孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  ホムスでようやく避難始まる “人道”をめぐるせめぎあいも

2014-02-08 22:56:07 | 中東情勢

(シリアの首都ダマスカス南西のダラヤで、シリア軍のヘリコプターから投下された「たる爆弾」とみられる攻撃によって立ち上る煙(2014年2月5日撮影)【2月6日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/3007903  なかの金属片やクギは1キロ以上も飛び散るとか)

再開される和平協議に弾みの期待も
シリア内戦の政治的解決を目指し、ジュネーブで1月24日から31日まで行われていたアサド政権と反体制派の初の協議では、アサド政権が包囲する中部ホムス旧市街からの避難や人道支援物資で合意しました。

政権移行という基本的問題での合意が困難ななかでの“信頼醸成措置の第一歩”と期待された人道的対応でしたが、互いの不信感のため実際の避難・支援活動は始まらず、政権側と反体制派は互いに計画の遅れを相手の責任として非難する状況が続いていました。

ここにきて、ようやくホムスでの3日間の停戦と実際の避難・支援活動が実現しました。

****ホムス住民 避難開始 シリア 人道支援、3日間停戦****
内戦下にあるシリアの国営テレビは7日、アサド政権と国連が人道支援ルート確保で合意したのを受け、反体制派の拠点で政府軍が包囲を続ける中部ホムス旧市街から一部の住民が避難を開始したと伝えた。
支援物資の搬入は8日にも始まる見込み。

また、政権側の後ろ盾であるロシア外務省は7日、一連の人道支援活動を実施するため、政権側と地元の反体制派との間で、3日間の停戦合意が成立したと明らかにした。

国際社会の仲介により、人道状況改善に向けた紛争当事者間の合意が一応は成立したことで、10日からスイス・ジュネーブで再開される和平協議に弾みがつくとの期待も出ている。

地元県知事によると、7日に避難するのは、旧市街にとどまっている2500~3千人のうち、女性や子供ら約200人。

現場には同日朝、住民らの搬送にあたるシリア赤新月社のバスなどが到着した。政権側は、反体制派戦闘員の可能性がある15~55歳の男性が避難を希望する場合は「降伏」するよう求めている。

政権側と国連は6日、ホムスでの住民避難や支援物資搬入で合意。国連報道官はこれを歓迎する声明を出した。
ただ、パワー米国連大使は「アサド政権は、反体制派支配地域の住民をすべてテロリストとみなして攻撃対象としてきた」と述べて政権側の人道支援への取り組みに懐疑的な見方を示した上で、避難住民らの身柄の取り扱いなどについて懸念を表明している。

ホムス旧市街は、2011年3月に反政府デモが発生した当初から反政府活動が活発な地区で、12年6月以降は政権側が包囲。激しい戦闘が続く中、食料や燃料、医薬品などの支援物資がほとんど届かない状態が続いていた。【2月8日 産経】
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国連は7日、ホムス旧市街の反体制派の支配地域から市民83人が避難したと発表しています。
また、ホムスには病気や負傷で身動きが取れない市民も数多く残っており、こうした人たち向けの人道支援物資の第1便は8日に同地に到着する予定です。

【「状況はあまりに絶望的」】
政府軍による封鎖が行われているのは反体制派が支配するホムスだけではありません。

****シリア首都の難民キャンプ、封鎖7か月で2万人が飢え****
シリア首都ダマスカスのヤルムーク・パレスチナ人難民キャンプでは、潜伏する反体制派を追い出すための政府軍による懲罰的な封鎖が7か月にわたり続き、2万人近くの住民が飢えに苦しんでいる。

シリア当局とヤルムークのパレスチナ人側との数か月にわたる交渉の結果、一部住民は退去を許されたが、その数はごく少数にとどまっている。

子ども2人を連れての退去を許されたフルード・シェハブさんは、AFP記者に対し「(キャンプ内は)悲惨な状況。人々は文字通り、飢えで死んでいる」と語った。シェハブさん一家は生き延びるために「家の近くに生えていた草やサボテンをゆでて」食べていたという。

また、インターネットを通じて取材に応じた住民によると、多くの人たちが野良犬や野良猫を食べ、一部の女性は最後の手段として食料と引き換えに売春をしている。

ネット電話サービスのスカイプを通じてAFPの取材に応じたヤルムークの住民、アリさんは「ここにいる多くの人が犬や猫、それにロバまでも殺して食べている」と語る。

「ある男性は犬を殺したけれど、食べる肉は見つけられなかった。犬も飢えているからだ」。「状況はあまりに絶望的で、女性たちはコメやブルグアの1カップを得るために、封鎖前に食料を蓄えた男性たちに体を売っている」

■封鎖されたヤルムーク
1950年代にパレスチナ人難民キャンプとして始まったヤルムークは、その後数十年かけて、約15万人のパレスチナ人とシリア人とが共に暮らすにぎやかな商業・住宅地区へと発展。2012年にシリアの騒乱がダマスカスに到達すると、市内各地からヤルムークに大勢の人が流れ込み、人口はさらに増加した。

だがまもなく、反体制派の武装したシリア人たちがキャンプ内に入り込み、ヤルムークも戦闘地域になった。パレスチナ人の一部は反体制派武装勢力に参加し、一部は政権側のグループを支持した。

昨年6月にはシリア軍が2平方キロメートルに広がるヤルムークを完全封鎖。既に住民の大半がキャンプ外へ避難していたが、国連によれば民間人1万8000人がヤルムークに取り残された。

ヤルムーク内では食料と医療品はほぼ底を突き、住民によればコメ1キロの値段は100ドル(約1万円)にまで高騰している。シリア人権監視団によると、封鎖が始まってからこれまでに、飢えや医療不足によって少なくとも88人が死亡した。

■支援物資に群がる住民
数か月にわたる交渉の末、シリア当局とパレスチナ側の14組織は昨年12月、これまで長く拒否されてきた食料支援を許可することで合意。支援は今年1月にようやくヤルムークに届き始め、一部住民には人道的理由による封鎖地区の退去が認められた。

国連パレスチナ難民救済事業機関は1月18日にキャンプ内で1回目の食料支援を、さらに1月30日から2月2日にかけては2回目の支援を実施。

広報担当者のクリス・ガネス氏によれば、これまでに少なくとも3709個の支援物資がヤルムークに届けられ、各配給所には人々の群れが押し寄せた。

パレスチナ解放機構(PLO)によると、これまでに女性や子ども、高齢の男性を主とした少なくとも450人の退去が認められた。
だが、12月の合意で交渉を担当したシリア当局者は、退去が許されるのは人道的な理由が認められた場合のみだと述べている。【2月4日 AFP】
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無差別殺傷の“安上がり兵器”】
シリアで多くの一般市民が犠牲になっているとして注目されているもうひとつの問題は“たる爆弾”です。

****たる爆弾****
ドラム缶のような円筒形の鉄の容器に150キロから1トンの火薬を入れ、クギや金属片を詰め込んだもの。政権軍がヘリコプターで運び、主に住宅地に投下する。
シリア政権軍は2012年夏から使い始め、これまでに2千発近くが使われ、約3千人が死んだとされる。殺傷力は高いとされる。【2月8日 朝日】

****シリア、たる爆弾の惨禍 政権軍が投下、市民犠牲に 死者1週間で250人****
内戦が続くシリアで、反体制派の支配地域に対し、アサド政権軍が大量の火薬などを詰め込んだ「たる爆弾」を投下する作戦を続け、市民の犠牲者が増えている。

人権団体はこの1週間足らずに北部アレッポで、たる爆弾による死者が250人近くに上ると報告。
10日からジュネーブで再開されるシリア和平協議でも問題となりそうだ。

英国に本拠を置く「シリア人権監視機構」によると、反体制派が支配するアレッポ東部でたる爆弾が投下され、今月1~5日の5日間で246人が死亡。うち73人は18歳以下の子供たちだったという。政権側は、10日の協議再開前にアレッポで攻勢を強めようとしているとみられる。

アレッポに近いラスタンの反体制派「地域調整委員会」のアブドルバセト・ラジャブ委員長は、朝日新聞の取材に「200キロのたる爆弾で500平方メートルが完全に破壊され、4階建てのビルが跡形もなく崩れる。さらに金属片やクギが1キロ以上も飛び散り、多くの死傷者が出る」と語った。

さらに「すべてシリア製で安上がりな兵器だが、無差別の殺傷力や破壊力がある。このような兵器が毎日使われ、民間人が死んでいるのが放置されているのは、国際社会の責任だ」と非難した。

たる爆弾による攻撃は、昨年12月下旬にもアレッポで2週間にわたり行われ、500人以上が死亡。
今年1月下旬にジュネーブでアサド政権と反体制派の代表組織・シリア国民連合が初の和平協議を行った際も、たる爆弾攻撃は続いた。

米国のケリー国務長官は4日、「市民へのたる爆弾攻撃は、アサド政権の野蛮さを示している」との声明を発表。
「世界が戦争を終わらせようとしている時に、アサド政権は破壊を激化させ、協議を失敗させようとしている」と非難した。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「政権軍のたる爆弾使用は戦争犯罪にあたる可能性が高い」「ジュネーブの和平協議でたる爆弾を問題にすべきだ」との声明を出した。

1月の和平協議でも、アレッポでの停戦は実現しなかった。ブラヒミ国連・アラブ連盟合同特別代表は「たる爆弾の使用をやめることは市民保護のうえで重要だが、双方とも市民保護を順守しようとはしていない」と語った。

たる爆弾について、シリアのハイダル国民和解相は1月に朝日新聞のインタビューで「シリア軍は民間人が退避し、テロリストの拠点となっている場所を攻撃している」と述べ、使用は認めたうえで、民間人への攻撃は否定した。【同上】
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一般市民を盾にするかのように市民の中に紛れ込む戦闘員、その排除のため市民もろとも殺戮する行為・・・・結果として、多大な市民が犠牲になります。

“たる爆弾”にしても“化学兵器”にしても、非人道的兵器の問題は、「じゃ、普通の爆弾・兵器で殺すのはいいのか?」という釈然としない部分もありますが、要は、戦争にあっても一般市民を無差別に殺害するような兵器の使用は認められないということでしょう。

世界中でそうしたコンセンサスが確立されるのであれば、長崎や広島の原爆、日本各地を焼き払った焼夷弾、ベトナムのジャングルを焼き払ったナパーム弾や枯れ葉剤などの時代からは一線を画し、虐殺を繰り返してきた数十万年のホモ・サピエンスの歴史上の画期的進歩とも言えるでしょう。

ただ、一般市民を無差別に殺害してはならないというコンセンサスによって、逆に市民を盾にするような戦術が拡散するという問題もはらんでいます。戦争の形態が変わってきています。

人道支援で国際圧力
人道支援を巡っては、これをてこにしてアサド政権への圧力をかけようとする国際的動きがありますが、ロシアはこれに反発しています。

****シリア:人道支援へ決議案検討 安保理、受け入れ迫る****
スイス・ジュネーブで1月31日まで開かれたシリアのアサド政権と反体制派主要組織「シリア国民連合」の直接協議で具体的成果がなかったことを受け、国連安全保障理事会の欧米やアラブ諸国が、人道支援の受け入れをアサド政権に迫る決議案の検討を本格化させていることが分かった。複数の安保理外交筋が明らかにした。アサド政権の後ろ盾のロシアに圧力をかける狙いもあるとみられる。

直接協議では、信頼醸成措置として、中部の激戦地ホムスでアサド政権が包囲する旧市街地から女性や子供を脱出させる一方、支援団体が救援物資を搬入することで合意。だが協議最終日になっても実現せず、国連のエイモス人道問題調整官は31日の声明で「受け入れがたい状況だ」と不満をあらわにした。

安保理は昨年10月、アサド政権に人道支援受け入れの即時拡大を要請する議長声明案を全会一致で採択。安保理外交筋によると、この声明の内容を踏まえた上で、安保理の決定で最も政治的重みがある決議に格上げし、ホムスなど政権軍が包囲する地域での人道支援受け入れを求めることが検討されている。

別の外交筋によると、今後のアサド政権の動向を見極めつつ「来週以降、安保理で決議案について協議される」という。現在は、安保理非常任理事国のオーストラリアやルクセンブルクの案と、ヨルダンなどアラブ諸国の案を一つにまとめる作業が進められている。

欧米やアラブ諸国が支持する国民連合はもともと、成果が見込めないとして協議に乗り気ではなかった。
決議で政権側に一定の譲歩を迫ることで、国民連合に今後の協議参加の意思を継続させる狙いもあるとみられる。【2月1日 毎日】
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****ロシア、シリア人道支援決議案に反対姿勢 安保理****
ロシアのチュルキン国連大使は7日、シリアの人道支援に関し、オーストラリアなど3カ国が6日、安全保障理事会の常任理事国に配布した新決議案に反対する姿勢を示した。

ロイター通信によれば、同決議案は、人道支援要員のシリア入りを条件なしで認めることが柱。
学校や病院を軍事利用化しないことも求めている。
人道支援を妨げる個人と団体に対しては、制裁を科すことも示唆した。決議案提出には、豪州のほか、ルクセンブルクとヨルダンも加わった。

