「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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反貧困・雇用を守る

2009-01-25 09:51:03 | マニフェスト2011参考資料

 2009年の日本は、派遣村で始まった。派遣切りにあい仕事も住居も失った労働者を中心に約500人が、湯浅誠氏を実行委員長とした派遣村で、年末年始の住居と食を得ることになった。私も現場を訪れた。ちょうど見上げると厚労省の建物が正面に建つ日比谷公園の一角にその場所はあった。本部テントの隣りには、弁護士ボランティアによる生活保護の申請手続きをお手伝いするブースと、医師ボランティアによる健康相談および応急処置を行うブースが同居したテントがあった。風邪や長距離歩いてこの場所にたどり着いたことによる足の怪我以外に、貧血、吐下血など進行した癌が疑われる症状で緊急入院を依頼したケースも数件あったという。

 この派遣村は、まるで被災地であった。改正派遣法という日本の制度が生み出した災害にあった人たちを、「このままではまずい」という思いをもった人がネットワークを組んで、守っていたのである。

 派遣村は、いままで見えなかった貧困や派遣労働の問題を可視化することに一翼を担った。厚労省、東京都、そして千代田区や中央区などの地元自治体が動き、生活保護申請の迅速な手続きや派遣村閉村後約一週間の滞在の場所の提供、職と仕事の斡旋など、派遣村に集まった“被災者”への対応を精力的に行った。また、新年度の予算編成では、雇用の場の提供を盛り込む自治体が多く出ることとなった。

 湯浅氏は、日本には、雇用、社会保険、公的扶助の三つのネットが機能していないと述べる。

 雇用について、まず非正規雇用者をいかに守るかが問題である。非正規雇用者とは、期間の定めのある短期の契約で雇用される労働者で、パート・アルバイト・契約社員・派遣社員を広く含み、現在労働者の三分の一、1736万人である。自分の生活に合わせあえて非正規労働を選んだものがいるのかもしれないが、雇用の調節弁として、不景気に入ると安易に解雇がなされることになり、それが今である。厚労省によれば、三月末までに、少なくとも85千人が職を失うという。自由と引き換えに選んだ雇用の形であるからといって、労働者側のせいだけに帰すことはできない。日本経団連の御手洗冨士夫会長は、失業者の住宅確保や職業訓練の支援のために、企業が出資しあって基金を作る構想を示している。短期の働き手を活用したい企業は、その人たちが失業した時の生活保障や再就職支援に備えて応分の負担をすべきである。

 社会保険のネットでは、失業手当や職業訓練を受けられる雇用保険は、これまで1年以上雇われる見込みがなければ加入できない仕組みだった。労働者側も、労使折半され給料から引かれる雇用保険や健康保険をあえて入らないことを選び、少しでも手取りを増やそうとする場合があるのかもしれない。すべての労働者が、雇用保険や健康保険に加入して労働する態勢を構築しなければならない。

 最後の公的扶助のネットは、今回の派遣村で行った行政のすばやい対応を引き続き行うことを期待したい。決して、真に生活保護を必要とした人への対応が不十分であったが故に、餓死をさせるようなことがあってはならないと考える。

 派遣村に来たある労働者に直接お話を伺う機会があった。斡旋されていた職はいろいろあり、自分の好みを言わないのであれば、すぐにでも働き口とすることは可能であったと言っていた。確かに、世の中には、農業、林業、漁業などの第一次産業や介護で人手が足りていない分野がある。築地市場の仲卸業者の後継者がいない話もよく耳にする。一方、人口減少と高齢化も進み、労働力が不足する事態を予想し、外国人労働者を受け入れることが論議されだしてもいる。職を探す人たちが、それら人手が足りていない分野の職を知り、魅力を感じ、進んで就職をするような環境づくりを進めていかねばならないと思う。

 労働とは、ハンナ・アレントは、日々の糧を得るために繰り返す作業の「labor」 と何かを生産する「work」の二つがあると述べていた。労働とは、生活の糧を得る「稼ぐ」と生きがいを得て社会貢献をする「務める」という二つの意味があると言っていた評論家がいた。誰もが働くことで、自己実現が可能になるような世の中を目指して行きたい。

 湯浅氏は述べる。「考えれば考えるほど、この「すべり台社会」には出口がない、と感じる。もはやどこかで微修正を施すだけではとうてい追いつかない。正規労働者も非正規労働者も、自営業者も失業者も、働ける人も働けない人も、闘っている人もそうでない人も、それぞれが大きな転換を迫られていると感じる。問われているのは国の形である。」と。 
 自己責任論、財源論などの言い訳に屈することなく、人間らしい労働と暮らしの実現、誰もが自己実現を可能にする社会の実現を目指し、すぐに解決に至る近道はないが、私もまた、行動して行きたい。


 (参考)
*『反貧困』湯浅誠 著 (岩波新書 2008年4月22日第1刷発行)

*朝日新聞社説 (09/01/09)  
http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/673a75cc30a6c2c4b04b4d7b9720c74a

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