TPP参加は全体的な国民生活の利害を国益として判断すべき

2010-10-27 10:48:15 | Weblog

 今日本がTPPに参加するかどうかで政府内で賛否の議論が起きている。
 
 TPPとは《TPPとは》日本経済新聞電子版/2010/10/21 19:50)が解説している。

 〈▼TPP 環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(Trans Pacific Partnership)の略。域内の物品貿易は関税を即時撤廃するのが原則で、品目によっては10年間で段階的に廃止する。シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイで2006年に結んだ自由貿易協定が発端。現在は米国、豪州、ペルー、ベトナム、マレーシアを加えた9カ国で交渉が進んでいる。コメなど特定品目を関税撤廃の例外措置とするよう求めながら交渉に参加するのは現実的には難しい。〉――

 この解説だけで、農業分野所管の農水省反対が理解できる。省として自らが代弁する農業分野の利害に反すると看做しているからだろう。賛否の相違は利害の相違に対応する。利害を省益と置き換えることもできる。だが、省益は農業分野の利害とイコールとは限らない。省の利害を優先させる目的から農業の利害を後付するといったこともある。

 いわば省益に準じた農業の利害といった関係を取る場合が往々にして存在する。

 次に経産省。《経産相、環太平洋協定に慎重=外相は意見交換会参加を表明》時事ドットコム/2010/10/26-13:30)

 大畠経産相が当面は2国間の経済連携協定(EPA)締結の積み重ねを重視する考えを強調したという。理由は農業問題だけでなく、「非関税障壁」(輸入割当制や輸入課徴金等の関税以外の方法による輸入制限)の撤廃を求められる可能性を挙げたそうだ。

 TPPが関税撤廃例外措置を認めない全関税完全撤廃(=完全自由化)を目的としているなら、当然、すべての「非関税障壁」は否応もなしに無効化させられる。モノを売る国の側からしたら、完全自由化を謳いながら、「非関税障壁」によってモノが売れなくなるからだ。

 「非関税障壁」撤廃は「非関税障壁」を設けて保護している産業分野の利害に反するゆえに、それに応じて経産省の利害、省益に反すると言うわけである。

 記事は前原外相が閣議後会見で、11月に横浜市で開催のAPEC首脳・閣僚会議を前にTPP参加国が実施する事務レベルの意見交換会に日本が出席することを明らかにしたと伝えている。TPPに関心を示している中国、カナダ、フィリピンも出席する見込みだそうだ。

 TPPに日本が参加した場合の影響につい農水省と内閣府がそれぞれに試算している。《食料自給率14%に低下=GDPは2兆~3兆円増-TPP試算》時事ドットコム/2010/10/27-02:09)
 
 農林水産省、国内農業生産が減り、食料自給率(カロリーベース)が現在の40%から14%に低下。

 内閣府、実質GDP(国内総生産)を2兆~3兆円余り押し上げるメリットがあると推計。

 試算自体が反対の農林水産省、賛成の内閣府という関係を露にしている。

 問題は国民全体で見た場合の利害であろう。コメに700%を超す関税をかけ、その他様々な保護政策に税金を投与し、コメ生産農家を保護しておきながら、税金を生かすことができずに捨て金とする農業の荒廃、農村の過疎化、コメ余り等を実現させていることは一般国民の利害に合致した政治と言えるだろうか。

 主として食糧自給率向上の観点から食糧安全保障が語られ、食糧自給率向上の大義名分の名のもと税金を大量に投与して様々な規制を設け、その代償として国民の多くは高いコメやその他を食べさせられてきた。

 戦後以来ずっと続いてきたこの構図は国民全体に於ける総体的利害に合致する政策とその恩恵であると決して言えまい。グローバル化だと言いながら、グローバル化に忠実に従った購買に支えられていたなら安く手に入る物品を高い値段で買わされ、その分、消費の面で生活の幅を狭めされられてきた。長年、豊かな国の貧しい生活と言われてきた。

 高額所得者はこの生活の構図は当てはまらないだろうが、国税庁の「2009年の民間給与実態統計調査」によると、昨2009年の給与所得者平均年収は前年比24万円減の406万円、年間収入が200万円超300万円以下の生活者が男性では14.1%、女性では22.8%、100万円超200万円以下の生活者が男性では、7.9%、女性では27.2%、100万円以下の生活者は男性では3.1%、女性では17.7%、それぞれ合計すると、300万円以下が男性では25.1%、勤労者の約4分の一、女性が67・7%で、女性勤労者の約7割も占める。
 
