ケイの読書日記

個人が書く書評

岸田るり子「出口のない部屋」

2015-06-25 11:32:33 | Weblog
 「出口のない部屋」っていうタイトルは、哲学的な響きがあると感じるが、それもそのはず、フランスの哲学者サルトルに「出口なし」という戯曲があるらしい。その戯曲を読んで、舞台を見て、作者はこのミステリの構想を練ったようだ。

 3人の見知らぬ男女が、1つの部屋に入ってきて向き合う…互いに全く面識がない彼らは、自分たちが監禁された理由の手掛かりを探すため、自己紹介をするのだが、自分に都合の良い事しか言わない。そういった作中作品がある。
 それを、別の角度から見て、3人の男女のエゴイストぶりを暴き出す。プロローグとエピローグには、作家と編集者も登場し、出口のない部屋に監禁された男女3人との関係が、最後に明かされる。


 この岸田るり子さんは、鮎川哲也賞作家なので、すごく緻密で論理的な作品かと思ったが、結構、情緒的で読みやすい。
 この人は、ちょっと変わった経歴の持ち主で、1961年京都生まれ。大学は、パリ第7大学理学部卒のリケジョなのだ。
 作品中にも、祇園の芸妓さんの話が出てくるし、また、大学の研究室で研究している、免疫学の話も出てくる。
 この免疫学の話が、描写が細かくて、ちょっと気持ち悪い。鶏の胚(受精後、1日目か2日目の、細胞分裂が始まったばかりの物)に、ウズラの胚を移植し、2つの生き物を合体させたキメラを誕生させる。
 マンガでお馴染みのキメラだが、想像するだけでも、気分が悪くなるなぁ。

 そのキメラを解剖し、内部の組織を調べるために、パラホルムアルデヒドという薬剤を注入するのだが、それは激しい痛みを引き起こし、ものすごい形相になるらしい。
 うげぇ! 人間に有益な研究材料になっているのに、最後の最後に、こんな激痛を与えられるとは…本当にかわいそうです。

 そして、一番恐ろしいのは、どっかの変質者が、この薬剤を手に入れて人間に使わないだろうかという恐れ。
 タリウムをクラスメートや母親に飲ませ、その症状を観察するっていう犯罪者がいたけど、毒を盛る人って、だいたい女だよね。どうして?

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