孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU 異例の長期協議を経てコロナ復興基金創設で合意 その存在感を示す

2020-07-21 22:43:56 | 欧州情勢

(記者会見後、笑顔で撮影に応じたミシェルEU大統領(右)とフォンデアライエン欧州委員長(21日、ブリュッセル)【7月21日 日経】 両氏の笑顔が協議の成功を物語っています。)

 

【ミシェルEU大統領「EUは共に行動できることを示した」】

新型コロナウイルス禍で落ち込んだ経済の立て直しに向けたEUの「復興基金」創設に関する協議は、イタリアやスペインなど、被害が大きく財政基盤の弱い国々が補助金中心の構成を求めたのに対し、財政規律を重視するオランダやオーストリアなどが、補助金と融資の割合を変えることや、補助金の配分について厳格な審査を求めて譲らず、異例のロングラン協議になりました。

 

難しい協議の結果、結論先送りではなく、補助金に対し融資の割合を増やす形で合意にこぎつけ、EUの存在を一定にアピールすることにもなりました。

 

****EU「復興基金」創設で合意 共同債で92兆円調達、連帯示す****

欧州連合(EU)首脳会議は21日、新型コロナウイルスで打撃を受けた経済再建に向け、7500億ユーロ(約92兆円)の「復興基金」の設立に合意した。EUが危機対応のため、債務を共有する初の仕組みで、財政統合に新たな一歩を踏み出した。

 

復興基金はEUの欧州委員会が債権を発行し、金融市場で全額調達。EU予算に組み込み、ウイルス被害国に対し、医療や景気対策のため支給する。総額7500億ユーロのうち3900億ユーロは返済義務のない補助金。3600億ユーロは返済義務がある融資とされる。

 

17日に始まった協議は5日間に及び、EU史上最も長い首脳会議となった。協議が難航したのは、財政規律を重んじるオランダやスウェーデンなど5カ国が「原則融資にすべきだ」と主張したため。共通債務で自国の負担が増えることを嫌った。

 

ミシェルEU大統領が20日、当初案で5千億ユーロだった補助金を圧縮して融資分を増やすなどの妥協案を提示し、合意が成立した。

 

シェル氏は21日の記者会見で、「EUは共に行動できることを示した」と述べた。EUは復興基金とあわせて、総額1兆740億ユーロの2021〜27年中期予算案でも合意した。【7月21日 産経】

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各国は、これらの財源を景気対策や環境、デジタル分野などへの投資に優先的に使って経済再建と雇用拡大などを同時に目指すことになり、合意によってEUが経済を立て直すことができるかどうかが注目されます。

資金はEUの執行機関、ヨーロッパ委員会が債券を発行して市場で調達するため、事実上、各国が共同で債務を負うことになり、EUの財政政策の統合に道を開く可能性もあると指摘されています。【7月21日 NHK】

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【マクロン大統領「ヨーロッパにとって歴史的な日だ」】

協議を主導したフランスのマクロン大統領は、みずからのツイッターに「ヨーロッパにとって歴史的な日だ」と投稿して、その意義を強調しました。

 

****独仏首脳 合意の意義強調****

EUの経済の立て直しに向けた基金の設立に向けて、議論を主導してきたドイツのメルケル首相と、フランスのマクロン大統領は21日、共同で会見を行い、首脳会議での合意の意義を強調しました。

この中でメルケル首相は「とてもほっとしている。今回はやり遂げることができた」と述べて、予定を大幅に延長して行われた厳しい協議を振り返りました。

そのうえで「異なる背景をもつ27の加盟国からなるEUが、ともに行動できることは、ヨーロッパを越えて重要なシグナルになる」と述べ、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に続く中、多国間で協調する重要性を訴えました。

また、マクロン大統領は「合意できなければ今後、数か月、あるいは数年、もっと多くの出費を迫られていた」と述べて、今回の首脳会議で合意に至った重要性を強調しました。

マクロン大統領は今回、設立された復興基金でEU加盟国の共同の責任のもと、市場から資金を調達する仕組みが盛り込まれたことについて「ヨーロッパの結束に基づく復興基金は、ヨーロッパにとって。そしてユーロ圏にとって歴史的な変化だ」と指摘しました。【7月21日 NHK】

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【メルケル首相の決断「EU弱体化はドイツ経済にも打撃になる」】

各国が共同で債務を負うことについては、結果的に財政力の強いドイツなどが負担することにもなり、ドイツ国内には以前からそうしたスタイルには強い抵抗がありましたが、今回メルケル首相が同意したのは、「EU弱体化はドイツ経済にも打撃になる」という判断があったためとされています。

 

****メルケル独首相、米中対立の中で歴史的転換 EU復興基金****

欧州連合(EU)は21日、新型コロナウイルス禍に対応するため、共同債券を使った「復興基金」設立で合意し、財政統合へと前進した。

 

議長国ドイツのメルケル首相は未曽有の経済危機に直面して、国是だった財政均衡路線からの歴史的転換に踏み切り、「EUの団結」を優先した。

 

EU史上最長の5日に及んだ協議の後、メルケル氏はマクロン仏大統領とともに記者会見し、「よい合意ができてうれしい。今は安堵(あんど)している」と述べた。復興基金は今年5月、独仏首脳が共同提案した。

 

EU共同債といっても、打撃の大きいイタリアやスペインは債務国で、借金返済の力がない。経済大国ドイツ政府と国民が大半を肩代わりすることになる。それでもメルケル氏が決断したのは、「EU弱体化はドイツ経済にも打撃になる」という判断からだ。

 

コロナ危機でドイツは、財政黒字で蓄えた潤沢な予算を生かし、総額約1・2兆ユーロ(約146兆円)の経済対策を決定した。だが、国内総生産(GDP)は4割以上を輸出に頼る。しかも輸出総額の6割はEU圏向けだ。EU全域の復興は、ドイツ経済回復の前提条件と言ってよい。

 

メルケル氏の方針転換を支える環境もあった。新型コロナにより、EU域内で12万人以上が感染死する中、ドイツは死者数を約9千人に抑えた。メルケル氏は国内で高く評価され、支持率は71%に達した。「われわれの未来は欧州にある。責任を示すべきだ」という訴えは、国民の共感を得た。

 

ドイツの財政均衡へのこだわりは、第一次大戦後の超インフレに根差す。通貨価値がほぼゼロになるという苦い歴史を経て、EU共同債は「債務国の放漫財政につながる」という嫌悪感が国民に浸透していた。

 

ドイツだけでなく現在のEUには、「コロナ時代」の国際情勢に強い不安が広がっている。トランプ大統領の米国と習近平国家主席の中国が激しく対立する中、EU各国には米国に頼らず、「欧州の団結」を求める底流があった。

 

EU内で、財政基盤の弱い南欧と、財政規律を求めるオランダや北欧の対立は今後も続く。だが、今回の首脳会議で27カ国首脳は、「合意見送り」に逃げなかった。米中対立の中での強い危機感が、妥協を成立させた。【7月21日 産経】

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【コンテ伊首相 力強く再出発する機会が得られた】

新型コロナで大きな打撃を受けたイタリアは、今回合意を「力強く再出発する機会」として歓迎しています。

 

****EU復興基金、イタリアの改革を支援 割り当て2090億ユーロ=首相****

イタリアのコンテ首相は21日、欧州連合(EU)首脳が復興基金案の設立で合意したことについて、イタリアの改革を後押しし、EUが新型コロナウイルス危機に「強力かつ有効に」対応することにも寄与するとの見解を示した。

コンテ氏は7500億ユーロの復興基金の28%に相当する約2090億ユーロがイタリアに振り向けられるとし、このうち約810億ユーロが補助金、約1270億ユーロが融資になるとの見方を示した。

今回の合意でイタリアは「力強く再出発する機会」が得られたとし、政府は国家運営を一変させる責任があると述べた。

「資金を投資と構造改革に活用する必要がある」とし、「グリーン化、デジタル化を進め、より革新的、持続可能で包摂的な国にする格好の機会を得た。学校や大学、研究、インフラに投資するチャンスだ」と語った。

コンテ政権が崩壊の危機にあるとのうわさについては、政府は「強力」で、復興基金を巡る合意でイタリア政府の行動が強化されると述べ、これを否定した。【7月21日 ロイター】

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【クルツ・オーストリア首相「われわれ小国が結束を示したことで、いい合意をもたすことができた」】

財政規律を重視する立場のオーストリアも、合意を高く評価しています。

 

****オーストリア首相「いい結果 倹約国で連携」****

今回の首脳会議で、財政規律を重視するオランダ、オーストリア、そしてデンマークやスウェーデンなど北欧の国々は「倹約国」と言われ、当初、EU=ヨーロッパ連合が提示した案に反対し、補助金の割合を減らすよう強く主張し、復興基金については、環境やデジタル分野などへの投資に使うよう求めていました。

合意について、オーストリアのクルツ首相はツイッターに投稿し、「EUそしてオーストリアにとっていい結果を達成した」と評価しました。

また、クルツ首相は、記者団に対しても、「これは歴史的なものだ。『倹約国』との協力はきょうで終わりではなく、今後も続けていく。それがEU内の力のバランスにも関わるものとなる。EU内では大国のドイツやフランスが音頭をとっているため小国であるオーストリアなどが、立場を主張することは難しいが、首脳会議では最後の数日、われわれ小国が結束を示したことで、いい合意をもたすことができた」と述べ、今後もオランダなど財政規律を重視する国々と連携し、EU内で存在感を発揮したい意向を示しました。【7月21日 NHK】

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【今回の合意は、日本を含め世界経済にとってもよいニュース】

今回EUが合意を得たことは、日本経済や世界経済にとってもよい影響があると評価する指摘も。

 

*****専門家「基金通じた支援はEU復興の起爆剤に」*****

EU=ヨーロッパ連合が経済の立て直しに向けて、およそ92兆円の基金の設立で合意したことについて、第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストは「EUは、危機の初期段階で自国で医療資源を抱え込んで国境を閉鎖してしまい、イタリアやスペインに医療支援を提供できないなど必ずしもうまく対応できなかった。今回の復興基金の設立でEUが結束しなければ、その存在意義を問われかねない状況だった。債務の統合を部分的にでも実現できたことで結束は保たれた」としています。

そのうえで、この基金の設立がEU経済の回復につながるかどうかについて「イタリアのように財政不安を抱えていて、自力での財政出動が難しい国もある中で、基金を通じた支援はヨーロッパの景気回復につながる政策だ。環境やデジタルなどへの投資も含まれていて、EUの復興の起爆剤になる可能性を秘めている」と分析しています。

そして「アメリカなど世界での感染が増加の一途をたどっても金融市場は意外なほど安定している。その理由は、各国が財政政策や金融政策を総動員しているためだ。万一、基金の設立で合意できていなければ、金融市場に非常に動揺が広がっていただろう」と述べて、今回の合意は、日本を含め世界経済にとってもよいニュースだという見方を示しました。

さらに、今回合意したEUの基金のように、複数の国の共同の責任のもと市場から資金を調達する仕組みが他の地域でも可能かどうかについては「EUは、長年時間をかけて通貨などの統合を進めてきた。今回の基金の設立の合意は、そうした経緯があってようやくできた債務の共有化だ。他の国のために国民の税金を提供するのは非常に難しいことで、ほかの国や地域では非常にハードルが高い」として、こうした合意はEUだからこそ実現できた政策だと強調しました。【7月21日 NHK】

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なんだかんだで問題も多く、批判も多いEUですが、今回合意は「EUならでは」のものでもあり、一定にその存在感を示すものとなったようです。

 

【米英韓のコロナ関連経済対策】

なお、EU以外の国々のコロナ復興対策にについては下記のようにも。

 

****米英韓の経済対策は****

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世界各国では大規模な経済対策が行われています。

〈アメリカ〉
このうちアメリカでは、今月までに日本円で総額300兆円規模の経済対策が発表され、職を失った人に対する失業保険の給付や、中小企業の支援などにあてられています。

〈イギリス〉
また、イギリス政府は、GDP=国内総生産の15%にあたる45兆円規模の企業の資金繰り支援に加えて、仕事がなくなった従業員の賃金の支払いを肩代わりしたり、飲食や観光の分野で日本の消費税にあたる付加価値税の税率を半年間、大幅に引き下げたりするなど、さまざまな対策を相次いで打ち出しています。

〈韓国〉
韓国では、これまでに3つの補正予算を成立させるなどして、日本円にしておよそ25兆円規模の政策パッケージを推進し、経済対策や感染対策などを行っています。

ムン・ジェイン(文在寅)大統領は先週、経済対策として、「韓国版ニューディール」と名付けた新たな計画を発表し、医療や教育をはじめ、あらゆる分野でデジタル化を進めるなどしてウイルスによる危機を克服していくとしています。【7月21日 NHK】

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日本のコロナ対策は、給付金等の遅れ、浮き彫りとなったIT化の後進性、GO TO トラベルの迷走など、もたつきも目立つのは周知のとおり。

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新型コロナは弱毒化したとの指摘も

2020-07-20 22:54:16 | 疾病・保健衛生

(全国の新型コロナによる死者数 【NHK】)

 

【ウイルスは弱毒化したのか?】

新型コロナへの対応で迷うのは、そのリスク・危険性をどう評価していいかわからないためです。

 

ひところのエボラ出血熱のように致死率が50%だ、60%だと言う話なら、とにかく感染防止最優先になります。(エボラモも現在はワクチンが開発され、状況はだいぶ変わっているようです)

 

一方で、重症化するのは高齢者などハイリスクの者にほとんど限定されるゆなら、まあ「コロナに気をつけましょうね」でおしまい。

 

もちろん、高齢者や介護施設等の対応は考える必要がありますが、そうした者が重症化し、場合によって死に至るのはインフルエンザでも、普通の風邪でも同じで、特に新型コロナに限った話でもありません。新型コロナもインフルエンザ流行に準じて考えればいいという話にもなります。

 

日本では東京、20代・30代を中心に感染者が再び増大していますが、重傷者や死者の数はそう増えていません。

 

そうした現象も含めて、「新型コロナは弱毒化したのではないか?」との考えも見聞きします。

一時期新型コロナが猛威を振るった北イタリアでも同じような「弱毒化」が見られるとの指摘が。

 

****「どう猛な虎からヤマネコに変わった」新型コロナウイルスはワクチンを待たずに消滅か****

新型コロナウイルスは弱毒化したか

「どう猛な虎がヤマネコに変わった」

新型コロナウイルスの感染が再び拡大しているのに重症患者や死者が増えていないことについて、何か情報がないかインターネット上を探していたところこんな見出しの新聞記事に出会った。

 

英国紙ザ・テレグラフ電子版6月20日の記事で、新型コロナウイルスが猛威を振るったイタリアで患者の治療に当たったサンマルティノ病院の感染症部門の医長マテオ・バセッティ教授にインタビューをして、見出しのような表現でウイルスが弱毒化しているという証言を得たというものだ。

 

「ウイルスは劇的に変異したというのが私の印象だ。3月から4月始めにかけての状況は今とは全く違った。緊急治療室に運ばれてくる患者の容態は極めて重く酸素吸入が必要で、肺炎を発症しているものも少なくなかった。

 

それが今は、この4週間を見る限りでは、患者の症状は極めて軽症に変わった。呼吸器官内のウイルスによる負荷が軽減されたと考えられる。恐らくはウイルス自身の突然変異の結果と考えられるが、これはまだ疫学的に証明されたわけではない。

 

3月、4月頃のウイルスはどう猛な虎のような存在だったが、今はヤマネコみたいだ。最近は80際、90際の患者もベッドから身を起こして機器の助けなしに呼吸をしている。かつて高齢の患者は、2〜3日で死亡していたのに」

 

イタリアでは今年3月にウイルス汚染が爆発的に拡大し、感染者が日に6000人、死者は1000人近くに達したが、その後感染者、死者共に減少し今では日に感染者は200人前後、死者は十人台になっている。

 

その原因について、バセッティ教授はこう推測する。

「我々の免疫のための努力でウイルスが弱体化したようで、都市封鎖やマスク着用、社会距離の確保の結果ウイルスの毒性が低下したと考えられるが、具体的に何がここまで大きな変化をもたらしたのかは明らかにしなければならない」

 

またウイルスの今後については、
「ワクチンに頼らずにウイルスが消滅することは十分あり得ることだ。感染者は日を追って少なくなっており、ウイルスが死滅することになるかもしれない」

 

「地獄図」とまで言われたイタリアのコロナウイルス汚染の中で、いわば体を張って患者の治療に当たったバセッティ教授の言葉は重いが、懐疑的な意見も少なくない。

 

ザ・テレグラフ紙は英国のエクスター医科大学の上級医学講師のバーラット・バンカニア教授の「ウイルスが死滅するというのは短期的には楽観的すぎる」という談話を紹介している。

 

英国では新型コロナウイルスの死者が一時は日に4000人を越えたが、最近は数十人単位に減ってきていることもあってこの記事は注目されている。各メディアが引用して政府を影響したのか、13日パブやレストラン、美容院が3ヶ月ぶりに再開されることにもなった。

 

アメリカ大統領選への影響は?

