第10期女流王座戦が開幕した。皮切りは16日（土）の一次予選である。
予選には予選の楽しみがあり、たとえば上田初美女流四段VS香川愛生女流三段戦は、この位置でぶつかるのがもったいない好カードだ。
女流王座戦はいつも絶妙のカードが組まれていて、本当に厳正な抽選をやっているのかいな？ という疑問は沸くのだが、それはまた別の話。
今回私が注目するのは上川香織女流二段VS田中沙紀女流３級戦だった。
田中女流３級は2018年６月１日デビュー。旧規定から最後の「女流３級」だ。ただ女流３級は仮免なので、２年以内に女流２級に昇級しないと、研修会戻りとなる。
注目の成績は、第１期清麗戦で中井広恵女流六段に勝ったりしたが、総じてパッとしなかった。そして早くも２年近くが経ち、この女流王座戦が、女流２級昇級のラストチャンスとなってしまった（５月開幕予定のYAMADA女流チャレンジ杯は措いておく）。
ちなみに、この11月18日に26歳になる田中女流３級は、仮に研修会に戻っても年齢制限にひっかかる可能性がある。すなわち、この女流王座戦で本戦トーナメント入りするしか道はないのだ。
１回戦の上川女流二段には、３月25日の倉敷藤花戦で負けている。だがまったく勝てない相手ではない。田中女流３級が落ち着いて指せば、勝てるチャンスは十分にあると思った。
将棋は先手上川女流二段の三間飛車。田中女流３級は舟囲いという懐かしい形。現代では敬遠されている弱々しい囲いだが、あえて逆の指し方をいく姿勢を、私は買う。
△４三銀から、△４五歩～△４四銀右とし、△６三金と上がる。田中女流３級の将棋を見るのは初めてだが、大上段に構える指し方は私のそれによく似ていて、とても好感を持った。
中盤、上川女流二段が▲２四銀と進出したが、これには△５五にいる角が△４六角と出れば、王手銀取りで駒得となる。
しかし田中女流３級は△２三歩。これでも銀は取れるが、▲３三歩と打たれてやや紛れた。
ただそれでも田中女流３級の優位に変わりはなく、これは田中女流３級が勝ったと思った。
だが上川女流二段も妖しく迫り、気が付けば上川女流二段が勝勢になっていた。
ああそういう展開か、と私は思った。「いい将棋を作っても勝ちきれない」は、誰しも味わったことがある感慨だろう。
図で、▲４三とくらいでも先手勝勢らしい。
だが実戦は▲３二同竜！ 上川女流二段は詰ましにいった。だが後手陣は△７七馬が遠く利き、わずかに詰まない。これでは逆転である。以下いくばくもなく、田中女流３級の勝ちとなった。
私はうっかりしていた。「いい将棋を勝ちきれない」は、上川女流二段にも当てはまっていたのだ。
だがこれも、田中女流３級が悪いながらも、相手陣の嫌味を衝いていたからだ。だから上川女流二段も焦って詰ましに行った。「負け将棋も一手違いに指せ。しからば勝つ順あり」は小野五平十二世名人の言葉だが、まさに至言である。
２回戦の相手は、藤田綾女流二段。藤田女流二段も強いが、やはり勝てない相手ではない。
将棋は藤田女流二段の後手三間飛車に、田中女流３級の舟囲い→▲４七金。田中女流３級はこの布陣が得意形のようだ。
中盤、藤田女流二段が△５五歩と突きだす（第１図）。これに▲５五同銀は△５四歩。▲６五銀も△６四歩。▲５五同角は△同角▲同銀△３八角。つまりどうやっても先手不利で、私ならしばらく考えて投げているところだ。
どうするかと見ていると、田中女流３級は▲５五同銀。しかし△５四歩で銀が死んだ。が、ここで▲３五歩が好手。なるほど「攻めるは守るなり」か。以下△同飛▲４四銀で、以降の見通しはともかく、死にそうな銀が捌けた。
以下△同銀▲同角△３四飛▲７七角（第２図）と進み、ここで△３八銀がありそうだが、やはり▲４三銀の攻め合いがある。ここでも「攻めるは守るなり」だ。
それで藤田女流二段は△６六歩。以下▲３五歩△同飛▲３六歩△３四飛に、私だったら▲３五銀と飛車を殺して喜んでいるところだが、田中女流３級は▲５九飛。なるほど、△３八銀を避けてこれが本筋だ。
以下田中女流３級は藤田女流二段の猛攻を丁寧に受け、敵陣の一段目に玉を潜り、激戦を制した。
私は塚田正夫名誉十段の名言「勝つことはえらいことだ」が浮かんだ。田中女流３級、堂々の二次予選進出である。
以上２局を見て、田中女流３級は丁寧な受け将棋だと思った。将棋の中に大山康晴十五世名人の香りを感じたが、田中女流３級は名人の将棋を相当勉強しているのではあるまいか。
これで田中女流３級は、女流２級昇級まで「あと１」である。ほかの二次予選進出者もなかなか強いが、勝利の可能性は十分すぎるほどある。
問題は日程だが、連盟だって鬼ではない。二次予選の対局は、期限内として認めてくれると信じている。
