森の中の一本の木

想いを過去に飛ばしながら、今を見つめて明日を探しています。とりあえず今日はスマイル
  

呪いと悪夢

2008-08-23 21:45:18 | ’08/12/7までの未整理日記

ホラーじゃないからね、あしからず。

 「お楽しみ会」なんてものをやった翌日の朝、夜の中学生の分の片づけが少し残っていた。  ペットボトルを何本も買ってくるのが嫌だなと思っていたら、今年はスーパーで閃いた。フルーツカルピスなんてものがあるじゃない。ペットボトルのスポーツドリンク(これもみんな好きなのよね)を一本と、カルピスとグレープカルピスを買ってきて希釈した。小学生には色で敬遠され人気のなかったグレープカルピスだったが、中学生にはバカ受けで、「お変わり」を要求され二度私はプラスチックの容器に、それを作って出した。そしてそれも気持ち良く空っぽになって、容器は置いてあった。

 

  それを洗おうと思って、ふたを開けようとするが、開かない・・・・。
たかが飲み物入れのふただ。
如何に私に力がなくったって頑張れば開くはず・・・
だけど開かない。
濡れ布巾で押さえてもダメだし、プラスチックだから熱湯かけても意味がない・・・
エエイ、くそお~  (ゴメン、下品で)
だけど、四本の指がズキズキ

 

 その時私の脳裏に、中学生の男の子達の悪戯好きの小悪魔のような笑顔がかすめた。
―ヒッ、ヒッ、後で先生が困るから、ギュウっと絞めておけよ。―

なんか、ムカムカしてきて、心の中でついうっかり呪いの言葉を言ってしまった。

―このふたを閉めたやつにろくでもない事が起きろ

ああ、もう~、大人げないんだから、私。

 でも、ちょっと待てよ。如何に冗談のつもりで言ったとしても、そういう言葉はどんなものが聴いているか分からないじゃない。そう、声に出さない言葉を聴くやつとかさ・・・。

恥ならぬ、アホの上塗りみたいだけれど、私はこういう定かでないことは侮らないことにしている。

出した言葉の訂正はきかない。だから、付け加えておいた。

―そのろくでもない事は、夢の中で起きる。

 

―オホホ~、次に会った時に聞いてやろう。
「怖い夢見た~?」って。    ロクデモナーイ!

 

                      

 

 長い夢を見ていた。長い夢はいつもストーリー性があって面白い。

その夢の最後、私は政府公認のリサイクル公証人になっていた。担当は空き缶。(なんじゃ、それ、とは思うことなかれ。夢なのでシュールなのよ。以下セリフは少し芝居がかって読むべし。)

「だーからね、『ご協力、お願いします。』なんて、甘っちょろい事言っているからいけないのよ。リサイクルが浸透するまで家の中の全ての空き缶を根こそぎ出させるのよ。」
「例えば刀狩のように~♪」登場人物Aが応える。
「例えば戦時中に鍋を集めたように ~♪」登場人物Bが応える。
「そうよ。家の中で徹底されれば、道に空き缶が落ちていたら、『ああ、大変だ、空き缶様が落ちているだ』みたいに成るのよ。そのためには例外なし。」
「ああ、公証人様。」登場人物Cが現れる。
「家の中の空き缶を根こそぎ出さなくてはならないのは充分分かってはいるのです。ですが、私の娘は空き缶で人形を作って、それを壊そうとはしないのです。言って聞かせても分からないのです。」
「ええ、昔はね、そういうのは創意工夫に優れていると評価を得たものだけれども、時代を読まなくてはね。いいわ。ワタクシが説得いたしましょう。」

 

 どうせ、夏休みの宿題か何かでしょ。困ったものね、と私は思いながらその男に娘の部屋に入る。入って驚いた。四畳半の部屋いっぱいに空き缶をワイヤーで繋いで人形が作ってある。巨大でしかも缶が古い。

―な、何これ・・・

私も登場人物AもBもどん引きだ。

「辞めて、Kを壊さないで~~」と背後で声がした。振り向いてさらに吃驚した。大人じゃないけれど、子供じゃない、そんな少女が立っていた。期待通り、ちょっと美少女。

「まぁ、大作だからね、あなたのお気持ちも分かるけれど、お部屋も埋まっちゃっているしぃ・・・
ホラ、記念に写真でも撮って、そろそろ解体する頃じゃないかしらん。」

「解体なんかとんでもないわ。だって、Kは妹なのよ。」

「ふぇ」 私達は奇妙な声を出し、お互いの顔を見た。

「私達がもっと幼かった頃、妹は死んでしまったの。でも、私は悲しくて二人で遊んだこの部屋に、妹の人形を作ったの。いつだって一緒と言うわけではないけれど、今までずっと私達は同じ時を過ごしてきたのよ。ねっ、おばさんなら分かるはず。」
と言って、少女は空き缶の一つを私に握らせた。それは丁寧につないであるので揺すると、まるで手のように動くのだった。

「ああ~」と私は思った。他の二人は気持ちの悪いものをみているような顔をしている。「分かるでしょ。」と言われたからではないが、私は彼女の気持ちが分かってしまったのだ。

ある時は、「ただいま」と言って帰ってくると、この不気味な人形が「お帰り」と心の中に応える。ある時は「ウフフ、今日ねえ、」と話しかければ、耳を済まして聞いてくれる。寂しいときには手も繋いでくれただろう。

手の部分だと思われるその缶を握った途端に、彼女達の残留思念が電流のように流れ込んできた。

<ちょっと、ブレイク。
ちなみに「リサイクル公証人」なんかはあまりな設定のようだけれども、ミニシアター系の芝居とか、SF色漂うショートショートなら結構いけると思う。物語ならば、登場人物Bに『例外なしって言ったでしょ。』とか責められたり、こんなものに縛られてはいけないわと少女を説得したり、または鬼のように解体をして、少女Kの怨念出現とかホラー系に話が展開しそうだけれど、夢だからそうはいかない。>

・・・・彼女達の残留思念が流れ込んできた。だけど少女の笑い、涙、・・・そんな思念のさらに奥に、私は違うものを見てしまった。

 

 幼い少年が笑っている。幼い少年が走っている。かわいい口元が「ママ」と動いている。可愛い小さな指が、何かを拾い私に差し出している。

―ああ~、どうして・・・・・・・

ああ~、どうして、私も同じように止まった時を、何かに移しどうして同じ時を生きてこなかったというのだろう。この少女のように、失ってもなお、愛するものと一緒に生きていたかった。ずっと傍にいて欲しかった。どうして、あの子はいないの。どうしていってしまったの     

 

私は涙に掻き暮れて、空き缶の巨大人形に抱きついて、子供の名前を呼びまくった。

 

                            

 

深い息を吸い込んで、私は目が覚めた。朝に近い夜。

―バカ~、死んでなんかいないよ~。

私は寝たままだと言うのに、さらに何処か深いところに沈んでいくような、そんな気がしていた。横になりながらも、体中の力が抜けていくのが分かっていた。

 

 

   ・・・・・・・、あっ、犯人は私だったのね 

 

                 

<ちなみに、開かないふたは輪ゴムをかけると魔法のようにすっと空くよ。最初からやれよと思うよね。でも無駄な努力がすきなんだな、コレが。>

 

 


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