蓮舫を叩く:過去の事業仕分けを成功体験とする都知事選立候補会見のハンパない自己正当化バイアス

2024-11-19 08:33:55 | 政治

蓮舫は国民の声は小池都政のリセットを望んでいるとしながら、都民の大多数をしてリセットを望む声に変えるだけの発信力を持っていなかった自覚はゼロ

Kindle出版電子書籍「イジメ未然防止の抽象論ではない具体策4題」(手代木恕之著/2024年5月18日発行:500円)

 蓮舫は2024年5月27日午後、党本部で記者会見して、7月の東京都知事選挙への立候補を表明した。

 蓮舫「国民の声は、裏金議員や政治とカネの問題がある自民党政治の延命に手を貸す小池都政をリセットしてほしいというものだ。その先頭に立つのが私の使命だ」(NHK NEWS WEB記事)

 そして「小池知事が掲げた7つのゼロの公約はどこに行ったのか」と述べ、「改革するのが私の政治の原点」だ、いわば公約実現に向けた有言実行をアピール、財源は改革の果実で捻出、その果実で弱者救済を訴えたという。

 「小池都政をリセットしてほしい」という「国民の声」が実際に挙がっていたのなら、あとはその「リセット」を蓮舫に託したいという期待に振り向けさせる発信力の問題となるが、そういった声が挙がっていなければ、都民の大多数を以ってしてリセットは当然だとする納得の声に変えることができるか否かのこれまた蓮舫自身の発信力の問題となる。

 但しリセットを望む声をマスコミが伝えていた記憶はないから、納得の声に変える発信力に相当な自信を持っていなければならないが、そういった自覚があって、「国民の声」を持ち出したかどうかは自身をアピールする目的のパフォーマンスは得意という彼女の性格からして疑わしい。

 いずれにしても選挙結果からして、リセットを望む「国民の声」は存在しなかっただけではなく、蓮舫は都民の大多数をしてリセットを望む声に変えるだけの発信力は持っていなかったことになる。

 但しこのことに対する自覚は都知事選敗北後に行った自身のインスタライブからはその影さえも窺うことはできないから、その無自覚は疑う思考習慣を持たない場所、あるいは相対的思考力が働かない場所に根差すゆえに「常に自分の考えは正しい」とする自己正当化バイアスに強く影響を受けていることになる。多分、悪いのは蓮舫に投票しなかった都民ということになるのだろう。

 2024年7月7日の都知事選投票日を前に現職の小池百合子、参議院議員蓮舫、広島県安芸高田市元市長石丸伸二、航空自衛隊元航空幕僚長田母神俊雄4人の東京都知事選立候補予定者共同記者会見(日本記者クラブ主催)が2024年6月19に行われた。
 
 最初に4人が主たる政策の主張を書き入れたフリップを掲げて、「1分間の政策主張」を行っているが、その発言のみを取り上げてみる。特に蓮舫の場合、自己正当化バイアスそのものがこの1分間の政策主張に現れていて、それがハンパない事例として取り上げるのはこの発言のみで十分と見る。

 東京都知事選立候補予定者共同記者会見(日本記者クラブ/2024年6月19)
 
 石丸伸二(フリップ『政治屋の一掃』)「私の政策、さらに言うなら、掛け声です。『政治屋の一掃』。仕事をする振りをして、一向に成果を上げない、そんな政治屋を一掃したいとこれまでずっと考えてきました。

 (大きな声で)『恥を知れ、恥を』。これが国民の思いだと思っています。東京都知事選は日本全国の関心事になるはずです。東京が変われば、日本が変わります。東京の政治が変われば、日本の政治が確実に変わります。是非私達の力で東京を動かしてください」

 小池百合子(フリップ『首都防衛 命、暮らし、防災、経済』)「私はこのように『首都防衛』に力を込めています。もっとよくなる『東京大改革3.0』を続けてまいります。3期目の挑戦をさせて頂きます。未来を、子どもや子育てを守る。その世界を守っていきます。物価高など厳しい環境から生活を守ってまいります。国会協調など一括で(?)経済を守り、かつ成長させていかなければなりません。

 自然災害も激甚化させております。都民の命と東京の未来を守る戦い、これを都民のみなさまに訴えていきたいと思います。2期8年、全公約164の項目の90%を達成、そして推進を致しております。コロナ禍の中でなかなかできなかったものもございますけども、2期8年の東京大改革、さらに歩みを進めてまいります。そして都民のため都民とともに世界で1番の都市、東京にして参ります」

 蓮舫(フリップ『若者の手取り増 都、ガラス張り』)「若者の手取りを徹底して増やす。そして都をガラス張りにする。この2点です。若い人たち、残念ながら、貧困から抜け出せない方が、奨学金の負担、雇用の不安、徹底的に取り戻す。若者が元気になれば、今まで諦めていたことを諦めないで済むようになると思います。そして自分の人生を歩んでいくことができる。それは結果として税収、社会保険料の増に繋がります。

 そして企業を支えていく持続可能な、そんな東京都を作りたいと思っております。

 私の専門分野です、行政改革。東京都の行革を進めます。小池都知事が進めてくれたデジタル化、さらにその先へ。都の財政に東京は事業レビューシート(?)と言います。約6000の事業。どこで誰がいつ、どのように使ったのか、契約、どんな遣り方なのかもしっかりと公表する。