予選には予選の楽しみがあり、たとえば上田初美女流四段VS香川愛生女流三段戦は、この位置でぶつかるのがもったいない好カードだ。
女流王座戦はいつも絶妙のカードが組まれていて、本当に厳正な抽選をやっているのかいな？ という疑問は沸くのだが、それはまた別の話。
今回私が注目するのは上川香織女流二段VS田中沙紀女流３級戦だった。
田中女流３級は2018年６月１日デビュー。旧規定から最後の「女流３級」だ。ただ女流３級は仮免なので、２年以内に女流２級に昇級しないと、研修会戻りとなる。
注目の成績は、第１期清麗戦で中井広恵女流六段に勝ったりしたが、総じてパッとしなかった。そして早くも２年近くが経ち、この女流王座戦が、女流２級昇級のラストチャンスとなってしまった（５月開幕予定のYAMADA女流チャレンジ杯は措いておく）。
ちなみに、この11月18日に26歳になる田中女流３級は、仮に研修会に戻っても年齢制限にひっかかる可能性がある。すなわち、この女流王座戦で本戦トーナメント入りするしか道はないのだ。
１回戦の上川女流二段には、３月25日の倉敷藤花戦で負けている。だがまったく勝てない相手ではない。田中女流３級が落ち着いて指せば、勝てるチャンスは十分にあると思った。
将棋は先手上川女流二段の三間飛車。田中女流３級は舟囲いという懐かしい形。現代では敬遠されている弱々しい囲いだが、あえて逆の指し方をいく姿勢を、私は買う。
△４三銀から、△４五歩～△４四銀右とし、△６三金と上がる。田中女流３級の将棋を見るのは初めてだが、大上段に構える指し方は私のそれによく似ていて、とても好感を持った。
中盤、上川女流二段が▲２四銀と進出したが、これには△５五にいる角が△４六角と出れば、王手銀取りで駒得となる。
しかし田中女流３級は△２三歩。これでも銀は取れるが、▲３三歩と打たれてやや紛れた。
ただそれでも田中女流３級の優位に変わりはなく、これは田中女流３級が勝ったと思った。
だが上川女流二段も妖しく迫り、気が付けば上川女流二段が勝勢になっていた。
ああそういう展開か、と私は思った。「いい将棋を作っても勝ちきれない」は、誰しも味わったことがある感慨だろう。
図で、▲４三とくらいでも先手勝勢らしい。
だが実戦は▲３二同竜！ 上川女流二段は詰ましにいった。だが後手陣は△７七馬が遠く利き、わずかに詰まない。これでは逆転である。以下いくばくもなく、田中女流３級の勝ちとなった。
私はうっかりしていた。「いい将棋を勝ちきれない」は、上川女流二段にも当てはまっていたのだ。
だがこれも、田中女流３級が悪いながらも、相手陣の嫌味を衝いていたからだ。だから上川女流二段も焦って詰ましに行った。「負け将棋も一手違いに指せ。しからば勝つ順あり」は小野五平十二世名人の言葉だが、まさに至言である。
２回戦の相手は、藤田綾女流二段。藤田女流二段も強いが、やはり勝てない相手ではない。
将棋は藤田女流二段の後手三間飛車に、田中女流３級の舟囲い→▲４七金。田中女流３級はこの布陣が得意形のようだ。
中盤、藤田女流二段が△５五歩と突きだす（第１図）。これに▲５五同銀は△５四歩。▲６五銀も△６四歩。▲５五同角は△同角▲同銀△３八角。つまりどうやっても先手不利で、私ならしばらく考えて投げているところだ。
どうするかと見ていると、田中女流３級は▲５五同銀。しかし△５四歩で銀が死んだ。が、ここで▲３五歩が好手。なるほど「攻めるは守るなり」か。以下△同飛▲４四銀で、以降の見通しはともかく、死にそうな銀が捌けた。
以下△同銀▲同角△３四飛▲７七角（第２図）と進み、ここで△３八銀がありそうだが、やはり▲４三銀の攻め合いがある。ここでも「攻めるは守るなり」だ。
それで藤田女流二段は△６六歩。以下▲３五歩△同飛▲３六歩△３四飛に、私だったら▲３五銀と飛車を殺して喜んでいるところだが、田中女流３級は▲５九飛。なるほど、△３八銀を避けてこれが本筋だ。
以下田中女流３級は藤田女流二段の猛攻を丁寧に受け、敵陣の一段目に玉を潜り、激戦を制した。
私は塚田正夫名誉十段の名言「勝つことはえらいことだ」が浮かんだ。田中女流３級、堂々の二次予選進出である。
以上２局を見て、田中女流３級は丁寧な受け将棋だと思った。将棋の中に大山康晴十五世名人の香りを感じたが、田中女流３級は名人の将棋を相当勉強しているのではあるまいか。
これで田中女流３級は、女流２級昇級まで「あと１」である。ほかの二次予選進出者もなかなか強いが、勝利の可能性は十分すぎるほどある。
問題は日程だが、連盟だって鬼ではない。二次予選の対局は、期限内として認めてくれると信じている。
