10月最初に読み終わったのは、この1冊でした。
「雨月物語」の9編の中から
「菊花の約」「浅茅が宿」「吉備津の釜」「蛇性の淫」の4つの物語が描かれています。
「雨月物語」は高校生の頃に読みました。もちろん原文のままではありません。(^_^;)
登校途中で友人に会い
「昨日『雨月物語』を読んだんだけれど、思っていたような怪談話ばっかりじゃなくて、けっこう良かったよ。なんか泣いちゃったやつもあった。」と言ったら、
「感情豊かなんだね。」と言われたました。
あのころと比べたら、感性もかなり衰えたと思いますが、それでも今回もまた泣きました。
いやむしろ、若き日に文章を脳内再生させた映像よりも、木原敏江さんの丁寧で情感たっぷりな描かれ方に、昔よりも心に迫ってくるものがありました。
「雨月物語」で有名なお話は、究極の同性愛の物語と言われている「菊花の約」だと思います。
とっても大好きな物語で、それを読みたいがために、その昔もその本を手に取ったのだと思います。
だけど高校生の私が、思わずハラハラと涙を流したのは、「浅茅が宿」です。
妻の宮木は、本当に健気で心から美しい女性だなと思いました。
秋には帰ると言った夫の言葉を信じて待ち続け、そしてその夫が7年も経った後に帰って来ると、妻はやつれ果ててはいたものの、夫を暖かく迎え入れるのでした。
だけど翌朝、夫が目覚めると、そこはカモガヤなどが生い茂る荒れ果てた家で・・・・・。
日本人は、こういう「怨み」のない、しっとりした怪奇なお話が好きなんだと思います。
「吉備津の釜」は、本当にちょっと怖いお話。
だけど何やらいろいろなホラーの原点のような気さえするのです。「耳なし法一」も「牡丹灯籠」も、どちらが先かは、ちゃんと調べなくては分からない事ですが、これを読んでいて、私はこの2つの物語をちょっとだけ思い出しました。
「蛇性の淫」は木原さんの脚色がラストに入ります。
あんまりだと思ったからと彼女も言っていますが、私も封印されてしまった大蛇と小蛇が可愛そうに思ってしまいました。
「私だったら封印した蛇を助け出し3人で逃げてハッピーエンドにしてしまう」と言う、木原さんのあとがきに惹かれました。
どんなに愛した過去があっても、異なる者を切り捨ててしまう感覚は、今と昔は違うのかもしれません。
だけど「萩の葉」のような狐の物語もあるので、蛇だったからダメだったのかもしれないなと思いました。
情愛たっぷりの美しい大蛇、真名子と可愛らしい小蛇のまろや。同情を禁じ得ません。
木原敏江さんが、この「雨月」を手掛けるのは、私には当然のように感じました。何しろ「大江山花伝」の「花伝ツァ」は「菊花の約」がベース。
私にはそちらの方が、原作のような気にさえなってしまっています。
「泣いた」「泣いた」と書いていますが、私は泣き虫なので良作・名作の基準にはならない場合も多々あります。
でもこの私が大泣きした「大江山花伝」の「花伝ツァ」は、本当にお勧めできる名作だと思います。
「雨月物語」の「菊花の約」はかなり真面目に描かれているように感じましたが、それでもジンワリきました。
年々、確かに感性は衰えているかも知れません。
だから時々は、このように素晴らしい作家様の手を借りて、自分のそれを高めるのも良いような気がします。
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