建築を志す人の必読書に、谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」がある。
現代においては、本格的な和風建築に携わる機会は少ないが、この著には谷崎が生きた時代に彼が理想とする日本建築の住まいについての考えが記されている。
全てを肯定するものではないが一つの卓見である。中に厠(トイレ)に関するくだりは、文学者としての思考表現として興味深い。
この時期あちこちに「南天」が赤い実をつけている。お正月にもよく使われるものだが、南天は「難を転ずる」ということで良く使われるらしい。
今ではそうではないが、昔の南天の定位置は「厠」の側であった。南天の効用に殺菌ということが有るらしい。(南天のど飴というものもある)
毒消しの為に南天をかむという話も残るが、真偽のほどは如何であろうか。
そして古いお宅には「厠」のそばに手水鉢がおかれ、柄杓が添えられていた。上には「手ぬぐい」がハンガー状のものにかけられてゆれていた。
私が幼少期を過ごした借家にも、便所の横にはお決まりの「南天」が植えられていたが、さすがに手水鉢はなく替りに下の写真のような手洗い機がぶら下がっていた。
お若い方はご存知ではあるまいが、当時としては画期的なトイレグッズである。
水をたたえたブリキ製のバケツに蓋をして、底には押し上げるとジョウロから水が出るような仕掛けがしてあった。
今ではプラスティック製で販売されているらしいが、もう見る機会もないだろう。
今では南天はすっかり厠の添え物ではなく、どちらのお宅でも庭の重要なポイントに位置を得ている。これも時代が変わった故といえるだろう。
散歩の途中、あちこちで見受けられる南天を眺めていたら、妄想が飛躍してしまった。