CLASS3103 三十三組

しがない個人ホームページ管理人の日記です。

【読書】優しい地獄

2022-11-16 20:50:16 | 読書感想文とか読み物レビウー
優しい地獄  著:イリナ・グリゴレ

ルーマニア生まれの人類学者の本、
数奇な運命というでもないが、色々とあって、日本にゆかりがあるようで
あの、田中泯さんの弟子というか、その指導の下でダンスもしていたんだそうで
なんとも不思議な人の本でありました

内容は日記めいたというか、その人の半生記録といった感じで、
政治的な思想とは異なるが、社会に対しての疑問と受けた仕打ちとを
丁寧にえり分けながら書いているといった感じで、
難しいけども、なるほどと納得しながら読むような感じでありました
一読詩のような部分もあったりして、大変興味深い文体というか
文章群だったと思うのであります

表題は、娘さんが何かの折に発した言葉だそうで
現在社会というものを的確にとらえていると感じたと、
それはまったくその通りだなと思わされるところで白眉でありました
ダンテの「神曲」における地獄というものを聞いて、
今は優しい地獄だね的なことを言ったというエピソードだったんだけども
確かに天才的な着眼点かもしれんというか、
この詩的な表現は、無垢ならではだなと思わされたりしたのでありました
だからといって、なんだということもないんだが
著者の生い立ちをこの言葉が出てくるまでに
様々読んでいると、ものすごく深く納得するというか
鋭い一言だと思う、そんなこの瞬間のための本だったと思ったのでありました

チェルノブイリ近くに住んでいたので、放射線による後遺症なんかも強く宿していたようで、
途中、自身の話なのか、妄想的なものなのか、
このあたりがあいまいになる表現もあったりして、誤解しているのかもしれないが、
ともかく、社会主義の下で生きたという経験というか、事実体験とそこで考えたこと感じたことが
とてつもなく重くて、その後数奇なことに日本にたどり着いた
そこへ自由でもないが、何かを見出してやってきたというあたりが
不思議といってしまえばそれまでなんだが、拓けていく世界と拓いていく道という感覚で見られて
じっと読みふけったのでありました
強いはっきりとした主張というものはないのだが、そういう力とか、素地とか
そんな強いものをうかがわせる内容だったと思うのである


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