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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベトナム  成長が期待される経済 反汚職キャンぺーンの国内政治 外交では米中間で微妙なバランス

2023-04-20 23:30:45 | 東南アジア

(アジア開発銀行が発表した2023年の経済成長率の見通しは、ベトナムは6.5%と東南アジアの主要国の中で最も高くなっています。【4月7日 NHK】)

【22年GDP成長率、過去10年間で最高の8%超 中国からの生産移転先としての優位性】
ベトナムは日本にとって、進出企業・在住日本人も多く、また、日本で働くベトナム人も40万人超えて最多・・・・というように非常に関係の深い国となっています。

ベトナム経済は成長著しく、「人口が間もなく1億人を突破して、世界で15番目の人口1億超えの国となり、昨年のGDP成長率は8%超だ」(中国メディアの毎日経済新聞)と、“明るい未来”が期待されています。

****ベトナム、人口が間もなく1億人突破、昨年のGDP成長率8%超―中国メディア****
中国メディアの毎日経済新聞は11日、東南アジアのベトナムについて「人口が間もなく1億人を突破して、世界で15番目の人口1億超えの国となり、昨年のGDP成長率は8%超だ」とする記事を掲載した。

記事によると、ベトナムの人口は昨年4月1日時点で9920万人。今年4月には1億人を突破する見込みで、世界で15番目、東南アジアでは3番目の人口1億超えの国となる。

ベトナムの昨年の実質経済成長率は前年比8.02%で、政府による目標の6〜6.5%を上回り、1997年以来の高い伸びとなっただけでなく、過去10年間で最高の数字となった。

ベトナム中央経済管理研究所(CIEM)のチャン・ティ・ホン・ミン所長は「2022年はベトナムと世界経済にとって非常に困難な1年だったが、政府各当局の努力の結果、GDP成長率は国会で承認された数値を大きく上回り、インフレ率は3.15%に抑制された」と述べた。

一方で、今年は、世界的なインフレ圧力や各国中央銀行による金融引き締め傾向、主要な貿易相手国の景気減速、グローバルなバリューチェーンの継続的な中断などの外部リスクに加え、高インフレや金融不安などの内部リスクに直面することになる。

世界銀行の専門家は「ベトナムは、1人当たりGDPが過去30年間で5倍になり、2045年の高所得国入りを目指している。中所得国のわなに陥るのを避けたいなら、一連の制度改革を推進しなければならない。そうして初めて、世界と国内における新しく複雑な課題に対処する能力を伸ばすことができる」と指摘する。【3月13日 レコードチャイナ】
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投資先としてベトナムが注目されたのは、米中対立の激化や中国国内の政治的動向などから中国へ投資を集中させることの危険性「チャイナ・リスク」の回避策として、中国からの生産移転先としてベトナムが選択された経緯があります。

****チャイナ・プラスワンで優位に立つベトナム****
コロナ禍でもベトナムは他のASEAN諸国とは対照的にプラス成長を維持した。低賃金、中国との近接性、積極的な貿易協定等の締結、が中国からの生産移転先としての優位性を高めたことが大きな要因である。

新型コロナ禍でもプラス成長を維持
(中略)こうした需要面の動きに加え、近年の米中対立の激化を受け企業が中国から生産拠点を移し、これら需要増に対応できる生産能力がベトナムで高まっていたという、供給サイドの要因も指摘できよう。

これは、海外拠点を中国へ集中させることによるリスクを回避し、中国以外の国・地域へも分散して投資する経営戦略である「チャイナ・プラスワン」によって中国依存度の低下が図られるなか、ベトナムが生産移転先の最有力国となっていることを象徴する動きでもある。

ベトナムに生産拠点移転が進む三つの要因
もっとも、ベトナムのビジネス環境は他のASEAN諸国と比べ大幅な改善はみられない。(中略)ビジネス環境がそれほど整備されているとはいえないにも関わらず、企業が中国からの生産移転先としてベトナムを選ぶ要因として以下の3点がある。

1点目が安価な労働力である。
(中略)賃金水準はマレーシアとタイの55%、インドネシアの75%であり、同程度のフィリピンと並んで労働コストの面で高い競争力を持っている。

2点目が中国との近接性である。
(中略)中国で事業を拡大した企業は中国外への生産移管を考える場合も、原材料や部品の中国依存を大きく変えられないことが多い。この点において、北部で中国と国境を接し、陸路での輸送が可能であることがベトナムの優位性となっている。(中略)

3点目が貿易協定等の締結による輸出環境の整備である。
ベトナムは国際経済統合という国是のもと積極的なFTA(自由貿易協定)戦略を展開しており、(中略)企業は他のASEAN諸国に立地した場合、FTAを活用できる市場は世界輸入の約3割であるが、ベトナムに立地することで世界の輸入市場の65%に競争的な条件でアクセスできる。

今後の成長には産業構造の高付加価値化が必要
以上のように、①低賃金、②中国との近接性、③積極的な貿易協定等の締結、という要因が、ベトナムの生産移転先としての優位性を高め、足元での急速な経済回復につながったと言える。

米国での政権交代後も米中対立が緩和する可能性は低いうえ、新型コロナ感染拡大初期の中国での物流停止などを受け、中国依存の低下を図る動きはさらに強まっている。こうした優位性は当面変わらないとみられるなか、ベトナムは輸出をけん引役に堅調な成長を続ける可能性が高い。

しかし、現状のベトナムは「チャイナ・プラスワン」での成長、つまり中国の「低付加価値分野での下請け的な存在」に過ぎないとも言える。(中略)

今後、より賃金の低いカンボジアやラオス、ミャンマーが低付加価値産業の受け入れを拡大させてくることになれば、ベトナムはその地位を維持することが難しくなる可能性がある。

ベトナムが中長期的においても安定的な経済発展を遂げるには、将来的に中国の下請け的な存在から脱し、低付加価値産業の受け入れだけでなく、より高付加価値な産業の育成を強化していくことが求められる。(後略)【2021年01月28日 塚田雄太氏 日本総研】
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日本や欧米の企業だけでなく、米中対立の影響を避けたいのは中国企業も同じで、取引関係にある企業がすでにベトナムに生産拠点を有しているということもあって、中国企業のベトナム進出も盛んなようです。

****中国企業のベトナム投資活発化、米中摩擦の回避狙う****
中国が昨年12月、新型コロナウイルスの感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策を解除して以来、同国からベトナムへの企業投資が急増している。

見えてくるのは、既にベトナムに進出している中国や世界各国の大手メーカーと取引関係がある中国のサプライヤーが、米中貿易摩擦の影響を回避するためにベトナムに拠点を設けるという構図だ。(中略)

背景には、米政府がハイテク関連製品の中国向け輸出規制をじわじわと強化していることや、米中双方が互いに報復関税を発動する展開の中で、中国にいては商売がしにくいという事情がある。さらに中国の人件費高騰も背中を押す要因だ。(中略)

<歴史的な対立>
中国企業のベトナム進出にはリスクもある。両国は血で血を洗う戦いを繰り返してきた歴史があり、今も南シナ海の領有権を巡る対立は消えていない。そうした中でベトナム国民の反中感情の高まりから、2014年には中国への大規模な抗議デモの一部参加者が暴徒化し、中国企業を襲う事件もあった。

ベトナムでは中国企業からの投資申請は特に注意深く審査される傾向があり、あるコンサルタントによると、従業員の労働ビザや労働許可の取得にもより長い時間がかかる。

それでも中国のサプライヤーがベトナムにやってくる流れは止められない。BWインダストリアル・デベロップメントのチャン氏は「中国企業の大半は、先にベトナムに移動した顧客のために進出してきている」と指摘した。【3月18日 ロイター】
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上記のような有利な環境にあるベトナム経済ですが、持続可能な成長のためには、経済における改革はもちろん、経済を取り巻く環境の整備も必要とされています。

****成長力は突出のベトナム 環境悪化で持続可能性に課題**** 
ベトナムは、“超人気国”だ。新型コロナウイルス禍もマイナス成長を経験せず、国際通貨基金(IMF)による経済成長予測は2023年が6.2%、24年は6.6%、今後5年平均も6%を超え、東南アジア諸国連合(ASEAN)でも突出する。

人口も間もなく1億人に達するなど魅力的条件がそろい、直接投資も右肩上がりだ。そのせいか筆者はハノイ在住だが、誰もが今日より明日が良くなると信じており、前向きで明るい気持ちをもらえる。

もちろん良い点ばかりではなく、直近の不動産市場の急落や改正消防法による建設着工の遅れ、昨今判明したコロナ禍での汚職による一連の政府幹部更迭のあおりを受け、今年と来年の成長率や直接投資は下振れする可能性もある。

一方で、1党支配体制をとる共産党と国民の信頼関係は約束された経済成長の上で成り立ち、党が極端な中国重視の政策に偏らない限り、今後5年程度は内需を目的とした投資も堅調だろう。

日本とベトナムの関係も良好だ。両国は今年で外交関係樹立50周年を迎えるが、ベトナムに進出する企業の数は約2000社、在住日本人も2万人に上る。また、日本で働くベトナム人の数も40万人を超え、中国を抜いて世界最多となった。両国首脳は毎年のようにお互いを訪れ、旅行客も後を絶たない。日本がこれまでに緊密な関係を築けている国は、世界を見渡しても他にはないのではないか。

一方で国際社会は、この東南アジアの人気国に対しても「持続可能な」成長を求める。この観点で、ベトナムには潜在リスクが多く存在する。例えばハノイの大気汚染は世界最悪の水準で、ゴミ問題や交通渋滞も年々悪化、都市と地方の医療格差や少子高齢化といった課題も山積している。(後略)【4月3日 緒方亮介氏 エコノミスト Online】
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なお、足元の経済状況は「減速」と芳しくないようです。

****ベトナム経済が急減速****
連続利下げ 輸出・不動産不振

ベトナム経済が急減速している。強みの電子機器輸出が振るわず、不動産市況の低迷が鉄鋼業など幅広い産業に波及。1~3月期の国内総生産(GDP)が市場予想を大きく下回り、政府・中央銀行は連続利下げで景気の下支えに躍起だ。政府が掲げるGDPの年6.5%成長の目標達成は難しいとの見方が大勢だ。(後略)【4月10日 日経】
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【汚職スキャンダルが相次ぎ、国家主席が任期途中で引責辞職】
一方、国内政治の分野ではコロナ禍のもとで汚職スキャンダルが相次ぎ、1月17日にはフック国家主席が責任を取り任期途中で辞職するという異例の事態に。

汚職スキャンダルの一つは、国内の検査キット製造会社が価格を水増しして納入し、計約8千億ドン(約44億円)の賄賂を納入先幹部らに支払っていたとされる2022年の事件で、元保健相や元科学技術相ら100人以上が逮捕されました。

もう一つは、コロナ禍で通常フライトが運休となった状況で、在外ベトナム人の帰国のための特別帰国便をめぐる事件です。認可を希望する運航会社が政府関係者らに約1700億ドン(約9億円)の賄賂を渡し、その負担は乗客の料金に転嫁していたとされ、前駐日大使や旅行会社の幹部ら約40人が逮捕されました。

汚職の蔓延が常々指摘されるベトナムにあって、汚職追放を掲げる最高指導者チョン共産党書記長の反汚職キャンペーンの一環で、それなりの効果をあげてはいますが、官僚が萎縮するなどの副作用も。このあたりは、中国・習近平国家主席が権力闘争手段として行った反汚職キャンペーンと類似しています。

(チョン共産党書記長が21年の党大会で党規約の規定を超えて異例の3期目に入り、権力集中を進めているあたりも習近平主席とよく似ています)

****国家主席辞任にまで至ったベトナムの反汚職運動 今後の行方は?****
英エコノミスト誌1月28日号は「反汚職でベトナム大統領辞任」との解説記事を掲げ、コロナを巡る汚職摘発の動きを説明、反汚職キャンペーンはそれなりに成功しているが、役人の責任回避で経済に悪影響を与えつつあると論じている。要旨は以下の通り。

ベトナム政府は、コロナ禍の国境閉鎖で海外に取り残されたベトナム人のチャーター機による帰還に関する大使館員の汚職を巡り、役人逮捕を始め、複数大臣を含む数十人を起訴。1月17日にはフック国家主席が責任を取り辞職した。

ベトナムで汚職は珍しくないが、国家主席辞任は稀だ。フック氏の辞職は、最高指導者チョン共産党書記長の10年に渡る看板政策の「反汚職」が大きく進んだことを示している。

習近平と同様、チョンは自身と共産党への権力集中のため汚職撲滅を使ってきた。解任された高官のほとんどが政府で昇進してきた者で、結果、党は政府に対しますます優勢になった。

取り締まりは改革努力の一環でもある。78歳のチョン書記長は5年任期の三期目で、対米戦争を成人で経験した最後の世代だ。90年代の市場経済導入以降広がった汚職を追放したいと考えている。

コロナ禍での汚職は挑発的なことだ。2021年12月に医療機器会社CEOが自社のコロナ検査機器購入の為の贈賄容疑で起訴され、保健大臣、科学技術大臣を含む役人が共謀の疑いで逮捕。大使館職員は帰国便便宜で処罰され、4月には副外相逮捕。1月5日には副首相2人失職。うち一人は将来の首相候補の外務大臣だ。

反汚職キャンペーンは、それなりに成功してきた。汚職ランキングでベトナムは世界111位から87位に改善した。(中略)

経済に複雑な影響もある。賄賂を取れない腐敗官僚は投資プロジェクト実施に無関心となり、汚職を嫌う実直な官僚はプロジェクトの認可さえしない。結果、資本投資の支出割合は2011〜14年の70%から2019年に50%に低下。コロナ後反転したものの、昨年は58%に低下した。

官僚はあらゆる形の関与を恐れている。徴税も停滞し、高速道路や地下鉄などの重要インフラプロジェクトも遅延している。(後略)【2月21日 WEDGE】
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なお、後任国家主席にはチョン共産党書記長の側近とされる若手、ボー・バン・トゥオン共産党書記局常務(52)が選ばれています。

トゥオン氏は「クリーンな人物」ということで、チョン共産党書記長が自らの引退後の体制づくりを進めているとの評価も。

なお、ベトナムは中国同様に、表現、結社、平和的集会、そして宗教と信仰の自由を含む基本的な市民的及び政治的権利を厳しく抑制し続けています。

【常に意識される「大国」中国との距離感 ベトナムと関係強化したいアメリカ 微妙なバランス】
外交面では「全方位外交」が基本姿勢ですが、特に問題となるのがその隣の「大国」中国との距離感。

南シナ海・南沙諸島の領有権をめぐっては中国と厳しく対立するベトナムですが、中国に接する地理的条件、これまでも戦火を交えた歴史的経緯もあって、過度に中国を刺激するのは避けたいところ。昨年10月にはチョン共産党書記長が訪中し習近平国家主席と会談、共に社会主義を掲げる両国関係を固めることで一致しています。

習近平主席は、両国関係について「誰にも邪魔させない」と述べ、アメリカを暗に牽制も。

その中国を牽制する意味でも、また、最大の輸出市場という経済的意味でも、かつて「ベトナム戦争」を戦ったアメリカへの接近も目立ちます。

****米国務長官がベトナム初訪問、最高指導者らと会談****
ブリンケン米国務長官は15日、ベトナムの首都ハノイで同国最高指導者グエン・フー・チョン共産党書記長やファム・ミン・チン首相らと会談した。ブリンケン氏がベトナムを訪問したのは国務長官就任後初めて。

米国は中国に対抗するために東南アジア諸国との結びつきを強めることを目指しており、ブリンケン氏はベトナムに対しても二国間関係の強化を働きかけた。

ブリンケン氏は記者団に、両国の関係において重要な要素は安全保障で、米政府がベトナムに3隻目の沿岸警備艇を供与する手続きの最終段階に入っている点を挙げて、この安全保障分野の協力は拡大していると指摘した。

またブリンケン氏は、二国間関係強化の正式な取り決めについても、数週間から数カ月以内に実現する可能性があるとの期待を示した。

ただ専門家の間からは、ベトナムが米国と連携をさらに強めるかどうか懐疑的な声も出ている。ベトナムとしては、米国と接近しすぎて中国を無用に刺激するのを避けたいからだ。【4月17日 ロイター】
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中国を無用に刺激したくないのはアメリカも同じで、ブリンケン国務長官はこの日、報道陣の前で中国を直接名指しすることはなかったとのことです。

3月には最高権力者のチョン書記長がバイデン大統領と電話会談し、関係強化を協議しています。
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アフガニスタン  女子教育再開をめぐりタリバン政権内に意見対立も

2023-04-19 23:40:03 | アフガン・パキスタン

(警察学校の卒業式で演説するアフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権のシラジュディン・ハッカーニ内相=首都カブールで2022年3月5日 【3月4日 毎日】)

【更に女性就労に制約 国連女性職員も勤務禁止に 懸念される人道支援活動の停滞】
アフガニスタン・タリバン政権が女性の教育・就労を厳しく制限していることは再三取り上げているところですが、これまでは例外的に認められていた国連女性職員にも出勤停止が及んでいるようです。

****タリバン、国連女性職員も勤務禁止に アフガン****
国連は4日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン政権が女性のNGO勤務を禁止する措置を国連ミッションにも拡大したとして、「容認できない」と非難した。

国連アフガニスタン支援団は同日、東部ナンガルハル州で国連の女性職員の活動が禁じられたと報告した。

アントニオ・グテレス国連事務総長のステファン・ドゥジャリク報道官は記者会見で「UNAMAが、女性職員の活動を禁じる通達をタリバン暫定政権から受けた」とし、各方面から「対象は国内全土」との情報を得ていると述べた。

タリバンは昨年12月、女性が国内外のNGOで働くことを禁じたが、国連関連は対象外としていた。

ドゥジャリク氏は、書面による禁止命令は届いておらず、5日に首都カブールでタリバン側と協議して確認するとした。

グテレス氏はタリバン側の出方について「受け入れられない。率直に言ってあり得ない」と非難。国連がアフガンで2300万人を対象に行っている人道支援に女性職員は不可欠だと訴えた。 【4月5日 AFP】
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アフガニスタンのように男女の区分が厳しい社会にあっては、一般女性を対象にした業務を行うためには女性スタッフが必要になります。従って、女性職員の出勤停止は単に当事者だけの問題ではなく、女性向けの対象業務がストップすることを意味します。

国連によると現在アフガニスタンでは2830万人ほどが救命のための支援を必要としており、うち2千万人が食糧難に直面し、600万人ほどが飢え死にする危険性を抱えていると言われています。

国連は、今回の女性職員就労禁止は、そのような危機的状況にある人たちに悪影響を及ぼすと警告しています。

【タリバン政権内部に女子教育をめぐる意見対立も “あの”武闘派ハッカニ内相が女子教育再開を求める】
ここまでの話であれば、「やれやれ、タリバンの女性に対する施策は相変わらず・・・」ということになりますが、興味深いのは女性の教育をめぐってタリバン政権内で意見対立があると報じられていることです。

