京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

「人間とは思い出の器」

2023年07月10日 | 日々の暮らしの中で
古いスクラップをめくっていると、福島泰樹さんが現れた。


記事が書かれた2018年ごろと思われる、東京・下谷にある法華宗の古刹の自坊で、くつろいだふうに顔をほころばせて話をされている写真と、もう一枚の小さいのは、ワイシャツを着て麦わら帽子をかぶった若き姿だ。
説明文は「静岡・愛鷹山麓の寺で暮らした時代の福島泰樹さん 1971年ごろ」。


福島さんは1943年生まれで、大学で「早稲田短歌会」に入り、作歌を始められたという。
名曲喫茶で一人読書にふける青春が、大学当局を相手にした闘争にのめり込んでいくことに。
「時代」だった。が、卒業後は僧侶の道を進まれた。
「ひとびとがスクラムを組んで連帯する時代はもうこないだろうという予感があった」なかで第一歌集『バリケード・1966年2月』が生まれた。

高校生のときから学生運動に走った弟だったが、福島さんの『絶叫』が好きだったことを、
亡きあと当時の友人の一人から教えられた。私が福島泰樹に関心を抱くきっかけになる。
そして後年、この小さなほうの写真に驚かされた。

葬儀屋さんが遺影の写真を変えたほうがよくないかと義妹に声をかけた。
が、義妹は譲らなかったのだ。
麦わら帽子を背に、涼し気なシャツを着て、ちょっと照れたような笑みをうかべている。
俗気が抜けたような穏やかな笑顔が遺された。
弟は家で原稿を書く時間が多かったので、合間には畑仕事を楽しむようになっていた。
義妹にとって想い出深い一枚だったのだろう。

人間とは思い出の器だ、と福島さんは言われている。「だから大切に葬ってあげなくてはいけないんです」。
人を豊かにするのは「悲しみ」という感情。大学生に短歌を教えていて「すごいなと思う子の歌には悲しみがある」。
「一人称詩型である短歌は小説よりも深く、様々な『私』に人格を与えることができる」と。

お盆には早いのに、なぜか弟が人と引き合わせてくれるようなここんところ…。


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