駅前の氷像を3日ぶりに拝見したあと、「コートホテル旭川」に旅装を解いた。そのチェックインの際、新型コロナウイルスに関する渡航状況などのアンケートを受けた。もはやコロナウイルスは、中国だけのものではないのだ。
我が615号室はもちろんそれなりの部屋で、2,150円をはるかに超える価値があった。
翌12日(水)。2020年冬の北海道旅行も、今日が最終日である。帰りの飛行機は19時30分で、道内での活動時間は意外に短い。よって、便を翌日にズラしたり、あるいは今夜、さらに遅い便にしたりもできたのだが、面倒臭くなって何もしなかった。
さて、今日はJRバス深名線に乗りたいと思う。もはや毎年の恒例で、名寄の「なよろ雪質日本一フェスティバル」は終わってしまったが、バスは秘境地区をたっぷり走るし、せいわ温泉ルオントもある。何より、わがフリーきっぷは、JRバスにも乗れるのだ!!
対抗案としては、深川から留萌本線に乗り、旧増毛(ましけ)駅まで行き、駅の鑑賞と増毛(ぞうもう)祈願、さらに海鮮三昧という手はある。
しかし、留萌ー増毛間でバス料金がかかるのが気に入らない。しかも増毛からの帰りも、下手をすると高速バスを使う羽目になるかもしれない。
結局、やや保守的ではあるが、深名線探訪を選んだのだった。
早暁5時30分に起き、早々にチェックアウトする。稚内行きの普通列車は06時03分(一番列車)である。温泉に入るだけなら深川から乗って往復する手もあるが、深名線を全線走破するなら、朝に名寄から乗るしかないのだ。
列車には、ほとんど乗客がいなかった。始発で名寄に行く客はなかなかいまい。
適度にウトウトしながら車窓を愛で、07時45分、名寄に着いた。駅舎は風格のある佇まいである。宗谷本線の中で、音威子府駅に並ぶ名駅舎と思う。
深名線は08時53分である。JRからバスに転換された当初は、バスの本数が鉄道時代の倍になったたが、年とともに漸減され、現在名寄発のバスは4本である。しかもこの08時53分発は、土休日運休である。この便に乗れること自体、奇跡なのだ。
駅前には新設なった名寄バスターミナルの待合室があるのだが、そこで1時間も待つ気はしない。
食事処が欲しいが、頼みの「ブラジル」は9時開店だ。
スマホを繰ると、市内にすき家があるらしい。その場所が分からないが、旭川方面の国道沿いにありそうだ。時間に余裕はあるので、そこに行くことにした。
とはいえ、雪が舞う平日の朝に、牛丼屋に向かう無職男。私は何をやってるんだろう。
途中、ある建物を通った。このグラウンドで「なよろ雪質日本一フェスティバル」が行われたのだが、建物の正式名称は、「名寄市地域子育て支援センター・ひまわりらんど」といった。以前は違う名称だったが、いつ変わったのだろう。
しばらく歩くと、すき家が見えた。昨夜のセイコーマートではないが、殺風景な景色の中になじみの風景を見つけるとホッとする。
店内は意外にも、客が多かった。私は牛丼を頼む(350円)。3日ぶりの牛丼は美味かった。
バスには、名寄駅のひとつ先、西3条南6丁目から乗る。が、停留所に来たバスを見て驚いた。
バスが、変わっている!! その辺によくある、安っぽいバス(失礼)に変わっていたのだ。