****アフガニスタン女子教育再開撤回 タリバン強硬派が反対****
アフガニスタンで停止が続く女子中等教育について、イスラム主義組織タリバンの最高指導者アクンザダ師が、学校で新年度が始まる3月21日からの再開方針を一部閣僚にいったん伝えたが、強硬派の反対を受け撤回したことが2日、複数のタリバン暫定政権関係者への取材で分かった。

国際社会は女子教育の制限を問題視し政権を承認していない。タリバン内部でも反発が強まっており、アクンザダ師は再開を迫る有力閣僚の反目を恐れて再開方針を伝えたとみられる。

アクンザダ師は独自のイスラム法解釈による統治徹底を図る強硬派の中心人物で、教育政策を巡りタリバン内の溝が深まっている。

複数の暫定政権関係者によると、有力派閥「ハッカニ・ネットワーク」を率いるハッカニ内相と、タリバンの初代最高指導者オマル師の息子ヤクーブ国防相、ムッタキ外相らが2月と3月中旬、アクンザダ師と計4日間にわたり協議。国際社会から孤立している現状を懸念し、日本の中学・高校に当たる女子の中等教育を再開するよう求めた。【4月2日 共同】
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もちろん、どんな政権や政治グループでもそうでしょうが、タリバンも一枚岩などでは決してなく、政権奪取以前の昔から穏健派と武闘派の対立などがありましたので、女子教育をめぐる意見対立があること自体は当然と言うべきことでしょう。

ただ、興味深いのは女子教育再開を求めたのがハッカニ内相らという点です。

ハッカニ内相はバリバリの武闘派・強硬派で、彼が率いるハッカーニ・ネットワークは、これまでアフガニスタン軍や欧米の連合軍に対する最も暴力的な攻撃に関与しており、アメリカはハッカーニ・ネットワークをテロリスト組織に指定しています。

そうしたハッカニ内相が「アメリカや国連の言うことなど無視すればよい」と言ったのであれば“さもありなん”といったところですが、逆に女子教育再開を求めたというところが“驚き”でした。

****タリバンで深まる内部対立 強硬派が異例の苦言、不安定化の懸念****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の強硬派、シラジュディン・ハッカーニ内相が最高指導者アクンザダ師を暗に批判した演説が波紋を呼んでいる。

タリバンの閣僚が公の場で身内に苦言を呈するのは異例で、アクンザダ師の独断的な姿勢に不満を抱いているとみられている。タリバン内で同調する声もあり、政治情勢の不安定化が懸念されている。

「権力を独占し、体制の評判を傷つけることが常態化している」。支持者がツイッターに投稿した動画によると、ハッカーニ氏は2月中旬に南東部ホースト州のイスラム教宗教学校の卒業式に登壇してそう訴えた。

アクンザダ師を名指しすることはなかったが、「こうした状況は容認できない」と続けた。さらに「人々の権利が奪われてはならない」と述べ、タリバン側が市民に歩み寄る必要性を訴えた。

ハッカーニ氏の発言は支持者の間では女子教育に関する政策を想定したと受け止められている。2021年8月に首都カブールを制圧して以降、タリバンは女子の中等学校の再開を延期している。容認してきた女性の大学教育も、22年12月にヘジャブが適切に着用されていないことなどを理由に停止した。

あるタリバン幹部によると、タリバン内部で女性の教育を肯定する人は少なくなく、強硬派の中でも女性の大学教育の停止には疑問を呈する声があるという。

タリバン内部では、国際社会との協調を重視する穏健派と、イスラム法の厳格な解釈に基づく統治を目指す強硬派の対立があると指摘されてきた。

ハッカーニ氏はアクンザダ師と並ぶ強硬派の一角で、米国人らが死亡したテロ事件などに関与した疑いで米連邦捜査局(FBI)から指名手配されている。米国がテロ組織に指定する「ハッカーニ・ネットワーク」を率いるハッカーニ氏はタリバンがカブールを陥落させた際にも主導的な役割を果たしたとされるだけに、今回の発言が注目を集めている。

また、アフガンメディアは2月下旬、タリバンの初代最高指導者オマル師の息子のムハンマド・ヤクーブ国防相が警察官らを前に「全能のアラーは私たちに知性を与えた。私たちは無分別に誰かに従ってはいけない」と語ったと報じた。同じく名指しは避けたものの、現体制に対する批判と捉えられている。

ハッカーニ氏らが苦言を呈する背景には、アクンザダ師とごく限られた側近の間で政策が決定されていることへの不満があると指摘されている。

22年12月に女性の大学教育が停止された後、アフガンメディア「トロニュース」は内務省関係者の話として、ハッカーニ氏とヤクーブ氏が女性教育の再開に向けて協議し、2人が南部カンダハルを訪ねてアクンザダ師とも問題を協議すると報じた。しかし、あるタリバン幹部によると「(アクンザダ師は)彼らと会おうとしなかった」という。

タリバン内には、閣僚らが参加する意思決定機関「指導者評議会」があるが、このタリバン幹部は「(アクンザダ師は)評議会のメンバーを3~5人ずつ個別に呼び寄せて意見を聞いているが、大半のメンバーの助言を聞き入れていない」と語った。

「タリバン内部でも過半数がハッカーニ氏らの意見を支持している」と語り、現在の政策決定方法に不満を抱くタリバン関係者の間で影響力を強めているとみられる。

女性の教育機会の制限を巡っては、国際社会から大きな批判を浴びただけでなく、一般のアフガン市民の間でも反感が広がった。

女性の大学教育が停止されたことを受け、抗議のためにカブール大学を辞任したバハドゥール・シャー助教は取材に対し、「私はこの国の明るい未来に貢献したいと思って教師になった。女性たちの教育が奪われてしまった今、明るい未来を思い描くことすらできない」と訴えた。

小学5年生と今年大学生になる2人の娘の父でもあり、「娘たちには勉強して自分の未来を切り開いてほしい。このまま教育を受けることも就労することもかなわなければ、彼女たちはどうなってしまうのか」と嘆く。

これまでアクンザダ師が表に出て発言したことはほとんどなく、22年7月に宗教学者らが集まった大規模な集会で演説した際も、音声のみが報じられた。

その一方で、ハッカーニ氏とヤクーブ氏が演説する様子は写真や映像とともに報じられ、ネット交流サービス(SNS)でも拡散している。

地元記者は「ハッカーニ氏とヤクーブ氏は一般のアフガン市民の共感を得ることに成功している。アクンザダ師が2人に対して何らかの措置を講じれば、自らの身を滅ぼすことになりかねない」と指摘する。

タリバンが反政府勢力だった旧民主政権時代には、内部対立によって離脱して新たな勢力を結成する幹部もいた。また、離脱した戦闘員が過激派組織「イスラム国」(IS)に合流する可能性も指摘されている。

地元記者は「現在のタリバンが直ちに内部分裂することはないとみられるが、中枢メンバーによる批判的な発言が続けば、暫定政権にとって最大の脅威になるだろう」と話した。【3月4日 毎日】
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ハッカーニ内相の言動は、最高指導者アクンザダ師とその側近に対する権力闘争的な側面もあるようですが、それだけでなく、長く民衆の中で闘ってきた経緯から、一定に民衆の望むところや現実の問題に配慮する現実主義的な面もあるのでしょう。

アフガニスタンの現状は惨憺たるもので、国際社会の支援を緊急に必要としています。

****アフガン、国民の85%が貧困層=タリバン政権奪取後1.8倍に****
アフガニスタンで昨年、生活に必要最低限の収入を下回る水準で暮らす貧困層が約3400万人に上ったことが、18日に公表された国連開発計画(UNDP)の報告書で分かった。国民のおよそ85%に当たるという。

2020年のデータでは、貧困層は約1900万人。21年8月にイスラム主義組織タリバンが政権を奪取して以降、約1.8倍に増えた。【4月19日 時事】 
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こうした現状にハッカーニ内相らが危機感を感じたとしても、あるいは「何のために闘ってきたのか」という思いを抱いたとしても不思議ではないです。もちろん、彼の心中は全くわかりませんが。

いずれにしても、上記【毎日】にあるように、タリバン政権内部に対立の火種が存在するようです。

国際社会の批判に耳をかそうとしない、また民意が反映されるような政治ステムでもないアフガニスタンにあって、女性の人権や貧困に対する対応が変わる唯一の現実可能性は、そうした内部対立からの路線変更だけのように思われますので、注目されるところです。

【タリバン政権支援を改めて示す中国 関心は自国影響力拡大だけか】
タリバン政権へ圧力をかける欧米・国連などの一方で、中国は公式にはタリバン政権を認めていないものの、改めて政権支援の考えを明らかにしています。

****中国、タリバン政権を後押し アフガン問題で立場表明****
中国外務省は12日、アフガニスタン問題に関する立場を表明する文書を発表した。イスラム主義組織タリバン暫定政権が「前向きな努力を続けることを望む」と強調。中国政府は公式には暫定政権を認めていないが、後押しする姿勢を改めて打ち出した。2021年の駐留米軍撤退を受け、地域での影響力拡大を狙っている。

中国外務省によると、秦剛国務委員兼外相は12〜13日、アフガン情勢を巡る近隣国の外相会合に出席するためウズベキスタンを訪問。会合に合わせ、従来の主張を文書で11項目にまとめた。

文書は、米国がアフガン問題の「元凶」だと指摘。対アフガン制裁の即時解除を求めた。【4月12日 共同】
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多くの女性の人権が制約されていることをどのように考えているのか問いたいところですが、ウイグル・チベットで人権を無視している中国にとっては「内政には干渉しない」ということなのでしょう。国際政治は、中国の影響力を高めるためのパワーゲームに過ぎないということか。

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ウクライナ産穀物 黒海からの輸出はロシアの圧力で停滞 ポーランド等は自国農業保護で輸入禁止へ

2023-04-18 23:18:08 | 欧州情勢

(ウクライナ産穀物の大量流入に抗議し、道路を封鎖するポーランドの農家=3日、ポーランド・シュチェチン【4月18日 時事】)

【黒海からの穀物輸出合意 ロシアの圧力で「停止の危機」】
世界有数の穀物輸出国であるウクライナからの穀物輸出がロシアとの戦争で停止したことで、食糧不足・価格高騰といったその影響はアフリカ・中東・国際的支援団体の食糧援助国など世界全体に及びました。

そうした深刻な事態を受けて、ウクライナ産穀物を黒海の港から安全に輸出するための合意が国連とトルコの仲介で昨年7月になされ、その後も合意は延長されてきました。

しかし、ロシアは合意の条件であった自国の食料および肥料輸出に関する制裁解除などの障壁除去が履行されていないとして不満を示し、前回3月の延長は実現するか危ぶまれました。

結果、「一応」延長合意はなされたものの、期間が明示されないという曖昧さが残るものでもありました。

****黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意、少なくとも60日延長が決定****
ウクライナ産穀物を黒海の港から安全に輸出するための合意が(3月)18日、少なくとも60日延長されることが決まった。当初目指していた120日の半分にとどまり、ロシア側は5月半ば以降に再延長するかどうかは西側諸国の経済制裁一部解除が条件になるとの見解を示している。

輸出合意は国連とトルコがロシアとウクライナを仲介する枠組みで、昨年7月に成立した後、1月に120日間延長され、18日がその期限となっていた。

国連とトルコはさらに合意が延長されたと発表したが、期間は明示していない。ウクライナは120日延びたと主張しているが、ロシアは60日の延長を受け入れたと明かした。

ロシアのネベンジャ国連大使は17日、欧州連合(EU)と米国、英国が「穀物輸出合意を継続したいのであれば、ロシアの農業セクターを含む事業活動の全体系に対する制裁を免除するために2カ月間の猶予がある」とコメントした。

さらにネベンジャ氏は、保険分野の制裁解除やロシア船の港利用、ロシアの肥料会社による資金調達などを再び認めることも必要だと指摘した。【3月20日 ロイター】
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ロシアからすれば、制裁を免除するために2カ月間の猶予を与えた・・・という立場で、その履行を求めて延長合意後も圧力をかけています。

****ロシア、黒海穀物輸出合意から離脱の可能性を警告****
ロシアは7日、国連とトルコが仲介した黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意に関し、ロシアの農産物輸出への障害が除かれない限り、離脱する可能性があると警告した。トルコの首都アンカラでの協議で、障害を取り除くことが5月以降の合意延長の必要条件になることを確認した。

ロシアのラブロフ外相は協議で、トルコのチャブシオール外相と合意の条件に関する「失敗」について議論したと言及。西側諸国が農産物輸出の障害を取り除こうとしない場合、ロシアは合意から離脱する可能性があると言及した。

ラブロフ氏は、国連のグテレス事務総長が合意で求めている内容に西側諸国が誠実に対応することを望まないのであれば、ウクライナは輸出のために陸路や河川を経由することを迫られるだろうと警鐘を鳴らした。

その上でロシアは「必要であればこの合意の枠外で動くことになる。トルコやカタールとも協力する機会がある。大統領らが関連計画について協議した」と語った。

チャブシオール氏はラブロフ氏と同席した記者会見で、トルコは5月中旬以降も合意を延長できるように取り組むと表明。「われわれは、ロシアとウクライナの穀物と肥料の輸出のためだけでなく、世界の食糧危機を食い止めるにも合意の継続を重視している」とし、「ロシアの穀物や肥料の輸出の障害を除くべきだという点にも同意している。穀物(輸出)合意をさらに延長するため、課題に対応する必要がある」と述べた。

ラブロフ氏は、ロシアの穀物や肥料の輸出が、保険や国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)にアクセスできなくなったことの悪影響を受けていると主張した。【4月8日 ロイター】
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現実問題として、ロシアによる貨物船の検査妨害(ウクライナ主張)という形で、黒海の港からのウクライナ産穀物輸出が十分に機能しない状況にもなっています。

****黒海での穀物輸出「停止の危機」 ロシアが検査妨害、とウクライナ****
ウクライナのクブラコフ副首相兼インフラ相は17日、黒海を通じたウクライナ産穀物輸出を実現させているロシアとの合意が「停止」の危機にあるとツイッターに投稿した。

ロシアによる貨物船の検査妨害が原因だと批判。ロシアは合意の期限を5月中旬と主張しており、延長の可否は不透明感を増している。

ウクライナメディアによると、インフラ省は声明で「(ロシアが)世界の食料安全保障を危険にさらし、農産物を武器として利用しようとしている」と述べた。

穀物輸出の合意は国連とトルコの仲介で、ロシアとウクライナを含む4者で締結した。今年3月に延長されたが、期限はロシアとウクライナで見解が異なる。トルコ政府によると、クブラコフ氏は18日にトルコでアカル国防相と会談。合意維持に向けて協議するとみられる。

ウクライナ産の農産物を巡っては、ポーランドとハンガリーが自国農業の保護を目的に一部の輸入停止を発表した。スロバキアも17日に停止を決めた。黒海経由の輸出が滞り、地続きの東欧諸国には安価なウクライナ産の穀物が滞留している。【4月18日 共同】
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【陸路で中東欧に向かうウクライナ産穀物 ポーランド等が自国農業保護のため輸入禁止】
記事最後にあるように、黒海からの海上輸出が停滞する状況で、安価なウクライナ産穀物が陸路で中東欧に向かっている結果、ポーランドやハンガリーなどにおいて自国農業への打撃という新たな問題を惹起しています。

****ウクライナ産穀物 周辺3カ国が輸入禁止に 国内農家打撃で****
ウクライナ産穀物の流入により自国産の価格が下落していることを受け、ポーランドなど周辺3カ国がウクライナ産穀物などの輸入停止に踏み切りました。

ウクライナ産穀物を巡ってはロシアのウクライナ侵攻以降、黒海経由での輸出が困難になりました。

EU=ヨーロッパ連合は関税を免除して輸出を促進していますが、東ヨーロッパや中央ヨーロッパの国々では価格の安いウクライナ産が国内に流通したことで自国産の価格が下落し、地元農家の不満が高まっています。

こうした状況を受けてポーランドとハンガリーは15日、自国の農家を保護するためウクライナ産穀物や農産物の輸入禁止を発表し、スロバキアも17日、同様の発表に踏み切りました。

ウクライナとEUは反発していますがブルガリアも輸入禁止を検討していて、ウクライナ産穀物を巡る混乱は今後も続くとみられます。【4月18日 テレ朝news】
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事態打開のためにウクライナはポーランドとの協議に臨んでいます。

****ウクライナ、ポーランドと協議へ 穀物輸入禁止巡り****
ポーランドが自国の農業部門保護を目的にウクライナからの穀物やその他の食品の輸入禁止を発表したことを巡り、ウクライナは輸入禁止撤回を求める「第一歩」として、17日からポーランドの首都ワルシャワで行われる協議に参加する。ポーランド経由での穀物輸送再開が目的で、関係者によると、協議は18日まで続く公算が高いという。

ポーランドとハンガリーは15日、ウクライナからの輸入を一部禁止すると発表。スロバキアも17日、同様の措置を実施すると発表したほか、中欧・東欧の他の国々も検討しているという。

ロシアのウクライナ侵攻で黒海の港が封鎖された後、安価なウクライナ産穀物が中欧諸国に滞留し、地元農家の打撃となっている。

EUの執行機関である欧州委員会は16日、ポーランドとハンガリーが自国の農業部門保護を目的にウクライナからの穀物やその他の食品の輸入禁止を発表したことについて、一方的な行動は容認できないと警告した。

ウクライナのソルスキー農業政策・食料相によると、ウクライナの食料品輸出のうち、ポーランド向けが占める割合は約10%、ハンガリー向けが約6%という。【4月18日 ロイター】
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ロシア寄りのハンガリーは別として、ポーランドもスロバキアも自国保有のミグ戦闘機をウクライナに供与するということで、これまでウクライナを積極的に支援してきた国です。

ただ、そのことと、自国農業の保護はまた別の話になります。

****安価なウクライナ産穀物、ポーランド流入で農民反発…副首相「自国民の利益も守る」****
ロイター通信によると、ポーランド政府は15日、ウクライナ産の穀物など農産物の輸入とポーランド国内の通過の禁止を決め、同日から適用を始めた。

ポーランドでは、欧州連合(EU)のウクライナ支援策として関税を免除した安価なウクライナ産穀物が大量に流入し、農民が反発を強めていた。

同通信によると、ポーランドのヤロスワフ・カチンスキ副首相は、「ウクライナを支援することは変わらないが、自国民の利益を守るのも国家の義務だ」と述べ、ウクライナ側に理解を求めた。