またこの記事は米国のマスコミにも引用されているが、トランプ大統領はかねて「ウイルスはインフルエンザと同じ。やがて消え去る」と言っており、もし本当にウイルスが消滅するようなことになれば大統領選に大きな追い風になることが考えられる。

 

「新型コロナウイルスは2020年の大統領選を翻弄し、『強運』のトランプ大統領再選をもたらすかもしれない」

普段はトランプ大統領に対して厳しい論調を貫いている米政治・経済専門のニューズレター「ワシントン・ウォッチ」は、3日付けの記事でこう伝えている。【7月20日 木村太郎氏 FNNプライムオンライン】

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トランプ大統領はあいかわらず新型コロナを問題視しない姿勢を続けています。

 

****トランプ大統領「多くは一日で治る若い人」*****

アメリカで新型コロナウイルスの一日の感染者数が7万人を超える中、トランプ大統領は「多くは一日で治るような若い人たちだ」と述べ、改めて楽観的な見方を示しました。

トランプ大統領「感染者の多くは一日で治るような若い人たちだ。症例数とすべきではない。彼らがひいてるのは鼻風邪だ」

トランプ大統領は、FOXニュースのインタビューで、このように述べた上で、新型ウイルスについて、「ある時点で消えてなくなるだろう」と改めて楽観的な見方を示し、「いずれ私が正しいことになる」と強調しました。

また、マスクの着用をめぐっては「私はいいと思うが、マスクは問題を起こすこともある」と述べ、全国的な義務化は必要ないとの考えを示しました。(後略)【7月20日 日テレNEWS24】

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新型コロナが終息することで、世界にとって厄介なトランプ大統領が再選を果たすということになると、それはそれで困ったことですが・・・・

 

弱毒化することと、消えてなくなることとは別物で、弱毒化した状態で蔓延が続くということもあるでしょう。

また、“一日で治る”とかいうのも言い過ぎだと思います。

 

ただ、日本のように“死んでもコロナに感染したくない”という不安神経症・強迫性障害的反応をとる必要もないのかも・・・というのは私も感じます。

 

【「これから重症者や死亡者は遅れて増えてくる」という“良識的”見解】

ただ、世間の“良識的”見解は異なります。

 

****新型コロナ 重症者数は鋭敏な指標ではない理由****

(中略)

重症者は遅れて増加してくる

第1波を振り返ってみますと、新規患者数と重症者数のピークには約2週間のタイムラグがあることが分かります。

これは、しつこく毎回言っていますが、新型コロナの特徴的な経過によるものです。

 

新型コロナウイルス感染症は発症してしばらくしてから急に悪化します。典型的には、発症から7~10日経ってから悪化してきます。

 

新型コロナ患者の多くは、発症から1週間前後で診断されていますが、高齢者や基礎疾患のある人はより短期間で診断される傾向にあるため、重症者が増えてくるのは診断時よりも後になります。

つまり、重症者のピークは今よりも確実に遅れてやってきます。

 

今、重症者数や死者数が少ないため「ウイルスが弱毒化した」とか「夏は新型コロナの致死率が低くなる」といった意見が散見されますが、いまのところそのような科学的根拠はなく、これから重症者や死亡者は遅れて増えてくるものと思われます。

 

例えば、第1波の症例数が増加している時期であった4月17日時点での致死率はわずか1.6%でした。

しかし、直近の7月8日には4.9%にまで上昇しています。(中略)

 

この状況がこのまま続くとどうなるでしょうか。

東京と同じ様に、当初流行の中心が若者であったフロリダの状況が参考になるかもしれません。

 

フロリダ州では6月から流行がさらに加速し、7月に入ってからは1日平均10000人以上が新型コロナと診断されています。

 

当初、流行の中心は若い世代であり、症例が増加しても死亡者は増えていませんでした。

しかし、高齢者の感染者が増加するにつれ、死亡者も増加傾向にあり、現在は1日に100人以上の方が亡くなっています。(後略)【7月19日 忽那賢志氏 YAHOO!JAPANニュース】

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今後、中高年層の感染も拡大することで死者数は増加するのかも。

ただ、問題はその程度です。社会的に許容することができる程度のものなのか、そうでないのか。

 

【ウイルスより怖い世間】

“油断するな、気をつけろ”“これから悪化する恐れがある”というのは“常識的”“良識的”ではありますが、ひところの北イタリアの状況と今の日本ではやはり何か決定的に異なるファクターがあるようにも思えます。

 

また、再三言うように、高齢者などハイリスク者が危険なのは新型コロナに限った話でもありません。

 

私個人の正直な印象を言えば、新型コロナ自体についてはさほど心配していません。

感染することはあるでしょうし、運悪く重症化することもあるでしょう。まあ、人生なんてそんなもので、厄介ごとは多々あります。それを恐れて引きこもっていてもしかたありません。

 

ただ、感染に伴うもろもろの大騒ぎ・世間的な厄介ごとは非常に心配です。

自分が感染したことで職場も閉鎖になって・・・ということを考えると不安にもなります。

 

一言でいえば、ウイルスより世間が怖いということです。

 

そのあたり、日本社会の特殊な構造、しばしば同調圧力といった言葉でしめされるような構造については、また別の問題ともなりますので、また機会を改めて。

 

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イスラエルの西岸地区併合案が停滞する理由 入植者からの反対、一部パレスチナ人からの賛成も

2020-07-19 21:22:04 | パレスチナ

(2日、ガザ地区南部のカーンユーニスでイスラエルによるヨルダン川西岸の併合に抗議するパレスチナの人々【7月5日 WEDGE Infinity】 こうした反対はわかりやすいですが、より複雑・微妙な反応も多々あるようで状況は複雑です。)

 

【アメリカ以外の国際世論は総じて併合に反対】

イスラエル・ネタニヤフ首相が発表した、パレスチナが将来の国家の領土と位置付けるヨルダン川西岸の一部をイスラエルの「自国領」として併合する計画では、対象になるのは入植地やヨルダンとの境界をなすヨルダン渓谷で、西岸の約3割に当たります。

 

入植地にはユダヤ人しかいませんが、ヨルダン渓谷にはユダヤ人約1万人のほかにパレスチナ人が6万5千人住んでいるとされ、併合すれば、パレスチナ自治政府が考えている「将来建設する国家」を危うくするだけでなく、イスラエルに併合されたパレスチナ人の政治参加など複雑な問題が噴出することにもなります。

 

国連のグテレス事務総長も6月下旬、「併合は最も重大な国際法違反だ」と併合計画の撤回を求めています。

 

一方で、イスラエル国内には、パレスチナ国家樹立につながるトランプ和平案への強硬派からの反対論もあるようです。

 

*****イスラエルの併合計画に抗議、ガザ地区でデモ 国際社会も非難****

パレスチナ自治区ガザ地区で1日、イスラエルによるヨルダン川西岸併合計画に抗議するデモが行われ、パレスチナ人数千人が参加した。

 

併合計画に対して国際社会から非難の声が高まっているが、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、米国との協議は続いているとしている。

 

右派・中道連立によるネタニヤフ政権は、米ドナルド・トランプ政権が今年1月に示した中東和平案に盛り込まれていた併合を、7月1日に開始するとしていた。

 

これに対しボリス・ジョンソン英首相は1日、イスラエルのヘブライ語日刊紙イディオト・アハロノトに、自分は「イスラエルの熱心な擁護者」ではあるが、併合は「イスラエルの長期的な国益に反し」「国際法に違反するだろう」と寄稿した。

 

さらにオーストラリア、フランス、ドイツなど欧米諸国、国連に加え、イスラエルが関係改善を図っていた湾岸諸国も併合に反対の立場を示している。

 

ただ、ドイツ議会は「一方的な制裁や制裁を科すという脅し」をけん制する動議を可決した。このような制裁は、イスラエルとパレスチアの和平プロセスに「建設的効果をもたらさない」と説明している。

 

◼️イスラエル国内で反発も

イスラエルのベニー・ガンツ副首相兼国防相は、イスラエルとパレスチナで新型コロナウイルスの新規感染者が急増しており、流行が抑制されるまで併合は実施すべきではないと述べている。

 

イスラエルは1967年の第3次中東戦争で東エルサレムを、1981年にシリア国境のゴラン高原を併合したが、国際社会の大半からは承認されていない。

 

一部の入植者はネタニヤフ氏に対し、ヨルダン川西岸でも同様の行動を起こすよう促している。

 

一方、強硬派は、トランプ氏の和平案はパレスチナ国家にヨルダン川西岸の約70%に及ぶ地域が組み込まれることを想定しており、反対の立場を示している。 【7月2日 AFP】

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ネタニヤフ首相が一番重視しているのは、アメリカ・トランプ大統領のゴーサインでしょう。

今回の計画もトランプ和平案に沿った内容であることから、当然にトランプ大統領の支持が得られるとの前提のものでしょう。

 

【トランプ政権の躊躇など、併合案停滞の理由 入植者からの反対も】

しかし、トランプ大統領はまだ明確なゴーサインは出していません。

 

****イスラエル、西岸併合で米と協議継続 パレスチナは直接協議も検討か****

イスラエルのネタニヤフ首相は6月30日、米国のフリードマン駐イスラエル大使やベルコウィッツ中東特使と会談し、パレスチナが将来の国家の領土と位置付けるヨルダン川西岸の一部をイスラエルの「自国領」として併合する計画について、「今後数日間、協議を続ける」と述べた。

 

5月に発足したイスラエル新政権の連立合意は、併合するための法整備を7月1日から進められるとしている。首相は「歴史的チャンスを逃すわけにはいかない」と繰り返し強調してきたため、1日に何らかの宣言があるとの臆測も出ていたが、当面は協議が続く可能性がある。

 

イスラエルに肩入れするトランプ米政権が1月に発表した新中東和平案では、パレスチナ国家の樹立を明記する一方、イスラエルがヨルダン川西岸の30%に当たるユダヤ人入植地とヨルダン渓谷を併合できるとしている。

 

ただ、境界は米国との合同委員会で策定するとしており、トランプ政権はまだ併合計画の着手を了承していないとみられる。

 

併合の動きに対してはパレスチナやアラブ諸国の一部が強く反発している。パレスチナ自治区ガザでは7月1日、併合反対のデモが行われ、住民数千人が参加した。

 

一方、AFP通信は6月29日、パレスチナ自治政府側が最近、国家樹立に向けてイスラエルと直接交渉する用意があると米国などに伝えたと報じた。

 

両者の和平交渉は2014年以降中断されているが、事態打開に向け、パレスチナ側も「小規模な境界変更」には応じるとの従来の立場を改めて強調したという。【7月1日 毎日】

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トランプ大統領は、国際批判、国内保守派の支持などを再選戦略の観点から得か損か秤にかけているのでしょう。

トランプ政権の判断以外にも、ネタニヤフ首相の行動を縛る要因がいくつかあるようです。

 

****西岸併合に踏み切れない5つの理由、焦り深まるネタニヤフ首相****

イスラエルのネタニヤフ首相が占領地ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区の併合に踏み切れないでいる。

 

7月1日にも発表と見られていた併合に、後ろ盾のトランプ米政権がブレーキを掛け、肝心のユダヤ人入植者も反対するなど予想外の障害に直面しているからだ。

 

トランプ氏の11月再選が危ぶまれる中、首相の焦りは深まる一方だ。併合できない5つ理由を探った。

 

再選にプラスになるのかを見極め

ネタニヤフ首相は1年間で3回も繰り返された総選挙の中などで、西岸や東エルサレム周辺のユダヤ人入植地を併合するとの公約を訴えてきた。入植地は現在、130カ所以上に及び、約60万人のユダヤ人が居住、パレスチナ和平交渉の大きな障害になってきた。

 

このため歴代の米政府は入植地の拡大を凍結するようイスラエルに求めてきたが、トランプ政権は今年1月、入植地を中心に西岸の30%をイスラエル領に併合し、係争の聖地エルサレムをイスラエルの永遠の首都と認める代わりに、残りの70%に「パレスチナ国家」を樹立するという和平案を提示した。

 

しかし、パレスチナ側はイスラエル寄りの案だとして即座に拒否、和平交渉は完全にストップした。

 

この提案を受けたネタニヤフ首相は「歴史的な機会」と歓迎し、トランプ政権の同意を得た上で、7月1日にも併合の決定を発表する意向を示した。

 

しかし、当初は併合に青信号を与えていた同政権が途中から急ブレーキを踏んだ。米国の中東和平チームはトランプ大統領の娘婿でユダヤ人のクシュナー上級顧問が率い、フリードマン駐イスラエル大使が支えてきた。

 

併合に前のめりのフリードマン大使に対し、ブレーキを踏んで「待った」を掛けたのはクシュナー氏だ。同氏はトランプ氏の事実上の選対本部長を務めており、併合が再選にとってプラスになるかを慎重に見極める必要があるためだ。

 

トランプ氏の最大の支持基盤であるキリスト教福音派はイスラエルを支持しており、和平政策も同派の意向に大きく左右される。

 

しかし、同派筋によると、「福音派の大部分は併合に関心がない」。つまり併合は大統領にとって限定的な効果しか見込めず、逆に併合でパレスチナ人が蜂起するなどして現地情勢が混乱すれば、同派に支持離れが起きる恐れがあるという。

 

クシュナー氏が「待った」を掛けたのはこうした事情による。首相が併合に踏み切れない理由の1番目がこの米国のブレーキだ。

 

米国や現地メディアなどによると、クシュナー氏はまた、パレスチナ人を米提案に基づく交渉に参加させるため、「併合カード」を“テコ”に利用しようとしており、首相が併合の発表をしてしまえば、このカードを使うことができなくなることも慎重になっている要因の1つだ。

 

だが、ネタニヤフ首相がトランプ政権のこうした姿勢にヤキモキしているのは想像に難くない。米選挙情勢は民主党のバイデン前副大統領がトランプ大統領に対し優位にある。バイデン氏は併合に反対しており、トランプ氏が敗れるようなことになれば、首相は併合の機会を失ってしまうかもしれない。

 

カギはヨルダンのアブドラ国王

理由の第2番目は、連立政権を組む「青と白」率いるガンツ副首相兼国防相が「新型コロナウイルス対策を優先すべきだ」などとして一方的な併合に反対していることだ。

 

ネタニヤフ首相とガンツ氏は連立協議で、1年半ずつ首相を務めることに合意しており、汚職裁判中の首相の任期は21年の9月までだ。

 

ガンツ氏は米国の和平提案の一括受け入れを主張。「西岸の30%の併合」だけに同意して、「パレスチナ国家樹立や入植地の凍結」は拒否するという“いいとこ取り”は認められないとの立場だ。

 

しかも同氏は隣国ヨルダンのアブドラ国王が併合に同意することを条件に付けている。この国王の同意問題が3番目の理由だ。

 

西岸は元々、1967年の第3次中東戦争でイスラエルに占領される前はヨルダン領だったが、その後ヨルダンがパレスチナ人のために領有権を放棄し、イスラエルとも国交を結んだ。

 

しかし、国王は今回、米和平案やネタニヤフ首相の併合方針には強く反対、首相が電話を掛けても話すことを拒絶するなど関係が急激に悪化している。

 

 

このため、国王を説得できなければ、ガンツ氏の条件を満たすのは難しく、首相が併合方針を推進すれば、連立政権が崩壊する恐れさえある。

 

首相にとって頭が痛いのはこれだけではない。軍や治安関係の元指導者らが併合に反対している点だ。これが第4の理由だ。

 

軍や治安関係者の見解は敵対国に囲まれているイスラエルにとって、首相とはいえ無視できないものだ。

 

彼らの反対の理由は、併合により自治政府と対立してパレスチナ側の治安機関の協力がなくなれば、イスラエルの治安が一気に悪化するというものだ。イスラエル治安当局がパレスチナ内部の過激派をすべて監視することは不可能だからだ。

 

メンツを保つための小規模併合か

だが、ネタニヤフ首相にとっては意表を突かれた反発もある。それは他でもない入植者の反対だ。これが第5の理由だ。

 

入植者の大半は当初、米国の和平提案と首相の併合方針に諸手を挙げて賛成した。しかし、提案が入植地の併合と引き換えに、パレスチナ国家を樹立するという「2国家共存」を盛り込んでいることに拒否感が広がった。

 

入植者らの懸念は、米国の提案ではこれ以上の入植地の拡大はできないこと、パレスチナ国家が樹立された場合、入植地はその中で孤立し、いわば「パレスチナ人の海」に取り残されてしまうことだ。

 

首相は入植者らを説得しているが、辛うじて入植者の約半数の賛同を得られただけだとされる。だが、公約が入植者の反対で実現できなければ、首相のメンツは丸つぶれとなる。

 

このため現在首相周辺で浮上しているのが「公約通り併合はするが、米国やヨルダン、ガンツ氏を刺激しないよう、併合対象をエルサレム周辺の入植地だけにとどめ、これを併合第一弾として公表する」案だ。

 

首相は公約を実施したとしてメンツを保ち、今後順次併合していくという姿勢を見せて、八方ふさがりの状況を乗り切るという思惑だ。

 

しかし、首相に対しては基本的に併合に賛同するイスラエルの保守派からも「なぜ寝た子を起こすのか」(米紙)と批判が噴出している。

 

西岸をイスラエルが実質的に支配する現状は同国にとって悪いものではない。西岸の治安はパレスチナ側の取り締まりによって安定しており、和平交渉がストップしていてもパレスチナ人の抵抗は小さい。

 

しかも国際社会はイスラエル支配を黙認し、アラブ諸国との関係改善も徐々に進んでいるからだ。

 

「イスラエルにとって現状は最も望ましい状態ではないか。パレスチナ独立国家樹立が絶望的になる一方で、パレスチナ側からの反発も暴力的なものではなく、国際的にも和平の推進について圧力がない。なぜ、併合という形式にこだわり、“平時に乱を起こす”ようなことをあえてやるのか。ネタニヤフには戦略がない」(ベイルート筋)。

 

ネタニヤフ首相の決断はイスラエルに大きな危機をもたらすかもしれない。【7月5日 佐々木伸氏 WEDGE Infinity】

*********************

 