私はあんぐりして乗車する。従来のJR深名線代替バスは、車体が高く、リクライニングが利き、トイレも付いている、観光用の大型バスだった。その高級感に、私は鉄道廃止による怒りを鎮めたのだ。
然るにこのバスはなんだ⁉ こんなふつうのバスじゃ、旅情などあったものではない。
JR深名線が廃止されたのは1995年。その時新品だったバスも、25年経てば廃車であろう。たぶん、代替わりしたのだ。そしてこのローカル路線に予算を振り分けられるはずもなく、グレードの低いバスがあてがわれた……。
乗客は私ひとりで、貸切である。車内は十勝バスに似ていて、深名線の感じがしない。
バスはシュルシュルと山道を走る。エンジン橋前を通った。このあたりは深い森が一望でき、バス深名線の車窓の中で、最も好きである。
10時29分、私は「ルオント前」のひとつ前の、「政和」で降りた。前の道路は国道275号で、札沼線に並行して走っていた道路の続きである。
今日は平日なので、旅行貯金ができるのだ。政和で貯金をした記憶が定かでないが、仮にダブっていても、旅行貯金規則第3項により、この場合は構わない。
近くには政和駅舎が残っているはずだが、気分的に探す気になれない。
また駅舎の手前には「幌加内町開基七十周年」の記念塔があったが、数年前に撤去された。これが健在なら、駅を探したと思う。
それより郵便局である。あたりに「〒」のマークがないので、民家のベルを鳴らし、在処を聞いてみた。4日前の「充電のお願い」もそうだが、私はかなり地元民にお世話になっている。
すると郵便局は、私が降りたバス停に隣接する、コミュニティーセンター内にあるとのことだった。
郵便局に行くと、誰もいない。ふだん、客など来ないのだろう。幸福簡易郵便局でも、最初は窓口に誰もいなかった。
やがて奥から慌て気味に、委託の女性が出てきた。
「政和簡易郵便局」212円。
「こちらへは……」
と、係の女性。
「はい、旅行です。この辺りはほぼ毎年来ています。私いま休職中で、旅行期間を延ばして、今日来ることができました」
「ああそれはそれは! じゃあこのあとは……」
「はい、その先のルオントに入って、今夜東京に帰ります」
「あら……。いま、ルオント温泉は工事で休みですよ」
「は!?」
聞くと、ルオントは昨年11月からリニューアル工事中で、この4月まで休みだという。私は久しぶりにひっくり返った。
それじゃあ、ここへ来た意味がほとんどない。こんなことなら、対抗の留萌本線に乗ってりゃよかった!!
だが今は、ルオント温泉に向かうしかない。ここからはゆっくり歩いても、30分で着く。
ルオント前停留所に着くと、ルオント温泉の建物へは、一般車両が進入禁止になっていた。まあ、そうであろう。
万事休すである。
(つづく)
我が615号室はもちろんそれなりの部屋で、2,150円をはるかに超える価値があった。
翌12日(水)。2020年冬の北海道旅行も、今日が最終日である。帰りの飛行機は19時30分で、道内での活動時間は意外に短い。よって、便を翌日にズラしたり、あるいは今夜、さらに遅い便にしたりもできたのだが、面倒臭くなって何もしなかった。
さて、今日はJRバス深名線に乗りたいと思う。もはや毎年の恒例で、名寄の「なよろ雪質日本一フェスティバル」は終わってしまったが、バスは秘境地区をたっぷり走るし、せいわ温泉ルオントもある。何より、わがフリーきっぷは、JRバスにも乗れるのだ!!
