岐阜サラマンカホール会館25周年記念 ガラ・コンサートにいってきた。
25年前というと、まだ居酒屋稼業に追われていて、コンサートもままならなかったが、リタイヤーして即、サラマンカメイトに入ってから20年近くになる。そして、私が最も多くのライブ・コンサートを聴いたホールでもある。
そのお祝いのようなコンサート、これは是が非でも行かずばなるまいということで、この日、重複した名古屋での、やはりクラシック関連の例会を欠席して、でかけた。
そうした祝祭気分もあってか、通常のコンサートよりも晴れ着姿の聴衆が多かった。私はいつものドブネズミスタイルのまま。
岐阜に工房を構えていたパイプオルガンの世界的な製作者・辻宏氏が、スペイン最古の大学都市、サラマンカにある大聖堂の、もう何年も演奏不可能だったオルガン「天使の歌声」の修復に尽力したことから生まれたサラマンカと岐阜との関係、それがサラマンカホールの由来だ。
このホールのホワイエを飾るレリーフは、そのサラマンカ大聖堂のもののレプリカである。
だから、このホールも立派なパイプオルガンをもっている。このオルガン、表面からはそれとわからないが、2,997本の大小のパイプからなっている。ちょっと中途半端な数のようにも思えるが、オルガンの上部を飾る三人の天使が吹いてる笛を加えて3,000本のパイプになるという。
出演者や演奏曲目は下に載せるが、長年ウィンフィルのコンマスを努めたライナー・キュッヒルを始め、フルートの工藤重典、ピアノの仲道郁代、ギターの荘村清志を含めたソリスト9名に加えて、この地で活躍する若い音楽家で構成された12名による「サラマンカホール・フェスティバル・オーケストラ(弦楽オケ)」による演奏は、どれも奏者の蓄積した技巧を最大限に発揮したもので、ただただ楽しい演奏会というほかはなかった。
最後の「天国と地獄・序曲」は、上に挙げた全員の参加によるものだが、そのどこかで、それぞれのソリストをクローズアップするように編曲されたもので、ジャズのコンサートなら、リーダーが演奏者の名前を改めてコールするような雰囲気であった。
曲の終盤には、「ラデツキー」のように、客席から手拍子が起き、演奏終了後はスタンディング・オベーションと歓声が起こっていた。
祝祭気分に華を添えたのは、演奏前や休憩中に振る舞われたスペインはサラマンカ近くのワイナリーで醸された赤ワイン(飲めない人にはジュースなど)だった。
何を隠そうこの私、それ目当てに、いつもは車で出かけるのを、公共交通機関にしたのだった。
ワインは、サラマンカ近郷特有のぶどう種・ルフェテとスペイン赤ワインの普遍的な品種・テンプラニーリョのブレンドで、スッキリしたフルーティな味わいの後に、豊かな残響が口腔に残るといった感の美味しさだった。
こうした振る舞いワインの他に、一本3,000円で販売していて、けっこう売れているようだった。ちょっと食指が動いたが、考えてみたら、酒量が落ちた今、月極めでとっているテーブルワイン(ボルドーが主)が、飲みきれないまま、ワインセラーの中に眠っているではないか。ということで諦めた。
なお、サラマンカホールでは、この25周年を契機に名古屋の篤志家から寄贈された40挺の弦楽器(ヴァイオリン22、ヴィオラ10、チェロ8)の名器を、「清流コレクション」と名付け、音楽を学ぶ若者たちに無償で貸与する事業を始めたという。名付けてSTROAN(ぎふ弦楽器貸与プロジェクト)。
これらの楽器の大半は、イタリアのパルマ、クレモナ、プレシア、マントヴァなどで製造されたもので、弦楽器の名器を世に送り出した地区のものである。
これはとてこ良いプロジェクトだと思う。無名のうちに音楽を学び続ける若者にとって、然るべき楽器を手にすることはさらにそのリスクを高めるであろう。それを側面からこうした形で支援することは、次世代の音楽家を育てるためにとても有効だろうと思う。
それやこれやで、コンサートの残響と、口腔に残るワインの残り香を反芻しながら心地よく家路についたのだった。終演時間を30分オーバーする熱のこもったコンサートであった。
【演奏曲目と演奏者は以下の通り】
*R.ジャゾット:アルビノーニのアダージョ
フルート/工藤重典 オルガン/石丸由佳
*クララ.シューマン:3つのロマンス 作品22
ヴァイオリン/ライナー・キュッヒル ピアノ/仲道郁代
*ベートーヴェン:モーツァルト「魔笛」の主題による12の変奏曲 作品66
チェロ/へーデンボルク直樹 ピアノ/仲道郁代
*L.ボッケリーニ/J.ブリーム:序奏とファンダンゴ
ギター/荘村清志 チェンバロ/曽根麻矢子
*ヴィヴァルディ:チェロ・ソナタ 第5番 ホ短調
チェロ/新倉瞳 チェンバロ/曽根麻矢子
*ショパン:ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53 「英雄」
ピアノ/仲道郁代
*ボルヌ:カルメン幻想曲
フルート/工藤重典 ギター/荘村清志
*J.シュトラウス2世:ワルツ「美しく青きドナウ」
ピアノ・トリオ形式 ヴァイオリン/ライナー・キュッヒル チェロ/へーデンボルク直樹 ピアノ/へーデンボルク洋
休憩
*J.ウィリアムズ:スター・ウォーズ・メドレー
オルガン/石丸由佳
*A.ヴィヴァルディ:「四季」 作品8-3 ヘ長調 "秋" RV.293
ヴァイオリン/ライナー・キュッヒル チェンバロ/曽根麻矢子
弦楽合奏/サラマンカホール・フェスティバル・オーケストラ
*A.ヴィヴァルディ:2つのチェロのための協奏曲 ト短調 RV.531
チェロ/へーデンボルク直樹 新倉瞳 チェンバロ/曽根麻矢子
弦楽合奏/サラマンカホール・フェスティバル・オーケストラ
*F.ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11 第2楽章「ロマンス」
室内楽版 ピアノ/仲道郁代 サラマンカホール・フェスティバル・オーケストラ
*J.オッフェンバック/倉知竜也編曲:喜歌劇「天国と地獄」序曲
全員合奏
《アンコール》エルガー 威風堂々 全員合奏
なお、岐阜つながりでいえば、荘村清志は岐阜出身 へーデンボルク兄弟は大垣藩10万石の城主、戸田家の末裔、その4代前の戸田家夫人は、ブラームスに所望されて、その眼前で琴を奏でたことがあるという。