「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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マイコプラズマ感染症 その流行と抗菌薬耐性菌増加の問題を考える。

2012-10-31 23:00:00 | 小児医療

今、話題のマイコプラズマ感染症の流行についての話題と、マイコプラズマ感染症に投与する抗菌剤の耐性化の問題を取り上げます。


Q君:マイコプラズマ感染症が流行しているのですか?


A先生:はい、昨年(2011年)そして、今年(2012年)と流行していることが、国立感染症研究所のデータからわかります。

  以下、途中まで引かれた赤の線が2012年です。大きな流行があった2011年を上回っています。



Q君:マイコプラズマ感染症は、どんな病気ですか。

A先生:肺炎を起こすことが多いです。肺炎は、年長児、児童に多く、症状所見、検査所見に乏しいこともしばしば経験します。
   そのほかにも、胃腸炎なども起こすこともあります。

   専門的になりますが、ただ、肺炎といっても、マイコプラズマが直接、細胞障害を起こすのではなく、患者自らがもつ細菌に対する免疫応答(IL-18,IL-8などのサイトカイン)が過剰に起こすことで、自らを傷害するという特異的な反応によって病態が引き起こされています。

Q君:治療はどうしますか?

A先生:マイコプラズマは、細菌の一種で、抗菌剤を投与して治療します。
    マイコプラズマは、特殊な細菌で、細胞壁を持っていません。細胞壁に作用するペニシリン系やセフェム系の薬剤は効かず、タンパク質合成を阻害する薬剤(マクロライド系)が効きます。   


Q君:今、抗菌剤の耐性化が起きていることが言われていますが、大丈夫ですか?

A先生:マイコプラズマ感染症でも、抗菌剤の耐性化が言われています。
    50%が耐性化という報告もあります。
    病院では、9割耐性化という報告もあります。

Q君:抗菌剤が効かないということですか?

A先生:理論的に考えると、抗菌剤が効かないということになるのですが、ここで、「細菌学的耐性」と「臨床的耐性」を分けて考える必要があります。
    耐性菌の場合、耐性菌でない場合より、平均2日程度の発熱する期間が延びますが、しかし、例え耐性菌であってもマクロライド系抗菌剤を投与して、臨床の現場では、すみやかな改善が見られるという事実があります。

Q君:どのように考えればよいのかな?

A先生:マクロライド系抗菌薬が、病態の他の部分に作用して、回復へと向かわせていることがひとつ考えられます。
  もうひとつに、耐性菌は、マイコプラズマの場合、タンパクを合成するのに必要なリボソームの二つのユニットからなっているひとつ50sサブユニットの23sリボソーム(r)RNAドメインV(ファイブ)という箇所の塩基配列2063番目がAアデニンであるところがGグアニンに塩基点突然変異(A2063G)を起こすことが多い(他にA2063C,A2064G,C2617Gなど)のですが、そのような点突然変異を起こした耐性菌の増殖力は、変異のない(すなわち薬剤耐性のない)菌より増殖力が劣り、病原性も低いことが関係しているのかもしれません。


Q君:耐性菌の増加と、マイコプラズマ感染症の流行は、関連性がありますか?

A先生:耐性菌の増加と、マイコプラズマ感染症の流行の関連性については、安易に結び付けることができません。

   耐性菌のため、排菌期間が延び、同時に周囲のひとの感染の機会も増えるという点では、結びつくかもしれません。
   ただ、耐性菌のない(耐性化率数%)の北欧でも大流行が起こったということもあり、一概に耐性化と流行が結び付くともいえないです。もしかして、あくまで仮定ですが、マイコプラズマがひとに感染しやすいなんらかの変化を起こしていることも考えられなくもありません。

   流行の裏には、検査キットの普及で診断がしやすくなったこと、マスコミで取り上げられ関心が高まったことなども影響しているかもしれません。


  まとめますと、

  マイコプラズマ感染症は、増加している。

  耐性化の率も増えている。

  ただ、耐性化と感染症の増加がどう関連しているか、ひとつの要因として考えられるが、他の要因もありうる。

  耐性化の菌でも、マクロライド投与で速やかな改善がみられる。あっても、2日程度発熱が長く続く程度。

  

  よって、抗菌薬があっても、対処していける現状をご理解いただければと思います。

  もちろん、耐性化を減らすため、抗菌薬の適正使用が必要なことはいうまでもありません。
   

  以上、
  

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