パワー米国連大使は決議案について、「人道支援は義務であるということをシリア政府に伝えるため、安保理は前進しなければならない」と強調した。

これに対し、過去3度にわたってシリア決議案に拒否権を行使してきたロシアのチュルキン大使は、「(欧米側との距離を埋める)最初の一歩にもならない。失望している。過去に(欧米諸国から)提出された決議案よりも悪い内容だ」などと酷評。その上で、決議案が近く採決に付された場合には、4度目の拒否権を行使することを示唆した。【2月8日 産経】
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人道支援を政治的圧力の手段として使う結果、人道支援問題でも対立が鮮明となり、肝心の支援が滞る・・・という事態にならないか懸念されます。

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パキスタン  イスラム過激派との和平へ向けた歴史的な交渉の第1回会合実現

2014-02-07 21:59:09 | アフガン・パキスタン

(パキスタンのイスラマバードにあるカイバル・パシュトゥンクワ・ハウスで会合後、握手するパキスタン政府代表団のイルファン・シディキ氏(左)と、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」代表団のマウラナ・サミウルハク師(右、2014年2月6日撮影)。【2月7日 AFP】http://www.afpbb.com/articles/-/3007939?ctm_campaign=txt_topics

テロを阻止した少年に「勇気の星」賞
パキスタンがイスラム過激派による“テロ地獄”と化していることは、今さら言うまでもない話ですが、先月には学校でテロを企てた男を身を挺して食い止めて死亡した少年が話題となりました。

****14歳少年、自爆犯を学校前で食い止め死亡 パキスタン****
パキスタン北部で14歳の少年が学校に侵入しようとした自爆テロ犯を校門前で食い止め、爆発に巻き込まれて死亡した。朝礼のため集まっていた数百人の生徒たちは、この少年のおかげで無事だった。

死亡したのは北部カイバル・パクトゥンクワ州の学校に通う中学生のエティザズ・ハッサン・バンガシュ君。親類や目撃者の話では、6日の登校途中、学校の制服を着た男に学校の場所を尋ねられ、不審を抱いたという。

ほかの生徒たちがひるむ中、エティザズ君は男を阻止しようと石などを投げ、それでも校門に近付こうとする男につかみかかった。

エティザズ君につかまれた男がとっさに爆弾を爆発させ、2人とも現場で死亡。ほかに2人が負傷したという。事実関係については地元の警察も確認している。

カイバル・パクトゥンクワ州はアフガニスタンと国境を接する部族地域にあり、イスラム教シーア派とスンニ派の衝突が頻発している。

エティザズ君を称賛する声はパキスタン全土に広がり、ソーシャルメディアでもその勇気を表彰すべきだとの声が高まっている。地元住民は「彼は何百人もの生徒の命を救った。(反タリバーン運動を展開している)マララ・ユスフザイさんよりも称賛に値する」と話している。【1月10日 CNN】
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イスラム過激派からの襲撃後も女性教育の重要さを世界に訴えているマララさんよりも“称賛に値する”云々は殆ど意味のない議論ですが、そうした反応が出るのは、女性教育の重要性に対する認識の違い、欧米的価値観に完全に沿っているマララさんへの反発があるのでは・・・とも思えます。

なお、マララさんも“エティザズさんに「国の最高の賞」を贈るよう訴えていた”【1月12日 AFP】そうですが、“パキスタン政府は、自らの命を犠牲にして自爆犯の攻撃から約1000人の生徒の命を守った少年に、その勇気ある行動をたたえて同国で最高の賞(「勇気の星」賞)を贈る方針を決めた”【同上】とのことです。

エティザズ・ハッサン・バンガシュ君の勇敢な行動は称賛すべきものですが、こうしたことが起きる現状は真に憂うべきものです。

連日のテロ
私事ですが、今年4月にパキスタンへの旅行を予定しています。
もちろん単なる観光旅行で、ラワルピンディ(首都イスラマバードの隣接都市)近郊のガンダーラ美術遺跡や、インド国境も近いラホールを訪れるつもりです。

日本人に人気の観光エリアであるパキスタン北部フンザ地方が外務省の海外渡航情報では「渡航延期勧告」エリアであるのに対し、私が予定しているエリアはそれより危険度が低い「渡航の是非検討」エリアです。
なお、アフガニスタン国境も近いペシャワルなどは「退避勧告」エリアになっています。

まあ、そんなこともあって、「パキスタンが“テロ地獄”とは言っても、首都近郊や大都市ラホールあたりなら大丈夫じゃないか・・・」といった思いもありました。(もっとも、昨年11月にはイスラム教シーア派とスンニ派の住民同士が衝突し、ラワルピンディ全域に24時間の外出禁止令を出たこともありますが・・・)

福島で放射性物質がダダ漏れ状態でも、東京では何事もなく(ないかのように)生活しています。
テロ標的とされるソチでは、平和の祭典も開かれます。

さすがに普段の東南アジアの旅行とは違いますので、遺跡観光もなるべく地元ガイドを伴って行動するとか、宿泊ホテルもそれなりのところを選ぶといった注意はしています。

それでも、ちょうど航空券やホテルの手配をしていた時期にパキスタンでのテロ報道が集中し、ちょっと不安にもなったのも事実です。

****パキスタン:民放取材車両に銃撃、3人死亡****
パキスタンの最大都市カラチで17日夜、民放大手「エクスプレス・ニュース」の取材車両が武装集団の銃撃を受け、運転手、技師、警備員の3人が死亡した。国内最大の武装勢力「パキスタン・タリバン運動」のエフサン報道官が、エクスプレス・ニュースの放送中のスタジオに電話し、犯行を認めた。(後略)【1月20日 毎日】
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****パキスタン軍の車列に爆弾、兵士20人死亡 イスラム勢力が犯行声明****
パキスタン当局によると、同国北西部バンヌで19日朝、軍の車列がイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」による爆弾攻撃を受け、兵士20人が死亡、30人が負傷した。軍はその後、報復とみられるミサイル攻撃を実施し、TTP戦闘員3人を殺害した。(後略)【1月20日 AFP】
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1月20日には、私の旅行予定地のラワルピンディでも軍施設を狙ったテロが起きました。
外務省からは軍関連施設に近づかないようにとの注意も出されています。

****パキスタン:首都近郊で軍検問所狙う自爆攻撃 13人死亡****
 ◇武装勢力「パキスタン・タリバン運動」が犯行声明
パキスタンの首都イスラマバードに隣接するラワルピンディで20日、軍の検問所を狙った自爆攻撃があり、兵士6人と近くにいた住民7人の計13人が死亡、約20人が負傷した。国内最大の武装勢力「パキスタン・タリバン運動」が犯行声明を出した。

現場はパキスタン軍の中枢である陸軍司令部の近く。タリバンは19日に北西部バンヌで軍部隊を狙った爆弾攻撃を仕掛け、兵士20人を殺害したばかり。今後も軍を狙った攻撃を激化させる姿勢を示しており、治安の悪化が懸念される。

シャリフ首相は19日の軍部隊への攻撃を深刻に受け止め、スイスのダボスで開かれる「世界経済フォーラム」への出席をキャンセルしていた。その直後の軍の本拠地ラワルピンディへの攻撃は、シャリフ政権の無力ぶりを示す狙いがある。

民放エクスプレス・ニュースによると、タリバンの最高指導者ファズルラ師は19日、部下の兵士に電話し、「軍への攻撃激化」を指示した。パキスタン情報当局が傍受したこの会話の中で、ファズルラ師は「昨年11月に前最高指導者ハキムラ・メスード師が無人機空爆で暗殺されたことと、昨年12月にパキスタン軍が実施した大規模なタリバン掃討作戦への報復だ」と語ったという。

無人機によるメスード容疑者の暗殺は、シャリフ政権がタリバンとの和平協議の準備をしていたときに米国が実施し、タリバン側を激怒させた。

またパキスタン軍は昨年12月末、約1週間にわたって北西部の北ワジリスタン管区で攻撃ヘリなどを投入し、大規模なタリバン掃討作戦を実施した。【1月20日 毎日】
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その後も、軍とタリバン双方の攻撃が報じられています。

****パキスタン:爆弾攻撃相次ぐ 国内最大の武装勢力か****
パキスタン南西部クエッタ近郊で21日、イスラム教シーア派の乗客を乗せたバスが爆弾テロに遭い、乗客28人が死亡、21人が負傷した。

また、南部の国内最大都市カラチで同日、ポリオの予防接種に従事していた医療団のメンバー3人が何者かの銃撃を受け死亡。さらに北西部チャルサダで22日、ポリオ予防接種チームを護衛していた警察の車両が爆弾攻撃に遭い、警察官6人と近くにいた少年1人が死亡した。

いずれの攻撃も犯行声明は出ていないが、国内最大の武装勢力「パキスタン・タリバン運動」などイスラム教スンニ派の武装勢力による攻撃とみられる。

一方、北西部の北ワジリスタン管区からの報道によると、パキスタン軍は20、21の両日、武装勢力掃討のため空爆を実施し、パキスタン・タリバン運動の司令官を含む約40人を殺害。別の地域でも作戦を展開している。

軍の作戦は、タリバンが最近仕掛けた攻撃への報復とみられる。今後、軍とタリバン双方の報復攻撃がエスカレートする恐れがある。【1月22日 毎日】
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【「双方とも、和平努力を損なう恐れのある活動は差し控える」】
文字通りの連日のテロで、“軍とタリバン双方の報復攻撃がエスカレート”なんて事態になったら旅行も再検討しないといけないかも・・・とも不安になったのですが、このところは少し落ち着いたようで、パキスタン政府とTTPの“和平へ向けた歴史的な交渉”が始まっています。

****パキスタン政府とタリバン、和平へ向け歴史的会合****
パキスタン各地で2007年から爆弾攻撃や銃による襲撃を繰り返しているイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」とパキスタン政府の両代表団が6日、首都イスラマバードで、和平へ向けた歴史的な交渉の第1回会合に臨んだ。会合後、両者はともに停戦を呼び掛けた。

3時間以上に及んだ今回の会合は、和平協議のロードマップ(行程表)を作成するための事前協議。パキスタン政府とTTPが公式に対話の席につくのは、これが初となる。ただ、対話が持続的な和平合意に結び付くかどうかには強い疑念も残る。

会合後、共同声明を読み上げたTTP側交渉責任者のマウラナ・サミウルハク師は「双方とも、和平努力を損なう恐れのある活動は差し控える」との政府の要求にタリバン側が合意したことを明らかにした。

一方、政府側の交渉責任者イルファン・シディキ氏は、TTP側が「われわれの期待を上回る対応を示してくれた」と会合の成果を強調した。

パキスタン政府とTTPとの会合は当初4日に予定されていたが、政府がTTP代表団に疑念を示したことから延期されていた。

サミウルハク師らは今後TTP指導部と協議を行い、その回答を待って第2回会合を開く方針だという。 【2月7日 AFP】
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4日の予定が延期されたのは、会談場所をめぐる意見の対立のためとも報じられていました。

昨年6月の政権発足時から「タリバンとの和平」を訴えていたシャリフ首相ですが、和平へ向けて具体的に動き出したのは今回が初めてです。

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・・・タリバンが和平の呼びかけに応じたのは、「シャリア」(厳格なイスラム法)による統治や、拘束された仲間の釈放などの要求を政府にのませる好機と捉えたためとみられる。

タリバンなど武装勢力は2日深夜、ペシャワルの映画館で5人が死亡、30人が負傷する爆破事件を起こしたほか、3日には南部カラチで警察官4人を射殺するなど攻撃を続けており、今後の協議は難航しそうだ。

タリバンは過去にも政府側との停戦に合意しては、勢力を蓄えて攻撃に転じるなど合意破りを繰り返してきた。【2月4日 毎日】
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昨年11月にTTPの新指導者に選ばれたマウラナ・ファズルラ師は、パキスタン北西部のスワト渓谷でTTPによる2年間の暴力支配を指揮した人物とされ、マララさん襲撃にも関与した強硬派であることも、今後の交渉が難しい理由のひとつです。

“パキスタンの武装勢力に関する専門家で著書もあるイミティアズ・グル氏は、ファズルラ師のような容赦のない指導者が選ばれたことは、TTPが暴力的な活動を強化させていく恐れを意味すると警告。同氏はAFPに対し、「ファズルラ師の選出により、TTP結成以降のパキスタン国内で行われてきたテロ行動が継続されることになる。TTPは政府との交渉に本気で取り組むつもりがないことがうかがえる」として、「TTPは今後さらに残虐さを増すだろう」と語った。”【2013年11月8日 AFP】

TTP側が求めるような“シャリアによる統治”にシャリフ首相が譲歩するのであれば、それはまた別の問題をパキスタンにもたらします。
従来のムシャラフ大統領やザルダリ大統領などに比べるとイスラム主義に宥和的なシャリフ首相ですが、どこまで譲歩するつもりなのでしょうか。
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ドイツ 大連立・社民党の苦しい選択  サウジアラビアへの武器輸出問題