これに対し、ウクライナ農業政策・食料省は「ウクライナの農家が最も困難な状況にある」との声明を出した。

ハンガリーとスロバキア政府も15〜17日、ウクライナ産穀物の輸入を停止する方針を示した。EUは16日、「一方的な措置は受け入れられない」として、ポーランドなどの対応を批判した。【4月18日 読売】
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ロシア産石油・天然ガスの輸入規制の問題は暖冬ということもあってこの冬は大きな問題とならずにすみましたが、長引く戦争はいろんな形で問題を引き起こします。

EUがウクライナ支援で結束を維持するのは容易なことではありません。

****ウクライナ産穀物、輸入停止=周辺国で「支援疲れ」鮮明―EUは反発****
ポーランドとハンガリーが18日までに相次いでウクライナ産穀物の輸入停止を打ち出した。

両国とも国内市場を保護するための6月末までの限定的な措置としているが、ウクライナ支援で「主導的役割」(欧州メディア)を果たしてきたポーランドがこうした対応に踏み切ったことで、周辺国の「支援疲れ」が鮮明になった形だ。

一方で欧州連合(EU)は反発している。(中略)

ウクライナは世界有数の穀倉地帯だが、ロシアによる侵攻の影響で主要ルートだった黒海経由の穀物輸出が滞り、食料危機の懸念が高まった。

EUはこれを受け、ウクライナのEU向け輸出品に対する関税を停止。域内を経由した第三国への輸出も推進した。

この結果、ウクライナ産品が近隣のEU諸国に大量に流入し、市場価格の下落を招いた。ポーランドでは農家の抗議行動も起きたという。

同国は年内に総選挙を控えており、輸入停止を通じて有権者の支持をつなぎ留める狙いもありそうだ。

EU欧州委員会の報道官は17日の会見で「通商政策の判断はEUに独占的権限がある」と強調。加盟国が単独で対応するのは「不可能」と指摘し、両国を暗に批判した。

しかし、既に同様の対応は他国にも広がっている。スロバキアは17日、ウクライナ産穀物などの輸入停止を決定。ブルガリアのメディアによると、同国も検討中だという。【4月18日 時事】 
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アルメニア  ロシア「同盟国」ながら、アゼルバイジャンとの紛争に手をうたないロシアから離反進む

2023-04-17 23:36:45 | ロシア

(色が着いたエリアをアルメニアが実効支配していましたが、2020年の紛争で色の薄い部分をアゼルバイジャンが奪還し、アルメニア支配は色の濃い部分だけになっています。そのアルメニア支配の濃い部分がアルメニアと繋がっているのが「ラチン回廊」)

【アルメニア 機能しないロシア平和維持部隊に強い不満】
ともに旧ソ連のアルメニアとアゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフをめぐって争いを続けているのは周知のところです。

ナゴルノ・カラバフは住民の大半がアルメニア人という地域で、ソ連時代にはアゼルバイジャン共和国の自治州でしたが、1990年代の「第1次紛争」でアルメニアの実効支配下に入りました。

しかし、2020年、トルコの支援を受けたアゼルバイジャンは「第2次紛争」でその相当部分を奪還しています。

その後も両国の衝突は絶えず、昨年9月には双方の兵士合わせて200人以上が死亡する大規模な衝突が再発、12月にはアルメニア領内からナゴルノ・カラバフに向かう唯一の道路をアゼルバイジャンの自称市民団体が封鎖し、ナゴルノ・カラバフでは食料や医薬品が入らなくなるという事態にもなりました。

ロシアの同盟国アルメニアは、ロシアがこの紛争・衝突に対し実力行使しないこと不満を強めています。
昨年11月にアルメニアの首都エレバンで開催されたロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議では、アルメニアは共同宣言への署名を拒否、首相の言動にもロシアへの不満が強くあらわれていました。

****プーチンが近づくのを露骨に嫌がる...ロシア「同盟国」アルメニア首相の行動が話題****
<プーチンの貴重な「味方」であるはずのアルメニアだが、アゼルバイジャンとの紛争でロシアの支援がなかったことに不満を募らせている>

ロシア主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)の首脳会議で、アルメニアのニコル・パシニャン首相が写真撮影の際、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領からあからさまに距離を置こうとしている様子が収められた動画が公開された。パシニャンは、同会議で共同宣言への署名を拒否するなど、ロシアへの不満をあらわにしている。(中略)

(動画を投稿した米議会の欧州安全保障協力委員会(CSCE)の)ニシャノフは「アルメニアのパシニャン首相は、プーチンからできるだけ離れたところに立とうとしている。そしてプーチンもそれに気づいている。ロシアが主導しているはずの安全保障圏の会合で侮辱されるとは」と述べた。

パシニャンは首脳会議の共同宣言について、自国の領土保全に対する「侵略」を行った隣国アゼルバイジャンについての記述がないことを非難し、署名を拒否していた。

東欧メディアのNEXTAが公開した首脳会議の別の映像では、パシニャンが共同宣言に署名をせずに、会議の閉会を宣言する様子が捉えられている。各国首脳と共に会議のテーブルを囲んだパシニャンは、「閉会します。ありがとうございました」と言い、同席していたプーチンやベラルーシのアレクサドル・ルカシェンコ大統領は、狼狽するような素振りを見せた。

CSTOは、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、ロシアの6カ国で構成されている。

9月に起きた紛争へのロシアの対応に不満
パシニャンは(2022年11月)23日、「アルメニアがCSTOに加盟していながら、アゼルバイジャンの侵略行為を防げなかったことは憂慮すべきことだ」と発言。

「今日までに、アゼルバイジャンのアルメニア侵略に対するCSTOの対応について決定に至っていない。これらの事実は、我が国内外のCSTOのイメージを大きく損ねている。これはCSTO議長国としてのアルメニアの重大な失敗と考えている」と述べた。

アルメニアとアゼルバイジャンの間では、9月に紛争が発生し、双方の兵士合わせて200人以上が死亡。2020年に6000人以上が死亡して以来、最悪の衝突となった。

44日間にわたった2020年の紛争では、アゼルバイジャンが領土を奪還した。アルメニア政府は当時、CSTOに支援を要請したが、CSTOはオブザーバーの派遣を約束するにとどまった。

パシニャンとプーチンは23日に会談も行っている。パニシャンは、アルメニアとアゼルバイジャンが署名し、ロシアが支援する3国間協定についても協議したと明らかにした。「これらは非常に重要な問題だ。この地域の長期的な平和を確保するための問題について協議するべきだ」とパシニャンは述べた。

なおプーチンは、CSTO首脳会議について「すべての問題で合意に達することは稀だが、全体として非常に集中的で有益だった」と述べた。【2022年11月26日 Newsweek】
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アルメニアは、ロシア・プーチン大統領に事態の収拾(有体に言えば、アゼルバイジャンを力で抑え込む対応)を強く求めています。

昨年12月に開催されたロシア主導の独立国家共同体(CIS)非公式首脳会でも、アルメニアのパシニャン首相は、係争地ナゴルノ・カラバフ周辺に展開したロシアの平和維持部隊が「機能していない」として、プーチン大統領に苦言を呈しています。

****アルメニア首相、ロシア平和維持部隊の役割に疑問符****
アルメニアのニコル・パシニャン首相は(2022年12月)27日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談で、自国とアゼルバイジャンの係争地ナゴルノカラバフに展開したロシア平和維持部隊の役割に疑問を呈した。

人口約12万人のナゴルノカラバフでは今月中旬から、アゼルバイジャンの活動家らが違法採掘に抗議するとしてナゴルノカラバフとアルメニアを結ぶ唯一の陸路、ラチン回廊を封鎖。その結果、ナゴルノカラバフでは食料、医薬品、燃料などの搬入が止まっている。

この抗議行動について、アゼルバイジャン側は自然発生的なものだと主張しているが、アルメニア側は同国にナゴルノカラバフを放棄させるためにアゼルバイジャンが仕組んだものだと非難している。

パシニャン氏は独立国家共同体非公式首脳会議が開かれたロシア・サンクトペテルブルクでプーチン氏と会談。ラチン回廊は「ナゴルノカラバフに駐留するロシア平和維持部隊が責任を負うべき地域である」にもかかわらず、「管理されていない」と指摘した。 【2022年12月28日 AFP】
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アルメニアはロシアとの軍事演習も拒否。

****アルメニア、ロシア主導の軍事演習拒否=係争地巡る不満で****
アルメニアのパシニャン首相は10日、同国で今年予定されているロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)の軍事演習を拒否する考えを示した。タス通信によると、記者会見で「現状で演習を行うことは不適切だとアルメニア国防省がCSTOに書面で通知した」と述べた。(後略)【1月10日 時事】
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【米仲介の首脳会談も】
2月にはアルメニア・アゼルバイジャン両国首脳の会談が行われましたが、「口論」に終わっています。

****ナゴルノ問題協議も対立、アルメニアとアゼル首脳会談****
アルメニアのパシニャン首相とアゼルバイジャンのアリエフ大統領は18日、ドイツで開かれた国際会議「ミュンヘン安全保障会議」に出席した際、係争地ナゴルノカラバフ地域について会談したが口論を繰り広げ、溝が鮮明になった。

両氏が直接顔を合わせるのは昨年10月以来。会談はブリンケン米国務長官の仲介で行われ、和平に向けた進展があったと双方が発表した。

しかしその後開かれたパネルディスカッションでアリエフ氏が、アルメニアは30年近くアゼルバイジャンの領土を占拠していると非難し、ナゴルノカラバフ分離派の高官を批判。

一方のパシニャン氏は「アゼルバイジャンは報復政策をとっている」と主張。この会議を使って「不寛容、憎悪、攻撃的な言い回しをあおり立てる」のか、事態の改善を図るつもりなのかと詰め寄り、対立が露わになった。

ナゴルノカラバフは国際的にアゼルバイジャンの領土と認められているが、住民はアルメニア人が大半を占めている。【2月20日 ロイター】
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「口論」は予想される展開ですが、ブリンケン米国務長官の仲介というのが興味深いところ。
ロシアが手をこまねいている状況で、アメリカの影響力を強めようという意図でしょうか。

【「手が回らない」ロシア アゼルバイジャン・トルコを刺激したくない思惑も】
現地では3月にも銃撃戦があったようです。
ロシアは自制を呼び掛けており、衝突の鎮静化に平和維持軍が介入したとも。

****ロシア、ナゴルノカラバフ銃撃戦「深刻に懸念」 自制呼びかけ****
ロシア外務省のザハロワ報道官は6日、係争地ナゴルノカラバフ地域の緊張の高まりに「深刻な懸念」を表明し、自制を呼びかけた。

旧ソ連アルメニアとアゼルバイジャンの間の係争地ナゴルノカラバフで5日、銃撃戦が発生し5人が死亡。ロシア国防省によると、アゼルバイジャン軍が地元の法執行官が乗った車両に向けて発砲し、3人が死亡、1人が負傷した。これを受け、親アルメニア派がアゼルバイジャン兵士2人を殺害したという。

ザハロワ報道官は声明で「今回の事件でアゼルバイジャンとアルメニアができるだけ早期に協議を再開する必要性が改めて確認された」とし、「双方が自制し、緊張緩和のための措置を講じるよう呼びかける」とした。

ロシア国防省は、5日の衝突の鎮静化に平和維持軍が介入したと明らかにし、衝突の実態を解明するためにアゼルバイジャンとアルメニア両国の当局者と協力していると明らかにした。

アルメニアとアゼルバイジャンのナゴルノカラバフ支配権を巡る紛争は約35年間続いており、ロシアは2020年に数千人規模の平和維持軍をこの地域に派遣。

ロシアがウクライナへの侵攻を続ける中、ナゴルノカラバフで新たな衝突が発生したことは、ロシアの南コーカサス地域での影響力への重要な試練とみられている。【3月7日 ロイター】
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ただ、素人でも容易に想像できるように、ウクライナで手一杯のロシアはとてもナゴルノ・カラバフどころではないでしょう。ナゴルノ・カラバフの平和維持軍もウクライナに投入したいところでしょう。

4月に入ってからも衝突は発生しています。

****「そこまでは手が回らない」──旧ソ連の国々の紛争にはプーチンもお手上げ****
<ナゴルノカラバフ地方のラチン回廊で両国軍の兵士が発砲し、死者が出る事態に。ウクライナ戦争に総力を注ぎ込んでいる今、そこまで対応できないという見方が>

旧ソ連のアルメニアと隣国アゼルバイジャン間の係争地ナゴルノカラバフ地方のラチン回廊で4月11日、両国軍の兵士が発砲し、双方に7人の死者が出る事態となった。

今回の衝突は、2020年に起きた6週間のナゴルノカラバフ紛争の延長線上にある。この紛争はロシアの仲介で停戦に至ったが、火種が全て取り除かれたわけではない。

衝突に先立つ7日にはアルメニアのパシニャン首相がロシアのプーチン大統領と電話会談し、ナゴルノカラバフの状況について協議。

双方で停戦合意を履行することの重要性を確認し合ったとされるが、その直後にアルメニア側に通じる唯一の補給路であるラチン回廊で両軍が衝突した。

ロシアはこれまで、旧ソ連構成国であるアルメニアとアゼルバイジャンに影響力を及ぼそうとしてきたが、ウクライナ戦争に総力を注ぎ込んでいる今、この2カ国の紛争にまで手が回らないとの見方もある。
プーチンにとっては新たな頭痛の種かもしれない。【4月17日 Newsweek】
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「手が回らない」だけでなく、ロシアには友好関係にあるアゼルバイジャンや同国の後ろ盾であるトルコと敵対する事態を避けたいという事情もあります。

【米との軍事演習、プーチン逮捕の可能性もあるICC加盟も視野に・・・進むアルメニアのロシア離れ】
有効な手が打てないロシアに対し、アルメニアのロシア離れが進んでいます。

アルメニアの憲法裁判所が最近、国際刑事裁判所(ICC)の管轄権を定めた「ICCローマ規定」に同国が加盟することは合憲だと判断。もし加盟ということになると、ICCはプーチン大統領に逮捕状を出していますので、アルメニアを訪問したプーチン大統領をアルメニアが逮捕・・・ということも「理屈の上では」成立します。

アルメニア側の判断は、そうしたこを念頭に置いた、ロシアへの抗議でしょう。
ロシアはアルメニアに「警告」しています。

****露、アルメニアに警告 ICC加盟でプーチン氏拘束を危惧****
ロシアと軍事同盟を結ぶ南カフカス地方の旧ソ連構成国、アルメニアの憲法裁判所が最近、国際刑事裁判所(ICC、本部=オランダ・ハーグ)の管轄権を定めた「ICCローマ規定」に同国が加盟することは合憲だと判断した。

今後、アルメニア議会がICC加盟の是非を検討する。これに対し、露外務省は27日までに「プーチン大統領に逮捕状を出したICCの管轄権をアルメニアが認めることは容認できず、両国関係に重大な結果をもたらす」とアルメニアに警告した。露外務省筋の話としてタス通信や国営ロシア通信が伝えた。

ロシアはアルメニアがICCに加盟した場合、同国訪問時などにプーチン氏が拘束される可能性があるとみて、同国のICC加盟を阻止する思惑だとみられる。ICCは17日、ウクライナの子供の連れ去りに関与した疑いでプーチン氏に逮捕状を出した。

タス通信によると、アルメニア政府は、係争地「ナゴルノカラバフ自治州」を巡って2020年に大規模紛争が起きた隣国アゼルバイジャンの戦争犯罪を追及する目的で、ICCへの加盟を検討。

昨年末、アルメニア政府はICC加盟の合憲性に関する審査を同国憲法裁に求めた。憲法裁は今月24日、ICC加盟は合憲だと判断。憲法裁の判断は取り消し不可能だという。

今回の憲法裁の判断には、ロシアに対するアルメニアの不満が反映された可能性がある。

20年の紛争で、アルメニアとアゼルバイジャンはロシアの仲介で停戦に合意。ただ、アルメニアは同自治州の実効支配地域の多くを失う形となり、以降、ロシアへの不満をたびたび表明してきた。アゼルバイジャンとの間で昨年9月に再び衝突が発生した際も、アルメニアは自身が加盟する露主導の軍事同盟「集団安全保障条約機構(CSTO)」に介入を求めたが、CSTOは事実上拒否した。

ロシアはウクライナ侵略で余力がないことに加え、友好関係にあるアゼルバイジャンや同国の後ろ盾であるトルコと敵対する事態を避けたとの見方が強い。(後略)【3月29日 産経】
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更にアルメニアは米軍主導の軍事演習にも参加するとのこと。

****アルメニア、米軍と演習へ ロシア反発も****
アルメニア国防省は7日、欧州地域で今年実施される米国主導の軍事演習に参加すると明らかにした。タス通信が報じた。

アルメニアは旧ソ連6カ国でつくるロシア主導の「集団安全保障条約機構(CSTO)」に加盟しているが、係争地ナゴルノカラバフを巡る隣国アゼルバイジャンとの紛争に関する対応を不満として、今年は自国領内でのCSTO合同演習を受け入れない方針。米軍との演習への参加はロシアの反発を招くとみられる。

ロシア大統領府によると、プーチン大統領は同日にパシニャン・アルメニア首相と電話会談し、ナゴルノカラバフ問題を協議した。発表は軍事演習参加問題には触れていない。【4月7日 共同】
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ここまでくると、アルメニアとロシアの「同盟関係」が大きく揺らぎます。

****旧ソ連・アルメニアがロシア離れ? ナゴルノカラバフ巡り不満か****
親露国家とみられてきた旧ソ連のアルメニアが、米軍主導の演習に参加を発表するなど対露姿勢に変化が生じている。ウクライナ情勢を巡ってプーチン露大統領に逮捕状を出した国際刑事裁判所(ICC)への加盟検討も進めており、ロシアは反発を強めている。

◇米主導演習参加、ICC加盟の動き
(中略)アルメニアはロシアが主導する軍事同盟「集団安全保障条約機構」(CSTO)に加盟するが、ナゴルノカラバフ情勢への対応の不満から、今年は自国領内での演習を受け入れない方針を表明した。米軍主導の演習に参加すれば、ロシアとの関係が悪化する可能性もある。(中略)

ICC加盟に向けた動きも、背景にあるのはナゴルノカラバフ情勢だ。(中略)

両国の関係がもつれる中、ロシアは3月末、アルメニアからの乳製品の輸入を禁じると発表した。衛生上の理由だとしているが、ICCへの加盟を巡り、アルメニアに圧力をかける意図もあるとみられる。【4月9日 毎日】
*******************

ロシアのウクライナ侵攻によって、ロシアは自国軍事力の実態を世界に曝し、経済の長期的悪化を余儀なくされ、中立だったフィンランド・スウェーデンをNATO加盟に向かわせ、その混乱の余波でアルメニアにも十分な対応ができずに離反を招く・・・中央アジアの旧ソ連構成国でもロシア離れが進んでいます。

プーチン大統領の「失敗」のつけはロシアにとって極めて大きなものになりそうです。
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ドイツ  「脱原発」完了、安定供給・価格には問題も 「石炭」に頼る日本はG7で矢面に

