「はとバスで軽井沢<表>」の続きです。
8月11日に思い立って軽井沢に出かけた私ですが、帰ってきてのその日の夜、私は本当にがっかりしていました。
ああ~。
なぜならまたもデジカメの調子が悪かったのか最初の6枚を残して、撮って来た画像がPCに表示できません。データーが壊れてしまっていると表示が出てしまっていたので、私が入浴中にルート君が消去してくれたのですが、それも実はがっかりです。カメラの中ではまだ見ることが出来たのですから、今一度見て今日と言う一日を確認したかったのです。
本当に素敵な森や山々の風景でしたから。それにお食事の写真も。
全て失われてしまいました。
でも、次に私が言う言葉は予想がついているかもしれませんね。
「まあ、いいか~。思い出は記憶の中に・・と言うことで。」
それでも、翌日姉が撮った写真をメールで送ってもらい、チマチマと背景のところだけ切り取ったり、携帯でとった数枚と無事だった私の画像から二枚を使うことにしました。やっぱり、後で見返したときに絵がないと寂しいですものね。
でも、このようにがっかりすることもあったわけですが、なんでもバランスが取れているというか、いい事もあったのですよ。地味なお話ですが。
その1<おねえちゃんと私>
いつも姉と私が出かけると、困っている時にと言うか、困る前に誰かがやってきて助けてくれることが多いのです。
ずっと昔の山口でも去年行った川越でも、そして今回も。
浜松町で待ち合わせをした私達は、はとバスの乗り場に行こうとしました。
「こっちだね。」と二人で少し歩き、また地図を見ました。姉が
「この先、ずっと行くと在るんじゃない。」と自信に満ちて言うので
「ホンマカイナ。」とまた地図に目を落として言いました。
11日はまだお盆休みではない所も多くて道行く人のほとんどはワイシャツのサラリーマン。
その時私達の斜め前を歩いていたおじ様の耳に、私たちの会話が聞こえてしまったようなのです。チラチラッとその人は私達の方を見ました。
「行ってみればわかるよ。」
「そうするか~」と、私たちの好い加減な会話は続いていました。
するとその人は意を決したように、立ち止まり、先を歩いていたのに戻ってきました。
「はとバス乗り場に行きたいんですか。あなた達、来過ぎちゃっていますよ。」と言って、本当の道を教えてくれたのです。
私などが「通勤」なんてものをしていた時、会社までを時間逆算で考えていましたので、朝などに立ち止まったり道を戻ったりなんて思いも寄らない事でした。
それなのにその人は、私たちの為に朝の貴重な時間を割いてくれたのでした。
お陰で迷わないですみました。
その2<鹿少女、軽井沢に現る>
ちなみに「鹿少女」と言うのは「鹿男あをによし」に出てくる堀田イトを演じた多部未華子さんの事ですが、別に彼女がいたというわけではありません。あしからず。
最初に立ち寄った「メルシャン軽井沢蒸留所」でウィスキーの試飲をしましたが、その後店内を見て回っているときに、突然閃きました。
つい最近、私は家にあるウィスキーが開封、未開封含めて放置してあることが気になっていたのです。もともと私達夫婦はのんべぇではありませんが、若かりし頃は、友人たちと家でワイワイと飲みました。(恐ろしいことに子供が生まれる前!)。その頃結構ウィスキーも飲んでいて、頂いた物などがいろいろあったのです。
ウィスキーが腐るなんていうことは聞いたことがありませんが、でもここで聞いてみようと思いました。特に開封してしまったものの賞味期限・・・・
それで、先程試飲のウィスキーを配っていた女の人に声をかけました。その方はとても丁寧に答えてくれました。流石です。
<でもそこでの答えは、私の思い違いがあったりして、その方に迷惑を掛けるといけないのでここではスルーしておきますね。>
その後、もう少しそこにいた後、ショップを出ました。ちょうど、上の写真の真ん中辺りまで歩いて来た時、姉が「ねえ、ちょっと。」と言いました。振り向くと先程の女性が息を切らして後ろに立っていました。
「お客様、ワタクシ、先程誤った事をいくつか言ってしまいました。」と訂正に来てくれたのです。