2014-02-06 22:26:42 | 中東情勢

(仲間の公判を聴取した後に法廷外で集まるサウジアラビアの人権活動家 彼らのソーシャルメディアとオンライン上のフォーラムを使った活動を、サウジ政府は脅迫と投獄で阻止しようとしています。
なお、2013年11月、サウジアラビアは中国やキューバとともに国連人権理事会の理事国に当選しています。
写真は【2013年12月18日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】http://www.hrw.org/ja/news/2013/12/18-1

独自色か、国民政党としての行動か?】
ドイツのメルケル首相が率いる中道右派、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は昨年9月の連邦議会(下院)選挙で圧勝しましたが過半数にはわずかに届かず、二大政党の相手方である中道左派・社会民主党(SPD)とのいわゆる大連立政権を目指しました。

この大連立にあたり、社会民主党は大連立の是非を約47万人の党員に問う投票を行っています

“社民党は、第1次メルケル政権(2005~09年)で大連立政権に入った際、独自色を発揮できずにその後の総選挙で大敗。同盟との連立には警戒感も根強い。
このため、今回は政権入りが土壇場で「破談」となる可能性もあるが、その場合は再選挙で大敗するとの見方が大勢だ。
ガブリエル党首は「否決すれば、自分たちの都合ばかり考える党ということになる。それは国民政党の行動ではない」と党員に「大連立賛成」を呼びかけている。【2013年12月1日 毎日】”

結局、この投票は有効票の約76%で大連立が承認され、保革大連立の第3次メルケル政権が実現しています。

しかしながら、予想されたことではありますが、連立では独自色を発揮できないという懸念は早くも現実のものとなっています。

****ドイツ:武器輸出決定で社民党に批判 サウジに巡視艇など****
ドイツのメルケル政権が1月、人権弾圧が指摘されるサウジアラビアに対し巡視艇や国境警備艇など約100隻を輸出する方針を決定し、連立政権を支える中道左派の社会民主党が批判を浴びている。

社民党は昨年9月の連邦議会選(総選挙)までは「人権弾圧国家への武器輸出に歯止めをかける」(シュタインブリュック前財務相)方針だったが、昨年12月にメルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟と「大連立」を組んで以来、結局は輸出を黙認しているからだ。

ドイツは現在、米露に次ぐ世界第3位の武器輸出大国で、紛争拡大に手を貸しているとの批判もある。

AP通信によると、サウジアラビアは2日、国家や社会を弱体化させるあらゆる行為をテロとして処罰可能な法律を導入。人権活動家は民主化要求も規制対象と批判している。

独誌シュピーゲルによると、ドイツ政府は1月、巡視艇などのサウジへの輸出を決定。総額14億ユーロ(約1900億円)の「商談」になる見通しで、第3次メルケル政権発足後、初の大規模な武器・防衛装備品の輸出となる。社民党のガブリエル副首相兼経済エネルギー相は「巡視艇は他国を脅かすものではない」と弁明している。

ドイツでは人権弾圧国家や紛争地への武器輸出が禁じられており、北朝鮮やシリアなど約20カ国が規制対象だ。サウジへの輸出は許可されているが、野党からは「サウジのような専制国家への武器輸出は、戦争につながりかねない。(総選挙で輸出反対を唱えた)ガブリエル氏の信用にかかわる問題だ」(左派党のキッピング党首)との批判が根強い。

2011年の中東民主化運動「アラブの春」の際も、サウジは民主化デモを鎮圧したバーレーン政府を支援したため、ドイツでは「民主化を弾圧する側への武器輸出は問題」との声が高まっていた。

ドイツ経済エネルギー省によると、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)加盟国のような同盟国以外の「第三国地域」向けに許可された12年の武器輸出総額は26億ユーロ(約3500億円)で、02年の3倍以上に増えている。【2月5日 毎日】
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独自の主張を貫けば保革大連立政権は成立せず、CDU・CSUを第1党に選んだ国民の意思にも反するということで、社民党としては苦しい選択です。

第3次メルケル政権の最大課題は脱原発に伴う”ゆがみ”の是正とされています。
ドイツでは再生可能エネルギーの急速な普及による電気代高騰や送電網整備の遅れが問題化。また、企業への電気代軽減策は、欧州連合(EU)が規定違反の疑いがあるとして近く調査を始めると伝えられています。

メルケル政権は電気代上昇抑制のため今春までに関連法制の抜本改革案をまとめる方針で、複数省庁にまたがっていた関連施策を社民党のガブリエル党首が担う経済・エネルギー相に集約することで対応の迅速化を図るとされています。【12月18日 産経】
この問題をめぐって、今後も社民党との“苦しい選択”は続くようにも思われます。

【“サウジのような専制国家”・・・それでもアメリカは・・・
ところで、今回問題となったサウジアラビアですが、“人権”という基準に照らすとかなり問題の多い国家です。
女性の権利・社会進出が極めて制約されていることはしばしば取り上げてきましたが、それだけではありません。

****サウジ:国家を「弱体化」行為はテロ 対テロ法を施行****
サウジアラビアは2日、国家や社会を「弱体化させる」行為をテロ行為と見なし、処罰できる対テロ法を施行した。

人権活動家は、サウジ王家の体制維持が目的で、民主化要求にも法的規制がかけられると批判している。AP通信が報じた。

新法は「社会の安全や国家の安定を損なう」全ての犯罪行為をテロと規定し「国家の名声や立場に背く」行為も該当するとした。治安当局には、家宅捜索や電話通話などを使った活動に対する追跡など幅広い捜査権限を与えた。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「当局がすぐに平和的な反体制活動家に対して新法を利用するだろう」と警告した。【2月3日 毎日】
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要するに、現体制を批判する活動は一切認めないということです。
宗教的不寛容さは言うまでもないところです。

****収監のブロガーに背教罪適用の勧告、死刑の恐れも サウジ****
サウジアラビアの裁判所判事は26日までに、イスラム教を侮辱したなどとして収監されている同国のブロガー、ライフ・バダウィ被告の事件で高等裁判所に対し背教の罪で裁くよう勧告した。

同被告の妻が明らかにした。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、サウジでは背教の罪は死刑判決につながる。

この事件では、同国ジッダの犯罪裁判所が今年7月、同被告が自ら運営していたサイト「フリー・サウジ・リベラルズ」やテレビ番組を通じイスラム教をおとしめたなどして有罪を宣告。昨年6月以降収監されている被告に対し禁錮7年とむち打ち600回の判決を言い渡していた。被告は控訴していた。

バダウィ被告は08年、同サイトを開設したがその直後に1日間拘束され、サイトについて聴取を受けていた。一部のイスラム教聖職者は同被告を不信仰者、背教者などと糾弾していた。

人権団体は法廷や旅行規制などを通じ活動家を締め付けていると非難。
アムネスティ・インターナショナルは、バダウィ被告の事件はサウジ国民が日常生活で直面する諸問題に関する公開討論を促す活動家に対する脅しの明白な事例と批判している。
バダウィ被告の妻と子ども3人は現在、レバノンに居住している。【2013年12月26日 CNN】
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バダウィ氏に対する司法手続きでは、具体的にどの文言や活動ゆえに起訴されたのか、明らかにされていません。

バダウィ氏が自ら運営していたサイト「フリー・サウジ・リベラルズ」は「宗教と宗教界有力者について、オープンで非暴力な議論を行う土台を提供する自由なウェブサイト」(ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局局長代理ゴールドスタイン氏)とのことで、ウェブサイト上でバダウィ氏らは、2012年5月7日をサウジリベラル派の日と宣言し、「民衆の」宗教と「政治化された」宗教の違いについて開かれた議論を行うことに関心を集めようとした(ウェブサイト事務局長)とも。

*****サウジアラビア:ウェブ編集者に 死刑言渡しの危険 ****
・・・(2012年)12月17日の審理の際、ムハマド・アルマルスーム裁判官は、同氏の弁護士による法廷での弁護を妨げた上で、「神に悔い改めるよう」バダウィ氏に求めた。
更に、悔い改め、自由主義的な信念を放棄しない場合、死刑が適用される危険性があるとも伝えたという。
(中略)
サウジアラビア政府当局は、ウェブサイトの設立以降、バダウィ氏に嫌がらせを続けてきた。2008年3月、検察官は彼を尋問のために逮捕・拘留し、翌日に釈放。

2009年に政府は、彼が外国に旅行するのを差し止め、事業上の資産凍結を行い、収入源を奪った、と家族はヒューマン・ライツ・ウォッチに話した。

同氏の父親や兄弟は、彼を遠ざけた上で彼を不信心者と言明、更に妻の家族も背教者であるとして強制離婚させるべく、ジッダ裁判所に訴訟を起こした。
妻と子どもはサウジアラビア国外で生活している。

「サウジアラビア政府は表現の自由に関する一般市民の権利をまもる義務がある。それなのに、宗教問題についてあえて議論しようとする個人を脅迫すべく、バダウィ氏になりふりかまわず攻撃してきた。政府当局は彼に対するすべての容疑を取り下げるべきだ」と前出のゴールドスタイン局長代理は述べる。【2012年12月22日 ヒューマン・ライツ・ウォッチ】
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人権問題で国際的に批判されている国は多々ありますが、その基準で言えばサウジアラビアもかなり怪しいところです。

しかし、世界有数の産油国で、中東の地域大国であるサウジアラビアには、人権・民主主義の守護者アメリカも気を使っています。

****米大統領:3月サウジアラビア訪問へ 関係修復図る狙い****
カーニー米大統領報道官は3日、オバマ大統領が3月下旬に予定している欧州訪問の後、サウジアラビアを訪問すると発表した。

サウジ王室はイランの核問題などを巡るオバマ政権の対応に不満を募らせており、大統領の訪問によって関係修復を図る狙いとみられる。オバマ大統領のサウジ訪問は2009年6月以来。

報道官によると、大統領は3月24〜27日にオランダなど欧州4カ国を訪問後にサウジに入り、アブドラ国王と会談する。会談の狙いは「湾岸地域の安全、中東の平和、テロとの戦い、繁栄と安全に関する両国の共通利益の増進」とされており、両首脳はイランの核問題やシリア内戦への対応を巡って意見交換する見通し。

米・サウジ関係は、オバマ政権が11年2〜3月、バーレーン王室に民主化へ向けた改革を要求したことにサウジ王室が反発し、緊張が高まった。オバマ政権がサウジと敵対するイランと関係改善を進めていることや、米側がシリア反体制派への軍事支援に消極的なことなども、サウジの対米不信に拍車をかけている。

サウジが昨年10月、国連安保理の非常任理事国ポストを辞退した際には「サウジが安保理で米国と足並みをそろえることを拒否した」との見方が広まった。

さらに同月、サウジ情報機関のトップが欧州の外交関係者との会談で「対米関係を大きく変更する」と発言したことが明るみに出て、両国関係の悪化が指摘されていた。【2月4日 毎日】
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現実世界はダブルスタンダードではありますが・・・・。
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ウクライナ  膠着状態で大統領“病気休暇” EUは“および腰” “第三の勢力”台頭

2014-02-05 23:08:25 | 欧州情勢

(衝突を阻止しようとするウクライナ正教会の司祭・・・でしょうか。 “flickr”より By Sandor Csudai http://www.flickr.com/photos/59326124@N08/12295223486/in/photolist-jJuezQ-jJs6kK-jJrhCD-jJs5aZ-jJsaSv-jJueH5-jJs3RM-jJrhpn-jJufz5-jJtrBq-jJtt9y-jJu8QU-jJrjmP-jJudSN-jJrkGK-jJre6D-jJs7qa-jJtqGQ-jJriVt-jJrk52-jJtwQG-jJtxgG-jJuf7b-jJu8Jb-jJs34V-jJtv8d-jJrcGr-jKSLXD-jL33DR-jKf8TZ-jKemYv-jKgUrA-jKhDcN-jKhvTY-jKg94g-jKhxRW-jKifnC-jKfkyz-jKgoSz-jKhudq-jKgNzW-jKgypm-jKLDuV-jKgEc3-jKfbt8-jKhUnN-jKfPEc-jKi45s-jKf2jr-jKgK1w-jKiays)

大統領:政治危機を打開できないまま一時休養
いま、世界で大規模な反政府行動が起きて、事態が膠着しているのがタイとウクライナです。
もちろん、反政府行動の背景は全く別物ですが、政治的背景以外にも全く異なるのが気象条件です。

タイ・バンコクの今日の最高気温は33℃、最低気温は24℃に対し、ウクライナの首都キエフの今日の最高気温は-1℃、最低気温は-11℃だそうです。【msn天気予報より】数日前は-20℃ぐらいとも。

もちろん33℃という暑さのなかの抗議行動も大変ですが、-11℃や-20℃に比べたら・・・。
気象条件の違いで“やる気”“本気度”を云々すれば、バンコクから石が飛んできますが、そうは言っても極寒のキエフでバリケードを築き、治安当局と対峙して長期にわたり行動するのは並大抵のことではありません。