2023-04-16 23:00:23 | 資源・エネルギー

(【4月15日 西日本】)

【ドイツ 世論調査で「脱原発」に反対が59%】
東京電力福島第1原発事故を受けて「脱原発」を目指すドイツが、残る最後の3基を停止し、「脱原発」を実現したのは報道のとおり。

****ドイツで「脱原発」が実現 稼働していた最後の原発3基が停止****
国内すべての原子力発電所の停止を目指してきたドイツでは、15日、稼働していた最後の3基の原発が停止する日を迎え、「脱原発」が実現します。今後、再生可能エネルギーを柱に電力の安定供給を続けられるかなどが課題となります。

ドイツは2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて当時のメルケル政権が「脱原発」の方針を打ち出し、17基の原発を段階的に停止してきました。

「脱原発」の期限は去年末まででしたが、ウクライナに侵攻したロシアがドイツへの天然ガスの供給を大幅に削減したことで、エネルギー危機への懸念が強まり政府は稼働が続いていた最後の3基の原発について停止させる期限を今月15日まで延期していました。

15日、3基が発電のための稼働を停止する日を迎え、このうち南部のネッカーウェストハイム原発の近くでは「脱原発」を求めてきた市民団体などが集会を開き参加者は「原子力発電がついに終わる」と書かれた横断幕を掲げて喜んでいました。

参加者たちは「原発の危険性がなくなりうれしい」とか、「何年も求めてきた『脱原発』が実現できてよかった」などと話していました。

ただ、ドイツではエネルギーの確保が課題となる中、今月の世論調査で「脱原発」に反対と答えた人が59%で賛成の34%を大きく上回り、経済界からも懸念が示されています。

今後は政府がさらなる拡大を目指す再生可能エネルギーを柱に電力の安定供給を続けられるかや高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の処分などが課題となります。【4月16日 NHK】
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しかし、上記記事にもあるように、ウクライナ戦争を受けて「脱原発」の手段としていたロシアからの天然ガス輸入が大幅に削減され、電力の安定供給に不安が生じたことで国民世論・経済界は「脱原発」に反対の姿勢です。

2011年には電力構成の18%を占めていた原発は、これまでから進めてきた稼働停止によって、すでに2022年6月時点には6%へと低下しており(再生可能エネルギーは20%から44%に増加)、今回の3基による電力を再生可能エネルギーで代替すること自体は可能と思われますが(当面は石炭火力でカバーし、将来的には再生可能エネルギーへ転換)、今後電力の安定供給が揺らぐと、これまで進めてきた「脱原発」が妥当だったかどうかが問われることになります。

****ドイツの脱原発が完了、稼働中の3基が運転停止…エネルギーの安定供給に課題****
ドイツで15日、稼働中の原子力発電所3基が運転を停止する。2002年の法制化から約20年をかけ、「脱原発」が完了することになる。ドイツ政府は風力や太陽光などの再生可能エネルギー拡大を急ぐが、電力の安定供給をどう維持するかが課題となる。(中略)

ウクライナ侵略でロシアが天然ガスの供給を絞り込み、エネルギー不安が高まったため、ショルツ政権が昨年末での全廃予定を先送りしていた。

ドイツの脱原発は、左派のシュレーダー社民党政権時代に法制化された。保守のメルケル前政権が産業界に配慮していったん方針を見直したが、11年の東京電力福島第一原発事故を受けて再転換した。

22年末までの全廃に向け、原子炉17基の段階的閉鎖を進めた。各地で廃炉作業が行われているが、放射性廃棄物の最終処分地は決まっていない。

最後に運転を停止する3基は、国内発電量の約5%をまかなっていた。今後は再生可能エネルギーの普及を急ぎ、30年までに80%、将来的に100%を確保する計画だが、風力発電などは天候に左右されやすいため、蓄電技術の向上が求められる。

原発停止への国民の支持は低下している。独公共放送ARDが11〜12日に行った世論調査では、59%が原発停止は「間違い」と回答した。66%が電気代高騰への懸念を示し、電力に関する不安は根強い。

自動車などの産業が集積するドイツ南部は再エネ資源に乏しく、原発停止への反対論が根強い。バイエルン州首相のマルクス・ゼーダー氏は13日にイザール2を視察し、「原子力からの撤退は重大な誤りだ。ドイツにとって危険なことだ」と懸念を示した。【4月15日 読売】
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ドイツの電力価格は、推進する再生可能エネルギーへの補助金をまかなう賦課金もあってEU内でも比較的高く、ウクライナ情勢による、ロシアからの天然ガスの供給が途絶えたことなどで電気やガスの料金がさらに値上がりしました。

【高い電力価格で国際競争力への不安も】
今後、電力不足時には一段の高騰も懸念され、連立与党内に「脱原発は戦略的な誤り」(産業界寄りの自由民主党)との批判もあります。

****「脱原発」を実現するドイツ、「脱ロシア」を進める中で競争力を維持できるか****
経常収支の黒字減少が物語る現実、天然ガスのLNG代替で発電コストは高止まり

(中略)そもそもドイツ政府は「脱炭素」と「脱原発」の二兎を追う戦略を描いていた。そのために、再エネ発電の一段の普及を図るとともに、移行期間においてはガス火力発電を活用するという二段構えの戦術を用意していた。その火力発電に使う天然ガスの主な調達先は、ドイツと経済的な友好関係にあったロシアであった。

そのロシアが、2022年2月24日にウクライナに侵攻したことで、事態は急変した。欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会を中心に化石燃料の「脱ロシア化」が宣言され、EU各国がロシア産の化石燃料の利用の削減に努めることになったのだ。

当初は慎重だったショルツ政権も、徐々に「脱ロシア化」を進めざるを得なくなった。
そして、ドイツは「脱炭素」と「脱原発」に加えて「脱ロシア」の三兎を追う戦略を進めた。再エネ発電の普及を進める一方、ガス火力発電に関してはロシア産の天然ガスの利用が難しくなったため、代替手段として第三国から液化天然ガス(LNG)を輸入する必要に迫られたのである。

ガスの「脱ロシア化」がもたらすコスト増
ドイツの電源構成に占める原発の比率は、2022年6月時点には6.0%へと低下しており、ドイツの電力供給に果たす役割は限定的と言えそうだ。だが、この6%を占める原発を全廃することで減少する電力を、その他の電源で十分に賄うことができなければ、ドイツの電力供給は当然のことながら不安定化する。

ドイツでは2022年6月時点で、電源構成の48.5%が再エネとなった。再エネ発電の問題点は地形や天候に左右されるため、出力が不安定なことにある。

コロナショック後の2021年にヨーロッパで電力価格が急上昇した主因が、風不足による風力発電の不調にあったことは記憶に新しい。出力の安定は喫緊の課題である。

それに、再エネによる電力は価格が高い。
ドイツ政府は3月9日、事業者による再エネ電力の利用を増やすため、差額決済契約(CfD)を導入する意向があると表明した。CfDは一定期間、再エネ発電による電力料金と市場での電力料金の差額を政府が補填するものだが、言い換えればそれだけ、再エネによる電力は高いということだ。

ガス火力発電のコストも、過去の想定に比べると高くつきそうだ。
ドイツはロシアのウクライナ侵攻まで、ロシアからパイプラインを通じて天然ガスを安価に安定して調達してきた。それが「脱ロシア化」で不可能になったため、ロシア以外の国からLNGの輸入を増やすことでガス火力発電の利用を進める路線に転換した。

それまでLNGを輸入してこなかったドイツは、バルト海で洋上LNGターミナルの建設を急いでいる。これらが稼働すれば、LNGの受け入れ態勢が整備され、ドイツでも天然ガスの「脱ロシア化」が完了する。だが、ロシア産のパイプラインを経由した天然ガスに比べると、LNGは加工やタンカーによる運搬を要するため、コストが高くつく。

経常収支の黒字減少が物語る事実
発電コストが増えれば生産コストが増加し、国際競争力は低下する。そのため、これまでヨーロッパ経済をけん引してきたドイツの国際競争力は、大胆な為替調整(つまりユーロ安)が入らない限り、自ずと低下すると予想される。その萌芽は、すでに経常収支の黒字幅の明らかな縮小というかたちで現れている。

ドイツの2022年の経常収支の黒字幅は前年からほぼ半減し、1451億ユーロ(約20兆7000億円)となった。その主因は、財収支(モノの貿易の収支)が1159億ユーロと前年から790億ユーロ減少したことにある。化石燃料の価格の急騰を受けて輸入額が前年から22.3%と急増したことが、財収支の黒字減少につながった。

輸入サイドに関しては、ロシア産の天然ガスの輸入が減少し、代わってLNGの輸入が増加することで、輸入額が高止まりとなる可能性がある。輸出サイドに関しても、電力コストの増加に伴う生産コストの増加を輸出価格に転嫁するなら、輸出額が思うように増加しないどころか、頭打ちとなる可能性も考えられる。

いすれにせよ、ドイツ政府が「脱炭素」「脱原発」「脱ロシア」という三兎を追う戦略を推進する以上、これまでのような輸出主導の経済成長モデルを維持すること自体、難しくなるだろう。コロナ前までドイツは2000億ユーロを超える巨額の経常収支黒字を計上していたが、それも難しくなるのではないだろうか。

今年4月に完了するドイツの「脱原発」は、ドイツ経済がそうした道を着実に突き進んでいることの象徴的な出来事になる。【3月23日 土田 陽介氏 JBpress】
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【「脱原発」をめぐるEU内の対立】
「脱原発」をめぐってはドイツ国内だけでなく、「脱炭素」を進めるEU内においても大きな議論があります。
「脱原発」を進めるドイツと対照的なのがフランスで、電力の7割以上を原発に依っています。

昨年10月に独仏の首脳会談がパリで行われましたが、「脱炭素」を進めるうえでの原発の扱いについて溝は埋まらず、予定されていた会談後の共同会見をマクロン仏大統領が断るという前代未聞の事態もありました。

****EU、再生可能エネルギー規則で原子力の扱い巡り対立****
欧州連合(EU)の再生可能エネルギー規則の目標を巡り、原子力を認めるかどうかで対立する加盟国が28日、最終的な協議を行った。

加盟国と議会は29日に2030年までに再生可能エネルギーを拡大するためのより厳格な目標で合意を目指していた。これは二酸化炭素(CO2)の排出を削減するとともに、ロシア産のガスへの依存を減らす計画のカギになる。

しかし、原子力の位置付けに関する協議は難航。EUの温暖化対策に関する合意を脅かしている。

オーストリアを中心としたドイツ、スペインなど11カ国は28日の会合で、再生エネルギー規則では原子力を除外することを推奨した。原子力を盛り込むことで、風力および太陽光発電を大幅に拡大する取り組みが阻害されると主張した。

一方、フランスのアニエス・パニエリュナシェ・エネルギー移行相はこの日、チェコ、フィンランド、イタリア、ポーランドなど13カ国による原発推進国の会議を開催。共同声明で各国は「原発プロジェクトには望ましい産業、金融の枠組みが必要との認識で一致した」と表明した。

このうち9カ国程度は、原子力発電で生成された「低炭素水素」を再生可能エネルギーとして扱うことも求めた。【3月29日 ロイター】
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【日本の「石炭火力」容認 G7環境相会合で矢面に】
日本では、従来は原発再稼働に「反対」が「賛成」を上回っていましたが、やはり電力料金高騰の影響もあって、最近は賛否が逆転して、「賛成」が多数を占めるという世論調査結果が出ています。

その点では、「原発」については再稼働を進める岸田政権と世論が一致した形ですが、さりとて再稼働を一気に進める状況にもありません。

当面は「石炭火力」で・・・という日本の方針ですが、国際的に見ると日本の「石炭火力」容認への批判が強くあります。

折しも、昨日・今日、札幌市で先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合が開催され、議長国日本は難しい立場に。

****「石炭火力廃止」圧力で苦境のG7議長国・日本 環境相会合****
札幌市で15日開幕した先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合で、最終日の16日に採択する共同声明の調整を巡って最も難航しているのが、石炭火力発電の扱いだ。

昨年のG7閣僚会合では議長国ドイツの提案に日本が抵抗したが、今回は議長国を務める日本の事前提案に他の6カ国から批判が続出。

日本は強みを持つアンモニアを石炭火力に混ぜて燃やす「混焼」などへの理解を求める考えだが、石炭火力の廃止時期の明記を求める国や混焼の二酸化炭素(CO2)削減効果は不十分と指摘する国もあり、厳しい立場に置かれている。

「2050年に脱炭素化を実現する目標は変わらないが、各国の事情に応じた多様な道筋がある」。会合に関わる複数の日本政府関係者はこう話す。共同声明の原案作成に向けた事前協議が本格化した3月頃から特にこの言葉が増えてきた。ある政府関係者は石炭火力を巡る協議が難航していることを暗に認める。

石炭火力を巡る表現は昨年のG7でも焦点となった。ドイツが「2030年までの石炭火力廃止」を提案し、欧州各国やカナダが賛同。日本は期限の明示に最後まで同意せず、昨年の共同声明で石炭火力は「段階的に廃止」との表現に留められ、廃止時期は明示されなかった。

2035年までの電力部門の脱炭素化についても「大部分(predominantly)」と各国の解釈が可能な表現で決着した。

今年は立場が変わり、日本が石炭火力の廃止時期の明記と、2035年までの電力部門の〝完全な〟脱炭素化への道筋をつけるように他の6カ国から求められる展開となっている。

再生可能エネルギーの主力である太陽光や風力の適地に乏しく、既設原発の再稼働も進まない日本にとって、今後も一定程度を石炭火力に頼るのはやむを得ないのが現実だ。

足元で総発電量の約3割を石炭火力に依存しており、エネルギー基本計画でも30年度の電源構成に占める石炭火力の比率は19%と見込む。脱炭素化とエネルギー安全保障の両立に向けた電源構成の前提となる話だけに、日本も簡単に譲歩はできない。

ただ、ウクライナ危機後に覇権主義的な傾向を強める中国とロシアをメンバーに含む20カ国・地域(G20)が機能不全に陥る中、G7の結束の重要性は増している。共同声明をしっかり取りまとめ、5月に開かれるG7首脳会議(広島サミット)につなげる責務が日本に課せられている。【4月15日 産経】
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結局、共同声明には石炭火力発電の扱いは廃止時期を明示せず、「化石燃料」を使った火力発電の段階的廃止とすることで妥協が図られたようです。

****石炭火力発電、廃止時期は明示せず G7環境相が共同声明採択****
札幌市で行われた先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合は16日、プラスチックごみによる海洋汚染ゼロの国際的な目標を従来の2050年から10年前倒しして、40年とすることなどを盛り込んだ共同声明を採択。2日間の日程を終え、閉幕した。

焦点となっていた石炭火力発電の扱いは廃止時期を明示せず、天然ガスにも対象範囲を広げ、二酸化炭素(CO2)の排出削減対策が取られない火力発電を段階的に廃止することを明記した。

終了後の記者会見で共同議長を務めた西村康稔経済産業相は「脱炭素化への道筋は多様であることを認めながら、具体的な取り組みの合意ができた」と強調。西村明宏環境相は「気候変動や環境問題へのわれわれのコミットメント(関与)がゆるぎないことを国際社会に示すことができた」と述べた。

プラごみ対策については、G7各国でリサイクル施設の整備など取り組みが進んでいることも踏まえ、19年の20カ国・地域(G20)で合意した国際的な目標を前倒しした。G7として、問題解決に積極的な姿勢を国際社会に広く示す狙いがある。

石炭火力を巡っては、G7のうち、日本以外の欧米6カ国は共同声明に廃止時期の明示などを求めていたが、石炭火力の依存度が高い日本が従来の「段階的廃止」の方針を主張。共同声明では、石炭火力についての表現は踏襲した上で、天然ガスも含めた「化石燃料」を使った火力発電の段階的廃止とすることで折り合った。

この他には、自動車分野の脱炭素化で、ガソリン車なども含めた各国の保有台数を基にG7各国でCO2の排出量を35年までに2000年比で半減させるため、取り組みの進捗(しんちょく)を毎年確認することなども盛り込んだ。【4月16日 産経】
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日本には日本の事情がありますし、経済・市民生活の根幹をなし電力供給の問題ですから安易な妥協もできません。
ただ、今後はますます「石炭火力」への風当たりは強まることが予想されますので、長期的な視点にたっての戦略が求められます。
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ブラジル  高揚感なきルラ新政権 訪中で経済テコ入れ 国内に分断が残る中で前大統領帰国

2023-04-15 23:08:59 | ラテンアメリカ

(中国・北京の人民大会堂で、歓迎式典に出席する習近平国家主席(中央左)とブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領(2023年4月14日撮影)【4月15日 時事】)

【ルラ新政権への高揚感なし 背景に伸び悩む経済 前政権支持者との「分断」も】
今年1月1日に大統領に復帰したブラジルの左派ルラ大統領は、「ブラジルのトランプ」と称された右派ボルソナロ前政権との違いアピールしています。

****ボルソナロ政権時代に緩和された銃規制 再び厳格化 ブラジル・ルラ新政権 前政権からの転換鮮明に***
ブラジル政府は、ボルソナロ前政権が緩和した銃規制を再び厳格化しました。

ブラジル政府は1日、全ての銃器を警察に登録することを義務付けると発表しました。登録を無視すると犯罪へのほう助として、処罰の対象にもなり得るということです。

銃器をめぐっては、自衛目的の銃規制緩和を容認していたボルソナロ前大統領が2019年に一部の銃器に対する登録制度を撤廃。

大統領時代の4年間で銃器の数は5倍近く増加していて、去年の大統領選でボルソナロ氏を破ったルラ大統領は犯罪の増加につながっていると懸念を示していました。

今回の発表では、銃の購入制限なども明らかになっていて、司法省は「今後も銃規制は必須となる」と強調しています。【2月4日 TBS NEWS DIG】
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****アマゾン森林破壊が6割減=ルラ政権、侵入者排除に力―ブラジル****
ブラジル国立宇宙研究所(INPE)は10日、北部のアマゾン盆地に位置する9州で1月に消失した熱帯雨林が、暫定推計で166.58平方キロだったと発表した。香川県の小豆島より一回り広い自然が失われた計算だが、経済開発を重視したボルソナロ政権時代の昨年同月比で61.3%減となった。

1月1日に就任したルラ大統領は環境保護を政権の最優先課題の一つに挙げ、「アマゾン伐採ゼロ」を提唱。北部ロライマ州で先住民ヤノマミの保護区に侵入し、ヤノマミの生命と森林を脅かしている違法金採掘業者の取り締まりに力を入れている。【2月11日 時事】 
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しかし、以前の政権時(2003年~2010年)には高い人気を誇ったルラ大統領にしては、国民の評価は今のところあまりパッとしないようです。

