秋風ノタヨリニキケバ古サトノ萩カ花妻今サカリナリ
(秋風の便りに聞けば古里の萩が花妻今さかりなり)
この詩から、私は久兵衛の命日を一人密かに「萩花忌」と呼んで、一枝の萩の花を仏前に供える事にしている。
明治政府の脆弱さは、一市民の善行を受け止める懐の大きさもも持ち得ない事で窺がえる。一市民の生き死になど、どうでもよい瑣末な事であったのだろう。今もって川尻の町において町民に愛されている久兵衛を思うとき、私の心の中の煮えたぎる無念の思いが少しばかり癒されるのである。
ご近所からいただいた萩の花は、今年は何故か蕾が多い。久兵衛の古里半田の川辺にも萩の花が見られるのだろうが、今日は大いに風に揺らされる事だろう。