ケイの読書日記

個人が書く書評

木々高太郎「人生の阿呆」

2006-06-19 14:32:52 | Weblog
大好きな本・読んだ本


 たしかに殺人事件は起こるし、暗号文も出てきますが、これを探偵小説と呼ぶんでしょうか…?

 むしろ、思想小説というか恋愛青春小説というか紀行文というか……ごちゃまぜになっています。
 その中で一番優れているのは、ウラジオストックからシベリア鉄道に乗ってモスクワに行く紀行文の部分。
 1932年(昭和7年)ソ連に行けるなんて人は本当に少数でしょう。

 それに、いろんな写真もたくさん使ってあり、とても興味深い。


 探偵小説の部分は、犯人が早い段階でわかってしまう。(さすがに暗号文は解けませんが)


 恋愛青春小説の部分は……戦前の上流階級のおぼちゃま・お嬢ちゃまの生態がよくわかります。
 良吉おぼっちゃまは学生時代、階級運動にのめりこむが検挙され転向。良吉の恋人、達子は良吉が捕まっている間、親戚に説得され外交官と結婚しモスクワに赴任する。

 良吉は父親から「日本を離れヨーロッパに留学するよう」命じられ、シベリア鉄道でヨーロッパに向かうが、実はモスクワで達子と落ち合い、2人で出奔することを計画する。(達子の3歳の子どもはどうするのでしょう?)


 しかし、日本の良吉の実家の周辺で連続殺人事件が起こり、結局良吉は重要参考人として日本に連れ戻される。



 しかし、この良吉おぼっちゃまにはイライラさせられっぱなし。
 
 シベリア鉄道の三等車の中でいっしょになったロシア人が時計を持っていないのを知って、その貧しさに驚き「日本では三等車の人でも大部分が懐中時計を持っている」と書いてあるが、本当?!
 その当時、時計ってとっても高価なものだったと思うよ。


 だいたい、戦前の日本で私費で2年も3年もヨーロッパ留学できる家というのは、限られた大金持ち。家が何軒も建つぐらいのお金がいるだろう。

 アメリカドルをしこたま懐にねじ込んで出掛け、よくもまあヨーロッパに行くなぁと思う。
 恥ずかしくないのか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする