8月22日付・読売社説が珍しく太陽光発電を取り上げていました。
太陽光発電 世界一の座をどう奪回する
二酸化炭素(CO2)を排出しない身近なエネルギーの一つに太陽光発電がある。
日本はかつて世界一の太陽光発電国だったが、3年前にドイツに抜かれてしまった。停滞気味の国内での普及に弾みをつけようと、政府が補助制度の復活を検討している。
福田首相は、地球温暖化対策として、太陽光発電を2030年に今の40倍にする方針を掲げた。
この際、国民に使い勝手のいい補助制度を打ち出し、太陽光発電の普及を図るべきである。
太陽光発電装置の多くは、出力3キロ・ワット程度だ。一般家庭なら、年間電気使用量のほぼ半分を賄える。晴れた日中など発電量が多い時は、余った電気を電力会社に売ることも可能だ。
日本では1990年代初頭から普及し始めたが、当時は装置が1000万円以上した。そこで、政府が94年度から1キロ・ワットあたり90万円の補助金をつけたことで、人気が一気に高まった。
その後、装置の価格が5分の1程度まで値下がりし、補助金も引き下げられた。05年度は1キロ・ワットあたり2万円になり、それを最後に打ち切られた。これで急ブレーキがかかった。補助金打ち切りは時期尚早だったのではないか。
これを反省し、今回、政府が打ち出すのが、補助金と税制上の優遇策の2本立ての支援策だ。
補助金の額は未定だが、年間予算で総額100億円以上出していたこともある。少なくとも1キロ・ワットあたり10万円以上必要だ、とする声もある。確かに、あまり少額では効果も期待できまい。
税制では、装置にかかった費用の一部を、所得税から差し引くことなどを検討している。
一方、ドイツのように、電力会社に余った電気を売る場合の単価を、大幅に引き上げるべきだとの指摘もある。
日本の売電単価は、電気使用料とほぼ同じ1キロ・ワット時あたり23円程度だが、ドイツでは04年から使用料の約3倍の90円程度に引き上げられた。これがドイツで太陽光発電が一気に普及した要因だ。
だが、この仕組みにも難点がある。電力会社にとっては、電気を高値で仕入れることになる。その分をドイツでは電気料金に反映させており、一般家庭で月500円程度の負担増になっている。
太陽光発電に関係ない家庭にとって、少ない額ではあるまい。こうした負担を受け入れるべきか。日本で売電単価を見直す場合、国民的な議論が必要になろう。
まぁ、こんなものだろうなぁと深く疑問も感じず読みましたが、見る人が見るとどうやらおかしいところがあるようです。
Een Japanner die zonneceより
読売新聞社説の不見識を批判する
8月22日付の読売新聞に、太陽光発電 世界一の座をどう奪回すると題した社説が掲載された。マスコミは専門分野をろくに調べもせずに、わかったような記事を書くが、発信力があるために一般市民はその記事にすぐに納得する。記事に間違いがあっても、ろくに訂正しないし、訂正したとしても、何日もあとに目立たぬようにこっそりと訂正記事を載せるだけだ。専門家としては、このマスコミのやりようにホトホト迷惑しているので、この不快感を忘れないためにも、この場に記しておくことにする。
ここで、上記の社説を引用。
まず間違っていることが一つ。ドイツでの太陽光発電による各家庭の負担は、2007年現在は毎月20ユーロセント(約33円)である。EPIA(欧州太陽光発電協会)の報告書の58ページにそう書いてある。ちゃんと調べればわかることを、調べもせずわかったようなことを書き、間違った結論を導いてエラそうにふんぞり返っている。アホとしか言いようがない。
では、「月500円」という数字はどこから出てきたか。これは、太陽光発電に加えて、風力・バイオマスを加えた、全ての「再生可能エネルギー」を高値で買うために、各家庭・需要家に分配した負担である。どの資料を調べたのか知らないが、「再生可能エネルギー」と聞いて太陽光発電しか頭に浮かばない視野狭窄が、「発行部数世界一」を誇る大新聞論説室の脳ミソの程度である。
もう一つの視野狭窄は、設置量世界一の競争相手が未だにドイツだけだと思っていることである。
2007年に、どれほど大量の太陽電池がスペインに設置されたか知らないのか。今年、どれほどの勢いでスペインの設置量が増えているのか知らないのか。早ければ設置量世界一は、今年末の段階でスペインに移行する可能性さえ指摘されている。来年分は、ドイツも日本も手の届かないところに突き抜けているだろう。
考えてもみよ。スペインの年間日射量はドイツのほぼ2倍、日本と比べても1.5~1.8倍だ。日本では、太陽光発電の電気のコストは約46円/kWhと言われているが、同じ設備コストで年間日射量5~8割増しのスペインでは、30~35円になってしまう計算だ。スペインの電気の販売価格は約20円/kWhなので、まだまだフィードインタリフのような制度が必要とはいえ、ドイツほど極端に高い買取価格にせずとも、十分短期間で投資分の償還は可能なのだ。
また、衛星写真でスペイン国土を見てみると、砂漠地帯がかなり多いことに気づく。ドイツでは、本来牧草地であったところを潰してまで、太陽電池を設置する事例が多かったが、スペインでは緑を減らすことなく、大量の太陽電池を設置することができるのだ。
そういうわけで、スペインではフィードインタリフが実行に移された昨年から、爆発的に太陽光発電の設置量が増えているわけだが、「新」しいことを「聞」くのに長けているはずの「新聞社様」が、こんな事実も知らずに暢気に“世界一を奪還をせよ”なぞと、星野ジャパンを応援するような気楽さで書く(まあ、星野ジャパンも無様だったが)。どう考えてもスペインには勝ちようがないのだから、もっと視野を広げて、違った視点で提言をしたらどうなのだ。えぇ?読売新聞さん。
もう一つ指摘しておこう。ヨーロッパの電力ネットワークは全て繋がっている。国境を越えた電気の売り買いなど当たり前だ。ドイツは風力や太陽光を大量に導入しているが、フランスから原子力で発電した電気を買って、自国で足りない分を補っている。スペインも風力でも大量の設置があり、将来はフランスと融通しあうことを視野に入れている。
他国と電力ネットワークが繋がっていることなど、日本人には想像にも及ばないと思うが、日本の電力事情は、世界の中でも非常に特殊であることを、いち読売新聞だけでなく、将来の日本の電力エネルギーをどうするかに興味のある人は、ぜひ認識しておいて欲しい。
成るほど、プロの目から見るとかなり好い加減なのですね。太陽光発電の負担分がわずか33円というのも驚きですが、スペインが早くもドイツを抜きそうなと言うのも驚きました。
こうしてみると日本のマスコミの記事は信用できないとは漠然と思っていましたが、こんなところまで好い加減なんですね。
私も、太陽光発電の記事ばかりを取り上げている割にはこの程度のことさえ知らないのですから情けない限りです。
それにしても、マスコミはせめて統計数字などは本当のものを載せて欲しいですね。こんなところまで自虐史観のような好い加減さを持ち込まれては何を信用すればいいのやら。
困ったものです!