釧路を訪れるのは、約7年ぶりになると思う。当時と街並みも微妙に変わって、大通りの一角には、「くしろ街中横丁」なる商業施設でできていた。しかし、酒を飲まない一人旅はお呼びでないようである。
幣舞橋に着いた。欄干には「道東四季の像」が聳えている。1977年の完成で、作者は「春」船越保武・「夏」佐藤忠良・「秋」柳原義達・「冬」本郷新の各氏である。
人によって好みが違うだろうが、私は夏がいちばん好きだろうか。体調が悪いときは、春を愛でるかもしれない。たぶん、W氏は春の像がお気に入りだと思う。


▲「春」船越保武

▲「夏」佐藤忠良

▲「秋」柳原義達

▲「冬」本郷新
その春像の向こう側にある、釧路フィッシャーマンズワーフ「Moo」に入る。2階の「港の屋台」は営業していて、ラーメンくらいは食べられそうである。
だが唯一あったラーメン専門店は、定休日だった。
おばちゃんが経営している飲み屋でラーメンを提供していたので、ここで食べることにする。「魚醤ラーメン」(750円)が押しのようで、それを注文する。
そのラーメンは、スープがさっぱりしていて美味かった。魚醤というから臭みを覚悟したが、それは全然ない。あごだしに似た感じかもしれない。細縮れ麺も、最初はスープと合わないと思ったが、食べ進めていくと、この組み合わせでいいと思った。
ホテルパコ釧路は幣舞橋の近くにあるのだが、釧路に来たら寄る店がある。「仏蘭西茶館」である。
私は繁華街を通る。街にはサラリーマンらが繰り出していて、「俺はあした仕事だ」「私はあした休み」とかしゃべっている。私は哀しいことに、明日も明後日も、その先も休みの予定だ。
ビルの地下1階に、仏蘭西茶館は健在だった。最近はお気に入りの店がどんどん廃業していくので、こちらもビクビクしてしまう。
店内に客はいなかったが、カウンターには行きづらく、奥のテーブル席に座る。店内はレンガ造りで、雰囲気がある。今日は中田章道八段似のマスターが店に出ていた。昔はママさんがやっていたが、もう10年近く、見ていない。年齢的にもしものことがあるので、マスターにはあえて聞かないけれど。
私はブレンドコーヒー(500円)を頼む。7年前はケーキの類もあったのだが、それらはなくなっていた。
ブレンドコーヒーが運ばれてきた。私が20代に訪れた時は400円だったから、消費税も考慮すると、ほとんど値上げしていない。これを企業努力という。ただ、ミルクはテーブルにある市販のものに変わった。以前は店お手製のホイップクリームだった。
店内には越路吹雪のシャンソンが流れている。コーヒーは、私のようなバカ舌にでも、一味違う美味さを感じる。あああ、何という贅沢なひとときなのだろう。
一人旅と思しき女性が入店した。どこで情報を仕入れたのだろう、客が入るのはいいことである。さらに地元と思しきカップルも入店した。
上質な時間を堪能して、私は店を出た。すると「お客さん!」と声。マスターで、手にカメラキャップを持っていた。私が店に忘れてきてしまったのだ。あぶないところだった。
ホテルパコ釧路にチェックインする。今旅行初のホテルである。我が538号室は、2人部屋だった。今後も泊まることはないだろう部屋で、とりあえずありがたい。しかし、使わないベッドを汚しちゃいけないと行動が慎重になったりして、結局は縮こまって過ごしてしまう。私は生来の貧乏性である。
明日のホテルを検索する。スーパーホテル旭川が4,000円だったが、とりあえず保留しておく。何しろ明日は最後の宿泊だ。性急に決めたら楽しみがなくなる。
温泉は、いい湯だった。
翌11日(火・祝)。今日は釧網本線乗車がメインである。早朝にチェックアウトし、とりあえず、朝の幣舞橋に出掛ける。道東四季の像は、昨晩と趣を異にして、やはり見応えがあった。

▲「春」船越保武

▲「夏」佐藤忠良

▲「秋」柳原義達

▲「冬」本郷新
私は和商市場に行く。ここは場内に美味い寿司を食べさせてくれる寿司屋がある。昔食べた時はタコの卵があったりして、10カンで2,000円だった。今回も朝から奮発するつもりだった。
が、市場に入ると、その寿司屋は廃業していた。

