安倍内閣の支持率が最低の36%に低下したことを伝える『朝日』朝刊(07.5.29.)の記事がある。
≪内閣支持率最低の36% 26・27日、本社世論調査≫
<参院選に向けた第3回の連続世論調査(26、27日。電話)によると、安倍内閣の支持率は36%、不支持率は42%で、第2回調査(19、20日)の支持44%、不支持36%と比べて支持が急落した。内閣支持は4月以降、復調傾向で、支持が不支持を上回っていたが、再び逆転した。
女性の支持が前回の48%から36%に大きく下がり不支持の37%と並んだのが目立つ。公明支持層では支持が35%、不支持が45%で、初めて不支持が上回った。
参院選比例区について「仮にいま投票するとしたら」との質問に自民、民主を挙げた割合は第1回(12、13日)から今回まで自民28%→31%→26%、民主21%→21%→25%。当初は自民優位だったが今回は拮抗。選挙区も自民29%、民主26%。参院選の結果、議席が多数を占めてほしいのは与党28%(前回36%)、野党48%(同43%)。望ましい政権の形は「自民中心」32%(同37%)と「民主中心」33%(同31%)がほぼ並んだ。
投票先を決めるとき何の問題を重視するか。3回の調査を通じて最も高かったのは年金の85%。以下教育81%▽財政再建75%▽少子化、公務員制度改革69%▽政治とカネ67%▽格差60%▽憲法改正55%の順。年金記録の消失問題が、支持率急落に影響した可能性もありそうだ。
政党支持率は自民29%(前回34%)、民主18%(同14%)など。>
一旦低落傾向にあった支持率が与党絶対多数の頭数に力を借りた自身の主張を譲らない強い姿勢を「安倍カラー」と称して演出することで<4月以降、復調傾向>を示していたが、反転低落の理由を新聞は<年金記録の消失問題が、支持率急落に影響した可能性もありそうだ。>としている。
中でも、<女性の支持が前回の48%から36%に大きく下がり不支持の37%と並んだのが目立つ>点が全体の支持率低落に無視できない影響を与えているに違いないことが読み取れる。自民党は女性層に人気があり、民主党は逆に不人気という構図が続いていた。小泉女性人気を受け継いだ安倍女性人気だったろうが、その神通力に陰りが生じてきたといったところか。
だが、特に女性の支持の趨勢は<年金記録の消失問題>といった〝年金不信〟のみを要因としていいはずはなく、女性の地位や権利、生活に直接関係してくるその他の政策や政治姿勢も要因としていいはずであるが、<投票先を決めるとき何の問題を重視するか>の問いに<3回の調査を通じて最も高かったのは年金の85%>で、女性の生活に関係してくる政策は<少子化>問題以外に見当たらないのはなぜなのだろうか。
例えば柳沢「女性は産む機械」発言や民法772条のいわゆる「300日規定」が暴露することとなった安倍首相を含めた自民党政治全体の女性蔑視や生まれてくる子供に対する人権軽視が女性たち自身の問題として安倍内閣発足後の70%前後の高支持率以後の下落傾向に手を貸したはずだが、それが<4月以降、復調傾向で、支持が不支持を上回>る再逆転の形を見せたのは個人の福祉よりも国の形を優先する国家主義が既にそこに姿を見せていたことに気づかず、単なる一過性の忌避感で終わらせたからではないだろうか。
「300日規定」の見直しの過程で曝すこととなった「不倫の子も救済対象になりかねい」とか、「離婚して別の男の子を出産しようとはけしからん」、「離婚しないうちに夫とは別の男の子供を妊娠するのはけしからん」といった時代錯誤の女性観・結婚観・貞操観は単に個人的な好悪の価値観としてあるものではなく、個人を家なら家、国なら国といった全体で把えて、それぞれの全体に従わせようとする、いわば個人の福祉よりも家の形・家の制度を出発点として最終的に国の形・国の制度を優先・重視する国家主義からの主張であって、男尊女卑の家体質・国家主義体質が残る日本に於いて女性は決して一過性の忌避感で済ませてはならないはずだが、それができなかった。
「300日規定」の見直しが個人を優先しない国家主義に制約された内容となったために救済対象が医師の証明付きで離婚後に妊娠して生まれた子どもに限るとする限定的な措置となったのであり、法務省の推計で離婚後300日以内に生まれる年間約3000人の子どものうちのたった一割程度の300人しか救済対象とならない、子供の福祉を無視した限界を抱えることになったのだろう。
我が国家主義者・安倍首相も言っている。「婚姻制度そのものの根幹に関わることについて、いろんな議論がある。そこは慎重な議論が必要だ」
女性の生存権及び子供の戸籍獲得を含めた生存権(=個人の福祉)よりも「婚姻制度」を家の形・家の制度の決定要因として上に置いている。本人は気づいていないが、伝統的な「婚姻制度」を優先させることによって、個人の福祉を後回しにしているのである。気づいていないところが国家主義者であることの証明となる。
上記朝日新聞の世論調査は「300日規定」の見直しの運用が始まった5月21日(07年)から5日経過後の5月26・27日(07年)の両日である。
当然女性層に於ける安倍内閣支持率急落の要因が<年金記録の消失問題>だけではなく、「300日規定」の見直しの不備・偏頗も影響していなかればならないはずである。見直しの場面から安倍国家主義を読み取ることができなかったとしても、女性と子供の権利・生存権を蔑ろにした見直しとなっていることには気づかないはずはない。
だが、影響したとすると、<4月以降、復調傾向>期間は力を持たなかった理由は何だろうか。前回調査では今回の<36%>を大きく上回る<48%>の支持を女性は与えている。
法務省の推計で離婚後300日以内に年間約3000人生まれるうちの300人の子どもが救済対象となるとすると、単純計算で算出することになるが、残る2700人を夫婦で数えて5400人、女性のみとすると子供の数と同じ2700人が直接の不利益を受ける。
全体の若い女性の数から比較したら、直接不利益を受ける女性は微々たる数字で、その無関係と不利益の直接的な差引きが「300日規定」等の女性に関わる自民党政策への<4月以降、復調傾向>を呼び起こすことに一役買ったに違いない〝一過性〟を招いたとしたら、今回調査の<内閣支持率最低の36%>の原因は<年金記録の消失問題が、支持率急落に影響した可能性もありそうだ>とする新聞の指摘が老若男女に関係なしに誰もが直接生活に影響してくる問題であることによって唯一的を得ることとなり、そのことはまた女性全体に利益・不利益の形で直接的に関係することとなる女性問題でなければ、一過性とは離れた支持判断の要素とはなり得ないことを示すことになる。
ということは、安倍首相の政治体質である国家主義そのものは生活上の直接の利害に関係ない政治要素と見なされて今後とも支持判断の埒外に置かれることとなるに違いない。
安倍首相だけではなく自民党政治家の多くが抱えている国家主義の個人よりも国の形・国の制度に価値を置く〝個人と国家の関係式〟が織りなすすべての政策、すべての政治が個人個人の生活・権利問題に満遍なく降りかかってくることに留意すべきではないだろうか。
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