不思議空間M町にては、二階建ての一軒家の借家に住んでいました。裏は、空き地に湿地帯に森という、横浜育ちの私には信じられない空間が広がっていました。そして、家の前には足のコンパス短い私でも、大股三歩で行けてしまう様な道路を挟んでお向かいのうちが建っていました。
そのお向かいのうちには、我が家のルート君と年の違わないような姉妹が住んでいました。たった二年の事でしたが、その姉妹達と私の子供達が筒井筒のようなものになっていくの事は、ごく自然の事でもありました。ラッタ君が小学三年生、ルート君も幼稚園の年中さんの頃のことです。
私はこの姉妹、もしくはその母からいろいろ学ぶことがありましたが、その話はまたいずれと言うことで、今日は「子供って、まったくさぁ」と言うお話です。
そのお向かいさんは気軽にアメリカに、出掛けていきます。ビックTシャツにスパッツと言ういでたちで出掛け、長いと一ヶ月ぐらい帰ってきません。アメリカに友達がいるのだそうです。
しかも、彼女曰く。友人はスラム街に住んでいるのですって。
危なくないのかナァ・・・と思いつつ彼女を見ると、やっぱり何処でもビックTシャツにスパッツ、アンド、ノーメイクですから、旅行客には見えずに、きっと街に馴染んでしまうのでしょう。
その彼女が、ストリートダンサーを見ていたら、隣に立っていたホームレスの男の人に、
「あんたの歯は、一体どうなっているんだ。そんな歯で平気でいる人はいないよ。」と言われたそうです。確かに、言われてみれば彼女の前歯は欠けたまま。もう、見慣れてしまっていたので気がつきませんでした。
「ホームレスに笑われちまったい。」と言う彼女は女傑ですね。
いつもの夕方、よその子供も自分の子供も一緒くたと言う、我が家のリビングでお茶を飲んでいた時、ふとその話を思い出しました。
「ねえ、☆ちゃんのママはさぁ、英語がしゃべれるんだねえ。」と英語コンプレックスの私が聞きます。
「ウン、しゃべれるよ。」
凄いな~、やっぱりな~、と思ったら、その頃まだかわいかったラッタ君が、
「フン、そうかい。だけど、僕のママは猫語が分かるんだぜ。」
ヒョエ~~、なんで、ラッタ君、こんな所で負けじ魂を出す
だけど、そのとき飼っていた猫の通訳なんかしちゃって、
「ルート君のママ、凄~い」と尊敬されたりして・・・・
(私はその頃、近所では『ルート君のママ』と言う名前でした。)
この事は、ラッタさんの記憶の中に、きっと微塵にも残っていないと思います。私も、こんなことがあったと話を振った事はありません。たぶんこんな話は、彼の人生最大の汚点だと思います。とにかく彼は「人生最大の汚点」と言うのがたくさんある人なのです。
そして母というものは、子供の忘れたいような「人生最大の汚点」というものをいつまでも覚えている、たちの悪い人種なのでありました。