こうした入植者からも反対が出る微妙な状況で、一方のパレスチナ人の間からは併合案への賛意が出ており、そうした賛意を示した者を自治政府が逮捕したとのニュースも。パレスチナ側は否定していますが。

 

****イスラエルの併合支持した複数のパレスチナ人、自治政府が逮捕****

6月に放映されたイスラエルのテレビ番組で、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸の一部地域のイスラエル併合を希望すると述べたパレスチナ住民数人が、パレスチナ当局に逮捕された。関係筋が明らかにした。

 

ドナルド・トランプ米大統領は1月に発表した中東和平案で、国際法上違法とみなされているユダヤ人入植地を含めたヨルダン川西岸の広い範囲をイスラエルに併合するための支援を約束した。

 

だが、パレスチナ自治政府はヨルダン川西岸のいかなる部分の併合も一切認めておらず、またパレスチナの世論調査でも圧倒的多数がそれに同意している。

 

そうした中、イスラエルのテレビ取材に応じた西岸地区在住のパレスチナ人らは、パレスチナ当局や世論とは真っ向から異なる意見を述べた。番組でのインタビューは隠しカメラで撮影され、個人の顔や音声は身元が分からないよう加工して放映された。

 

1人目は「イスラエルの身分証が欲しい」と述べ、2人目は「イスラエルが敵なんじゃない。イスラエル政府が敵なのだ」と答えた。3人目は、自分は「イスラエルを選んだ」のであって、公の場でそれを口にすることも怖くないと述べた。

 

この報道番組を制作したイスラエルの著名なジャーナリスト、ツビ・イェヘズケリ氏によると、インタビューの中でイスラエルへの併合を支持すると語った少なくとも6人が、後にパレスチナ当局に逮捕されたという。

 

イェヘズケリ氏はAFPに対し、「撮影した全員の顔をぼかし、声を変えたにもかかわらず、(パレスチナ)当局が身元を割り出し、(数人を)拘束したことに非常に驚いている」と語った。

 

だが、AFPの取材に応じたパレスチナ自治政府内務省報道官のガーサン・ニムル氏は「われわれはこの件に関して誰も逮捕していない」と答え、パレスチナ警察報道官も同じく否定した。

 

パレスチナの指導者らは、イスラエルへの併合は永続的な和平と2国家共存という解決策へ向けた希望を打ち砕き、新たな蜂起に火をつける危険性があると警告している。

 

パレスチナ人を対象に先月行われた世論調査では、回答者の88%が「トランプ案」に反対し、52%が武装闘争の復活を支持すると答えた。ここ数週間では、ヨルダン川西岸の併合やトランプ案に対する抗議デモも広がっている。

 

それにもかかわらず、パレスチナ自治区で約4半世紀にわたって特派員を務めるイェヘズケリ氏はAFPに対し、パレスチナ指導部の徹底的な対立姿勢を共有していないパレスチナ人も多くいることに気付いたと指摘。

 

インタビューでは「われわれは併合など気にしていない」「パレスチナ自治政府は失敗した」「腐敗している」などと述べる人もいたという。

 

AFPが接触したあるパレスチナ人は、イェヘズケリ氏のインタビューに答えた親戚の一人が数週間、パレスチナ警察に拘束されていたと述べた。間もなく裁判が始まるという。

 

だが、逮捕される「恐怖」はあるが、自分も同じくイスラエルへの併合を支持しており、「イスラエルがわれわれに市民権を与えてくれる」ことを期待していると語った。

 

パレスチナの一部の識者は、こうした発言は占領下で数十年を過ごし、長い間望んでいた平和と繁栄を否定された人々の深い落胆を反映しているという。

 

だが、イスラエルが平等な市民権をパレスチナ人に認めて受けいれる用意があるかといえば、答えはおそらくノーだ。

 

イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ首相は5月下旬、併合される地域に暮らすパレスチナ人がイスラエルの市民権を持つことはないだろうと述べた。

 

パレスチナ当局も併合された場合についてはもはや責任を負えず、併合地域のパレスチナ住民の法的地位がどうなるかは不透明なままだ。 【7月19日 AFP】

*******************

 

パレスチナ国家樹立への道筋が見えないなかで、このままよりはイスラエル国民として経済的に今よりましな環境を得たい・・・との現実論でしょう。

 

ただ、冒頭でも触れたように、併合した地域のパレスチナ人の扱いはイスラエルにとって厄介な問題にもなります。

 

市民権を付与すればユダヤ人の優越的地位を将来的に危うくする要因ともなりますが、与えなければ“民主主義国イスラエル”を否定することにもなります。

 

イスラエル・アメリカは賛成、パレスチナ人は反対といったそう簡単な図式ではないようです。

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国際社会と衝突する中国 国際秩序重視の欧米側の批判 力をつけた中国の立場

2020-07-18 22:54:23 | 中国

(【ウィキペディア】 交易を求めてやってきた英国の使者マッカートニーに対して、「中国は地大物博(土地が広く物資が豊か)だから、他国と交易する必要はない」と言い切った清の乾隆帝)

 

【再選戦略絡みのトランプ政権の中国への対抗姿勢】

アメリカ・トランプ政権が再選戦略もあって香港やウイグル族、南シナ海、新型コロナ対応、あるいは5Gなどで中国への強硬な姿勢を強めているのは報道のとおり。

 

****トランプ政権、「対中強硬」続々演出 「脅威」強調、大統領選見据え?****

米トランプ政権が、中国への強硬姿勢を強めている。トランプ大統領をはじめ、閣僚が相次いで「中国の脅威」を強調し、中国高官への制裁も行った。11月の大統領選挙を見据えて、アピールする狙いがありそうだ。

 

ポンペオ国務長官は13日、南シナ海のほぼ全域に自国の権益が及ぶという中国の主張について「完全に不法」とする声明を発表した。トランプ政権はこれまでも南シナ海における中国の行動について「不法」と表現してきたが、国務長官の声明という形で中国の主張全体を「完全に不法」と断定し、反対姿勢をより明確にした。南シナ海では米海軍が4日、空母2隻を派遣して軍事演習を実施していた。

 

トランプ政権はここに来て連日、幅広い分野で中国への厳しい姿勢を打ち出している。オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)は6月24日に「トランプ大統領の下で、アメリカは中国の脅威に目を覚ました」と演説し、政権が対抗措置を取っていくと明らかにしていた。

 

7月に入ると、政権が「中国寄り」と批判してきた世界保健機関(WHO)からの脱退を正式に通知。9日には、新疆ウイグル自治区で少数民族の人権侵害に関与したとして、陳全国・共産党委書記らに対する資産凍結などの制裁を発表した。

 

一連の動きについては、トランプ政権が新型コロナウイルスへの対応で批判を受けるなど、国内事情が影響しているとみられる。

 

AP通信は南シナ海に関するポンペオ氏の声明について「批判が高まり、大統領選挙を控えたトランプ大統領が対中批判を強める中で発表された」と報道。

 

トランプ氏は13日にも、「中国が世界にしたことを忘れるべきではない」として、感染拡大は中国に責任があるという持論を繰り返した。一時は控えていた「チャイナウイルス」という表現も、再び使うようになっている。

 

ただ、トランプ氏は13日、米中通商協議の「第1段階の合意」については「無傷だ。彼らは(米国産品を)購入する」と改めて成果として強調。大統領選でのアピール材料になる中国との貿易合意は守る姿勢を保っている。【7月15日 朝日】

*******************

 

【「中国が米国と良い関係を持ちたいのなら、中国はもっと良い行動をしなければならない」】

トランプ大統領の再選戦略は別にしても、近年の中国の行動については、欧米からは「国際法秩序を無視したもの」との批判があるのも事実です。

 

****国際法秩序を無視した中国外交に歯止めを****

6月19日付のワシントン・ポスト紙で、同紙コラムニストのジョシュ・ロウギンが、「もし中国が米国と良い関係を持ちたいのなら、中国はもっと良い行動をしなければならない」と題する論説を寄せ、6月17日のハワイでのポンペオ国務長官と楊潔篪共産党政治局委員(外交統括)との会談の内容を紹介しつつ、それが実質的には物別れであったと論じている。一部その要旨を紹介する。

 

ポンペオ国務長官は、楊潔篪と6月17日ハワイで会談と晩餐のため数時間会った。最近の米中関係で顕著となっている相互非難を抑制する方法を探すため、中国側から今回の会談を要請してきたと言われる。

 

それまでは、習近平がトランプに電話をすれば良かったが、トランプは3月27日の電話会談後、習近平と話すことに興味はないと言っていた。

 

国務省の声明は、「2人の指導者は意見交換をし、ポンペオは商業、安保、外交の分野で中国が不公正な慣行をやめる必要があると強調した。

 

また、進行中のCOVID-19パンデミックと戦い、将来の大発生の防止のためには完全な透明性と情報共有の必要性があると強調した」と述べている。

 

一方、中国の外務省によると、楊はより良い関係を望んでいるとポンペオに言ったが、香港への国家安全法、台湾への威嚇、新疆でのウイグル人の強制収容などあらゆる争点について、中国の立場を擁護した。

 

北京のやり方のパターンはよく知られている。北京の悪い行為を批判する人を侮辱または攻撃する。その後、緊張の高い状態を非難し、通常の関係に戻ることを、行動を何一つ変えずに提案する。しかし、今回は通常の関係に戻ることはない。

 

ロウギンの論説は、6月17日のハワイでのポンペオ国務長官と楊潔篪政治局委員との会談がうまくいかなかったこと、現在の米中関係悪化の傾向に歯止めがかからなかったことを指摘している。

 

米中外相会談の成果は、今後も話し合おうという合意だけである。中国側はこれまでの行動を擁護し、行動を変えることを拒否したが、そういうことでは再度話し合っても何も出てこないことになろう。

 

香港への国家安全法制の押し付け、新疆でのウイグル弾圧、台湾への恫喝は内政問題ではない。

 

香港については、1984年の英中共同声明と言う条約に違反している問題であって、条約を守るかどうかの国際的な問題である。

 

ウイグル問題については、国連憲章下で南アのアパルトヘイトなどに関連して積みあがってきた慣行は、人権のひどい侵害は国際的関心事項であるということである。台湾が中国とは異なるエンティティとして存在しているのは、事実である。

 

中国が台湾は中国の一部と主張していることを理解し、尊重するということは、中国が台湾に武力行使をしていいことを意味しない。

 

そのほか、インドとの国境紛争、豪州に対する経済制裁、ファーウェイ副社長のカナダでの拘束に絡んでの中国でのカナダ人拘束など、中国の最近のやり方には、国際法秩序を無視した遺憾なものが多い。

 

中国が大きな国際的な反発の対象になり、そのイメージが特に先進国で悪化してきていることは否めない。

 

中国の緊張を高め、その緩和を申し出、その緩和の代償として相手側に何らかのことを譲らせるやり方は、ソ連、北朝鮮、中国などの共産国が多く使用してきた外交戦術であるが、すでに使われすぎて、相手側に見透かされるものになって来ている。

 

中国が行動を変えるべきであるとのロウギンの論説は、そういう状況の中で適切な論であると言える。【7月8日 WEDGE】

***********************

 

【中国が国際社会と対立し始めた真の原因は、豊かになったことにある】

上記は欧米・日本の側からの見方になりますが、一連の中国の強硬姿勢には中国としての考え方もあると思われます。

 

よく言われるのは、習近平政権の1強体制や国内政治とのからみなどですが、そうした話以前に、より基本的なところで、現在の国際秩序や欧米的価値観の押し付けへの豊かになった中国の不満・自己主張もあるように思われます。

 

****なぜ中国は国際社会と激しく衝突し始めたのか*****

新型コロナウイルスに対する初期の対応を巡って、中国は米国を中心とした国際社会と対立を深めている。さらに香港の統制を強化する「香港国家安全維持法」を成立させたことによって、米国だけでなく旧宗主国の英国とも対立することになった。

 

インドとは国境を巡って死者を出すまでの事態を引き起こしている。それによって、それまでもよくなかった両国の関係は一層悪化してしまった。南シナ海では空母を含む艦隊に演習を行わせて、ベトナムなど周辺諸国の神経を逆撫でしている。

 

米国と日本を同時に敵にしたくないとの戦略的思惑から、日本に対しては見え透いた融和的なアプローチを行っているが、その一方で尖閣諸島周辺に頻繁に公船を送り込んでいる。仲良くしたいのか喧嘩したいのかよく分からない。

 

中国は少し前まで一帯一路構想やAIIBなどといった経済的な手法によって国際社会への影響力を強めようとしていた。しかし、ここに来てそのような動きはほとんど見られなくなってしまった。

 

今は、より直接的な手法で自国の意思を国際社会に押し付けようとしている。まるで世界を敵に回してもよいと思っているようだ。

 

なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。ここでは現代中国を流れる大きな流れについて考えてみたい。

 

豊かになって芽生えた素朴な感情

中国が国際社会と対立し始めた真の原因は、豊かになったことにある。

 

香港が中国に返還された1997年の時点において中国のGDPは米国の11%、英国の62%に過ぎなかった。それが2019年には米国の67%、英国に対してはそのGDPの5倍にもなった。

 

ちなみに日本の2.8倍である。中国人は自信を深めた。そんな中国では、現在、多くの人が国際社会のルールに違和感を抱いている。

 

香港の問題を考えてみよう。そもそも香港はアヘン戦争、アロー戦争の結果、無理やりに割譲させられたものである。1949年に新生中国ができた際に武力で解放してもよかったのだ。しかし、当時の中国の国力では実行できなかった。

 

その後、香港が西側との窓口として便利であることが分かったために利用してきたが、深センのGDPが香港を上回るようになると、香港は重要な地域ではなくなった。香港が西側との窓口ではなくなっても、それほどの実害を被ることはない。

 

一国二制度を採用したのは、英国と交渉していた1990年代に中国が英国より弱かったからだ。弱者が強者から領土を返還してもらうためには譲歩が必要だった。だが、もし今交渉するなら文句なく全面返還してもらうことになるだろう。

 

このような感情は習近平や共産党幹部だけが持つものではない。一般民衆もアヘン戦争以来の欧米の侵略に怒りの感情を有している。

 

江沢民政権が行った反日教育の結果として日本の侵略ばかりが取り上げられているが、中国人は心の底で西欧を恨んでいる。

 

中国には西欧に勝るとも劣らない歴史と文化がある。その結果、経済的に成功した現在、なにも米国を中心とした国際社会のルールに従う必要はないと思い始めた。

 

中国には中国のルールがある。中国は長い間、皇帝と科挙によって選ばれた優秀な官僚が国を統治してきた。民主主義は英国を中心とした西欧が考え出したものであり、杓子定規に香港にそれを適応すべきではない。

 

また、「由(よ)らしむべし知らしむべからず」(為政者は定めた方針によって人民を従わせることはできるが、その道理を理解させるのは難しい)は中国政治の伝統である。コロナ騒動に対する中国政府の対応も、この原理から考えれば、決しておかしなものではなかった。

 

香港やコロナ騒動を巡って中国が強硬な手段に出る背景には、政府だけではなく多くの中国人が、このように思っていることがある。

 

昨今の中国と国際社会との軋轢は習近平の個性が生み出したものではない。それは、中国の一般民衆の素朴な感情の延長上にある。

 

孤立をいとわない道を選び始めた中国

このように考えると中国のこれからが見えてくる。今後、中国はますます国際社会と衝突する。それが熱い戦争に発展するとは思わないが、貿易戦争のような形で、多くの国と争うことになろう。現にオーストラリアとも貿易戦争を開始した。

 

中国は人口が多いために、ある程度発展すれば自国の市場だけで経済を回して行くことができる。中国にだけに通用するアプリを作っても採算に合う。グーグルを使わなくともよい。

 

18世紀後半に中国との交易を求めてやってきた英国の使者マッカートニーに対して、清の乾隆帝は「中国は地大物博(土地が広く物資が豊か)だから、他国と交易する必要はない」と言い切った。これが中国人の基本的な考え方である。

 

改革開放路線に転じた1978年以降、中国は安い労働力を使って工業製品をつくり、それを輸出することによって富を蓄積した。その結果、豊かになったので、乾隆帝の時代に戻ることが可能になった。戻れるなら戻りたい。多くの人がそう考えていることが、今の中国の行動の背景にある。

 

中国は孤立をいとわない道を選び始めた。その方針は今後も変わることはない。中国が再び国際社会とうまくやっていきたいと思うようになるのは、孤立によって経済や科学技術の面で大きく遅れてしまったと感じる時である。その時には中国国内で大きな混乱が起こることになるが、それはまだだいぶ先の話になろう。

 

過去30年ほど急成長していたために、中国を魅力ある市場とみる日本企業は多い。しかし、それは過去のことになった。これから中国は自国のルールに従わない国や企業とは取引しないと言い出すはずだ。面倒くさい市場に変わった。

 

中国は豊かになる方便として「政経分離」を言っていたのだが、豊かになった中国はプライドが高いために、他国に「政経一体」を求めてくる。中国と取引したい企業は、その辺りのことについて覚悟しておく必要があろう。【7月18日 川島 博之氏 JBpress】

*********************

 

中国が自国の市場だけで経済を回して行けるかどうかは疑問もありますが、欧米企業が巨大な中国市場を無視できない、人権とか民主主義とか言っても、結局は中国市場にアクセスするために屈服するだろうとの自信はあるでしょう。

 

1990年代、鄧小平の時代はまだ国力も十分ではなく、天安門事件で国際的にも孤立し、「才能を隠して、内に力を蓄える」韜光養晦(とうこうようかい)の方針で臨んでいましたが(ある意味、時間稼ぎ)、いまやその必要はなくなったとの自信が中国指導部・一般民衆にあっての強硬な姿勢、習近平政権が掲げる「中国の夢」でしょう。

