ケイの読書日記

個人が書く書評

太宰治 「佐渡」

2020-11-06 16:09:31 | 太宰治
 「佐渡」 そう、なんのひねりもない題名。でも、内容は普通の紀行文とは違う。旅行雑誌などには絶対のらない内容。つまらない、何もない、来るんじゃなかった、という文句ばかり書いている。これでいいのか!

 書かれたのは、日本が日華事変(1937~)から、まっしぐらに太平洋戦争に向かって突き進んでいる頃の話で、作中にも「今は日本は遊ぶ時ではない」という箇所がある。意外に思う人が多いだろうが、太宰治は、結構、戦時下に適応している。決して反戦作家ではないのだ。
 そのせいか、精神的に安定しているこの頃の作品に、スッキリとした名作が多い。「走れ メロス」なんて、この頃の作品。

 この短編は、新潟の高等学校で講演した後に立ち寄った佐渡について書いてある。「死ぬほど寂しいところ」だから、行ってみたいと思ったらしい。失礼な。佐渡に住んでいる人が読んだら怒っちゃうね。

 11月の小雨の降る中、自分で行ってみたいと船に乗ったのに、もう最初から後悔している。そうだよ、太宰。あんたはそういう男だ。「なにをしに佐渡へ行くのだろう。なにをすき好んで、こんな寒い季節にもっともらしい顔をして、袴をはき、ひとりでそんな寂しい所へ なにもないのが わかっていながら」(本文より抜粋)

 佐渡の観光組合の人が、戦後、流行作家となった太宰が「佐渡」という小説を書いていることを知り、よっしゃ!! それで村おこしだ! なんて事を考えても、この小説を読んだら、それでボツだろうね。

 しかし、どうして小説家という種の人たちは、金銭に余裕がないのに旅行したがるんだろうか? しかも一番高い旅館に泊まっている。寂しさ侘しさを味わいたいなら、木賃宿にでも泊ればいいのに。
 しかも蟹、鮑、牡蠣をたらふく食べ、白米を4杯もお代わりしたのだ。その上、宿屋から散策してブラッと入った料亭で、芸者さんまで呼んでいる。その芸者さんの悪口まで書いている。あんた、佐渡にあか抜けた別嬪芸者がいるわけないでしょ!「死ぬほど寂しいところ」に来たかったはずなのに。

 でもまあ、夜中、ふと目覚めて波の音を聞きながら、色んなことを彼は考える。そして「自分の醜さを捨てずに育てていくより他はない」と決意する。こういう所が、太宰だよ。

 

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2 コメント

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zuzuさんへ (kei)
2020-11-13 14:23:21
 コメントありがとうございます。本当に面倒くさい人でしょうね。女性にはすごく魅力的な人だったみたいです。
 よろしければ、zuzuさんのブログを教えてください。読んでみたいです。
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初めまして (zuzu)
2020-11-09 07:27:50
zuzuと申します。
私も読書好きで自分のブログにも読んだ本の感想を時々書いてはいますが、貴ブログのように上手ではありません…

太宰は一時期はまって読んでいました。
この人は「佐渡」という作品からもわかるように世の中の常識にとらわれないが、ちょっと面倒くさい人みたいですね。
でもその性格がが逆に名作を次々と生み出す原動力になったのかもしれませんが…
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