私が生協の荷物を家の中に入れていると、ルート君が部屋から飛び出すように、それでいて力なく出てきました。
「今、部活の先輩が事故で亡くなったという連絡が来た。」と、彼はいつものようにもごもごと口ごもりながら言いました。
「それは、なんかショックだね。」と私が言うと、彼は小さく
「イヤッ、」と返事をしました。
言葉をつぐむのが苦手な彼は、時々変な受け応えをします。彼の「イヤッ」はNOではなくYESのことの方が多いのです。
でもその後に彼は言葉をつなげません。それで私は言いました。
「お母さんも、学生時代に友人の友人が亡くなったのね。車に三人で乗っていて横から他の車に突っ込まれ、彼だけが亡くなったの。友人の友人で口もきいた事もなかったけれど、その子の事は今でも忘れていないわ。」
・・・・・・
学生時代。
古いA校舎は、入って行くとそこは広いフロアで、カーブした階段を上っていくと二階から下を見下ろす事が出来た。一階のフロアで私は友人とすれ違い、キャアキャアと若い少女達特有のテンションの高さで挨拶をし合って別れた。その時、強い視線を感じて見上げると、その友人と同じ部活の同級生の青年が、見下ろして私達を見ていたのだった。
しっかりと目が合ったが、私はさっきのテンションの高さを恥ずかしく感じてそのまま行過ぎたのだった。たぶん彼は暇つぶしに、私達を見下ろしていたに過ぎない。もしかしたら美人の友人を見守るように見つめていたのかも知れない。でも、じっと見つめていた彼は、その時何かを思ったはず。いったい何を思ったと言うのだろう。二階から見下ろしていた彼の姿が、とっても印象的で心に残ってから僅か数日後、彼の訃報を友人から聞いたのだった。
・・・・・・
ルート君は、もう一度
「いやっ、」と言うと
「あまり親しくはなくて何度か言葉を交わした程度なんだけれど・・・
だけど彼はこんな風に話すなとか、こんな話をするなとか知っていたわけで、それが一瞬にして消えてしまったようで・・・」
私は思わず目頭を押さえて言いました。
「知らない子供でも、若い人にそういう事が起きるのは悲しいわ。」
その後私は、一日を思い返しながら息を潜めているかのように湯船に浸かっていました。するとトイレから出てきたルート君が、長々と手を洗っている気配がしました。その時聞こえてきたのは、
「ハアアアア~」と言う長い溜息でした。
人生は出会いと出会い、別れと出会う、その繰り返し。
彼の今日の終わりは、辛い別れとの出会いだったのです。
昔の私、
あの後もそのA校舎に行くたびに、ふと上を見上げてそこに立っていた彼の姿を思い出すことがありました。
ルート君も、いつか今日の日を思い出す日があるかもしれません。長い溜息の想いと共に。
「今、部活の先輩が事故で亡くなったという連絡が来た。」と、彼はいつものようにもごもごと口ごもりながら言いました。
「それは、なんかショックだね。」と私が言うと、彼は小さく
「イヤッ、」と返事をしました。
言葉をつぐむのが苦手な彼は、時々変な受け応えをします。彼の「イヤッ」はNOではなくYESのことの方が多いのです。
でもその後に彼は言葉をつなげません。それで私は言いました。
「お母さんも、学生時代に友人の友人が亡くなったのね。車に三人で乗っていて横から他の車に突っ込まれ、彼だけが亡くなったの。友人の友人で口もきいた事もなかったけれど、その子の事は今でも忘れていないわ。」
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学生時代。
古いA校舎は、入って行くとそこは広いフロアで、カーブした階段を上っていくと二階から下を見下ろす事が出来た。一階のフロアで私は友人とすれ違い、キャアキャアと若い少女達特有のテンションの高さで挨拶をし合って別れた。その時、強い視線を感じて見上げると、その友人と同じ部活の同級生の青年が、見下ろして私達を見ていたのだった。
しっかりと目が合ったが、私はさっきのテンションの高さを恥ずかしく感じてそのまま行過ぎたのだった。たぶん彼は暇つぶしに、私達を見下ろしていたに過ぎない。もしかしたら美人の友人を見守るように見つめていたのかも知れない。でも、じっと見つめていた彼は、その時何かを思ったはず。いったい何を思ったと言うのだろう。二階から見下ろしていた彼の姿が、とっても印象的で心に残ってから僅か数日後、彼の訃報を友人から聞いたのだった。
・・・・・・
ルート君は、もう一度
「いやっ、」と言うと
「あまり親しくはなくて何度か言葉を交わした程度なんだけれど・・・
だけど彼はこんな風に話すなとか、こんな話をするなとか知っていたわけで、それが一瞬にして消えてしまったようで・・・」
私は思わず目頭を押さえて言いました。
「知らない子供でも、若い人にそういう事が起きるのは悲しいわ。」
その後私は、一日を思い返しながら息を潜めているかのように湯船に浸かっていました。するとトイレから出てきたルート君が、長々と手を洗っている気配がしました。その時聞こえてきたのは、
「ハアアアア~」と言う長い溜息でした。
人生は出会いと出会い、別れと出会う、その繰り返し。
彼の今日の終わりは、辛い別れとの出会いだったのです。
昔の私、
あの後もそのA校舎に行くたびに、ふと上を見上げてそこに立っていた彼の姿を思い出すことがありました。
ルート君も、いつか今日の日を思い出す日があるかもしれません。長い溜息の想いと共に。