 

ただ、あまりに国際的軋轢が大きくなってその影響が国内に及べば、国内不満の高まり、権力闘争の激化を招く危険もあります。

 

中国が今後さらに国際社会で重きをなすのであれば、その国が乾隆帝的な発想であるのは、世界としては困ったことでもあります。

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フィリピン メディア営業停止や反テロ法など強権政治を進めるドゥテルテ政権

2020-07-17 22:08:03 | 東南アジア

(フィリピン・マニラの大学で、「反テロ法」に抗議する人々(2020年6月4日撮影)【7月4日 AFP】

ただ、多くの国民は、反テロ法やメディアの問題は自分とは関係ないと感じているというのが実情のようです)

 

【高い国民支持(あるいは無関心)背景に強権政治を進めるドゥテルテ政権】

フィリピン・ドゥテルテ大統領の国民的人気は相変わらずのようですが、麻薬犯罪関係者の組織的・超法規的大量殺人に代表される強権支配ぶりも相変わらずと言うか、その度合いを強めています。

 

****ドゥテルテ大統領、続く強権 「反テロ法」制定推進/批判的メディアに圧力 比、高い支持背景に5年目へ****

フィリピンドゥテルテ大統領が(6月)30日、就任から5年目に入る。

 

強権的な姿勢は変わらず、最近では治安当局の権限を拡大する「反テロ法」の制定を推進し、人権団体などから改めて批判を浴びた。それでもなお高い支持率を誇るが、感染拡大がやまない新型コロナウイルスの状況が、今後の政権運営に影響を及ぼす可能性もある。

 

26日朝、反テロ法の制定反対を掲げてマニラでデモをしていた約20人が逮捕された。反テロ法は2007年に制定された「安全保障法」に代わるもので、摘発の対象を大幅に拡大。令状なしに容疑者を逮捕、拘束できる期間を従来の最長3日から最長24日にするなど、治安機関の権限を強化する内容になっている。

 

ドゥテルテ氏は1日に下院議長あてに書簡を送り、「テロ行為を十分かつ効果的に抑え込むため」として、早期制定の必要性を強調。下院はその2日後に法案を承認した。近く発効する見通しだ。

 

政権側は、南部ミンダナオ島で17年に起きたイスラム武装勢力との大規模な戦闘や、今も続く共産党系の武装組織の活動などを挙げて法案の必要性を訴えてきた。だが、人権団体などは「テロの定義が広すぎる」とし、政権に批判的な勢力に対して恣意(しい)的に使われる恐れがあると指摘する。

 

懸念の背景には、ドゥテルテ氏の一貫した強権ぶりがある。強硬な麻薬犯罪の取り締まりで多数の死者が出ていることに批判が集まり、国際刑事裁判所が予備調査を始めると、反発して同裁判所から脱退。国連人権高等弁務官事務所は今月4日、「超法規的殺人」が組織的に行われているとして是正を勧告した。

 

メディアへの圧力も続いている。フィリピンの国家通信委員会は先月、民放最大手のABS―CBNに対し、免許の期限切れを理由に放送停止を命令。今月15日にはマニラの裁判所が、ネットメディア「ラップラー」の最高経営責任者マリア・レッサ氏らに対し、掲載記事で男性実業家の名誉を毀損(きそん)したとして有罪判決を言い渡した。

 

いずれも、政権に批判的な報道で知られており、人権団体などからは「政治的な動機に基づくもの」「報道の自由への攻撃」といった批判が出ている。

 

それでも、政権側は強気だ。背景には高い支持率があり、昨年12月の調査では約8割に上った。人権NGOのメンバーは「ドゥテルテ氏は庶民的な語り口と本音で人気を得てきた。多くの国民は、反テロ法やメディアの問題は自分とは関係ないと感じている。残念ながら支持率には大きく影響しないだろう」と語る。

 

ただ、新型コロナの感染拡大が続き、経済は大きな打撃を受けている。任期6年の大統領は再選が禁止されており、政権の残りは2年。現地のジャーナリストは「コロナの状況は今後の変数になりうる。経済の悪化が続けば、人気に陰りが出ることもあるだろう」とみる。【6月29日 朝日】

********************

 

総括的には上記のような話になりますが、もう少し詳しく見ると、政権に批判的なメディアに対する放送停止命令はその後も続いています。

 

****政権に批判的な民放最大手、フィリピンで放送停止命令****

フィリピンの国家通信委員会が、民放最大手ABS―CBN系列のケーブルテレビ「スカイ」などに対し、放送の停止を6月30日に命じた。

 

ABS―CBNのテレビ、ラジオも5月に放送停止を命じられている。いずれも免許の期限切れを理由としているが、ABS―CBNはドゥテルテ政権への批判的な報道で知られており、「政治的な報復」との指摘が出ている。

 

停止を命じられたのはスカイの全国での放送と、ABS―CBNの地上波デジタル放送サービス「TVプラス」のマニラ首都圏での放送。スカイは声明で「150万人の視聴者が、ニュースやエンターテインメントなどへのアクセスを奪われることになる」とした。

 

ABS―CBNはアキノ前大統領に近いロペス家が経営。ドゥテルテ氏は自身が勝った2016年の大統領選に際しての同局の対応や、強硬な麻薬犯罪取り締まりへの批判的な報道に不満を抱いてきたとされる。

 

同局の免許更新は国会での審議が遅れ、5月4日に期限切れを迎えたが、暫定的な免許を交付する方向で話が進んでいた。これに対し、ドゥテルテ氏の側近らが強く異議を唱えた。

 

国家通信委員会は5月5日に無料のテレビ、ラジオの放送停止を命令。今回の停止命令も免許の期限切れに伴う措置としている。ABS―CBN側は免許の更新を求めており、国会で審議が続いている。【7月2日 朝日】

**********************

 

【恣意的運用が懸念される「反テロ法」】

政権批判を力で封じ込めようとする政権の体質をよく反映しているのが6月3日に成立した「反テロ法」です。

 

****比、反テロ法で暗黒時代に回帰****

フィリピンのドゥテルテ大統領は6月3日、「反テロ法」に署名した。同法はすでに上院、下院議会をそれぞれ通過していたため、大統領のこの日の署名をもって成立となった。

 

テロとの戦いをより積極的に進め、国民をテロの脅威から守ることを目的とする「反テロ法」と政府側は説明するが、治安当局などに大幅な権限拡大を与えるその内容から、恣意的運用でテロ組織やテロリストだけでなく反政府運動や人権活動の団体や個人にも厳しく臨む道を開き、ひいてはドゥテルテ政権の“独裁的強権政治”につながりかねないとの批判が渦巻いている。

 

「反テロ法」は5月以降、下院、上院で賛成多数で可決し、あとは大統領の署名を待つだけの状態だった。この間、マニラ市内では人権団体や学生組織などによる「反テロ法反対」のデモや集会が続き、国連人権高等弁務官など国際社会からもドゥテルテ大統領に同法案への署名を思いとどまるよう求める声が高まっていた。

 

大統領府のハリー・ロケ報道官はこうした反対の声に配慮、地元紙に対して「ドゥテルテ大統領は時間をかけてこの法案をあらゆる角度から検討した上で署名した。この法案は長年フィリピン国民を苦しめ、悲しみと恐怖を与えているテロへの政府の強い意志の表れである」と述べ、改めて国民各層に対して新法への支持と理解を求めた。

 

■ 令状なしの拘束、監視、盗聴が可能に

3日に成立した「反テロ法」は、大統領が任命した閣僚などで構成される反テロ組織がテロリスト、テロ組織と認定した団体や個人を「令状なしで最長24日間拘束することができるほか、90日間監視、盗聴が可能」になる。

 

これはフィリピン憲法の「令状なしの拘束は最大3日まで」というこれまでの規定を大幅に延長したものであるとともに「憲法の規定との整合性」も問題となる可能性がある。

 

さらに同法では「スピーチ、文章表現、シンボル、看板や垂れ幕などでテロを主張、支持、擁護、扇動した場合も反テロ法違反容疑に問われる可能性」があることから、表現の自由や報道の自由が侵害される危険性が潜んでいると反対派は主張している。

 

同法違反で逮捕、起訴そして有罪が確定すれば最高で仮釈放なしの終身刑が科される可能性があるという。

 

■ 恣意的運用の懸念で暗黒時代へ回帰

ドゥテルテ大統領の同法への署名、成立を受けてフィリピンの主要マスコミは連日政府側の思惑と反対勢力の主張を大きく取り上げて報じている。

 

報道では政府側が「反テロ法は反政府勢力であるテロ活動を取り締まるための法であり、テロの脅威を封じ込めるための包括的手段」という主張を繰り返しているのに対して、国際的人権組織「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は「政治的な反対勢力の制度的取り締まりに悪用されかねない」と反対を表明。

 

さらにフィリピンの人権団体「カラパタン」も「ドゥテルテ大統領が目指すのはマルコス独裁政治である」としたうえで「忌まわしい法の成立でマルコスの妄想を描いたパズルの最後の1ピースが埋まった」との比喩でドゥテルテ大統領がマルコス独裁政治の暗黒時代を再び招来しようとしていると手厳しく非難している。

 

■ あいまいな「テロ」の定義

「反テロ法」に反対する組織や団体は「テロの定義があいまいなことが法の恣意的運用を招く」と指摘している。これに対し政府側は「死傷者を伴う国有・私有財産の破損、恐怖のメッセージの拡散、政府に対する威嚇を目的とする大量破壊兵器の使用を意図すること」などと「テロ」を定義している。

 

しかし反対派などはたとえば「恐怖のメッセージ」とある政府の「テロ定義」について「恐怖とは誰が恐怖と感じることでどういう内容なのか」と具体性の欠如が「幅広い解釈を可能にして恣意的に運用される危険性につながる」などとしているのだ。

 

同様に「大量破壊兵器」が具体的にどのような兵器を想定しているのかも「不明であり、どうとでも解釈できる余地が残されている」と指摘する。

 

■ 国会でも渦巻く賛否両論

主要紙「インクワイアラー」は7月4日、「強い反対を押し切って大統領が署名」との見出しで「反テロ法はフィリピン憲法が保障する国民の基本的人権や政治的権利を侵害する恐れがある」との人権活動家の声を伝えた。

 

また上院では反テロ法に反対票を投じたフランシス・パンギリナン議員は「ドゥテルテ政権は発足のその日から過酷で権威主義的な指導力を発揮している。超法規的殺人を含めた麻薬対策、ミンダナオ島での長期の戒厳令、そして今回は反テロ法だ」とドゥテルテ大統領を批判する声明を発表した。

 

これに対し「反テロ法」の提案者の一人でもあるビンセンテ・ソトⅢ上院議員は「ドゥテルテ大統領が法の重要性を理解してくれたことを歓迎する」と述べ、元国家警察長官のパンフィロ・ラクソン上院議員も「他の政権では成立しなかった法案だろう。今後法の執行には細心の注意と努力が求められる」として大統領の署名を歓迎している。

 

このようにフィリピン社会だけでなく議会の中にも賛否がある「反テロ法」だけに、今回の大統領による署名で最終的に成立したこと受けて、法執行機関や警察・軍といった治安当局が今後テロ対策でどこまで国民や議員の間に残る不安や反対を解消、説得することができるかが問われることになる。【7月5日 大塚智彦氏 Japan In-depth】

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こうしたドゥテルテ政権の動きを可能にしているのが“多くの国民は、反テロ法やメディアの問題は自分とは関係ないと感じている。”という国民の無関心です。

 

ただ、自分の身に及んだときはすでに手遅れになっているというのが強権支配政治の怖さだと思うのですが・・・。

 

【東南アジア最悪の新型コロナ 当局と警察が全戸訪問も】

新型コロナの方は、東南アジア諸国の中でも過去最多の死者数を記録するという芳しくない状況です。

 

****フィリピン、新型コロナの新規の死者が過去最多に****

フィリピン保健省は13日、新型コロナウイルス感染症による1日当たりの死者数が162人と、過去最多を記録したことを明らかにした。1日当たりの死者数としては、東南アジア諸国の中でも過去最多となった。

新規の感染者は2124人。政府が厳格なロックダウン(都市封鎖)の緩和を開始した6月1日以降、感染者は3倍以上に増えており、累計5万6259人となっている。

同国では経済活動を再開するため、公共交通機関、レストラン、ショッピングモールの営業が制限付きで認められている。

保健省によると、累計の死者数は1534人。感染疑い例が1万2000人近く報告されており、死者は今後さらに増える見通し。

大統領府の報道官は定例会見で「状況が厳しさを増している」と指摘。マニラの病院の稼働率が11日時点で70%と、5日前の48%から上昇していることを明らかにした。【7月13日 ロイター】

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マニラ首都圏は6月1日にそれまでの規制が一部緩和され、7月からはさらに緩和を進める計画でしたが、感染状況悪化のため、そのまま据え置かれています。

 

こうした厳しい状況を受けて、当局と警察が各戸を訪問して感染者を探すという対応も発表されています。

 

****フィリピン、新型コロナ感染者発見へ警察が全戸訪問****

フィリピンのアニョ内務・自治相は14日、新型コロナウイルス感染拡大抑制のため、当局と警察が各戸を訪問して感染者を探すと発表した。同国では感染者と死者数が増加しており、一部地域はより厳しいロックダウン(都市封鎖)を再開している。

アニョ内務・自治相は、国民に近所の感染者を報告するよう求めるとともに、当局への協力を拒否した感染者は禁固刑を受ける可能性があると警告した。

フィリピンでは今週、1日の死者数が東南アジア最大を記録、病床使用率が大幅に上昇している。6月1日に厳格な封鎖が緩和され、より多くの移動や商業活動が可能となって以降、感染者は3倍に増加していた。

同相は記者会見で、「特に自宅に十分な広さがない場合、われわれは感染者による自宅での自主隔離を望まない。そこで、各戸を訪問して陽性患者を隔離施設に収容することにした」と語った。

これまでは軽症の陽性患者に自主隔離を求める政策を取っており、今回の措置は方針転換となる。【7月15日 ロイター】

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警察が同行するというのは、治安のよくないフィリピンの状況や住民側の反発・抵抗を考慮したものでしょうが、いかにもドゥテルテ政権らしい対応というようにも思えます。

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バングラデシュ  国土の3分の1が浸水、ロヒンギャ難民キャンプでコロナ封じ込め成功って本当かな?

2020-07-16 23:10:38 | 南アジア(インド)

(バングラデシュで発生した洪水により浸水した地域の航空写真(2020年7月14日撮影)【7月15日 AFP】)

 

【国土の3分の1が浸水?】

日本でも、7月9日ブログ“中国・長江流域 日本同様の大雨水害で注目される「三峡ダムは大丈夫なのか?」”で取り上げたように中国でも、長雨の被害が出ていますが、雨期の南アジア・バングラデシュも同様のようです。

 

もともとバングラデシュはデルタ地帯で低地のため、頻繁に大規模洪水が起きる国で、海面上昇では水没も危惧されている国ではありますが、「国土の3分の1が浸水」とも報じられています。

 

****バングラデシュで雨期の洪水、国土の3分の1が浸水****

南アジアの雨期の洪水によりほぼ400万人が打撃を受け、バングラデシュではこの10年で最大級の激しい雨により、これまでに国土の3分の1が浸水している。同国の当局者が14日、明らかにした。

 

通常6月から9月にかけて到来する雨期はインド亜大陸の経済にとって重要だが、毎年、地域全体で多くの死者と損壊をもたらす。

 

バングラデシュ洪水予警報センターのアリフザマン・ブーヤン氏はAFPに対し「これは10年で最悪の洪水になるだろう」と述べた。大雨によりインドとバングラデシュを流れるヒマラヤ水系の主要河川の二つ、ブラフマプトラ川とガンジス川が増水した。

 

ブーヤン氏は、数百の川が交差するデルタ国家である同国で国土の約3分の1が水没し少なくとも150万人の人々が影響を受け、村落の家や道路が水に漬かっていると指摘。

 

今後10日の予報で増水が見込まれているとして、より多くの川で堤防が決壊すれば、「最悪のシナリオで」国土の40%が浸水するかもしれないと述べている。 【7月15日 AFP】

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「国土の3分の1が浸水」って凄すぎます。日本なら“日本沈没”状態の大パニックです。

 

でも、本当かな・・・。

「国土の3分の1が浸水」にしては「少なくとも150万人の人々が影響を受け」というのは、人口1億6千万人のバングラデシュにしては逆に少なすぎます。

 

まあ、人が住んでいないデルタ地帯が水没している・・・ということがあるのかもしれませんが。

 

下記の記事も、「国土の3分の1が浸水」状態なら、ウミガメどころじゃないだろ!とツッコミたくもなります。

 

****ヒメウミガメ、プラごみで負傷=漂着の160頭を救助―バングラデシュ****

バングラデシュ南東部のコックスバザールの地元当局者らは15日、先週末から砂浜に打ち上げられているオリーブヒメウミガメ約160頭を救助したと明らかにした。多数のカメが海洋プラスチックごみで負傷し、ひれを欠いているケースもあったという。

 

コックスバザールの砂浜は世界最長級の120キロに及び、カメは大量のプラスチックボトルや漁網、ブイなどとともに漂着。既に死んでいた約30頭は埋められた。地元の環境保護当局者は、「これほど多くのカメが死に、打ち上げられたのは初めてだ」と語った。【7月16日 時事】

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もちろん、インドやバングラデシュのプラごみ汚染は大問題です。

この地域を旅行するとわかりますが、空き地や道路脇は散乱したプラごみでおおわれています。

 

