動物のサイズと時間の流れ方との関係を描いた『ゾウの時間 ネズミの時間』(本川達雄、中公新書、1992年)は見事だった。原理や法則を、多様な自然界に適用する見せ方が鮮やかなのである。
同じ著者による最新刊『サンゴとサンゴ礁のはなし』(本川達雄、中公新書、2008年)も、激しく面白い。よく理解しておらず頭のなかで適当に処理していたことが、次々に解きほぐされていく。
美しく透明度の高い海、それは有機物という栄養が少ないことを意味する。ここでサンゴという、動物でありながら礁をもつくり、生態系の多様さを体現するような存在が成立するのは何故なのか。登場するキーワードは「共生」である。
すなわち、褐虫藻という植物プランクトンがサンゴの細胞中に棲み、光合成によるエネルギーをサンゴに与えつつ、自らは安全な場所にいてサンゴの排泄物をもらうといったエネルギー収支が見事になりたっている。共生はその関係だけではない。カニや魚と、それぞれの持つ得意技を生かしながら支えあっているメカニズムには、文字通り圧倒される。
ここでどうしようもなく明らかになるのが、人間との共生だけがいびつになっているということだ。それが、例えば白化などの形となって目に見えるようになる。
本書が扱っているのはサンゴだけでない。例えばサンゴと同様に、体内に褐虫藻をすまわせている動物として、貝や有孔虫やウミウシの一部を紹介する。有孔虫の殻の代表的なものが、「星の砂」なのだが、他にも「銭石」というものも存在する。沖縄であれば、例えば大宜味村の塩屋湾で浜を凝視すれば結構見つかる。本書を読んで、この銭石が海外では「人魚の銅貨」とも呼ばれていることを知った。
何が理系的にすっきりするかと言えば、現象だけをスポット的に説明するのではなく、体系のうえで、必然は必然として、不思議は不思議として扱うところだ。
●参考 星の砂だけじゃない (※塩屋湾の銭石のこと)