京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

背中の手の温み

2023年07月12日 | 日々の暮らしの中で

短い文章だった。
おおよそのところを思い出しているが、さらに小さくなってしまう。けれど、その文章のかけらにも書き手の姿が刻まれている。

【 春分の日に九十歳になった。
「九十歳の風景ってどんな?」と人は軽く問いかけてくるけれど、自分には重いものがある。
けれど私は自分の歩幅で歩いている。
書斎を歩く歩幅は小さくなったけれど、心のほうは変わらない。そして、日々の暮らしの中で見つけた素材を、棚田で早苗を育てるようにして随筆を書いている。】

【 傘寿を迎えた。
毎年誕生日の前に自分で白いフリージアの花を買う。
その横に小さな鉢植えも置いてあって、窓辺で陽光を浴びてつぼみが輝くようにふくらんでいる。】

読み流してしまえなかった。

したいことを持ち、できることをするよろこび。
フリージアの花を買い、自分の今を、自分の満足する状態にしていこうとする、心の豊かさ。
まだまだお二人に及ばないなあ。
自分が何を大切にして生きるのかを問いかけられた。

  
  ちゃんと知っていて下さる。
  人は誰かに見守られていることで
  安らぎと自信とが持てるようになる。
  自分の背中を支えてくれる見えない手の温みを感じると、
  私たちは涙をふり払って前進できるのです。
                南原一繁(元東大総長)『母』
                

動く葉もなく、頭上を覆う。その対生の葉が作る天蓋の美しさに気づいた。
蝉が鳴きだしていた。

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