 そして収めた税金が何に使われているのか。もしここで果実が出たら、躊躇なく、若者に、現役世代に、シニアに振り分けて行きたいと思います」

 田母神俊雄(フリップ『結果を出す政治 都民の安全と豊かな暮らし』)「私はですね、『政治は結果である』。結果を出す政治でなければいけない。都政は都民の安全と豊かな暮らし、これを実現しなければならないと思います。しかしこの15年を見ているんですね。都はより安全になったのか。暮らしは豊かになったのか。なってはいないんではないのか。だから、この公約を掲げてもですね、結果が出ていなければ、意味がないと思うんですね。公約の良し悪しよりはですね、その人は本当に実現能力あるのかと、その実行能力を十分に判断して頂きたいというふうにむしろ思います。

 私は自衛官だったんですけれども、防衛省に於ける行政経験を通じた行政をどういうふうに改善していくかというノウハウは弁えているつもりです。是非、私に任せてほしいというふうに思います。ありがとうございました」
 
 蓮舫は行政改革は私の専門分野だと言い、都の約6000の事業を仕分けし、「もしここで果実が出たら、躊躇なく、若者に、現役世代に、シニアに振り分けて行きたい」と宣言した。

 「行政改革」とは省庁等の国の行政機関の人材の配置面を含めた組織運営の適正化、効率化、予算編成と予算に基づいた事業推進の適正化、効率化等を図ることを言う。組織自体をより活性化の方向に持っていく。

 蓮舫が「約6000の事業。どこで誰がいつ、どのように使ったのか、契約、どんな遣り方なのかもしっかりと公表する」と言っていることは各予算に基づいて実施することになった、あるいは既に実施している事業の必要性や予算や事業の進め方のムダを点検し、廃止、見直し等を含めて予算と事業の適正化を図っていく事業仕分けのことで、いわば行政改革の主たる手段の一つに事業仕分けを位置づけているということであるはずだ。

 但し、「私の専門分野です、行政改革」と言い切ることができたのは行政改革を成し遂げ得たかどうかは不明だが、過去に事業仕分けを経験し、成功を収めたと見ているからこその自信の現れであって、そのことを自らの成功体験としているからこそであろう。

 蓮舫は2010年6月8日に菅内閣発足により行政刷新担当大臣として初入閣を果たし、2009年(平成21年)11月から始まった事業仕分けに仕分け人として参加し、その舌鋒鋭い追及をマスコミは華々しく取り上げた。

 では、金額分でどのくらいムダがあったのか、次の記事から見てみる。

 『民主党時代の経済・財政政策(3)ポピュリズムと財政赤字』(小峰隆夫の経済随想 私が見てきた日本経済史(第110回)日本経済研究センター/2022/11/18)

 〈鳩山内閣は、大きく膨らんだこの10年度予算の概算要求を3兆円以上削減することを目指して「事業仕分け」を行うこととした。
  ――中略――
 問題はその成果だが、行政刷新会議の報告によると、仕分けの対象となった事業のうち、必要性が乏しい事業を「廃止」や「予算削減」としたことにより、約7400億円が削減された。さらに公益法人や独立行政法人の基金のうち約8400億円を国庫に返納するよう求めた。両者を合わせると、仕分け効果は総額で約1兆6千億円となった。目標の3兆円には全く届かなかったわけだ。

 このことは「無駄を削る」という掛け声だけでは予算を圧縮する効果は乏しいことを物語っている。そもそも、それぞれの事業は何らかの必要性に基づいて企画され、予算措置が取られているものであり、「これは無駄」「これは無駄ではない」と簡単に分けられるようなものではない。無駄を削るという考え方もまた、あまりにもナイーブだったのだ。〉――

 記事は何らかの必要性に基づいた予算措置だから、ムダを基準に簡単に分けられないとしているが、国管理の空港のうち、大東京という地の利に恵まれているのだろう、羽田空港のみが黒字で、その他の成田を筆頭に新潟、徳島、鹿児島、高知、大分、小松等々の空港は赤字となっている。

 要するに必要性の見間違いによってムダな事業が存在する場合もあることになるから、"必要性"の視点からだけでムダの存在が排除されるわけではない、

いずれにしても、民主党の事業仕分けがマスコミに騒がれた程にはムダの削減によって望み通りの財源を生み出したわけではなかった。さらに民主党菅内閣の「マニフェスト2010」に、〈10.自公政権で行われた2010年度予算概算要求を各府省の政務三役が政治主導で見直し、1.3兆円の予算を削減しました。

11. 事業仕分け
  公開の場で一つひとつの事業を外部有識者などが検証する「事業仕分け」で政策効果の低い事業の凍結や、天下り法人などの「中抜き」を見直した結果、約2兆円の財源を確保しました。〉と書いているが、前政権の予算と事業は政治主張や政策の違いから見直しやすく、そのことに応じてムダと指摘できる項目も多々あることになる。

 だが、新政権が新たに編成した予算と関連事業は自らが準備した予算と事業である手前、基本的にはムダは極力あってはならないことになる。でなければ、自らムダを作って、自らムダを指摘し、その予算を削る、あるいは見直すというマッチポンプな事業仕分けを結果的に演じることになるからだ。

 大体が前政権の事業仕分けを行った手前、自らの政権が予算を組む場合、その段階で見直しを必要としない、当然、ムダと指摘されない内容の予算を組む責任を負っていることになるから、事業仕分けからのそれなりに期待できる財源の捻出は政権交代の一年にほぼ限定されることになる。

