「迷いや悩みがある」ということは、
「今、自分がしている問題への対処法だけでは解決が難しい事例にぶつかっている」
ということでもあります。
つまり、今、自分が頼っているアーキタイプの解決法だけでは
対処できそうもない、ということです。
新たなアーキタイプを表現し、
今活性化しているアーキタイプをもっと成長させる必要があるのでしょう。
そういう意味では、迷いや悩みは、自分自身が成熟していくための起爆剤と
言えるのかもしれません。
「発達障害の子の本に書いてあることも、幼稚園の先生も、医者も、こちらの教室も
みなが違うことを言うので何を信じたらいいのかわからない」という
相談をいただいた際、ほかの方々に、「困った問題が起きたり、迷ったりした場合、
どんなふうに解決していますか?」とたずねました。
「じっくり状況を検討した上で、最終的には自分の直感に頼ります」という方や、
「ネットなどでいろいろな情報を調べてみてから、よく考えて自分の中で整理した後で、
夫にも相談してみて、どうするのか決めます」という方がいました。
ネットでいろいろ調べて……とおっしゃった方に、「調べていると、正反対と思える
意見にぶつかることが多いと思うけれど、困らないですか?」とたずねると、
「情報を集めて考えていく際に利用はするけど、
自分の中の考えはだいたい決まっていて、最終的に夫とも話しあうので、
迷ったり困ったりすることはあまりないです」ということでした。
悩みにぶつかっても、上手く出口を見つけることができる方は、
一つのアーキタイプをより高いレベルに成熟させているか、
困った内容に応じて、さまざまなアーキタイプを働かせることができるようです。
相談主さんが発達障害の本や医師の言葉に求めているのは、
有益な情報を得ることというより、むしろ全面的に助けてもらうことなのでしょう。
でも、そうした『幼子』や『孤児』のアーキタイプの問題への対処法だけでは
すぐに行きづまって前に進めなくなるのではないでしょうか。
とはいえ、『幼子』のアーキタイプは辛い体験を踏み台にして、
「もっと完璧で価値のある人間になろう」と努力しますし、
『孤児』は、「人は自力で生きていくものだ」と悟って、現実の世界を生き抜いていく
力をつけますから、行きづまること自体、意味があるのかもしれません。
でもやはり悩みを脱するには、自分の中に別のアーキタイプを育んで、
問題への対処法を質的に変える必要があるのでしょう。
ユースホステルでの晩、相談主さんの発達障害を持つ子を育てる不安や困惑、
他児の親に対して感じる強い劣等感、
子どもの良い部分を見つける難しさや、どう伸ばしてあげたらよいかわからない
ことに対する焦燥感に耳を傾けながら、
わたしは昼間、相談主さんのお子さんから自分が受けた印象と
相談主さんの言葉の間に大きなずれを感じていました。
昼のレッスンで、その子は少し不器用なところはあるけれど、
工作や遊びに熱心に取り組んで心から楽しんでいる様子がありました。
自己紹介やクイズにも積極的に参加していました。
最初は参加したがらなかった算数のゲームも、少し様子をうかがった後で
自分からやりたがり、何度も繰り返したがっていました。
紙箱で作ったエレベーターの上げ下げするのに大はしゃぎで、声をうわずらせて
何度も何度もやっていたこと。
人を信頼していて、一生懸命自分の思ったことを話そうとするところ。
どれを振り返っても、素直に魅力的で良い部分をたくさんある子でしたし、
相談主さん自身が子どものそうした面を引き出しながら、
子どもと関わる力を持ってもいました。
もちろん、一つひとつの場面を細かくチェックして、
できるできないの評価で採点していくと、
確かに言葉の使い方の間違いや理解力の弱さもありました。
でも、もし相談主さんが、
『幼子』のアーキタイプの流儀で信頼に値しない人の言葉まで信じて、
子どもの幼稚園のお友だちが「○くん、何で言っているのかわからない」と
言ったという言葉を深刻に受け止めて傷ついたり、悪口を好む人の言葉を恐れたり、
『孤児』の流儀で被害者の立場を取らなければ、
今もこれからも、もっと自信を持って子育てを楽しんでいけるように見えました。
次回に続きます。