ケイの読書日記

個人が書く書評

川端康成 「花のワルツ」

2021-02-05 16:46:52 | 川端康成
 一昔前の少女向けバレエマンガみたい。昭和11年に発表された。あと5年で真珠湾攻撃という時代でも、バレエを習っている女の子って結構いたんだ。

 鈴子と星枝という2人の若いバレエダンサーが出てくる。鈴子は、貧乏な家の娘だが踊る事が大好きで、先生の内弟子となってバレエ教室の手伝いをしながらバレエを続けている。一方、星枝は裕福な家の娘で、勝ち気でムラッ気があり周囲を振り回すが、才能がある。ただ才能が有りすぎて、踊りにのめり込むことができない。バレエにさほど情熱を燃やせない。

 彼らの所属する竹内バレエ団は、知名度も実力もあるのだが、経営状況は厳しい。なぜなら、弟子の南条という才能のある青年バレエダンサーに期待をかけて、5年間ヨーロッパに留学させたのだ。費用は全部竹内先生が出して。そのおかげで家も抵当に入るし、あちこちに借金もできたが、竹内先生は、南条が帰ってきたら華やかにお披露目し彼を中心に据えるので、経営も持ちなおすと信じている。
 その南条が帰ってくることになって…。

 努力の人と才能の人の戦いか…? とも思ったが争いにならない。才能のある人は全くヤル気が無くて。「私は平凡でいたいの。もう一生、二度と踊りませんから」と言って。

 南条を巡り二人の美女の戦いが始まれば、これはもうレディスコミックだが、そんな単純な話ではない。
 この南条の帰国は、洋行帰りといった華々しいものではなかった。日本で多少才能があったとしても、西洋で認められるのは至難の業で、実際、彼は5年間フランスでひどく惨めな生活をしていたらしい。(渡欧する前、バレエ学校への入校手続きをしなかったんだろうか?)
 ろくに食事もとれず、寒さと湿気でリュウマチに罹ってしまい歩けなくなって、松葉杖をついてバレエを断念する所まで追い詰められていた。
 そういった事って多かっただろうね。実家がすごく金持ちで、たっぷり仕送りがある人はともかく、お金をかき集めてなんとかヨーロッパに送り出しても、後が続かない。当時の日本とヨーロッパの為替相場を考えても、相当な資産家じゃないと無理だよ。

 竹内先生は期待をかけていた分、怒り心頭だろう。でも南条本人が一番苦しいんだろうが。
 そんな南条が、星枝の踊りを見て再びバレエへの情熱を取り戻したのだ。そして…。

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