洪水との関連で言えば、そうしたあたりに一面に散乱したプラごみが洪水で最終的には海に流れ出し、海洋汚染を引き起こすことにもなるのでしょう。

 

その点では「国土の3分の1が浸水」ニュースとウミガメニュースはつながってもいます。

 

いずれにしても、「国土の3分の1が浸水」がどうかはともかく、深刻な洪水の危機に直面しているのは事実でしょう。

 

【ロヒンギャ難民キャンプ、コロナ封じ込め成功?】

本当かな・・・という点では、下記のロヒンギャ難民キャンプの新型コロナに関するニュースも・・・

 

****ロヒンギャ難民キャンプ、コロナ封じ込め成功 バングラ****

バングラデシュ当局はこのほど、ロヒンギャ難民の間で発生した新型コロナウイルス流行の封じ込めに成功したと発表した。過密状態にある難民キャンプでは、急速なまん延が懸念されていた。

 

同国南東部にある複数のキャンプには、ミャンマー軍による2017年の弾圧から逃れてきたイスラム系少数民族ロヒンギャら100万人近くが滞在している。

 

当局によると、5月に最初の感染者が確認されて以降、同国内のキャンプでは724人が検査を受け、54人の陽性が確認された。

 

同国政府の難民担当官であるマハブブ・アラム氏はAFPの取材に対し「われわれは流行の封じ込めに成功した」と述べ、現時点で新型ウイルスにより死亡したロヒンギャ人は5人にとどまると付け加えた。

 

アラム氏によるとこれとは対照的に、人口240万人を抱え、難民キャンプがあるコックスバザール市とその周辺エリアでは2776人超の感染が確認され、60人が死亡しているという。

 

難民から最初の感染が確認された後、難民キャンプ30か所超は封鎖措置が敷かれ、難民はキャンプ外に出ることを禁じられた。【7月7日 AFP】AFPBB News

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こちらの「本当かな・・・」には根拠があります。

 

****ロヒンギャ難民のコロナ感染者が隔離逃れ 島への移送恐れて バングラ****

バングラデシュで暮らすイスラム系少数民族ロヒンギャの難民のうち、新型コロナウイルスに感染した人々が、ベンガル湾に浮かぶ島へ移送されることを恐れ、隔離から逃れていることが分かった。ロヒンギャの指導者たちが4日、明らかにした。

 

この指導者たちによると、ロヒンギャ難民から初めて新型コロナウイルス感染症の死者が報告された2日以降、新型ウイルスに感染した難民少なくとも2人が検査で陽性反応を示した後に行方不明になっているという。

 

バングラデシュの国境地帯にある複数キャンプで暮らすロヒンギャ難民約100万人は、そのほとんどが2017年のミャンマー軍による弾圧から逃れてきた。そして新型コロナウイルスが、彼らに新たな窮状をもたらしている。

 

これまでに確認された感染者数はわずか29人だが、約1万6000人がキャンプ内の隔離エリアにいる。

 

キャンプ内の検査実施件数は現時点では不明だが、保健当局幹部によると、検査で陽性反応を示した2人が「隔離病棟から逃れた」という。

 

また、難民たちは感染者がベンガル湾に浮かぶブハシャンチャール島へ移送されると信じていることから、過去2日間でわずか20人しか検査を受けることに合意しなかったという。

 

これについて指導者のヌルル・イスラム氏はAFPに対し、「大規模なパニックを生み出している」と話した。

 

バングラデシュ当局はブハシャンチャール島に10万人を収容できるキャンプを設置することを長らく望んでおり、これまでにロヒンギャ難民306人を移送している。

 

匿名で取材に応じた保健当局者は、「ロヒンギャたちはすくんでいる」「われわれは彼らに対してどこにも移送されないと伝えている」と話した。

 

複数のロヒンギャ人指導者たちはまた、ブハシャンチャール島に難民306人が移送されたことが、感染者は誰でも合流させるために移送されるとのうわさを招いたと指摘。

 

指導者の一人であるアブ・ザマン氏は、ウイルス検査を受けることを人々は恐れていると語った。 【6月7日 AFP】

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ブハシャンチャール島への移送を恐れて誰も検査を受けないという状況で、「われわれは流行の封じ込めに成功した」というのは「本当かな・・・」と感じる次第です。

 

100万人が密集するキャンプで「724人が検査を受け」というのも少なすぎるようにも。

誰も検査を受けていないので感染者も出ていない(日本も海外からはそのように見られていますが)ということはないのでしょうか?

 

もっとも、感染拡大が水面下で拡大していれば死者がおおぜい出ているはず・・・と言われれば、そうかも。

実際に「封じ込めに成功した」ということであれば、感染爆発が心配されていただけに、喜ばしいことです。

 

気になることも2点。

 

「最初の感染が確認された後、難民キャンプ30か所超は封鎖措置が敷かれ、難民はキャンプ外に出ることを禁じられた。」とのことですが、難民キャンプの生活はキャンプ外での非合法の就労などでなりたっている面もあり、そうした難民の生活はどうなっているのか?

 

もうひとつはバングラデシュ政府が難民の移送先にする予定のブハシャンチャール島の状況。

この島は容易に水没する危険があると指摘されていた場所ですが、「国土の3分の1が浸水」という状況でどうなっているのか?すでに移送された人々の状況はどうなっているのか?

 

【未検査で数千人に「コロナ陰性証明書」】

「本当かな・・・」という点では、バングラデシュの新型コロナ陰性証明書もだいぶ怪しいようです。

 

****未検査で数千人に「コロナ陰性証明書」 病院経営者を逮捕 バングラデシュ****

バングラデシュの警察当局は15日、新型コロナウイルス検査で陰性だったと証明する偽の書類を6000人以上に発行した疑いで、指名手配していた病院経営者の男を隣国インドに逃亡する直前に逮捕したと発表した。

 

容疑者はイスラム教徒の女性が着用する「ブルカ」を着て、インドとの国境の川岸にいたところを拘束されたという。

 

モハマド・シャヘド容疑者は経営する2つの病院で、検査を行わずに陰性証明書を発行していたとされる。同容疑者は9日間にわたって逃走を続けていた。

 

新型コロナ陰性の偽装証明書をめぐっては、ここ数日でシャヘド容疑者の他に10人以上が逮捕されている。

 

警察によると、シャヘド容疑者の病院では1万500件の新型ウイルス検査が行われたとされているが、うち実際に検査したのは4200件で、残る6300件は未検査にもかかわらず検査結果証明書を渡していたという。

 

また、首都ダッカにある容疑者の病院は新型コロナウイルスについては無料診療を提供することで政府と合意していながら、検査結果証明書の発行手数料と治療費を請求していた疑いも掛けられている。

 

専門家らは、医療機関が発行する証明書の信頼性を損ない、国内の新型コロナ危機を悪化させる事件だと懸念を強めている。同国ではこれまでに約19万3000人が感染し、2457人が死亡した。

 

バングラデシュ経済は、海外で働く出稼ぎ労働者の外貨収入に大きく頼っている。だが、移民労働者の権利団体OKUPによると、ダッカからイタリアに渡航したバングラデシュ人労働者が現地での検査で陽性と診断される事例が相次ぎ、うち複数が「陰性証明書」を携行していたとされる。

 

OKUPは「海外の雇用市場のため、政府は国内各地の研究施設で行われる検査の品質を保証しなければならない」と主張している。 【7月16日 AFP】

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「ダッカからイタリアに渡航したバングラデシュ人労働者が現地での検査で陽性と診断される事例が相次ぎ」ということからすると、実際の感染状況は「約19万3000人が感染し、2457人が死亡」を大きく上回るものがあるのかも。

 

こうした「実際の感染状況は・・・・」云々は、ある意味では、検査しなければ感染しているかどうかわからないということで、新型コロナというものは(語弊を恐れず敢えて言えば)「その程度の病気」ということも。高齢者やハイリスクの者が重症化しやすいというのは、普通の風邪でも、なんの病気でも同じです。

 

無症状者割合は5割内外ともいわれていますが、ひょっとしたらもっと多いのかも。

 

もちろん、欧米や南米のように死者が続々という状況もありますが、一方で日本を含めたアジア方面ではあまり死者は増えていません。

このあたりが、この病気のよくわからないところです。

 

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リビアで中国とトルコのドローンが空中戦 変容する戦闘形態 リビア内戦への外国勢力介入

2020-07-15 23:03:02 | 軍事・兵器

(イラン製ドローン【2019年9月6日 NHK】 高価そうに見える写真のドローンと同種かどうかは知りませんが、民生の部品を使って作られた簡易な片道切符の自爆用ドローンなら200ドルでつくれるとか。)

 

【世界に拡散する「貧者の兵器」格安ドローン 日本は25年かけて巨額費用のF35戦闘機を購入】

今日目にした記事の中で一番印象的だったのが下記のドローンに関するもの。

 

****中国とトルコの無人機がリビアで対決、中国の「大勝」―仏メディア****

2020年7月13日、仏国際放送局RFIの中国語版サイトは、中国製の無人機がリビア上空でトルコ製の無人機との「対決」に勝利したと報じた。

 

記事は、海外の軍事サイトが先日報じた内容として、今年上半期に内戦中のリビアにおいてトルコ製の「Bayraktar TB2」無人機が少なくとも17機、中国製の「翼龍」(WL-2)無人機8機が撃墜されたと紹介。ネットユーザーからは「リビアにおける中国製無人機とトルコ製無人機の勝負で、中国が大勝した」との声が出ているとした。

 

その上で、リビアでは現在二つの政府が内戦を展開しており、国連から承認されている国民合意政府(GNA)がトルコの支援を、リビア国民軍(LNA)がアラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、ロシアの支援をそれぞれ得ているとし、中国製の無人機はUAEから提供されたものであると伝えた。

 

そして、これまでの両機の分析報告からは、「翼龍」が爆弾搭載量、衛星データ捕捉能力などの性能面で明らかにリードしていることがうかがえると紹介した。【7月15日 レコードチャイナ】

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この記事、二つの側面で注目されます。

ひとつは、ドローンの空中戦という戦闘形態が現実のものとなっているという点。その方面に詳しい人にとっては常識なのでしょうが、部外者からすると「そうなんだ・・・」という感じ。

 

もうひとつは、リビアを舞台にした外国勢力の介入という話。

 

前者の関連で言えば、日本はアメリカからのF35戦闘機購入で空軍力の強化を図っています。

ただ、これには莫大な費用がかかります。中国メディアも訝るほどの。

 

****F-35戦闘機を105機も!日本のどこにそんな金が?―中国メディア****

2020年7月14日、騰訊網は、「F-35戦闘機105機を購入する日本、いったいどこからそんな大金を出すのか」とする記事を掲載した。

記事は、米国が先日日本向けにF-35Aを63機、F-35Bを42機の計105機を売却することを認可したと紹介。総額は231億ドルに達するとし「日本は一体どこからそんな金を持ってくるのか」と疑問を呈した。

その上で、米メディアの報道としてF-35戦闘機の売却計画は「契約の署名から納品、技術支援・トレーニングなどに至るまで全部で25年の時間がかかる」と説明。「一括払いではなく25年間で231億ドルを分割払いすることになるとし、年間9億2400万ドルの支出は日本にとってもそこまで大きな負担にはならない」と解説した。

また、「日本は最終納品までの25年間に毎年4〜5機のF-35戦闘機を受け取ることになる」とし、「米国や中国、ロシアが次世代戦闘機の開発を鋭意進めている状況を考えれば、25年後にはF-35の脅威は大きく低下し、場合によっては『時代遅れ』になっている可能性もある」との見方を示している。

一方で、今回の購入分では空母に搭載可能なF-35Bが42機含まれていることに着目。護衛艦「いずも」の空母化について米国が黙認し、さらには支援を行う可能性さえある中、「F-35の納品ペースが予想よりも早くなることも考えられる」とし、そうなれば日本がアジア太平洋地域において「攻撃性の極めて高い軍事力を備えることになる」と伝えた。【7月15日 レコードチャイナ】

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もちろん、中国メディアが日本のF35購入に関心を示すのは、日本の納税者のためではなく、護衛艦「いずも」の空母化など、中国にとって脅威となりかねないという話があってのことですが。

 

それはともかく、上記のF35戦闘機などに比べれば、タイプによってはドローンはけた違いに安い「貧者の兵器」でもあります。

 

ドローンはこれまでもアフガニスタンや中東などで目指すターゲットをピンポイントで(もちろん誤爆もありますが)殺害・破壊するという高い有効性を示していましたが、改めてその攻撃能力が注目されたのは、昨年8月に起きた、(日本のミサイル防衛の要でもある)パトリオットなどの高価な対空防衛装備を誇るサウジアラビア石油施設への(アラブ最貧国の武装勢力にすぎない)イエメン・フーシ派によるドローン攻撃でした。

 

****拡散する“現代のカラシニコフ” 中東ドローン戦争****

シリアやイエメンの内戦、イスラエルによる周辺国への攻撃・・・日本では決して大きな注目を集めているとは言えないこうした出来事を追っていると、ここ数年で中東の紛争に大きな変化が起きていることがわかります。

 

軍事用ドローンが中心的な役割を担うようになっているのです。かつてアメリカやイスラエルなどが独占していた軍事用ドローンの技術は、敵対する国や勢力に急速に拡散し、紛争の潮流を変えつつあります。

 

1000キロ離れた標的を攻撃

8月17日、「サウジアラビアの油田が軍事用ドローン10機によって攻撃された」というニュースが駆け巡り、原油市場に衝撃が走りました。

 

被害を受けたサウジアラビア東部の「シェイバ油田」は、攻撃の起点となったとみられるイエメンの反政府勢力の拠点から1000キロ以上も離れています。距離を単純に比較すると、反政府勢力のドローンは羽田空港から鹿児島空港までの直線距離を飛行したことになります。

 

反政府勢力がこれまでに行ったドローン攻撃は、これまで半径150キロ範囲だったことを考えると、航行距離は飛躍的に伸びたことになります。

 

アッラーが遣わした鳥の部隊

攻撃に使われたドローンは、イランが開発した軍事用ドローン「アバビール」の改良型と見られています。

 

(中略)イランは今、「アバビール」の機体や設計技術を中東各地で支援する勢力に提供しています。隣国イラクのシーア派民兵組織、レバノンのシーア派組織ヒズボラ、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマス、そしてイエメンの反政府勢力フーシ派がこれにあたります。

 

イギリスのシンクタンク、ドローン・ウォーズ・UKが2018年に発表した報告書は、アメリカとイスラエルが10年以上にわたってドローン開発の分野をほぼ独占してきたことに触れた上で、今、“第2世代”が形成されていると指摘。9つの国と、「ノン・ステイト・アクター」、つまり国家ではない5つの勢力の名前を挙げています。その重要な一角を占めるのがイランなのです。

 

イランはこうして技術を手に入れた

(中略)

 

中東の紛争は新時代に突入した

イギリスに拠点を置く調査機関コンフリクト・アーマメント・リサーチのジョナ・レフ部長は、イエメンの反政府勢力と戦うUAE=アラブ首長国連邦などから依頼を受けてアバビールを実際に分解した専門家です。

 

そこからわかったのは、ドローンが民生の部品を使って作られた簡易なものだということ。それゆえに拡散を防ぐことは難しいと分析します。

 

「アマチュアが飛ばすドローンに爆弾が積まれているというイメージです。値段も弾道ミサイルなどに比べると圧倒的に格安に作ることができます。ドイツ、中国、それに日本からと、世界中からアマチュアでも使われる民生品を集めているので流通を規制するのは難しいです」(レフ氏)

 

偵察や攻撃を終えると基地へと戻るアメリカの高額なドローンとは異なり、低コストのアバビールは爆弾を搭載してそのまま目標に突っ込む。自爆攻撃用として使われています。

 

低コストで製造できる軍事用ドローンの技術が拡散していくことは、何を意味するのか。
専門家たちはアバビールの存在が、中東の空の戦闘の常識を覆そうとしていると語ります。

 

「これらのドローンはAK47のドローン版ということになるでしょう。敵に対して恐怖を植え付け、イランとその勢力はどこにでも攻撃ができると示すものなのです」(アメリカの軍事専門家ニコラス・ヘラス氏 NPR記事より)

 

「イラン陣営は200ドルでイスラエル上空にドローンを飛ばし、イスラエルは1発5万ドルの迎撃ミサイルで迎撃しなければならない。全く新しいアプローチです。中東はドローン戦争という新時代に突入したと言えます」(レバノンの軍事専門家エリアス・ハンナ氏)

 

イスラエルの危機感

イラン製ドローンの台頭に危機感を募らせているのがアメリカの同盟国、イスラエルです。(中略)

 

ドローン対策を急ぐイスラエル

(中略)小型の軍事用ドローンに対応するための切り札「ドローン・ドーム」。半径3キロ以内であれば無数のドローンが接近してきても、迎撃用の妨害電波を発射するだけでなく、強力なレーザー光線を照射して焼き落とします。

 

AI=人工知能を使った自動操作も可能で、まるでコンピュータゲームを見るかのような世界です。元祖ドローン大国イスラエルはアメリカとも連携し、ドローン対策兵器の配備を各地で進めています。

 

「貧者の兵器」拡散に歯止めは

アメリカやイスラエルは今でも軍事用ドローンの装備や技術では圧倒的優位に立っています。アメリカはアフガニスタンで繰り返し、ミサイルを搭載したドローンで攻撃を行い、数々の誤爆によって市民が犠牲になってきたと指摘されています。

 

また、パレスチナ暫定自治区のガザ地区やレバノンでは、イスラエルのドローンが上空を飛行する不気味な音が毎日のように確認できます。

 

複数の軍事評論家が指摘するように、後発組のイランは圧倒的な軍事力に対抗する「非対称の戦い」を戦うなかで、新たな切り札として「貧者の兵器」のドローンを手に入れ、拡散させています。

 

世界各地の軍事用ドローンの拡散をどうやって防ぐのか。前述のイギリスの軍事用ドローンに関する報告書は、輸出や使用に関する国際的な規制が必要だと指摘しています。

 

しかし国際社会での議論は進んでいません。むしろ逆行するかのように「アメリカ製の武器をもっと輸出してアメリカ経済を良くしよう」と公言してはばからないトランプ大統領のアメリカは、輸出に向けた規制を緩和する方向で検討を進めているとしています。

 

国際社会が有効な手立てを打てない現状が続けば、中東で先行する「ドローン戦争」が、世界各地の紛争地に広がる事態も時間の問題かもしれません。【2019年9月6日 NHK】

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なお、アメリカにおいても、空軍力の主役は戦闘機からドローンに移りつつあるとも言われています。(もちろん、それぞれの役割があるのは当然の話ですが)

 

下記は、もう2年以上前の記事です。

 

****米空軍「ドローン操縦士の求人」が、他のパイロット求人を上回る****

米空軍では現在、人が操縦するどの飛行機よりも、ドローン操縦士の求人のほうが多いと報道された。ただし、地球の裏側から攻撃を行うこうした操縦者たちは、ストレスによる離職も多いとされている。

 

(中略)米軍の軍用機のうち無人機が占める割合は、2005年には5パーセントだったが、12年には31パーセントにまで上昇していた

 

また、「RQ-4グローバルホーク」は、「1991年の湾岸戦争中に米軍全体が使った帯域幅」の500%を1機が使っているという。

 

一方、地球の裏側から攻撃を行う操縦者たちは、ストレスによる離職が多く、空軍は、年間1万5,000ドルのボーナスを支給するなどして引き止めを図っているとも報道されている【2017年3月18日 WIRED】

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1000キロ離れた目標を200ドルのドローンが攻撃し、ドローン同士の空中戦も行われるようになった時代、F35戦闘機を25年かけて購入するというのは・・・単に中国メディアが指摘するような次世代戦闘機の開発という面だけでなく、戦闘形態・防衛形態そのものの観点で「時代遅れ」になってしまう危険はないのだろうか?・・・と素人は考えてしまいます。

 

もちろん、軍事専門家が決定したことですから、そうした素人考えは的外れにすぎないのでしょうが。

 

【国連事務総長が「前代未聞の水準」と危惧するリビア内戦への外国勢力介入】

リビアでの中国対トルコのドローン空中戦の二つ目の観点、外国勢力の問題についてはグテレス国連事務総長が警鐘を鳴らしたばかりです。

 

****リビア内戦への外国勢力の介入、「前代未聞の水準」に 国連総長****

国連のアントニオ・グテレス事務総長は8日、リビア内戦への外国勢力の軍事介入が、高性能な装備や傭兵(ようへい)の投入により「前代未聞の水準」に達したと述べた。

 

グテレス氏は、国連安全保障理事会の閣僚級ビデオ会合で、西部にある首都トリポリと東のベンガジのほぼ中間に位置するシルト周辺に集結している軍事勢力について、特に懸念を示した。

 

グテレス氏は、「高性能な装備の供与や、戦闘に関与する傭兵の数を含め、外国勢力の介入が前代未聞の水準に達し、リビア内戦は新たな局面に入った」と述べた。

 

さらに、国連が承認している暫定政権「国民統一政府」側の勢力について、「国外から多大な支援を受けて東に向けて進軍を続けており」、現在シルトの西25キロ付近にいると説明した。

 

トルコの支援を受けるGNAは、エジプトとロシア、アラブ首長国連邦の支援を受ける元国軍将校の実力者ハリファ・ハフタル司令官が率いる有力軍事組織「リビア国民軍」と戦っている。

 

グテレス氏は、シルト周辺における驚くほどの軍備増強と、外国勢力のリビア内戦への直接介入が高い水準に達していることに深い懸念を示した。

 

外国勢力の直接介入は、国連の武器禁輸措置と安保理決議、今年1月にベルリンで加盟各国が確認した取り決めに違反に当たるという。しかし、具体的な国名には言及しなかった。 【7月9日 AFP】

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フランスもハフタル司令官側を支援しているとして、トルコと険悪な関係になっています。

 

トルコの積極的介入によって形成を逆転し攻勢を強める暫定政権「国民統一政府」側に対し、今度はロシア・フランス・エジプトがさらにハフタル司令官側への支援を強めて巻き返しを図る・・・結果、リビアはシリアのような外国勢力入り乱れての混戦模様に・・・という事態も懸念されます。

 

もっとも、ロシアはハフタル司令官側一辺倒というわけでもなく、勝ち馬に乗りたいような動きもあるようです。

 

****ロシアがリビアに送る戦闘員と紙幣、その思惑は****

ハフタル氏への支援を強化する一方で、他の重要人物とも接触

 

ロシアがリビアの軍事指導者ハリファ・ハフタル氏を支援するため援軍を送り込んでいる。ハフタル氏は国連が承認するリビア暫定政府の転覆に失敗し、守勢に立たされている。

 

欧州とリビアの関係者によると、ハフタル氏率いる軍事組織が先週、リビア最大の油田を制圧しようとした際に、ロシアから送り込まれた民間軍事会社の戦闘要員が協力した。こ

 

こ数週間、ロシアの貨物輸送機がシリア国内にあるロシアの空軍基地とリビアの間を定期的に往復している。米軍関係者によると、東部の拠点の防衛のため戦闘を続けるハフタル氏へのテコ入れを図る目的で、武器か兵力、またはその両方を輸送している可能性がある。

 

米軍関係者によると、ロシアは複数のミグ29戦闘機を派遣、最新のレーダーシステム1基も持ち込んだ。米アフリカ軍作戦部長を務めるブラッドフォード・ガーリング海兵隊准将は、経験不足の民間戦闘要員が戦闘機を操縦し、国際法を順守しない恐れがあると指摘した。

 

ロシア外務省に軍事支援についてコメントを求めたが回答はなかった。ロシア政府関係者は過去に、民間軍事会社はロシア政府を代表していないと述べたことがある。

 

ロシア製紙幣100トン

またリビアには何度も現金が持ち込まれており、ハフタル氏の活動の資金源となっている。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がロシアの税関の記録を確認したところ、4月にはリビア東部にあるハフタル氏側の中央銀行宛てにロシア製のリビアの銀行券100トンが送付された。

 

ハフタル氏は長年、リビア内戦の主要勢力の一つを指揮してきた。ただ76歳のハフタル氏は今年、首都トリポリの攻略に失敗してから影響力に陰りが見えており、ロシア政府はハフタル氏に代わる存在も見つけようとしている。

 

ロシア外務省関係者とリビアの関係者によると、ロシアの外交官はリビア東部に拠点を置く政治指導者のアギーラ・サレハ氏や、暫定政府の高官とも接触している。

 

ロシアはこれまで、ハフタル氏のトリポリ攻撃を支援していた時でさえ、内戦の政治的解決を支持し、暫定政府との関係を維持してきた。アナリストによると、リビアの今後の政治と石油開発に対して発言権を確保することがロシアの狙いだという。

 

米国のリビア駐在武官を務め、現在はアナリストとしてカーネギー国際平和財団に所属するフレデリック・ウェーリー氏は「ロシアはハフタルに全く執着していなかった」と話す。「ロシアは政治的な結果がどうであれ、影響力を行使するのに十分なルートを確保できるようにうまく立ち回ろうとしている」(後略)【6月30日 WSJ】

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香港  完全支配目指し後には引かない中国 “かすかな希望”の立法会選挙 英移住も現実味増すが・・・

2020-07-14 22:42:43 | 東アジア

(投票のため並ぶ人々、12日撮影 【7月14日 ロイター】)

 

【多大な批判・リスクは承知で香港完全支配に踏み切った習近平政権】

中国・習近平政権が香港の「一国二制度」を終わらせ、実質的な完全支配に乗り出したことは周知のところ。

香港のみならず、国際社会からの批判も強まっていますが、多大なリスクを承知でここまで踏み込んだ以上、習近平政権は後には引かないでしょう。

 

****国際的な批判より香港完全支配を選んだ習近平****

6月30日の夜、中国政府により「香港国家安全維持法」が香港住民と国際世論の強い反対を無視して強引に香港に適用されることとなった。これは香港における「一国二制度」を実質的に終わらせるものである。

 

1997年の香港の中国への返還に先立ち、1984年中英共同声明が調印され、「従来の資本主義体制や生活様式を返還後50年間維持する」ことが明記された。

 

しかし、香港では行政長官が民主的に選出されないなど、必ずしも西側の民主主義体制ではなく、民主化を求める若者を中心とした市民の要求が時折高まり、中国政府は神経をとがらせていた。

 

2014年には行政長官選挙の民主化を求め、若者らが道路を占拠するいわゆる雨傘運動が4か月にわたり行われ、2019年6月には香港の容疑者を裁判のため中国本土に送りうるという逃亡犯条例の改正案に反対する大規模デモが繰り広げられ、香港政府は11月に改正案を撤回している。

 

習近平指導部は国家安全維持法の制定に動き、5月下旬の全人代で導入方針を承認してから全人代常務委を2度開催し、わずか1か月で審議を終えるという異例の速さで可決した。

 

習近平指導部はこれまで香港に与えられてきた自治と自由は許せないと判断し、国内の厳密な専制体制を香港にも適用することとしたものである。

 

国家安全維持法は、「国家の分裂」「中央政府の転覆」「テロ活動」「外国勢力などと結託して国家の安全を脅かす」の4種の行為を禁止し、最高終身刑を科す、中国の治安当局の出先機関を香港に設置し、一部事件で直接管轄権を行使する、裁判官は香港行政長官が指名する、ことを内容としている。中国政府の権限が大幅に強化され、香港政府の頭越しの法執行が可能となる。

 

これで「一国二制度」が有名無実化することは明らかであり、従来のような民主化要求デモはできないこととなった。習近平指導部は中英共同声明という国際約束を破っても、香港の自治を認めないという決断を下したものである。(中略)

 

国家安全維持法の制定を急いだのは、7月18日から立候補の届け出が始まる9月の香港立法会(議会)選挙があるためと思われる。民主派グループは選挙で過半数を取るべく運動を始めていたと言われる。中国政府としてはこの選挙で民主派が躍進するのを阻止しようとしたとしても不思議ではない。

 

国家安全維持法の設定に対し、西側は強く反発した。

旧宗主国の英国は、ジョンソン首相が「国家安全維持法の施行は 中英共同声明に明確かつ深刻な違反であり、香港基本法に反する」と厳しく批判するとともに、「英国海外市民」の資格を持つ香港市民が英国に5年滞在でき就労も認めるという特例措置を発表、1年滞在すれば市民権を申請できるとした。約300万人が対象となる。

 

米国では、トランプ大統領が5月29日、関税や渡航の優遇措置を取り消すと発表した。ポンぺオ国務長官は7月1日、国家安全維持法はすべての国に対する侮辱であると述べ、トランプ大統領が命じた優遇措置の撤廃を進めると表明した。

 

また、米議会は、香港の自治の侵害に関わった中国共産党員や金融機関への制裁に道を開く「香港自治法案」を7月1日に下院本会議で、2日には上院本会議でともに全会一致で可決した。トランプ大統領の署名を待って成立する。

 

これに対し中国政府は強く反発し、米国に新たな制裁を科すと述べている。今回の動きにより米中の対決が一層強まるとともに、制裁合戦で米中の経済的デカップリングが一段と進むことになる。

 

EUは議長国ドイツのマース外相が7月1日、「非常に憂慮すべき事態で、最終的には中国とEUの関係に影響するだろう」と述べ、日本政府は6月30日菅官房長官と茂木外務大臣が「遺憾」の意を表明した。これは5月28日に政府が表明した「深く憂慮」や6月17日のG7の共同声明の「重大な懸念」より強いトーンである。

 

中国政府は、いくら国際社会が非難しても香港政策を変えることはないだろう。それでも、国際社会は中国政府が国際約束を踏みにじり強引なやり方で香港の自治と自由を奪ったことを糾弾し続けるべきである。

 

国家安全維持法の制定で香港の国際金融センターとしての地位が危うくなる可能性がある。中国は香港を窓口に世界から資金を取り込んで高度成長を可能にしたと言っても過言でない。今回の法の制定と米国の制裁で世界のマネーが香港から逃げていく可能性がある。外国企業が香港に居続けるかどうか再検討することにもなろう。

 

しかし、習近平政権はそのようなリスクを承知の上で今回の措置に踏み切った。習近平政権は、そのようなリスクよりも香港を完全に中国の支配下に置くことを優先したのである。【7月13日 WEDGE】

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【民主派とにって“かすかな希望”となった立法会(議会)選挙】

そうした習近平政権の強固な意思表示に、香港住民は反発というより、あきらめムードのところもありますが、そうした中で“かすかな希望”とも言えるのが、9月の立法会(議会)選で過半数を制して政府予算案を否決し、林鄭月娥(りんていげつが)行政長官を辞任に追い込むこと。

 

そのために候補者を絞るということで行った予備選挙は、中国・香港政府が威圧を強めるなかでどのくらいの有権者が参加するか危ぶまれていましたが、主催者が想定した以上の有権者を動員することができ、わずかな希望をつないだ形にもなっています。

 

****香港予備選終了 61万人以上が投票 「香港人は奇跡を起こした」と主催者****

9月6日の香港立法会(議会)選に向けた民主派の予備選が12日、2日間の日程を終えた。主催者によると、投票者数は有権者全体の約13%に当たる61万人を超えた。市民は投票を通じて、中国が導入した「香港国家安全維持法」(国安法)への反対を表明した形だ。

 

今回の投票は、香港政府高官が「予備選は国安法違反の疑いがある」と警告する中で行われた。

 

12日、400人以上の行列ができた新界地区で投票をした女性(39)は、「もし投票することが罪になるなら、今ここで整然と並んでいる全員を、そして香港で投票した数十万人全員を逮捕すればいい」と憤っていた。投票の権利までも国安法で規制しようとする政府の対応に反発する市民は多かった。

 

民主派は投票者数の目標として、昨年の区議会選で獲得した票数の1割に相当する17万人を掲げていた。実際には3倍以上の市民が投票した。2日目の投票者数は初日(約23万人)を上回る約38万人だった。

 

予備選の準備に当たってきた元立法会議員の区諾軒(おう・だくけん)氏は12日夜、「香港人は再び奇跡を起こした」と述べ、政府が威嚇する中で投票所に足を運んだ市民の勇気をたたえた。

 

民主派は前回2016年の立法会選で、定数70のうち30議席を獲得。今回は昨年11月の区議会選の圧勝を追い風に、初の過半数を目指している。13日以降に発表する予備選の結果などを踏まえ、候補者を絞り込む。

 

立法会選への立候補の届け出は18日に始まる。親中派から「国安法に反対する者に立候補資格はない」との声が上がる中、政府の対応が注目される。民主派候補が今回の予備選を経て出馬しても、立候補資格を剥奪される可能性がある。【7月13日 産経】

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【事態を座視するとは思えない中国・香港政府】

ただ、中国・香港政府がこの事態を座視するとも思えません。

 

「予備選は国安法違反」という立場で、民主派候補者の立候補資格はく奪などの強硬な手段で、民主派潰しを行ってくることが予想されます。

 

****香港民主派実施の予備選「国安法違反の疑い」 中国政府出先機関が警告****

香港民主派が実施した立法会(議会)選挙の予備選について、中国政府の香港出先機関「中央政府香港連絡弁公室」(中連弁)は13日夜、「国家安全維持法(国安法)違反の疑いがある」と警告した。

 

香港政府も同法違反容疑で調査を始め、力ずくで抑え込む姿勢を鮮明にしている。

 

予備選では急進民主派が躍進した結果、当局との対立が先鋭化する一方で、当局側も多数の民主派候補を出馬禁止とする可能性が大きくなっている。

 

予備選では予想を大幅に上回る約61万人が投票したことから、当局は民主派が勢いづくことを警戒している。民主派は9月6日に行われる立法会選で過半数を獲得し、政府予算案を否決することを目標に掲げる。

 

中連弁は13日の声明で「香港政府を困難に陥らせ、政権を転覆する行為は国安法22条に抵触する疑いがある」と指摘。「違法な選挙は絶対に狙い通りの結果を得ることはできない」としている。香港政府も同日、予備選について「政府は調査を進めており、違法な状況が確認できれば関連の部門で対処する」との声明を発表。政府トップの林鄭月娥(りんていげつが)行政長官も「十分な証拠があれば行動を取る」と強調した。

 

国安法22条は、中央政府や香港政府の「法に基づく機能遂行を著しく妨害し、阻害し、破壊すること」を禁じると規定する。

 

一方で、香港の憲法に当たる香港基本法には「議会に予算案の否決権を認めている」と明記されており、民主派は政府の動きに反発。国安法の適用範囲が際限なく拡大されているとの懸念も強めている。

11〜12日に実施された予備選では、最終結果が13日深夜に発表された。結果を踏まえ協議で候補者を決める一部選挙区を除き、立法会選に出馬する候補が出そろった。

 

中国との対決姿勢を鮮明にする若者らが主体となる急進派が躍進。3万票超を獲得した民主活動家の黄之鋒(こうしほう)氏は14日、フェイスブックに「有権者が(当局と)全面的に闘う議員を求めていることを示した」と投稿した。一方で穏健路線を取る民主派政党は苦戦し、現職や元職のベテランが相次ぎ「落選」した。

 

