『 仏に化ける ・ 今昔物語 ( 20 - 3 ) 』
今は昔、
延喜の天皇(第六十代醍醐天皇)の御代に、五条の道祖神(サエノカミ)が鎮座されている所に、大きな実のならない柿の木があった。
その柿の木の上に、にわかに仏が出現なさるということがあった。有り難き光を放ち、様々な花などを降らすなどして、極めて貴い有様であったので、京じゅうの上中下の人々が詣でるために集まってきた。
車も止めておくことが出来ず、歩いてくる人となるとその数さえ分からない。このように、参拝に大騒ぎしているうちに、いつしか六日、七日にもなった。
その当時、光の大臣(ヒカルノオトド・源光。仁明天皇の第十一皇子。菅原道真が左遷された後任として右大臣となる。)という人がいた。深草天皇(第五十四代仁明天皇)の御子である。
才能豊かで知識ある御方なので、仏がこのように出現なさることが、とても合点がいかないことだとお思いになった。「本当の仏が、このように、にわかに木の先端に現れるはずがない。これは、天狗などの所作であろう。外道の幻術だとすれば、七日が限界であろう。今日、わしが行って見てやろう」と思われて、お出かけになった。
きちんとした正装をなさり、檳榔毛の車(ビロウゲノクルマ・四位以上の高位者が乗れる高級な牛車。)に乗り、従者も定められたとおりに正装させて、問題の場所に出掛けられた。
多くの人が集まっているのを追い払わせ、牛を車から外し、榻(シジ・車のながえを乗せる台。乗降の時の踏み台にもなる。)を立ててから、車の簾を巻き上げてご覧になると、確かに、木の先端に仏が在(マ)します。金色の光を放ち、空から様々な花を雨のように降らしている。見る限り、まことに貴い有様である。
ところが、大臣は、たいそう怪しいと思っていたので、仏に向かって、まばたきもせず、じっと一時(ヒトトキ・二時間ほど)ばかり見続けていらっしゃると、この仏は、しばらくの間は光を放ち花を降らせなどしていたが、なおも強く見続けられると、遂に堪えきれなくなって、突然大きな糞鵄(クソトビ)となり、翼が折れて、木の上から地面に落ちて[ 欠字。「もがいている様子」らしい ]いた。
多くの人はこれを見て、「不思議な事だ」と唖然としている。子供たちは飛んでいって、その糞鵄を打ち殺してしまった。
大臣は、「思った通りだ。本当の仏がどういうわけで突然木の梢に姿をお見せになるのか。人々がこうした事も分からず、何日も拝んで大騒ぎするなど愚かなことだ」と言って、お帰りになった。
そこで、その場にいた多くの人々は、大臣をお誉め申した。世間の人もこれを聞いて、「大臣は賢いお方だなあ」と言って、お誉め申した、
となむ語り伝へたるとや。
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