 以上のような事業仕分けというものの性格を蓮舫が都知事選に当選して、都知事になった場合に当てはめてみると、東京都の事業仕分けを行うとしても、最初の事業仕分けは小池百合子が編成した予算とその事業が対象になるから、それなりのムダな財源を捻出できるとしても、次に都知事である蓮舫自身のもとで編成した予算と事業に対する事業仕分けはムダを指摘することも、事業の廃止や見直しを求めることも自己矛盾を曝すことになって、できにくくなり、その点に何がしかの財源を求めること自体が矛盾することになる。精々できることは事業を行ってみて、カネの使い道にムダがなかったか、改善点はなかったか、費用対効果はどうだったかなどなどを検証することぐらいだろう。

 蓮舫はこういったことを民主党政権時代に拝命した行政刷新担当大臣として臨んだ事業仕分けで経験していて、自らの知識・情報としていたはずである。

 だが、都知事選立候補者の共同記者会で、「私の専門分野です、行政改革」と言い切り、「収めた税金が何に使われているのか。もしここで果実が出たら、躊躇なく、若者に、現役世代に、シニアに振り分けて行きたいと思います」と各世代に満足の行く形でそれぞれの要望を充足できる財源の捻出ができるかのように発言したのは、事業仕分けが持つ性格を考えもせずに民主党時代の事業仕分けを世間一般の受け止めとは異なり、成功体験としているからではなくてできないはずだ。

 要するに民主党政権時代の事業仕分けに対する一般的な評価を頭に置くことができない、この感性はやはり「常に自分の考えは正しい」とする自己正当化バイアスが仕向けることになっている心理傾向であろう。

 当然、事業仕分けが政策財源の一つの大きな捻出対象であるかのような発言は控えなければならなかった。若者・現役世代・シニア等の生活者を重点的な政策対象と考えているなら、それらの対象を優先順位に位置づけていることを周囲が理解できる6兆円余の都の財源を配分した政策を直接的に示すべきだった。事業仕分けは政策ではなく、単なる検証作業に過ぎない。

 だが、逆に事業仕分けが政策財源の主要な捻出対象であるかのような印象を与えてしまった。やはり民主党政権時代の事業仕分けを成功体験としていて、大いなる自身の勲章としているからに違いない。

 蓮舫が民主党政権時代の事業仕分けで、「スパコンは世界一になる理由は何があるんでしょうか?2位じゃダメなんでしょうか」と発言、次世代スーパーコンピュータ「京」の開発計画が一時凍結された際、当方は蓮舫を擁護するブログ記事を書いた。勿論、予算削減を視野に入れた必要性の方向から擁護したわけではない。記事題名を見れば、一目で分かる。

 《スパコンは世界1位でなくても2位、3位であってもいい、日本人の創造性世界1位を目指すべき》(『ニッポン情報解読』by手代木恕之)

 いくら計算速度の早いスーパーコンピューターを作ったとしても、計算速度が早いというだけの箱物であって、必要とする創造性を与えてくれるわけではない。当時、スーパーコンピューターが新薬開発に画期的なまでのスピードアップを与えると期待されていたが、どのような成分の化学物資を配合したら特定の病気に対して有効性が期待できるかは人間の頭が司るのであって、スーパーコンピューターが司るわけではない。

 それが証拠にコロナが収束するまでに日本は国産のコロナワクチンを製造することができずにアメリカやドイツのワクチンに頼った。

 尤も最近はAIが機械に記憶させた過去にまで遡った膨大な資料の中から必要とする情報を瞬時のうちに拾い出してくれるが、その情報を生かすのも殺すのも、やはり人間の創造性にかかることになる。

 AI技術の構築と発展に日本が遅れを取ったのはその方面の創造性が不足していたからだろう。

 最後は余談になったが、自己正当化バイアスに陥ることも創造性の欠如が一因となる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

野党の旧統一教会と裏ガネ疑惑対与党追及の拙劣さが招いた国民の怒り未満の欲求不満が選挙結果に現れた

2024-11-06 06:47:20 | 政治

 Kindle出版電子書籍「イジメ未然防止の抽象論ではない具体策4題」(手代木恕之著/2024年5月18日発行:500円)

 2009年7月21日、衆議院が解散され、2009年8月30日にその投票が行われた。その結果、民主党は115議席から一挙に193議席増えて308議席、対する自民党は300議席から181議席減って119議席、公明党は10議席減の21議席となった。この結果、自民党は1955(昭和30)年の保守合同による結党以来、初めて第一党の座を失った。9月16日、特別国会で鳩山由紀夫が首相に指名され、鳩山民主党政権がスタートした。

 2007年7月の参議院議員選挙で第一党に躍り出て、ねじれ国会を作り出したという布石はあるものの、民主党は政権獲得を文句なしの一発で決めた。

 この選挙での自民党+公明党に対しての有権者の191議席減の審判はその在り方に対する怒りの度合いを示していて、民主党の193議席増は与党の在り方に対する怒りの反動の度合いを示すことになり、議席減と議席増が大幅でほぼ拮抗している点は怒りの質とその発露の大きさを現していると言える。

 もし与党の在り方に対する有権者の怒りが中途半端なら、怒りの質とその発露も中途半端な結末へと向かう。今回の2024年10月の衆議院選挙結果が有権者のどのような怒りの感情がどの程度に働いて議席の増減を生み出したのか予測してみる。

 与党自民党公示前258議席から67議席減の191議席獲得。
 与党公明党公示前32議席から8議席減の24議席獲得。
 立憲民主党公示前98議席から50議席増の148議席獲得。

 与党自公で公示前290議席から75議席減の215議席獲得。立憲民主党との獲得議席数の差は自公プラスの67議席。野党全体では過半数233議席を18議席上回っているが、纏って一丸となっているわけではなく、党としての在り方についても、政策的にもバラバラ状態を呈している。

