への影響も懸念
いずれにせよ、再投票が4月27日ということで、新政権発足は5月以降となり、それまではインラック政権は選挙管理内閣として権限が制約されます。

政治の麻痺が長引くことで、タイ経済への影響も懸念されています。

****タイ、一部で4月に再投票―新政権発足は5月以降に****
タイの選挙管理委員会は11日、今月2日の総選挙の際に反政府デモ隊の妨害で投票できなかった一部選挙区で、4月に再投票を行うと発表した。このため新政権の発足は少なくとも5月まで遅れる公算が大きい。

デモ隊の妨害で選挙が実施できなかったバンコクの一部やその他十数カ所の選挙区での再投票は4月20日(期日前投票)と27日に行われる。選管が記者会見で明らかにした。

世界銀行バンコク事務所の上級エコノミストは11日、今年のタイの経済は反政府デモがいつまで続くか、新政権発足までどのくらいかかるかによって影響されるとの見通しを示した。タイ銀行(中央銀行)は今年の成長率見通しを昨年11月時点の4%から3%に下方修正している。(中略)

デモ隊はいくつかの選挙区で投票所に鍵をかけ、有権者が入れないようにした。デモ隊はまた一部の選挙区の建物や郵便局を包囲し、投票箱や投票用紙の運搬を阻止した。
選管は、選挙が行われた68県では有権者の48%近くが投票したが、首都では4分の1にとどまった。
 
ンラック政権は下院が解散されたあと暫定政権となり、このためインラック首相の権限も予算承認や主要な問題に関する決定だけに制限されている。
今年の景気押し上げ要因になると言いはやされているインフラ改修のための政府支出は、新政権ができるまで保留とされている。

再投票の日程は、多くの人の予想より遅くに設定された。選管はやり直し選挙を4月下旬としたことについて、3月に上院の選挙があり、その後4月に入って1週間近くにわたる伝統的なタイ正月があるためだと述べた。また、4月までには政治的緊張も和らぎ、選挙を円滑に行えるだろうとしている。

ただ、日取りが決まっても、選管は28選挙区で候補者がいないという事態を解決しなければならない。
この候補者不在が新議会を開く上での大きな障害になっている。

下院の召集には全500席の95%が必要だ。28の選挙区では、デモ隊の妨害で候補者が12月に登録することができなかった。

選管は、これらの選挙区での投票の日取りを決める勅令を国王に求めるよう政府に要求するとし、日取りが決まれば、候補者の登録を再開できるとしている。【2月12日 WSJ】
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追い詰められる?反政府派
苦しい政権運営が続くインラック政権ですが、長期化するにつけ反政府派の方も運動の継続は次第に困難になっています。

****封鎖施設の一部返還 タイ反政府派、市民反発に配慮****
タイで大規模デモ行動「バンコク閉鎖」を続けている反政府派が、2日に行われた総選挙以降、占拠したデモ拠点や封鎖している政府機関の一部を返還し始めた。「閉鎖」も3週間あまりに及び、バンコク市民の反発が強まっていることに配慮したとみられる。

バンコク中心部と近郊の計8カ所の交差点や橋を占拠してきた反政府派は総選挙翌日の3日、戦勝記念塔など2カ所の交差点から撤退。

4日には、官庁街近くのチャオプラヤ川にかかるラーマ8世橋の封鎖を解くことを決め、バリケードの撤去などを始めた。反政府派が施錠していた商業省や労働省など政府機関の一部も再開した。一方、外務省や財務省などは閉鎖されたままだ。

デモ指導者、ステープ元副首相は4日、「学校に通う生徒や教師に支障が出ていた。人びとへの影響を最小限にするために橋の封鎖を解くことなどを決めた」と語った。ただ、政府機関の閉鎖はあらためて組織的に行う考えも示した。

バンコク閉鎖を続けるためには、参加者に提供する食事代、警備員への給料など1日に約1千万バーツ(約3200万円)かかる(デモ隊スポークスマン)とされ、経費負担を軽くする狙いもありそうだ。【2月6日 朝日】
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また、ステープ元副首相などへは逮捕状が出ており、動員力が低下してくると政権側は逮捕の執行に出る可能性もあります。

****行き詰まるタイ反政府派 首謀者の身柄拘束も時間の問題か****
非常事態宣言まで出た混迷のタイで、インラック政権を追い詰めるはずの反政有派が苫しい戦いを強いられている。

反政府派が必要とする一日あたり一千万バーツ(三千二百万円)の活動資金が早晩枯渇するとみられている。
現在は既得権益者である富裕層や企業家が支援しているが、事態が長期化して不透明化。

また、デモ隊に加わっている「タイ改革学生市民同盟(コー・ポー・トー)」の急進的な動きも頭痛の種だ。
コー・ポー・トーは集会やデモの効果が薄いとみて、航空無線公社や証券取引所への襲撃計画を独白に打ち出し始めた。 

国内世論や国際社会からの反発を警戒する反政府派は、これまで社会基盤への攻撃を一貫して否定してきただけに、運動をひきいるステープ元副首相は火消しに追われている。

反政府派は2006年の軍事クーデターの再現を望んでいるとされるが、軍に往年の発言力はなく、国玉の支持も得ら
れないとみられている。

現在、ステープ氏に国家反逆罪での逮捕状が出ており、捜査当局は情勢を見極めながら身柄を拘束していく方針。同氏は四十人ほどの「親衛隊」に守られてバンコク市内のホテルを転々としており、自らが追い詰められそうになっている。【選択2月号】
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一部幹部については逮捕がすでに執行されています。

****タイ:デモ隊幹部を逮捕****
タイ警察は10日、非常事態宣言に基づき、反政府デモ隊幹部で衛星テレビ局経営者のソンティヤーン容疑者を逮捕した。デモ隊幹部の逮捕は初めて。

治安当局者によると、ソンティヤーン容疑者はデモ隊でステープ元副首相に次ぐ「ナンバー2」。警察当局は、非常事態宣言発令後もデモ活動をやめなかったとしてステープ氏らデモ隊幹部19人の逮捕状を取っていた。【2月10日 毎日】
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“タイ治安当局は8日、野党民主党のステープ元副首相ら反政府デモの指導者を宿泊させているとして、バンコク都内の高級ホテル「インターコンチネンタル・バンコク」と「デュシタニ・バンコク」の経営者を11日に呼び出し、事情を聞くと発表した。”【2月9日 newsclipe.be】

これは、一般のデモ参加者は路上に設営したテントで寝泊まりしているが、ステープ元副首相らデモ隊幹部は高級ホテルに宿泊している・・・ということで、反政府派への揺さぶりでしょうか。

また、政府の治安対策本部である平和秩序維持センター(CMPO)は、デモを主導する人民民主改革委員会(PDRC)に資金援助している企業や個人の名前を公表するとしており、資金面からも反政府派を追い詰める方針です。

政権側も危うい状況
こうして見ると苦しい状況の反政府ですが、インラック政権側も大きな問題を抱えています。

“政権側が最も警戒するのが「独立機関」の動きだ。憲法裁は昨年11月、上院議員の選出を巡り与党主導で可決した憲法改正案を違憲と判断。これを受け、国家汚職委は今年1月、与党議員ら308人の罷免に向けた捜査を開始した。
国家汚職委は政府の「コメ買い取り制度」を巡る不正疑惑に関連し、インラック首相の責任を追及する方針も発表。”【2月2日 毎日】という問題は、前回ブログでも触れたところです。

新たに浮上してきた問題が、政権支持基盤である農民から不満です。

****タイ:コメ買い取り滞り…農家の反政府デモ同調も****
反政府デモによる混乱が続くタイで、インラック政権が支持基盤とするコメ農家からも政権批判が噴出し始めた。

農家の所得向上を目指した「コメ買い取り制度」による支払いが滞っているためで、農家らは6日、首都バンコク近郊の商務省などで抗議運動を行った。反政府デモと同調する動きもあり、政権はますます苦境に追い込まれている。

「生活を返せ、金を返せ!」。6日午後、商務省前には農家ら約1000人が集まり、コメ代金の早期支払いを訴えた。反政府デモを行う反タクシン元首相派グループも駆けつけ、抗議に参加した。

政府は2011年、事実上、市場価格より高値で米を買い取る制度を始めた。
しかし、1300万トンの在庫と1兆円を超える損失を抱え、農家100万人に対し1300億バーツ(約4017億円)の支払いが滞る。

中部ラーチャブリー県から来たソムポンさん(36)は「昨年11月に売った23万バーツ(約71万円)分が支払われていない。生活のため牛を売り、夫は出稼ぎに行った」と訴え、「政権与党の支持者だったがもう信用できない」と不満を爆発させた。