まだ店内にいたとき、彼女が男の人と何やら真剣な顔で話をしていて、時々頷いていたのを、実は私は見ていました。でもそれが私の思い付きによる質問へのフォローだったとは思いもよりませんでした。
「誤った事」ということも大したことではありません。私は彼女の額の汗を見たときに感激をしてしまいました。
親切です。でも、何よりもプロだと思いませんか。私はこういう人が大好きなんです。
私はすぐに人の顔を忘れてしまいます。特にこのような一期一会の人の顔を何時までも覚えているのは、無理なことです。でも、不思議なことに、今もまだ彼女の顔を覚えているのです。とは言っても、10日後には自信がありません。
だけど、姉に言われて振り向いて彼女を見たときに、私は彼女が多部未華子さんに見えてしまったのです。
何年かたって私が彼女の顔を忘れても、私の記憶回路はキャスト多部未華子さんでそのシーンを思い出すと思います。以下のように。
タタタタ。背後で軽快な足音が追いかけてきた。なんだろうと振り向くと、さっきの試飲コーナにいた少女が追いかけてきたのだった。少女は腰を曲げ手を膝の上あたりにおいて息を切らしていた。何をそんなに急いできたのだろうか、彼女はハァハァと言いながら、顔を斜めにし私を見上げ、
「オキャクサマ~」と言った。急いで走ってきたので、汗が目に入って片目を瞑って見上げたその顔は、軽井沢の夏の風を思わせるように爽やかだった。
(ちょっと、脚色しすぎですが、そのぐらい嬉しかったということで・・・)
その3<その言葉を飲み込んでしまった>
軽井沢と言うと、林や森や山々の避暑地と私は感じてしまいますが、ホテルやチャーチ通りや軽井沢銀座、アウトレットなんかも人気の秘密なのかもしれませんね。
本音を言うと、軽井沢銀座なんてものには興味がない私です。でもいつもくるたびにショップの思い出が増えます。あまりアチラコチラを覗かないからかも知れません。
そんな中で思い出深い喫茶店が「茜屋」さんです。あれから何年たったのやら・・・□0年は経っています。
昔、そこに訪れた時は、珈琲カップをお客の一人ひとりのイメージで出すと言っていました。その時一緒に行った友人にはモダンなカップで、私には綺麗な花ガラで出してくれました。(若いということは、それだけで素敵な出来事に出会えるチャンスがいっぱいと言うことなのかもしれませんね。)
今回はどんなカップで出してくれるのかと思ったら、どんなに暑くてもホット珈琲なんかを頼んでしまいます。姉と私のカップはシックな花柄でした。でも今でもそんなイメージでカップを出すなんて事はしているのかは疑問ですが、どうなんでしょうね。
だけど、このカウンターの中の男の人の、よく働く手の動きを見ているだけで、何か頑張ろうかなと言う気持ちになってきます。その中の二人はちょっとミドルの方です。私は、彼らに
「前に来たのは、□0年前なんですよ。」と言ってみたくなりました。だけど言えません。
それは彼らがあまりにも忙しくて言えなかったと言う訳ではありません。私が席を立つと、
「お忘れ物はございませんか?」と言っていただけました。
忘れ物は、「また来たよ。」と言う言葉かなと、私は思いました。私は確かめてみたかったのです。もしかしたら、その中の一人ぐらいは、その時もいた人かしらと思ってもみました。「茜屋」と言うお店に行けば変わらずに、その人がいるという店なのか、それとも、時代を経て訪ねても、変わらずにその店がそこにあるという空間なのか。でも、言ってみても、彼らには何の意味のないことなんですよね。
「前に来た時から、もう□0年も経ってしまったんですね。あっという間でしたよ。またいつか来るかも知れません。でも同じだけ時を空けてしまったら、私はおばあちゃん、あなたは・・・、いないかも。それでも、ここがこのまま在ったとしたら、それはそれで素敵なことですね。」
「忘れ物はございませんか。」
私は言葉は飲み込んで変わりににっこり微笑み、
「ええ」と答えたのでした。
―ねえ、おねえちゃん。「安近短」で今年は軽井沢が人気なんですって。私達、風を読むの、上手くない?―