****ブラジル大統領、就任3カ月で不支持率29% 前任同様の不人気ぶり****
1日付のブラジル紙フォルハ・デ・サンパウロに掲載されたダッタフォリャの世論調査で、今年1月に就任したルラ大統領の不支持率が29%となり、ボルソナロ前大統領の就任後3カ月と同水準の不人気ぶりとなったことが分かった。支持率は38%だった。

ルラ氏は昨年10月に僅差で大統領に当選した。

調査は3月29─30日、2028人に対面で実施。誤差はプラスマイナス2%ポイント。【4月1日 ロイター】
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“人気がパッとしない”背景には、“ブラジル経済がパッとしない”ことがあります。
また、1月に首都ブラジリアで起きた大統領府や議会など政府中枢施設の襲撃事件に象徴されるように、前政権支持者との間の「分断」が改善していないこともあります。

****政権交代の成果に腐心=ルラ氏、高揚感なし―大統領就任100日・ブラジル****
ブラジルのルラ大統領が1月に就任してから10日で100日目を迎えた。

昨年10月の大統領選の熱気もすっかり冷め、発足直後には議会など国の中枢機関がボルソナロ前大統領の支持者らに襲撃される事件も起きて水を差された。

新政権への高揚感はもうない。政敵ボルソナロ氏の揺さぶりも予想される中、ルラ氏は政権交代の成果を打ち出すのに腐心している。

「今、気がかりなのはこの国の成長と雇用創出だが、きっと成功する」。ルラ氏は6日、記者らを前に、物価高で打撃を受けた経済の再生を目指す姿勢を強調した。就任当初は、前政権が軽視した社会福祉政策の立て直しに力を入れていたはずだが、微妙に力点を変えている。

調査会社ダタフォリャの世論調査によると、通算3期目となったルラ政権の発足から3カ月の支持率は38%だった。過去2期に比べ期待感に乏しい。政権発足から同じ時期の支持率を比べてみると、1期目(2003年)が43%、2期目(07年)が48%だった。

襲撃事件で浮き彫りになった政治の分断も深刻だ。ルラ氏への不支持は現在、29%に上る。

経済の再生に向けて頼みとなるのが、最大の貿易相手国である中国との関係改善だ。前政権下で関係が冷却化したが、今週訪中して合意文書に調印し、習近平国家主席との会談にも臨む。

得意の外交で、国際的に孤立した前政権との違いを見せたいところだ。6日(日本時間7日)には岸田文雄首相と電話で会談した。地元紙によると、就任後に会談した外国首脳は岸田氏も含め30人近い。

ただ、ルラ氏の大統領就任式直前に渡米したボルソナロ氏が3月30日に帰国した。「国の未来について好きなようにはさせない」とルラ政権との対決姿勢を示している。

ルラ氏の労働者党は議会で少数派。政策実現には他党との協力が欠かせない。敵対勢力の旗頭が登場して大同団結が図られれば、政権運営は一気に苦しくなりそうだ。【4月10日 時事】 
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“パッとしない”経済状況については、以下のようにも。

****ルラ政権は出鼻から景気減速に直面、ブラジルの先行きはどうなる?****
~中国のゼロコロナ終了は追い風となり得るが、中銀の独立性など政策運営には懸念要因が山積~

【要旨】
ブラジルでは今年1月にルラ政権が誕生した。ここ数年の同国経済はコロナ禍による苦境に直面するも、ワクチン接種や感染収束を追い風に経済活動の正常化が進み、世界経済の回復も景気を押し上げた。

他方、インフレやレアル安を受けて中銀は断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされ、物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念がある。

ルラ大統領は中銀に利下げを要求するなど独立性を脅かす動きをみせており、足下のレアル相場は上値の重い展開が続くなど金融市場からの信認低下に繋がる動きもみられる。

昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.88%と6四半期ぶりのマイナス成長に転じている。世界経済の減速懸念にも拘らず輸出は堅調な推移をみせる一方、ペントアップ・ディマンドの一巡や物価高と金利高の共存により家計消費など内需は弱含んでいる。

昨年通年の経済成長率は+2.9%とコロナ禍の反動で上振れした前年から鈍化したほか、足下の景気は見た目以上に実態は悪いことが示唆されるなど、急速に頭打ちの動きを強めている。新政権は船出からから景気減速が鮮明な状況に直面していると言える。

中国のゼロコロナ終了は商品市況や中国向け輸出を通じて外需の追い風になることが期待される。

他方、中銀と政権の対立が鮮明化しているほか、ルラ大統領は国営石油公社の運営にも介入するなど金融市場の信認低下を招くリスクもくすぶる。

同国経済は制度的な問題による潜在成長率の低下が懸念されるが、ルラ政権がかつてと同様の舵取りを進めれば同国経済を取り巻く状況は急速に厳しさを増す可能性もあろう。(後略)【3月3日 西濵 徹氏 第一生命経済研究所】
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【中国との関係強化で経済テコ入れ 併せて、グローバルサウスのリーダーをアピール 中国の思惑とも合致】
“経済の再生に向けて頼みとなるのが、最大の貿易相手国である中国との関係改善だ”【前出 時事】ということで、ルラ大統領は前ボルソナロ政権で冷え込んだ中国との関係の修復を図るべく訪中、14日に習近平国家主席との会談に臨みました。

ブラジルにとって中国は最大の貿易相手国であり、対中輸出額は対米の約3倍に達します。その貿易は人民元による決済も始まっています。
今回の訪中には国会議員や知事、企業関係者など200人超が同行しています。

また、中国との関係強化は、懸案の経済へのテコ入れになるだけでなく、中国とともにグローバルサウスのリーダーとしてのブラジルをアピールすることにもなり、アメリカに対抗して国際的地位を高めたい中国の思惑とも一致したようです。

****中国・ブラジル首脳会談、協力深化で一致 ウクライナ巡り対話呼びかけ****
中国の習近平国家主席は14日、同国を公式訪問中のブラジルのルラ大統領と北京で会談し、両国の実用的な提携を深化させ、農業、エネルギー、インフラ建設などの分野での協力の可能性を探るべきという認識を示した。中国国営中央テレビ(CCTV)が報じた。

習氏はルラ大統領に対し、中国がブラジルとの関係を外交上の優先事項としていると伝えたほか、ウクライナ危機についても協議し、対話と交渉が危機を脱する唯一の実行可能な方法という見解で一致したという。

新華社が報じた共同声明によると、両首脳は新興5カ国で構成する「BRICS」の枠組みの下、多岐にわたる分野での協力を深めることで合意。BRICS加盟国による同グループ拡大に関する積極的な議論に支持を表明した。

気候変動に関する意見交換も行われた。声明で、先進国は気候変動対策としてこれまでに合意している投資や技術開発を加速させるべきという認識を示した。

さらに、両国のハイレベル協力委員会(COSBAN)内に気候変動に関する特別小委員会を設置し、政策や技術的な問題を巡り協力する計画を発表した。【4月15日 ロイター】
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中国外務省によると、習氏は会談で「中国とブラジルは最大の発展途上国であり、重要な新興市場国だ。中国の質の高い発展やハイレベルの開放は、ブラジルを含む世界にチャンスとなるはずだ」と強調しました。

ルラ大統領は、アメリカから制裁を受ける中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の研究開発施設を訪れ、中国重視の姿勢を鮮明にしています。

****ブラジル大統領訪中、ファーウェイ施設訪問へ 米の反発招く可能性****
(中略)ブラジル政府によると、13日には中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の研究開発施設を訪れる。

同社を巡っては、米国が安全保障上の理由から半導体の禁輸などの制裁を科しており、ルラ氏の訪問が米国の反発を招く可能性がある。(中略)

ルラ氏は、中国やロシアなどの新興5カ国(BRICS)が設立した国際金融機関「新開発銀行」の新総裁に就任したルセフ・ブラジル元大統領との会談などの後、ファーウェイの施設を訪れる。ブラジルメディアによると、第5世代通信規格「5G」や次世代規格「6G」について、同社と話し合うとみられる。

欧米諸国は5Gの通信網整備からファーウェイ製品を排除している。一方、ブラジルでは、ボルソナロ前大統領時代の2021年11月に実施した同規格の周波数帯の入札で、ファーウェイを明確に除外しなかった。

22年5月には落札企業の一社だった地場の「ブリサネット」が決算発表の資料で、22年3月に基地局関連の製品供給でファーウェイと契約したと公表。契約額は約2億3000万レアル(約62億円)だった。(後略)【4月13日 毎日】
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ルラ大統領は上海で「なぜ世界が必ず米ドルで取引しなければならないのか」と語り、中国側を喜ばせたとか。ウクライナ問題についても、アメリカはウクライナで「戦争を扇動する」のをやめ、平和について話し始めるべきだと訴えました。
こうしたルラ大統領のアメリカに追随しない姿勢は、中国も大歓迎でしょう。

もちろん、ルラ大統領もアメリカを敵に回すつもりはありません。2月には訪米してバイデン大統領と会談
ボルソナロ前大統領はアメリカとも関係が悪化していましたが、その関係を修復しています。

****米ブラジル首脳会談、民主主義維持や気候変動対策などで協力合意****
バイデン米大統領は10日、ホワイトハウスでブラジルのルラ大統領と会談した。ブラジルのボルソナロ前大統領はトランプ前米大統領の支持者で、バイデン政権との間がぎくしゃくしていたが、ルラ氏の下で両国関係の再構築を図る狙いがあったとみられる。

ブラジル側が公表した共同声明によると、米政府はアマゾン熱帯雨林地帯の保護に協力すると申し出た。またバイデン氏とルラ氏は、気候変動対策や強権主義の台頭から民主主義を守るという価値観を共有することも確認した。

バイデン氏は会談に先立ち、ルラ氏に「われわれは自分たちの強さの根幹を成す民主主義と民主主義的価値を維持していく必要がある」と語りかけ、気候危機においても同じ立場にあると付け加えた。

ルラ氏は、2021年1月6日の米連邦議会議事堂襲撃事件や、今年ボルソナロ氏の支持者らが起こしたブラジルの三権の中枢を襲った事件などを念頭に、両国はこのような事態を二度と許してはならないと強調。両国は格差や気候変動の問題でも共闘できると述べた。(後略)【2月13日 ロイター】
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【前政権の影響が残る軍に対し「アメとムチ」 緊張関係が残る中での前大統領帰国】
外交は得意のルラ大統領ですが、内政の「分断」解消は難しい・・・。
先ずは前政権の影響力が残る軍を把握する必要があります。

****ブラジル・ルラ大統領、軍幹部ら100人以上を解任 議会襲撃巡り****
南米ブラジルの首都ブラジリアで右派のボルソナロ前大統領の支持者らが連邦議会などを襲撃した事件を受けて、左派のルラ大統領は1月末までに軍幹部や兵士ら100人以上を解任した。

ボルソナロ氏を支持する軍人の一部が襲撃を共謀したと疑っているため。ルラ氏は軍の「脱ボルソナロ化」と「非政治化」を目指すが、実現は容易ではないとの見方もある。

「(軍の一部への)信頼を失った」。ルラ氏は襲撃事件から4日後の1月12日、地元紙の取材にそう語り、17日付の官報で情報機関「大統領府・安全保障室」(GSI)などに所属する軍幹部や兵士ら44人の解任を発表した。

GSIが事前に襲撃の危険性を察知していながら、大統領府の警備体制を強化しなかったといった疑惑が出ているためだ。その後も陸軍司令官らが解任された。

軍を巡っては、ボルソナロ氏の支持者らが2022年11月以降、ルラ氏が勝利した同年10月の大統領選の結果を覆すため軍施設前に居座り、軍事介入を求めるデモをしたことを黙認した可能性がある。またボルソナロ政権下で大統領府に勤務していた少なくとも8人の軍人がデモに参加したことも判明している。

元陸軍大尉のボルソナロ氏が閣僚や政府機関に登用した軍人は多い。地元紙によると、ボルソナロ政権が登用した現役軍人は22年11月時点で2187人。ルラ氏が所属する労働者党の前回の政権時代(03〜16年)と比べると2倍以上だ。

ルラ氏が軍幹部らを相次いで解任する背景には、軍からボルソナロ派を排除するとともに、軍の政治への影響力を抑える狙いがあるとみられる。

ルラ氏は1月18日の地元テレビのインタビューで、襲撃事件について「クーデターの始まりのような印象を受けた」とした上で、「重要なのは軍の『非政治化』だ。陸軍はルラやボルソナロのものではない。国家を守ることが憲法で定められた役目だ」と強調した。

ただ、ブラジルでは軍事独裁政権が1964年から85年まで権力を掌握した歴史もあり、軍の「非政治化」などをどこまで進められるかは見通せない。

軍の動向を30年以上研究するサンパウロ州のサンカルロス連邦大のジョアオ・マルティンス教授(政治学)は「ボルソナロ氏は退陣したが、軍には依然としてボルソナロ派が多い。軍政を経験したことから、今も自分たちが政治的影響力を持つという思いも残っている」と指摘する。

加えて、軍には労働者党と因縁がある。きっかけは、自身も軍政下で拷問を受けた同党のルセフ大統領(当時)が11年に軍政の人道犯罪を調べる「真実委員会」設立を認めたことだった。真実委は14年12月の最終報告書で、死者・行方不明者は少なくとも434人と公表。これを機に、軍に反労働者党感情が高まったといわれる。

こうした状況から、ルラ氏は軍の離反を避けるための動きも見せる。国防省によると、1月20日には軍幹部らと会合を持ち、兵器増強を含めた軍の近代化などを議論した。ルラ氏は前回の大統領時代、国防予算増額などを通じて軍との関係構築を図った経緯があり、今回も似た手法を取る可能性がある。

マルティンス氏は、ルラ氏と軍の間で「チェスのような駆け引きが続く」と予想する。ただ、汚職で収監された過去を持つルラ氏を「軍は快く思っていない」と指摘。

「ルラ氏は軍の強化に前向きな姿勢を見せながら、軍人の解任も進める『アメとムチ』で軍をコントロールしようとしているが、判断を誤ると、すぐ反発を受けるだろう」として、しばらくは緊張関係が続くとの見方を示した。【2月3日 毎日】
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そうした緊張が残る状況でのボルソナロ前大統領の帰国がどのように影響するのか。

****ボルソナロ前大統領がブラジルへ帰国****
アメリカに滞在していたブラジルのボルソナロ前大統領が先ほど、帰国しました。(中略)

ボルソナロ氏は、再選をかけた大統領選挙に敗れたのち、大統領在任期間中だった去年12月30日にアメリカ、フロリダ州へ向けて出国。年が明け、1月1日にルラ大統領が就任した後も観光ビザに切り替え、そのままフロリダ州に滞在していました。

滞在中の1月8日には、支持者およそ3000人が議会や最高裁を襲撃する事件が起き、ボルソナロ氏は事件を扇動した疑いがあるとして、捜査対象となっています。

ボルソナロ氏は帰国前、ブラジルメディアの取材に対し、「野党を率いることはない」と強調しました。【3月30日 TBS NEWS DIG】
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アメリカ  「分断」最前線の中絶問題 経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」をめぐる争い

2023-04-14 23:27:21 | アメリカ

(人工妊娠中絶で中絶薬を使う割合 【4月11日 NHK】)

【「銃社会アメリカ」 事件多発でバイデン大統領は規制を訴えるも、変わらない現実】
アメリカ社会の「分断」の最前線となっているのが銃規制と人工中絶の問題。

銃乱射事件が相次いでいるのは周知のとおり。
バイデン大統領の事件のたびに銃規制の必要性を訴えてはいますが、目立った進展がないのも周知のところ。

****“子どもの死因1位は銃”バイデン大統領規制訴え 米南部の学校で9歳児童3人含む6人死亡****
アメリカ南部テネシー州の学校で、児童3人を含む6人が死亡した銃乱射事件。警察のボディカメラの映像が公開され、当時の緊迫した状況が明らかになりました。(中略)

アメリカ バイデン大統領
「アメリカでは、銃が子どもたちの死亡原因の1位です。銃が1位ですよ、おぞましい話だ」

射殺された容疑者は犯行当時、殺傷力の高いライフルなど銃3丁を所持していたことが新たにわかり、バイデン大統領は殺傷力の高い銃の所持を禁止する法律の必要性を改めて強く訴えました。【3月29日 TBS NEWS DIG】
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****米大統領「あと何人死ななければ…」 銀行乱射受け 銃規制呼びかけ****
アメリカ・ケンタッキー州の銀行で少なくとも4人が死亡した銃乱射事件を受け、バイデン大統領は銃規制に反対する野党・共和党に対して行動するよう求めました。

バイデン大統領は10日に発表した声明で、ケンタッキー州ルイビルで起きた銃乱射事件の犠牲者に哀悼の意を示しました。

そのうえで、「議会共和党が地域社会を守るために行動を起こすまで、あと何人のアメリカ国民が死ななければならないのか」と問い掛け、「国民の大多数は銃の安全性に対する常識的な改革に取り組むよう望んでいる」と強調しました。

相次ぐ銃乱射事件を背景に、バイデン大統領は銃を販売する際の身元調査の厳格化など、銃規制の強化を強く求めています。

ただ、銃愛好家らの団体「全米ライフル協会」とつながりが深い共和党側は反対していて、実現の目途は立っていません。【4月11日 テレ朝NEWS】
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銃乱射事件以上に痛ましいのは子供による誤射。こちらも頻発しています。

****4歳幼児、3歳の妹に撃たれて死亡。親の銃を発見し誤発砲…米テキサス****
(中略)アメリカ・テキサス州で、4歳の女の子が3歳の妹に撃たれ、死亡した。妹は親の拳銃を持ち出し、間違って発砲してしまったとみられている。3月12日、地元当局が発表した。(後略)【3月16日 Buzz Feed】
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3月28日、インディアナ州では5歳の兄が1歳の弟を射殺する事件も。

【経口妊娠中絶薬使用停止の訴え テキサス州連邦地裁はFDAの使用承認を一時差し止める判決】
「銃社会アメリカ」についてはこれまでも何回も取り上げてきましたが、進展しない銃規制について新たに語ることもあまりありませんので、今日のメインは人工中絶の問題。

経口妊娠中絶薬「ミフェプレックス」(一般名:ミフェプリストン)をめぐって、司法の場で争いがヒートアップしています。

アメリカでは昨年6月、女性が人工中絶手術を受ける権利を認める長年の最高裁判例が覆され、中絶が合法な州と違法な州で地域差が出ています。

テキサス州では人工中絶に反対する市民団体が、アメリカなどで20年以上普及し妊娠初期の中絶に使われているミフェプリストンの安全性確認が不十分だと主張して使用停止を連邦地裁に訴えていました。

ミフェプリストンは、「ミソプロストール」という別の経口妊娠中絶薬と組み合わせて使用されます。

米食品医薬品局(FDA)や米産婦人科学会(ACOG)のほか主な医学団体は、妊娠状態を保つために必要なホルモンの働きを抑える作用があるミフェプリストン及び子宮の入り口を開き、陣痛を起こさせるミソプロストールの使用は安全だと認めています。