制度を巡る汚職疑惑も浮上し、南部パトゥンタニ県のソムソンさん(54)は「政府に金がないのは汚職で抜き取られているせいだ」と憤った。

抗議運動は政権が地盤とする北部でも散発し、一部は6日、国王に嘆願書を提出した。【2月6日 毎日】
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反政府デモ側は、政府からコメ買い取り代金を受け取れずにいる農家のためと銘打つ募金運動「ロビン・フッド運動」を始めるなど、農民の不満に同調して政府を揺さぶる構えです。

どちらが持ちこたえられるか?】
政権側、反政府派双方とも、いつエンジンストップしてもおかしくない状況ですが、そうしたなかでデモ隊排除の試みも一部で始まっているようです。

****タイ:警察が首相府近くの占拠デモ隊を退去****
タイ警察は14日、デモ拠点の奪還作戦に着手し、首都バンコクの首相府近くを占拠する小規模のデモ隊を退去に応じさせた。

ただ、一部はすぐ近くで占拠を再開。警察は別の政府施設でも奪還を試みたが退去させられなかった。
政府は今後、デモ隊への圧力を強めるとみられるが、強硬手段は取らない方針で、奪還は難航しそうだ。

首相府近くではデモ隊が昨年11月以降、占拠を続けたが、現場に居座っていたのは約100人。
14日朝、1000人規模の警官隊が包囲したが、抵抗せずに退去した。政府発表によると、拠点には大量の武器や薬物が保管されていたという。

武器の所持が疑われる強硬派の排除を求める警察に他グループが協力したとの情報もある。武器所持に関与していないとみられるデモ隊は少し離れた場所で占拠を再開した。

デモ隊と警官隊の衝突はなかったが、退去後に何者かが爆発物を投げ込み、地元記者ら1人が負傷した。

一方、警官隊はバンコク北郊の「政府センター」も包囲し、デモ隊の説得を試みたが、退去に応じさせることはできなかった。

政府のデモ対策本部責任者のチャルーム労相は14日、「今回は警告だ」とデモ隊をけん制し、ほかの拠点の排除も示唆した。【2月14日 毎日】
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反発を強める強硬手段は避けて、体力が弱るのを待ちながらジワジワと・・・といったところですが、インラック政権がそれまで持つか・・・という問題もあります。
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中国  中央電視台の売春報道を揶揄・批判するネット世論・ジャーナリズム

2014-02-13 22:34:51 | 中国

(中央電視台の東莞市における売春実態報道 【南華早報】http://www.nanzao.com/sc/china/21032/yang-shi-fang-dong-wan-se-qing-ye-dang-ju-xuan-feng-sao-huang-min-jian-bao-zheng-yi

売春の横行、警察との癒着を断罪したTV報道
日本と同様に、また、世界各国と同様に、中国においても売春は存在しますし、当局の摘発も行われます。
そうした意味では、下記記事はごく当たり前の日常的な出来事と言えます。

****売春集中取り締まり=920人拘束―中国広東省****
13日付の中国広東省各紙によると、同省の警察当局は10日から省内各地で開始した売春の集中取り締まりで12日までにサウナ、ナイトクラブなど延べ1万8000カ所以上を捜索し、920人を拘束した。

また、売春が横行していることで有名な広東省東莞市の共産党規律検査委員会は12日、町村の党組織・警察責任者に対して緊急通知を出し、売春摘発で手抜かりがあった場合、一律に解任すると警告。

さらに、あらゆる機関の党員幹部について、売春を行う施設の経営に関与したり、保護したりした者も一律に解任すると通達した。【2月13日 時事】 
*****************

今回の広東省における売春集中摘発は、下記レポートで紹介されている、国営テレビ局の中央電視台による広東省東莞市における売春実態報道に起因するものと思われます。

中央電視台による売春実態報道を受けて、広東省の胡春華党委員会書記が「徹底的な取り締まり」を言明しています。

****東莞、東莞  (ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り)【前半部****
中国のお騒がせ国有テレビ局、中央電視台がまた「大地震」を引き起こした。ネットがえらい騒ぎになっている。

中央電視台といえば、昨年の春のアップルのメンテナンス契約問題、夏には著名微博ユーザーの「売春」逮捕と「自供」、秋のスターバックス「価格差別」叩きをそれぞれぶちあげ、こうやって書きだすとほぼ季節の風物詩化していることに気づく。

そして今度は春節明けに、またやってくれたという感じだ。騒ぎのきっかけは今月9日、日曜日の午前に流れたニュースだった。

華南の広東省にある都市、東莞市でさまざまなホテルや風俗店の様子をカメラで隠し撮りしたものが次から次へと流れ、「今日は普通なら陽の光を見ることが出来ない非合法の行為に焦点を当てましょう。それは売春、買春です」とやったのである。もちろん、中国では買春も売春も違法である。

10年ほど前に日本から社員旅行で東莞の隣町、珠海を訪れた日本人観光客グループが買春で摘発されて拘束され、大騒ぎになった事件を覚えている方もいるかもしれない。

当時、中国を知る日本人の中から「違法だが、中国では売買春はそんなに珍しいものではないはずなのに...」という声も出た。だが、違法であることは間違いなく、そんな中国でも取り締まりは行われているのも事実だった。今回の報道も一応、そんな「違法性」をタテに斬りこんでいた。

カメラには、東莞市内のあちこちのホテルやカラオケ、サウナの入り口、そしてその中で顧客たちの前に女性が並んで選抜ショーが行われている様子、そして下見した部屋や料金体系を説明する責任者の姿まで収められていた。

中には部屋に入って脇のカーテンを開けるとそこは飾り窓になっていて、女性たちが半裸で踊る様子を眺めることができるという仕掛けも紹介された。さらに記者はそのうちの一か所で出くわした男性たちのグループが高級車アウディに乗って帰っていくのを尾行。彼らの勤務先とみられる場所の看板を撮影、車もその会社が所有するものであることを突き止めて実名で公表。

一方で、東莞の警察に電話していくつかのホテルで売買春が行われていることを通報したが、「チェックに行く」と言って電話は切れたものの、結局いつまで待ってもパトカーどころか警官一人も現れなかったと報告していた。

こうなると、すわ、これは町の警察ぐるみの売買春ではないか、どんな利益が絡んでいるんだ?と誰もが思うだろう。
番組は明らかに、視聴者にそういう憤りを植え付け、「違法なる売買春産業の厳しい取り締まり」が行われることを期待するように作られていた。・・・・・【2月13日 Newsweek】
*******************

【「人の目を引きつけるという面では100点だったが、報道価値からすればマイナス、失格だ」】
ここまでの話であれば、売春が盛んな広東省東莞市の実態をTV報道が大々的に取り上げたという“ごく当たり前の日常的な出来事”の一面です。

当然ながら、“東莞の風俗取り締まりに対して、風俗産業がずっと東莞に「性の都」という汚名をかぶせ続けて起きていること、また多くの若き女性たちが「苦海に身を投」じさせられていることから、産業取り締まりは違法行為への打撃、そして社会ムードを清めるためには前向きな意味があり、風俗産業の氾濫を許すことは東莞を汚すだけだと、風俗産業取り締まりを支持する声もある。”【2月12日 万華鏡日誌】とのことです。

面白いのは、この中央電視台のTV報道に対するネット世論、中国ジャーナリスト等の批判的な反応です。
そのあたりが、上記【ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り】の後半部で紹介されています。

****東莞、東莞  (ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り)【後半部****
・・・・だが、番組放送直後からインターネットに流れ始めた人々の反応は、その期待とは180度違った。

人々は口々に番組を製作した中央電視台を罵り、挙句の果てに「東莞がんばれ! 今夜、俺たちはみんな『東莞人』だ!」「泣くんじゃない、東莞」「東莞のために祈りを捧げる」などという、かつての地震の被災地に寄せたエールをもじった言葉まで飛び出した。(中略)

だが、この番組に対する批判はそんなネットユーザーによるおちゃらけや揶揄だけではなく、学者やその他ジャーナリストからも激しい声が上がっている。
特に中央電視台という国の権威性をまとった特殊なメディアが振るった権力に対して、ジャーナリストはことの外厳しく叱責している。

そのうち、コラムニストの秦子嘉さんが書いた記事はあちこちで大きな反響を呼び、多くの人たちにシェアされた。そこにはこう書かれている。「中央電視台の記者は中央電視台の威を借り、メディアのいわゆる監督権利を借りて、この業界の潜入報道を行ったことは、それ自体がすでに『ゴマを見て、スイカを見ない』というミスを犯している。

中国にはこんな話よりもっと多くの、もっと重要なニュースがあるはずなのに、これまで一度も中央電視台の記者が取り組んだ報道は見ていない。彼らは楼堂館所に潜入した? できない。彼らは地下煉瓦工場に潜入した? できない。彼らは血汗工場に潜入した? できない。本当に怖くて出来ない時もあるんだろうが、一方でそんな苦労をするのは嫌だと思っているのだろう」

