北浜駅はオホーツク海にいちばん近い駅として知られる。また駅舎内には「停車場」というレストランがあり、鉄道利用者以外の利用も多い。
ここ北浜で降りてしまうと次の列車は17時00分。網走行きの路線バスも適当なものがなく途中下車は不可のようだが、時刻表の臨時列車のページに、「流氷物語号」があった。この「2号」が北浜12時16分発、網走12時30分着なのだ。途中下車を考えていた私にはうってつけの列車で、ありがたく下車したというわけだった。
私はまず、停車場に入る。ここはチョビ髭のマスターが美味い洋食を食べさせてくれる。オホーツク海を眺めながらコーヒーを味わうのもよく、私も何度かお邪魔している。
しかし今回は「12時30分から貸切です」の張り紙があった。まだ入店はセーフだろうか。
店に入ると、カウンターに促された。何となく慌ただしい雰囲気だったので、すぐ用意できそうなチキンカレー(800円)にした。
マスターのほかには、女性店員が2人。3人ともキビキビと動いて小気味いい。やはりヒトは働かねばならぬ。
その女性が、食べ終わった客のお皿をすぐ下げる。私はすごくイヤな予感がした。
出されたチキンカレーは美味い。ただ、例の女性が私の皿を下げようと窺っている気配がする。
私の左ではコーヒーを飲んでいる男性客がいたが、カップが空になると同時に下げられ、男性客は必然的にお会計となった。
「私、ここに来るのは数年ぶりなんです。久しぶりに来られて感激しました」
男性客は、逆に女性店員に話し掛ける。よくできた人物で、私なら気分を害し、黙って出ていくだろう。
私はカレーを食べ終えたが、別の女性店員が、お新香をサービスでくれた。それを食べ終えるや否や、さっきの女性が皿を下げた。
これを「残心がない」という。私が高校生の時、将棋の大会の帰りに、将棋部のみなでラーメン屋に入った。私が麺を食べ終わってスープを飲もうかという時、店の女性がもうドンブリを下げてしまった。私(たち)は大いに気分を害し、もうこの店には入ってやるものかと思ったものだ。
「停車場」はどうしようか。
店を出ると、線路のすぐ向こうにあるオホーツク海が綺麗だった。細かい流氷が接岸していて、真っ白な光景が美しい。
目障りなのが波打ち際に設置されているフェンスだが、あれは昔はなかった。ただあれがないと線路を越えて海に入るバカが出て、やむを得ないのだろう。現在はホームに警備員も据えて、一層の強化を図っている。JR北海道もお金はないが、かけるところにはかけているのだ。
ホーム脇の展望台に登って観ると、なお景色がよい。私は何枚か写真を撮り、モニターで確認する。絞り優先にしているからか、画面が白っちゃけているので、びっくりした。
あまりここに佇んでいると、カップルのカメラマン役にされかねないので、適当なところでホームに降りる。
12時16分、流氷物語号が到着した。車体はブルー主体の2両編成だ。乗車すると、デッキのところにグッズが販売されており、地域の人が法被を着て、接客していた。
JR北海道は、人間でいえば瀕死の重体というところである。一部の路線以外はどこが廃線になってもおかしくなく、ここ釧網本線も例外ではない。それだけに、臨時列車を設けて路線を盛り上げようとする地元の方の熱意には、頭が下がるのである。
私はこの列車に助けられたので、お礼の意味も込めて、流氷物語号記念乗車カード(100円)と、釧網本線缶バッジセット(500円)を購入した。
網走着12時30分。次に乗るべきは石北本線12時35分の特急大雪4号である。こんなドンピシャな乗り換えが出来ては、悪いが、網走は素通りである。
列車は1番ホームで待機しており、4号車の自由席はガラガラだったが、私は改札を抜けた。シートがグレードアップされているであろう指定席を発券してもらうためだ。
だが窓口氏は、指定席の窓際の席はないという。それで通路側の席にしてもらったが、それは横に客がいるということか?
私は指定席の1号車に入る。意外に乗客が多いのにびっくりした。これなら自由席に行って伸び伸びしたほうがはるかによい。
とりあえず「12C」に座る。幸い隣に客はおらず、大雪4号は発車した。
この石北本線も過疎地帯を通り、大赤字である。一応本線の名は冠しているが、ローカル線の趣が漂う。
留辺蘂を過ぎ、常紋トンネルに入った。1912年着工、1914年に開通した全長507mのトンネルだが、掘削はおもに本州の囚人が行い、その過酷な労働から100人以上の死者を出したといわれる。付近のトンネルには亡くなった囚人の人柱もあったとされ、いろいろと謂れのあるトンネルなのだ。
私たちがこの山深き道を苦もなく通り過ぎることができるのは、これら労働の方々のお蔭である。私はしみじみと感謝した。
列車は遠軽に着いた。ここで進行方向が逆になる。1989年まで名寄本線(旧湧別軽便線)が通じており、そちらが路線の先輩格だったため、あとからできた石北本線は、ここでスイッチバックを余儀なくされる羽目になった。
まだ隣に客は来ていないが、もうこの席はいい。私はホームに出ると、反対側の自由席車両に移った。もちろん乗客はいたが、パラパラだった。まあそうであろう。
私は任意の席に座り、一安心である。
列車は進行方向を変え、15時01分、白滝着。この前後の数駅はいわゆる秘境駅で、数年ごとに廃駅となり、現在、白滝の次の駅はもう上川である。所要時間は39分、営業キロは実に37.8キロに達する。
私は今宵の宿を探すべく、スマホを繰る。明日はJRバス深名線に乗りたいが、始発の名寄周辺にはヒットするホテルがない。いやそもそも、これから石北本線上でもう1ヶ所観光してしまうと、今日中に名寄まで着けないのだった。
それで旭川の宿を探すと、「コートホテル旭川」が、1,950円(税別)という理解不能な料金だった。私はすぐ予約をし、無事完了した。無職の私にはありがたいが、あまりにも安すぎて不安を覚える。何かの間違いじゃないのか??
15時40分、上川着。ここで私は下車する。いまさらだが、氷瀑まつりに行こうと思う。
(つづく)