「今日はAを中心にしたレッスンをお願いします」とお願いされた日。
小学2年生のお兄ちゃんと1歳の弟くんといっしょに教室に来た年中のAくん。
身体的な面も精神的な面も知的な面も、しっかりしているように見えるAくん。
人と関わるのが上手だし、集中力や根気があります。
ただ、言葉数が少なく、すぐに答えられるような質問に返事をする時も
かなり時間を要する点が気になっていました。
易しい絵本を読み聞かせながら絵について何かたずねると、
よく見ずに適当な答えを言うか、しばらくだまっていてお兄ちゃんが口を開くと
すぐさまそれに同調するように言葉を真似ていました。
遊んでる様子を観察すると、自分のアイデア等を口にしかけても、
お兄ちゃんがアイデアを出したとたん自分の考えを引っ込めて、
黙ってそれに合わせようとする姿がありました。
Aくんのお兄ちゃんは温和な性質で、自分の我を押し通す子ではありません。
でも、自分の考えを流暢に表現することができるお兄ちゃんを前にすると、
Aくんはいつも言いかけた言葉を飲み込んでしまうようでした。
また、Aくんは滑舌が悪く、「何て言ったの?」と聞き返されたり、
言い間違いのように聞こえる言葉が可愛くて大人に笑われることもあったりするため、
言葉を発する度に身体をこわばらせる癖もありました。
Aくんの引っ込めてしまいそうになるささいな言葉にも注目して、
しっかり受け止めて、それを膨らませてあげる機会がたくさん必要だと感じました。
そんな話を伝えると、レッスンにいっしょに来ていたお父さんが
さっそくこんなAくんの言葉を拾ってくれました。
教室に来る途中、5枚セットのポケモンカードを買ってもらったAくんが、
ブロックの上にカードを乗せたのを見て、
「Aは、ポケモンのカードをここに置いて、何が作りたいのかな」とお父さんが
たずねると、「ポケモン」と言ってから、
「ポケモンのサッカー」と小声で付け加えました。
「それならいっしょにサッカー場を作ろう」とお父さんに言われて
とてもうれしそうなAくん。
横からお兄ちゃんが、「じゃあ、サッカー場の近くにポケモンサッカー駅を
作ればいいよ」と言って駅づくりを始めました。
お父さんにサッカーゴールを作ってもらうと、Aくんは
ポケモンの選手をていねいにサッカー場に置いていって、
自分で考えたルールを説明しました。
お兄ちゃんが、「観客席がいるよ。観客席の上の方から外に向かって
階段があるよ」と言って、Aくんの手伝いをしていました。
お父さんがデュプロのお人形に手押し車を押させて、お弁当を売りにきました。
「このお弁当は~で……このお弁当は~」とごっこ遊びの始まりです。
Aくんは、お父さんもお兄ちゃんもわたしもみんなが
自分の言葉に夢中で耳を傾けてくれていることが
うれしくてたまらないようでした。
舌がうまく回らなくても、固まってしまわずに、笑顔で一生懸命伝えたいことを
言葉にしようとしていました。