立法会選挙の届け出は7月18〜31日。香港政府は今後、候補者に対する資格審査で「過去に香港独立を視野に入れた主張をした」「国安法に違反した」などの理由で急進派候補を出馬禁止とする可能性も指摘されている。

 

14日付の中国系香港紙「大公報」は「予備選に参加した候補全員の出馬禁止を検討すべきだ」と、法律専門家の主張を報じた。

 

一方、予備選への出馬を断念して海外に脱出した民主活動家、羅冠聡(らかんそう)氏は13日、ロンドンに滞在していると自身のツイッターで明らかにした。【7月14日 毎日】

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【自由を求めてイギリス移住・・・とは言っても高いハードル】

立法会で過半数を獲得するという“かすかな”“わずかな”希望の糸が途切れたら、もはや香港に残された抵抗手段はないでしょう。

 

あとは、あきらめて当局の支配に従うか、あるいは、香港を捨てるか。

 

旧宗主国であるイギリス政府はすでに、イギリス海外市民(BNO)パスポートの保有資格を持つ300万人に永住権や市民権への道を開くと発表しています。

一部香港市民も強い関心を示しているようです。

 

****香港から未知のイギリスへ逃れるべきか 国安法で揺れる香港市民****

中国政府が香港に厳格な国家安全維持法(国安法)を制定して以来、抗議活動に熱心な香港市民の間では脱出方法がしきりに話題になっている。

 

イギリス政府はすでに、イギリス海外市民(BNO)パスポートの保有資格を持つ300万人に永住権や市民権への道を開くと発表した。では、対象となった人たちは本当に香港を離れるのか。そして残された人たちはどうなるのか

 

(一部の名前は仮名)。

マイケルさんとセリーナさんは、香港を永久に離れてイギリスに移住すると決めた。2人は一度もイギリスに足を踏み入れたことがない。

 

2人はBNOパスポートを保持している。BNOパスポートは1997年の香港返還以前に生まれた香港市民に与えられたものだ。

 

BNOパスポートは本来、イギリス領事館の一定の支援が受けられる権利付きの渡航許可証だ。従来は、香港からイギリスに行きやすくなる、欧州旅行が楽になるという程度のもので、それ以上に特に便利というわけではなかった。

 

それでもBNOパスポートを取得する人たちはいた。別に取っておいても損はないと、そう考える香港市民が多かったからだ。

 

マイケルさんとセリーナさんは香港ではごく普通の、楽に暮らせるだけの経済力を持つカップルだ。共に金融機関の中間管理職で、13歳の娘と頻繁に旅をし、何年も前にマンションを購入している。それだけのものを手放すのは、楽なことではない。

 

香港では昨年、犯罪容疑者の中国本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改定案を引き金に、抗議活動が何カ月も続いた。

 

マイケルさんとセリーナさんは、この抗議デモへの対応で。香港は香港ではなくなってしまったと話す。2人が見たのは市民の声を聞かない政府と、歯止めの利かない警察権力だった。

 

2人は中国系の銀行で働いており、抗議活動への参加は解雇につながる。そのため一連のデモには参加しなかったものの、2人の娘は抗議活動に多いに影響を受けたという。

 

「娘はとても怒り、混乱した。私たちに、どうして政府が私たちをあんな風に扱うのかと聞き続けた」とセリーナさんは語った。そして、海外に留学したいと言うようになった。

 

6月30日に施行された国安法によって、我慢の限界が来た。

マイケルさんは「国安法の内容はひどいものだ」と話す。セリーナさんは、この法律が「ごくわずかな人」だけを対象にしたものだという中国政府の主張は、まったく信じられないと言う。

 

イギリス政府の新しい計画では、BNOパスポート保持者とその扶養家族は今後、イギリスに5年間滞在できる。就業・就学も可能となる。5年の時点で永住権の申請ができるようになり、さらにもう1年滞在することで、市民権を得る資格が与えられるという。

 

イギリス政府は、国安法は1985年の英中共同声明で約束された香港の高度な自治を侵害し、市民の自由を脅かしていると批判している。

 

マイケルさんとセリーナさんは当初、娘を海外の学校へ通わせることだけを考えていた。しかし今は、家族でイギリスに移り住むことが一番の選択肢となった。(中略)

 

中国政府が国安法を成立させる方針を発表して以降、マイケルさんとセリーナさんのような話はそこかしこで聞かれるようになった。

 

BNOパスポートを持っていない人たち

香港には現在、BNOパスポートの保有者が35万人いる。イギリス政府は、保有資格者を含めると全体の数は290万人に上るとしている。

 

一方、1997年の香港返還以降に生まれた市民はBNOパスポートを持つ資格はない。さらに、返還前に申請をしなかった人も、現在は申請できないという。

 

ヘレンさんは返還前の1997年に生まれたが、赤ちゃんだったため、両親は彼女のBNOパスポートを申請しなかった。

 

「イギリスに行きたいかどうかは分からない。でもこれは私の権利だ。イギリスと香港なら香港の方が好きだけど、BNOパスポートを持っているべきだった」とヘレンさんは話す。なぜ自分の分を申請してくれなかったのかと、両親を少し責めたことも認めた。

 

現時点でイギリスからの提案に応じる香港市民が、果たしてどれほどいるのか推測するのは難しい。しかし、関心は高まっている。特にイギリス政府が方針を発表した7月1日以降、急激に高まっている。

 

ドミニク・ラーブ英外相は下院で、「イギリスは香港から目を背けないし、その住民への歴史的な責任から逃げだりしない」と話した。(中略)

 

BNOパスポートの更新件数も、香港の政治的な混乱を受けて増加している。2018年に有効だったBNOパスポートは17万件だったが、2019年には31万件以上に跳ね上がった。(中略)

 

次は何が起こる?

香港の全人口750万人のうち、外国人も含めると約80万人がイギリス、オーストラリア、カナダ、アメリカのパスポートを保持している。

 

中国政府は、イギリスが香港のBNOパスポート保持者に市民権を与える計画に怒りを表明している。劉暁明駐英大使は6日、イギリスの提案は中国への「重大な干渉」に相当すると述べた。

 

また、「主権と安全保障、開発利益を保護しようとする中国の固い決意を過小評価するべきではない」と語っている。

在英中国大使館は声明の中で、「香港在住の中国系の同胞は全員、中国国民だ」と述べている。

 

ラーブ外相は民放ITVに出演した際、中国政府が香港市民にイギリスへの渡航を認めなかった場合、イギリスにできることはほとんどないと話した。(中略)

 

マイケルさんとセリーナさんはイギリスでの新生活に向けて、準備を進めている。しかし、もうすぐ18歳になる息子を説得することはできなかった。家族が香港を離れた後、息子は祖父母と暮らすことになるという。

「香港を離れたくない、香港は自分の一部だと息子は言うのです」とセリーナさんは語った。【7月13日 BBC】

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中国の厳しい報復措置が予想されるなかでイギリス政府が香港市民受け入れを実現できるのか?

 

それ以前の話として、自由を求めて香港を脱出するというのは、一定の資産や新しい生活を担う技能を必要とし、政治的な主張をあきらめさえすればこれまでの生活が保障されるという中にあっては、非常にハードルが高い選択肢でしょう。

 

ましてや、当局がイギリスへの渡航を制限するような事態になったら、非合法の亡命・難民という立場にもなって、一般市民には無理でしょう。

 

結局、多くの香港市民は生活と引き換えに中国・香港政府の支配を受け入れる・・・ということになるのではないでしょうか。香港を出るなら、当局の制限が始まる前に行う必要があり、時間的な見極めが重要になります。

 

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ボスニア・ヘルツェゴビナ 今も癒えぬスレブレニツァの悲しみ

2020-07-13 22:30:53 | 欧州情勢

(ボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァに近いポトチャリの墓地を歩くメイラ・ジョガスさん(2020年7月3日撮影)【7月13日 AFP】)

 

【スレブレニツァの虐殺が残した傷は癒えず、和解は遠いまま】

毎年、この時期になると目にするのが旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナで起きた「スレブレニツァの虐殺」に関する記事です。

 

1991年6月にスロベニア、クロアチアの独立宣言を機に始まった旧ユーゴスラビア連邦解体の過程で、ボスニア・ヘルツェゴビナは1992年からボシュニャク、セルビア、クロアチア系の主要3民族勢力間の紛争に突入しました。

 

その過程で起きた、セルビア系武装勢力によるボシュニャク人虐殺のひとつが「スレブレニツァの虐殺」と呼ばれるものです。(なお、非人道的行為はセルビア系だけでなく、双方に一定にあったとも言われています)

 

****スレブレニツァの虐殺****

スレブレニツァの虐殺は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中にボスニア・ヘルツェゴビナスレブレニツァ1995年7月に発生した大量虐殺事件である。

 

ラトコ・ムラディッチに率いられたスルプスカ共和国軍によって推計8000人のボシュニャク人が殺害された。スレブレニツァ・ジェノサイドともいう。

 

この時、スルプスカ共和国軍に加えて、クライナ・セルビア人共和国を拠点とする準軍事組織「サソリ」が虐殺に加担していた。(中略)

 

1995年7月11日ごろから、セルビア人勢力はスレブレニツァに侵入をはじめ、ついに制圧した。

 

ジェノサイドに先立って、国際連合はスレブレニツァを国連が保護する「安全地帯」に指定し、200人の武装したオランダ軍の国際連合平和維持活動隊がいたが、物資の不足したわずか400人の国連軍は全く無力であり、セルビア人勢力による即決処刑や強姦、破壊が繰り返された。

 

その後に残された市民は男性と女性に分けられ、女性はボスニア政府側に引き渡された。男性は数箇所に分けられて拘留され、そのほとんどが、セルビア人勢力によって、7月13日から7月22日ごろにかけて、組織的、計画的に、順次殺害されていった。

 

殺害されたものの大半は成人あるいは十代の男性であったが、それに満たない子どもや女性、老人もまた殺害されている。

 

ボスニア・ヘルツェゴビナの連邦行方不明者委員会による、スレブレニツァで殺害されるか行方の分からない人々の一覧には、8,373人の名前が掲載されている。【ウィキペディア】

********************

 

中心的な人物ラトコ・ムラディッチはセルビアでは英雄扱いでしたが、 2011年5月31日、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷のあるオランダハーグに移送され、2017年11月に終身刑を言い渡されています。

 

この事件は現地住民はもちろんのこと、国連の名のもとに「安全地帯」を警備しながら、武装勢力の暴力になすすべもなかったオランダ軍にとっても深いトラウマを残しています。

 

また、後に当時のコフィ・アナン国連事務総長が「スレブレニツァの悲劇は国連の歴史に永遠に影を落とす」と述べたように、国連にとっても大きなトラウマとなっており、ルワンダの大虐殺への対応と並んで、その後の国連PKOの在り方にも強く影響しています。

 

事件から25年、7月11日に現地で追悼式典が営まれました。

 

****ボスニア、大虐殺から25年 現地で追悼式典****

敵対民族の根絶を図る「民族浄化」で多数が犠牲となった旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナ内戦末期、東部スレブレニツァで1995年7月に起きたボスニャク(イスラム教徒系)住民らの大量虐殺から25年となり、追悼式典が11日に現地で営まれた。

 

紛争当時、歴史・宗教的対立を背景に三つどもえで争ったボスニャクとセルビア人、クロアチア人勢力の対立は根深く残り、国家の分断状況が続いている。

 

第2次大戦後の欧州で最悪となったスレブレニツァの虐殺が残した傷は癒えず、和解は遠いままだ。【7月12日 共同】

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【「もう生きる理由がない。気が狂わないように花の世話をしているが・・・」】

最近になって新たに身元が確認された9人の犠牲者の合同葬儀も執り行われましたが、今でも1000人以上が発見されていないとも。残された家族の悲しみも癒えることはありません。

 

****「どこかで生きているかも…」 息子を待つ母親たちの苦悩 スレブレニツァの虐殺から25年****

ファティマ・ムジッチさんは毎日、夫と3人の息子に祈りをささげている。4人は、ボスニア・ヘルツェゴビナのスレブレニツァで、25年前の夏の数日間繰り広げられたイスラム教徒の大虐殺で殺されたのだ。

 

だが、今も行方が分からない長男に祈りをささげることは毎回ためらってしまうと、ムジッチさんはAFPに語った。「まだどこかで生きていると思う。長男のために祈り始めると手が震えて、どうすればいいのか分からなくなる」

 

ボスニア・ヘルツェゴビナでは、1992年から始まった内戦が終わりに近づいていた1995年7月11日、イスラム系住民が多数を占めるボスニアの町、スレブレニツァをセルビア人武装勢力が急襲。数日間でイスラム教徒の成人男性や少年約8000人を連れ去って殺害し、遺体を埋めた。

 

ムジッチさんの夫と2人の息子の遺体は内戦終了後に集団埋葬地で発見され、6600人以上の犠牲者が眠る追悼施設に10年前に埋葬された

 

しかし、今でも1000人以上が発見されていない。

 

現在、サラエボ近郊の村に住むムジッチさんは、長男が発見されたという知らせを聞くために生きていると話す。

しかし、最後に84か所の集団埋葬地が発見されてから10年が過ぎた。行方不明者協会の広報担当者は、「2019年7月以降、犠牲者の遺体が発見されたのは13人だけだ」と述べた。

 

■「ママ、僕から離れないで」

ムジッチさんは今も、子どもたちを最後に見た時のことを思い出す。

 

当時、「安全な避難場所」とされていたイスラム教徒の居留地を守っていてオランダ軍をセルビア武装勢力が制圧したため、数千人のイスラム教徒の女性、子ども、高齢者がスレブレニツァ郊外の国連基地の前に集まっていた。ムジッチさんもその一人だった。

 

ムジッチさんの16歳の末の息子は、ムジッチさんにしがみつきこう言った。「ママ、僕から離れないで」

「私は息子の癖毛をなで、『離れないから』と言った」「彼らが息子を連れ去ろうとしたので、追いかけた。ひょっとしたら殴られたのかもしれないが、その後のことはまったく覚えていない。」

 

夫と残りの息子2人は森に逃げようとしたが捕えられたという。

 

■「生きる理由がない」

71歳のメイラ・ジョガスさんは、残りの人生を自分の人生が「止まった」場所で過ごすと決めている。

 

毎朝テラスの花に水をやりに行くと、スレブレニツァにある記念館のすぐそばの家からは、何千もの白い墓が緑の芝生に広がっているのが見える。

 

19歳と21歳で死んだ2人の息子はそこに眠っている。20歳だった三男と夫はスレブレニツァの虐殺が起こる前の1992年に殺されていた。

 

「もう生きる理由がない。気が狂わないように花の世話をしているが、自分自身の花は黒い地中にある」

 

■「二度と会えない」
ラミザ・グルディッチさんは、17歳と20歳の息子たちと夫を殺した男たちにも「子どもはいたのだろうか?」と考える。

 

夫と一緒に森に逃げ込む前、長男はたばこを1本吸うとグルディッチさんに言った。「もう二度と会えないと思う」。下の息子は何も言わなかった。

 

2人の息子の遺体は後に発見されたが、長男は半分だけしか見つからなかった。グルディッチさんは、残りの半分がいつか見つかることを願っている。 【7月13日 AFP】

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戦争に伴うあまたの悲劇同様に、言葉を失う悲しみを感じます。

 

ボスニア・ヘルツェゴビナの国内事情、あるいは旧ユーゴスラビアのセルビアとコソボの関係・・・それらを語るとき常につきまとうのが「和解は遠いままだ」という現実です。

 

****ハントケさんのノーベル文学賞受賞に怒りの声、「虐殺否定論者」の指摘****

オーストリアの作家ペーター・ハントケさんにノーベル文学賞を授与した決定に反発の声が上がっている。旧ユーゴスラビア紛争当事国の関係者からは、「ジェノサイド(集団虐殺)否定論者」への授賞は「恥ずべき」ことだとの指摘も出た。

 

1942年生まれのハントケさんは、1990年代のユーゴ紛争を巡る発言や同紛争に絡み戦争犯罪で訴追されたセルビアの故ミロシェビッチ大統領と近い関係にあったことで批判を受けた。

 

2006年に行われたミロシェビッチ氏の葬儀では弔辞を読んだ。ハントケさんは同年のインタビューで自身の判断を擁護し、ミロシェビッチ氏は「英雄ではなく悲劇の人間だ」「私は作家であって裁判官ではない」と語っていた。

 

授賞決定を受け、コソボのシタク駐米大使はツイッターで「あきれた判断だ」と反発。「ジェノサイド否定論者やミロシェビッチの擁護者を称賛すべきではない」とも述べた。

 

さらに「私たちは人種差別主義への感覚がまひし、暴力に鈍感になり、安易な融和に流れるあまり、集団虐殺マニアのねじれた政策への同意と奉仕を看過してしまうのか」と問いかけた。

 

アルバニアのチャカイ外相代行も、授賞決定を「不名誉な恥ずべき行為」と評し、「人間の経験を豊かにする文学の永遠の美と力を心から信じる者として、そして民族浄化とジェノサイドの被害者の1人として、この判断にあぜんとしている」とツイートした。

 

ロイター通信によると、ハントケさんは受賞の連絡後に記者団の取材に応じ、「スウェーデン・アカデミーは勇気ある決定を下した」「奇妙な自由を感じる。何と言って良いか分からないが、無罪を言い渡されたかのような自由だ。それは真実ではないが」と語っていた。【2019年10月12日 CNN】

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【前向きな小さな一歩も】

そうした対立・分断・憎悪のなかにあって、前向きな一歩も。

 

****セルビアとコソボ、関係正常化へ協議再開****

旧ユーゴスラビア構成国セルビアのブチッチ大統領と、2008年に同国からの独立を宣言したコソボのホティ首相は10日、関係正常化に向けテレビ会議形式で会談した。

 