ここで秦さんが触れている「楼堂館所」というのは、国家機関や政府、あるいは軍隊が作ったクラブ的な内部組織のこと。官吏や軍人など特権的な世界に生きる人たちがそこで本当に何をしているのか、本当に報道されているものはほとんどない。

「地下煉瓦工場」とは各地から誘拐されたり、あるいは人身売買で集めてきた人たちを労働力にレンガ造りをする工場。数年前に摘発された例では足に鎖を付けられ、かつての奴隷同然のように働かされていた人たちが救出された。

中には子供や、身体や知能に障害を持っているために売られてきた人もおり、NGOが一部を救出したもののその後再び工場主と見られる人たちに誘拐され、また行方不明になった人もいる。

「血汗工場」とは低条件で労働者を働かせている工場のこと。これらはすべて特殊な環境に守られつつ、違法な行為が行われている。このような人々の根本的な生活に関わる、「もっと多くの、もっと重要なニュースがあるはず」という指摘は、アップルやスターバックス叩きの時にもあった。

だが、それらは「消費者権益」、そして今回は明らかな「違法性」で、中央電視台は頬かむりをしている。さらに秦さんはこう続けている。「そして彼らはサウナやホテルに潜入した。そちらのほうが気楽だし、肩も凝らない。さらには公費で消費者を装って大金持ちのふりをし、一列に並んだ若い女性たちを指差しながら品評し、そしてズボンを上げてから聖人君子ぶった顔で警察に通報する。警察に通報するのだって結局は匿名電話である。

だが、一方の彼女たちは警察に身分証を調べられ、家に通報され、さらには大衆の目の前にさらされる危険に直面する。そして大衆にとっては、それはもうとっくに知っている事情でしかない。
つまるところ、サウナに潜入してもなんのニュース価値はないのである」

この報道が大批判を引き起こしたのは、この女性たちが置かれた境遇に番組では一切触れていないことだ。

報道は彼女たちをただの「違法な売春婦」としてしか扱っておらず、女性たちがなぜそこに立っているのかについては一言も触れず、また彼女たちと言葉を交わしている様子も流れていない。
彼女たちは番組が告発するための、ただの「道具」なのである。

ジャーナリスト出身のコラムニストの鍾二毛氏は、「こうした報道は『なぜなのか』『どうすべきか』に立脚すべきであり、『何が』『いかに』を絶対に立ち位置にしてはいけないはず」と述べる。
「中央電視台の記者はもっと取材して、『なぜなのか』『どうすべきか』を探り、さらに国際的な水準から言えばさらに高い場所に立って、その立ち位置を『人』に置き、技師たち(女性たちのこと)、買春者、法執行者の話にすべきだった。

人の困窮、制度の困窮、都市発展の困窮、それを描けばピュリッツァー賞並みのテーマなのに、中央電視台の報道は残念なことに、人の目を引きつけるという面では100点だったが、報道価値からすればマイナス、失格だ」(後略)【2月13日 Newsweek】
******************

報道に批判的なネット世論は社会の対立、分裂を表す
「中国にはこんな話よりもっと多くの、もっと重要なニュースがあるはずなのに、これまで一度も中央電視台の記者が取り組んだ報道は見ていない。彼らは楼堂館所に潜入した? できない。彼らは地下煉瓦工場に潜入した? できない。彼らは血汗工場に潜入した? できない。本当に怖くて出来ない時もあるんだろうが、一方でそんな苦労をするのは嫌だと思っているのだろう」というコラムニストの秦子嘉さんの指摘はもっともです。

***************
・・・・『中国青年報』の評論家、曹林氏はその個人微博で、中央電視台の今回の東莞潜入報道がこれほど大きなネットユーザーの不満を引き起こしたのは、社会の対立、分裂を表すものだと指摘。

中央電視台が正義を振り回して風俗取り締まりを叫ぶ光景は体制の象徴とみなされ、地面にうずくまって頭を抱え顔を隠している若い売春婦たちを抑圧され、いじめられている底辺だと想像する。

このような対立関係に中央電視台の風俗摘発に対する世論の基礎がある。
加えて中央電視台が持つ象徴的な地位に対する日頃からの不満、そして官僚社会の乱れを漏れ聞いている人々の恨みがここで爆発しているのだと分析している。(後略)【2月12日 万華鏡日誌】
*****************

中国の世論というと、感情的に反日に流れた過激な論調がよく紹介されますが、中央電視台の国の権威と薄っぺらな正義感を振りかざした安っぽい報道を揶揄し、批判する共感できるものも存在することを改めて感じます。

一方で、日本においては、感情的で過激な論調がネットやメディアに溢れるようになっているのでは・・・とも懸念されます。
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イラン大統領  厳しい経済情勢のなかで国民への謝罪  経済制裁解除の成果を実現できるか?

2014-02-12 23:03:21 | イラン

(2006年のアフマディネジャド政権当時、財政難からガソリン補助金を削減したことに怒った一部の国民が暴徒化した際の写真【2007年6月27日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/2245418?pid=1725095
ロウハニ大統領も国内経済のかじ取りを誤ると、国民の期待は失望、更に批判へと変わります。
そうならないためには、国際交渉で制裁緩和を実現し、経済状況を改善する必要があります。) 

国際社会との協力姿勢をアピール
イランの核開発問題に関する国際的な協議は、国連安保理常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた主要6カ国とイランの協議と、国際原子力機関(IAEA)とイランの間の協議の二つが行われています。

二つの協議の性格はおおまかに言えば、以下のように整理されます。

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・・・・イラン核問題の解決に向けては、国連安保理常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた主要6カ国とイランの間で将来的な「核開発のあり方」が模索されている。その一方、IAEAとイランの間では過去の「核兵器開発疑惑の解明」が課題になってきた。二つのプロセスは、実際には未来志向の政治交渉が先行し、イラン側に不利な過去の疑惑追及が追従している格好だ。(後略)【2月8日 毎日】
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主要6カ国とイランの政治交渉の方は、2月3日ブログ「イラン 今月中旬、最終段階措置に向け交渉再開」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140203)でも取り上げたように、今月18日から再開される予定になっています。

IAEAとイランの間では、昨年11月の合意に基づき、西部アラクの重水製造施設や南部ガチンのウラン鉱山への査察などの「第1段階」が実施されていますが、これに続き、今回新たに7項目で合意がなされています。
ただ、注目されていたパルチン軍事施設の視察に関しては合意には至っていません。

イラン側としてはIAEAとの新たな合意をアピールすることで、18日からの主要6カ国との協議を前進させたい思惑もあると推察されます。

****IAEA:核施設の情報提供など7項目新たにイランと合意****
国際原子力機関(IAEA)は9日、イラン核兵器開発疑惑の解明に向け、核心の一つである特殊な起爆装置の開発に関する情報提供など、7項目についてイランと合意したと発表した。

両者は昨年11月に協力強化の共同声明に署名したが、疑惑解明に必要な実質的な取り組みで合意したのは初めて。イラン側には、18日から再開される欧米など主要6カ国との核交渉を前に、国際社会との協力姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。

問題の装置は「起爆電橋線型雷管」と呼ばれる精密装置。原子爆弾の小型化には、金属化された球状の高濃縮ウランなどに外部からの爆発で均等に強い圧力を加える必要がある。
爆縮と呼ばれる技術には、複数の高性能爆薬を同時に爆発させる精密な起爆装置が欠かせない。イランはかつてこの装置を開発していた。

IAEAの天野之弥事務局長は2011年11月、欧米の機密情報などを基に核兵器開発疑惑の具体的根拠を明らかにしたが、起爆装置の開発もその一つだった。

しかし、この装置には核兵器以外の用途もある。イランは08年、装置開発の事実は認めつつも、民生用と通常兵器向けだったと主張していた。

核兵器開発疑惑を全面否定しているイランが、今回の合意によって従来の主張を180度転換する可能性は低いとみられる。08年の具体性を欠いた主張の根拠について、どこまで説得力のある情報を示すかが焦点になりそうだ。

IAEAは、起爆装置の実験が行われた疑いのあるテヘラン近郊パルチン軍事施設の視察なども求めているが、今回は合意に至らなかった。

9日の合意項目にはこのほか、中部サガンドにあるウラン鉱山や精製施設の視察▽西部アラクで建設が中断された重水炉の設計情報の更新▽レーザーを使ったウラン濃縮試験施設の視察−−などが含まれる。

昨年11月に第1段階として合意した6項目と同様、核兵器開発疑惑の解明とは直接関係ないが、核開発の透明性強化につながる。今回の第2段階の合意事項は、5月15日までに履行される。

