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フェルメール作品メモ(#12)  デルフト眺望

2008年06月25日 | フェルメール


View of Delft 「デルフト眺望」
1660-61, oll on canvas, 96.5 x 115.7 cm,
Inscribed lower left, on the boat : IVM in ligature
Royal Cabinet of Paintings Mauritshuis, The Hague, Netherlands


フェルメールは彼の生まれたデルフトの街を1660年頃に描いた。 スヒーSchie 川越しに南側から見た町の風景である。 時計塔のあるスヒーダムSchiedam門と、容易に区別できる対になった塔のあるロッテルダムRotterdam 門が見える。

スヒーケイドSchiekade に沿った前景は影になっている。 見る人の眼は、ここから、太陽光線に照らし出された街中に向かう二つの門と新教会の大きな塔の間にある橋へと導かれる。
 結果として、フェルメールの風景画は、先例のない奥行きの深さを表現した。光の輝きの処理と正確な筆使いは、最近の絵の修復作業からも、明白になっている。

風景画は2点しか残っていない。 その内の1点がこれである。 スヒー川越しに見たデルフトの街を、雲の切れ間から洩れた太陽の光が一部分照らして、他の日影の部分の光の柔らかさを強めている。 いかにも光の画家らしい配慮である。 彼の風景画には、人物がポイントとしてさりげなく配され、一種の風俗画的な雰囲気を持っているが、この場合も6人の人物が、小さいけれど大きな働きをしている。 街のスケールを大きく見せ、絵に生活の香りを添えている。

この絵は、町の建築学的な特徴を強調する地勢図的な絵の伝統に従ってはいるが、フェルメールは実証的というよりも、もっと表面的に町を描いている。 基本的な違いは、橋の粗い石や、壁のレンガやモルタル、屋根タイルの破れを描いている点であるか否かは別にして、後方の空の広大さを思わせるだけでなく、視線を太陽光の当たった町の中心部に導く為に、町の前景を影の部分に置いて、町の広大な物理的な存在感を伝えている点にある。 単なる描写的なリアリズムを越えて、何か町の歴史や特徴を伝えるムードを創り出した画家は他にいない。

この絵は(風景画というだけではない)フェルメールの作品の中でも異例のものである。 つまり、多種多様な素材を表現する為にフェルメールが、幅広いテクニックを使っている点である。
 例えば、薄いreddish brown の層に、red, brown, blue の絵の具の小さな「点」を付けることで、左側の赤屋根タイルの粗い破れた感じを表現し、更にwhite lead (白鉛) の塊に砂を混ぜた下塗り層を最初に使って、屋根タイルの素材感を出している。
 太陽光の当たった屋根は、タイル1 ケ1 ケのニュアンスを最小限に抑えて、サーモンカラーの厚い層でタイルの物理的な存在感を表現しているが、同じように太陽光の当たった新教会のタワー部分は、lead-tin yellow の塊の厚い層をあたかも彫刻するようにして描いている。

フェルメールがこの絵で創造した最もユニークな効果は、素材の質感を出す為というよりもチラチラする水面からの反射光を表現する為に、右下のボートの表面を形づくる、散りばめた「点」である。 Ocher(黄土色)/グレー/自の「点」は大きな円形で、「点」の上に不透明な「点」をwet-in-wet で描くという複雑な方法を用いて描いている。

一方、両方の門に囲まれた港の間にある、焦点のぼけた家とボートは、フェルメールが暗箱 (Camera Obscura) を使ったかも知れないことを示唆しているが、この絵の素晴らしさの本質とは無関係である。

他方、地勢図的にはどのビルも識別できるのだが、フェルメールはビルの平行な向きを強調する為に、それらの相対的な位置関係を巧妙に変えている。 例えば、本当のビルの高さはもっと不揃いだし、水平線を強調する為に橋を本物よりも長く廷ばしている。

透視画法の焦点が、中央よりやや左側にある消失点に重なるように描いているが、門の側壁に沿った直交点は画面の左端に来るようにしている。

X線&赤外線写真から、最初は明るい陽光に当たっているロッテルダム門を描いていたがこれを影の部分に変更する際にフェルメールは、明るい光と影のコントラストを無くしフォルムをフラットに変えている。 また、 「#07/小路」 (1657-58)と 「#09/牛乳を注ぐ女」 (1658-60)でしたように、白い線でビルの外形を縁取りしている。

構図上の重要な変更は、最初は正確に2つ塔の形を写していたロッテルダム門の水面に落ちる影の形を、画面の下縁で切り取られる程に下方へ延ばしている点である。

この絵はデルフトという町の肖像画である。
物理的存在感、平穏さ、町の美しさ、最も強いアクセントになっている陽光を受けた新教会は、自然と共にシンポリツクに町の生活とバイタリテイーを示唆している。


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