****日本でも注目される「経口中絶薬」海外でどう使用? 注意点は?****
(中略)
海外での使用状況は?
日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)によりますと、中絶薬の「ミフェプリストン」は、1988年にフランスで承認されて以来、今では65以上の国と地域で承認されています。G7=先進7か国でみると、承認されていないのは日本だけとなっています。

人工妊娠中絶で中絶薬を使う割合は、先進国を中心に増えています。特に北欧のフィンランドやスウェーデンでは非常に高い割合となっています。主な国々の薬での中絶の割合は以下です(冒頭のグラフ)。

患者の費用面での負担は?
専門家によりますと、イギリスやフランスでは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、オンライン診療で中絶薬を処方できるようになっていて、最寄りの薬局で受け取ったり、自宅に送られたりしています。また、他の中絶方法と同様、国民健康保険などでカバーされるため、患者の自己負担はありません。

このほか、カナダやオーストラリアでは日本円で4万円程度で、一部または全額が健康保険でカバーされるということです。

WHO=世界保健機関は中絶薬について、「安全な方法」としていて、2005年には、妥当な価格で広く使用されるべき薬として「必須医薬品」に指定しています。ちなみに「必須医薬品」には、風疹やインフルエンザの予防接種に使われるワクチンなど540あまりの品目が指定されています。(後略)【4月11日  NHK】
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“日本での使用は未承認だが、厚生労働省は薬事分科会での審議を予定している。(中略)3月中にも審議予定だったが、募集したパブリック・コメントが多数寄せられたため、審議予定をいったん見送った。”【4月8日 BBC】

使用停止の訴えを受けたテキサス州の連邦地裁判事は7日、認可を一時停止。しかしそれから間もなく、ワシントン州の連邦地裁判事が、この薬の使用は引き続き認められると、真っ向から対立する判断を示しています。

****米、妊娠中絶薬の承認差し止め 連邦地裁、安全性巡る懸念対応で****
米南部テキサス州の連邦地裁は7日、米食品医薬品局(FDA)による経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の承認の一時差し止めを命じた。

裁判官はFDAが法令上の義務に反し、安全性を巡る市民らの懸念に必要な対応を取らなかったと指摘した。

司法省などは地裁の判断を不服として連邦高裁に控訴した。

一方、西部ワシントン州の連邦地裁は7日、ミフェプリストンの入手を制限する措置を取らないようFDAに命じた。一連の判断は最高裁まで争われる可能性がある。

バイデン大統領は声明で、テキサス州の地裁判断を「女性の基本的自由を奪い、健康を危険にさらす前例のない措置だ」と厳しく非難した。【4月8日 共同】
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****米テキサス州とワシントン州、経口中絶薬の使用めぐり正反対の判断 20年以上普及****
(中略)
これについて、ドナルド・トランプ前大統領が在任中に指名したマシュー・カズマリク判事は訴えを認め、米食品医薬品局(FDA)によるミフェプリストンの認可は、特定の医薬品に関する迅速認可のルールに違反したとの判断を示した。

さらに、ミフェプリストンの「心理的影響」をFDAが「十分に考慮しなかった」ことの「重大性は看過できない」と指摘し、「生殖機能が発達中の18歳未満の少女への影響」が確認されていなかったと述べた。

その上でカズマリク判事は、連邦政府に上訴の機会を与えるため、自分の判断の適用を7日間猶予すると決定した。

米司法省は、テキサス州地裁の判断を上訴する方針を明らかにした。
FDAは2000年にミフェプリストンを初認可するまで、審査に4年かけている。

テキサス連邦地裁の判断から約1時間後、ワシントン州の連邦地裁は別の訴訟において、バラク・オバマ元大統領の在任中に指名された判事が、ミフェプリストンの使用を認めた。

ワシントン州のトマス・O・ライス連邦地裁判事は、人工中絶を州法などで認める民主党知事の17州と首都ワシントンにおいて、テキサス連邦地裁の判断の適用を差し止め、ミフェプリストンの使用を引き続き認めると判断を示した。

ワシントン州のジェイ・インスリー知事(民主党)は4日、ミフェプリストンが全国的に入手できなくなった場合に備えて、3年分を州内で備蓄したと発表していた。

双方が「勝利」と
テキサス州のカズマリク判事の判断によって、数百万人の女性が中絶薬を使えなくなる可能性がある。さらに法曹関係者からは、アメリカの医薬品認可システムの基礎そのものが揺らぐ恐れがあるという指摘もある。

そのためワシントン州のボブ・ファーガソン州司法長官は、ワシントン連邦地裁の判断を「巨大な勝利」と歓迎した。

それに対して、テキサス州でミフェプレックスの使用停止を求めた市民団体「自由防衛同盟」は、テキサスでの連邦地裁判断を女性や医師にとって「大きい勝利」と歓迎。別の中絶反対団体「命のための行進」も、「女性や少女のため大きな前進」とたたえた。

民主党のエリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州)はテキサスの連邦地裁判断を非難し、「トランプに指名されたたった1人のテキサスの裁判官が、何十年も積み上げられた科学的知見より自分の方が詳しいと思って」いるとツイート。「1人の過激な右派に、女性や、医師や、科学者を否定させるわけにはいかない」と批判した。(後略)【4月8日 BBC】
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バイデン米政権は経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の販売の是非を巡る問題で、薬品メーカーや薬局チェーンと改めて協議し、販売阻止の動きに対抗する計画です。

****バイデン米政権、中絶薬販売阻止に対抗しメーカー支援=消息筋****
バイデン米政権は経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の販売の是非を巡る問題で、薬品メーカーや薬局チェーンと改めて協議し、販売阻止の動きに対抗する計画だ。事情に詳しい消息筋2人が明らかにした。

協議はバイデン政権と薬品メーカー、薬局チェーンの間で数カ月前から続けられていたが、米南部テキサス州の連邦地裁が7日、ミフェプリストンの承認の一時差し止めを命じたことで焦眉の課題に浮上した。

消息筋の1人はメーカーや薬局チェーンについて、「われわれは彼らに法的な支援を提供する手段について話し合っている」と明かした。

複数の消息筋によると、司法省がメーカーや薬局チェーンを相手取って起こされる訴訟を後退させることや、調剤を続けるための法的アドバイスを提供することなどが検討されているという。司法省は別途、テキサス州地裁の命令の差し止めを求める。(後略)【4月10日 ロイター】
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【連邦高裁 FDAによる承認は覆さないが、その後の規制をゆるめた変更は認められないと判断 バイデン政権は最高裁へ上告】
バイデン政権は連邦高等裁判所に判断を差し止めるよう上訴。

****米「妊娠中絶薬の承認停止」判断に政府が上訴 製薬会社も抗議の声明****
アメリカ政府は10日、連邦地方裁判所の判事が人工妊娠中絶のための飲み薬の承認を中止したことを不服とし、連邦高等裁判所に判断を差し止めるよう上訴しました。(中略)

テキサス州の連邦地方裁判所の判事は先週末、「FDAは政治的な圧力により安全対策を十分に取らずに薬を承認した」として薬の販売停止を命じましたが、アメリカ政府は「専門家の判断を裁判所が覆すのは危険な前例となる」と指摘。連邦高等裁判所に上訴し、判断を差し止める緊急命令を出すよう申し立てています。 

また、400社以上の製薬会社などの幹部は判事に対し、判断を撤回するよう求める公開書簡に署名しました。 製薬会社の幹部らはこの中で、「数十年にわたり築かれた科学的な証拠や事例を無視する判断が下され、政府機関の権威を傷つけた」としたうえで、FDAによる薬の承認の継続を支持しています。【4月11日 TBS NEWS DIG】
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注目された米連邦高裁の判断は、対面診療を受けるなどの条件付きで同薬を当面は入手可能にするものの、郵送での薬の受け取りなどを制限するものでした。

つまり、FDAによる2000年の承認は覆さないが、その後に薬を使用できる期間や受け取り方法などの規制をゆるめた変更は認められないと判断しています。

****米高裁、中絶薬入手に条件 バイデン政権は最高裁に上訴も****
米連邦高裁は12日、経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の承認を巡る控訴審で、対面診療を受けるなどの条件付きで同薬を当面は入手可能にする判断を示した。(中略)

高裁は地裁判決の一部を保留にする一方、2016年に解除されていた同薬の流通制限を事実上復活させる部分は是認。3回の対面診療に加え、中絶薬の使用を妊娠10週以内から7週以内に限定することが含まれている。(後略)【4月13日 ロイター】
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バイデン政権はこの連邦高裁判断を不服として最高裁で争う方針です。

****米司法省、経口妊娠中絶薬の制限停止を最高裁に要求へ****
米司法省のガーランド長官は13日、経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の入手に一定の制限を設けたルイジアナ州ニューオーリンズの連邦高裁の判断を不服として、連邦最高裁に制限を停止するよう求める声明を発表した。バイデン政権は同薬の使用権擁護を掲げている。

ガーランド氏は声明で、米食品医薬品局(FDA)の科学的判断を擁護するとともに、米国民が安全かつ効果的な生殖関連の治療を受けられるようにするため、最高裁に緊急措置を求めると表明した。(後略)【4月14日 ロイター】
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常に問題となるように、最高裁は現在、保守派が多数を占めています。
その最高裁で、連邦高裁判断を更に緩めて、これまでどおりの使用を認める判断がだされるのは難しいようにも思えますが・・・。

政権として、これまでからの「後退」を認める訳にはいかない・・・というところでしょうか。

【保守派主張に沿った使用制限は政治的には保守派の「勝利」にはならないかも】
このミフェプリストンをめぐる争いについての個人的印象をふたつ。

ひとつは使用禁止を求める側やテキサス州地裁はFDA・医学会が認め、20年以上使用してきた薬の「安全性」を云々していますが、「それほど安全性と言うのであれば、銃を野放ししている現状はどうよ?」という印象。

これは「日本の常識」ではありますが、銃社会アメリカではまた違うのでしょう。
銃も中絶も、安全性ではなく価値観の対立でしょう。 

もうひとつは、政治的影響に関するもの。
いわゆるリベラルな立場からすると、保守派の主張によってこれまでの権利が「後退」したという形ではありますが、それは保守派の「勝利」とはならないかも。

先の中間選挙で予想に反して民主党が善戦し、共和党が事実上敗北したのは、有権者の間でのトランプ政治復活に対する危機感と、直前に問題となった最高裁による中絶に関する「後退」判断があってのことでした。

中絶に関する保守的判断は共和党岩盤支持層には歓迎されても、中間層・無党派層の警戒感を強めることになります。

今回のミフェプリストンについても、最高裁で保守的判断が下されれば、同様の流れが起きることも考えられます。

中間層・無党派層の賛同を比較的得やすい「中絶」を争点とするのは、民主党サイドとしては戦いやすい戦略でしょう。

【バイデン政権 中絶違法州から合法州へ移動しての中絶を保護する対応検討】
中絶が合法な州と違法な州の地域差が顕著になっており、州をまたいだ中絶が違法な州で「犯罪」として逮捕されることもある現状に関して、合法の立場のバイデン政権は歯止めをかけるための健康情報の提供制限を提案しています。

****バイデン米政権、中絶女性保護で新たな法案 健康情報の提供制限***
バイデン米政権は12日、女性の健康情報の保護を強化する新たな個人情報保護法を提案した。人工妊娠中絶を受ける女性に対する起訴や捜査に健康情報が利用されるのを防ぐのが狙い。60日間の意見公募を行った後に最終案をまとめる。

全ての州に適用される、医療データ規格の「医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPAA)」を見直す。医療機関や保険会社などによる個人の健康情報の入手を認めている例外規定を改め、妊娠中絶など生殖医療に関する情報については医療目的以外の利用や開示を禁止する。捜査や訴訟手続きに入るために個人を特定することも禁じる。

ただ、医療法ではなく刑法である州の中絶禁止法に対して新たな法律がどの程度効果を持つか不透明だ。

米国では既に数千人の女性が、中絶が合法化されている州に移動して中絶措置を受けている。しかし今月にアイダホ州で中絶のため州外に出ることを明確に制限する法律が可決され、他の州に移動して中絶措置を受けると犯罪捜査の対象になるとの懸念が高まっている。【4月13日 ロイター】
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大きく変化する中東情勢 イランとサウジ、シリア・アサド政権とアラブ諸国の関係改善

2023-04-13 23:35:38 | 中東情勢

(12日、サウジアラビア西部ジッダで、握手するサウジのファイサル外相(左)とシリアのメクダド外相(国営サウジ通信提供)(AFP時事)【4月13日 時事】)

【大きく変化する中東情勢】
これまでも折に触れて取り上げてきたように、イランとサウジアラビアの対立を軸としていた中東情勢は大きく変わりつつあります。両国の代理戦争でもあった8年にも及ぶイエメン内戦にも動きが見られます。

そうした両国関係の変化に付随するように、これまでアラブ世界でも孤立していたシリア・アサド政権とサウジアアラビアなどアラブ諸国の関係改善の動きも始まっています。トルコ・シリアを襲った大地震も、救援・復興という名目で、そうした関係改善の動きを加速させています。

【進捗するイランとサウジアラビアの関係改善 イエメン内戦も「恒久停戦」に向けた協議】
まず、3月に中国の仲介で関係正常化に合意したイランとサウジアラビアですが、その後も関係改善の動きが継続しています。

****イラン、サウジ外相会談へ 北京で6日、正常化協議****
外交関係の正常化で合意したイランとサウジアラビアが、6日に中国・北京で外相会談を行う方針であることが分かった。イランのアブドラヒアン外相とサウジのファイサル外相が、関係正常化について協議。中東地域や国際的な情勢、エネルギー問題に関しても話し合う。イラン外交筋が4日、明らかにした。

中東の覇権を争って対立してきたイランとサウジは3月、中国の仲介で関係正常化に合意し、2カ月以内の大使館再開で一致していた。外相会談の舞台が北京となり、米国の影響力が低下する中東外交で、中国が存在感をさらに誇示することになりそうだ。

イラン政府当局者らによると、イランとサウジの事実上の代理戦争となっているイエメン内戦の終結を目指すことや、サウジがイラン核合意の再建を支持することなど5項目で両国は一致している。外相会談では、これらについて協議を進めるとみられる。

イランメディアによると、イランのライシ大統領は、サウジのサルマン国王からのサウジ訪問招待を受け入れている。【4月5日 共同】
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6日に北京で行われたイランのアブドラヒアン外相とサウジのファイサル外相の約7年ぶりとなる公式会談を受けて、予定されていた大使館再開も。

****サウジアラビアのイラン大使館が7年ぶりに再開****
サウジアラビアのイラン大使館が12日、7年ぶりに再開した。イランとサウジが外交関係の正常化で合意したことに基づく措置。(中略)

イラン外務省の報道官は声明で、リヤドとジェッダに大使館と総領事館を開くための必要な措置を講じると説明した。

イランの在サウジ大使館は2016年に両国の関係悪化を受けて閉鎖されていたが、両国は先月、中国を仲介役として外交関係を正常化するとともに大使館を再開することで合意した。

サウジ外務省によると、サウジ側もテヘランで大使館と領事館を再開するために担当者を派遣している。【4月13日 ロイター】
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イラン・サウジの代理戦争であるイエメン内戦を巡っては、昨年4月に一時停戦が発効しましたが。10月に紛争当事者が延長で合意できず、停戦は失効していました。

泥沼化したイエメン内戦による死者は、深刻化した飢えや感染症も含め38万人に上ります。一方、サウジアラビアは石油施設などがフーシ派による攻撃を受け、また、財政的にも軍事介入が大きな負担となっています。

今回のイラン・サウジの関係改善を受けて、「恒久停戦」に向けた協議が、親イラン武装組織フーシ派とサウジアラビアの間で行われています。

****イエメン内戦、サウジ代表団が親イラン武装組織幹部と会談****
イエメン内戦を巡り、サウジアラビアの代表団が9日、イエメンの首都サヌアで、敵対する親イラン武装組織フーシ派の幹部と会談した。フーシ派の勢力下にあるイエメン国営サバ通信が報じた。会談には仲介役であるオマーンの代表団も同席。サウジ側は恒久的な停戦を求めている。

イエメン内戦では国連も並行的に取り組みを進めているが、今回の代表団訪問でオマーンの仲介による協議の進展ぶりが浮き彫りになった。

サウジとイランが中国の仲介で外交関係正常化に合意したことで、イエメンの和平に向けた取り組みに弾みが付いている。イエメンと国境を接するオマーンは以前から仲介に努めていた。

サバ通信によると、サウジとオマーンの代表団は大統領府でフーシ派最高政治評議会のマフディ・アルマシャート議長と会談した。

消息筋によると、協議ではフーシ派が支配権を握っている港湾やサヌア空港の全面的な再開、公務員への賃金支払い、復興計画、外国部隊の撤退スケジュールなどが焦点になっている。【4月10日 ロイター】
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フーシ派当局者によると、サウジ人1人とフーシの13人の捕虜交換も行われたとのことで、近日中には暫定政権との間で約900人の捕虜交換も予定されています。

【アラブ諸国 内戦の勝利者であるシリア・アサド政権との関係改善へ 地震救援も後押し】
一方、アラブ世界で孤立していたシリアをめぐる動きも活発化しています。

サウジアラビアはアサド政権によるシリア反体制派への弾圧を理由に2011年、駐シリア大使を召還して外交関係を断絶し、反体制派を支援してきました。

しかし、アサド政権を支援するイランとサウジが関係正常化で合意。また、2月にトルコやシリアを襲った地震では、サウジなどアラブ各国がアサド政権側に救援機を送るなど、関係改善の機運が高まっていました。

こうした流れを受けて、3月末にはサウジ政府系のテレビが、サウジアラビアとシリアのアサド政権が領事業務の再開について協議していると報じていました。

シリアとサウジアラビアの関係改善については、アサド政権を支えるロシアが仲介したとWSJが報じています。

****サウジ・シリア外相が会談、関係修復を歓迎****
シリアのメクダド外相は12日、サウジアラビアのジッダを訪問し、ファイサル外相と会談した。両相は領事業務や航空便運航の再開に向けた手続きなど関係修復を歓迎。麻薬対策やシリアのアラブ社会復帰で協力することでも合意した。

シリア外相がサウジを訪問するの約10年ぶり。中東でのシリアの孤立解消が近づいていることが鮮明になった。メクダド外相は先にエジプトとヨルダンの外相とも約10年ぶりに会談している。

