ケイの読書日記

個人が書く書評

宇佐見りん 「推し、燃ゆ」 河出書房新社

2021-02-12 15:15:36 | 宇佐見りん
 第164回芥川賞受賞作。受賞作だから読むのではない。受賞する前から、新聞の書評を見て読みたいと思っていた。「推し」という言葉に、どうしようもなくシンバシィを感じて。読んでみて、予想はしていたが、これは壮絶な物語ですなぁ。

 あかりは女子高生。小さい頃から家でも学校でもパッとしないボンヤリした子だった。それが、アイドルグループの一員、上野真幸と出会う事で(もちろんDVD上)強固な芯が体の中を一本貫いて、莫大なエネルギーが自分自身の奥から湧き上がるのを感じる。

 その推し・上野真幸くんが炎上した。ファンを殴ったらしい。SNSで大騒ぎ。TVのワイドショーで、推しはフラッシュに晒され疲れているように見える。コメント欄ではファンとアンチがせめぎあっている。「ライブも何度も行ったけど、金輪際見ません」という人もいるが、あかりの気持ちは揺るがない。
 CDやDVDや写真集は、保存用と観賞用と貸し出し用に常に3つ買う。放送された番組は、ダビングして何度も見返す。テレビ・ラジオであらゆる推しの発言を聴き取り書きつけたファイルは20冊を超えている。
 あかりは推し・真幸くんの見る世界をそのまま見たかった。

 結局、沈静化していき、しばらくして真幸君はアイドル活動を再開する。しかし離れて行ったファンも多い。所属しているアイドルグループの人気投票では以前は常にトップだったのに、今回は最下位。
 彼らの2000円の新曲CDには、投票券が付いている。あかりはバイト代をつぎ込んで15枚買って、すべて真幸くんに投票したが、最下位だ。ああ、もっとバイトしてもっとCD買ってもっと投票すればよかった、と激しく後悔する。
 でも買うのはCDだけじゃない。DVDもグッズも買うしライブにも行く。だからお金はいくらあっても足りないのだ。
 
 あかりのバイト先は、昼は定食屋、夜は居酒屋になる。あかりは要領も愛想も悪いので、いつも店長やオーナーに怒られてばかり。

 そんなあかりも、真幸くんの事を書いているブログは、ファン同士の交流の場になって頼りにされている。そのブログに、同じ真幸くんファンが暮れたコメント「真幸くん、最近人気落ち気味だけど、今こそファンの底力を見せないとだよね。がんばろまじで!」
 ああ、心に刺さる。私も感情移入しちゃって苦しいです。

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