私は絶句し、場内をまわる。店内はお菓子屋に転業したところもあり、微妙に雰囲気が変わっていた。
私みたいな風貌はいいカモに見えるから、店の人にすぐ話し掛けられる。それでちょっとおしゃべりすると、もう何か買わなければいけない雰囲気になる。それがイヤだ。
ある店に寄ったが、ここのタラコが美味そうだった。発送もやっているらしいが、送れば割高になってしまう。そもそも、こうした市場は観光客用で、商品自体もそれほど安くないのではないか?
その先には勝手丼のコーナーがあるが、ひとりで勝手丼を造っても虚しいだけだ。
私はほかもあたってみる。そこはトキシラズが美味そうだった。
結局私はそれぞれの店で数点買い、後者の店で一括して発送することにした。結果、意味不明の加算料金があったりして、総額8,864円。無職のくせに、大変な散財をしてしまった。
その反動というわけではないが、朝食は市場内の店の、500円のたまごかけごはん定食とした。
08時57分発の快速しれとこ摩周号に乗る。車内はけっこうな込み具合で、ボックスシートに座れなかったが、しょうがない。

列車は釧路湿原の中を静かに走る。今日は休日なので、同じ路線を「SL冬の湿原号」が走るのだが、釧路11時05分発である。私は明日の夜に帰京しなければならないので、さすがに見送らざるを得なかった。
列車は一応快速だが、ほとんどの駅を律義に止まる。ここは観光路線なので、高速で走り抜けるのはヤボである。
知床斜里、11時11分着。大昔はここから12.8キロ先の越川まで根北線が伸びていたが、1970年に廃止された。
ちなみに越川の先にある越川橋梁は登録有形文化財で、私も見に行ったことがある。だが現在は路線バスも廃止され、いまの私では、もう巡ることができない。
ところで釧網本線は別名「グルメ路線」と呼ばれており、駅直結の食事処がいくつかある。知床斜里から先は、止別「駅馬車」(ラーメン屋)、浜小清水「道の駅・葉菜野花(はなやか)」、藻琴「食事&喫茶 トロッコ」などである。
ただ鉄道旅行の悲しさ、途中下車してしまうと、次の列車がなかなか捕まえられない。たとえば次の定期列車は、知床斜里発16時33分である。この待ち時間は、まるで広尾線だ。
だが私は、11時38分、北浜で降りた。
(つづく)
幣舞橋に着いた。欄干には「道東四季の像」が聳えている。1977年の完成で、作者は「春」船越保武・「夏」佐藤忠良・「秋」柳原義達・「冬」本郷新の各氏である。
人によって好みが違うだろうが、私は夏がいちばん好きだろうか。体調が悪いときは、春を愛でるかもしれない。たぶん、W氏は春の像がお気に入りだと思う。


