「ストリート オーケストラ」というブラジル映画を観た。
ブラジルのサンパウロ最大のスラム街エリオポリスの子どもたちによって結成されたクラシック楽団「エリオポリス交響楽団」誕生の実話を基にしたドラマだという。
憧れのサンパウロ交響楽団のオーディションに落ち、生活のためにスラム街の学校で音楽教師の職に就いたバイオリニストのラエルチ。子供たちへの指導は座り方、楽器の持ち方、音符の読み方から始まる。
楽団仲間・パウエルの死を追悼する演奏会が開かれる。彼の死の原因を作った少年VR。バイオリンを弾きながら彼の頬を静かに流れる涙。心を打たれるラストだった。サンパウロ楽団の一員として演奏する先生。会場に駆け付けた22人の生徒たち。幕切れに向かう素晴らしい演奏とともに…。
荒れた生活、貧困。虚しさ。弱さ。スラム街での人間の生活に見られる風俗、世相にも、根底には国や人種を超えた永遠に変わらない人間の心が流れているのだ。そうした心をとっかかりにして、音楽を通して運命に立ち向かう子供たちの強さが素晴らしい楽団が生んだのではないか。
困難や苦労、苦悩に対して、変わりたい抜け出たいと自らの心の内で強く欲するとき、外からの働きかけに迫られた転換がない限り苦悩が直接的に解決に至ることはないという。音楽教師としてやってきたラエルチとの出会いがあって、彼らには転機がもたらされた、ということか。もしこの出会いがなかったら、難しかったのかもしれない。ラエルチでなくてはならなかったのだ。そして彼自身も道を求めていた。
「有縁のよき人のおかげかぶりて」。最近読んだ本にあった言葉が重なる。映画を観て、あれこれ考えた。
「美しい音楽には誰も敵わない」