怖いものしらずで、聞き分けのない2歳3カ月の☆ちゃん。
そうした相談をママ友や祖父母にしたところ、
「まだ2歳だから言うことを聞かないのは当たり前。いちいち怒る必要はない」というアドバイスと、
「昔のように怖い人がいないから、大人の言うことを聞く気がない。もっと大きな声で厳しく叱った方がいい」
という正反対のアドバイスを受けて、どう接したらいいのかわからなくなったそうです。
叱られても知らんふりするか、笑い声をあげるかして、悪さを続ける☆ちゃんに対して、怖がらせるほど強く叱った方がいいのか、危ないことをしたときには体罰を加える必要もあるのか、まだわからないのだから、抱きしめて気をそらしてやればいいのか、迷っていたのです。
そんな相談をうかがいながら、わたしは☆ちゃんと☆ちゃんのお母さんと連れだって公園に遊びにいきました。
そうしていっしょに過ごすうちに、☆ちゃんのお母さんが叱り方に悩んでいる理由がよくわかりました。
というのも☆ちゃんは、道路で車が通りかかったとたん、突然、手を振り払って車の方に走っていこうとしたり、他所の家の郵便受けを開けることとか、汚いゴミを触ることとか、どうしてもやめさせなければいけないことばかりしたがる上、それにしつこく固執するところがあったのです。
抱いて連れて行こうとすると、反り返って激しく抵抗します。
アスレチック付きの滑り台にのぼっていく際、小学生のお兄ちゃんたちが滑り台の前のスペースでカードゲームをして遊んでいたのですが、ひるむことなくお兄ちゃんたちの輪のなかを横断すると、滑り台に上についている鉄棒にぶらさがりました。
その後、滑り台をいきおいよく滑ってきて、何度もそれを繰り返しました。
言葉でだけ説明すると、
「2歳児はまだものがわかっていないから、そんなの当たり前」
と言えばおしまいなのですが、どうも☆ちゃんには一般的な2歳児とは微妙な点で異なる面があって、☆ちゃんのお母さんを悩ませていることがわかりました。
それは「危険に対する警戒心のなさ」「危険そうなものに惹かれてこだわる傾向」といったものです。
「危ない、ダメ!」と強い口調でストップをかけたにも関わらず、子どもが突然、走っている自転車に近づこうとしてヒヤッとする……といった出来事が重なると、大人が大きな声で「ダメ!危ない!」と注意したら、ストップできるようにだけはさせておかなくちゃ、怖いものがないから言うことを聞かないのだから普段からこの人は怒ると怖いよっとわからせておかなくちゃ、と思うようになる気持ちはわかります。
また、☆ちゃんのように、わざわざ触って欲しくないものにばかりこだわったり、他人に迷惑をかけることをしつこくやりたがったりする場合、「怖がらせておかなくちゃ」という気持ちがだんだんエスカレートして、2歳児相手に一日中、怒り続ける行為にもつながりがちです。
☆ちゃんのようなタイプの子にはどのように接するのがいいのでしょうか?
☆ちゃんを見るうちに、叱ったり、怖がらせたりするより、先にするべきことがあるように感じました。
わたしが気になっていたのは、☆ちゃんのお母さんを求める気持ちの薄さです。
☆ちゃんは誰にでもすぐ甘えて人懐っこい半面、お母さんと他の人のちがいがわかっていないようにも見えました。
そのためか、転んだり、軽いけがをするような場面で、泣いてお母さんに甘えるのではなく、一瞬、泣き顔になって、放心したように突っ立っていたかと思うと、たちまちケロリとして動きだすことがたびたびありました。
痛みや不快な体験に対する鈍感さのようなものも感じました。
暗い部屋にひとりでスーッと入っていって遊んでいたり、ちょっとこれは危なそうだぞ、という人や場所にも躊躇せずに近づいたりする姿も目立ちました。
わたしには、☆ちゃんの問題は、厳しく叱る大人がいないため怖い物がなくて危険なことをするというより、人見知りをする時期の子が他人に見せる警戒心のようなものの足りなさや、「怖い」とか「不安」といった感情に対する鈍感さにあるように感じました。
そこで、☆ちゃんのお母さんに、☆ちゃんが、「お母さんじゃなきゃだめ。お母さんが一番好き」と感じるくらいたくさんスキンシップを取って、☆ちゃんにかかわるように勧めました。
また、日常の小さな体験を☆ちゃんの目線でいっしょに味わいながら、「そうっとそうっとね」とか「痛い痛い」「怖い怖い」など、感情を言葉やジェスチャーで表すようにもしました。
身体が固くて、背中を触られても気づかないような鈍感さが気になったので、ごろごろ転がったり、ピョンピョン飛んだりする遊ぶなど、感覚を統合する遊びを増やすことも提案しました。
それから2週間後、わたしを見るとすぐにだっこをせがんでいた☆ちゃんが、少し固い表情でわたしを見上げました。
そして、お母さんには何度も笑いかけながら、抱きついていきました。
そんな風に、お母さんが一番、他所の人はちょっぴり怖い……という人見知りに近い態度が出てくると、気になっていた鈍感さが、目に見えて減っていました。
まるで耳が聞こえないかのように振舞うことも多かったのに、呼ぶとパッと振り向いたり、「それ、ちょうだい」と指さして指示すると、ちゃんと指さしている先のおもちゃを取って渡してくれるようにもなりました。
「怖いね、怖いね」とか「どうしよう、どうしよう」など、感情をいっしょに味わうのも上手になって、おそるおそる覗きこんだり、怖がる真似をしてキャッキャッと笑い声をあげるようになってきました。
そんな風に、いろんな感情を感じとりやすくなってくると、危険なものに出会うと、ちょっと振り向いて、お母さんの表情をうかがうようになってきます。
そうした☆ちゃんの変化を見て、愛着の薄さが感じられるときに、叱って怖がらせて、さらに愛着がつきにくい状態にしなくてよかったとしみじみ感じました。
強く叱るべきかどうか迷ったときには、まず子どもの様子をていねいに観察してから、接し方を決めるといいですね。