▲「春」船越保武

▲「夏」佐藤忠良

▲「秋」柳原義達

▲「冬」本郷新
その春像の向こう側にある、釧路フィッシャーマンズワーフ「Moo」に入る。2階の「港の屋台」は営業していて、ラーメンくらいは食べられそうである。
だが唯一あったラーメン専門店は、定休日だった。
おばちゃんが経営している飲み屋でラーメンを提供していたので、ここで食べることにする。「魚醤ラーメン」(750円)が押しのようで、それを注文する。
そのラーメンは、スープがさっぱりしていて美味かった。魚醤というから臭みを覚悟したが、それは全然ない。あごだしに似た感じかもしれない。細縮れ麺も、最初はスープと合わないと思ったが、食べ進めていくと、この組み合わせでいいと思った。
ホテルパコ釧路は幣舞橋の近くにあるのだが、釧路に来たら寄る店がある。「仏蘭西茶館」である。
私は繁華街を通る。街にはサラリーマンらが繰り出していて、「俺はあした仕事だ」「私はあした休み」とかしゃべっている。私は哀しいことに、明日も明後日も、その先も休みの予定だ。
ビルの地下1階に、仏蘭西茶館は健在だった。最近はお気に入りの店がどんどん廃業していくので、こちらもビクビクしてしまう。
店内に客はいなかったが、カウンターには行きづらく、奥のテーブル席に座る。店内はレンガ造りで、雰囲気がある。今日は中田章道八段似のマスターが店に出ていた。昔はママさんがやっていたが、もう10年近く、見ていない。年齢的にもしものことがあるので、マスターにはあえて聞かないけれど。
私はブレンドコーヒー(500円)を頼む。7年前はケーキの類もあったのだが、それらはなくなっていた。
ブレンドコーヒーが運ばれてきた。私が20代に訪れた時は400円だったから、消費税も考慮すると、ほとんど値上げしていない。これを企業努力という。ただ、ミルクはテーブルにある市販のものに変わった。以前は店お手製のホイップクリームだった。
店内には越路吹雪のシャンソンが流れている。コーヒーは、私のようなバカ舌にでも、一味違う美味さを感じる。あああ、何という贅沢なひとときなのだろう。
一人旅と思しき女性が入店した。どこで情報を仕入れたのだろう、客が入るのはいいことである。さらに地元と思しきカップルも入店した。
上質な時間を堪能して、私は店を出た。すると「お客さん!」と声。マスターで、手にカメラキャップを持っていた。私が店に忘れてきてしまったのだ。あぶないところだった。
ホテルパコ釧路にチェックインする。今旅行初のホテルである。我が538号室は、2人部屋だった。今後も泊まることはないだろう部屋で、とりあえずありがたい。しかし、使わないベッドを汚しちゃいけないと行動が慎重になったりして、結局は縮こまって過ごしてしまう。私は生来の貧乏性である。
明日のホテルを検索する。スーパーホテル旭川が4,000円だったが、とりあえず保留しておく。何しろ明日は最後の宿泊だ。性急に決めたら楽しみがなくなる。
温泉は、いい湯だった。
翌11日(火・祝)。今日は釧網本線乗車がメインである。早朝にチェックアウトし、とりあえず、朝の幣舞橋に出掛ける。道東四季の像は、昨晩と趣を異にして、やはり見応えがあった。

▲「春」船越保武

▲「夏」佐藤忠良

▲「秋」柳原義達

▲「冬」本郷新
私は和商市場に行く。ここは場内に美味い寿司を食べさせてくれる寿司屋がある。昔食べた時はタコの卵があったりして、10カンで2,000円だった。今回も朝から奮発するつもりだった。
が、市場に入ると、その寿司屋は廃業していた。

私は絶句し、場内をまわる。店内はお菓子屋に転業したところもあり、微妙に雰囲気が変わっていた。
私みたいな風貌はいいカモに見えるから、店の人にすぐ話し掛けられる。それでちょっとおしゃべりすると、もう何か買わなければいけない雰囲気になる。それがイヤだ。
ある店に寄ったが、ここのタラコが美味そうだった。発送もやっているらしいが、送れば割高になってしまう。そもそも、こうした市場は観光客用で、商品自体もそれほど安くないのではないか?
その先には勝手丼のコーナーがあるが、ひとりで勝手丼を造っても虚しいだけだ。
私はほかもあたってみる。そこはトキシラズが美味そうだった。
結局私はそれぞれの店で数点買い、後者の店で一括して発送することにした。結果、意味不明の加算料金があったりして、総額8,864円。無職のくせに、大変な散財をしてしまった。
その反動というわけではないが、朝食は市場内の店の、500円のたまごかけごはん定食とした。
08時57分発の快速しれとこ摩周号に乗る。車内はけっこうな込み具合で、ボックスシートに座れなかったが、しょうがない。

列車は釧路湿原の中を静かに走る。今日は休日なので、同じ路線を「SL冬の湿原号」が走るのだが、釧路11時05分発である。私は明日の夜に帰京しなければならないので、さすがに見送らざるを得なかった。
列車は一応快速だが、ほとんどの駅を律義に止まる。ここは観光路線なので、高速で走り抜けるのはヤボである。
知床斜里、11時11分着。大昔はここから12.8キロ先の越川まで根北線が伸びていたが、1970年に廃止された。
ちなみに越川の先にある越川橋梁は登録有形文化財で、私も見に行ったことがある。だが現在は路線バスも廃止され、いまの私では、もう巡ることができない。
ところで釧網本線は別名「グルメ路線」と呼ばれており、駅直結の食事処がいくつかある。知床斜里から先は、止別「駅馬車」(ラーメン屋)、浜小清水「道の駅・葉菜野花(はなやか)」、藻琴「食事&喫茶 トロッコ」などである。
ただ鉄道旅行の悲しさ、途中下車してしまうと、次の列車がなかなか捕まえられない。たとえば次の定期列車は、知床斜里発16時33分である。この待ち時間は、まるで広尾線だ。
だが私は、11時38分、北浜で降りた。
(つづく)