 要するに今回の衆院選に於ける自公与党に対する国民の怒りの審判は2009年8月30日の衆院選のときのように強烈なものではなく、中途半端だったから、立憲民主党は単独で自公の議席を越えて、文句なしの一発の状態で自公を政権の座からから引きずり下ろすことができなかった。国民の怒りが強烈で真正な質のものであったなら、十近くの野党が乱立していたとしても、野党第一党としてそれなりの議席を抱えていたのだから、一気に政権担当に向かわせる支持を集めることもできたはずである。

 この怒りが中途半端なものであることは投票率にも現れている。民主党が政権を取った際の2009年8月衆院選小選挙区投票率は前回比+1.77ポイントの69.28%もあったが、今回の小選挙区の投票率は前回比+2.08ポイントの53.85%で、しかも戦後3番目の低さだというから、有権者の自民党に対する怒りも程々で、怒りを向けるべき矛先の、その表現の具体的な形としての自民党に対する懲罰も程々だったことが分かる。

 与党の在り方に対する怒りの感情が存在したにも関わらず、その発露(=懲罰)は全体的には沸騰点には至らない生煮えの状態だった。その原因を推測する前に有権者の怒りを発動させることになった自由民主党の党としての在り方の非難対象となった諸事情は断るまでもなく、2022年7月8日発生の安倍晋三銃撃死によって表面化し、政治問題に発展した安倍晋三を仲介元とし、自民党議員の多くが選挙運動で利益を得ることになった反社会的勢力同然の旧統一教会との関係であり、安倍派後援会政治資金パーテイで安倍派所属議員にパーティ券売上にノルマを課し、その超過分は政治資金報告書不記載で現金還付した政治的不正行為であったはずだ。

 後者は他派閥も行ってはいたが、安倍派程には多人数で、金額的にも大掛かりではなかった。前者後者共に首相であった当時の安倍晋三が大掛かりな仕掛け人として関与していた。旧統一教会との関係では選挙期間中に信者による運動ボランティアと票の提供を受け、見返りに国会議員の名前を信者獲得に利用させた。いわば票の利益の代償として広告塔の役目を担った。

 安倍派後援会政治資金パーテイでの政治資金収集報告書不記載で還付された現金は表に出していないカネという性格上、表に出せない政治活動費――裏ガネとして使われていたはずで、そうでなければ不記載という見えない形にする必要性は生じないからで、そのことを関係したどの議員も否定していて、野党からの国会での追及をその地点でかわすのに成功させている。

 結果、誰が裏ガネ制度を考案し、始めたのか、裏ガネを何に使い、どのような利益を受けていたのか、全て真相は藪の中となった。もし追及によって真相が解明できていたなら、自民党の在り方に対する国民の怒りは沸点に達し、政権交代という懲罰で対応した可能性は十分にありうる。だが、追及が生半可で、真相に至らず、国民の怒り未満の欲求不満を誘っただけだから、その程度の審判、いわば一発で政権交代に向かわせる選挙結果とはならない程度で終わった。

 安倍晋三が中心人物として関わったはずの旧統一教会問題での国会追及も似たような経緯を辿ることになった。1980年代から旧統一教会の信者本人や信者の家系に悪い因縁や霊の祟りが取り憑いていて、それを除くに霊験があるとする印鑑、数珠、多宝塔、壺などを法外な値段で売りつけたり、高額な寄付で賄わせたりする、いわゆる霊感商法が1980年代には既に社会問題となっていた。

 名称は霊感商法と尤もらしく名付けているが、実態は詐欺商法そのものであった。

 旧統一教会は1997年になって正式名「世界基督教統一神霊教会」から「世界平和統一家庭連合」へと名称変更の相談を当時の文部省文化庁の宗教法人を所管する宗務課に相談したが、当時宗務課長を務めていた元文科次官の前川喜平が部下の職員から相談の報告を受け、断ったことを2022年8月5日の立憲民主党や共産党などの合同ヒアリングで証言している。

 「宗務課の中で議論した結果、実態が変わっていないのに名前だけ変えることはできない。当時、『世界基督教統一神霊教会』という名前で活動し、その名前で信者獲得し、その名前で社会的な存在が認知され、訴訟の当事者にもなっていた。その名前を安易に変えることはできない。実態として世界基督教統一神霊教会で、『認証できないので、申請は出さないで下さい』という対応をした。相手も納得していたと記憶している」(NHK NEWS WEB記事)

 体を表してきた名前を変えたなら、体を隠してしまうことになる。そのような隠蔽工作には手を隠すことはできないということだったのだろう。

 ところが、18年後の2015年(平成27年)になって、前川喜平が文部科学審議官を務めていた際、当時の宗務課長から教会側が申請した名称変更を認めることにしたと説明を受け、認証すべきでないという考えを伝えたという。

 「そのときの宗務課長の困ったような顔を覚えている。私のノーよりも上回るイエスという判断ができるのは誰かと考えると、私の上には事務次官と大臣しかいなかった。何らかの政治的な力が働いていたとしか考えられない。当時の下村文部科学大臣まで話が上がっていたのは、『報告』したのではなく、『判断や指示を仰いだこと』と同義だ。当時の下村文科大臣はイエスかノーか意思を表明する機会があった。イエスもノーも言わないとは考えられない。結果としては、イエスとしか言っていない。下村さんの意思が働いていたことは100%間違いないと思っている」

 勿論、下村博文は否定している。文化庁の担当者からは『旧統一教会から18年間にわたって名称変更の要望があり、今回、初めて申請書類が上がってきた』と報告を受けていた。担当者からは、『申請に対応しないと行政上の不作為になる可能性がある』と説明もあったと思う。私が『申請を受理しろ』などと言ったことはなかった」