****ウクライナでまた6万人デモ=欧米に支援・仲介求める****
ウクライナの首都キエフで2日、欧州連合(EU)加盟推進派による反ヤヌコビッチ政権デモが行われ、AFP通信によると6万人以上が中心部「独立広場」に集結した。

2013年11月に始まったデモは、1月に警官隊と衝突して死者が出るなど、事態打開の糸口が見つかっていない。野党指導者は欧米など国際社会に対し、デモの財政支援と与野党協議の仲介を初めて呼び掛けた。【2月3日 時事】 
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もともとウクライナはロシアの影響が強い東部と欧州との関係が深い西部に二分されていること、政治的には親欧米派のティモシェンコ前首相が親ロシア派のヤヌコビッチ大統領のもとで拘束されていること・・・そうした欧州とロシアの勢力がぶつかる地政学的な条件下にあるウクライナで、EUとの連合協定に調印するかに見えたヤヌコビッチ大統がロシア政府の圧力を受けて最終的に協定を拒否。代わりにロシアから資金援助を受けたことへの親欧米派国民の反発から反政権デモは起きています。

ヤヌコビッチ大統領は1月27日、ティモシェンコ前首相に近い野党第1党「連合野党・祖国」幹部ヤツェニュク氏を首相、第2野党「ウダル」党首である元ボクシング世界王者のビタリ・クリチコ氏を副首相として入閣させるという譲歩案を提示しましたが、野党側はこれを拒否しました。(ヤツェニュク氏は一時回答を保留し、検討したようですが)

安易な政権側との妥協は、反政権デモを極寒の中で行っている人々の理解を得られないとの判断でしょう。
実際、野党指導者二人が入閣しただけでは、ヤヌコビッチ大統領の親ロシアで、デモ規制法で反政権デモを封じ込めようとする強硬な姿勢は変わらないでしょう。

28日にはアザロフ首相が、反政権デモで混乱する同国の政治危機を打開し、国の結束を保つためとして辞任することを発表。
また野党を激怒させたデモ規制法をウクライナ議会は同日廃止しました。

事態解決の糸口が見いだせないなかで、首相辞任に追い込まれたヤヌコビッチ大統領は“病気休暇”をとっています。

****ウクライナ大統領が病気休暇 危機打開策見えぬまま****
反政権デモが続いているウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ大統領は30日、急きょ病気休暇を取得した。
議会では、逮捕された反政権デモの参加者に恩赦を与える法案が野党棄権の中、可決されたばかりだが、同大統領は政治危機を打開できないまま一時休養することになる。

大統領府が出した声明によると、ヤヌコビッチ大統領は急性の呼吸器感染症で体調を崩しているという。反政権デモ隊が抗議活動を継続する姿勢を新たにし、同大統領はデモの鎮静化のため首相の辞任承認を余儀なくされるなど、1991年にソ連から独立して以来同国最大の政治危機を迎える中での突然の病気休暇の発表となった。

首都キエフの独立広場や主要な通り、さらに中心部の地方行政府庁舎は現在も数千人のデモ隊に占拠されており、危機的状況の先行きは不透明なままとなっている。
ここ数日キエフの気温は零下20度まで下がり、多くの市民が体調不良を訴えている。【1月30日 AFP】
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支援具体策が定まらないEU
場外では、綱引きの当事者でもあるロシアと欧米が非難合戦をやっています。

****欧米と露が非難合戦 ウクライナ情勢、安保会議で議論****
ドイツ南部ミュンヘンで開催中の「ミュンヘン安全保障会議」で1日、政治的混乱が続くウクライナをめぐり、欧米とロシアが非難の応酬を繰り広げた。一方、ウクライナの野党勢力代表は現地に入り、欧米への働きかけを強めている。

1日午前に行われた欧州情勢をテーマとするパネルディスカッションには、独仏の外相や北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長、ラブロフ露外相が出席した。

ラスムセン氏は、各国は安全保障や同盟関係に関する「選択の権利」があるとし、ウクライナにも「外部の圧力なしに進む道を選ぶ自由がある」と強調した。ケリー米国務長官も演説で、「大多数のウクライナ国民は自由で安全で繁栄した国で生きたいのだ。米国と欧州はそれを支持する」と語った。

これに対し、ラブロフ氏は、反政権デモ隊による暴力行為や政府庁舎占拠を踏まえ、「暴力的な抗議が民主主義と何の関係があるのか」と反論。「なぜこのような行動を欧州の政治家は促すのか」と指摘した。

ウクライナの野党第1党「連合野党・祖国」幹部のヤツェニュク氏は1月31日、ミュンヘンでシュタインマイヤー独外相、欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表と会談。1日には第2野党「ウダル」のクリチコ党首らがケリー氏とも会談する。【2月2日 産経】
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ただ、EU側も非難はするものの、具体的な「介入策」は示しておらず、反政権デモ参加者からは失望も起きているとのことです。

****ウクライナ、見えぬ収束 ロシアとEU、介入ためらう****
首都のど真ん中で70日以上も大規模な反政府集会が続くウクライナの「出口」が見えない。ヤヌコビッチ政権は複数の懐柔策を実行したが、集会側に妥協の気配はない。

「ウクライナには今、『マーシャルプラン』が必要だ」。1月31日、ドイツ・ミュンヘンで開かれた安全保障会議で、ウクライナの野党連合「祖国」幹部のヤツェニュク氏が欧米の出席者らに訴えた。マーシャルプランは第2次大戦後、欧州を復興させるために米国が実行した大規模援助計画だ。「言葉でなく、本物の支援が求められている。政権はもはや国を導く状態にない」
(中略) 
ウクライナをめぐって激しく「綱引き」を繰り広げてきたEU、ロシアとも「火中の栗」を拾うことには足踏みしている。

1月末にキエフに入り、双方との対話を続けたEUのアシュトン外交安全保障上級代表は「大事なのは暴力や威嚇をやめること」と繰り返すが、具体的な「介入策」は示していない。

EU加盟国では「金融支援を積みまし、EU側に取り込むべきだ」といった意見が飛び交う。ロシアとの支援競争に入っても、事態を解決できる保証はなく、方針は定まらないままだ。

一方、昨年12月に150億ドルの融資とガスの輸出価格を3割値下げすることでウクライナと合意したロシアも、30億ドルを融資したところで一時停止した。

プーチン大統領は、ウクライナの新内閣の顔ぶれや方針を見極めてから残りの融資を実行するか決めたいとしている。ヤヌコビッチ氏は一時、首相、副首相への就任話を集会を主導する野党リーダーらに打診した経緯があるだけに、ロシアに警戒心が出始めている。【2月3日 朝日】
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ロシア側は“介入をためらう”と言うより、融資の一時停止で圧力を強めています。
貿易規制・ガス供給というウクライナを締め付ける切り札はまだ使っていませんが。
“介入をためらっている”のは、ロシアとの摩擦を警戒するEU側です。

EU側が圧力を強めようとすれば、政権側指導者が欧州に有する資産を凍結する・・・といった方策もあります。
そこまで事を荒立てない方策として、金融支援を検討していると報じられています。

****ウクライナに金融支援検討か=米欧****
欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表(外相)は米紙ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、反政権デモに揺れるウクライナに対し、EUと米国が金融支援を行うことを検討していると述べた。3日付の同紙が報じた。【2月3日 時事】 
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ロシアが融資を停止して圧力をかけるなかで、ウクライナ経済は急速に追い込まれつつあります。

****ウクライナ:第2のアルゼンチンとなるリスク高まる****
ウクライナの通貨グリブナが今年に入って急速に下げ足を早め、対米ドルでは約4年ぶりに安値水準に沈んでいる。

また、同国では外貨準備高が減少の一途を辿っており、今月10日に発表される1月の準備高は前回12月の204億1600万米ドルから187億6500万米ドルに縮小すると予想されている。

国際通貨基金(IMF)の統計では、昨年12月末時点の外貨準備高は前年同期比で17.2%減少。昨年11月のモノの輸入総額は64億4810万米ドルで、外貨準備で輸入代金を支払える能力は3.2カ月。

1月の外貨準備が予想通り減少した場合にはこれが2.9カ月となり、危険水域とされる3カ月を下回ることになる(12月の輸入額は今月14日に発表される予定)。(後略)
http://kabutan.jp/news/marketnews/?b=n201402050071
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今後、反政権デモが成功し、親ロシア・ヤヌコビッチ政権が崩壊した場合、ロシアは融資の停止だけでなく、ウクライナに対し貿易を規制して締め上げ、更にはカス供給停止という強硬手段を行使することが予想されます。

EU側は、そうした事態でウクライナを支えることが必要になります。
EU側が“介入をためらう”のは、そうした事態に臨む覚悟がまだできていない・・・ということも考えられます。

民族主義的な国家像を目指す第三勢力
野党指導者も成果を出せない、EUからの具体策も出ない・・・という失望のなかで、反政権側で過激な極右勢力が台頭しているとのことです。

****ウクライナ:極右連合「右派セクター」が第三勢力に****
反政府デモが激化したウクライナで、極右連合「右派セクター」が第三の勢力として台頭してきた。今月19日、首都キエフでの治安部隊との衝突で、デモ隊側の反撃の中心となり、過激な「武闘派」として注目を集めると同時に、ヤヌコビッチ政権と交渉を重ねる野党指導者も批判し、独自の要求を掲げて、情勢を複雑にしている。

ロシア通信によると、右派セクターは複数の極右団体の連合体として昨年末に登場した。ソ連崩壊後の1990年代に誕生した「ウクライナの愛国者」「ウクライナ国民会議」といった古参組織と、この数年に結成された「白いハンマー」など若者組織で構成。

違法カジノの襲撃や取材記者への暴行で知られる組織も含まれ、反ユダヤ主義者や熱狂的なサッカーファンも加わっている。特定のリーダーはなく、集団指導体制をとる。

政権と野党の政治交渉が続く中、右派セクターは28日、自分たちの要求を発表した。逮捕されたデモ隊メンバーの釈放など野党側の要求と重なるものも多いが、(1)特殊部隊を含む治安機関の抜本改革(2)スポーツ関係の愛国組織の法制化−−など独自の要求も含む。

指導者の一人、ヤロシュ氏は要求に関して「もし政府が譲歩しないなら、こちらには『計画』がある」と警告する声明を発表。また、野党指導者に対して「立場が不明確」と批判し、「彼らが革命を恐れるために、我々が革命を遂行する責任を負わざるを得ない」と自負を述べた。

同国の政治学者コルニロフ氏は、露有力紙「モスコフスキー・コムソモーレツ」に対し、「極右団体は今回のデモに当初から参加し、勢力を伸ばした。メンバーの戦闘訓練を行ってきたため、衝突にたけている」と語る。

野党第3党の極右政党「自由」と一体の関係にあり、欧州的価値観を理想とする他の野党勢力や一般市民とは異なる民族主義的な国家像を目指しているという。【1月31日 毎日】
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膠着状態の中で過激な主張が存在感を強めるというのは、ウクライナに限った話ではないでしょう。
ただ、それは結果的には事態の混迷を深めるだけでもあります。

一方で、かつての軍事的自治集団「コサック」とウクライナ正教会という伝統勢力も存在感を強めているそうです。

****ウクライナ:二つの伝統勢力、反政府デモで存在感増****
反政府デモが続くウクライナの首都キエフで、二つの伝統勢力が存在感を増している。かつての軍事的自治集団「コサック」は自発的に警備を担当、ウクライナ正教会はデモ参加者の支援活動を展開する。

いずれも旧ソ連時代、政権に抑圧された存在だが、1991年の独立以来、徐々に力を回復。今回、ヤヌコビッチ政権によるデモ隊の強制排除を機に、活動が活発化した。

デモ拠点・独立広場の一角に、コサックたちのテント村とバリケードがあった。口ひげを伸ばし、一房だけ毛を残す独特の髪形、衣装の男たちが談笑していた。東部ハリコフ州から来たユーリ・カトリッチさん(50)は「コサックにとって何よりも大事なのは自由。良くないことが起きたとき、我々は誰の指示もなく全国から集まる」と胸を張った。

ソ連時代も家族内でひそかに伝統を守ってきたといい、現在は全国組織もある。今回、常時、約300人の末裔(まつえい)たちが広場の警備を担い、騒動が起きないよう目を光らせる。

一方、正教会の役割も大きい。広場に近い「聖ミハイルの黄金ドーム修道院」は11月30日未明、治安部隊による強制排除から逃げてきた学生らをかくまった。以来、敷地内にデモ参加者約200人が睡眠をとれるテントが張られ、炊事場も設けられた。

同修道院はスターリン時代の1937年、大部分が破壊され、独立後に再建された。同修道院のダビデンコ修道士は「教会は政治的なものではないが、人々を助けるのが役割。市民には平和的にデモをする権利がある」と語る。デモ会場のステージでも聖職者たちが登壇し、参加者を祝福する姿が見られた。【12月24日 毎日】
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ロシアにおける「コサック」の復活は聞いたことがあります。ただ、ロシアの「コサック」はプーチン政権の先兵的な立場で、反政権勢力を押さえつける側だったと思います。
同じコサックでもウクライナの「コサック」が、反政権側にいるというのが興味深いところです。