サウジはシリアのアサド大統領による2011年の反体制派弾圧を受けて同国との外交関係を断絶し、反体制派を支持していた。アラブ連盟もシリアの参加資格を停止した。

アサド大統領はイラン、ロシアの支援を受けて国内の多くの地域を奪還しており、サウジはアサド大統領の孤立化は機能していないとの見解を示している。

関係筋によると、サウジは5月19日に首都リヤドで開催予定のアラブ連盟首脳会議にアサド大統領を招待する方針だ。【4月13日 ロイター】
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“ロシアがリードするサウジとアサド政権の接近は中国も歓迎しているもようだ。エジプトの英字紙アハラム・ウイークリー(電子版)は3月17日、「中国はアサド政権に対する(欧米の)制裁解除を求め、国際社会への復帰を支持している」とのシリア人評論家のコメントを紹介し、「中国は、唯一の問題は米国にあり、他の国々に罪はないとみている」と論評した。”【4月10日 産経】と、中国もこうした動きを歓迎しています。

“中露が主導して中東の勢力図を塗り替えている形で、大きな影響力を誇示してきた米国の地盤沈下が急速に進んでいる。”【同上】とも

アサド政権は軍事的には内戦の勝利をほぼ確実にしており、これまで反政府勢力を支援していたアラブ諸国としては、現実対応を迫られていました。大地震はそうしたアラブ世界に「救援」という名目を与えることで、方針転換に踏み出すことを後押ししたように見えます。

対イランでも、対シリアでも、スンニ派の盟主サウジアラビアの活発な動きが目立ちますが、国内の実力者ムハンマド皇太子の意向を受けての動きであり、権力が集中する政治体制の民主主義国家とは異なる「動きの早さ」でもあります。

サウジアラビアが動けば、他の湾岸諸国も追随します。

大地震を受けて、ヨルダンのアイマン・サファディー外相が2月15日にシリアを訪問し、シリアのアサド大統領、メクダード外相と会談しました。シリア内戦開始以来初めてのヨルダン高官によるシリア訪問でした。

3月19日には、シリア・アサド大統領がUAEを訪問しています。

****シリア大統領がUAE訪問=地域の安定と進展協議****
シリアのアサド大統領は19日、アラブ首長国連邦(UAE)を訪問し、ムハンマド大統領と会談した。ムハンマド氏はツイッターに「2カ国関係の発展を目的とした建設的な会談を行った」と投稿。「シリアと地域の安定や進展を加速させる協力強化」についても話し合ったと強調した。

アサド政権は2011年に始まった内戦を機に、アラブ諸国から外交面で孤立した。しかし、内戦で軍事的勝利をほぼ確実にすると、UAEをはじめアラブ各国は関係改善に傾斜。トルコ南部で今年2月に発生した大地震で被災したシリアに対し、支援などを通じて修復を図る動きが広がっている。【3月19日 時事】 
**********************

エジプトもシリアとの関係を転換。

****シリア外相がエジプトを訪問、内戦後初 交流強化で一致****
シリアのメクダド外相は1日、エジプトの首都カイロを訪れ、シュクリ外相と会談した。シリア外相のエジプト訪問は2011年にシリアで内戦が始まって以来、初めて。

内戦でアサド政権が軍事的優位を固める中、アラブ諸国はアサド政権との関係正常化に動いており、今回の訪問もそうした流れの延長線上にある。

シリアはアサド政権による反体制派デモの弾圧に対する制裁として地域協力機構「アラブ連盟」の参加資格が停止されているが、ロイター通信はエジプト当局者の話として、今回の訪問はシリアのアラブ連盟復帰に向けたものだと伝えた。

エジプト外務省の発表によると、会談ではシュクリ氏がシリアの政治安定を目指す努力を支持すると表明。両国間の交流を強化することで一致した。

シュクリ氏は2月のトルコ・シリア地震後、シリアを訪れアサド大統領と会談している。【4月2日 毎日】
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【悪化するイスラエルとシリア・イランの関係】
サウジアラビアなどアラブ諸国がシリアとの関係改善に動く一方で、イスラエルとシリア・イランとの対立は激しさを増しています。

****イラン革命防衛隊の幹部死亡 イスラエルがシリアで攻撃か****
イランメディアは3月31日、シリアのアサド政権の下で軍事顧問をしていたイラン革命防衛隊の幹部が同日未明、シリアの首都ダマスカス郊外でイスラエルによるミサイル攻撃を受け死亡したと報じた。イスラエルはシリアでイランの関連施設などを狙った攻撃を繰り返しているとされ、緊張が続いている。

ロイター通信によると、イスラエルがシリア領内を攻撃したのは3月だけで少なくとも6回に上る。22日には北部アレッポの国際空港でイランの武器貯蔵庫を狙ったとみられる攻撃があったほか、30日未明にもダマスカス周辺でミサイル攻撃があり、シリア軍人2人が負傷した。革命防衛隊は「(イスラエルは)必ずこの犯罪の報いを受ける」との声明を出した。イスラエルは攻撃についてコメントしていない。

革命防衛隊はイランの最高指導者ハメネイ師直轄の精鋭部隊で、国境警備や対テロ作戦などを担当。シリア内戦ではアサド政権の支援を続けている。【4月1日 毎日】
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イランは地震救援を装いシリアに武器輸送を行ったと報じられています。

****イランがシリアに武器輸送、地震救援装い航空便で=情報筋****
2月に大地震に見舞われたシリアに対し、戦略的同盟国のイランが救援のための航空便で武器や軍事用品を持ち込んだことが分かった。シリア、イラン、イスラエル、欧米の情報筋9人がロイターに明らかにした。

情報筋によると、シリアにおけるイランの対イスラエル防衛を補強し、アサド政権を強化することが目的だった。

2月6日にシリア北部とトルコで大地震が発生した後、物資を積んだ航空機数百機がイランからのシリアのアレッポ、ダマスカス、ラタキアに到着し始めた。こうした救援便の運航は7週間続いたという。

情報筋によると、物資には、シリア内戦でイランが提供する防空システムの更新に必要な高度な通信機器やレーダーのバッテリー、予備の部品などが含まれていた。(後略)【4月12日 ロイター】
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こうした状況のなかで、エルサレムにあるイスラム教とユダヤ教の聖地「神殿の丘」(イスラム名ハラム・アッシャリーフ)で発生したパレスチナ人とイスラエル警察の衝突事件に端を発したイスラエルとハマス等との攻撃の応酬は、ガザ地区から親イラン武装勢力ヒズボラが力を持つレバノンへ、更にシリアにも拡大しています。

****シリアからロケット弾6発 イスラエル軍は報復攻撃****
シリア領内からイスラエルに向け8日夜と9日未明、ロケット弾計6発が発射された。イスラエル軍が発表した。

レバノンのテレビ局によると、パレスチナ武装勢力が発射の声明を出した。イスラエル軍は9日未明、報復としてシリア領内の発射地点を無人機(ドローン)などで攻撃した。シリア領内からイスラエルへの攻撃は異例。

6日にはレバノン領内やパレスチナ自治区ガザからもイスラエルへのロケット弾攻撃があり、イスラエル軍は報復として、両地域にあるイスラム組織ハマス関連施設を空爆したばかり。イスラエル・パレスチナの治安情勢は悪化の一途をたどっている。【4月9日 共同】
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インド  欧米や中ロとも一線を画し、「グローバルサウスの盟主」を狙う 国境紛争など対中国で強気

2023-04-12 23:21:10 | 南アジア(インド)

(広大な印中国境地帯は、その多くが係争地域となっている【2022年1月22日 WEDGE ONLINE】)

【ロシア産石油輸入急増 「漁夫の利」とも】
インドはウクライナ問題を軸とする国際関係において、ロシアをあからさまに支援したり、中国のようにロシアに寄り添うこともありませんが、ロシアを激しく批判する欧米とも一線を画した対応をとっています。

結果的に、安価なロシア産石油を大量に輸入すると言う形でロシア経済を支えることになっている一方で、インド自身は“漁夫の利”とも評される利益を獲得しています。

****ウクライナ戦争で莫大な漁夫の利、そのインドに求められること****
ロシアによるウクライナへの本格的な軍事侵攻から1年が経った。
西側諸国がモスクワを非難する中、インドは非難するどころか逆に露印関係をむしろ深めている構図が浮かび上がってきている。(中略)

欧米諸国がロシアへの制裁措置としてロシア産の原油の輸入を削減しているなか、全く逆の動きに出てさえいる。
さらにロシア製兵器の発注も続けている。西側アナリストの分析をながめると理由がみえてきた。

最初はインドとロシアが歴史的に外交的な立場を共有してきたという背景がある。
インドは英国から独立した後、旧ソ連に傾斜しながらロシア側に身を寄せる。それは反欧米という感情がインドに根付き始めたということでもあった。(中略)

インドがロシアを非難しない他の理由は経済的要因がある。
インドはいま、世界でも急速に経済成長を遂げている国の一つで、国民の潜在意識として「政治よりもまず経済」を優先する流れがある。(中略)

ただインドには原油や天然ガスがほとんどないため、大半を輸入に頼っている。そこに登場するのがロシアなのだ。

インドはいまでも中東の産油国から原油を輸入しているが、ロシアのシェアが急増している。
原油輸入先としては、これまでイラクとサウジアラビアがロシアよりも上だった。それがいまやロシアが最大の原油供給国になっている。

2022年12月、インドはロシアから1日120万バレルの原油を輸入した。この数字は2021年12月比の33倍という数字である。

ウクライナ戦争が始まる前、ロシア産原油を全体の1%未満しか輸入していなかったインドが、今では総輸入量の28%をロシア産に頼っている。

皮肉なのは、インドに供給されたロシア産原油はインドで精製された後、欧州連合(EU)などに輸出されていることだ。

EUは2022年12月、ロシアへの経済制裁としてロシア原油の輸入を禁止したばかりで、巡り巡って欧州諸国に行きついているのだ。言い方を変えれば、EUは手を汚さずにロシア産原油を手に入れていることになる。

もちろんインドも割安なロシア産原油を大量に仕入れて、再輸出することで利益を上げている。これが今の国際関係の現実である。

露印関係が深まっている別の理由は、インドがいまでもロシア製の兵器に頼っていることである。
歴史的にインドの軍隊はロシアの兵器を使用してきた。冷戦時代、ロシアとインドは公式には非同盟だったものの密接な関係を維持していた。

ただ近年、ロシア製の兵器の品質に疑問を持ち始めたインドが航空機や大砲の一部をフランス、イスラエル、米国のものに置き換え始めてもいる。

もちろん、すべての軍備を置き換えるには多大の時間とコストがかかるし、いまだにロシアはインドに対し大量の武器を供給しているのも事実だ。(中略)

インドに精通した外交アナリストと話をすると、インドが今採るべき外交上の役割があるという。
それはロシアと国際社会の仲介役を担うことである。ロシアと密接な関係を築いているからこそ、重要な役回りを担う必要があるというのだ。(中略)

同外交アナリストが望むのは、このままウクライナの戦況が膠着した場合、ロシアを含めた関係国は「着地点」を探らざるを得なくなるので、インドがロシアと欧米との橋渡し役を担えるのではないかということだ。

モディ首相は今後もプーチン氏をあからさまに非難したり攻撃することはしないだろう。それだからこそ、ウクライナ紛争の早期解決を提案し、働きかけることができるはずだ。(後略)【3月3日 堀田 佳男氏 JBpress】
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上記記事にある、インドがロシア産石油輸入を急増させていることは以下のようにも。

****ロシア産石油、インドへの輸出22倍に 西側の制裁影響****
ロシアのアレクサンドル・ノバク副首相は28日、ロシアのウクライナ侵攻に伴って欧州諸国がロシア産以外の石油調達に動いたことから、2022年のロシアのインドへの石油輸出量が22倍に急増したと明らかにした。

ウクライナ侵攻開始以降、欧州連合加盟国はロシア産エネルギー依存からの脱却を模索、ロシアはインドと中国に石油輸出をシフトした。

EUは昨年12月、海上輸送によるロシア産原油を禁輸とし、主要7か国ともロシア産原油の上限価格導入で合意した。

こうした動きにより、中国とインドに輸出されるロシア産エネルギーの価格下落につながった。

ロシアの通信各社によると、ノバク氏は「(ロシアの)エネルギー資源のほとんどは他の市場、つまり友好国の市場に回された」と述べた。(後略)【3月28日 AFP】
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そしてインドが大量購入したロシア産石油を精製して、本来ロシア産石油を禁じている欧州へ「インド産」として流れている実態については以下のようにも。

****ロシア産石油製品輸入禁止の欧州、インド経由の「裏口流入」が急増****
今年2月からロシア産石油製品輸入を禁止している欧州連合(EU)に、インド経由で軽油や航空燃料の「裏口流入」が急増していることが、ケプラーとボルテクサのデータで判明した。

ロシア産原油を低価格で輸入できるインドの製油業界が、そうしたコスト面の競争力を武器に欧州向けの石油製品輸出を拡大して市場シェアを伸ばしている構図だ。

欧州のインドからの軽油・航空燃料輸入量は、ロシアのウクライナ侵攻以前は平均で日量15万4000バレルほどだった。ところがケプラーのデータによると、EUがロシア産石油製品輸入を禁止した2月5日以降、輸入量が20万バレルに増えている。(後略)【4月6日 ロイター】
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【「グローバルサウスの盟主」を狙うインド】
インドからすれば、ロシア産石油の輸入急増は、安価なものを入手したという単なる経済活動であり、それをとやかく言われる筋合いはない・・・ということでしょう。

とやかく言われる筋合いはないと言うより、かつての植民地支配国家でありながら“上から目線”の欧米や、あからさまな強権支配国家であるロシア・中国とも異なり、インドはその他大勢の「グローバルサウス」の声を代表する立場にある・・・というのがインドの立場でしょう。

モディ首相は、今年はG20の議長国ということで、「グローバルサウスの盟主」としてのインドをアピールしたいところでしょう。

そうした立ち位置において、特に「一帯一路」を掲げてグローバルサウスの国々との関係強化を図る中国と競い合う面が多くあります。

****グローバルサウスの盟主を目指すインドの危うさ モディ首相の触れられたくない過去も問題視****
「中国という全体主義国家は、多方面からの戦略を用いて米国を追い落とし、世界に君臨する超大国になろうとしている」

インド陸軍のパンデ参謀長は3月27日、米誌ニューズウィークのインタビューでこのように述べた。近年のインドの高官としては最も過激な中国批判の1つだ。 パンデ氏は中印国境の最前線で指揮をとるインド軍の最高幹部だ。

インドと 中国が軍事衝突したのは、1962年。両国の間の全長約3400キロメートルに及ぶ実効支配線の一部をめぐっての争いだった。その後、小康状態が続いていたが、2020年6月に、半世紀近くなかった死者を出す衝突が発生し、昨年12月にはインド軍が米国情報機関の支援を得て実効支配線の西側から侵入した中国軍を撃退したとされている。

パンデ氏は「北部国境沿いの軍の配備を見直し、高次の準備態勢を維持している」と自信を示しているが、中国との対立は長期にわたって続くことが懸念されている。

中国との国境紛争を重く見たインド政府は3月中旬、銀行や貿易業者に対して、ロシアからの輸入代金支払いに中国の人民元を使わないように働きかけている(3月13日付ロイター)。 これは、インドがロシア産の原油や石炭の最大の買い手になったことが関係している。

ウクライナ戦争の影響でロシアでは、米ドルに代わり人民元が最も取り引きされている外貨となっている。中国は3月末、アラブ首長国連邦(UAE)産の液化天然ガス(LNG)を人民元建てで購入する契約を成立させた。

エネルギー取引の分野で人民元のプレゼンスが高まっているのにもかかわらず、「インド準備銀行(中央銀行)は人民元による貿易決済に乗り気ではない」とインドの銀行関係者は語り、「政府が人民元の利用を妨げている」と嘆いている。

インド政府はさらに4月から自国通貨ルピー建ての貿易を促進する方針を明らかにしており、マレーシアやミャンマーとの貿易をルピーで決済することを発表している。

「今年はインドが世界を主導するきっかけに…」
中国との確執が通貨の問題に波及した形だが、最近のインドはとにかく鼻息が荒い。

インドの経済規模は中国の6分の1に過ぎないが、足元はインドが俄然優勢だからだ。 インドの昨年の実質国内総生産(GDP)は6.7%の成長となり、中国の伸び率を上回った。 ドルベースの昨年の名目GDP(約3兆3800億ドル)は日本の8割に迫っている。

昨年、中国が人口減に転じたのに対し、インドは2060年代まで人口増が続き、17億人に近づくと予測されている。

パンデ氏はこのような現状を踏まえ「インドは今日、世界の舞台で一大勢力として台頭している。現在のインドは、経済成長や他国との戦略的連携を後ろ盾に『グローバルサウス』の声となっている。今年はインドが世界を主導するきっかけとなる分水嶺の年になる」と自信満々だ。

グローバルサウスとは、南半球に多いアジアやアフリカなどの新興国・途上国の総称だ。北半球の先進国と対比して使われることが多い。

ウクライナ情勢を巡り欧米諸国とロシアとの対立が深まる中、国連決議などの場面でグローバルサウスの動向が注目されるようになっている。

成長著しいインドだが、世界銀行による位置づけは「下位中所得国」であり、途上国が直面する問題を当事者として理解できる立場にある。

西側諸国が中国やロシアと対抗する上で、同じ民主主義を看板に掲げるインドを重視するようになっていることも追い風だ。特に、日米豪との「クアッド」の枠組みはインドにとって戦略的な強みとなっている。

モディ首相もこのことを十分に自覚している。西側諸国と良好な関係を武器にグローバルサウスの盟主として、目障りなライバルである中国を追い詰めようとしている。

強権国家に近づいているとの指摘も
だが、「世界最大の民主主義国家に危うい一面が目立つようになってきた」との指摘も出てきている。

モディ首相は最近「欧米など先進国のツケをサウスの国々が不当に払わされている」との不満をたびたび口にするようになっている。

モディ首相は3月2日、ブリンケン米国務長官が参加している20カ国・地域(G20)外相会合の場で、米国が築いた第2次世界大戦後の国際秩序を「失敗」と一刀両断した。インドの批判に対し、西側諸国は同国の人権状況を問題視し始めている。

米人権団体フリーダムハウスは2020年の報告書で「ニューデリーと北京の価値観の違いが曖昧になりつつある」と記述し、インドが中国のような強権国家に近づく可能性に警鐘を鳴らしている。2021年には政治状況に関するインドの評価を「自由」から「部分的自由」に引き下げている。

モディ首相についても「州首相時代の2002年に少数派イスラム教徒を弾圧した」との批判が持ち上がっているが、植民地時代への恨みが根強く残るインドでは「旧宗主国の傲慢な物言いだ」との反発が高まるばかりだ。

インドは成長著しいものの、深刻な雇用不足に悩んでいる。都市部では若年層の失業増加で治安が悪化しつつあり、インド政府が強権的な取り締まりに踏み切れば、人権状況を巡る西側諸国との軋轢はさらに激化することだろう。

