ケイの読書日記

個人が書く書評

芥川龍之介「年末の1日」

2012-02-11 15:20:25 | Weblog
 この「年末の1日」も、ちくま文庫「芥川龍之介全集6」に入っている。
 これは、文学的価値があるとか、好みというのでなく、題材が面白い。

 
 大正14年の年末、芥川は頼まれていた作品を書き上げ、受け取りに来た新聞記者・K君に渡す。
 どこか外出したかった芥川は、K君を誘う。以前からK君は、夏目漱石のお墓にお参りしたいから場所を教えて欲しいと言っていたので、一緒に行く事になったのだ。

 K君は夏目漱石の熱心な愛読者。そして芥川は、夏目漱石が死ぬまで1年ほど師事していた。当然、お墓の場所は知っている。

 雑司ケ谷の墓地に着いたが、知っているはずの夏目先生のお墓が見つからない。あっちこっちへウロウロし、人に尋ねようにも歩いている人もいない。
 やっと墓地掃除の女の人に出会い、道を教えられ、夏目先生のお墓の前にK君を連れて行くことができた。
 K君はあこがれの夏目先生の墓の前でわざわざコートを脱ぎ、丁寧にお辞儀をした。しかし芥川は、今更、何もなかったようにK君と一緒にお辞儀をする事はできなかった…という話である。


 わかるなぁ。芥川の焦りが。失礼ながら滑稽。
 背中には、夏目先生の信奉者の「いったい何してんだヨ!もう何年も墓参りしてないって事がみえみえじゃん。ちぇ、情けねえなぁ」といった冷笑めいた視線が感じられ、自分自身も申し訳なさを感じる。

 この時代、文筆業といっても、徒弟制度は職人と変わらないものね。周りから見れば、命日には師匠の墓を参って掃除をするのが当たり前…という批判があるんだろうね。

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