コソボが18年末にセルビアからの輸入品の関税を引き上げて以降、関係が悪化し協議がほぼ途絶えていたが、今回の会談で再開した形だ。会談には独仏首脳も参加した。

 

AFP通信によると、ホティ首相は「正常化は両国が国家としての地位を認め合ったときのみ達成できる」と語り、セルビアが独立を認めるべきだと主張した。両首脳は16日、ブリュッセルで対面して会談する。【7月11日 時事】 

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もちろん、憎悪が癒えて・・・という話ではなく、関係正常化がEU加盟の条件とされていることなど、現実的要請に基づくものでしょう。

 

そうであるにせよ、関係正常化に向けた協議が再開されること自体は喜ぶべきものでしょう。

 

なお、両国は今年1月、21年ぶりに直行便を再開することでも合意しています。

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スーダンでは女性器切除を犯罪化 女性問題改善への一歩 日本ではジェンダー・ギャップ指数年々悪化

2020-07-12 23:07:52 | 女性問題

(年々低下する日本のジェンダー・ギャップ指数ランキング【4月15日 データのじかん】)

 

【スーダン 女性器切除を犯罪化】

2014年に発効した欧州評議会の「女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンス防止条約」(イスタンブール条約)は女性に対する暴力を犯罪とすることを締約国に義務つけており、該当する行為として精神的暴力(33条)、ストーカー行為(34条)、身体的暴力(35条)、レイプを含む性的暴力(36条)、強制的女性性器切除(38条)、中絶・不妊手術の強制(39条)が規定されています。

 

犯罪とされる女性に対する暴力のひとつが「女性器切除」

 

****女性器切除****

女性器切除(Female Genital Mutilation、略称FGM;「女性性器切除」とも表記する)あるいは女子割礼(じょしかつれい、Female Circumcision)とは、女性器のクリトリス切除を中心に小陰唇切除や大陰唇縫合あるいする行為。

 

主にアフリカを中心に行われる風習であり、成人儀礼のひとつ。

 

麻酔も無く行われることで死者も多発する、この風習では、どのパターンでも必ず性感帯である陰核切除をするので性行為に女性が快楽を感じることを悪とする考えの下で女性差別かつ児童虐待であると批判する人々が使う呼称であり、、一方で男性器の包皮切除を行う男子割礼と同等の儀礼であると肯定的に主張されるる場合では「女子割礼」の語が主に使われる。【ウィキペディア】

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後出の国連人口基金(UNFPA)の報告によれば、世界で性器切除(FGM)を経験した女性は2億人いるとも。

 

こうした悪しき風習がいまだに広く行われているのは、単に男性側の女性差別的発想だけでなく、それを受け入れる女性側の問題など、多くの要因があるとは思われます。それにしても・・・。

 

これまでもブログでしばしば取り上げてきましたが、まとまったものとしては、2008年3月9日ブログ“「国際女性の日」に女子割礼を考える”(「女子割礼」という言葉を使用したのは、別に、肯定的にみなした訳ではありません)

 

女性への身体的暴力の風習としては、胸の発育を強制的に止めるために胸を焼きつぶす「胸アイロン」といった風習も。

2017年1月8日ブログ“男性優位社会で女性に強いられる身体的犠牲「胸アイロン」 男性の性的暴力に関し、女性への責任転嫁も

 

遅々とした歩みのなかで、喜ばしい一歩も。

 

****女性器切除を犯罪化 スーダン統治機構が承認*****

スーダンの統治機構である「最高評議会」は10日、同国に広がる慣習の女性器切除を犯罪とする法律を裁可した。同国法務省が発表した。

 

同省の発表によると、軍人と文民で構成される最高評議会は、「女性の尊厳を傷つける」長年の慣行である女性器切除の犯罪化を含んだ一連の法案を承認した。

 

同国では、長年強権支配を続けてきたオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領が、数か月にわたって続いた改革を求める大衆デモを受けて失脚。女性たちが重要な役割を果たしたデモから1年後、今回の改革が実現した。

 

内閣は4月、女性器切除を施した人物を処罰する刑法の改正を承認。同国法務省は、「女性器切除は今や、犯罪とみなされる」と述べており、最長3年の禁錮刑が科される可能性もある。女性器切除を施した医師や医療従事者は罰せられ、手術が行われた病院やクリニックなどは閉鎖され得るという。

 

同国のアブダラ・ハムドク首相は、10日の決定を歓迎し、「司法改革の途上における重要な一歩であり、また自由、平和、正義という改革のスローガンを達成するための重要な一歩だ」とツイッターに投稿した。

 

最も乱暴な方法では陰唇からクリトリスまで切除され、膣口は縫合して閉じられる。施術は不衛生な環境下で麻酔なしで行われることが多く、嚢胞(のうほう)や感染症が生じることも少なくない。また施術を受けた女性たちは後に性交痛に悩まされたり、出産時に合併症にかかったりすることもある。 【7月11日 AFP】AFPBB News

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スーダンでは“意外なほどの”民主的プロセスを経て、バシル前大統領独裁からの脱皮が実現しましたが、その民主的な流れは今も消えていないようです。

 

***女性器切除禁止、スーダンも****

アフリカや中東などの一部の国では、女性器の切除が長い間、慣習として続いてきた。今回、その禁止に踏み切ったのがスーダン。長期支配を続けた指導者が失脚して発足した暫定政権が、「人権侵害」と非難してきた欧米との関係改善などを図ったとみられる。すんなり浸透するのだろうか。

 

■指導者失脚、欧米との関係重視

(中略)ユニセフが2016年に出した報告書などによると、スーダンでは15~49歳の女性の87%が女性器の切除を経験していた。「性欲を抑えて貞操を守る」「結婚するために必要」「大人になるための儀礼」などとして行われていた。

 

ただ、術中に大量に出血したり、感染症になったりするケースが少なくない。欧米諸国を中心とした国際社会は「人権侵害だ」と批判してきた。スーダン国内でも、切除に反対する声が徐々に高まっていたが、状況はすぐには変わらなかった。

 

転機となったのは、スーダンで30年にわたる強権支配を続け、禁止措置に後ろ向きだったバシル前大統領が昨年4月に解任されたことだ。バシル氏の失脚につながった大規模デモでは、男性と比べて教育や職業の機会が限られてきた大勢の女性が参加し、自由や公平を求めた。

 

その後発足した軍と文民組織による暫定政権は、民主化に向けた取り組みや、前政権時代に対立していた欧米諸国との関係改善を模索。女性器切除の禁止もその一環とみられる。バシル氏についても汚職と外国通貨の違法所持などの罪で訴追に踏み切った。

 

ただ、切除の禁止がすぐに浸透するかどうかはまだ見通せない。複数の現地住民によると、性の話題をタブー視する家庭は今も多く、女性器切除について、話題にする機会はほとんどないという。

 

住民の一人は「切除が禁止されても、慣習が根強い地域ではしばらくは闇で行われる恐れがある」と心配している。

 

■根強い慣習、「闇」手術に懸念

女性器の切除は、スーダンだけの問題ではない。

 

ユニセフは報告書で、アフリカや中東などの約30カ国で少なくとも約2億人が女性器を切除した、と指摘している。15~49歳の女性のうち、切除した女性の割合はソマリアで98%、ギニア97%、ジブチ93%、シエラレオネ90%。5歳になるまでに切除する子どもも多く、イエメンでは85%の女児が生後1週間以内に切除していたという。

 

その一方、「人権侵害」との批判の高まりや女性の地位向上が進み、各国は撲滅に向けた取り組みを少しずつ進めている。

 

15~19歳で切除した少女は、1985年の51%から2015年ごろには37%にまで減った。国連は同じ年に定めた持続可能な開発目標(SDGs)で、30年までに女性器切除を含む有害な慣行を撤廃することを掲げている。

 

15~49歳の女性の2割が切除を経験しているというアフリカ東部のケニア。11年から女性器の切除を禁止し、違反者は禁錮か20万シリング(約20万円)の罰金が科されるようになった。ケニヤッタ大統領は昨年11月、「22年までに女性器切除を根絶する」と宣言した。実現するかは不透明だが、国内で切除する人は減少傾向にある。

 

スーダンの隣国エジプトでは、1990年代ごろから女性器切除に反発する声が強まり、2008年に違法になった。現在は法律に反して手術を行うと禁錮5~7年、女性が死亡したり重い障害が残ったりした場合はさらに刑期が長くなる。ただ、「切除してこそ一人前の女性」といった考え方もいまだに根強く、闇で切除が実施されているという。【6月9日 朝日】

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かつてはスーダンと言えば、約30万人が殺害され、約270万人が避難民になったとされる、国連が「世界最悪の人道危機」と呼んだバシル前大統領時代のダルフール紛争のイメージでしたが、いろいろ問題はあるにしても、こういう変化は喜ばしいことです。

 

そのダルフール紛争に関しては、暴力行為の中核にあったアラブ系民兵組織ジャンジャウィードの元幹部が13年越しで逮捕されたとか。【6月10日 時事より】

 

バシル前大統領に関しては、“スーダン政権を暫定的に運営する主権評議会は11日、ダルフール紛争をめぐって人道犯罪などに問われているバシル前大統領を国際刑事裁判所(ICC)に引き渡す方針を明らかにした。”【2月12日 CNN】とも報じられていました。現在の状況は知りません。

 

【出産前後の性差別によって「消失」した女性】

女性への暴力、女性差別といった問題に話を戻すと、その類の話は山のように世界でも、日本でもあって話は尽きませんが、そうしたもろもろの結果としておきることのひとつが・・・

 

****性差別により「消失」した女性、世界に640万人と推計****

国連人口基金(UNFPA)は30日、出産前後の性差別によって「消失」した女性がこの5年間で640万人に上った、という推計を発表した。UNFPAは女性差別をなくすための対策を続けているが、新型コロナウイルスの感染拡大で一部の支援が滞り、悪影響を懸念している。

 

UNFPAによると、男児と比べた出生率の低さや出産後の死亡率などから推計すると、「生きていたはずなのに、消失した女性」は1970年時点で6100万人いた。

 

一部の国で女児であれば中絶したり、育児放棄したりするためだ。この傾向はその後も一定の割合で続いており、今年までに累計で約1億4千万人に上る。特に、中国では累計7230万人、インドでは同4580万人が「消失」したという。

 

UNFPAは「世界人口白書」を毎年公表しており、今年は女性の人権侵害に焦点を当てた。処女検査や、性被害から守るために乳房を焼き潰す「胸アイロン」といった19の行為を「有害な慣行」と認定。世界で性器切除(FGM)を経験した女性は2億人、児童婚をした少女は6億5千万人いるという。

 

UNFPAはこうした差別をなくすための支援に取り組んでいるが、新型コロナによって一部の政策が中止を余儀なくされている。ナタリア・カネム事務局長は会見で「女性をモノのように扱うことをやめ、全ての人間には平等な権利があるということを理解しなければならない」と訴えた。【6月30日 朝日】

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【年々悪化する日本のジェンダー・ギャップ指数】

「消失」した女児の84%を中国・インドが占めていますが、日本も女性問題では世界的に非常に遅れた位置にあることは毎年の「ジャンダー・ギャップ指数」で明らかにされています。

 

しかも、経年的に悪化する傾向があります。

 

****ジェンダーギャップの縮まらない日本に光明はあるのか?ジェンダーギャップ指数2019が発表****

世界経済フォーラム(WEF)が、毎年発表しているジェンダー・ギャップ指数の2019年度版を発表しました。

 

日本は昨年よりもランキングを11位落とし、調査対象となった153カ国のうち121位となりました。この結果は、主要7カ国(G7)の中で最低だっただけでなく、2006年から開始したジェンダーギャップランキングの歴史の中で日本にとって史上最低のランクとなっています。

 

「女性の活躍を推進する」や「男女平等社会を目指す」という言葉がテレビなどでもよく見受けられるようになった一方で、なかなか進まないジェンダー格差の解消。日本が抱える課題とは一体何なのか、指標から探っていきます。

 

日本が史上最低のランクとなったジェンダーギャップ指数。過去の推移から原因を探る

ジェンダーギャップ指数とは、健康・教育・政治・経済という4つの分野を14項目に分けてそれぞれの分野の指標におけるジェンダーギャップから総合的に判断されるものです。(中略)

 

ジェンダーギャップランキングの推移を見て行くと、計測開始の2006年から、年々ランキングが下がる傾向にあることがわかります。(中略)

 

つまり日本のジェンダー格差の状態は、この十数年間でほとんど解消されておらず、その結果、相対的な順位が徐々に下がっていていると言えます。

 

では日本のジェンダーギャップにおける課題とは一体何なのか、分野別に見ていくと「政治」・「経済」の分野での遅れが足を引っ張っていることがわかりました。

 

特に「政治」の分野は昨年の125位から20位近くランクを落とし、144位と大きく出遅れています。

また、他国で「教育」の分野におけるジェンダーギャップの解消が進む中、変化のない日本は昨年の65位から大きくランキングを下げました。

 

それではジェンダーギャップにおける日本のウィークポイントである「政治」・「経済」の分野について項目ごとにその指数を見ていきましょう。

 

「経済」分野で指数となるのは次の5つの項目です。

労働参加率 男女間の同一労働での賃金格差 男女間の収入格差 管理職につく男女の人数の格差 専門職、技術職につく男女の人数の格差

 

この項目のうち「労働参加率」、「男女間の同一労働での賃金格差」、「男女間の収入格差」の三つの項目で日本は世界平均を上回っています。

 

一方で、「管理職につく男女の人数の格差」や「専門職、技術職につく男女の人数の格差」世界平均を下回り、特に前者の項目については、平均の半分以下のスコアとなっており、ランキングも131位と著しく低く、女性が要職につきにくいという日本の課題が顕著に表されました。

 

続いて日本のジェンダーギャップの縮小のボトルネックとなっている「政治」分野で指数となるのは次の3つの項目です。

 

国会議員の女性率 閣僚の女性率 過去50年間の女性元首

 

日本は政治分野の全項目で世界平均を下回っていることがわかります。

過去50年間に国家のトップとなる女性がいなかったというのはもちろんのこと、閣僚の女性率の低さも目立ちます。

このような課題は経済での課題として見えた、「女性が要職につきにくい」とも合致しています。(中略)

 

女性が管理職につきにくい状況に変革を。企業の取り組みを探る

女性がなかなか要職に付けない背景には、日本社会に年功序列が根付いており、労働時間に比例して役職につきやすいということがあります。

 

育児や介護などの負担が女性にかかりやすい日本では、必然的に女性の労働時間が長くなったりキャリアに空白期間ができたりして、年功序列から外れてしまう、という事例が多いのです。

 

そこで、近年、女性の活躍にもつながる新たな制度の導入に乗り出す企業も少なくありません。(中略)

 

ジェンダーギャップを解消するためには社会全体での取り組みが必要

一方で、福利厚生を充実させることにも、まだまだ課題は多くあります。

 

例えば、課題の一つとして、家庭の中で福利厚生の充実している企業に勤めている人にライフイベントに伴う負担の比重が偏ってしまい、その人自身だけでなく、企業側にも負担がかかりやすくなる、ということが挙げられます。

 

こうした課題を解消するためにも、働きやすい制度を特定の企業のみが採用するのではなく、社会で広く導入することで、きちんと負担を分け合うことが重要になってくると考えられます。

 

ジェンダーギャップを解消するための様々な改革を取り入れることははじめは負担が大きいかもしれませんが、少子高齢化で労働力不足が続く昨今、継続的に取り組めば、女性の労働力を最大限に活用することもでき、結果的に利益に繋がっていくと考えられます。(後略)【4月15日 データのじかん】

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最近目にした、興味深い記事。

明治時代の女性は、それまでの「まげ」をやめて髪を短く切った時に、役所に届け出る必要があったとか。

 

****明治の女性、髪を切るのに「断髪届」 千葉の民家で発見 ****

明治時代の女性が髪を切った時に千葉県に届け出る「断髪届」が、同県白井市の民家から見つかった。文明開化で男性はまげをやめたが、女性が髪を短くしてまげをやめることは禁止され、届け出をしないと罰せられた。

 

市教育委員会の戸谷敦司・学芸員は「女性に伝統的な美を守らせたいという、当時の価値観を示すとみられる貴重な資料」と話している。

 

市教委が谷田(やた)地区にある旧家の井上家で行った古文書調査で見つかった。日付は1876(明治9)年10月25日。井上家長男の妻が長患いが治るよう願をかけて7月に髪を切った、と義父らが届け出ている。押印されていないことから控えとみられるという。

 

71年に「散髪脱刀令」が出され、「ざんぎり頭をたたいてみれば、文明開化の音がする」と歌われたように男性の断髪が進んだ。女性でも髪を切ってまげをやめる人が出てきた。

 

まげは油で固めるため、洗髪は半日がかり。夏場でも月に1度洗髪できるかどうかで、悪臭のため頭痛に悩まされる人もいたという事情もあったようだ。

 

ところが、女性の断髪に対して世論は反発。72年以降、東京府(当時)を皮切りに全国で軽犯罪を取り締まる「違式●(ごんべんに縦に「土」を二つ。かい)(かい)違条例」が制定され、立ち小便や入れ墨などと一緒に、理由のない女性の断髪も禁止された。

 

戸谷学芸員は「井上家の場合、7月に病気回復の願かけとして髪を切ったのは、病気で夏場は耐えがたかったというのも理由なのでは」と推測している。【6月29日 朝日】

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“夏場でも月に1度洗髪できるかどうか”・・・・想像できない苦労ですね。

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