 国会で追及を受けることになった際の文科大臣の末松信介は2022年8月8日の記者会見で次のように発言している。

 「形式上の要件に適合する場合は受理する必要がある。担当者に確認したところ、当時、旧統一教会側から『申請を受理しないのはおかしいのではないか』という違法性の指摘があった。教会側の弁護士が言っているという話だった」

 形式上の要件が整っていたとしても申請を認証せず、文部科学大臣の諮問機関である「宗教法人審議会」で判断すべきだったという指摘が出ていることについて。

 「申請の内容が要件を備えていることを確認して認証を決定したと認識していて、宗教法人審議会にかける案件ではなかった」

 「申請の内容が形式上の要件を備えている」とは、宗教法人として既に認証されているから、活動内容を問う項目はなく、あったとしても、宗教活動の陰で信者を利用して不法な利益活動を行っているなどと書くはずもなく、宗教法人の主たる活動場所、代表名、新名称等々、書類が要求する様式に則って外見上の事実が滞りなく記入されていれば、書類として完備しているというだけの話で、宗教法人「世界基督教統一神霊教会」(いわゆる旧統一教会)の名前で世間に明るみに出つつあった悪徳霊感商法や不法な寄付強要、裁判沙汰といった裏の実態に関わる情報については宗教法人を所管する文化庁宗務課ならアンテナに捉えておくべき責任行為の一つであるはずだが、責任行為に反して旧統一教会がその手の宗教団体だと見られ始めていた各不法行為を結果として不問に付した。あるいは名称変更を認証することによって旧名に纏わりつくことになっていた悪名を隠してやる便宜供与を与えた。

 情報収集しているはずの文化庁宗務課という一部署が収集しているはずの情報を問題外として、果たして単独で認証できることなのか、安倍晋三という上にまで遡った地位からの指示なのか、いずれかが考えられるが、役人が単独で行ったなら、ワイロを受けていたか、政治家の力が働いていたなら、同じくワイロを受けているか、政治活動上の何らかの利益を受けていなければ、不法行為の不問という事態は招き得ない。

 現実問題として安倍晋三が中心的な橋渡し役となって旧統一教会と自民党政治家を結びつけて持ちつ持たれつの利害関係を築いていた。

 旧統一教会と自民党国会議員との間を選挙の便宜で結びつけたことと政治資金パーティノルマ超現金還付収支報告書不記載の裏ガネ作りの双方に安倍晋三が中心人物として位置していた遠因は第一次安倍政権が一年足らずの短命で終わったことと無関係ではあるまい。

 2006年9月26日成立後、閣僚の不祥事・失言が相次ぎ、支持率が20%台まで低下、2007年(平成19年)7月29日の参議院選挙で与党は過半数割れの惨敗を喫し、ねじれ国会となって政権運営は機能不全に陥り、病気を理由に2007年(平成19年)8月27日に辞職し、1年も持たない短命に終わった。

 あとに続いた麻生太郎政権も、福田康夫政権も、ねじれ国会を安倍遺産として困難な政権運営を強いられて、前者は一年未満、後者は一年丁度で政治の舞台を去ることになって、2009年8月30日の衆議院選挙で民主党に政権を譲り渡すことになった。

 だが、2012年9月26日に自民党総裁に返り咲いた安倍晋三は民主党政権4年間の不人気に助けられて2012年(平成24年)12月16日の衆議院選挙で解散前118議席から176議席増の294議席、公明党31議席と合わせて325議席獲得、一方の民主党は解散前230議席から173議席減らし、57議席となり、政権を渡すことになった。

 このような屈辱的な名誉喪失と名誉回復の変転が安倍晋三をして選挙の勝利こそが政権運営の始まり、いわば選挙に勝たなければ、政権は維持できないんだ、"選挙の勝利こそが全て"と肝に銘じさせ、それが執念と化し、凝り固まることになったに違いない。選挙に負けたら、自分の政治は思い通りには動かせない。選挙に勝ちさえしたら、自分の政治は思い通りに動かせる。

 その好例は先ず第一番に消費税増税の選挙を使った2度の延期を挙げることができる。一般国民の最大の利害は"生活"だと熟知し、選挙に利用した。野田内閣が2012年3月に消費税増税を含む社会保障•税一体改革法案を国会に提出、2012年6月に民主、自民、公明の3党が同法案について消費税率を2014年4月に8%、2015年10月10%に引き上げる内容で修正合意し、2012年8月に法案(「社会保障と税の一体改革関連法」)が成立した。

 2012年12月26日に第2次安倍政権が発足し、法律に基づき、2014年4月に消費税率8%に引き上げたものの、前年2013年10月に消費税率8%への引き上げを閣議決定していたから、駆け込み需要が発生、一般国民はトイレットペーパーや調味料等の長期保存の効く生活用品の買い溜めが精々だったが、富裕層は住宅や車等の高額商品の先買いに走った。

 増税前とか商品の値上がり前は先買いに走ってしまうのは人情だが、この消費税増税前の駆け込み需要の所得層に応じた金額差はアベノミクスが格差ミクスを正体としていたことに関連付けると、何か象徴的である。但し駆け込み需要が反動を招いて、増税後の消費活動が停滞、景気の悪化を招いた。

 このことに懲りたのだろう、安倍晋三は2014年4月の消費税率8%への増税から約8ヶ月後、2015年10月の消費税率10%への増税予定から遡ること約1年前の2014年11月18日の記者会見で3党合意に基づいた法律を曲げて10%増税の2017年4月への先送りを表明。この判断の是非について国民の信を問うためとの口実のもと、任期を約2年を残して解散を行い、2014年12月14日に衆議院選挙を行うことにした。

