事例紹介コラムです。
今回ちょっと雰囲気が変わった話題です。あの日韓W杯で、鈴木選手(今回引退されますね)の劇的ゴールで勝った相手、ベルギー代表が何と現在FIFAランク1位だそうです。知らない読者の方も多い事でしょう。そんな中、10月29日の日経新聞WEB版に「ベルギー、サッカー「世界1位」へ 育成成功で躍進」というタイトルで特集記事が出ていました。以下、抜粋して紹介。
人口約1100万人の小国・ベルギーが11月に発表されるFIFAランクにおいて、初めて1位に立つことが確定。これまで同ランキングで首位になったのは7カ国(アルゼンチン、ドイツ、ブラジル、イタリア、スペイン、フランス、オランダ)のみ。すでにベルギーはブラジルW杯でベスト8に進出しており、今後、さらなる飛躍を予想。
ベルギーは1980年代に国際舞台で活躍したが、02年の日韓大会以降、12年間もW杯から遠ざかっていた。「世界ランク1位」になれた理由は育成に成功して、ワールドクラスの選手が次々に現れたため。
アザール、クルトゥワ(ともにチェルシー)、デブライネ(マンC)とコンパニ(29歳)、ヤヌザイ(ドルトムント)、フェルメーレン(バルセロナ)、のフェルトンゲン、アルデルヴァイレルト(ともにトットナム))、ヴィツェル(ゼニト)、フェライニ(マンU)、この他にも若きタレントで多彩。
「今世界中の人が、ベルギーで育ったタレントに注目。選手の一人としてとても光栄。アンデルレヒト、スタンダール・リエージュ、クラブ・ブルージュ、ゲントは素晴らしいアカデミーを所有。しっかりとした育成によって、今後ベルギーはさらに強くなるはず」とフェライニのコメント。
ベルギーにおいて育成の機運が高まったのは、00年にオランダと共催したユーロ大会前後のこと。この時の3つの取り組み、「オランダとの協力」「フランスとの協力」「組織的監査の導入」によって、ベルギーサッカー界は大きく変貌。
【言語と文化の壁、多様性という強みに】
ベルギーは主に北部オランダ語圏、南部フランス語圏、その混合のブリュッセル地域に分かれており、それぞれが自治権を持っており、言語の壁があり、対立しており、長らく言語と文化の違いが、内紛の原因にもなり、多様性はベルギーの強みでもあった。
その後、それぞれの地域を生かしてサッカー強化を実現。北部では’99年、ゲルミナル・ベールショットが、アヤックスと提携。フェルメーレン、フェルトンゲン、アルデルウェイレルトはジュニアユース時代にアヤックスへ移籍。ブリュッセル地域も’99年、ブルージュ、ゲンク、ゲント、アントワープで総合スポーツセンターの「スポーツシューレ」を設立。
【仕上げは協会のマネジメント改革】
南部はフランスからの援助を受け、’98年、破産寸前だったスタンダール・リエージュを、フランス人のアディダス会長が救済。近代的なアカデミーを建設。また、国境近くに位置するフランスのリールが留学先となり、アザールやオリジがジュニアユース世代にリールに入団。
これらの取り組みの最後の仕上げとなったのが、ベルギーサッカー協会のマネジメント改革。当初、協会そのものが2つに分裂しており、強化方針が統一されていなかったが、地元開催のユーロでグループリーグを突破できなかったという危機感が、彼らの意識を変革。
協会はオランダにならって4―3―3を基本布陣に選び、全年代の代表にこのウィング重視のシステムでプレーすることを義務づけ。一方でフランス式のエリート育成に目をつけ、ユーロの収益を使って国内8カ所にトレーニングセンターを設立。
続いてサッカー界になかったマネジメントシステムを開発する。その中心となったのが、元銀行員のヒューゴ・ショウケンス氏。ショウケンス氏はBNPパリバ銀行に勤務時に、夕方からアンデルレヒトのユースコーチおよびアカデミーディレクターとしても活動してたが、もっとクラブ運営に携わりたいと思うようになり、15年の銀行生活に区切りをつけ、大学院でスポーツマネジメントを学ぶことを決心。
【新発想のアカデミー経営システム開発】
'02年、ショウケンス氏は学びたいコースを探して、ブリュッセル自由大学の学長を訪ねると、体操クラブのマネジメントシステムを開発したファンフーケ教授を紹介。
ベルギーサッカー協会がファンフーケ教授の研究に目をつけ、このシステムをサッカーの育成に応用したいと考えていた。しかし、同教授はサッカーについて素人だったために、必要としていたサッカーのエキスパートにショウウケンス氏が就任。
'04年、協会のアドバイスを受けながら、教授、ショウケンス氏、システムエンジニアの3人によって「ダブルパス」社が設立。彼らが開発したシステム「フットパス」は完成度が高く、翌年すぐにブンデスリーガ1部・2部に導入。
「フットパス」はユースアカデミーをどう経営・運営したらいいかのガイドラインを示したもので、3年単位で財務、施設、プレーのフィロソフィーが評価。練習場だけでなく、試合にも足を運んで、監督がハーフタイムに何を伝えるかまでをもチェックするのが特徴。大雑把にいえば「育成限定のコンサルティング」で、サッカー大国ドイツにすらなかった発想。
「ブンデスリーガがダブルパス社のシステムを導入したとき、いったい私たちの何を暴こうとしているのかすごく不安だった。しかし実際に始まると、どこに弱みがあるかが客観的にわかり、今では大きな助けになっている」とアイントラハト・フランクフルトのアカデミー責任者のコメント。
【サッカー勢力図を変える小国の育成力】
ダブルパス社は急成長し、イングランド、アメリカ、ハンガリー、デンマークのリーグが登録。今年、Jリーグへの導入も決定。ベルギー国内では、プロとアマを含め、600クラブがダブルパス社のマネジメントを受講。
「ダブルパス社との提携は、国内における育成のブレークスルーになった。彼らは協会とクラブをつなぐ欠かせない触媒」「アカデミーの再構築において不可欠な存在。彼らの監査が仕事を導いてくれる」との声も。
FIFAランキングの1位になったからといって、W杯やユーロで優勝できるわけではないが、それが選手たちの頂点に立ちたいという思いをさらに強めることは間違いなく、小国の育成力が、サッカー界の勢力図を変えようとしていると締めくくっています。
Jリーグの育成計画の話題の中で、過去に何度となく出てきた「ダブルパス」社の名前。やっと全貌が見えました。Jリーグもダブルパス社のシステム「フットパス」を導入するようですが、生かせるも生かせないも日本のサッカー関係者の腕次第という事でしょうか。それでもやはり、あのベルギー代表がブラジルやドイツを抑えてFIFAランク1位というのはスゴい事だと思います。
日経新聞WEB版該当記事:http://mw.nikkei.com/sp/#!/article/DGXMZO93296390X21C15A0000000/
ダブルパス社公式HP:http://www.doublepass.com/