上川は「かみかわ」と読む。私は上川(うえかわ)香織女流二段のファンなので、この駅も好きである。
道北バスの停留所名は「上川森のテラスバスタッチ」に変わっていた。次の層雲峡行きは16時00分になっている。だが時刻表には「15時55分」とあったから、不安になってしまう。
スマホでコートホテル旭川を見ると、空き部屋の料金が上がっていた。私はよせばいいのに、ホテルに電話を掛ける。すると女性スタッフが出た。
「さっき予約をした者なんですが、料金が2,150円とずいぶん安くなってて……。いまは料金が普通に戻ってたんで、あの、もしさっきのがそちらの手違いだったら、予約を取りやめましょうか?」
このバカ正直さが私の世渡り下手なところである。しかしスタッフは、
「ありがとうございます。たまたま料金が安くなったタイミングで、お客様が予約をされたのだと思います。もちろんそのお値段で結構ですので、ぜひお越しください」
と言った。私はこれで心置きなく、ホテルに行ける。
結局バスは16時ちょうどに発車し、タイム30分で、終点層雲峡に着いた。
ここから2、3分下ったところが「氷瀑まつり」会場だが、その前に温泉に浸かりたい。
私は隣接の観光案内所に行くと、「黒岳の湯」を勧めてくれた。しかも100円の割引券付きで、500円で入れる。ああそういえば、以前もそこに入った気がする。たしかそのあと、食事をする時間がなかったのだ。
地図を確認しながら、黒岳の湯に着いた。お湯は、大浴場が2つあり、快適だった。
ただ、階上の露店風呂は、雪が舞う氷点下ということもあり、ぬるかった。でもこれなら長時間浸かれる、ということでもある。
体があったまって、私はいい気分で氷瀑まつり会場に行く。ここは入場料を取るが、500円だった。以前は300円だったから、随分な値上げだ。でも、そもそも前回ここに来たのは何年前だったか。2013年ごろに来ているが、その後1回くらいは来ているだろう。だがその事実がなければ、前回の記憶は2013年ごろのみのものになる。それにしては記憶が鮮明だ。
今回は甘酒の無料券が付いていた。入場すると、無料で記念写真を撮ってくれた。「極寒証明書」の隅に、我が姿プリントされている。これの大判になると、有料だという。
ためしに値段を聞いてみると、1,200円、というので購入はやめた。
改めて氷爆まつりの作品だが、あたりに放水すると、夜中の極寒で水が凍る。その行為を繰り返すことで、芸術的な造形ができるのだ。細かい細工は必要ないので、開催期間も長い。
あたりはとっくに夜の帳が下り、氷爆は綺麗にライトアップされ、見応え十分である。ただこれらは大人数でワイワイしながら巡るのがいいのであって、野郎ひとりで巡ったって楽しくはない。
巨大なドームに入ると、壁面に、人型に抜かれた箇所があった。そこに人間がピッタリ嵌まり、宇宙遊泳もどきになるということだ。これも2人以上で楽しむもので、私がひとりで窮屈そうに嵌まったって、面白くもなんともない。
「氷爆神社」があり、奥には「神玉」が鎮座していた。お賽銭が投げられ、神玉様にピッタリ張り付いている。
広場に出ると、その一角をプロジェクターが照らしていた。5メートル四方の大きさで、いまは紅葉が映っている。その中に入ってはいけない雰囲気だが、試しに踏み込んでみると、落ち葉が私の足に反応し、無言?でサーッと動いた。
私は大発見をした気がして誰かに教えたいのだが、あたりには誰もいない。ひとり旅の虚しさである。
体が冷えたので、売店(休憩所)に入る。外気と内気の差が激しく、メガネが一瞬にして曇る。メガネ小僧の宿命である。
無料の甘酒は、美味かった。
私は表に出て、また氷像を巡る。そろそろバスの時間になり、私はバス停に戻った。
背後の観光案内所は、もう営業を終了して真っ暗である。あたりは暗く、遠くに氷爆まつりの灯りが見えるのみ。次のバスは最終で、18時40分である。時刻表に何やら注意書きがあるが、「3月31日まで運行」だった。このバスが運休だとエライことだ。
しかしこうしてバスを待っていると、ロクなことを考えない。世間のビジネスマンはバリバリに働いているのに、私は何をやっているのか。