 自民党は選挙前議席から4議席減、海江田万里代表の民主党は政権運営で評判を落としたものの、逆に10議席増を獲得。僅かでも民主党に有利な結果をもたらした状況を受けて、消費税増税を延期しておいてよかったと胸を撫で降りしたに違いない。もし増税を予定通りとしていたなら、マイナス4議席で済まなかった可能性は否定できない。増税によってさらに消費が冷え込み、経済が悪化したなら、政権の命取りになりかねないことを予測し、増税延期の手を早めに打ったはずだ。

 この選挙によって衆議院議員の任期は2017年12月13日までとなるが、2016年6月1日の記者会見で2017年4月へと先送りした消費税10%への増税を何だかんだと理由をつけて2年半も先の2019年10月に再延期すると表明。

 その何だかんだの一部を見てみる。

 「1年半前の総選挙で、私は来年(2017年)4月からの消費税率引上げに向けて必要な経済状況を創り上げるとお約束しました。そして、アベノミクスを強力に推し進めてまいりました」

 「1年半前、衆議院を解散するに当たって、正にこの場所で、私は消費税率の10%への引上げについて、再び延期することはないとはっきりと断言いたしました。リーマンショック級や大震災級の事態が発生しない限り、予定どおり来年4月から10%に引き上げると、繰り返しお約束してまいりました」

 「内需を腰折れさせかねない消費税率の引上げは延期すべきである。そう判断いたしました」

 「2020年度の財政健全化目標はしっかりと堅持します。そのため、ぎりぎりのタイミングである2019年10月には消費税率を10%へ引き上げることとし、30カ月延期することとします。その際に、軽減税率を導入いたします。」

 「信なくば立たず。国民の信頼と協力なくして、政治は成り立ちません。『新しい判断』について国政選挙であるこの参議院選挙を通して、『国民の信を問いたい』と思います」

 この2016年6月1日の記者会見からほぼ1ヶ月10日後の2016年7月10日の参院選挙で自民党は+6議席、岡田民主党は-13議席。生活を最大の利害としている一般国民の、それゆえに抱えることになる消費税増税への忌避感を巧みに和らげることに成功した。

 "選挙の勝利こそが全て"が執念と化した状況を手に入れるために増税の時期を巧みに操作する消費税の政治利用を敢行した。

 2014年12月14日の衆議院選挙から任期を1ヶ月半余を残して解散し、打って出た2017年10月22日の衆議院選挙に備えて10%への増税が2年も先の2019年10月からだと言うのに消費税をちゃっかりと選挙に利用している。

 2017年9月25日記者会見。

 安倍晋三「再来年10月に予定される消費税率10%への引上げによる財源を活用しなければならないと、私は判断いたしました。2%の引上げにより5兆円強の税収となります。現在の予定では、この税収の5分の1だけを社会保障の充実に使い、残りの5分の4である4兆円余りは借金の返済に使うこととなっています。この考え方は、消費税を5%から10%へと引き上げる際の前提であり、国民の皆様にお約束していたことであります。

 この消費税の使い道を私は思い切って変えたい。子育て世代への投資と社会保障の安定化とにバランスよく充当し、あわせて財政再建も確実に実現する。そうした道を追求してまいります。増税分を借金の返済ばかりでなく、少子化対策などの歳出により多く回すことで、3年前の8%に引き上げたときのような景気への悪影響も軽減できます」

 そして、「(9月)28日に、衆議院を解散いたします」と解散を宣言。そして2017年10月22日投票の結果、自民党は解散前284議席に対して獲得284議席の±0、枝野立憲新党は新党への期待値からか、解散前15議席に対して獲得55議席の+40議席。民主党後継の前原民進党が合流した新党小池百合子希望の党が解散前57議席に対して獲得50議席の-7議席。

 有権者の選挙への関心を呼び起こすために2年も先の消費税10%増税を持ち出して、その税収は社会保障の充実と借金の返済に当てるべきところを少子化対策を含めた子育て世代への投資にまで広げるといい事尽くめのバラマキで自民党への投票を誘導しようとしたのだろうが、如何せん、2年も先の増税を争点化したのだから、生活が最大の利害と言えども切実感は湧かず、しかも選挙のたびに同じ手を繰り返されたのでは新鮮味を失う。

 だが、議席の獲得がどうであったとしても、消費税増税を選挙での票の獲得に利用したという点では、選挙に勝つためには何でも利用する、"選挙の勝利こそが全て"とする執念を示していることに変わりはない。

 安倍晋三は毎年4月に神宮外苑で行われる首相主催の「桜を見る会」でも、本人が主催の際には参加者の募集で票と結びつけていた疑いが出て、国会で追及を受けている。勿論、本人は否定している。2019年12月2日参議院本会議での共産党参議院議員田村智子の代表質問に対して次のように答弁している。文飾は当方。

 安倍晋三「『桜を見る会』への私の事務所からの推薦についてお尋ねがありました。私の事務所に於いては内閣官房からの依頼に基づき後援会の関係者を含め地域で活躍されてるなど、『桜を見る会』への参加にふさわしいと思われる方を始め、幅広く参加希望者を募り、推薦を行っていたところであります。その過程に於いて私自身も事務所からの相談を受ければ、推薦者についての意見を言うこともありましたが、事務所を通じた推薦以外は行なっておりません。