イラン原子力庁のカマルバンディ報道官は「イランが提供する情報や協力的な環境を踏まえ、天野事務局長から理事会に前向きな報告がなされることを期待する」と述べた。

イランの核問題を巡っては、IAEAとは別に、国連安保理常任理事国(米英仏中露)にドイツを加えた6カ国とイランが、核開発のあり方について包括的な交渉を継続中。

両者は昨年11月、ウラン濃縮を制限する代わりに制裁を緩和する「共同行動計画」で合意。先月20日から履行を始めた。18日からは、濃縮の継続を認めるか否かなど、極めて困難な課題の最終解決に向けた交渉が始まる。【2月10日 毎日】
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1979年のイスラム革命から35年となる革命記念日にあたる2月11日、ロウハニ大統領は国際協調路線を改めて確認するとともに、経済状況の改善を含めて、政権誕生後の成果をアピールしています。

****イラン:革命記念日、平穏に 大統領が協調路線の演説****
イランは11日、1979年のイスラム革命から35年となる革命記念日を迎えた。昨年8月に穏健派ロウハニ大統領が就任して以降初めて。全土で記念行事があり、国営放送は数百万人が参加と報じた。

首都テヘランのアザディ(自由)広場で演説したロウハニ師は「最高指導者ハメネイ師の下、各国と建設的で相互に尊重できる関係を構築したい」と述べ、世界との協調路線を印象づけた。ロウハニ師は演説で、核問題協議に触れ、「イランは善意を見せている。互いを尊敬しながら協議しなければ、世界の平和を損なう」と米欧に注文。

また、イランに対し軍事的選択肢は消えていないとする米国やイスラエルの立場を念頭に「脅しを言う者は、後悔する」とけん制した。しかし、両国に対する批判的発言はなく、対外関係の改善に消極的な国内強硬派に配慮したものとみられる。

アフマディネジャド前政権下では、改革派と治安部隊の衝突やインターネット規制など混乱が見られた革命記念日だが、今年は平穏に実施された。

「表現の自由の拡大」を掲げるロウハニ師は「多様な政治団体が参加した」と述べ、前政権との違いを強調。経済についても「半年前に比べインフレ率は43%から35%に減少。経済成長率はマイナス5.8から同0.7に改善した」と誇った。

テヘランのエンゲラーブ(革命)通りでは、市民が革命の父と言われる故ホメイニ師やハメネイ師の写真を掲げ、アザディ広場に向けて練り歩いた。一部で反米スローガンを叫ぶ人の姿も見られたが、活気はなかった。弁護士の男性(43)は「対米関係の改善を目指しながら、スローガンを言うのはおかしい。時代は変わりつつある」と話した。【2月11日 毎日】
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乏しい国民生活改善の実感
イランで穏健派ロウハニ大統領が誕生し、欧米との交渉を進める姿勢を見せているのは、経済制裁によるイラン国内経済の疲弊、それに伴う国民の不満増大があるからに他なりません。

イラン国内では欧米との交渉開始によって経済が好転する期待が強く存在しますが、始まったばかりの交渉の成果はすぐに表に現れるものでもなく、経済が改善しないことへの国民の不満に対し大統領が謝罪する事態ともなっています。

****イラン、食料配給混乱 数足りず、大統領が謝罪*****
核開発の縮小とひきかえに経済制裁の緩和が始まったイランで、国民がロハニ大統領への不満を募らせている。

目玉政策の一つとして導入した低所得者向けの食料配給を巡り、混乱が広がっているためだ。11日に大統領として初めて革命記念日を迎えるロハニ氏は、国民に謝罪するなど対応に追われている。

「いつまで待たせるんだ」。下町が広がるテヘラン南部の政府系スーパー駐車場で6日昼、100人あまりが列をなし、怒号が飛んだ。係員が、食料配給のために用意された200人分を配り終えたと説明しても、人々は動かない。中年男性の1人は「3時間も並んだのに」とあきらめきれない様子だった。

配給は昨年8月に就任したロハニ氏の選挙公約。コメ10キロ、冷凍の鶏肉2羽、食用油2本、チーズ2箱、タマゴ24個。生活保護受給者、月収が最低賃金の500万リアル(実勢レートで約1万6700円)に満たない人など人口の2割、約1500万人が対象となっている。

政府は十分な量があると説明したが、初日の3日から各地で数百人が行列。折しも50年ぶりとされる寒波で日中も零下という厳しい天気の影響で、並んでいた高齢者ら2人が死亡した。
このため、ロハニ氏は5日夜「受け取りでトラブルがあれば申し訳ない」と、国民に向け、大統領としては異例の謝罪をした。

配給が就任から半年が過ぎたこの時期に始まったのは、ロハニ政権になっても、国民生活が改善されたという実感が乏しく、支持者の期待感が薄れつつあるからだ。

イランは核開発への制裁で歳入の7割を占める原油の輸出を制限され、2012年に通貨リアルが暴落。専門家の話ではインフレで物価は2~3倍、18歳から25歳の若者の失業率は45%に達したとされる。

ロハニ政権は昨年11月、ウラン濃縮の一部停止などで米欧への譲歩に合意。制裁が緩められ、今月、凍結していた原油代金の支払いが始まった。だが、物価や失業率は高止まりしたままだ。政権に批判的な強硬派の国会議員らは、譲歩の効果がみられないと声を強めている。

さらに、財政の再建を急ぐロハニ氏は、ガソリンやパンなど生活必需品の価格を安く抑える補助金のカットを決め、国会も6日に同意した。予算の約4分の1を占める補助金カットは財政支出削減につながるが、ガソリン価格が現在の2倍程度になるとみられるなど、国民の負担は増える。

配給は、負担増で予想される国民の不満を事前に和らげる目的で、この時期に始められたが、奏功しなかった格好だ。
アフマディネジャド前大統領も補助金の削減で支持者離れを招いた。ロハニ政権も、窮乏する国民への支援と補助金カットの両立に苦しむことになりそうだ。【2月11日 朝日】
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イランに限らず、どこの国でも政策的に価格を操作する補助金制度は財政的に継続が難しく、これを縮小しようとすると国民からの激しい批判を招きます。

目に見える形での成果が求められるロウハニ政権
経済苦境に喘ぐ国民に謝罪する大統領と、物価・経済成長率の改善を誇示する大統領・・・・どちらがイランの実態を表しているのか。
少なくとも、ロウハニ大統領に許されている時間的余裕は大きくないように思われます。

欧米との交渉による生活改善への国民の期待が強いだけに、目に見える形で成果が表れないと期待は失望にかわり、ロウハニ政権の支持基盤を揺るがします。
もともと存在する政権の路線に批判的な保守派の抵抗も強まります。そうなると、最高指導者ハメネイ師の支持も怪しくなります。

ロウハニ大統領の基盤が揺らぐと、欧米との交渉においても、国内から“弱腰”と見られるような譲歩はできず、交渉は停滞します。

そうなると、制裁解除も進まず、イラン経済も改善しません。
結果、国民の不満、保守派の批判は更に強まる・・・・悪循環に陥ります。

ロウハニ政権が制裁解除の成果でイラン経済が回復するまで持ちこたえられるか・・・18日からの主要6カ国との再交渉が注目されます。

ここで成果を出し、イラン経済にとって良い方向での循環が成立することを期待します。
そのことで、国際的な緊張を緩和することにもなります。
欧米側も、そうしたイランの立場への配慮が必要でしょう。
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スペイン司法当局 チベットでの「大虐殺」で江沢民氏らの国際手配要請

2014-02-11 21:04:59 | チベット

(チベット・ギャンツェ 「大虐殺」ということなら、江沢民(右から2番目)よりは、チベット動乱などの時代の毛沢東(左端)でしょう。胡錦濤(右端)もチベット自治区党委書記にラサ全市に戒厳令を敷くなど、徹底した抵抗運動弾圧を行っています。 “flickr”より By Niall Corbet http://www.flickr.com/photos/35291717@N00/6314603594/in/photolist-aBZZDL-hHFXBJ-hHDUaB-8iBUHi-hyBDaC-hymh8X-hymhbH-fspaxd-hkQQAU-dS6zsL-gATZEC-aea1Mh)

チベット問題:喉元を過ぎつつある感も
チベットにおける中国政府の弾圧については、多くの国々がその非を指摘しており、北京オリンピック開催時にも大きな政治問題となりました。

チベットの状況、特に抗議の焼身自殺は最近ニュースで目にすることは少なくなったような感もありますが、下記のように継続しています。

****チベット僧侶がまた焼身自殺=政府に抗議―中国****
中国甘粛省甘南チベット族自治州サンチュ県で19日午後、チベット僧侶(43)が共産党・政府のチベット統治政策に抗議、焼身自殺を図り、死亡した。米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えた。