対抗案としては、深川から留萌本線に乗り、旧増毛(ましけ)駅まで行き、駅の鑑賞と増毛(ぞうもう)祈願、さらに海鮮三昧という手はある。
しかし、留萌ー増毛間でバス料金がかかるのが気に入らない。しかも増毛からの帰りも、下手をすると高速バスを使う羽目になるかもしれない。
結局、やや保守的ではあるが、深名線探訪を選んだのだった。
早暁5時30分に起き、早々にチェックアウトする。稚内行きの普通列車は06時03分(一番列車)である。温泉に入るだけなら深川から乗って往復する手もあるが、深名線を全線走破するなら、朝に名寄から乗るしかないのだ。
列車には、ほとんど乗客がいなかった。始発で名寄に行く客はなかなかいまい。
適度にウトウトしながら車窓を愛で、07時45分、名寄に着いた。駅舎は風格のある佇まいである。宗谷本線の中で、音威子府駅に並ぶ名駅舎と思う。
深名線は08時53分である。JRからバスに転換された当初は、バスの本数が鉄道時代の倍になったたが、年とともに漸減され、現在名寄発のバスは4本である。しかもこの08時53分発は、土休日運休である。この便に乗れること自体、奇跡なのだ。
駅前には新設なった名寄バスターミナルの待合室があるのだが、そこで1時間も待つ気はしない。
食事処が欲しいが、頼みの「ブラジル」は9時開店だ。
スマホを繰ると、市内にすき家があるらしい。その場所が分からないが、旭川方面の国道沿いにありそうだ。時間に余裕はあるので、そこに行くことにした。
とはいえ、雪が舞う平日の朝に、牛丼屋に向かう無職男。私は何をやってるんだろう。
途中、ある建物を通った。このグラウンドで「なよろ雪質日本一フェスティバル」が行われたのだが、建物の正式名称は、「名寄市地域子育て支援センター・ひまわりらんど」といった。以前は違う名称だったが、いつ変わったのだろう。
しばらく歩くと、すき家が見えた。昨夜のセイコーマートではないが、殺風景な景色の中になじみの風景を見つけるとホッとする。
店内は意外にも、客が多かった。私は牛丼を頼む(350円)。3日ぶりの牛丼は美味かった。
バスには、名寄駅のひとつ先、西3条南6丁目から乗る。が、停留所に来たバスを見て驚いた。
バスが、変わっている!! その辺によくある、安っぽいバス(失礼)に変わっていたのだ。
私はあんぐりして乗車する。従来のJR深名線代替バスは、車体が高く、リクライニングが利き、トイレも付いている、観光用の大型バスだった。その高級感に、私は鉄道廃止による怒りを鎮めたのだ。
然るにこのバスはなんだ⁉ こんなふつうのバスじゃ、旅情などあったものではない。
JR深名線が廃止されたのは1995年。その時新品だったバスも、25年経てば廃車であろう。たぶん、代替わりしたのだ。そしてこのローカル路線に予算を振り分けられるはずもなく、グレードの低いバスがあてがわれた……。
乗客は私ひとりで、貸切である。車内は十勝バスに似ていて、深名線の感じがしない。
バスはシュルシュルと山道を走る。エンジン橋前を通った。このあたりは深い森が一望でき、バス深名線の車窓の中で、最も好きである。
10時29分、私は「ルオント前」のひとつ前の、「政和」で降りた。前の道路は国道275号で、札沼線に並行して走っていた道路の続きである。
今日は平日なので、旅行貯金ができるのだ。政和で貯金をした記憶が定かでないが、仮にダブっていても、旅行貯金規則第3項により、この場合は構わない。
近くには政和駅舎が残っているはずだが、気分的に探す気になれない。
また駅舎の手前には「幌加内町開基七十周年」の記念塔があったが、数年前に撤去された。これが健在なら、駅を探したと思う。
それより郵便局である。あたりに「〒」のマークがないので、民家のベルを鳴らし、在処を聞いてみた。4日前の「充電のお願い」もそうだが、私はかなり地元民にお世話になっている。
すると郵便局は、私が降りたバス停に隣接する、コミュニティーセンター内にあるとのことだった。
郵便局に行くと、誰もいない。ふだん、客など来ないのだろう。幸福簡易郵便局でも、最初は窓口に誰もいなかった。
やがて奥から慌て気味に、委託の女性が出てきた。
「政和簡易郵便局」212円。
「こちらへは……」
と、係の女性。
「はい、旅行です。この辺りはほぼ毎年来ています。私いま休職中で、旅行期間を延ばして、今日来ることができました」
「ああそれはそれは! じゃあこのあとは……」
「はい、その先のルオントに入って、今夜東京に帰ります」
「あら……。いま、ルオント温泉は工事で休みですよ」
「は!?」
聞くと、ルオントは昨年11月からリニューアル工事中で、この4月まで休みだという。私は久しぶりにひっくり返った。
それじゃあ、ここへ来た意味がほとんどない。こんなことなら、対抗の留萌本線に乗ってりゃよかった!!
だが今は、ルオント温泉に向かうしかない。ここからはゆっくり歩いても、30分で着く。
ルオント前停留所に着くと、ルオント温泉の建物へは、一般車両が進入禁止になっていた。まあ、そうであろう。
万事休すである。
(つづく)