『情況』(2008年7月号、情況出版)が、「ハーヴェイをどう読むか」という特集を組んでいる。2008年1/2月号の「新自由主義」に続くものである。
吉原直樹『ハーヴェイをどう読むか』では、これまでのハーヴェイの著作を辿っている。それによれば、地理学から出発したハーヴェイは、立地の適切性から都市空間が決定されるのではなく、地代こそが利用を決定すると説く。支配秩序、あるいは社会的不平等がはなから資本構造の原点となっているということであり、時間・空間の障壁が時とともに低くなるにつれ、意図的な<場所の差異>が、資本をひきつけるためのフェティシズムと化すということになる。
都市空間=資本の集合体、の変貌振りに資本主義のありようを重ねあわせるという意味では、たとえば、地域の崩壊というものを、<結果的な立地>としてだけではない<場所>からも見なければならないということだろうか。
これを、資本の蓄積と、その体制をフルに用いた略奪・利益の偏在を説いた、ハーヴェイの『新自由主義』における主張とを、どう階層的に考えればよいのだろう。ただ、グローバル市場(扱うものがエネルギーであれ食品であれCO2であれ人であれ)のことを考えていく際に、この<結果としての陰謀論>を除外してはならないということは、どうも確かだとおもえる。
本橋哲也『「新たな帝国主義」の終わりの始まり』は、ハーヴェイ『ニュー・インペリアリズム』(2005年)を明快に解題している。「あからさまな領土の地理的支配の代わりに、世界中どこの地域においても自由市場と私有財産の守護者として」ふるまってきた米国が、自国の資本蓄積と消費拡大を如何に進展させたか、という論点である。
自国領土というバウンダリ内だけでは、資本蓄積の継続はいずれ頭打ちになるから、それを回避するために米国が採ってきた手段が、70年代位までは脱植民地化にともなう他国での開発主義、2000年位まではIMFなど金融資本によるヘゲモニー獲得、産業拠点の海外への移転と低コスト性による利益の吸い上げ、といった流れで説明されている。まさに後者の、悪質な金融業者そのもののような米国のふるまいに対し、中南米諸国が抗しつつあるいま、これまでの<資本蓄積装置の裾野拡大>に限界が出てきている、という点においては納得できる。
ではいまどうなのか、ということになると、ネオリベを補完するものとしてのネオコン、といった見方も気になる(日本でもそうだろうから)。それよりも、ここにはハーヴェイの著作同様に指摘がないが、環境対策において<資本主義のモーター>が変にまわってしまわないかということを、どうしても考えてしまう。
榎原均『新しい政治の探求』においては、ジャック・ランシエールの論考を紹介している。ここでは、現代の民主主義を「ポスト民主主義」と名づけ、コンセンサスに基づくシミュレーショニズムと位置づけている。シミュレーションは常になされているのだから、たとえば、異なる主体間の衝突による<現実の到来>などは既にシナリオのひとつとして先取りされているということになる。
このシミュレーション空間=世界では、緩衝材としての社会は存在せず、全ての主体が<自己責任>を持つようなものとなる。これこそが、ハーヴェイが『新自由主義』においても説いていたことであり、社会的つながりの切捨て、弱者の切捨て、福祉の切捨て、一部の主体のみの利益、といった特徴に容易に結びつくだろうとおもえる。そして、シミュレーション社会におけるメディアはシミュラークルの集合体であり、<メディア=私>という側面から言えば、すでに到来した将来を、各個人が<ミニ為政者>となって語ること自体がシミュレーション社会を形作っている、というようにもおもえる。
それぞれ異なる特質を<マイノリティ>だと言い換えれば、次の指摘も示唆的である。シミュレーション=メディア=政治空間=社会空間、というように還元されていき、それぞれ異なる主体が、新自由主義における商品価値判断の対象だということになるからだ。
「メディアに載ること、あるいはメディアに載せてもらえること、それによってマイノリティが解放されるということは一つのシミュレーションです。しかし、それが解放の政治の原理とされてしまうような状況、これはつまりはメディア自体が一つの市場であり、そこに登場する人物は商品として流通させられているということに他ならないのですが、そこに政治的解放を見出すような自体が進行しているのです。メディアに載るということ自体が「現実的なものの喪失」であり、ある種の抽象化であって、アイデンティティも単なる商品の差異と見なされるようになるのですが、ランシエールはこのような事態そのものの政治性の解明に迫っていきます。」(126頁)
もうひとつの特集「沖縄五・一八シンポジウム 沖縄の独立は三年くらいあれば可能だ」については、すでに24wackyさんが報じている(>>リンク)ので、あわせて読んでいこうと思っている。