RFAによると、中国国内のチベット族居住区で自殺を図ったチベット族は124人になった。【2013年12月20日 時事】 
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最近あまりニュースを目にしないのが、焼身自殺の発生が少なくなっているせいなのか、メディアが“飽きて”あまり取り上げなくなったのか・・・そのあたりはよくわかりません。

チベット指導者ダライ・ラマ14世は、焼身自殺についてその効果を疑問視するコメントを行っています。

****チベット人の焼身自殺、ダライ・ラマ「効果ほどんどない*****
オーストラリアを訪問中のチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世(77)は13日、焼身自殺による中国統治への抗議は、中国政府の政策にほとんど影響を与えていないと語った。

焼身自殺についてダライ・ラマは、「もちろんとても悲しいことだ。ただそれと同時に、そのような思い切った行動が効果を及ぼしているかには疑問を感じている」と記者団に述べた。

一方でダライ・ラマは、「中国当局者が引き金となっている兆候がある。当局者は焼身自殺の原因を調べるべきだ」と訴え、チベット人が単に社会的な抗議のためだけに命を犠牲にしている訳ではないと強調した。

2009年以来、四川省や甘粛省、青海省などで少なくとも117人のチベット人が、中国政府のチベット政策に抗議して焼身自殺を図っている。

チベット研究者らからは、ダライ・ラマが自制を求めていないことが焼身自殺による抗議を助長しているとして、ダライ・ラマの姿勢を批判する声も出ている【2013年6月13日 ロイター】
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一方、欧米諸国は、このところはどちらかと言えば中国との経済的関係を重視して、人道的な問題には敢えて触れない・・・という姿勢の方が目立つように感じます。

スペイン:チベットにおけるジェノサイドで江沢民氏らを国際手配要請
そんななかで、スペイン司法当局は、1980~90年代におきたチベットでの「ジェノサイド(大虐殺)」などに関与した容疑で中国の江沢民元国家主席、李鵬元首相ら元政権幹部5人を国際手配した・・・とのことです。

*****江沢民氏らの国際手配要請=チベットでの「大虐殺」で―スペイン****
スペインの全国管区裁判所は10日、1980~90年代にチベットでの「ジェノサイド(大虐殺)」などに関与した容疑で逮捕状を出した中国の江沢民元国家主席(87)、李鵬元首相(85)ら元政権幹部5人について、国際刑事警察機構(ICPO、本部フランス・リヨン)に国際手配を要請した。現地メディアなどが報じた。

全国管区裁判所は2013年11月、人権団体の刑事告発を受けて江氏らの逮捕状を出し、中国政府が「強烈な不満と断固たる反対を表明する」(洪磊・外務省副報道局長)と反発していた。

今回の国際手配要請により、スペイン政府は対中関係でさらに困難な問題を抱えることになりそうだ。【2月11日 時事】 
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この話自体は、昨年11月に江沢民元国家主席らに逮捕状がだされた時点でもニュースになりましたので、目新しいものではなく、一連の流れに沿った動きです。

当然ながら、中国側は怒っています。

****強烈な不満」表明=スペイン裁判所の逮捕状―中国****
中国外務省の洪磊・副報道局長は20日、スペインの全国管区裁判所がチベットでの「ジェノサイド(大虐殺)」に関与した容疑で、江沢民元国家主席、李鵬元首相らの逮捕状を出したことについて、「事実ならば、強烈な不満と断固たる反対を表明する」とした上で、中国とスペインの関係を損なうことがないよう要求した。【2013年 11月20日 時事】 
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中国の元国家主席を国際手配を要請するというのは、人道上の犯罪行為があったかどうかという問題は別として、各国が中国になびく(なびかざるを得ない現実がある訳ですが)現実政治世界においては尋常ではありません。

この世の中でいつも正義が通用するわけではないが、正義が全く掲げられないと、損得ばかりが横行する
なぜスペイン司法当局が中国指導者を告発できるのか・・・ということについては、基本的には、国家の枠組みに縛られず「人道に対する罪」を裁く「普遍的管轄権」に基づく告発ということになりますが、刑事告発した人権団体メンバーにスペイン国籍を持つ亡命チベット人がいることもポイントとなりました。

「普遍的管轄権」の現状と問題については、国末憲人氏の下記リポートが詳しく解説していますので、全文を紹介します。

*****江沢民国際手配」スペイン司法当局の意図は何か****
自国とは異なる国で起きた犯罪をあえて訴追する「普遍的管轄権」を、以前フォーサイトで紹介したことがある(2013年10月21日「国家に縛られず犯罪を裁く『普遍的管轄権』とは――マドリードを訪ねて」)。

通常の裁判管轄権は国境に縛られるが、国際秩序を揺るがす恐れのあるジェノサイド(大虐殺)や「人道に対する罪」の場合、独裁者や国家機関が罪を免れないためにも、当事国以外の国が罪を問える、との考え方である。

1990年代後半から2000年代にかけてスペインの予審判事バルタサル・ガルソン氏がこの制度を利用し、チリの独裁者ピノチェト元大統領やアルゼンチンの独裁政権幹部を次々と訴追して、大きな反響を呼んだ。

しかし、訴追のたびにわき起こる当事国からの猛反発に手を焼いたスペイン政府は、根拠となってきた司法権組織法を2009年に改正し、司法当局の権限を縮小。起きた国や関係者の国籍にかかわらず訴追する権限を司法当局に与えていた制度を改め、訴追の範囲を「スペイン国民が被害者となるか、被告人が国内にいる場合」などと限定した。

ガルソン予審判事も2010年に解任され、多くの人が「スペインの普遍的管轄権は死んだ」と受け止めていた。

それだけに、今月19日に突然流れた情報に関係者らは驚いただろう。

中国のチベット自治区で80年代から90年代にかけてジェノサイドにかかわったとして、中国の江沢民元国家主席、李鵬元首相ら5人が突然、スペイン司法当局によって国際手配されたのである。
死んだどころか、普遍的管轄権の大復活だ。

もちろん、中国側はカンカンである。外交摩擦が必至で、スペイン政府も困惑しているだろう。なのに、なぜ司法当局は、手配に踏み切ったのか。

マドリードの日刊紙エルパイスなどによると、手配されたのは江沢民、李鵬両氏のほか、治安当局の元責任者、チベット自治区の元共産党幹部、80年代の中国の閣僚の1人。

全国的、国際的な犯罪の捜査に当たる全国管区裁判所がこの日、5人を勾留するための捜索を命じる勾引勾留状を発行した。国際刑事警察機構(インターポール)を通じて中国側に伝達されるとみられる。

「政治的パフォーマンス」との批判も
そもそもは、スペインのチベット支援団体などが2006年、全国管区裁判所に5人を告訴したことに始まる。通常だと2009年の法改正によって告訴も無効となるはずだが、告訴人の中にスペイン国籍を持つチベット人が1人いたことから、「スペイン国民が被害者」の要件を満たして生き残ったのである。

担当の予審判事はイスマエル・モレノ氏。
モレノ予審判事はガルソン氏と同様に普遍的管轄権の適用に積極的な1人だったが、証拠調べの結果、今年5月に「5人がジェノサイドにかかわったとは結論できない」として、訴追しない方針を表明した。

それが一転、国際手配となったのは、全国管区裁判所の刑事法廷がモレノ予審判事の結論を覆し、手配を命じたからだった。

北京からの報道によると、中国は強い不快感を表明し、中国の立場を尊重するようスペインに要求した。スペイン側は司法の独立を説明するとみられるが、中国側は聞き入れないだろう。

スペインが中国指導者を訴追するのは、今回が初めてではない。2008年3月に起きたチベット自治区の騒乱に関する市民団体からの告訴を受けて、全国管区裁判所のサンティアゴ・ペドラス予審判事が同じ年の8月、当時の梁光烈国防相や政府高官、軍人ら計7人に対して「人道に対する罪」で捜査に乗り出した。この時も中国は猛烈な反応を示し、スペインと中国の関係が一気に悪化した。

今回も、中国が江沢民氏らの引き渡しに応じる可能性は全くない。それは、刑事法廷も十分わかっているはずだ。

以前から、普遍的管轄権の行使については「政治的パフォーマンスに過ぎる」との批判がくすぶっていた。
2000年代にスペインが試みた訴追相手は、先の中国指導者らのほか、ガザ攻撃に関するイスラエル政府とか、グアンタナモ収容所での違法尋問に関する米ブッシュ前政権の高官とか、いずれも実現性に乏しい相手ばかり。しかも、いずれも先方から猛反発を受けた。

同様の傾向は、スペインの司法権組織法に似るベルギーの人道法の場合にもあった。90年代末から2000年代初めにかけて、ベルギー司法当局が人道法に基づいて受理した告訴の相手は、湾岸戦争に関するブッシュ米元大統領(父)だの、ベイルートのパレスチナ難民キャンプでの虐殺に関するイスラエルのシャロン首相だの、逮捕も拘束もできるはずのない人物だった。