 他方、繰り返しになりますが、『桜を見る会』の招待者については提出された推薦者につき最終的に内閣官房及び内閣府に於いて取り纏めを行っているところであり、私の事務所が申し込めば、必ず招待状が届くものではありません」――

 最終的な参加者決定は内閣官房及び内閣府が行っていて、我々が関知しないことであり、選考から漏れる場合があるとしている。事実かどうか見ていく。

 内閣官房・内閣府による《「桜を見る会」開催要領》によると、招待範囲は皇族、元皇族から始まって各国大公使等、衆参両議長、副議長、最高裁長官、国会議員、省庁事務次官や局長、都道府県知事、都道府県議会議長等であり、それ以外の一般人ということか、「その他の各界代表等」となっている。招待人数は「計 約1万人」。〉

 ところが、「桜を見る会」(Wikipedia)を見ると、小泉政権で1万人を割っていた招待客が最後の2006年に1万1000人となり、福田内閣が1万人、麻生太郎が1万1000人、鳩山由紀夫が1万人。安倍晋三の第2次が始まって最初の年が1万2000人、年々増えていって、参議院の選挙があった2019年4月の出席者数は約1万8200人、募集人数の約2倍近くまで膨れ上がっている。
 
 要するに内閣官房・内閣府による招待可否の選別は見えてこない。因みに予算額は第二次安倍政権最初の2013年は1718万円だったのが翌年から1766万6000円と増え、最後の2019年は1766万円で、6千円の減額となっているが、支出額は毎年2倍近く、あるいは2倍以上となり、最後の7月に参議院選挙のあった2019年4月は予算額1766万円に対して3倍以上の5518万7000円にまで膨れ上がっていて、この理由を内閣府大臣官房長は国会答弁で、「テロ対策の強化や混雑緩和のための措置」としているが、テロ対策と混雑緩和措置は別々に行う課題ではなく、混雑緩和がテロ対策に役立つ関係から同時並行で行う作業で、しかもテロの脅威が差し迫っている状況なら、飛び抜けた予算が必要な場合も考えられ、予算額の倍以上、あるいは3倍以上となる可能性も生じるが、差し迫っているわけでもない以上、予算額の1.5倍程度なら理解できるが、常識的に言って、2倍以上、3倍以上は考えられないことで、支出額の面からも予算額の範囲内に収める"招待客絞り"は見えてこない。

 安倍後援会事務所も「平成31年4月13日(土)」の日付けで〈内閣府主催「桜を見る会」参加申し込み〉の用紙を後援会員向けに配っている。以下、書き込み欄以外の全文をテキストにして抜き出してみた。

 FAX:083-(ぼかし)あべ事務所行

 内閣府主催「桜を見る会」参加申し込み
   平成31年4月13日(土)

 《記入についてのお願い》
※ご夫妻で参加の場合は、配偶者欄もご記入ください。
※後日郵送で内閣府より招待状が届きますので、必ず、現住所をご記入ください。
※参加される方が、ご家族(同居を含む)、知人、友人の場合は別途用紙でお申し込みください。 (コビーしてご利用ください)
※紹介者欄は必ずご記入ください、(本人の場合は「本人」とご記入下さい)
※前日の「夕食会」「観光」「飛行機」等につきましては、後日、改めて参加者の方にアンケートさせていただきます。

 そして氏名(参加者、配偶者)や性別、生年月日、現住所、連絡先(自宅、携帯)等を書き込む欄となっている。

 最初に断っておくが、政治家の後援会員を「桜を見る会」の招待客の対象とすること自体が間違っている。その後援会員が「各界代表等」の該当者であったとしても、後援会員としては一政治家を選挙で当選させる利益のために活動しているのであって、それが国のためになると考えていたとしても、各界代表等」の活動とは別物である。「桜を見る会」の招待客としてふさわしいかどうかは本人が職業として、あるいはボランテティアとして専門に活動し、所属している団体、あるいは所属している地域の公共団体の総意を受けた推薦に負わなければならないはずである。当然、後援会の代表者である政治家には自身が受けている利益の見返りとなる政治利用に当たることになって、推薦する資格はないことになる。

 だが、安倍晋三はこの道理を無視して、既に上に挙げているが、自身の後援会を通して自らも招待を行っているばかりか、内閣官房・内閣府の「桜を見る会開催要領」の「その他の各界代表等」に当てはめ、それを口実に安倍後援会を通した招待を正当化している。

 2019年11月8日の参議院予算委員会での共産党田村智子に対する答弁。「『桜を見る会』についてはですね、各界に於いて功績・功労のあった方々をですね、各省庁からの意見等を踏まえ、幅広く招待をしております。招待者については内閣官房及び内閣府に於いて最終的に取り纏めをしているものと承知をしております」

 「各界に於いて功績・功労のあった方々」であったとしても、安倍晋三後援会事務所を通して推薦した場合、安倍晋三の選挙のために活動している利害関係者に当たることから、その見返りの招待ということになって、政治の私物化、あるいは職権乱用以外の何ものでもない。

 要するに安倍晋三が「私の事務所が申し込めば、必ず招待状が届くものではありません」と国会答弁していることに反して、推薦=招待となっていることと、このことが政治利用のシステムとしていた。