 この平均年収減は1997年をピークとした12年間連続の減少傾向だそうだ。低所得層はそれ以前から、様々な輸入規制によって世界第2位の経済大国という名に反した窮屈な消費活動を強いられてきた。

 まさしく相当数の国民が豊かな国の貧しい生活を地で行っていた。国民の活力の喪失が言われ、消費活動の低迷が言われるのも収入に関わる以上の理由が関係していないはずはない。

 TPP参加による関税の完全撤廃は当然のこと、食糧自給率低下を自明の理とする。だが、そのことが食糧生産者の利害に反したとしても、国民全体で見た場合、総体的に国民の利害に添うかどうかで判断すべきだろう。

 保護される層だけが国民ではないからだ。

 その判断は利害の全体的なプラスマイナスで見て、プラスが優るかマイナスが優るかで見るしかない。プラスであることが全体的な国益となって現れるはずだ。

 一部養豚農家保護のための豚肉の差額関税制度によっても、多くの国民は長年高い豚肉を食べさせられてきた。値段の高騰感は中低所得層程強く感じていたはずだ。

 輸入価格の実勢と国内産価格を参考とした基準価格との差を関税として支払う差額が無視できない金額だからだろう、大手食肉会社が高額の豚肉を輸入したように見せかけてその分関税を低くする書類を偽造して税金を誤魔化す事件も発生している。

 国産と輸入品の価格差を埋めるための「政府売渡価格」制度によって国産小麦粉が保護されることによって輸入小麦粉が高い値段で設定され、小麦粉だけではなく、パンや麺類、菓子等の値段にも影響して、国民は余分な生活費を支払わされてきた。

 TTP参加は当然、こういった豚肉、小麦粉等の「非関税障壁」の撤廃もシナリオに加えるだろうから、「非関税障壁」に守られてきた利害層が損失を蒙ることに反して、より多くの一般的な国民の生活に余裕をもたらすはずだ。生活の余裕は生活の向上をもたらす。

 今年の猛暑の影響で世界の穀物生産に打撃を与え、ロシア等は小麦の輸出を停止した国も出現し、小麦粉の国際価格を高騰せしめたが、安いときは安い値段による消費を享受し、高騰したときは国民自身が負担するグローバルな市場淘汰に任せるべきだろう。

 低所得者は小麦粉関係の食品の消費を差し控える生活防衛を働かせて凌ぐだろう。そのためにも政府は一部生産者に対する保護ではない、備蓄等の手段で高騰を可能な限り和らげるセーフティネットを設ける義務と責任を負う。

 菅首相はTPP参加の方向でいる。《首相 開放と農業の両立は可能》NHK/2010年10月24日 20時48分)

 この記事では大畠経産相TPP参加積極派の一人となっている。

 大畠「貿易の自由化は非常に重要な問題だ」

 だが、時間を置かずに慎重派に転ずる。

 鹿野農水相「将来の食料安全保障や食の安全についても考慮すべきだ」

 菅首相「農業の育成と菅内閣が掲げる国を開くという目標は、両立が可能で、党や内閣、それに国民と議論しながら、一定の方向性を出したい」

 相変わらず指導力を感じさせない発言となっている。

 先に「農業の育成」と「国を開くという目標」の「両立が可能」だと言うなら、先ずは自らの指導力を以ってして「可能」と認めさせる合理的な「一定」の結論を出すべきで、その結論を国民に諮るプロセスを取るべきだろう。

 その結論には以下のことが含まれなければならない。TPP参加に向けた動きがそれぞれに利害の対立を生み、恩恵を蒙って利益を得る者と恩恵を受けずに利益を失う者が生じることは当然の事態と看做し、差引き総体的に全体としての国益が優ることの説明と、そのことを以って利益を失う者に対して保護一辺倒とはならない農産物の高品質化や特定農産物への特化を図る政策等の提示を一方で行い、そういった方向に乗ることができない高齢化等を理由とした農家が出てくることも否定できないのだから、そういった農家には何らかの救済策を施して利害の埋め合わせとする「両立」策である。

 国家戦略室を首相に対する政策提言を行う組織と予算編成、その他の重要政策の策定や総合調整を行う組織との二本立てでいくということだが、先ず自らがリーダーとなってそこで議論するなり、提言を受けるなりしてTPP参加が国に与える利益と損害から全体としての国益を計算して、こういう国の姿を取ると全体図を作成、それを以て菅首相自らが国民に示し、諮る方法を採用する前に「国民と議論しながら」と八方美人の姿を取るようでは菅首相自身の指導力は勿論、この組織をつくった意味を成さないことになる。


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