家訓は「遊」

幸せの瞬間を見逃さない今昔事件簿

横取り

2006-01-07 10:26:30 | Weblog


今年初めてKW氏に会いに行った。KW氏は身体を震わせ顔を赤くして喜んでくれた。

先日病院宛に送った感謝の挨拶文が病院で発行している機関紙に載り病院から挨拶状と共に送られてきていた。

KW氏はその機関紙を既に読んでいた。
「読んだよ。立派だね。もう二度も読んだ」と、どもりながら褒めてくれた。また先日渡したラジオのお礼も言ってくれた。
「オレの好きなモダンジャズも3・4曲聴いたっけよ」
それを聴いただけで私は嬉しくなった。

KW氏と廊下で話をしているとヘルパーさんや看護師さんたちが通りかかり、年賀の挨拶を交わす。
そこへAN氏がやってきた。AN氏は交通事故で脊椎を損傷し車椅子に乗っている。両手の指がリューマチ患者のように曲がってしまって、ほとんど動かない。AN氏はこの正月を自宅に戻って迎えたという。その時の話を嬉しそうに喋り始めた。
「正月だもんでさぁ。我慢できなくて。先生に言われたんだけど赤玉ポートワイン呑んじゃっただよ。呑んだって言ったってコップにちょっとだけだよ。だけどちょっちょっちょっとだけっても、あれはおおいからね」口の隅に白い泡が見えてきた。
「ああアルコールですか?」と私。
「そうそう。あっ時間いいですか?」と聞いてくれるので
「いいですよ」と言った。
「あぁそれで、この手が震えるだよ」と言って震える手を示した。
今呑んでいる薬とアルコールが反応してしまって、そういう症状が出てしまったらしい。
「これを止める薬ってあるのかねぇ」と聞くので
「有るよ。赤玉ポートワイン」と私が冗談を言うと
「いやぁそれじゃなくて」と大笑いした。

ふとKW氏の顔を見ると暗い顔をしてAN氏を睨んでいるのが分かった。
KW氏は自分の客を横取りされてしまった気分なのだろう。
KW氏が自分の部屋に行こうと言う。部屋にはFJ氏もSW氏も居る。
AN氏に断わりをしてからKW氏の部屋に行った。

FJ氏とSW氏に挨拶をした。
SW氏は喋れないので、いつも手を上げて笑いあう。
FJ氏は元エンジニアで91歳。窓から見える病院の拡張工事について
「私はねぇ、あの工事を見てましてね、つくづく進化したなぁと思うんですよ。基礎のやり方。足場の組み方。あれだけ掘っても石が出てこないでしょ・・・・・・」

再び自分の客をFJ氏に取られてしまったKW氏はラジオをつけた。

義母が入院していた間の正月も、このようにして過ごしてきたことを思い出した。
毎年元日には病院に来ていた。
今年は墓参りをしてから病院に来た。
ちょっと変わったなと感じた。