こちらも外交的な圧力を受け、スペインと同様に法律を改正せざるを得ない状況に追い込まれた。

今回のスペインの試みにも、やはりパフォーマンス性が感じられる。
本来、司法は淡々としたものであり、だからこそ市民の信頼を得るところがある。声高に主張を打ち上げるような今回の行為が、逆に信頼性を揺るがすことにならないか。他人事ながら心配になる。

司法の政治的役割
一方で、その問いかけるものは、それなりに重い。
2008年にチベット自治区で起きた騒乱は、中国の人権状況の貧しさを私たちに改めて意識させた。こんな調子で五輪を開けるのか、との懸念さえ持った人が少なくなかった。

なのに、五輪が成功すると私たちはチベットのことなど忘れ、急速に発言力を増した中国に国際社会でそれなりの地位を与えてしまったのである。今回の国際手配で我に返らされたように感じるのは、私だけではないだろう。

司法はある意味で政治の一部であり、国際社会ではことさらその傾向が強い。司法の政治的役割は、何より「正義」を世に示すことだ。

この世の中でいつも正義が通用するわけではないが、正義が全く掲げられないと、損得ばかりが横行する。
その意味で、スペイン司法当局の試みを、自己顕示のパフォーマンスとだけ受け止めるのは正しくないだろう。

ただ、スペインと中国との関係が今後どうなるか。読めない部分は少なくない。(国末憲人)【2013年11月21日 フォーサイト】
******************

今回の国際手配要請で、実際に江沢民氏がどこかの国(たとえば日本など)を訪問した際に拘束逮捕される・・・ということは100%ないでしょう。

それは分かっているが、“この世の中でいつも正義が通用するわけではないが、正義が全く掲げられないと、損得ばかりが横行する”ということで、敢えて逮捕状を出し、国際手配を要請する・・・というものです。
“今回の国際手配で我に返らされたように感じるのは、私だけではないだろう”という指摘も同感です。

【「いじめ外交」】
ただ、現実政治における影響はやはり懸念されます。
国民生活を預かる政府としては、当然にその影響に配慮する必要があります。

相手がブッシュ米元大統領なら、アメリカが過剰反応することはあまりないでしょうから、そう心配することもありません。しかし、相手は“あの”中国です。

****怒らせると報復する中国の「いじめ外交」は逆効果*****
・・・・現在服役中の中国の民主活動家、劉暁波氏がノーベル平和賞を受賞した2010年以降、中国政府は、ノルウェー政府がノルウェー・ノーベル委員会」による選考に関与していないにもかかわらず、ノルウェーへの制裁を試みている。

中国はノルウェー産サーモンに輸入規制を導入。中国の港の倉庫には腐ったサーモンが山積みにされた。13年の中国市場におけるノルウェー産サーモンのシェアはそれまでの92%から29%へと大きく落ち込んだ。
(中略)
また2009年にパラオ政府がキューバにあるグアンタナモ米海軍基地内の収容施設に拘禁されていた中国がテロリストとみなすウイグル人6人を受け入れる意向を示すと、中国からの投資でパラオ国内に建設中だった海辺のリゾート施設の工事が突然中止された。
(中略)
2010年にはドイツの研究者たちが、ある国の指導者がダライ・ラマと面会するとその国の対中輸出はその後の2年間に平均で12.5%減少することを発見し、この現象を「ダライ・ラマ効果」と名付けた。(後略)【2月1日 AFP】
*****************

スペイン政府の困惑は十分すぎるぐらいにわかります。
“12.5%減少”では済まないかも・・・。

追加
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・・・エルパイス紙などの報道によると、国民党は1月、虐殺などの人道的犯罪について、訴追対象をスペイン人や、スペインに定住する外国人などに限定する内容の改正法案を提出。成立すればさかのぼって適用され、江元主席らは該当しなくなる。また犯罪発生時に被害者がスペイン国籍を所持していることも条件となるため、96年に国籍を取得したチベット仏教僧らの告発は認められなくなる。改正法案は今後、下院で本格審議し、2カ月程度で成立、施行が可能という。【2月11日 毎日】
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アフガニスタン  不十分な女性の権利保護が更に後退する懸念

2014-02-10 23:24:47 | アフガン・パキスタン

(Nozeni Izatullah(18歳 北アフガニスタンのMaimana女性刑務所) 50日の間誘拐されて、強姦されたあと、Nozeni は「道徳的な罪(Moral Crimes)」で服役しているそうです。 “flickr”より By Christian Aid http://www.flickr.com/photos/christianaidimages/8314121349/in/photolist-aEA9o1-dEG3BP-aEA9o5-aUN1Gr-aXLiyK-8rVVWt-8rZ3hf-arvijt-hEXMWN-94HoAW-fDJuQk-bfTv8i-9HhKL2-9dTd52-dr6CPQ-bL7T1n/)

悪化する治安状況
14年末までの外国軍撤退に向けたアフガニスタンの動きは、これまでも再三取り上げてきましたが、治安状況は悪化の方向にあります。
特に、子供や女性の犠牲者が増加しています。

****アフガン:昨年の子供死傷者1756人****
国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)は8日、昨年1年間でテロ攻撃や戦闘に巻き込まれて死傷したアフガニスタンの民間人についての報告書を発表した。

それによると、子供の死者は561人、負傷者は1195人。女性の死者は235人、負傷者は511人に上った。子供と女性の死傷者は前年比でそれぞれ34%増、36%増となり、2009年以降、最悪となった。

全体の民間人の死者は2959人、負傷者は5656人で、死傷者総数は前年比14%増。過去最悪だった11年(死者3021人、負傷者4507人)並みとなった。

01年のアフガン戦争開戦後、駐留してきた米軍など駐留外国軍は今年末までに任務を終了する予定。だが、旧支配勢力タリバンが依然、激しい攻撃を繰り返しており、UNAMAの報告書は、悪化する治安情勢を統計上からも裏付ける内容だ。

UNAMAによると、昨年の死傷者のうち、74%はタリバンなど武装勢力による爆弾などのテロ攻撃の被害者。タリバンは「民間人を標的にしていない」と繰り返し主張してきたが、UNAMAは「タリバンは無差別的な民間人への攻撃を激化させている」と非難した。

一方、アフガン軍・警察の攻撃に巻き込まれたのは8%、駐留外国軍の攻撃に巻き込まれた被害者は3%だった。09年から昨年までの死者総数は1万4064人。【2月9日 毎日】
******************

【“家庭内暴力の被害者は事実上黙殺されることになる”】
そうした一般情勢・治安状況とは別に、気になる報道がありました。
家庭内暴力を受ける女性にとって不利になるような法改正が行われようとしているという記事です。

ただ、下記記事以外に情報がないので、今回の改正(改悪?)の内容、その背景はよくわかりません。

****アフガン新法、女性にとって致命的****
ナショナル ジオグラフィックの写真家リンジー・アダリオ氏によれば、アフガニスタンの議会で可決された新法がハーミド・カルザイ大統領の署名によって成立すれば、家庭内暴力の被害者は事実上黙殺されることになるという。

アダリオ氏は14年前にタリバン支配下のアフガニスタンを初めて訪れ、以来毎年足を運んでいる。その間にアフガン女性の人権や保護は強化され、今では多くの女性が教育を受け、仕事に就けるようになった。

ところが昨年、国連の報告ではアフガニスタンでの女性に対する暴力の報告件数が28%増加したにもかかわらず、告訴はほとんど増加しなかった。

そして今、些細だが重大な変更が刑法に加えられようとしている。これが現実となれば、すでに家庭内暴力が蔓延したアフガニスタンでの告訴はほぼ不可能となる。2009年に可決された女性に対する暴力撤廃法(EVAW)は、未成年者の結婚や強姦、その他の女性に対する暴力行為を法的に罰する画期的な法律だ。しかし、法律は執行されない限り効力を持たない。

自身が数年にわたって記録してきた数々の得難い進歩を今回の法案がいかに後退させることになるのか、アダリオ氏に話を聞いた。

◆アフガニスタンの議会が可決した新法について教えてください。

簡単に言ってしまえば、女性が暴行を受けたり強姦されたりした場合に親戚が証言することを禁じる法律です。実質的には、誰も証言することができなくなります。

なぜなら、女性が会うのは親戚だけであり、女性は親戚の目にしか触れないからです。加害者は多くの場合が家族であり、目撃者も親戚に限定されます。女性が暴行を受けている間やその後の内情に通じているのは、彼らだけなのです。

この新法は、家庭内の女性に何をしてもよいと非直接的に認めるものです。告訴される心配がなくなりますから、加害者は野放し状態になります。

◆あなたがこれまでにアフガニスタンで目にしたことを踏まえると、この法律は女性にとって何を意味すると思いますか?