 第一番に安倍後援会事務所の「参加申し込み」案内状のどの文面を見ても、招待されないケースがあり得ることの断りを入れた、あるいは断りを窺わせる文言は見当たらない。

 逆に参加申し込みがそのまま招待を意味することを暗黙の了解とした文章の作りとなっている。最初の、〈※ご夫妻で参加の場合は、配偶者欄もご記入ください。〉は、招待の案内はするが、招待決定は安倍事務所から離れて内閣官房・内閣府に委ねられ、招待の選から漏れるケースがあるとの断りがないままで選から漏れた場合は夫妻同伴で招待を画策した意味を失い、相手に対して不愉快な感情を与えるばかりか、後援会から離れるキッカケや選挙活動に不熱心となるキッカケを与える場合も考えられることで、自らの無責任が作り出した不利益を回避するためにはお知らせ=招待となっていなければ、整合性は取れない。

 〈※後日郵送で内閣府より招待状が届きますので、必ず、現住所をご記入ください。〉にしても、"参加申込=招待状郵送"を意図した文言であって、安倍晋三が、"あべ事務所が申し込んでも必ずしも招待されるわけではない"と国会答弁したこととは齟齬する文言となる。

 〈※参加される方が、ご家族(同居を含む)、知人、友人の場合は別途用紙でお申し込みください。 (コビーしてご利用ください)〉も、"参加申込=招待状郵送"を絶対前提とした案内そのものとなる。篩に掛けるが事実なら、本人だけが招待される、あるいは本人以外が招待される可能性も考慮することになって、このような文面の「参加申し込み」はできないことになるからだ。

 こういった無規律な参加者募集が2019年4月の「桜を見る会」では内閣官房・内閣府が招待客を約1万人としながら、2倍近い1万8千人も出席させることになったとしなければ、常識的な納得は得ることはできない。もし内閣官房・内閣府が篩にかけていたなら、自分たちが前以って想定していた1万人前後の範囲内に収めていたはずである。総理大臣主催なのだから、総理大臣側の圧力、あるいは横槍がなければ、1万人を遥かに超えた、1万8千人分もの招待状を発行することはないし、支出額が予算額の3倍以上も超過することもなく、淡々と事務処理して招待人数も支出額も予定内に収めていたはずだ。

 要するに安倍晋三の、「私の事務所が申し込めば、必ず招待状が届くものではありません」は虚偽答弁そのものだと断定できる。

 安倍後援会事務所への功労の見返りに「桜を見る会」に招待し、それぞれの自尊心を満足させ、自らは選挙での票の見返りを期待する政治利用を行った。  

 このことは参議院自由民主党事務局総務部が2019年7月の参議院選挙の改選議員に向けて平成31年1月31日の日付けで発信した、《「桜を見る会」のお知らせ》が何よりの証拠となる。文飾は案内状通り。

 〈一般の方(友人、知人、後援会等)を、4組までご招待いただけます。〉――

 直接的な当人以外であっても、申込みさえすれば、招待状が郵送されることを保証しているからこそ、下線を付け、文字を太くしてまで強調できる。その逆はあり得ない。しかも内閣官房・内閣府の《「桜を見る会」開催要領》が「その他の各界代表等」としている制限には何ら触れない、それを無視した「一般の方」までも対象者に含めた招待内容となっている。この無差別性が自民党改選議員を対象とした選挙利用の「お知らせ」であることを明らかに物語ることになる。約1万人が約1万8千人にまで膨れ上がったのは当然である。

 安倍事務所や参議院自由民主党だけではなく、自民党幹部の萩生田光一以下、それぞれの議員の後援会員を無差別に招待している点からして(後援会員の中にはどの点が「各界代表」と言えるのか不明の、選挙のウグイス嬢まで招待している点が招待の無差別性を如実に物語っている)、安倍内閣ぐるみの選挙利用と指摘できる。

 総理大臣主催の公の行事である「桜を見る会」の参加者招待を選挙利用の対象とする。安倍晋三の"選挙の勝利こそが全て"の執念が向かわせた選挙利用、権力の私物化と見るほかない。その根性の程度を知ることになる。

 結果、2012年12月の衆議院選挙を皮切りに衆議院選挙3回、参議院選挙3回、計6回の選挙を6戦全勝とすることができた。野党は安倍晋三の消費税増税延期を巧みに操った選挙利用、安倍晋三が中心的役割を果たした旧統一教会と多くの自民党議員を介した選挙利用、「桜を見る会」の参加者招待を対象とした選挙利用、政治資金パーティのノルマ超の売上を現金還付して収支報告書不記載とした以上、選挙資金として自由に使える裏ガネに資金洗浄したことになる選挙利用を国会追及したものの、不発のまま終わらせ、最終的に7年8ヶ月という長期政権を許した。

 結果、有権者の側は多くが疑いの目を持ったとしても、内心の怒りを中途半端な状態で抑えつけられ、怒り未満のその欲求不満が今回の選挙での反自民の票の程度となって現れることになり、一発で政権交代を決める場所にまで到達することができなかった。

 世論調査を見ると、現在でも政治とカネの問題について「けじめがついていない」と見る世論は高く、裏ガネ収支報告書不記載問題の真相解明の国会追及だけではなく、旧統一教会の問題も、現在、解散命令請求を東京地裁に出している関係から、裁判の行方次第では再び世間を賑わすことになり、安倍晋三を中心人物とした自民党内での旧統一教会との関係、その政治利用に関わる真相解明を求める声が再度高まり、その高まりに応えた野党の国会追及が成果を上げることができたなら、怒り未満の欲求不満は怒りそのものへと解放され、自民党への懲罰の形を取り、来夏の参議院選挙で野党の票へと向かう、そういった空気を作り出すことができたなら、ねじれ国会も夢ではなく、ねじれ国会を出発点として、野党連合という形であっても、政権交代も視野に入ってくる。
 
 要するに政権交代の怒りを作り出すには自民党という政党の在り方に対する国会追及を貫徹・成功させることが絶対条件となる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする