ケイの読書日記

個人が書く書評

島田荘司 「最後のディナー」

2015-08-03 14:49:25 | Weblog
 第1話「里見上京」   御手洗がスウェーデンに去ってからの、石岡君の侘しい生活を書いている。それだけじゃ、とっても小説にはならないので、犬坊里美という、かつて石岡君が解決した「龍臥亭事件」に出てきた女の子を登場させている。27歳年下のぴちぴち女子大生。

 この犬坊里美は『犬坊里美の冒険』とかいうコージィミステリの主人公にもなっているが、石岡君とコンビを組んでも、サッパリ面白くない。
 核心の推理部分は、御手洗に国際電話をかけて指示を仰ぐんだから、何のためにいるのか分からない。
 半ば、引きこもり状態の石岡君と、外の世界をむすぶパイプ役という事だろうか?


 第2話 「大根奇聞」は、そんな里美の通っている大学の先生が、石岡君に、江戸末期薩摩藩で起こった、不思議な事件の謎を語ったもの。 
 桜島の大噴火で、辺り一面火山灰が降り注ぎ、大飢饉となった薩摩藩に、托鉢の僧とその弟子が流れ着く。行き倒れになっていたところ、心の優しいお婆さんに助けられるが、食べるものは何もない。火山灰のおかげで作物は全滅。大勢の人が、餓死している。
 ただ、桜島大根だけはすくすく育ったが、薩摩藩は、桜島大根を取ったものは打ち首、というおふれを出す。
 取れば打ち首、取らなければ餓死。お婆さんは一大決心をして、桜島大根を盗み、隣近所に振る舞い、自分や僧や弟子にも食べさせた。しかし、どういう訳か打ち首にはならなかった。その理由は?
 行き倒れになっていた僧が、布団から起き上がって、助けてくれた婆さんを打ち首から救おうと念仏を唱え始める。「今こそ、御仏の力、見せるです」と言って。
 そう、御仏が奇跡を起こしてくれたのだ。その奇跡とは?



 第3話の「最後のディナー」は、作品よりも、島田荘司自身が書いたあとがき「最後のディナーの背景」の方が、うんと面白い。
 ハリウッドの白黒無声映画時代の大スター 早川雪洲がモデルとなっている部分があり、本当に興味深い。話には聞いたことがあったけど、本当にこんな日本人がいたんだね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする