『けーし風』読者の集いに出席されていたHさんに、この『あごら』を送っていただいた。特集は、米兵による少女暴行事件のことだ。2008年2月、基地外に居住する米兵が、中学生に暴行をはたらいた。しかし、被害者は自ら提訴をとりさげたとされる。
この背景には、日本の法律が、殺人、強盗、放火、強姦の凶悪犯罪のうち、最後の1つだけが「親告罪」となっている(本人の起訴意思が問われる)状況がある、ということだ。
明らかに個別の事例ではなく、構造的な問題であろうから、見えない事件を含め、幾度となくこのような暴力が繰り返されるのだろう。本誌の多くの声から、共通項として見えてくることは、事件が顕在化するたびに披露される政治的なセレモニーが欺瞞に他ならないこと、私たちの分身がいつの間にか加害の側に身を置いてしまっていること、といったことである。もっと直接的に言えば、基地や軍隊といった存在がこのような暴力をもたらし続けることが必然であるにも関わらず、それを覆い隠そうとする意識は、必然すなわち暴力的な構造が見え隠れするたびに苛つき、構造を否定しようとする力を憎み始めるのではないか、というわけだ。そして、「基地があるから暴力事件が起きるのだ」という直接的・本来的な見方こそが回避されるばかりか、いつの間にか、短絡的な憎むべき思考ということになってしまう。この歪んだ回路は、他者のものではない。
今回の事件を契機に、米軍の基地外住宅の現状が見え始めてきているようだ(つまり、これまで全貌がまったく見えていなかったということだ―――国会で最近追及されるまで、政府も、基地を置く自治体の長も把握していなかった)。米兵が基地外に住んで基地に通う。住民登録をしていない存在。そしてその住居費用は非常に高く、私たちの税金がふんだんに投入されている。
数字を拾ってみる。(すべて本誌からの孫引きであり、検証のためには元の数字にあたらなければならないことが前提)
●基地外住宅の数は、登録6,098戸、契約5,107戸。(2007年9月現在)
●自治体別に見ると、多い順に、横須賀市、北谷町、沖縄市。
●住宅の家賃は20~45万円。建設費も家賃も「思いやり予算」から充てられている。
●沖縄には、軍人・軍属・家族あわせて44,968人が駐留。軍人22,772人の内訳は、陸軍880人、海軍1,970人、空軍7,100人、海兵隊12,520人。
●基地外居住者は沖縄県10,319人、本土11,566人。神奈川県は5,672人、うち横須賀市3,420人。相模原市は119人ながら、厚木と座間の近くを含めると1,232人。(米軍発表)
●1945~2004年に訴えのあった性暴力の被害者総数258人(10代未満5人、10代59人、20代94人、30代37人、40代23人、60代6人、その他34人)。加害者493人。加害者のうち処罰を受けたのはわずか33人。これらは訴えのあった数であり、訴えないほうが圧倒的に多いとされている。(「基地・軍隊を許さない女たちの会」調べ)
●沖縄市における米軍構成員等による犯罪は、2003年度31件、2004年度11件、2005年度17件、2006年度20件、2007年度18件(2007/2/23現在)。所属別にみれば、海兵隊29件、空軍21件、陸軍7件、海軍5件の順に多い。なお、海兵隊は<即戦部隊としての訓練を受けている>ものと位置づけられる。そして全体の67%、凶悪犯・粗暴犯の74%は深夜に発生している。
●米軍における1年間(2006年10月~07年9月)の性的暴力は、報告数だけで2,688件であり、米兵1万人あたり18件。日本社会の強姦と強制わいせつ件数は1万人あたり0.8件。
こうして見たあとに、あらためて、目立つ事件が起きるたびに「怒りを覚え」、「綱紀粛正を求める」セレモニーが意味するものがはっきりしてくる。