タイミングが悪いロシア
ロシア・プーチン政権は貿易規制・ガス供給というウクライナを締め付ける切り札を持ってはいますが、具合が悪いのは、これからソチ五輪に入るという時期的な問題です。
この時期に欧米と決定的に対立するようなことはできません。

****プーチン大統領にとっては悲惨なタイミング****
・・・我々がこのドラマの結末を待つなか、プーチン氏にとってタイミングがいかに悪いかということに思いを馳せずにはいられない。

今週金曜日にはソチ冬季オリンピックが開幕する。ロシア政府が510億ドルを投じた派手な祭典はロシアのイメージ向上を狙ったものだ。

しかし、オリンピック以上にロシアのイメージを決める可能性があるのが、ウクライナでの出来事だ。

結局のところ、ヤヌコビッチ氏とプーチン氏は同じようなタイプの指導者であり、同じような統治モデルを採用している。
もしウクライナ国民がキエフの男を権力の座から追い落とせば、ロシア国民はなぜクレムリンの男に同じことをしてはいけないのかと考えるようになるかもしれない。 【2014年2月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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アフガニスタン  4月に次期大統領選挙  きしむアフガニスタン政府とアメリカの関係

2014-02-04 22:48:07 | アフガン・パキスタン

(カブールの街角で 来年以降もこうした光景が見られるのでしょうか? “flickr”より By Calvin Wilhelm http://www.flickr.com/photos/8929969@N05/12225761544/in/photolist-jCmdY9-jDyveK-jk3f16-jxXwS7-jxUmcp-jxWxoN-jCmYLP-jDy99D-jDzYTy-jEukp8-jxXmF3-jxYqLs-jxWEad-jCi2v6-j6jMEJ-j6gNFe-jxUjQM-jChXge-jDwCpx-j6hN3E-jqkrDd-jvUv8w-jxXTpE-jDwFDD-jDz2Jd-jDA7j5-j6frUD-jxXFM1-jCmc6k-jEwtcs-jtx8oo-jxVjUn-jxWQxr-jCoiQ1-jDy6pv-jCkSRp-jCoSEE-jDy47p-jEwBrU-jHKYFz-jEvifp-jDxEtP-jDz21j-jDzNHU-jDAjDL-jDzoNs-jDwVqX-jk3H4f-jqkius-j6i1fA-j6hMqC

ガニ元財務相とアブドラ元外相を軸に選挙戦へ
アフガニスタンでは次期大統領選挙(4月5日投票)の選挙運動が2日から始まっています。
カルザイ大統領は3選禁止で立候補できず、カルザイ大統領の兄を含む11名が争う形となっています。

****アフガン大統領選スタート 「カルザイ後」混戦模様****
 ■ガニ元財務相/アブドラ元外相
4月に行われるアフガニスタン大統領選の選挙運動が2日から始まった。同国に駐留する国際治安支援部隊(ISAF)の戦闘部隊が今年末に撤収する予定で、新大統領は撤収後の治安対策や国際社会との関係強化などの重要課題を担うことになる。

候補者11人による戦いは混戦模様で、各候補とも得票が過半数に届かなければ、上位2人による決選投票が行われる。
                   ◇
米調査会社グレバム・アソシエイツが昨年12月下旬に発表した世論調査によると、主な候補の支持率はガニ元財務相(29%)、アブドラ元外相(25%)、カルザイ大統領の兄のカユーム・カルザイ元下院議員(8%)、サヤフ元下院議員、ラスール前外相(ともに6%)、ワルダク前国防相(5%)となっている。

 ◆有権者11%未定
有権者の11%が誰に投票するかまだ決めていないとし、84%が部族や民族に関係なく投票するとしている。イスラム原理主義勢力タリバンとの交渉を支持する候補に投票するとした有権者は61%で、71%が米国との良好な関係を求める候補を支持すると回答した。

ガニ氏はかつて世界銀行に勤務し、2009年の前回選挙にも出馬したが惨敗した。
アブドラ氏は、前回選挙で決選投票に進む権利を得たが、投票に不正が行われる懸念があるとしてボイコットした。内戦時代にはタリバンと対立した北部同盟の指導者の1人だった。

カユーム氏は米国在住歴が長い実業家で、サヤフ氏はソ連のアフガン侵攻時代にムジャヒディン(イスラム戦士)を率いた。ラスール氏はカルザイ大統領に政治的に近い人物とされる。

カルザイ大統領は憲法の3選禁止規定により出馬できず、今回、どの候補への支持も表明していないが、兄のカユーム氏かラスール氏の当選を期待しているとみられている。

 ◆成否握る公正さ
選挙運動などの警備はアフガン軍が主導するが、タリバンは各地で攻撃を行っており、治安悪化への懸念は強まっている。1日にはアブドラ氏陣営のスタッフ2人が何者かに銃撃され死亡した。

カルザイ大統領は、ISAF撤収後の駐留米兵の地位を定めた米・アフガン両国の安全保障協定への署名を拒否し続けており、署名を選挙後の権力維持のテコにしようとしていると指摘される。

政治評論家ムジダー氏は、「カルザイ氏は決選投票になる前に複数陣営が合同する政府を作らせ、配下の人物を新政権に入れて権力維持を図るのではないか」と予測しており、選挙が公正に行われるかも成否を握るカギとなっている。【2月4日 産経】
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途上国における世論調査・選挙予測の数字というのは、往々にして大きく外れます。
まして、治安すら十分でないアフガニスタンで一体どのような調査が行われたのか・・・甚だ怪しい感もあります。

特に、民族間で果てしない内戦・衝突を繰り返しているアフガニスタンで、“84%が部族や民族に関係なく投票する”というのは、とても信じられません。

“アフガニスタンは,パシュトゥン人(アーリア系),タジク人(ペルシャ系),ウズベク人(トルコ系),ハザラ人(モンゴル系)などによる多民族国家であり,各地の有力部族が,住民生活から文化や政治に至るまで大きな影響力を有していたことなどから,長期的・安定的な統一国家が形成されず,歴史的にも混迷した情勢が続いてきた。”
【公安調査庁HP】

タリバンの問題も、パシュトゥン人を主体とするタリバンとその他の民族の争いという側面があります。
もし本当に“84%が部族や民族に関係なく投票する”のであれば、アフガニスタンの混迷は明日にでも解決します。

それはともかく、“カルザイ政権に批判的なアブドラ・アブドラ元外相と、大統領に比較的近いとみられるアシュラフ・ガニ元財務相の2人が2割前後の支持率で上位を争う”【2月2日 読売】というのが大方の見方のようです。

民族的支持基盤は、ガニ元財務相は最大民族のパシュトゥン人、アブドラ元外相は第2民族のタジク人です。
なお、カルザイ大統領はパシュトゥン人です。

【「米軍には、いつ出て行ってもらっても構わない」】
いずれにしても、次期大統領にとっては、米軍主導の国際治安支援部隊(ISAF)の大半(あるいは全部)が年内に撤収する中、治安回復の具体策が最大課題となります。

来年以降も米軍の一部が駐留を継続するために必要な安全保障協定について、カルザイ大統領が責任逃れ、あるいはアメリカへのいやがらせのため署名を拒否しているという問題で、カルザイ政権とアメリカの関係は険悪な状況ですが、テロ容疑者釈放でも悪化が加速しています。

****アフガン、テロ容疑者釈放へ 「最も危険」の37人、米軍猛反発****
アフガニスタンで駐留米軍などが拘束したテロ容疑者の扱いを検討している調査委員会は、最も危険とされる37人を釈放することを決めた。駐留米軍が27日明らかにした。

米軍は「危険な武装兵を社会に放つことになる」と強く反発。米軍の駐留延長の是非をめぐりこじれている両国関係が、さらに悪化する可能性がある。

釈放が決まったのは、米軍などが作戦中に拘束し、首都カブール北方のバグラム米軍基地の施設に収容してきた反政府勢力タリバーンの武装兵ら。

施設は2001年の対テロ戦開始直後に設置され、キューバのグアンタナモ米軍基地と並んで国際的な批判を浴びたため、昨年3月、アフガン側に管理権が移された。

収容者の大半はその後、アフガン側により裁かれたり、釈放されたりしてきた。米側は最後に残った88人について、テロや攻撃に関与した証拠が明確で、治安上の危険が高いとして、釈放に反対。37人はその一部で、米軍は「アフガン治安部隊11人と米軍や同盟軍の要員42人を死傷させるなどした証拠がある」としている。

カルザイ大統領は25日の記者会見で、収容施設について「嫌疑不十分な人々を拘束し、虐待することで、新たにタリバーンを生み出す製造工場になっている」と批判。収容者の釈放を急ぐ考えを示していた。

米国とアフガンは、今年末に任期が切れる米軍の駐留延長に向けた協定の締結をめぐってもぎくしゃくしている。カルザイ氏は「米国はまず、タリバーンを和平交渉の席に着かせなければならない」などと新たな条件を次々持ち出し、署名を先送り。早期署名を求める米側をいらだたせてきた。

25日の会見でも「米軍には、いつ出て行ってもらっても構わない」と述べるなど、言動をエスカレートさせていた。【1月28日 朝日】
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カルザイ大統領としては国民の間で批判のある米軍への強い姿勢を示すことで、次期大統領選挙への影響力を含めて国民世論へのアピールを強めたい思惑があると思われますが、その姿勢はアメリカ側の神経を逆なでするところでもあります。

****アフガン政府提供の「米軍誤爆の証拠」、実は09年のAFP写真****
アフガニスタン北部パルワン州で今月15日に米軍が行った空爆をめぐり、民間人が犠牲となった証拠としてアフガニスタン政府が報道陣に提示した写真14点の中に、フランス通信(AFP)が2009年に撮影した無関係の写真1枚が含まれていたことが26日、米紙ニューヨーク・タイムズの調査で明らかになった。(後略)【1月27日 AFP】
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カルザイ大統領サイドは、問題の写真について「事態を非常に重くみている」と釈明しつつも、“「少なくとも10枚の写真や、動画、目撃者証言などから(米軍の)作戦に関する証拠は十分そろっている」と主張し、NYタイムズ紙の報道を「事件に関する一般的な見解を覆そうとする政治的な動機に基づいた記事だ」と批判した”【同上】とのことです。
旧日本軍の中国での行為を巡る日中間の感情のもつれにも似たような雰囲気もあります。

一方、タリバン側は、こうしたアフガニスタン政府とアメリカの関係悪化を踏まえて、米軍完全撤退へ向けた揺さぶりをかけています。

****アフガン:自爆テロ タリバン、米軍完全撤退へ揺さぶり 外国人標的、近年最大****
アフガニスタンの首都カブール中心部で17日に起きた自爆テロによる死者は、レバノン人の国際通貨基金在カブール代表部代表ら外国人13人を含む21人に増えた。

外国人を狙った旧支配勢力タリバンの攻撃では近年最大。米政府などは、アフガン軍や警察の訓練のため今年中に任務が終了しても駐留軍の一部を残留させる計画だ。

しかし、タリバンは2001年のアフガン戦争開戦以来、駐留外国軍を「異教徒による軍事支配」と批判しており、今回のテロも米軍などの完全撤退に向けた揺さぶりの可能性がある。

駐留米軍と北大西洋条約機構(NATO)軍は今年末までに任務を終える方針だが、タリバンは依然として高い攻撃能力を持っていることを示した。(後略)【1月19日 毎日】
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治安維持の要である国軍の資質向上は?】
「米軍には、いつ出て行ってもらっても構わない」と啖呵を切ったカルザイ大統領ですが、米軍の残留のいかんにかかわらず、今後の治安維持の責任は先ずはアフガニスタン国軍および警察にあります。

そのアフガニスタン国軍の“資質”の問題はかねてより指摘されているところですが、その改善はあまり順調とは言い難いようです。

****アフガニスタン軍の識字率向上プロジェクト、目標は非現実的 米監査官****
アフガニスタン軍兵士の識字率向上を目指した北大西洋条約機構(NATO)のプログラムが、2億ドル(約200億円)の予算を投じたものの、「非現実的な」目標を達成できない見通しとなっている。
アフガニスタン再建のための米特別監察官、ジョン・ソプコ氏が28日、報告書で述べた。

報告書によると、識字試験を監査する独立機関の不在や、別部隊に配置転換された新兵らの追跡記録がないことなどにより、識字率向上プロジェクトの結果を十分に測定することが不可能となっているという。

NATOの識字訓練プログラムは、2009年に開始された。2014年末までにアフガニスタンの軍兵士と警察官らの100%が米国の小学校1年生と同等の識字レベルを獲得し、50%が同3年生と同等レベルを獲得することを目標にしている。

だが現状、基本の識字試験に合格しているのは全体の64%で、3年生レベルに到達しているのは21%に過ぎないという。

報告書は、「(同プログラムに携わる複数の当局者らは)識字率向上プログラムの目標設定がいかになされたのか知らないと述べており、一方で、現状のアフガン国家治安部隊(ANSF)でそれを実現することは『非現実的』で『達成不可能』だと言っていた」と述べている。

「同プログラム責任者の司令官らの一部は、2013年2月時点で部隊兵士の半数以上が読み書き能力を持っていないだろうと推定していた」

アフガニスタン軍の脱落率は30~50%と高いため、プログラムの成功の度合いを測定することも困難という。
また、戦闘に部隊を配備する必要があるため、識字教育の途中で派遣されてしまう兵士らもいると報告書は述べている。【2月3日 AFP】
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アメリカの後ろ盾が縮小したアフガニスタン政府に、主導権をもってタリバンとの交渉を進められる力量があるようにはあまり思えません。

アフガニスタンの泥沼から抜け出したいアメリカ・オバマ政権ですが、その結果、アフガニスタン政府が崩壊してタリバンが再び・・・ということになったのでは、なんのための戦争だったのか?という外交責任を追及される問題にもなります。

カルザイ大統領とアメリカの思惑、タリバンの動向が絡み合うなかで、大統領選挙と外国部隊撤退という節目となるイベントがある今年、アフガニスタン情勢は・・・どうなるのでしょうか?
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イラン  今月中旬、最終段階措置に向け交渉再開

2014-02-03 22:48:33 | イラン

(テヘランの街角ファッション 欧米的なファッションの是非はともかく、イランにあっては、アメリカの重要な同盟国サウジアラビアなどより遥かに自由なファッションが享受されていることは間違いありません。1979年の大使館占拠事件のトラウマから抜け出して、新たな関係を構築する余地が十分にあるように思えます。
“flickr”より By nadiathinks http://www.flickr.com/photos/28373968@N04/11932545355/in/photolist-jbrq1B)

【「歴史的なチャンスだ」】
イランの核問題については、
昨年11月24日 包括的解決に向けた「第1段階の措置」に合意
今年1月20日 イランが濃縮度約20%のウランの製造停止など核開発の制限に着手、これを受けてアメリカ、EUは経済制裁の一部を解除
という経緯で進んでいます。

合意のために敢えて玉虫色にしたような部分もありますので、その解釈についてイラン・欧米双方が互いの見解を主張するような場面や、アメリカ国内でのイランへの更なる圧力を求める動き、それに対抗するようなイラン国内の保守派の動きなどもありますが、大筋においてはここまでは順調に推移していると言えるのではないでしょうか。

今月18日からは、最終段階の措置についての交渉が行われる予定です。

****イラン核協議:18日ウィーンで再開 最終段階措置に向け****
ランのザリフ外相と欧州連合(EU)のアシュトン外務・安全保障政策上級代表は1月31日、イラン核問題の最終段階の措置に向けたイランと主要6カ国(米英仏中露独)による協議を2月18日にウィーンで再開すると発表した。イラン国営通信など一部メディアは、米ニューヨークでの開催を報じていた。

両氏は、安全保障会議開催中のドイツ・ミュンヘンで会談し、核協議の再開に合意した。「第1段階の措置」(6カ月)の履行状況を評価しつつ、イランのウラン濃縮の権利や経済制裁の全面解除などを巡り、最終段階の措置を話し合うとみられる。(後略)【2月1日 毎日】
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また、テヘランのアメリカ大使館再開に関するロウハニ大統領の発言や、国際原子力機関(IAEA)によるウラン鉱山査察など、イラン側の前向き姿勢も報じられています。

****米大使館再開に強い意欲 イラン大統領「不可能でない****
イランのロハニ大統領は「米大使館のテヘランでの再開は不可能ではない」と述べ、断交状態にある米国との関係改善に強い意欲を示した。訪問先のスイスのテレビ局TSRがインタビューし、23日に電子版で伝えた。

テヘランの米大使館はイランでイスラム革命が起きた1979年、学生が襲撃し外交官らを人質に占拠、断交の原因になった。その後も保存され、襲撃事件のあった11月4日には毎年、同館の前で大規模な反米デモが行われるなど、反米のシンボルになっている。

ロハニ氏の発言は従来の反米活動の否定につながり、強硬派の反発は必至だ。(後略)【1月24日 朝日】
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****イラン核:IAEA、ウラン鉱山を査察****
イランの核兵器開発疑惑解明を目指す国際原子力機関(IAEA)は29日、イラン南部ガチンのウラン鉱山を査察した。

同国とIAEAが合意した共同声明(昨年11月)を受けた措置で、核兵器製造の関連が疑われる西部アラクの重水製造施設の査察(同12月)に続いて実施。両査察は保障措置(査察)協定の枠外で、イランは「自発的行動」として透明性をアピールする。(後略)【1月29日 毎日】
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今月中旬に再開するイランと欧米など関係6か国の交渉について、イランのザリーフ外相は「歴史的なチャンスだ」と述べ、交渉の進展に期待を示しています。【2月3日 NHKより】

また、ザリーフ外相はナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を「おぞましい悲劇」と明確に非難し、イスラエル敵視政策のアフマディネジャド前政権からの転換を国際社会にアピールしています。

****ホロコースト:イラン外相がベルリンで「おぞましい悲劇****
イランのザリフ外相は2日、訪問先のベルリンで独テレビのインタビューに答え、第二次大戦中のナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を「おぞましい悲劇」と明確に非難した。

ロウハニ大統領も既に昨年9月、同様の見解を示しており、ユダヤ国家イスラエルを敵視してホロコースト否定発言を続けたアフマディネジャド前政権からの転換を印象付けた。

ザリフ外相はホロコーストの犠牲者追悼碑があるベルリンで「二度と繰り返してはならないおぞましい悲劇だ」とユダヤ人迫害を指弾した。さらに「私たちはユダヤ人を敵視していない。信頼を築き上げ、悪循環を断つためのあらゆる道を模索したい。他国の安全は結果的に私たちの安全につながる」と説明し、イスラエルなどとの信頼関係を構築することで、地域の安全保障を進める意向を示した。【2月3日 毎日】
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【「明日への不安がなくなった」】
もともとロウハニ大統領は前政権に比べると“穏健派”と位置付けられており、国内においてもこれまでより柔軟な対応がとられています。
そうした政権の変化によって、イラン社会に明るさが見えているとも報じられています。

****イラン:ロウハニ大統領就任半年「自由な社会」静かに喜び****
ロウハニ大統領が昨年8月に就任して以降、物価上昇に歯止めがかかり、アフマディネジャド前政権(2005〜13年)時代の殺伐とした雰囲気が消えた。
ロウハニ師が選挙で掲げた「自由な社会」も実現されつつあり、人々は静かに喜びをかみしめているようだ。
 
「前政権で出版できなかった本が、今は出せる」。テヘランの出版社の男性経営者(40)は、検閲の規制が緩和されたと喜ぶ。例えば、イランでは飲酒が禁じられているため「ウイスキー」は「飲み物」に、豚肉も「肉」に直すよう指導を受けたが、今は問題視されることはないという。

アフマディネジャド氏が再選した09年の大統領選は、同氏の得票数に水増し疑惑が浮上。抗議する市民らと治安部隊が衝突し、死者や逮捕者が相次いだ。

この選挙後の社会、政治問題を題材にした映画「ゲッセハ(物語)」もロウハニ政権下で認可され、現在、国内の映画祭で上映中だ。ロウハニ師は1月31日、映画祭の式典で「映画にそっぽを向いた人々を振り向かせるのは、政府の重要な仕事だ」と述べた。

自由な雰囲気は、女性の服装にも及ぶ。イランでは、イスラム教の教義に従い、女性は体のラインを覆い隠さねばならない。前政権当時に出始めたレギンスは取り締まり対象だったが、今は彩りやデザインが増え、この夏流行した。

また今年1月、文化イスラム指導省は、外国メディアに対し、施設やビルでの取材の届け出義務を撤廃し、原則自由とした。

一方、タクシーの運転手の男性は「明日への不安がなくなった」と語る。前政権では核問題交渉が行き詰まり、経済制裁の影響で、パンなどの値段が3倍になったという。

また、テヘランの不動産業者、サム・フラディさん(30)によると、昨年8月以降、地価が下がった。「経済が安定するだろうと思う人々の心理が、地価高騰に歯止めをかけた」と分析する。ただ、取引は活発ではなく「人々は核交渉の行方を見守っているのだろう」と話す。【2月3日 毎日】
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経済面においても、国際社会との関係改善への期待感から、明るさが増しています。

****イラン:ロウハニ大統領就任から半年 着々と明るさ増して****
イランの穏健派ロウハニ大統領(65)が3日、就任から半年を迎えた。昨年6月の大統領選挙で、経済再生の期待を集め当選したロウハニ師は、景気悪化を招いた米欧による経済制裁の全面解除に向け、核問題交渉を前進。
信条の「対話」による外交政策も着実に進め、国際社会での孤立から脱却しつつある。

イラン核問題の解決は険しい道だが、今のところ国内外の評価を裏付けるように、テヘラン証券取引所は空前の株ブームに沸いている。

「今日は砂糖の会社だ」。2日、テヘラン証券取引所は男性があふれ、株価を示す画面の前で一喜一憂していた。大学生のベヘノム・アユグさん(25)は約1年前に株取引を始め、2000万リアル(約800ドル)の利益を得た。「ロウハニ政権で外国と関係が良くなり、経済が上向き、株は上がる一方だ。負ける気配がない」と笑顔で語る。

株価を反映する指数(TEPIX)は、ロウハニ師が当選した昨年6月15日に4万6623を記録して以降、ほぼ右肩上がり。1月5日には、1967年の創設以来の最高値8万9500を記録した。

米ブルームバーグによれば、2006年に1営業日の平均売買高は2000万ドル(約20億4200万円)だったが、今年1〜11月は2億300万ドルと約10倍になった。

05年8月から8年間大統領の座にあったアフマディネジャド氏は、対米欧強硬路線を取り、核問題交渉の停滞を招いた。しかし、ロウハニ政権下で実現した、80年の国交断絶以来となる米大統領との電話協議や、約10年ぶりの核開発制限の見返りに得た経済制裁の一部解除は、イランの劇的な変化を国内外に印象づけた。

制裁緩和による効果は約70億ドル(米試算、約7150億円)と限定的だ。にもかかわらず、天然ガスの埋蔵量世界2位、原油4位の資源に加え、人口約7700万人の市場に期待し、国外から積極的アプローチが早くも展開されている。

昨秋以来、エルドアン・トルコ首相、ボニーノ伊外相のほか、英国、フランス、ロシア、メキシコ、韓国の企業や国会議員などがテヘランを訪問し、投資拡大や経済協力を約束している。日本も首相特使として自民党の高村正彦副総裁、岸田文雄外相がロウハニ師らと会談した。

ただ、イラン経済の本格的再建には、核交渉で難航が予想される原油禁輸、金融取引停止を含めた制裁の全面解除が不可欠だ。【2月3日 毎日】
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アベノミクスと同じで、これまでのところはあくまでも“期待感”による明るさであり、実際に経済制裁解除による効果が出てくるかどうかはこれからの交渉次第です。

オバマ米大統領は1月13日、議会で対イラン追加制裁法案を可決する動きが進んでいることについて、「新たな制裁を科す時期ではない」「(交渉は)困難だろうが、外交とは結局そういうものだ」「今は外交官と専門家に仕事を任せるべきだ。私は外交に懸けてみたい」と、イランとの交渉に懸ける意気込みを見せています。【1月14日 時事より】

イラン国内には保守派の抵抗や、最高指導者ハメネイ師がどこまでロウハニ大統領の交渉姿勢を支援するか・・・といった不確実な要素もあります。

疲弊したイラン経済が制裁解除を求めているのは明らかであり、交渉で目に見える成果が出されれば国内の抵抗も和らぎ、さらに交渉を加速させることにもなります。また、政権の基盤も強化され、国内での改革路線も加速されます。
逆に、成果が出せないと、抵抗も更に強まります。国内においても改革は否定されます。

今月再開される交渉において、一歩でも二歩でも前進することを期待します。
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タイ  総選挙実施するも「権力の半空白状態」の予測 軍部の動向と「見えないクーデター」

2014-02-02 22:08:49 | 東南アジア

(衝突現場以外では、あまり緊張感が見られない反タクシン派抗議行動 参加者を飽きさせないためのいろんな催しも用意されているとか  “flickr”より Jérémie Lusseau http://www.flickr.com/photos/38206118@N03/12265642485/in/photolist-jFSCbz-jFSC8D-jFSCgz-jFURcQ-jEvVo6-jExgTy-jEv2tM-jEvUT8-jExgof-jExXro-jExXJN-jExWA5-jEv2oM-jEv1T8-jEinqq-jFRwnF-jFBNyj-jFPb3D-jEMYjf-jELC4N-jFNvLY-jEFxny-jFWAf2-jFPzEP-jEK5zj-jFgaEh-jE8Gz5-jFgacJ-jFtyWo-jEA2gS-jEA2cd-jE8GqC-jFgawm-jEA2co-jEA2c3-jFg9Qw-jFtz2U-jEA23q-jEA2sd-jFgaqj-jFg9YY-jEzuhY-jEzui9-jFZrch-jE9aej-jE6LUR-jE8GqN-jE9aq1-jE6LM6-jE9aqw-jE8Gyy)

下院不在、選挙管理内閣の長期化という権力の「半空白状態」】
タクシン元首相の妹でもあるインラック首相の即時退陣を求める反タクシン派の「首都封鎖」という抗議行動、議会の解散・総選挙によって民意を問うことで事態を打開しようとするインラック政権、選挙では勝てないた反タクシン派による選挙妨害・・・という混乱のなかで、2日、総選挙が強行されました。

目だった衝突などはなかったようですが、「総選挙の前に政治改革を行うべきだ」とする反タクシン派の妨害によって多くの選挙区(TV報道では全選挙区の17%)で投票ができませんでした。

****投票中止相次ぐ=反タクシン派が妨害―政治混乱、続く見通し・タイ総選挙*****
深刻な政治対立が続くタイで2日、総選挙(下院、定数500)の投票が行われた。インラック首相の辞任を要求する反タクシン元首相派による選挙妨害で、投票中止に追い込まれる投票所が相次いだ。事態収拾のめどは依然立っておらず、総選挙後も混乱が続くことが予想される。

今回の選挙は最大野党・民主党のボイコットにより、インラック政権に対する事実上の信任投票となった。与党タイ貢献党が地盤の北部や東北部を中心に大半の議席を獲得するとみられる。

しかし、選挙管理委員会によると、首都バンコクを含む77県375選挙区のうち、反タクシン派デモ隊の妨害行為などのため、南部など18県の69選挙区で投票が中止された。

投票中止となった選挙区では後日、再選挙が行われる。また、1月26日の期日前投票が反タクシン派の妨害で中止となった選挙区では、やり直し投票が23日に予定されており、公式結果の発表はこれらの投票後になる。

バンコクでは昨年11月以降、反タクシン派による反政府デモが激化。汚職事件で有罪判決を受け国外逃亡中のタクシン氏の帰国実現に向け、恩赦法案の成立を推進した政府・与党に対抗するのが目的だったが、政権打倒運動に発展した。インラック首相は事態打開のため下院解散・総選挙に踏み切った。

これに対し、反タクシン派は「総選挙の前に政治改革を行うべきだ」と訴え、民主党もこれに同調してボイコットした。【2月2日 時事】 
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総選挙が不完全な形でしか実施できなかったため、今後は、新議会も新政府も発足しない「権力の半空白状態」がしばらく続くと見られています。

****政治、長期空白の恐れ****
タイ政治はどこに進んでいくのか。

インラック首相は1月末、「選挙は、政治的な対立を最も平和的に終わらせる最善の方法の一つです」と訴えたが、総選挙のプロセスは半ば崩壊している。

反政府派による妨害は、バンコクとタイ南部で浸透。南部の28選挙区が候補者のいない「空白区」で、選挙が行われても当選議員数は下院開会に必要な数に達しない。新議会も新政府も発足しない状態が続く。

比例区は全国の結果が出そろわないと確定しない。選挙管理委員会は、下院開会にこぎ着けるまで4~6カ月かかるとしている。下院不在、選挙管理内閣の長期化という権力の「半空白状態」は当分続きそうだ。

その後の考えられるシナリオはいくつかある。

一つは選挙自体が無効となるケース。憲法は下院選を「全国で同じ日」に実施するよう求めており、野党が既に無効を訴えている。

もう一つは「半空白状態」の間に、野党の訴えを受けて首相や与党元議員らの違法行為を調べている独立機関の国家汚職防止委員会が、首相らを職務停止にするケースだ。

憲法裁判所や独立機関は2006年クーデター後の憲法で、タクシン派を牽制(けんせい)する機関という性格を持った。これまでタクシン氏の後継政権を政党解散命令などによって崩壊させている。手続きが進めば、職務停止だけでなく、罷免(ひめん)や公民権の剥奪(はくだつ)にもつながる。

政権の「突然死」を有力なシナリオとみる識者も少なくない。憲法はその先を想定しておらず、超法規的な権力の受け渡しの余地も生まれそうだ。街頭の暴力が激化した場合は軍が介入する最悪のシナリオもあり得る。【2月2日 朝日】
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インラック首相にとっては極めて厳しい状況です。ほとんど限界に近いと思われる首相が精神的にどこまで耐えられるかも懸念されます。

元首相の既存秩序変革の試み
タイは国王の権威のもとで政治・経済・社会の秩序が形成されてきました。
混乱の根源であるタクシン元首相は、この既存の秩序に大きく切り込む施策を行いました。

****揺れる王国:タイで何が起きているのか/2 王制と民主主義の間で****
・・・・タクシン氏は首相時代(01〜06年)、農村振興や貧者救済に尽力。一村一品運動を始め、農民の債務支払い猶予を実施した。

医療保険未加入者が30バーツ(約93円)を支払えば、診療が受けられる「30バーツ医療制度」も導入。貧困人口の割合を半減させたとされる。

こうしたタクシン氏の政策は、これまで政治の恩恵を受けてこなかった農民や貧困層を政治的に目覚めさせたといわれる。

ゴンチャイ氏は「一部に富が集中するタイの社会構造を変えなければいけない」と指摘。タクシン氏を06年にクーデターで失脚させた軍部の主導で制定された現憲法について「民意を無視し、特権階級の支配を強めた」として、改正を訴える。(後略)【1月29日 毎日】
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しかしながら、タクシン元首相の改革は既得権益層の反発を招きます。
また、既存秩序の頂点に位置する国王・王室の権威に挑戦するものだとの批判もあります。(実際、元首相は国王の権威を利用して政治に介入する国王側近などと対立し、王室改革にも言及しています。)

タクシン政権の改革で大きな恩恵の対象とはならなかった都市中間層からは、“バラマキ”による“人気取り政策”との批判もあります。
更に、タクシン元首相の金権体質、その強引な政治手法への反発もあります。

こうした不満が、“バラマキで無学な貧困層を取り込む不敬なタクシン元首相”とその一派への反発となって現在の反政府行動となっています。

ただ、その根底に、タクシン元首相を支持する貧困層への蔑視、そうした者も「一人一票」で参加する民主主義の基本原則の否定・・・という危うい感情があることは、以前のブログでもたびたび指摘してきたところです。

前面に出ることには消極的な国軍
これまでタイ秩序を維持してきた国王は、高齢であることと健康がすぐないこともあって、今回目立った指導力を発揮するには至っていません。

秩序の守護者としてのクーデターなどによって、これまでのタイの現実政治を動かしてきた軍部も、その動向が注目され、反タクシン派からは介入も期待されていますが、今のところは介入を控えています。
しかし、介入の可能性も否定していません。

もともと軍部は既存秩序・既得権益層の一部であり、タクシン元首相とは対立する立場にあり、元首相を国外に追いやるクーデターも実行しています。
ただ、タクシン派政権による影響力浸透もあって、今の軍内部は一枚岩ではないようです。

****揺れる王国:タイで何が起きているのか/4 軍内部にも政治対立****
「暴力が激化すれば軍が解決に乗り出す準備がある」。首都バンコクに非常事態宣言が発令された22日、報道陣に囲まれたプラユット陸軍司令官が、軍の介入を示唆した。

タイ国軍は、絶対王制を打倒した1932年の「立憲革命」以降、約20回のクーデターを起こし、2006年にはインラック首相の兄タクシン氏を首相から放逐した。

政権はその再現を警戒するが、司令官は「軍はどちらの敵でもない」と中立姿勢を強調。だが、クーデターの可能性も明確に否定しない。

そもそも首相は国防相を兼務しているのに、なぜ軍は「中立」でいられるのか。
「軍が守るのは政府ではなく、国王や仏教を軸とする国体だ」。ある元国軍幹部はそう言って、タクシン派を「王室を敬わず、軍への信頼も損ねようとしている」と批判した。

タイ憲法は国王を「国軍の総帥」と定め、軍人は「王国軍」意識を強く持つ。
1970年代まで軍部は国王の権威のもと政治の実権を握り、段階的な民主化後も政府から半ば独立した特権的な地位を得てきた。

このため、軍関係者の間には、ポピュリズム(大衆迎合)政策で権力を握り、行財政改革で既得権益に切り込んだタクシン元首相を敵視する風潮が根強い。軍を筆頭とする旧来の支配者層にとり、タクシン氏は「国王を頂点とするタイ社会の破壊者」と映るからだ。

国軍にはタクシン派政権に批判的な幹部グループがあり、反政府デモに同調する可能性がないとは言えない。
ただ、かつてのように軍がクーデターで政治対立を抑え込むのは難しいとみられている。

06年のクーデター後、軍は国内外から「民主主義を後退させた」と厳しく批判され、その後の国内対立はむしろ深刻化した。
10年のバンコク騒乱ではタクシン派デモ隊を強制排除して90人以上の死者を出し、軍のイメージは悪化した。さらに、タクシン派による切り崩しが行われ「軍内部でも政治対立が起きている」(地元記者)。(後略)【1月31日 毎日】
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1932年に立憲君主制に移行して以来の歴代28人の首相のうち約半数が軍出身。第2次大戦後少なくとも8回のクーデターを決行し、文民政権の腐敗や混乱を軍がリセットするという政治サイクルを形づくってきた国軍ですが、06年のクーデターの失敗(タクシン派政権を断つことができず、軍政批判が高まったこと)の反省から、あまり前面に出るのは得策でないとの判断があると思われます。

やがては政権崩壊の思惑も
同時に、敢えて火中の栗を拾う必要もない、政府の強硬策を封じながら静観していれば現政権はやがて崩壊していくとの思惑もあるようです。

****タイ対立、動かぬ国軍 過去のクーデター、代償高く 非常事態宣言、近く総選挙****
2月2日の総選挙も混乱が予想され、政治危機が深まる一方のタイで、軍の動向に注目が集まっている。これまで軍はクーデターなどを通じて政治混乱を収拾する役割を果たしてきたからだ。
しかし、国民の政治意識の変化や国際社会の厳しい視線を意識し、今回はきわめて慎重な姿勢だ。

プラユット陸軍司令官は29日、兵士に対して総選挙では投票に行くよう呼びかけた。その2日前には、反政府デモ指導者、ステープ元副首相からのデモ参加者警護要請を断っている。

暴力事件が相次ぎ、死傷者が増えていることに憂慮を表明しつつも、「非常事態宣言のもと、陸軍は厳格に法律に基づいて動かなければならない」と軍副報道官のウィンタイ大佐は説明した。

陸軍は、非常事態宣言下の治安維持対応では警察の補助に徹するとして前面には出ていない。
プラユット司令官は非常事態宣言の発動を決めた会議にも欠席するなど、主導権をとることに消極的とみられている。

ここに軍部の置かれた立場が表れている。
軍は2006年、クーデターで当時のタクシン政権を崩壊させた。大財閥や知識階級とともにタイの伝統的な支配層の中心的な存在である軍は、農民や低所得労働者を支持基盤にするタクシン派とは基本的に対立関係にある。

しかし、クーデターの代償は高くついた。
国立プラチャーティポック国王研究所のエカチャイ退役大将は、代金も支払い済みだったドイツからの武器がクーデターを理由に引き渡しを拒否されたことや、米国の軍事支援が一時中断されたことなど当時の「制裁」を挙げたうえで、「過去と違い、国民の軍への支持も長続きしない。06年クーデターを決行したソンティ陸軍司令官(当時)はいま見下されている」と国民意識の変化を指摘する。

 ■民意映し軍に変化
特に、選挙を通じて多数派であることを自覚した農民などのタクシン派(赤シャツ)が反独裁民主同盟(UDD)のもとに組織化されたいま、クーデターへの反発はかつてなく強い。
エカチャイ氏は、暴力が最も激化するシナリオの第一に「軍事クーデターが起き、赤シャツが軍に反発して街頭に結集した場合」を挙げた。UDD指導者のチャトゥポン氏も朝日新聞に対し、「我々が街頭に出るのはクーデターが起きた時だ」と明言した。

軍は、民主党政権下の10年にUDDによる反政府デモを武力鎮圧して90人以上の犠牲者を出し、威信をさらに傷つけた。現在のプラユット陸軍司令官、タナサック最高司令官はともに今年後半に退役予定。経歴を汚してまでクーデターに傾く可能性は低い、との見方もある。

軍は06年のクーデターでは「反タクシン」で団結したが、今は一枚岩でないと指摘する軍関係者もいる。タクシン氏が首相に就いたのが01年。同氏に引き立てられて昇進した軍幹部も少なくないためだ。

タイ防衛大学の大佐は、「クーデターには定型があった。200個中隊を待機させ、決行日にバンコクの要所に展開する。テレビ各局にチャンネル5(陸軍系)の放送を同時に流すように命令し、そこで全権を掌握したと発表する。しかし、今は簡単にはいかない」と話す。

 ■流血、混乱なら介入か
こうしたなかで、しきりに語られているのが、軍が表に出ずにインラック政権から権力を奪う「見えないクーデター」だ。

反政府派の選挙妨害によって候補者のいない選挙区が多数あり、2月2日の選挙後も新しい議会や政府が発足しないまま、インラック選挙管理内閣が続く。
その間に、野党から罷免(ひめん)請求などを受けている独立機関・汚職防止委員会が違法性を認定し、首相や閣僚らを職務停止にしてしまう――というシナリオだ。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチのスナイ上級研究員は「軍は政権に『デモ隊の犠牲者が増えれば、責任は政府にある』と警告している。政府が強い対応をためらううちに選挙妨害が成功すれば、軍事クーデターの必要はない。ただ、権力の空白による混乱がさらに続くだろう」と懸念する。

もちろん、街頭の流血が収拾不能になった時は軍が従来型のクーデターを決行する、といううわさは今も絶えない。【1月31日 朝日】
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司法・汚職防止委員会などが法的に政権を追い詰める「見えないクーデター」が一番ありそうなシナリオですが、そうなれば、今度はタクシン支持派・「赤シャツ隊」による実力行使が火を噴きます。
どこまでいっても国民を分断する対立が止みません。

インラック首相などタクシン一族が身を引く代わりに、総選挙を完全な形で実施して次期政権を決める。与党側はタクシン元首相と距離をとるようにし、反タクシン派は総選挙という民主主義の常道に戻る・・・というのが不毛の対立を緩和する唯一の道だと思いますが・・・。
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ベネズエラ  地方選挙を乗り切り、反対勢力への圧力を強めるマドゥロ政権

2014-02-01 22:13:47 | ラテンアメリカ

(昨年7月のキューバ革命記念日に“英雄”フィデル・カストロを訪問したベネズエラ・マドゥロ大統領  
カストロについては、“フィデル・カストロ前国家評議会議長(87)が、キューバで開催中の中南米カリブ海諸国共同体首脳会議(1月28~29日)に合わせて訪れた要人らと、相次ぎ会談し、健在をアピールした。”【1月29日 読売】とのことで、元気なようです。 “flickr”より By Cubadebate http://www.flickr.com/photos/38597823@N03/12235979806/in/photolist-jDfAv5-jDdAuz-jDcEcP-jDcGez-juPUAQ)

野党はアメリカと結託してわが国に「経済戦争」を仕掛けている
南米ベネズエラでは、強硬な反米路線、強権支配、異色のカリスマ性などで何かと話題も多かったチャベス前大統領が死去しましたが、その後は後継者マドゥロ大統領が忠実にチャベス路線を継承しています。

そのベネズエラでチャベス博物館がオープンしたそうですが、現政権のチャベス路線を考えると、いままでなかったのが不思議なくらいです。

****反米左派チャベス前大統領の博物館、キューバに*****
キューバの首都ハバナで、昨年3月に死去したベネズエラの反米左派、ウゴ・チャベス前大統領を紹介する写真や軍服のレプリカなどを展示する博物館がオープンした。

チャベス氏は、キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長(87)と反米姿勢を共有。米国による制裁などで慢性的な経済危機に苦しむキューバにとり、石油の割安供給などの支援を惜しまなかった「同志」でもあった。

完成記念式典は1月29日に行われ、カストロ氏の実弟、ラウル・カストロ国家評議会議長(82)も出席した。【2月1日 読売】
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なお、12月8日は、がん闘病中だったチャベス前大統領が昨年12月8日に首都カラカスで最後の演説をしたことにちなんで、「ウゴ・チャベス最高司令官と祖国のための愛と忠誠の日」という祝日に指定されています。

そのベネズエラで、チャベス流の強引な経済政策の結果として深刻なモノ不足が続いていることは、昨年10月6日ブログ「ベネズエラ チャベス路線を忠実に実践するマドゥロ大統領」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131006)でも取り上げました。
状況は今も変わっていないようです。

****政府が商品を差し押さえて勝手に安売りの強引経済政策****
50%超えのインフレ対策は──軍に家電量販店を占拠させ強制バーゲン

野党はアメリカと結託してわが国に「経済戦争」を仕掛けている──そう主張するベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領が先週、軍に家電量販店を占拠させ、国民に政府が決めた「公正」価格での購入を呼び掛けた。

軍の標的となったのは、ベネズエラの家電量販チェーン店であるダカ、KVG、クラッシュで、これらの店舗は大混乱に陥った。当局は5人の店長を拘束し、不当に値段を吊り上げた罪で起訴するつもりだ。

何千人もの群衆が安くなったプラズマTVや冷蔵庫、洗濯機などを買おうと、店の前で行列をつくった。また中部の都市バレンシアのダカ店では市民による略奪が起き、5人を拘束したと政府は発表した。

だが識者の間では、これは12月の地方選挙を目前に控えた政府が人気取りのために仕掛けた略奪行為だと、非難の声も上がっている。「店の陳列棚にも倉庫にも何も残してはならない! すべては国のためだ」と国民に呼びかけたのは、マドゥロだからだ。

ベネズエラ経済は悪化している。年間のインフレ率は54.3%、米ドルの深刻な不足から闇市場ではドル紙幣が原価の10倍近い値で取引されている。ドル不足は、トイレットペーパーや鶏肉、料理用油などの生活必需品や食品類の品切れにつながっている。

その結果、ウゴ・チャベス前大統領の死を受けて4月に大統領に就任したマドゥロの支持率は急落。来月の地方選は、新大統領の指導力に対する信任投票になるだろうと、予想されている。

洗濯機が1週間で100%値上げ?
政府を批判する人たちは、経済が瀕死状態に陥っているのは、資本逃避(キャピタルフライト)防止策としてチャベス政権下の10年前から始まった為替管理政策のせいだと非難する。一方の政府は、それは野党が米政府の支援を得て仕掛けている「経済戦争」だと主張する。

マドゥロは11月10日夜、食品や自動車についても「公正」な価格が約束されるよう、今週中に軍を出動させると述べた。

大統領直属の経済対策庁のエバート・ガルシア・プラザ長官は8日、国営テレビで政府がダカを占拠するに至った理由について、不当な値上げがあったからだと説明した。

ガルシアは首都カラカスにあるダカの店舗から洗濯乾燥機の写真と一緒にこうツイートした。「11月1日に3万9000ボリバル・フエルテだったのが、今日は5万9000ボリバル・フエルテだ。たった1週間で値上げ率は100%近い」

中央銀行の元行員でエコノミストのホセ・グエラは、ダカで起きていることだけでなく、もっと根本的な問題を指摘する。「今日、食品が買えたとしても、明日は飢餓状態だ」と、彼はツイートした。

野党勢力を率いるエンリケ・カプリレス前ミランダ州知事は以前から、不況は政府のせいだと批判してきた。先週末にはこうツイートした。「マドゥロがすることは全部、さらなる経済破壊につながる」【2013年11月12日 Newsweek】
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独裁色を強めるマドゥロ政権
軍の力で販売業者の値上げを押さえつけるだけでは何も解決しないことは言うまでもありません。
ただ、政治的パフォーマンスとしては一定に奏功したようです。

「ウゴ・チャベス最高司令官と祖国のための愛と忠誠の日」に指定された昨年12月8日行われた、マドゥロ政権下の初の全国規模選挙となった地方選挙で、与党側が野党連合に勝利しています。

****ベネズエラ地方選で与党が勝利、物価統制策が奏功****
ベネズエラで8日に行われた地方選挙で、マドゥロ大統領の与党が過半数を獲得して勝利した。

選挙管理委員会によると、337自治体の市長選のうち4分の3の開票時点で与党連合の得票率49.2%、野党連合は42.7%となっている。

4月に就任したマドゥロ大統領は、中南米で最高水準のインフレ率や生活必需品不足、経済成長鈍化などの経済問題に直面している。だが、11月初めから実施された物価統制策は貧困層を中心に消費者の支持を集め、地方選で与党候補を後押しした。【2013年12月9日 ロイター】
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昨年4月の大統領選挙同様、左右の政治勢力が激突した熾烈な選挙戦でしたが、大きな混乱もなく選挙戦が戦われた点については、ベネズエラ国民の民主主義に対する見識が示された・・・との評価もあるようです。

市長についても与党側が多くを獲得しましたが、首都カラカス特別区、マラカイボ、バレンシア、バリーナス市など重要都市は野党側の勝利となっています。

マドゥロ政権側は、そうした野党支配の地方自治体に対し、露骨な政治圧力をかけています。

****政権与党 強まる独裁色 ベネズエラ 野党の市・州で権限剥奪****
南米ベネズエラのマドゥロ政権が、故チャベス大統領を彷彿(ほうふつ)させる独裁色を強めている。

先月8日の全国市長選で野党連合が勝利した市から各種権限を次々と奪い、州や政府に次々と移管。野党が知事職を握る州では、政権の息の掛かった人物に知事職相当の別職を与えて“二重の権力構造”を築いており、政権側の強権姿勢に野党から非難が噴出している。

全国市長選(337自治体)では、与党・統一社会党の候補242人が当選し、野党連合(当選75人)に大勝した。直後から政権側は攻勢を強め、市長職を野党連合に奪われた49市から、公園や劇場、文化施設の管理権限などを剥奪し、与党側の知事が支配する州や政府に移管している。

地元メディアによると、62%の得票で野党候補が勝利した西部タリバでは、市長選から数日後、ゴミ回収企業が市内での回収業務を一時中止した。社会党所属の前市長の指示とみられるという。

また、タリバ市を管轄するタチラ州は、警察車両や防弾チョッキ、武器などを引き渡すよう市警察に指示。社会党強硬派の州知事は「もともと州政府に属していた物品であり、これでメンテナンスが可能となる」と主張したという。

一方、昨春の大統領選でマドゥロ氏に惜敗した野党統一候補、エンリケ・カプリレス氏が州知事を務める北部ミランダ州では、政府から与党の重鎮に州開発プロジェクトの管轄権限が与えられた。
予算規模の大きい州開発が知事の頭越しに“委譲”された形だが、政権側はカプリレス知事が野党指導者として全国を飛び回り、州行政を軽んじているため、必要な措置だったと強弁している。

南部アマゾナス州でも野党知事が空港の管轄権限を剥奪され、州警察、ラジオ局、ホテルに関する権限も次々と奪われた。与党側の地元政治家が、州開発プロジェクトを管轄する代表に就任している。

野党所属のカラカス市長らは最近、大統領府でマドゥロ大統領と面会し、二重の権力構造を築きつつある現状を厳しく批判した。
しかし、大統領は市長選に勝利したことを強調し、「私を排除したいのなら、国民から署名を集め、(大統領罷免の国民投票実施が可能となる)2016年に備えればいい」と一蹴している。【1月31日 産経】
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カリスマなき強権支配は単なる独裁であり、傍目にも見苦しい感があります。

もっとも、野党陣営を率いるエンリケ・カプリレス氏は裕福な家庭の出身で、父方はマスメディア・グループの一族、母方はベネズエラの映画館チェーンの創業者でもあるということから民間メディアに大きな影響力を持っていますが、大企業に支持される彼の自由主義経済が国民の多くを占める貧困層にとっていかほどの妥当性を持つものかは定かではありません。

カプリレス氏が州知事を務め地盤としていたミランダ州の多くの市で市長を与党側に奪われたことで、その指導力に陰りが出たとも指摘されています。

時代錯誤的な社会主義路線と大富豪・大企業の自由主義経済の対立ということで、中間の選択肢がないことがベネズエラ国民にとっては不幸なことです。

世界で最も殺人発生率の高い国の一つ
モノ不足・インフレの経済と並んで、治安の悪さもベネズエラの抱える大きな問題です。
元ミス・ベネズエラの女優が路上で射殺された事件で、治安問題が大きくクローズアップされています。

****元ミス・ベネズエラ、パートナーと共に射殺される 路上強盗の疑い****
ベネズエラで6日、元ミス・ベネズエラで女優のモニカ・スピアさん(29)とそのパートナーの英国出身男性(39)、娘(5)の一家3人が銃撃を受け、スピアさんと男性は死亡、女児も負傷した。当局が翌7日発表し、同国には衝撃が走った。路上強盗とみられている。

検察当局が声明で明らかにしたところによると、スピアさんとトーマス・ヘンリー・ベリーさんらが乗っていた車が同国北西部の高速道路上で故障、その後殺害された。娘のマヤ・ベリー・スピアちゃんは右脚にけがをしたものの、手当てを受けて容体は安定しているという。

スピアさん一家は、故障した車がレッカー車に載った直後に5人の人物に襲われ、3人は故障車内に逃げ込んだが犯人らはその車に向かって発砲したとみられる。(中略)

スピアさんは2005年ミス・ユニバース大会でも準々決勝まで残り、その後はテレビドラマに出演。米国に在住していたが、休暇のためベネズエラに一時帰国中に今回の事件に巻き込まれた。また、英国生まれのベリーさんはベネズエラ市民権を取得していた。

昨年の大統領選で治安の悪化に歯止めをかけると公約していたニコラス・マドゥロ大統領は、「これは虐殺行為だ」と述べ、「この暴力はわれわれが抱えている病気だ」と嘆いた。
ベネズエラは世界で最も殺人発生率の高い国の一つとされ、昨年2013年の殺人発生率をNGOのベネズエラ暴力行為監視団」は住民10万人当たり79件、内務省はこれより低い39件と報告している。【1月8日 AFP】
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いずれにしても、接戦の地方選挙を乗り切ったことで、少なくとも大統領罷免の国民投票実施が可能となる2016年まではマドゥロ政権が続きそうです。
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