今年に入ってから、職安で申し込んでも電話口で断られることが多くなった。履歴書を送る運びになっても不採用ばかりで、面接までも行けやしない。
どこからどう見ても私の将来は真っ暗で、一見楽しそうな北海道旅行でも、内実は哀切漂う現実逃避に過ぎない。
18時40分のバスの乗客は、私ひとりだった。行きと同じタイム30分で、上川に着いた。
次の上りは20時36分発の特急オホーツク4号で、上りはこれが最終である。
さて、晩飯である。上川駅前は意外にひっそりしていて、食事処もない。それでも一本向こうの道に行くと、いくつか食事処があった。
しかし事前に調べていたラーメン屋は休みだった。あたりには「上川町ラーメン日本一」のペナントがたなびいており、町をあげてラーメンを押しているのが分かる。
しかし、ほかにラーメン専門店がない。ほかの食堂も、いまひとつ主張がない。上川一帯はもう、閉店時刻なのではあるまいか。
「きよし食堂」なるところがあったので、入ってみた。ちょうど家族連れが出ていくところで、タイミング的には、もう閉店の雰囲気だ。
私は確認したが、食事は可能だったので、お邪魔する。ただ、食堂でラーメンを食べる気は起きず、カツ丼(900円)を注文した。
カツ丼は量も多く、美味かった。いやこれなら、ラーメンも美味いものを食べさせてくれたのではないか?
私は店を出ると、セイコーマートに寄った。あたりが真っ暗な中でのコンビニはオアシスの存在だと思う。私は缶コーヒーを買った。
上川駅に入ると、「石北線(線区の現状について)」のリーフレットがあった。中を見ると、1日1kmあたりの平均輸送人員が、1975年には4,357人だったのに、2018年には844人と、5分の1になっていた。赤字額は2018年で44億2千万円。もはや個人の協力ではどうしようもなくなっている。
私は20時36分の特急に乗った。今日の最終ランナーである。足元を見るとコンセントがあり、ありがたく使わせていただいた。
21時14分、旭川着。この地に3日ぶりに帰ってきた。
(つづく)
道北バスの停留所名は「上川森のテラスバスタッチ」に変わっていた。次の層雲峡行きは16時00分になっている。だが時刻表には「15時55分」とあったから、不安になってしまう。
スマホでコートホテル旭川を見ると、空き部屋の料金が上がっていた。私はよせばいいのに、ホテルに電話を掛ける。すると女性スタッフが出た。
「さっき予約をした者なんですが、料金が2,150円とずいぶん安くなってて……。いまは料金が普通に戻ってたんで、あの、もしさっきのがそちらの手違いだったら、予約を取りやめましょうか?」
このバカ正直さが私の世渡り下手なところである。しかしスタッフは、
「ありがとうございます。たまたま料金が安くなったタイミングで、お客様が予約をされたのだと思います。もちろんそのお値段で結構ですので、ぜひお越しください」
と言った。私はこれで心置きなく、ホテルに行ける。
結局バスは16時ちょうどに発車し、タイム30分で、終点層雲峡に着いた。
ここから2、3分下ったところが「氷瀑まつり」会場だが、その前に温泉に浸かりたい。
私は隣接の観光案内所に行くと、「黒岳の湯」を勧めてくれた。しかも100円の割引券付きで、500円で入れる。ああそういえば、以前もそこに入った気がする。たしかそのあと、食事をする時間がなかったのだ。
地図を確認しながら、黒岳の湯に着いた。お湯は、大浴場が2つあり、快適だった。
ただ、階上の露店風呂は、雪が舞う氷点下ということもあり、ぬるかった。でもこれなら長時間浸かれる、ということでもある。
体があったまって、私はいい気分で氷瀑まつり会場に行く。ここは入場料を取るが、500円だった。以前は300円だったから、随分な値上げだ。でも、そもそも前回ここに来たのは何年前だったか。2013年ごろに来ているが、その後1回くらいは来ているだろう。だがその事実がなければ、前回の記憶は2013年ごろのみのものになる。それにしては記憶が鮮明だ。
今回は甘酒の無料券が付いていた。入場すると、無料で記念写真を撮ってくれた。「極寒証明書」の隅に、我が姿プリントされている。これの大判になると、有料だという。
ためしに値段を聞いてみると、1,200円、というので購入はやめた。
改めて氷爆まつりの作品だが、あたりに放水すると、夜中の極寒で水が凍る。その行為を繰り返すことで、芸術的な造形ができるのだ。細かい細工は必要ないので、開催期間も長い。
あたりはとっくに夜の帳が下り、氷爆は綺麗にライトアップされ、見応え十分である。ただこれらは大人数でワイワイしながら巡るのがいいのであって、野郎ひとりで巡ったって楽しくはない。
巨大なドームに入ると、壁面に、人型に抜かれた箇所があった。そこに人間がピッタリ嵌まり、宇宙遊泳もどきになるということだ。これも2人以上で楽しむもので、私がひとりで窮屈そうに嵌まったって、面白くもなんともない。
「氷爆神社」があり、奥には「神玉」が鎮座していた。お賽銭が投げられ、神玉様にピッタリ張り付いている。
広場に出ると、その一角をプロジェクターが照らしていた。5メートル四方の大きさで、いまは紅葉が映っている。その中に入ってはいけない雰囲気だが、試しに踏み込んでみると、落ち葉が私の足に反応し、無言?でサーッと動いた。
私は大発見をした気がして誰かに教えたいのだが、あたりには誰もいない。ひとり旅の虚しさである。
体が冷えたので、売店(休憩所)に入る。外気と内気の差が激しく、メガネが一瞬にして曇る。メガネ小僧の宿命である。
無料の甘酒は、美味かった。
私は表に出て、また氷像を巡る。そろそろバスの時間になり、私はバス停に戻った。
背後の観光案内所は、もう営業を終了して真っ暗である。あたりは暗く、遠くに氷爆まつりの灯りが見えるのみ。次のバスは最終で、18時40分である。時刻表に何やら注意書きがあるが、「3月31日まで運行」だった。このバスが運休だとエライことだ。
しかしこうしてバスを待っていると、ロクなことを考えない。世間のビジネスマンはバリバリに働いているのに、私は何をやっているのか。
今年に入ってから、職安で申し込んでも電話口で断られることが多くなった。履歴書を送る運びになっても不採用ばかりで、面接までも行けやしない。
どこからどう見ても私の将来は真っ暗で、一見楽しそうな北海道旅行でも、内実は哀切漂う現実逃避に過ぎない。
18時40分のバスの乗客は、私ひとりだった。行きと同じタイム30分で、上川に着いた。
次の上りは20時36分発の特急オホーツク4号で、上りはこれが最終である。
さて、晩飯である。上川駅前は意外にひっそりしていて、食事処もない。それでも一本向こうの道に行くと、いくつか食事処があった。
しかし事前に調べていたラーメン屋は休みだった。あたりには「上川町ラーメン日本一」のペナントがたなびいており、町をあげてラーメンを押しているのが分かる。
しかし、ほかにラーメン専門店がない。ほかの食堂も、いまひとつ主張がない。上川一帯はもう、閉店時刻なのではあるまいか。
「きよし食堂」なるところがあったので、入ってみた。ちょうど家族連れが出ていくところで、タイミング的には、もう閉店の雰囲気だ。
私は確認したが、食事は可能だったので、お邪魔する。ただ、食堂でラーメンを食べる気は起きず、カツ丼(900円)を注文した。
カツ丼は量も多く、美味かった。いやこれなら、ラーメンも美味いものを食べさせてくれたのではないか?
私は店を出ると、セイコーマートに寄った。あたりが真っ暗な中でのコンビニはオアシスの存在だと思う。私は缶コーヒーを買った。
上川駅に入ると、「石北線(線区の現状について)」のリーフレットがあった。中を見ると、1日1kmあたりの平均輸送人員が、1975年には4,357人だったのに、2018年には844人と、5分の1になっていた。赤字額は2018年で44億2千万円。もはや個人の協力ではどうしようもなくなっている。
私は20時36分の特急に乗った。今日の最終ランナーである。足元を見るとコンセントがあり、ありがたく使わせていただいた。
21時14分、旭川着。この地に3日ぶりに帰ってきた。
(つづく)