キャンベラには国立アーカイヴが2つある。ホテルのフロントで嘘を教えられて、行くつもりでなかったのに、この国立フィルム・音響アーカイヴ(National Film & Sound Archive)を訪れた。
映画・映像と音の記録を収集管理している施設であり、常設展示室があった。そんなに広くもないのだが、それぞれのブースで流されている映像を全部観ていたら時間がいくらあっても足りない。それで、いくつか興味深いものを集中して観た。客はほとんど居なかった。
パンフが何種類もあり、ネッド・ケリーの物語(左)やアボリジニの記録(中)など独自性を出している
●『ココダ・フロント・ライン』
第2次世界大戦時、ニューギニアのココダにおけるオーストラリア軍と日本軍との戦闘のドキュ(ダミアン・パラー、1942年)。アカデミー賞を受賞していて、オスカー像も飾ってあった。短いので全編を観た。おそらく当時にしてみれば生々しすぎる最前線の映像であり、日本軍の手ごわさを語っているあたり、情報隠蔽を主としていた日本の様子との違いを感じさせる。オーストラリア軍はニューギニア現地の住民を使っていて、「彼らの皮膚は黒いが、いまや白人だ」と、白豪主義そのもののようなナレーションを挿入していることも、紛れもなく時代的だとおもった。
●ポール・コックス(Paul Cox)の映画
まったく知らなかった映画監督だが、2006年の「Ken G Hall Award」という賞を受けたとかで、過去の監督作のフッテージが経年的に流されていた。何も考えず観ていると、一度沈んだような渋い映像と、思索的であったりエキセントリックであったりする雰囲気に、かなり惹かれるものがあった。
帰国して調べてみると、多作で多様、低コストで撮ることが多く、また製作面にのみ注力されるオーストラリアの映画界にあって異色な、作家性のあるひとらしい。また、本人の好きな映画監督は、ルイス・ブニュエルと、グルジアのセルゲイ・パラジャーノフだという(Philip Tyndall、2000年 → リンク)。
また、日本ではあまり公開されていない。老人の介護を描いた『ある老女の物語(A Woman's Tale)』(1991年)や、老いてから恋愛する『もういちど(Innocence)』(2000年)の評価が高いようだ。実際に、アーカイヴで観たこれらのフッテージは印象的だった。前者は、青い塗り壁の前に登場する老女の姿。後者は、恋愛相手の昔の姿(おそらくスーパー8)を鏡を用いて挿入する切ないシーン。
『Cactus』(1986年)の幻想的な映像は、麻薬としてのサボテンをとりあげたものだろうか。またゴッホを描いた『Vincent』(1987年)は、D.D.ダンカンがコダックのネガカラーで撮った写真集『ひまわり』を思い出させる、まっ黄色なひまわりの鮮やかさだった。
かなり観てみたい。まずはレンタル店で探してみようかとおもう。
○「NY Times」によるフィルモグラフィー(いくつか予告編がある) → リンク
○『ある老女の物語』予告編 → リンク
このアーカイヴには映画館も併設されていて、たとえば5月のプログラムは『黒い罠』、『アメリカの夜』、『アルフィー』、『イタリア旅行』などとてもいい感じ。近くにあったら通ってしまいそうだ。しかし、この日の夜はトビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』。高校生のころ友だちにヴィデオを借りて、しばらく思い出しては畏怖していた記憶がある(怖い映画は苦手なのだ)。何で外国に来て、血生臭い映画など観なければならないのかと思い、さっさとホテルで寝た。