アフガニスタンでは至る所で暴力行為が起きています。2年以上にわたるナショナル ジオグラフィックの取材で約300人の女性にインタビューをしましたが、彼女たちは極めて高い割合で繰り返し殴られたり、何らかの虐待を受けたりしていました。

殴る行為はかなり蔓延しているようでしたが、理解しがたい現象です。男性の通訳者に聞くと、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や戦争、あるいは文化的要因によるものかもしれないとのことでした。

今回の新法が成立すれば、こういったことが行われても加害者には何の影響も及ばなくなります。

◆2009年に女性に対する暴力撤廃法が制定されたにもかかわらず、なぜこのようなことになってしまったのでしょうか?

戦争とタリバン支配の終了に象徴される2000年か2001年までさかのぼる必要があると思います。女性の人権擁護に関する前進は見られたものの、実際には実施されていないものが多くを占めています。

暴力を受けた女性たちには行く場所もありません。アフガン女性を救う女性たちの会などが運営するシェルターもありますが、アフガニスタンの中で広く受け入れられているものではありませんし、常に攻撃や閉鎖の危険にさらされています。

夫から日常的に暴力を受けていたとしても、女性が離婚を求めるのは容易なことではありません。離婚は社会の中で受け入れられていないのです。

もし離婚を求めたとしたら、たいていは恥をかかせたとして家族に殺されるか、刑務所に入れられます。

今後、国際社会はアフガニスタンから撤退しますから、国民は自分たちで決断する必要に迫られます。これが彼らの決断なのだとしたら、非常に恐ろしいことです。アフガニスタンの女性にとってゾッとするような未来になるでしょう。

◆法律は成立すると思いますか?

それはわかりません。人権保護団体がカルザイ大統領に対して反対を主張し、署名しないよう求めています。
しかし彼はこのところずいぶん傲慢ですから、何とも言えません。

◆女性のシェルターでは極端な暴力を目にしましたか?

はい。信じがたい、行き過ぎた暴力です。熱した金属で焼かれた女性。集団で強姦された女性。鼻を削ぎ落とされた女性。何でもありです。本当に何でもありです。

人間が別の人間、まして女性に対してこんなことができるとは想像もしませんでした。何年にもわたりシェルターを定期的に訪れましたが、その度に涙が流れましたし、悲しみで何もできなくなりました。

一歩進むごとに十歩後退しているという現状です。彼らはどこかの時点で、前に進むことを自ら選ばなければなりません。【2月10日 ナショナルジオグラフィック】
*******************

【「道徳的な罪(Moral Crimes)」】
未成年者の結婚や強姦、その他の女性に対する暴力行為を法的に罰する2009年に可決された女性に対する暴力撤廃法(EVAW)にもかかわらず、アフガニスタンでは法的にも女性の権利が守られているとは言えない状況にあることは、かねてより指摘されています。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、「Afghanistan: Hundreds of Women, Girls Jailed for ‘Moral Crimes’ 」(英文)(http://www.hrw.org/news/2012/03/28/afghanistan-hundreds-women-girls-jailed-moral-crimes)でアフガニスタンの現状を批判しています。

“2009年に制定された女性に対する暴力の撤廃に関する法律では、女性に対する暴力は犯罪であるはずなのに、現実には強制結婚や家庭内暴力から逃げ出した多くの女性が「道徳的な罪(Moral Crimes)」で逮捕拘束されている。

未成年者収容施設の少女の殆ど、刑務所の女性の半数が、この「道徳的な罪(Moral Crimes)」による拘束者である。
強姦されるか、売春を強いられた後に 、「zina (結婚の外のセックス )」の有罪判決を受けて逮捕された女性もいる。

力をふるった男性側は野放しになっている。
「道徳的な罪」で女性を有罪にしようとする警察、検察官、裁判官は虐待の証拠を無視する・・・・”といった内容です。

女性への暴力事件が増え続けている一方で、国際治安支援部隊は撤退の途にある
国連の女性のための機関「UN Women」も、以下のようにアフガニスタン女性のおかれた現状を批判しています。

****ミチェル・バチェレの声明: アフガニスタン女性に対する暴力を非難****
「UN Womenはアフガニスタン女性に対する暴力を非難し、法的正義をもとめる」
UN Women事務局長、国連事務次長  ミチェル・バチェレの声明

アフガニスタン国内では、ここ数週間のあいだに、女性に対する命にかかわる虐待や残虐な暴挙が何件も起こっています。アフガン地方警察(ALP)による若い女性ラル・ビビの拷問と強姦、同じく歳若い女性ナジバの公開処刑などは、国内外に激しい憤りをもたらしました。

世界がアフガニスタンにおける役割を定義しなおし、アフガニスタンの政府が移行段階を進んでいる時に、これらの事件は、女性や女児の権利を保護する事の継続的かつ緊急の必要性について、今一度注意を喚起するものです。

このような残虐な行為は到底容認出来るものではありません。UN Womenは、これらの犯罪に対するアフガン政府が緊急に対処する事を求めます。

そして、犯罪者を法に基づいて裁き、女性や女児に対する暴力や差別について「何の責任も問われない免責」の文化を終わらせ、「如何なる暴力も許さないゼロ容認」の文化を作り出すことを要請します。

アフガニスタンの独立した「人権委員会」によって報告される、女性への暴力事件が増え続けている一方で、国際治安支援部隊は撤退の途にあります。

こうした中、過去十年の間に女性の為に、また女性と共に作り上げてきた進歩を維持し、更に前進させること、そしてアフガニスタンの将来の進路を決める作業に女性の関与を充分に確保することが、不可欠なのです。

自国に大きく影響を及ぼす重要な意思決定のプロセスにおいて、アフガン女性や女児が無視される状態が続いていては、「より安全で繁栄し安定したアフガニスタン」というビジョンは達成されません。

先週土曜日、国際社会は東京で開かれた援助国会議において、アフガニスタンに160億ドルの拠出を決めました。この拠出金の中のかなりの部分を、アフガン女性と女児のための司法制度や、全面的な参加の確保に充てることにより、アフガニスタンは平和と民主主義を達成する足場をより確たるものにすることでしょう。

アフガニスタン政府と国際社会が、東京で誓約したコミットメントを、なんとしても守ることが絶対必要です。
このコミットメントには、憲法その他の基本的な法律が「迅速に、公正に、透明性を持って遵守される」ことによって、すべての人々、とくに女性の司法制度へのアクセスを改善することが含まれています。

また、法の遵守だけではなく、被害者への対応も含めた「女性に対する暴力を撤廃する法」の実施を確実にする、というコミットメントも含まれます。

アフガニスタンの進展を確実にするには、女性の権利・平等・説明責任を優先すること、そして女性と女児に対する暴力の免責を終わらせることを目指し、我々が連帯して行動しなければなりません。

UN Womenは、女性のエンパワメントとジェンダー平等のために、アフガニスタンの政府や国民とともに、今後も努力を続けて参ります。【2012年7月18日】
*****************

14年末までの外国軍撤退を控えて、カルザイ政権はアメリカとの関係が悪化していることは、これまでも取り上げたところですが、カルザイ政権はタリバンとの政治和解を求めています。

政治和解自体は望ましい方向ではありますが、その流れのなかでは、欧米的価値観からすれば女性に対する権利保護が図られていないと思われるようなイスラム的価値観や部族的・伝統的な慣習が、これまで以上に前面に出てくることも懸念されます。
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イギリス  スコットランド独立を問う住民投票を9月に実施 論戦本格化

2014-02-09 21:34:22 | 欧州情勢

(独立派による「Yes Scotland campaigning」 2月1日 エジンバラ “flickr”より By Scottish Political Archive 自分たちの国の枠組みを自分たちで決めるということはワクワクすることではあるでしょう。 http://www.flickr.com/photos/48304957@N05/12285626604/in/photolist-jHD3Lm-jHBE86-jHJzah-jHGnrc-jcTEYd-jzg1Sf-jKLkLi-jHGnz8-jaRoAt-jb3Vkf-jb3Vsj-jaYub4-jaZUi8-jb1Rn7-jb1RBq-jHKewQ-jHH9XF-iQjzpR-iGiFMb-jsRZpL-jbGMVZ-ja6biT-juySwb-iQuyLe-iidBNB-jsRw42)

【「前提が実は不確かなことを考えると、驚くべき主張だ」】
スコットランドのイギリスからの独立を求める動きについては、2年前の2012年1月11日ブログ「イギリス スコットランド独立を問う住民投票を巡る議論」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20120111)でとりあげたことがあります。

****スコットランド****
イングランド、ウェールズ、北アイルランドと共に連合王国である英国を構成する。面積は北海道とほぼ同程度。人口約530万人で英人口のほぼ1割に相当する。

中世には独立した王国として南隣のイングランドと攻防を繰り返したが、17世紀に同じ王を持つ同君連合が結ばれ、1707年に統一された。

1997年の住民投票の結果、99年にスコットランド議会と自治政府が設立され、高度な自治が認められるようになった。【1月28日 朝日】
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独立派を率いるのはスコットランド自治政府の与党スコットランド民族党(SNP)で、2011年5月のスコットランド議会選挙で単独過半数を獲得しました。

前回ブログ当時の2年前、独立を悲願とするSNP党首でもあるスコットランド自治政府サモンド首相は、住民投票を「2014年秋に行うべきだ」と表明していましたが、その住民投票が今年9月18日に実施されます。

イングランドとスコットランドをめぐる文化的・歴史的な問題、住民感情の問題などはあるにしても、さすがに独立となると多くのリスクが伴いますので、スコットランドにおいても住民の独立支持率は過去の世論調査で25~40%程度にとどまっているとされています。

キャメロン政権としては、こうした数字を背景に敢えて住民投票は阻止せず、むしろ住民投票で白黒をはっきりさせよう・・・という姿勢のようです。

独立派が描くスコットランドの独立後の国家像は、判断を迷っている住民を安心させるためもあって、自分たちに都合のいいような形になっています。

****元首・通貨・往来…今と同じ****
670ページにわたる独立白書は、どんな国家像を描いているのか――。

元首はエリザベス女王。通貨は英国銀行が発行する英ポンド。イングランドとの陸の国境に検問は設けず、人の往来は自由。外交面では、欧州連合(EU)に残ることが可能だと独自に解釈し、北大西洋条約機構(NATO)にも加盟申請する。

英国内での自治拡大だけでは口を差し挟めない外交安保やマクロ経済政策だが、実は、独立で一変するのは核政策ぐらい。英国との国家連合的な枠組み志向が浮かびあがってくる。

背景にあるのが、世論の動向だ。最近の各種世論調査で、独立支持層は3~4割程度。独立後も大きな変化はないと安心させ、決めかねている層の背中を押す意図がある。

だが、どの政策も、英政府やEU、NATOの側からの同意が必要。独立白書の記述は、その点についてはあいまいなままだ。

英政府は1月17日、白書を受けた反論文書の最初となる国際関係についての報告書を公表した。グラスゴーに乗り込んだヘイグ外相は、こう切って捨てた。
「独立支持派は、分離独立の選択は何も損失はないかのように描くが、前提が実は不確かなことを考えると、驚くべき主張だ」【同上】
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分離後もイギリスが温かくスコットランドを遇してくれるという前提で、大枠は今までと大きく変わらないという随分と都合のいい青写真です。

“独立で一変するのは核政策”というのは、原潜母港となっているグラスゴーに近いクライド英海軍基地からの核兵器撤去・非核化を求めていることをさします。

もし独立派が勝利すればイギリスは唯一の原潜母港を失いますが、他に適当な代替地もなく、安全保障体制に大きな問題が生じます。
ただ、それによってスコットランドは「スコットランド最大の雇用」を失うことにもなります。

経済の自立・・・・?】
独立派が前面の押し出しているのは、経済的メリットのようですが、これもかなり怪しいものです。

****旗色悪い独立派=9月にスコットランド住民投票―理念より「実利優先」の戦い・英****
・・・・こうした中、独立を推進する自治政府は、住民が「経済的な実利がある」と確信すれば、世論は大きく独立に向かう可能性があるとみて、独立の経済的メリットを宣伝する作戦に出ている。

独立の青写真を描いた白書「スコットランドの未来」の中で、自治政府は光熱費の5%引き下げや税負担軽減などをちりばめた。
しかし、それでも独立への支持は拡大していない。

反対派は、独立によるデメリットを意図的に強調する「恐怖作戦」を展開。「税負担が増加する」「大手スーパーはスコットランドの店舗で値上げの意向だ」といった見方が連日のように流され、独立に対する住民の懐疑は根強いようだ。【2013年12月31日 時事】
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イギリス政府側も経済に焦点をあてて、独立派の淡い期待に反論しています

****経済の自立、不安訴え 社会福祉、自ら決める****
グラスゴーの街角で若者たちに聞くと、「人口が少なく、移民頼みの経済になってしまうから、独立は無理」といった声が多い。

英政府の反論も、経済に焦点を当てる。例えば、英政府によるスコッチウイスキーの海外での販売促進活動は当然なくなる、との方針が示されている。
17日の英政府報告書は、EU内で英国が独自の特権として得ているEU予算からの払戻金について、独立したスコットランドには受けとる権利がなく、EUへの分担金は増える、とも指摘した。

しかし、その一方で、独立支持派が説くのも、文化の差や歴史的な独自性だけでなく、経済の自立だ。
例えば、英国が外貨を稼ぐドル箱の北海油田について「場所はスコットランド沖の海域。あれは本来は自分たちのもの」というのが長年、独立運動のうたい文句となってきた。

ここ数年はさらに、キャメロン英政権が進める緊縮策への不満を取り込もうという動きも強めている。(後略)【1月28日 朝日】
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独立派が重視する北海油田については、“2020年代に入ると資源の枯渇が進み、多くの油井で生産が停止する予測がなされている。陸上と異なり、海上ではプラットフォームの解体に巨額の費用を要するため、将来性が懸念されている”【ウィキペディア】ということで、これに多くを頼るような計画はいかがなものでしょうか?

キャメロン首相「英国に残ることがスコットランドの利益になる」】
イギリス政府としては、独立は支持されないと見てはいますが、万一ということもありますので、キャメロン首相も独立阻止へ本腰を入れて取り組み始めています。

****スコットランド独立 英首相、阻止に全力 9月住民投票 自治政府は反発****
連合王国である英国の一部をなす北部のスコットランドが独立の動きを見せている問題で、英国のキャメロン首相は7日、今年9月18日に独立の是非を問う住民投票が行われるのを前に演説し、独立反対の意思を伝えようと国民に呼びかけた。

独立阻止に向けた本格的なキャンペーンが始まった形だ。スコットランド自治政府のサモンド首相は早くも反発。論戦は今後過熱するとみられている。
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キャメロン氏は、2012年のロンドン五輪でスコットランド出身のホイ選手が2つの金メダルを獲得した自転車競技場で演説。ロンドン五輪での英国チームの成功や自らがスコットランド出身の祖先を持つことなどを例に、「団結してこそ強い国であることができる」と述べ、スコットランドは独立すべきではないと訴えた。

さらに、「英国に残ることがスコットランドの利益になる」と指摘。「スコットランドを失えば、英国の名声と影響力は地に落ち、別の国となってしまう」と警告。独立を思いとどまるよう電話やツイッターで呼びかけ合うよう求めた。

これに対し、サモンド氏は、キャメロン氏を「臆病者」と呼び、「(投票が行われる)スコットランドで論戦を挑むべきだ」と挑戦状をたたき付けた。また、独立派の活動家も英BBCテレビに対し、「(スコットランドの独立を)恐れ、ほかの説得材料がないから五輪を政治的に利用している」と批判した。

英財界などからは、スコットランド独立は経済に大打撃を与え、ユーロ危機のような問題も起こりうるなど懸念を表明。世論調査では独立反対が優勢だが、賛成派も増加傾向にある。

しかし、独立が実現すれば、英国は“離婚”に伴う経済的、政治的なダメージに加え、現在、スコットランドにある戦略原潜の基地を廃し、イングランドに移設する必要が出てくる可能性もあり、安全保障体制の見直しも避けられない。

それだけに、英政府は今後、さまざまな場で独立阻止に向け本腰を入れてくるものとみられている。【2月9日 産経】
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欧州の場合EU、NATOが存在しますので、外交・安全保障はそうした枠組みに委ねる形をとれば、現在の国家の枠組みを必ずしも必要としない・・・という事情があります。

もちろん、EU、NATOへの参加が認められるのかは問題のあるところですが、それ以前に、独立すればうべてうまくいく・・・といった発想は甘いものに思えます。
南スーダンのように、独立派したものの内戦に陥るような国もあります。

民族・文化的な差異についても、それをことさらに強調するよりは、異なるもの同士がどうしたら一緒にやっていけるかに知恵を絞るほうが、無用の混乱・争いを防ぐことになると考えます。

ただ、国家という枠組みは結局のところ、そこに住む住民の選択・意志によって決まるものであり、それ以上のもの、絶対不可侵のものではない・・・という意識は健全なものにも思えます。

欧州の分離独立運動としては、スペインのカタルーニャ地方の問題もありますが、それはまた別機会に。
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