インドと西側諸国との蜜月関係はいつまで続くかどうかわからない。日本でもインドは大きな存在になったが、その距離の取り方は一筋縄ではいかないのではないだろうか。【4月11日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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【対中国で「鼻息が荒い」インド】
上記記事冒頭にあるインド陸軍のパンデ参謀長の発言については、以下のようにも。

****インド軍幹部「人民解放軍と戦う準備はできている」、異例の率直さで中国を語る****
<中印国境を越える侵攻に戦力を厚く備えるだけでなく、G20 の議長国として、また「グローバルサウス」のリーダーとして、インドが中国の覇権拡大を阻止すると表明>

インド軍幹部が3月27日、同軍は、これまで長く争いの種となってきた中印国境における「いかなる不測の事態」にも準備を整えていると語った。中印国境での中国軍の戦力増強について概説した中での発言だった。

インド陸軍のマノジ・パンデ参謀長は、中国政府は年を追うごとに「かなりの部隊増強」をしており、実効支配線(LAC)沿いで飛行場や兵舎など軍事インフラの運用を続けていると述べた。

中国という「全体主義国家」は、多方面からの戦略を用いてアメリカを追い落とし、世界に君臨する超大国になろうとしていると。

パンデの発言は、インドの高官からの言葉としてはこれまでで最も率直なものの1つであり、中国政府を苛立たせる可能性が高い。パンデは、数十年にわたって続いてきた中印国境の紛争の重要性について強調した。

インドは、北部国境沿いにおいて軍の配備を見直した、とパンデは述べた。「我々は、高次の準備態勢を維持し、断固として力強くありながらも、慎重に注意深く中国人民解放軍と向き合っている。それによって我々の主張の正しさ示す」

インド太平洋における現状変更の試み
(中略)その基調講演でパンデは、国境管理に関する協定を、中国は「LACをまたぐ不法侵入」によって破り続けていると付け加えた。

インドと中国は、両国の間の全長約3400キロに及ぶ実効支配線の一部をめぐって、1962年に軍事衝突した。

2020年6月には、国境東部にあるヒマラヤ山脈の峡谷で小競り合いが発生し、半世紀近くなかった死者を出す衝突に発展した。インド軍では約20名、中国軍では少なくとも4名の兵士が死亡したが、両国政府の協定に従い、戦闘は殴り合いやこん棒や投石によるもので、銃は用いられなかった。

公になっている中で最新の衝突は、2022年12月に発生した。インドの国境警備兵が、(報じられるところによるとアメリカ情報機関の支援を得て)実効支配線の西端から侵入した中国軍を撃退したという。

中国政府は経済を優先して国境に関する見解の相違については棚上げしたがっているが、これについてパンデは、「二国間の関係は国境問題と切り離して考えられるものではない」と釘を刺した。

パンデは、インド太平洋地域では、他にも至るところで、長く続いてきた現状を変更しようとする類似の試みがおこなわれていると主張した。「南シナ海への進出、台湾への圧力、実効支配線付近における好戦的な行動などから、中国は、国際ルールではなく『力こそ正義』と解釈していることがますます明白になっている」

「中華思想的な世界観」により、中国は「文化、政治、経済面で世界の中心と見られるにふさわしい」と信じているとパンデは述べた。さらに、異例の率直な言葉で、「天然資源を武器として用いる戦略」や、知的財産を盗んできた過去の経歴など、中国の「略奪的な経済構造」にも触れた。

「インドは今日、世界の舞台で一大勢力として台頭している。現在では、経済成長、技術進歩、他国との戦略的提携により『グローバルサウス』の声となっている」と自覚を示した。

インドは今年、G20の議長国だ。2023年は「インドにとって、世界的な政策立案における分水嶺の年」になるとパンデは言った。【3月29日 Newsweek】
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インドの「鼻息の荒さ」が際立つパンデ参謀長の話ですが、従来中印国境紛争では中国側が常に優勢だったようにも。戦闘に向けた道路整備などでも中国の方が進んでいるようにも。本当に「人民解放軍と戦う準備はできている」のか?

また、中国批判は「ごもっとも」ですが、ヒンズー至上主義のモディ政権はどうよ? といった疑問も。そのあたりは、【デイリー新潮】で藤和彦氏が指摘しているところです。

中印関係については“インド閣僚のアルナーチャルプラデーシュ州訪問、中国が批判”【4月10日 ロイター】という記事も。インド北東部のアルナーチャルプラデーシュ州は中国側も領有権を主張している地域です。
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フランス・マクロン大統領 台湾問題についてアメリカ追随を否定し、「われわれの危機ではない」

2023-04-11 23:08:41 | 欧州情勢

(7日、中国・広州の公園を散策する習近平国家主席とマクロン仏大統領=AP【4月8日 読売】
習近平主席としては「二日連続の異例のおもてなし」とも)

【台湾をめぐる緊張高まりに「われわれのものではない危機にとらわれれば、ワナに陥る」】
フランス人は英語が理解できても、英語の質問には答えない、フランス語でしか話さない・・・と昔から言われるように独自性の主張が強い国民性とも評されます。

国際政治においても、「ドゴール主義」と言われる、NATOにも加盟せず、アメリカとは一線を画する独自路線を主張した時代もありました。

マクロン大統領が中国を訪問して、台湾問題について「EUは米国の政策に追随すべきでない」、「われわれの危機ではない」と言い放ったことは、そうしたフランスのアメリカ追随を良しとしない自己主張の強さ改めて思い起こさせました。マクロン大統領のときに「傲慢」とも批判されるような、周囲の空気をものともしないプライドの高さも。

マクロン発言には欧州内において批判も高まっています。

****仏大統領の台湾発言が波紋 「我々の危機ではない」****
フランスのマクロン大統領が5〜7日の訪中時、米欧メディアと行ったインタビューで台湾をめぐり、欧州連合(EU)は米国の政策に追随すべきでないと主張し、「われわれの危機ではない」と位置付けたことが波紋を広げている。欧州の対中強硬派から、批判が相次いだ。

インタビューは移動の機中で行われ、仏紙レゼコー(電子版)などが9日に掲載した。マクロン氏はEUは米中対立と距離を置き、「第三極」を目指すべきだと主張。

「台湾での(緊張の)高まりに、われわれの利害はあるか。答えはノンだ。最悪なのは、米国のペースや中国の過剰反応に追随せねばならないと考えること」と訴えた。「われわれのものではない危機にとらわれれば、ワナに陥る」とも述べた。

ドイツでは、連立与党から批判が出た。ショルツ首相の社会民主党(SPD)で外交問題を担当するハクベルディ下院議員は独紙で、「中国に対し、西側が分裂するのは誤り」と強調。ロシアのウクライナ侵攻を教訓に、「強権国家におもねるべきではない」と対米連携を訴えた。

欧州各国の議員で作る「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC)は声明で、「台湾海峡の平和を維持するための国際社会の努力を損なった」とマクロン氏の発言を批判した。声明には英仏独のほか、スウェーデンやオランダなどの国会議員が名前を連ねた。【4月11日 産経】
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【思惑が一致したマクロン大統領と習近平主席】
そもそも、フランスは周知のように受給年齢引き揚げを伴う年金制度改正問題で大きく揺れており、議会採決を経ずに改正法案を強行採択したマクロン大統領の姿勢に反発が更に高まっています。

そんな大変な時期にどうして訪中? という疑問もありますが、そんな大変な時期だからこそ、大きな成果が欲しいのだろう・・・という指摘も。

****「苦労するフランス大統領」を印象付けるマクロン大統領の訪中****
外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が4月7日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。4月6日に北京で行われたフランスと中国の首脳会談について解説した。

フランスと中国が首脳会談
中国を訪問したフランスのマクロン大統領は4月6日、北京で習近平国家主席と会談した。マクロン大統領はロシアによるウクライナへの軍事侵略について、「ロシアに理性を取り戻させ、すべての関係者を交渉のテーブルに戻すために、あなたの役割に期待している」と呼びかけた。(中略)

国内では年金改革反対デモが激化 〜だからこそ中国に行かざるを得ない部分も
宮家)そもそも「マクロンさんにはそんな暇があるのか? いまパリはどうなっているのだ?」と思いますね。フランスは労働組合が強いですから、年金の支給開始年齢を62歳から64歳に引き上げるという年金制度改革に対して、大規模なデモが10日以上も続いているわけです。(中略)

国内がこれだけ荒れているのですから、「まずはそっちをやりなさい」と言いたいところですが、実はそういう状況だからこそ、中国に言われたら行かざるを得ない。中国はエアバスを買うなど、経済的にいろいろなベネフィットがあるからです。

飯田)50人くらいの企業経営者が同行しているという話です。

「マクロン大統領が苦労している」ことを印象付ける今回の訪中
宮家)気持ちはわかります。国内が荒れているのもフランス経済がよくないからであり、ここで中国に行き、「大きな商談を決めてアピールして帰りたい」という気持ちはわからないでもない。しかし、それにしてはあまり上手くないなと思います。(中略)

仲介するのはいいですよ。でも、マクロン大統領自身がウクライナとロシアを仲介しようとしたけれど、成果がないではないですか。中国と組んでも、一緒に仲介者になれるわけがない。今回の訪中からは、マクロンさんも苦労しているなという印象を強く受けました。

自国の国益を最大化するため
飯田)こういう動きをすると、ロシアに「西側は足並みが乱れているのではないか」と取られませんか?

宮家)いい意味で、みんな自分の国益を最大化するために動いているのですから、それは当然ですけれどね。
飯田)自国の国益を最大化するために。

宮家)ロシアに近い東欧の国と、そうではないフランスやドイツのような西欧の国は微妙に考え方が違うし、ロシアや中国との関係でも、アメリカとも一味違う。そこにフランスやドイツの存在価値、もしくは国益を最大化するためのさまざまなアイデアが眠っているのではないでしょうか。(中略)

そういう意味でマクロンさんの動きは、フランスの大統領としては当然なのかも知れません。

しかし、本当に中国とロシアがこれから上手く連携して、ウクライナだけではなくインド太平洋地域においてもどこかを侵攻するような状況になったら、「フランスは本当に役割を果たしているのか?」と思います。

「ただ単に漁夫の利を得ようとしているのではないか?」とまでは言いたくはありませんので、マクロンさんにはそうならないようにして欲しいですね。(後略)【4月9日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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「北京詣で」はマクロン大統領だけでなく、昨年11月にはショルツ独首相、今年3月末にはスペインのサンチェス首相が訪中して習近平主席と相次いで会談しています。「自国の国益を最大化するために」各国首脳が活発に動いているというところでしょう。

そうした中で、アメリカが策動するような中国経済とのデカップリングを否定して、中国との経済関係の成果を得たい、また、アメリカのように軍事的勝利にこだわらず、ロシアとの「より厳しい対話」で欧州の長期的和平確立を主導したい・・・マクロン大統領のそうした思いと、アメリカ主導の「対中包囲網」が狭まる中、欧州と経済関係を強化し、米欧の結束にくさびを打ち込みたい習近平主席の思いが合致した両者の会談でもありました。

習近平主席は北京での会談後、マクロン大統領の広東省広州訪問にも対応する「二日連続のおもてなし」という極めて異例の厚遇で、フランスを重視する中国の姿勢が改めて鮮明になりました。

****マクロン氏と習近平氏、ノーネクタイで公園散策…異例の厚遇で米欧連携に「くさび」****
フランスのマクロン大統領は7日、中国南部の広東省広州を訪問した。6日に北京で会談したばかりの習近平シージンピン国家主席も広州に赴き、非公式首脳会談と夕食会に臨んだ。マクロン氏への異例の厚遇を通じ、米欧、欧州のいずれの連携にもくさびを打ち込む狙いがあるようだ。

中国中央テレビによると、両首脳は7日午後、通訳だけを伴い、ノーネクタイで市内の公園を散策しながら意見を交わした。マクロン氏は地元大学生との交流会を行ったほか、投資家、芸術家らと面会した。

中国共産党機関紙傘下の環球時報は7日、前日に会談した習氏とマクロン氏、欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長がそろって、米国主導のデカップリング(切り離し)に「反対した」と報じた。完全な経済切り離しは難しいとするマクロン、フォンデアライエン両氏の立場を、対中包囲網をけん制するために利用した形だ。

習氏は3期目政権発足以降、相次いで欧州首脳らを招待している。人権問題などで冷え込んだ関係の改善に加え、経済立て直しへ投資を呼び込む狙いがある。ウクライナ侵略を続けるロシア寄りのスタンスを取る習氏への警戒感を和らげる狙いもあるようだ。

「米国との違いを強調すれば、米欧の離間を目指す中国の思うつぼになる」
仏戦略研究財団のアントワーヌ・ボンダズ研究員は、マクロン氏の今回の訪中にこう警鐘を鳴らしていた。

一方、今回の訪中では、EUとマクロン氏との間の安全保障問題などを巡る温度差も浮き彫りとなった。

マクロン、フォンデアライエン両氏は、中国との対話や交流を維持しつつ、戦略物資の調達などの依存は避けるという方針では一致する。

だが、6日の習氏との会談で、フォンデアライエン氏が台湾問題を提起したのに対し、マクロン氏は台湾に触れなかったばかりか、持論である米国とは一線を画す政策「欧州の戦略的自立」を繰り返した。

米中対立の場となる国連で、中仏はともに安全保障理事会常任理事国を務める。習氏は会談したマクロン氏に「中仏は世界の多極化の推進者だ」と呼びかけた。(後略)【4月8日 読売】
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冒頭の「我々の危機ではない」というマクロン発言は、上記のように“米国とは一線を画す政策「欧州の戦略的自立」”というマクロン大統領の持論をストレートに表現したものです。

【欧州でも強まる批判】
マクロン大統領のこうした主張への批判は冒頭記事にもありますが、下記のようにも。

****台湾巡る仏大統領の発言、中国に配慮し過ぎ 欧米議員批判***
マクロン仏大統領は仏紙とのインタビューで、欧州は台湾を巡る対立を激化させることに関心がなく、米中両政府から独立した「第3の極」になるべきだと述べた。これを受けて、中国に配慮し過ぎた発言だとして欧米各国の議員から批判が出た。

マクロン氏は先週訪中した際に仏紙レゼコーとポリティコとのインタビューに応じ「最悪の事態は、この(台湾を巡る)話題でわれわれ欧州が追随者となり、米国のリズムや中国の過剰反応に合わせなければならないと考えることだ」と述べた。

ドイツ連邦議会外務委員会のレトゲン議員はツイッターに、マクロン氏は「中国訪問を習近平氏のPRクーデターと欧州の外交政策の惨状に変えることに成功した」と指摘。仏大統領は「欧州で一段と孤立している」と批判した。

米上院のルビオ議員(共和党)もツイッター投稿動画で、もし欧州が「台湾を巡り米国と中国のどちら側にもつかないのであれば、われわれも(ウクライナに関して)どちらの味方もすべきでない」と指摘した。【4月11日 ロイター】
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****EU内でフランスが孤立する可能性も 仏マクロン大統領「ヨーロッパは米中に追従すべきでない」と主張****
地政学・戦略学者の奥山真司が4月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国訪問中に仏マクロン大統領が語った台湾有事に関する発言について解説した。

(中略)
中国に警戒心が強まっているなかでのマクロン大統領の今回の発言 〜EU内でフランスが孤立する懸念も
奥山)EU内で「台湾有事などがあった場合には中国に厳しく当たる」というコンセンサスがあったはずなのですが、空気が読めていない発言をしてしまったというか、EU内でフランスが孤立するのではないかという懸念が少しあります。

飯田)あのような映像を見ていると、イギリスのキャメロン政権時代に、思い切りパンダをハグしたというような感じの……。

奥山)当時のイギリスは「黄金時代」と言っていました。そのあと、2016年前後から中国が浸透工作を仕掛けていることが、メディアの方にも徐々に発覚していきました。警戒感が強まったなかで、逆にマクロンさんが中国へ寄っていったのは、我々自由主義陣営としては「余計なことをしてくれたな」という印象です。

王毅氏による「地ならし」が功を奏している 〜ドゴール政権時代にもアメリカと違う独自のスタンスを取ったフランス
飯田)伏線のようなものはあったのですか?
奥山)前に外交部長を務めていた王毅さんがヨーロッパを訪問し、地ならしを行っていたところがありました。それが成功したということでしょうか。(中略)

今回、フランスが「台湾有事は我々とは関係ない」というようなスタンスを取ったおかげで、アメリカ側、特に保守派が激怒しています。アメリカの「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙は保守的な意見を書くことで有名ですが、「最悪のタイミングで、ドゴール主義的な閃き」と書いています。(中略)

ドゴールさんは、かつてNATOに入らなかったことがありました。50年代〜60年代、ソ連に対抗しなければならないときに、「我々はアメリカとは別のスタンスで独自に行きます」と足並みを揃えなかった過去があります。(中略)

そのときと同じで、「フランスはアメリカとは別のスタンスでいきます」と示し、それに対してアメリカのメディアが怒っているという状況です。

また、「マクロン氏が対ロシア戦争でアメリカ国民の支持を減らしたいと思っているなら、これ以上の上手い発言はなかっただろう」と皮肉っぽい記事も出ていました。(後略)【4月11日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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日本国内にも、欧州におけるウクライナ戦争に対し、「所詮ロシアとウクライナの喧嘩であり、アメリカの尻馬に乗って深入りする必要はない」といった主張もありますが、似たようなものかも。

地理的に遠いフランスにあっては中国の軍事的脅威とか、民主主義や人権に対する脅威といったものは、やや現実感のないものにもなってしまうのかも。

【台湾への軍事的圧力を継続する中国】
台湾・蔡英文総統の訪米、マッカーシー米下院議長との会談に反発して、台湾を包囲するような軍事演習を行っていた中国ですが、演習終了後も台湾に圧力をかけ続けているようです。

****中国軍機が演習終了後も台湾海峡中間線越え 軍事的圧力常態化狙いか****
台湾国防部(国防省)は11日、同日午前6〜11時に延べ26機の中国軍機が台湾周辺で活動し、うち延べ14機が台湾海峡の中間線を越えたり、台湾の防空識別圏に入ったりしたと発表した。

中国は蔡英文総統とマッカーシー米下院議長の5日の会談に反発して8〜10日に台湾周辺の海空域で軍事演習を行った。演習終了後も台湾に対する軍事的圧力を常態化させることを狙っているとみられる。

蔡氏は11日、動画で談話を発表し、台湾総統が友好国訪問や米国への立ち寄りで要人と交流することは以前から行ってきたことであり、「これを口実に中国が軍事演習を実施し、台湾海峡を不安定にすることは、地域の大国の責任ある態度とは言えない」と批判した。

蔡氏は演習期間中に誤った情報を故意に拡散する動きがあったとした上で、「軍民が一致して、誤情報に惑わされることなく、民主主義の台湾を守ることが最も大事だ」と述べた。【台4月11日 毎日】
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